ツール・ド・フランス全選手が使用する「サドル下センサー」の正体

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昨年のツール・ド・フランスから導入されている「サドルしたの突起物」。全選手が一様に同じデバイスを使用している。あの謎のセンサーは「HIKOB」というGPS内蔵センサーである。昨年ドーフィネで初めて登場した。サイクルロードレースを楽しむデバイスだ。

「あのサドルしたの突起物はなんだ?」と話題になった謎のセンサーの実態は、通信機能を持ったGPSセンサーだった。

このGPSをツール・ド・フランス22チーム全選手が使用する。もちろんASOが本施策を主導しており、技術的なパートナーシップを結んだのはカヴェンディッシュも所属する「DIMENSION DATA(ディメンションデーター)」というIT系の企業だ。Jスポーツの中継でもその企業ロゴが確認できる(以下参照)。

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ディメンションデーター社はツール・ド・フランス参加全選手(約200名)のサドル下にこのセンサーを提供する。そしてリアルタイムに様々な位置データーを収集し、ネット上に公開している。それらレースの情報は、スマホやPCといったデバイスを用いて視聴者が知ることができる。

まさに新時代を予感させるデバイスだが、一体どのような機能を備えているのだろうか。この新たな楽しみを予感させるサドル下の謎のデバイス「HIKOB」について見ていく。

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地図上でリアルタイム位置情報を!

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もしも・・・今この記事を見たこの時にツール・ド・フランスを視聴していたのなら幸運だと言って良い。そうとうな強運の持ち主だ。あなたのそのツール・ド・フランスの生映像とディメンションデーター社の位置情報サービスは連動する。早速URLをご紹介しよう。

ディメンションデータライブトラッキングサイト

このサイトへ飛べばツール・ド・フランス参加前選手の位置情報がひと目で分かるのだ。驚くべき技術革新といえるが、GPSの位置情報とタグと選手が結びつき、どれくらいエスケープしているのか、平均スピードはどれくらいなのか、気温はどれほどなのかと細やかにわかる。

そして、マイヨ・ジョーヌの選手もひと目で分かる。あなたは家に居ながらにして、まるで鳥の目のようにツール・ド・フランス全選手の位置情報を読み取ることが出来るのだ。これだけでもサイクルロードレースファンとして非常に楽める情報と言えるだろう。

サドル下センサーの実態

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では、、、リアルタイムで選手を追いかけつつ実際のデバイスの話しをしたい。おそらくリアルタイムトラッキングに気を取られたあなたは、当ブログから離脱しているかもしれない。そんな悲しい事実に目を逸らしながらも、HIKOBを紹介していきたい。

本当に自転車界は次から次へと新しいデバイスが出てくる。恐らく過去に例を見ないデバイスはこのサドル下のセンサーHIKOBだろう。単純に無線通信機能が付いたGPSになりそうだが、このデバイスが我々にもたらす利点はなんだろうか。

このGPSとネットワークが連携したデバイスは、さきほどご紹介した通り、主に「観戦する側」に恩恵が有る。これまでレース愛好家はレースを「ただ観戦するだけ」だった。流れてくる生中継の映像を見るだけで、それ以上「何かが起こっているか」を知る術がなかったのだ(当然だが)。

エスケープの状況、プロトンの状況、登りでバラバラになる集団・・・と、レース全体では様々な「見えないドラマ」が起こっている。それら映像では「ある瞬間」のポイントしかわからず、先頭の「逃げを追うプロトンが速度を上げた」という事が起こっても、理解することは困難だった。

しかし本デバイスを用いるとどうだろう。我々はまるで鳥になったように選手を細かく追跡し、「今起こっている状況」を知ることが出来る。ただGPSのトラッキング機能を用いた本機能は選手が今どこにいるのか「視聴者の監視下」に置かれてしまう事は、少し恐ろしくも感じるデバイスといえる。

HIKOBの機能

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次にHIKOBに備わっている機能を見ていこう。HIKOBにはGPS機能とともに通信機能が備わっており、リアルタイムに選手の位置情報を算出し測定する。データを受信するのは近くを走るモーターバイクだ。無線通信プロトコルのISMバンド(2.4GHz)を用いてデーターを拾う。

