
いままでTPUは乗り心地悪すぎて、こんなの使えるか!
と思ってきたけど、ゲームチェンジャー登場。TLRにも入れるぞ。
ロードバイクのインナーチューブに革命が起きた。
Pirelli P ZERO SmarTUBE RSは、独自開発の新世代TPUコンパウンドを採用し、同社のチューブレスタイヤと比較しわずか+0.2Wの差にまで転がり抵抗を詰め、なおかつチューブレスよりも軽量という前代未聞のポジションを獲得している。
独立機関のテストでは、18種のTPUチューブの中で最速の転がり抵抗を記録。
World Tourチーム「Alpecin-Deceuninck」「Lidl-Trek」がグランツールの山岳TTで実戦投入しているという事実が、このチューブの実力を雄弁に物語っている。今回の記事では、素材から実際の使用感まで多角的に掘り下げる。
SmarTUBE RSの新設計TPU素材とは?
SmarTUBE RSの核心は、従来のTPUとは根本的に異なる独自配合の熱可塑性ポリウレタンにある。Pirelliはこの新素材について、ヒステリシスロス(素材が変形して元に戻る際に熱として失われるエネルギー)を大幅に低減したと公表している。
最大の技術的ブレイクスルーはここにある。TPUチューブの転がり抵抗の主要因は、タイヤの変形時にチューブ素材が熱として消費するエネルギーだ。ゴムボールを床にたたきつけたとき、完全には元の高さまで戻らないことと同じだ。
その「戻らない分のエネルギー」こそがヒステリシス損失であり、転がり抵抗として現れる。これは、たとえて言えば、バネが伸び縮みする際の内部摩擦を極限まで減らしたようなものでもある。
TPUは、2012年にFOSSが自転車市場に初めて投入して以来、Tubolito、Schwalbe Aerothan、Revoloopなど複数のメーカーが参入してきた素材である。
しかし、その大半はTPUの軽量性とコンパクト性を生かしつつも、転がり抵抗の面ではラテックスチューブに及ばないという宿命を抱えていた。
TPUという素材カテゴリーの中でも、配合によって性能は大きく変わる。
同じ鉄でも炭素の含有量で鋼の特性が全く異なるように、TPUもポリオール成分やイソシアネートの配合比率、添加剤の選定によって弾性、耐久性、ヒステリシスロスが劇的に変化する。
従来のTPUチューブが硬質でプラスチック的な手触りであるのに対し、SmarTUBE RSはより柔軟で、ラテックスとTPUの中間のような質感を持っている。これは単なる触感の違いではなく、素材レベルでの分子設計の革新を示唆している。
高分子の柔軟性が高まることで変形時のエネルギー損失が減少し、結果として転がり抵抗が低下するのである。
従来のSmarTUBE(無印)とSmarTUBE RSの物理的な違いも興味深い。RSはチューブ壁の厚さが従来モデルに対して32%増加している。通常、壁厚が増せば重量が増し転がり抵抗も悪化する。
しかしRSは対応サイズを26~35mmに拡大しながらも、重量は42mmバルブ仕様で32g(従来モデルは23~32mm対応で35g)と、むしろ軽くなっている。
壁を厚くしながら軽量化と高速化を同時に達成したという事実は、新TPUコンパウンドの密度と弾性特性が根本的に異なることを意味する。
他のTPUチューブよりも柔軟で、従来のラテックスチューブとTPUを混ぜ合わせたような感触だ。
従来のTPUチューブと何が違う?
