漢たちシリーズ第四話『背中で語る漢』

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この漢たちシリーズは、身近なサイクリストから知り得た「漢たちの生き様」をご紹介するストーリー(物語)だ。だから、言い訳ばっかりで、練習しないための用語を並べる方は登場することはない。登場する漢たちに天賦の才能は無いかもしれないが、地道に努力し、継続する漢たちの生き様を個人的に綴っている。

当ブログの問題、いや、もしかしたら一つの個性なのかもしれない点がある。それは管理人の私自身があんまり優れた選手じゃないところだ。私という普通の人が、練習し、それでもレースで結果が何年も出ない(やり方が悪いという議論はさておき)でも、それでも足掻き、走る。

きっと、日本人はそういう「努力」や「根性」という話が好きなのだろう。今回は本日の練習後に知った、冬の間廃人になっていた漢の話をご紹介しよう。

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菓子パンとゲームとタバコ

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シリアスなサイクリストの性(サガ)で悲しいのは「転落」すると、とことん転げ落ちていくことだ。私は今日まで知らなかったのだが、あるサイクリスト、名前はジョニー(仮名)が冬の間廃人になっていた。4ヶ月が過ぎた後に知った、ジョニーの努力に感銘を受ける。

今までに自転車を通じ知り合ったサイクリストで消えていった者は数多く居る。中には才能に恵まれながらも、ペダルを漕ぐことを辞め、表舞台から消えたものも多い。ただ、責めることはできない。自転車というスポーツを辞めて他のスポーツをやっているかもしれないし、趣味は無数にある。

自転車を生業にしているわけでなはいサラリーマンならなおさらだ。サラリーマンであれば夜の付き合いもあるだろうし、もちろん家庭で変化が生まれる可能性すら有る。自転車が必ずしも生活の中心にあるわけではなく(それは非常に危険だ)、生活のある一部に組み込まれているだけにすぎない。

と考えると、こんなに辛いことをやる必要はないだろう。普段生活していたら到底突入することのない心拍190bpm以上の世界と、視界が狭くなるなるような酸欠状態、わざわざ自転車でやらなくても良いことを、朝の4時からせっせと修行のように重ねる漢も居る。

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そんな生活をしているから、中には当然こゝろが折れてしまう者も居る。当然のことだ。だから誰も責めるなんて出来ない。自分がそれをよく知っているからなおさらだ。

転落する漢

ジョニー(仮称)もこの冬その「転落」の餌食になった。人知れず餌食になった彼の話に驚愕する。体重は56から57kgほどだと思うが、冬は菓子パンを食べまくり、65kgまで増えていたそうだ。自転車に全く乗らなくなり、ゲームを趣味にしようとしたらしい。

そして昔吸っていたタバコにも手を染め始める。もはや転落というよりも、奈落の底に無事到着したわけだ。ただある日転機が訪れる(物語でよくあるパターンだが)。ある日鏡を見た自分の姿を見てがく然とする。65kgの贅肉の大部分は上半身に付きブヨブヨになっていた。

ただ、脚だけは違った。走れていた頃の細さがまだ残り、あの頃を思い出させようとしているかのようだった。それから一念発起し、日々ローラーを1時間、GW中は2000kmを走りこんだという。そして、今日気づいたのだがだれよりも、毎週欠かさず朝練に参加している。

ロング練習の果てに

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物事の善し悪しは、ある瞬間だけ華やかでも区別がつかない。今日という日だけ努力した人を評価する場合、適正な評価を下すことは難しい(人事評価もそうだ)。ただ、日々コツコツと努力し、あとからその歩んできた道をふと振り返ると、そこにストーリー(物語)が見えてくる。冒頭にこう記した。

この漢たちシリーズは、身近なサイクリストから知り得た「漢たちの生き様」をご紹介するストーリー(物語)だ。

と。

私が漢たちから「気づき」を得た時に共通していることは、その中には「瞬間のがんばり」では何の感銘も受けることはないことだ。しかし「瞬間のがんばり+積み重ね」を見た時、そこから物語がゆるやかに動き始める。瞬間的に美しい、まるで線香花火が燃え尽きる時の華やかさとは違う、どこか地味で無骨な積み重ねが心に響くのだ。

今日は箕面から日吉ダム〜美山〜サンダイコー〜亀岡経由で最後の締めが、423側から登る西別院だった。あの急な坂を〆で登ると思うと吐き気がする。KTR氏は200kmを超えていたそうだが、私も最近で一番走った。ポントオークを横切り、一志(株)を越えていく。

ここまでのアプローチでKTR氏(第2話:続ける漢で登場)はロマンあふれる走りで昇天していた。200kmを超える練習の中、最後の最後まで出し尽くしたその生き様に、心のなかで敬礼をしながら見送る。さっきまで聞こえていたKTR氏の荒々しい呼吸は、次第に小さくなっていく。

