2016年4月1日、「ガリガリ君」を販売する赤城乳業は25年ぶりに同製品の値上げ（60円→70円）に踏み切った。当時、値上げを報告する謝罪ＣＭは話題になった。このCMは反響を呼び、値上げ初月である4月の売り上げは、ダウンどころか前年同月比で10％アップした。
この値上げに関して赤城乳業を取材した記事には、こんな一文があった。
“馬鹿正直な会社”だと思われていることでしょう。しれっと値上げしている会社もあるかもしれません。『でも、それってやっぱりお客様に嘘をついている気がするよね』というのが弊社の考えなんです。
デフレから、インフレに移り変わろうとしている現在の日本においては、ありとあらゆる商品の値上げが行われている。特に日本の消費者は世界でも特に「値上げ」に敏感であるため、価格をそのままで内容量を減らす「ステルス値上げ」を企業は行うようになった。
多くの企業も、「しれっ」と値上げをしている。あのシマノだって、小売店には何ヶ月も前から値上げの通知をしているが、ユーザーには一切告知することはない。値上げを何度も行っているのにだ。
ユーザーが気づかないうちに、しれっと値上げするほうが「知らないほうが幸せ」なのかもしれない。しかし、企業に対する消費者からのイメージは良くなることはないだろう。むしろ逆に不信感がつのっていく可能性がある。
今回、この赤城乳業のガリガリ君の値上げ話を思いだしたのは、ドイツのバイクメーカーCANYONが行った突然の「値上げ」告知だった。
【為替レート見直しによる、価格改定（値上げ）のお知らせ】
円安ユーロ高の情勢を受け、日本円価格を改定をさせていただくことになりました。
価格改定：2023年7月12日あさ7時（日本時間）
値上げ幅：約5-6%
ご不明点はキャニオンジャパンサービスセンターまでお気軽にお問い合わせください 駆け込みを促すわけではございませんが、明日あさ7時までのご注文をご検討ください
この値上げの告知のポイントは以下だ。
- 現実的な”適正価格”で提供することが至上命題。
- ユーロ価格に対して日本円価格は据え置いてきた。
- 2022年8月から10%近い厳しい円安になった。
- それでも、可能な限り価格を抑えた。
- サイクリングライフを楽しんでほしい。
- 手の届きやすい選択肢になることを目指す。
- 改定日時2023年7月12日朝7時
- 値上げ幅5～6%
- エアロードCFR MVDPは既に新価格である。
- 2023年アルティメットは既に新価格である。
CANYONは最後の最後まで、値上げに踏み切らなかったメーカーだ。2022年はドルが150円に近づいて行く最中、ユーロ基準のCANYONには影響がなかったが、2023年7月にはユーロは157円に”達して”いる。
そのような状況の最中、北米メーカーよりもきつい状況になっているのは明らかだ。したがって今回の値上げは、会社を継続し成長させ、新しい製品開発に投資するためには必要であり、正しい経営判断、企業として正しい判断だったといえる。
それでいて、消費者に対してしっかりとした説明責任を果たしてた。そこには、CANYONのポリシーや、これまで据え置いてきた理由、明確な値上げ時期、明確な値上げ幅など明確な理由があった。
消費者の関心事である「値上げ」に対する企業の方針は様々だ。CANYONのこれまでの据え置き価格の企業努力、そして値上げに踏み切るときの説明をしっかりとユーザーに発信した今回の値上げ告知は、非常に好感が持てた。
「値上げ」について企業が、「しれっ」とやるのか、それとも赤城乳業やCANYONのように、本来「言わなくても良いことを馬鹿正直に」やるのかは、良い、悪いは別としてそれぞれの企業理念、もっと言えば企業体質によるのだろう。
ただ、消費者から向けられる企業に対する目線は、対応ひとつで大きな影響を及ぼしかねない。今回のCANYONの告知は、サイクリストの皆さんにはどう映ったのだろうか。