従来のTPUチューブとSmarTUBE RSの差は、カタログスペックの微差ではなく構造的な哲学の違いだろう。Pirelliの公式データによれば、新TPU配合により従来のSmarTUBEに対して最大21%の高速化を実現した。
これは同一ブランド内の世代間比較として驚異的な数値と言える。この21%という数字の背景にあるのは、前述のヒステリシスロスの低減だ。
チューブが路面の凹凸やタイヤの変形に追従して伸縮を繰り返す際、素材内部で熱に変換されて失われるエネルギーが少なければ少ないほど、ペダルに込めた力が推進力に変換される割合が高まる。
F1のタイヤ開発で蓄積したコンパウンド技術をPirelliが自転車用TPUに転用したと考えれば、この飛躍的な進化にも合点がいく。
また、SmarTUBE RSはP ZERO Race RSタイヤとの組み合わせで、従来のブチルチューブ比で最大24%の転がり抵抗削減を達成している。12%(対従来TPU)と24%(対ブチル)という二重の性能差は、チューブ素材の選択がシステム全体の効率にいかに影響を与えるかを如実に示している。

さらに、従来のTPUチューブの多くがバルブコアを交換可能にしていたのに対し、SmarTUBE RSはバルブコアを接着固定するミニマリスト設計を採用している。
これは数グラムの軽量化と気密性の向上に寄与するが、ディープリムホイールでバルブエクステンダーを使用する際の制約にもなる。Pirelliはこの点を考慮し、42mm、60mm、80mmの3種類のバルブ長をラインナップしている。
SmarTUBEシリーズの素材進化
| 世代 | 発売年 | 重量 | 対応サイズ | RR | 素材特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| SmarTUBE(初代) | 2021 | 35g | 23~32mm | 10.6W | 標準TPU |
| SmarTUBE EVO | 2023 | 35g | 25~28mm | 未テスト | |
| SmarTUBE RS | 2025 | 32g | 26~35mm | 9.7W | 低ヒステリシスTPU |
TLRとの性能差が+0.2Wという事実
この+0.2Wという数値は、Pirelliの社内テストにおいて、P ZERO Race RS TLR+シーラント構成と、P ZERO Race RS(チューブタイプ)+SmarTUBE RS構成を比較した結果として公表されたものだ。
チューブレスとクリンチャー+チューブの転がり抵抗差がわずか0.2Wまで縮まったという事実は、過去10年間のチューブレス優位の常識に一石を投じるものである。
ただし、この数値の解釈には注意が必要だ。Pirelliの比較チャートの読み方次第では、比較するセットアップの組み合わせによっては差が広がるケースもありうる。
具体的には、TLRタイヤ+SmarTUBE RS(チューブレスタイヤにあえてチューブを入れる構成)とTLRタイヤ+シーラントの比較では差が小さいが、チューブタイプ専用タイヤ+SmarTUBE RSとTLRタイヤ+シーラントの比較ではやや差が開く可能性がある。
それでもなお、+0.2Wという数値が示す意味は大きい。40kmのタイムトライアルを時速45kmで走った場合、0.2Wの差は約0.05秒に相当する。これは事実上、測定誤差の範囲内である。
レース当日のコンディション、風向き、路面状態の変動に比べれば、この差は完全に無視できる。
チューブレスの最大のメリットであるシーラントによるパンク自動修復を除けば、SmarTUBE RSはチューブレスと実質的に同等の転がり性能を、はるかにシンプルなセットアップで実現できるということになる。
クリンチャー+SmarTUBE RSがTLRより軽量
この重量の逆転現象こそが、SmarTUBE RSの訴求ポイントだ。
28mm幅のP ZERO Race RS(チューブタイプ)223.5g + SmarTUBE EVO(60mmバルブ)34.6g = 合計258.1g/本である。一方、28mm幅のP ZERO Race TLR RS(チューブレスレディ)290g + シーラント最低30g + 軽量チューブレスバルブ8g = 合計約328g/本となる。
その差は実に70g/本、前後で140gに達する。これはホイール外周部での140gであり、回転慣性への影響を考慮すると、フレームやサドルでの140gの軽量化よりもはるかに大きな加速性能の改善をもたらす。
なぜこの逆転が生じるのか。チューブレスレディタイヤは気密性を確保するためにインナーライナー(SpeedCoreなどの内側コーティング層)が必要であり、ビード部も高い精度と剛性が求められる。
この構造的な追加要素が、タイヤ単体で70gほどの重量増につながる。
更にシーラント30g以上とチューブレスバルブ8gが加わる。対してクリンチャータイヤはこれらが不要であり、その構造的なシンプルさがTPUチューブとの組み合わせで重量優位性を生む。
ここでタイヤ機材として考えたいのは、従来の機材選択の文脈においてチューブレスは重量面でもチューブに対して優位、あるいは同等と認識されてきたことである。
SmarTUBE RSの登場はこの前提を崩し、軽さとシンプルさの両方でクリンチャーセットアップに再び光を当てた。レースにおいてセットアップのシンプルさは精神的な余裕にもつながる。
シーラントの残量を気にする必要がなく、組み付けにコンプレッサーも不要で、チューブ交換だけで完結する。この心理的なアドバンテージは数値化できないが、レースの現場では決して無視できないものである。
ラテックスチューブの乗り心地、は本当か?
