メジャーではないゴールドウィン
私は夏用、春秋用のグローブは全てゴールドウィンのグローブを使っている。私は気に入らないと、全く使わなくなる。しかし、ゴールドウィンのグローブは”リピ”してしまった。サイクルアパレルにおいて全く人気のない(失礼だが事実)ゴールドウィンのグローブを使う理由を今回4500文字でまとめた。
私がゴールドウィンのグローブを使う理由は三つある。一つはサイクルアパレル界においてゴールドウィン「だけが」採用している素材がある。それは、テイジンが開発した素材「ナノフロント」だ。二つ目はどれだけ使っても糸がほつれないと。三つ目は裁断が日本人の(むしろ私の手の)形状になっているからだ。
では、その素材~裁断と詳しく見ていこう。
テイジンが開発した”ナノフロント”とは
細かなナノフロントの話し(機材ネタではなく材質ネタになる)は「あ、FJTよもういいです」という程に記す。このナノフロントが使われているグローブは、ほとんど「素手と変わらない」握りごこちを実現している。
確かにデザインは”まるでシマノホイール”のような、イケてないそっけないデザインだ。日本企業はそつがない、狙いに行かない、良いとも悪いとも言えない、デザインを採用するのはなぜだろうか。
それはさておき、その「性能」たるやいけてないデザインを置き去りにしても、使い続けたいと思わせてくれる製品になっている。ゴールドウィンのグローブに使われているナノフロントは、なぜこれほどまでに「素手に近い」握りごこちなのだろうか。
髪の毛の7500分の1の超極細繊維
出典:帝人 NANOFRONT^(TM) [ナノフロント^(TM)]
ナノフロントは私が調べたサイクルグローブにおいて、繊維の細さ、滑りにくさ共に最高レベルの素材である。何が世界初かというとその繊維の細さだ。タオルに「マイクロファイバー」という素材が使われている事は、多くの人が知っているはずだ。
あのマイクロファイバーの繊維経はおよそ2μメートル(μ=マイクロ)である。マイクロの単位の世界に突入しているので、マイクロファイバーだ。マイクロという単位は、おなじみの国際単位系(SI)の一つである。
マイクロは非常に小さい。どれくらいかというと、百万分の1=0.000 001倍である。マイクロメートルはどれぐらいのメートルなのかというと、1マイクロメートル = 0.000 001メートル という関係で示される。
では、ナノフロントはどれほど細いのか。マイクロファイバーは、マイクロの世界に突入していた。ナノフロントはそう、「ナノメートル」の世界に突入している。ナノフロントの繊維経はおよそ700nm(ナノメートル)だ。
ナノメートルはどれほど細いのか。
ナノメートルは10^-9メートル=10億分の1メートルだ。もう一度言おう。「じゅうおうくぶんの1めーとる」だ。先ほど出てきた1マイクロメートルと、1ナノメートルはどのような関係性か数値で示す。
- 1μm(マイクロメートル) = 1000nm(ナノメートル)
- 1nmナノメートル = 0.001μmマイクロメートル
ということだ(双方は同じ意味である)。一見、繊維が細い事だけが前面に表現され本質が見えなくなる前に、ナノフロント素材の特異性を探っていくことにする。
極細繊維が生み出す高いグリップ性能
繊維が細くなることにより摩擦係数が上がる。摩擦係数が上がることは、サイクリストにはどのような恩恵があるのか。そしてなぜ、繊維が細くなると摩擦係数が上がるのか。まず、サイクリストがブラケットを握ったり、シタハンでもがく事を想像してほしい。
その際にハンドルから手が”滑らないように”お気に入りのバーテープや、お気に入りのグローブを付けているはずだ(もしくはオシャレのために)。その際に”滑らない”為には高い摩擦が必要になる。