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ひとふみ、ひとふみ小さくなっていく呼吸は、すなわち千切れることを意味する。ただし、最大限のリスペクトを込めて振り向かない。ここからジョニー(仮称)と一騎打ちが始まる。「強い」。登っている時にそう感じた。なにが強いかと言われれば気持ちが強かった。踏み辞めようと思えばふみ辞められる。

ただ、普段は華麗に千切れていくジョニー(仮称)の脚には隆々とした血管が浮き上がり、心臓はその血管を使って体全体に血液と酸素を送る。パワーメーターは300Wを超えていた。15分ほど続くその道は、とても長い。私は「登りが終わった平坦で離そう」と作戦を練る。

KTR氏はもう居なかった。私は平坦で離そうと踏むがジョニー(本名)は体を震わせながら着いてくる。そして「前に」出てくる。ここでなぜかふと、自分が走り始めたばかりの昔を思い出していた。

私がチームの朝練に参加し始めた頃の練習といえば、出しきって千切れていく事が多かった。理由はペースについて行けなかったからだ。自転車の練習を本格的に始めたばかりの私は、知り合いが1人も居なかった。皆誰しもが通る道る道だ。速い人達を朝練で見つけて、勝手について行った。

今はロードで走る機会がめっきり減ってしまったキャプテンと、確か淡路島を走った。今とは異なり、面識が一切無かったが、私にとって「ブログの中の人」だった。そのキャプテンとローテを回した。当時は確かプロツアーを走っていたと思う。その時は全く一言も言葉を交わさず、自走で帰宅した。

外見が怖いので話しかけるのも当然怖かったが、月日は経ち、ある日いつものように強い人達(後に一緒に全国のレースを転戦する仲間となる)にこっそりまじり、第3ステージまで残った。そこでキャプテンとローテして最後に確か所長が掛けた所を、抜け出て追いかけた。

そのままキャプテンより先にゴールした時に初めて自分から話しかけた。何を話しかけたのか覚えていないが、先に先着したから話しかけるハードルがどこか低くなっていた。高山の十字路を流し、向こう側から流してくるときに意を決し、話しかける。

その時言われたのが「練習ではああやってどんどん”前に”出て走る気持ちがないと強くならん、よう頑張ってたな。あの気持や。」だった。それから確か実業団登録をして、今に至ったんだ。

時代をあざやかに彩る色々な物語も、次第に時代は移り変わり、青写真になってゆく。

ここで回想から現実に戻り、”前に”出てくるジョニー(仮称)と最後の勝負をすることになる。小学校が見え最後のスプリントになる。お互い美山まで行って帰ってきた後の超級山岳を踏み切る力はない。ただ、最後の一滴まで出し尽くすべく競る。

前に出ずして、成長はない。

最後は競り勝ったが、私はなぜか変な質問をした。「ジョニー(仮称)さん、あの峠で辞めようとか全く思わなかったんですか?」と。その走りと登りたるや一点の曇りもない走りだった。私はこの日ジョニー(仮称)の背中を見ている時間が多かった。数回心臓が全身に血液を送り込んだ後、少し間を空けてこう答えが返って来た。

「辞めようと常に思ってました、でも最後は”気持ち”の勝負ですよね」

なぜかこの時ゾクッとした。さっきの回想の中で思い出していた、こんなフレーズが現実世界と結びついていく。

「練習ではああやってどんどん”前に”出て走る気持ちがないと強くならん、よう頑張ってたな。あの気持や。」

「前に」「気持ち」という普通の単語が過去の回想と現実世界でリンクする。今日練習メンバーは複数人居たがジョニー(仮称)氏はシルベストのパンツをはいていた。たしか自分が走り始めた20代のあの日、一緒にこうやって回していた人たちも似たようなパンツをはいていた。

時代はいくらか変わり、世の中は流動的に動いていく。正しいことが何かわからなくなることも有る。自分のやっていることが本当に正しいのか、意味の有ることなのかすら疑いたくなることも有る。ただ、意味の有ることなのか、無いのことなのか、それらを判断する為には進まないとわからない。

やめてしまったり、諦めてしまったら、物語はそこで終りを迎えてしまう。でもまた一つペダルを漕ぎ始めたら、物語もまた途中から回り始める。昔のビデオテープを想像してほしい。テープは途中からでも回し始めれば物語はまた始まる。いくらか進んでいて、終わりのテープは残り少ないかもしれないが、もしかしたらまだ太く巻き付いているかもしれない。

今日、お互いにつば迫り合いのように脚を交わした漢達の背中から、そんな一つの確信めいた事を学んだ。さて、いよいよシーズンも中盤に差し掛かった。奈落の底から一つ一つ這い上がってきた漢の物語は、これからも緩やかにつながっていく。

http://rbs.ta36.com/?p=28437

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by カエレバ