MAVICが秘密裏に40本作成か 謎のホイール 「オリンピックイオ」とは

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四年に一度のリオオリンピックが盛り上がる中、彼らが魅せる走りに魅了される。数年前と違い、テレビで放送されにくい自転車競技もオンデマンドで全て見られるようになった。そんな競技の駆け引きも目を引くが、四年に一度の世界の祭典で使われる機材も特に見逃せない。

私はトラック競技が楽しみでならない。自分がトラック競技をやっているからなおさらなのだが、オリンピックに合わせて各メーカー気合の入った機材をぶち込んでくる。そして、市販する気(したとしてもありえない額)も全くないであろう機材を作ってくるのだ。

特に1/1000で争われるトラック競技において目新しい機材がいくつか投入されている。驚きだったのはドライブトレインを左右逆に取り付けたスペシャルバイクだ。通常のロードバイクのドライブトレインは進行方向右側に付いている。

左回りのトラック競技でよりインに倒し込めるように、コンポーネントの重量増を内側に持ってきたというのだ。もはや1/1000を削る技術戦争は果てしない。このリオオリンピックに合わせた各社の機材改良が賑わう中、大きなトピックスがあった。

MAVICのフロント5スポークの代名詞が改良され「MAVIC IO RIO」として登場した。MAVIC IOが登場したのは今から20年前の1996年、アトランタオリンピックの時だ。古くからトラック競技で変わらず使われてきたわけだが、選手向けには少しづつ改良されてきたらしい。

私は今回細身でワイドリム化されたMAVIC IO RIOは、てっきりリオオリンピックに向けて新たに開発した新型だと思っていたのだ。実はそれは違っていたのだ。話は2014年のロンドン・オリンピックに遡る。当時も、今のリオオリンピックと同じように、新たな機材が多く投入されていた。

その際にMAVICはオリンピック選手用として40本だけ特注IO(イオ)を製作したのである。その名前は「MAVIC Olympic IO London 」一般向けにはまったく出回らなかったのだが、世界トップクラスの、さらにごく一部の選手向けには供給されたーーー。

どこかミステリアスな機材にロマンを感じてしまう。

ただ今回の記事の本題はここからなのである。その貴重な2012年に僅かに作られた謎のIO(MAVIC Olympic IO London)を入手した。本物なのか、はたまたコピー品の中華製なのか・・・。その謎のホイール「MAVIC Olympic IO London」に迫る。

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謎の細身MAVIC IO

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この画像を見て、「どうみても普通のIOですありがとうございました」と思う人と「あれ、なんか細い」と思う人2つの意見に分かれるだろう。トラック競技を嗜む人たちはもしかしたら後者かもしれない。むしろ「Realizeに似てんなコレ」という玄人も居るかもしれない。

確かにロゴの位置や、一本のスポークの太さが細いのだ。そもそも見る人が見れば、パチもんにしか見えないこの「MAVIC IOらしきホイール」だが、本物なのだろうか。

そもそも本物なのか?

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Photo:Bikeradar.com

2012年Bikeradar.comが偶然掲載していた情報がある。まず、一枚目の写真では通常のMAVIC IOのフロントホイールが使用されている。もちろん一つ一つのスポークは見慣れた太さだ。ロゴの位置は時代で少しずつ変わっていくが、基本的なプロファイルは変更されていない。

では次の写真を見てみよう。

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Photo:Bikeradar.com

先ほどの写真と比較すると、なにやらスポークが細身だ。ロゴの位置は同じであるが、明らかに細身である。さて、そうなると2016年のリオオリンピックに投入される(丁度この記事の公開日が競技日だ!)「MAVIC IO RIO」と比較してみたくなる。

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確かにIO RIOは細身を採用した。どうやらこの細身のIOは2016年に発売はしたものの、2012年時点で公にはされていない。しかし、何らかの理由でスポークの太さを変えていたようだ。IOを使った人曰く、野外で使用する場合横風にとても弱いらしい。

また、異常なまでの直進性を備えたホイールであり、なかなか癖がある。野外バンクで初めて使う時は、風があまり強くない日、そしてこのホイール独特の癖を知る所から始めるという逸話もあるほどだ。様々な要素から細身に変更した理由はあるものの、その真意はよくわかっていない。

また、通常のイオと違ってハブ部分が大きく異なっている。こちらの画像をご覧頂きたい。

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Source: New LOOK L96 track frame and Mavic “IO” front wheel

トラック競技は極限の世界1/1000秒を争う競技だ。ほんの少しでも相手に先着されたらいくら速く走っても負けだ。そのため「速さ」を手に入れるための機材の追求は計り知れない。このイオのホイールを見てほしい。ロンドン五輪で新型LOOK L96が投入された時の内容である。

この新型LOOK L96に取り付けられていたホイールは「新型IOか?」と噂されたホイールだ。ハブ部分をよく見てほしい。なんと肉抜きされている。前方投影面積を少しでも減らし、空気抵抗を削減しているのだ。この時、このホイールは結局販売されなかったようだ。

私はありとあらゆる情報を調べたのだが、最後に出てきた何気ない情報がこの「謎のIO」の正体を明らかにしてくれた。それはリオオリンピックに出場が叶わなかった、ある選手の7月のツイートからである。

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Twitterでアカウント認証バッヂが付いているため著名人のようだ。この人が売ったホイールにすべての情報が隠されていた。「mavic Olympic IO – 1 of 40 made.」である。どうやら40本作られたウチの1本、名前はオリンピックイオだという。