この問いに対して、長年SOYOラテックスとVittora Latexを愛用し続けてきた客観的な回答がある。ラテックスチューブ(Vittoria Latex 25/28、80g)の3種タイヤ平均転がり抵抗は、
- 6.9bar:9.5W
- 5.5bar:10.8W
- 4.1bar:12.9W
これに対しSmarTUBE RSは、
- 6.9bar:9.7W
- 5.5bar:10.9W
-
4.1bar:13.0W
を記録している。その差はわずか0.1~0.2Wであり、実走行では体感不可能なレベルである。転がり抵抗だけでなく、乗り味の質感についてもSmarTUBE RSはラテックスに接近している。
しかし、ブチルチューブからこのTPUチューブに乗り換えた場合、明確な乗り心地の改善が確認できる。TPUチューブに交換するとペダルを10回踏まずとも軽さの違いを容易に感じることができ、タイヤのコンプライアンスと快適性が向上するのがわかる。
ラテックスチューブの優位性が最も発揮されるのは、コットンケーシングのしなやかなタイヤとの組み合わせにおいてである。しかしラテックスには致命的な弱点がある。空気保持性の悪さだ。
ラテックスチューブは数日で、場合によっては一晩で空気が抜けてしまう。朝のライド前に毎回空気を入れ直す必要があるのは、実用面で大きなストレスになる。SmarTUBE RSを含むTPUチューブはブチルと同等以上の空気保持性を持ち、この問題とは無縁である。
ラテックスチューブのもう一つの弱点は、リムブレーキとの相性の悪さ(制動熱で溶けるリスク)と、取り扱いの繊細さである。タイヤビードでラテックスチューブを挟んでしまうと、空気を入れた瞬間に破裂する。
この繊細さは作業時の緊張を強いる。SmarTUBE RSはディスクブレーキ専用ではあるが、TPU素材の強じんさにより取り扱いはラテックスよりはるかに容易である。
個人的な感覚として、ラテックスチューブの乗り味を10とすればSmarTUBE RSは9といったところだろう。しかし実用性、空気保持性、携帯性を総合すれば、SmarTUBE RSはラテックスを凌駕する選択肢となり得る。
極上の乗り味を追求しつつ、日常の面倒を排除できるという意味で、このチューブは究極の現実的解決策と言える。
独立テストが証明した性能
Bicycle Rolling Resistance(以下BRR)は、自転車タイヤおよびチューブの転がり抵抗テストにおいて世界で最も権威のある独立機関だ。
2026年1月にSmarTUBE RSのデータを追加した最新の比較テストでは、18種のTPUチューブ、4種のブチルチューブ、1種のラテックスチューブが、Continental Grand Prix 5000、Vittoria Corsa G+ 2.0、Michelin Power Time Trialの3種のタイヤとの組み合わせでテストされている。
以下はBRRの3種タイヤ平均転がり抵抗データ(6.9bar)の結果である。
| チューブ名 | タイプ | 重量 | 6.9bar | 5.5bar | 4.1bar |
|---|---|---|---|---|---|
| Vittoria Latex 25/28 | Latex | 80g | 9.5W | 10.8W | 12.9W |
| Pirelli P Zero SmarTube RS | TPU | 35g | 9.7W | 10.9W | 13.0W |
| RideNow Ultralight | TPU | 20g | 9.7W | 11.1W | 13.4W |
| Revoloop Ultra | TPU | 25g | 9.8W | 11.0W | 13.1W |
| Vittoria Ultra Light Speed | TPU | 30g | 9.8W | 11.2W | 13.5W |
| Continental ContiTPU | TPU | 36g | 9.8W | 11.2W | 13.5W |