摩擦係数が高ければ高いほど滑りにくくなるので「グリップがよい」ということになる。このナノフロントはどれほどの摩擦係数なのか。ナノフロントは超極細繊維で構成されている。非常に小さいミクロのレベルで見ると、繊維と繊維が並び凸凹状になっている。
この凸凹は、繊維が細ければ細いほど「より多くの凸凹」が作られる。結果、この数が多ければ多いほど摩擦力が増す、ということだ(厳密には材料自体の影響も受けるが)。では、乾燥時の摩擦抵抗テストを確認する。
出典:帝人 NANOFRONT^(TM) [ナノフロント^(TM)]
よくグローブに使われているポリエステルの摩擦抵抗はおよそ100cNで、濡れた状態だと150cN程度だ。ちなみにパールイズミの最上位グローブであるプレミアムウィンドブレークグローブは、ポリエステル100%ということでメジャーな素材なのは間違いない。
ではナノフロントはどうだろうか。ナノフロントの摩擦抵抗は310cN、濡れた状態だと400cNとおよそ3~3.5倍である。確かに雨の日のレースでもナノフロントは非常に滑りにくかった。
出典:実業団堺クリテリウム
繊維の強さや密度について
化学繊維の世界において「引張り強さや」、「伸び率」を数値として表すときに様々な単位が出てくる。「引張強さ」という単位は「cN/detx」で表される。糸におもりを付け、徐々に重くしていき糸が切れた際のおもりの重さを「cN」で、糸の太さは「dtex(デシテックス)」で表す。
補足:グラムとセンチニュートンの関係式は1(gf)=0.9807(cN)となる。
テックスという用語は、ISO(国際標準化機構)で定めらた化学繊維の糸の太さを表す単位である。1テックスとは、繊維長が1,000mで重さが1gの糸をさす。通常はテックスの10分の1の単位のデシテックス(dtex)で表すことが多いようだ。
もう少し調べてみると、馴染みのある「デニール」という言葉にたどり着く。デニールも化学繊維の糸の太さを示す単位だ。9000mで重さが1gの糸が1デニール(dで表す)。以前はデニールという言葉をよく聞いた。
しかし、昨今の情勢を確認したところ日本化学繊維協会が主導になり表記方法を変えている。具体的には国際整合性の観点から、化合繊の繊度表示を1999年10月度生産分より「デニール表示」から「デシテックス表示」に切り替えている。
したがって、今後アウトドアウェアでデニールという表示は今後見ないだろう。
どうしても単位が好きなので、話が大幅に脱線(通常通り)してしまったので話をナノフロントに戻そう。ここからが自分での書くのもおこがましいがとても面白い。ナノフロントは我々サイクリストが好きな「毛細血管とヘモグロビン」に優しい素材だ。
肌摩擦が少ない素材の恩恵
ナノフロントは肌の摩擦が非常に少ない。理由は繊維自体のしなやかさに有る。繊維のしなやかさはどこから生まれるのか。繊維のしなやかさを数字で表すならば、繊維の太さの4乗に「反比例」する。ポリエステルの20万分の1の極細繊維であるナノフロントが、いかにしなやかなのか数値からも容易に読み取れる。
結果、しなやかさは肌へのダメージが減少する。敏感なお肌に優しいということだ。ではどのようにして、ナノフロントが及ぼす肌へのダメージを計測したのだろうか。
人間は肌が傷つくと、その傷を直すために毛細血管にヘモグロビンが集まり肌が赤くなる。非常に微細なレベルでその「ヘモグロビンの集まり」度合いを数値化さしたのだ。使用した測定器は、「mexameter MX18」という医療器具だ。
mexameter(メグサメーター)はドイツのCK(Courage+Khazaka)社が開発した、メラニン・紅斑測定機である。簡単に言うと、お肌の状態を厳密に測定する機器だ。本機は3種類の波長の光を皮膚に照射する。その反射光を測り、皮膚の色を構成する「メラニン」と「ヘモグロビン」の濃さを測定し数値化する。
だから、お肌が傷ついてヘモグロビンが一生懸命集まるその様が、数値として解析できるのだ。我々サイクリストは、ヘモグロビンやヘマトクリット値に敏感だ。そして血管や、血液というキーワードにもナーバスであり、非常に興味を持っている。