この画像のホイールは実際に私が入手したものとは異なる。この写真のタイヤはコンペティションが付いているが、私が入手したものはVittoriaだ。どうやらオリンピック用に40本作られた貴重な、MAVIC IOという事が明らかになった。そして、気になっていた「細身」である。

では、実際に私の手元にやってきたこのホイールを見ていこう(何でも鑑定団風)。

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MAVIC Olympic IO

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まずはハブを見ていく。私が海外で偶然入手したこのIO(らしきもの)のハブもさきほどご紹介したタイプと同様に前方投影面積を減らしたタイプだ。ナットは頑丈な鉄で出来ている。そして六角レンチで締め上げていくタイプだ。ハブを見るととても特種な形をしている。

内部に小さな4つのボルトが止められている。こちらも六角レンチで外せるが怖くて外せない。隙を見て鑑定がてら、のむらぼのノムさんのところへ持って行こうと思っている。

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正面ではなく、すこし斜めから見てもやはり細いIOだ。普通のIOを見慣れているとこの細さに違和感を覚えてしまう。超マニアックな機材であるRealizeのバトンホイール(購入方法は人脈のみ)ととても良く似ている。

気になっていたのがその形状である。スポークの細身以外何が違うのだろうか。ここからは機材好きにはとても衝撃的で、刺激的な事実と、情報を掲載したい。以前MAVIC IO RIOで大きな変更点といえばリム幅の改良だった。その改良内容は次のとおりである

リムプロファイルはもちろんワイド化しており19mm→22mmと太くなっている。これはもちろん空力性能を考慮した結果だ。

関連記事「MAVICとNASAが創る究極の回転体 IO RIO(イオ・リオ)が登場!

改善されて22mmと太くなったのだ。昨今のホイールは空気抵抗を減らすために「あえて」リム幅を広くしていることは周知の事実だろう。最新のENVE SES 6.7は26mm、最高の空力特性を持つZipp 808 Firecrest (Zipp 420FC)は27.5mmであった。ではこのMAVIC Olympic IOを見てみよう。

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MAVIC Olympic IOはなんと 27.50mmである。0.01まで測れる精工なノギスで測定した。この40本制作されたIOはZIPP 808のリムと同様に27.5mmだったのだ。私は気になり、既存のMAVIC IOの所有者に確認をとった2010年のMAVIC IOは「実測値18.30mm」だという。

2016年のIO RIOが22mmだというからこのOlympic IOのとんでもない太さだという事がわかる。ではさらに別のデーターを探っていく。

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次に気になったのはリムハイトである。通常販売されているMAVIC IOのリムハイトは52mmだ。対してこちらは53.99mmと1.99mm程太くなっている。こちらもリム幅と合わせてボリュームアップしているのだ。リムハイトが高ければ空力特性がよくなるかというと一概には言えない。

ただし、風洞実験は繰り返しているだろうから、リムハイトが高めにしたのにも理由はあるだろう。

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そして「aircraft wing shaped spokes」と呼ばれるスポーク部分を見ていきたい。実際に一番細い部分の寸法はわからなかったが52.08mmだった。

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一番太い部分は59.93mmである。中心に向かって太くなる形状をMAVIC Olympic IOは備えている。

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そしてその5つのスポークが合わさるとき、MAVIC IOは完成する。この集合部分はおわん型をしており、上から見るとモッコリしている。

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まとめ:オリンピックに思いを馳せる

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最後に、少しだけミステリアスな部分を紹介する。私がこのホイールを海外で購入した時、ひとつ注意事項があった。「MAVICのデカール部分に剥がし跡が付くけど良いか?」という内容だった。なぜかはわからなかった。しかしヘルシンキからこのホイールが届く間、私はネットのありとあらゆる情報をしらべ、所有者にDMで質問をした。

一つ、ある「博物館」の情報をもらった。

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この壁一面に飾られたMAVIC COMETEとIO、高級チューブラータイヤのFMBはある所有者の方の同型「MAVIC Olympic IO」である。どうやら前後とも「Olympic仕様」らしい。

そして「MAVICのデカール部分に剥がし跡が付くけど良いか?」の意味がやっとこの時理解できた。9枚の写真右下の写真を拡大してみよう。

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恐らく、選手名とロット番号が書いてある。私が入手したホイールの「剥がし跡」部分の位置と同じところだ。恐らくだれか身元がわからないようにしてあるのだろう。しかし、送り主のEMSの名前を検索した。野暮ったいことをする。。。

私はGoogleの一番上に表示された、海外のWikipediaの情報を見て納得した。

2012年ロンドン五輪に湧いたあの日、確かに私の手元にあるこのOlympic IOは大観衆の中バンクを駆け巡ったのである。今日リオオリンピックの大観衆の中を駆け巡る選手と同じように、このOlympic IOも走ったのだ。ただ、4年という月日は「オリンピック選手」を過去のものにするには、十分な時間だった。

いまもきっと、この元オリンピアンもRIO五輪を見ているだろう。この本来最速を競うはずのMAVIC Olympic IOは日本のしがないサラリーマンの家にある。このホイールにとって再就職先が、日本のホビーユーザーだというのはとても残念な話かもしれない。

ただ、このMAVIC Olympic IOは世界の舞台を見て、戦ってきたのだ。私はどうあがいてもオリンピックには出られない。しかし私は、この謎に包まれた「MAVIC Olympic IO」を通してOlympicに思いを馳せるのだ。

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