| Tubolito S-Tubo Road | TPU | 22g | 10.0W | 11.1W | 13.5W |
| Schwalbe Aerothan | TPU | 43g | 10.3W | 11.6W | 13.9W |
| Pirelli P Zero SmarTube(従来) | TPU | 35g | 10.6W | 12.1W | 14.7W |
| Conti Race28 Light | Butyl | 75g | 10.5W | 11.6W | 14.0W |
| Schwalbe SV15 | Butyl | 105g | 12.4W | 14.0W | 17.1W |
このデータから読み取れるポイントは複数ある。
まず、SmarTUBE RSは35gという中量級の重量でありながら、20gのRideNow Ultralightや22gのTubolito S-Tubo Roadよりも転がり抵抗が小さい。最軽量であることが最速であることを意味しないという事実を、このチューブは証明した。
この「軽けりゃ良いわけではない」ポイントは明確に理解すべきであり、SmarTUBE RSの素材そのものの優位性がデータに表れている。
次に、従来のSmarTUBE(非RS)との比較が劇的だ。同じ35gの重量でありながら、6.9barで0.9W、5.5barでは1.7Wもの差がついている。同一ブランドの新旧世代でこれほどの差がつくことは異例であり、新TPUコンパウンドの革新性を裏づけている。
競合との比較では、Canyonの完成車に採用され、市場で普及しているSchwalbe Aerothan(43g)に対して6.9barで0.6W、5.5barで0.7Wの優位に立っている。重量でも8g軽い。
Tubolito Road(39g)に対しては6.9barで1.1Wの差がつく。かつてTPUチューブ市場をリードしてきたこれらの製品に対し、SmarTUBE RSは明確に一線を画す存在と”なってしまった”。
そして最も重要な比較として、ラテックスチューブとの差がある。80gのVittoria Latexに対し、6.9barでわずか0.2Wの差。重量差は45gもある。
ヒルクライムやクリテリウムのように加減速が頻繁な場面では、この45gの外周重量差が0.2Wの転がり抵抗差を容易に相殺する。総合性能でラテックスを超えるTPUチューブがついに登場したと評しても過言ではないだろう。
インプレッション:TPUで初めて感動・・・

ラテックスから乗り換え確定です。そして、TLRもこれ入れます。それほど良いTPUチューブです。
これまでのTPUは乗り心地が悪すぎて、乗る気になれなかった。
しかし、SmarTUBE RSはどうだろう。もはやラテックスチューブに肉薄する乗り心地の良さと、圧倒的な軽量性を兼ね備えている。このTPUなら乗ってもいい。ただし、ほかのTPUは軽いが乗り心地が悪すぎてダメだ。
「ラテックスに匹敵する乗り心地」というこの評価は、定量データと主観的な使用の両面から裏付けられている。
定量面では、BRRのテストが決定的だ。
ラテックス9.5W、SmarTUBE RS 9.7W、転がり抵抗の差は最大でも0.2W、低圧域では0.1Wにすぎない。転がり抵抗は路面からの振動吸収特性と密接に関連するため、この数値はライドフィールの近似性を間接的に示唆する。
主観的評価も一致している。合わせて使用したP ZERO RSのクリンチャータイヤとの組み合わせでタイヤのしなやかさが明確に向上した。まるで、ラテックスチューブを使っているかのような加速の軽さだった。
転がり抵抗の低減が路面振動の低減として体感できる。タイヤの特徴はコンチネンタル GP5000とMichelin Power CUPの間のような感触だった。ラテックスチューブと同様に、薄くしなやかなポリウレタン素材がよりスムーズで快適な乗り心地を生んでいる。
旧SmarTUBEとRSの違いはどこにある?