出来る限り血管に負担を掛けたくないし、体にダメージを及ぼしたくない。非常に微細なレベル(むしろ気にしなくてもいいような)だが、ダメージが少なく快適に使用できるナノフロントの素材は非常に魅力的である。
ゴールドウィンはその素材を生かすのか殺すのか
ここまで既に3000文字使ってしまったが(また、FJTがどうでもいい事を調べたと揶揄してはいけない)、いよいよゴールドウィンのグローブのメリットとデメリットを紹介したい。結局は素材は要素であり、どう裁断して設計するかは各メーカーの力量に委ねられる。
ゴールドウィンのグローブの良いところを一言で表現しよう。「小指が短い」事だ※真面目に書いている。一瞬「何を言っているのかわからない」という人も多かろう。私は小指が短い。しかし、ゴールドウィンは指切りも、フルフィンガーグローブも「小指が短く」裁断されている。
私は、これは凄く重要な事だと受け止めている。海外の製品は「小指」が長い。そう色々な人体的な要素(意味深)が海外の人と、日本人では異なるのだ。手においてその最たる例が「小指」である。
写真で、私の”かわいらしい”小指を確認する。非常に短いではないか(涙)。載せることをためらったが、この短い小指を載せずして、ゴールドウィンの「裁断と寸法の良さ」は到底表現できるはずが無かろう。科学の進歩と同様に常に犠牲は必要なのだ。
ゴールドウィンの縫い方はほつれにくい
ゴールドウィンのグローブで使われている糸は(上位クラス)の場合は非常に細かい。具体的に何の糸が使われているのかは定かではないが非常に耐久性が有る。私は相当使い込んだゴールドウィンのグローブで”ある”ことを発見した。
それは使い込んでも「糸は切れず繊維と離れるだけ」の状態になることだ。具体的に写真の通り、糸も残り、繊維も残ったままになっている。摩耗し「破れている」わけではない。ゴールドウィンのグローブは、その耐久性たるや非常に高いと結論付けている。
しかしデザインは・・・
唯一の欠点はそのデザインだ。どうしてこうなった、というデザインを日本企業は”好んで”使う。確かにデザインは”まるでシマノホイール”のようなイケてないそっけないデザインと冒頭で表現した。
日本企業はそつがない、狙いに行かない、良いとも悪いとも言えないデザインを採用する。だがここまで説明したとおりその「性能」たるや、いけてないデザインを置き去りにしても使い続けたいと思わせてくれるのがゴールドウィンのグローブだ。
素材と裁断とデザイン
iphoneはほとんどの主力部品が、日本製と台湾製である。ようは「要素」を「どう組み合わせて」アイデア溢れる製品にするのかが重要なのだ。日本企業は要素を作り出すことは世界一と言っても良い。
しかしどうだろう、要素の組み合わせで「ハッと驚くような」製品を作る事が苦手だ。国内企業のテイジンが開発した新たな素材ナノフロントはまさにグローブに最適な素材といえる。その”要素”を用いて”小指が短い”グローブをゴールドウィンは作り上げた。
だから私は選択した。ただ、三点バランスのように何事もバランスが大事で、”デザイン”だけは納得していない。明らかにラファやアソス、デフィートの方が”イケてる。”国産メーカーに足りないのは、ほんの最後のヒトツメだ(グローブだけに)。
見栄えがよく”イケてる”と思わせてくれる要素を足せば、海外勢に押されている国内サイクルアパレルメーカーも、日の目を見る時が来るだろう。それまでは”とんがった素材”を使って、どんどん攻めていけばいい。あまり使用ユーザーがいないであろうゴールドウィンのグローブを、私は陰ながら応援し今年も使っていきたい。
いま1つ今気づいた事がある。「ゴールドウィン押し」というより「ナノフロント」の開発元「テイジン押し」の記事になってしまった。その辺は当ブログのいつもの事で、ご愛嬌である。
今回買ったモノ