そしてHiKoBのネットワーク(ディメンションデータ社が絡む)を介して世界五大陸へとすぐさま配信される。HiKoBのセンサーから直で衛生や3Gでは飛ばさず、Wifiのようなものでデーターを受け取ったモーターバイクから衛星を介して配信される、という仕組みだ。

想像するに、おそらくデーターを一度全て集約して一つのデーター化する。もちろん同一時系列上で選手の位置を克明に伝えなくてはならないので、データーのマージが必要だ。また、処理の問題もあるだろう。分割されたデーターを個別に一つひとつ扱うよりも、まとめて一個にした方が通信的には効率が良い。

この無線通信について少し補足しておきたい。ISMバンド(周波数の帯域)は普段から私たちの間で活用されている。

どのような通信デバイスに使用されているかというと、Bluetoothや無線LAN(家庭のアレだ)、コードレス電話と多種多様に使われている。要するに近距離通信の2.4GhzのISMバンドを用いて通信を行う、という仕組みだ。

細かい話だが、ISMバンドとは「免許が不要な周波数帯」を指している。なおISMという用語は「Industrial, Scientific and Medical」の略である。

送られてきたデーターはディメンションデータのクラウドに送られる。クラウドは雲とも訳されるが、インターネット上に存在するデーターを処理する場所だと思えばいい。そこでリアルタイムに世界へ向けてデータが配信される仕組みだ。

ディメンションデータ社について

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昨年、電撃的にASOとパートナーシップを結ぶことになったディメンションデータ社であるが、意外なことに日本企業の傘下にある。同社は2010年10月にNTTグループに買収されている。事実上NTTグループの一翼を担うICT企業だ。推測するにNTTグループは海外のクラウド事業を見据えて2010年に買収したようである。

報道資料:NTTがDimension Dataの株式公開買い付けを実施

一説には双方の利害関係が一致したとの見方もある。ディメンションデータは主にオンプレミス方式(自社内にデータセンタ等の設備を持つ)の堅実なビジネスモデルを展開していた。しかし海外の事情はホスティング方式(データセンタ設備の間借り)に移り変わっていった。

余談だが、現在当ブログもサーバを間借りするホスティング方式で運営している。2010年頃まで自前のサンマイクロシステムズのSunBlade150ワークステーション(もちろんSPARC CPU)とISPから固定IPアドレスを払い出してもらい運営していた(ミニオンプレミス)。

現在、当ブログは商用にも使える16コアCPU、96GBのメモリー、232Gbpsの高速回線を積んだDELLのサーバーを使っている。もちろん金はかかるが秒間1万リクエストでも恐らく平均レスポンスは1秒程だ。

このホスティング方法の方がコストも安く一箇所にデータセンタを集中し管理しやすい。

需要に合わせたデータセンターの建設や通信網を構築することは、オンプレミスに事業を集中させていた同社にとって、大きな負担となる。ただクラウド事業を進める上で設備投資は必須条件である。そんな中、NTTの通信技術とディメンションデータ社のクラウド事業の利害関係が一致し買収に至った(らしい)。

いずれにせよ、クラウド事業を古くから行ってきたディメンションデータ社は、新たな新事業創出とプロモーションの為にASOと提携したと言っても良いだろう。

まとめ:ファンはより多くの情報を

最後にここまでの話を上手くまとめたムービーを紹介したい。

実に上手くHIKOBとディメンションデータ社の役割をまとめた動画である。今まで見ていたレース以上の情報を我々が得ることは、レース中継を面白くしレースの観戦に釘付けになることだろう。しかしリアルタイムが故にレース中しかそのデーターが見られないとあれば期間中の寝不足が心配だ。

レースをより面白くしてくれるデバイスがもたらす利便性は、すこしばかり睡眠時間を削るデメリットがあるかもしれない。

そういや、本技術は新しいと思ったが過去にも「Velostream」というGPSとパワーデーターを用いたサービスが存在していた。2010年のツール・ド・フランスでHTCが用いていた。当ブログの2010年7月の記事「Velostreamリアルタイムに選手の情報を更新」で紹介しているので参考にしてほしい。

ただ今回は、全選手が同じデバイスを使用するという所に価値がある。それによりプロトンの状況を克明に捉え、観戦する側を楽しませてくれることは間違いないだろう。あのお気に入りの選手が今地球上のどこを走っているのかーーー

もはやそのような想像は、いまあなたの目の前のディスプレイで具現化される時代になった。

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