| 比較項目 | SmarTUBE(初代) | SmarTUBE RS |
|---|---|---|
| 対応タイヤ幅 | 23~32mm | 26~35mm |
| 重量(42mm) | 35g | 32g |
| TPU配合 | 標準TPU | 新配合・低ヒステリシスTPU |
| 壁厚 | 17mm | 22.5mm(+32%) |
| 転がり抵抗(BRR, 6.9bar) | 10.6W | 9.7W(-8.5%) |
| ブレーキ互換 | ディスク+リム | ディスク専用 |
| バルブコア | 取り外し可能(一部報告) | 接着固定・取り外し不可 |
| 推奨タイヤ | P ZERO Race | P ZERO Race RS |
最も革新的な点は、より広いタイヤ範囲(26~35mm)をカバーしながら、旧モデルより軽く、かつ壁厚を増して耐久性を向上させ、更に転がり抵抗を大幅に改善したことだ。
これはTPU素材の根本的な刷新なくしては不可能であり、Pirelliの第3世代TPU技術の成果と言える。
リムブレーキ非対応は重要な制約であり、TPU素材がリムブレーキの制動熱に耐えられないための設計判断である。ディスクブレーキロードバイクの普及を前提とした製品開発と位置づけられる。
パンク時の修理はどうすればよい?
TPUチューブのパンク修理は、従来のブチルチューブとは全く異なる手法が必要である。これはSmarTUBE RSを導入する際に必ず理解しておくべき重要な点だ。
SmarTUBE RSの初期ロットには「修理不可」と印刷されていたが、Pirelliはその後方針を変更し、専用のTPUパッチキットによる修理が有効かつ安全であると公式に認めている。
ただし、通常の加硫ゴムパッチやゴムのり不要の貼るだけパッチはTPUチューブには使用できない。TPU素材とゴム素材では化学的な親和性が異なるため、従来のゴム糊では十分な接着力が得られない。
Pirelliは純正の「SmarTUBE Repair Kit」を1,000円弱で販売している。キットの内容は、直径20mmの小パッチ5枚、20×35mmの楕円大パッチ5枚、TPU専用の特殊接着剤(Rema Tip Top Camplast系のポリウレタン接着剤)、清掃用アルコールワイプである。
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修理の手順は以下の通りである。
- パンク箇所を特定する。通常のチューブと同様に空気を入れて水に浸すか、耳で空気漏れ音を確認する。
- パンク箇所周辺を付属のアルコールワイプで脱脂・清掃する。TPU素材の表面に油脂や汚れが残っていると接着力が著しく低下する。
- 専用接着剤をパンク箇所とパッチの両面に薄く塗布する。
- パッチを貼り付け、しっかりと圧着する。クランプ等で固定するのが理想的。
- 接着剤が完全に硬化するまで最低30分待つ。この硬化時間がブチルチューブの修理との最大の違いである。
この方法で正しく修理したTPUチューブは問題なく使用できるという。Pirelli純正キットでSmarTUBEを修理すれば、パッチ済みチューブで問題なく走行を継続できる。
ただし、実用上の重要な注意点がある。30分の硬化時間が必要なため、ライド中の路上修理は現実的ではない。このため、レースやロングライドではスペアチューブの携帯が事実上必須となる。
SmarTUBE RSは非常にコンパクトに折りたためるため、サドルバッグに予備を1~2本入れておくスペース的な余裕は十分にある。パンク修理は帰宅後に落ち着いた環境で行い、路上ではチューブ交換で対応するというのが最も合理的な運用方針である。
Tubolito製のパッチキットもPirelli SmarTUBEに使用可能であり、逆もまたしかりである。TPU素材の化学的な基本組成は各社で類似しているため、TPU専用と明記されたパッチキットであればおおむね互換性があると考えてよい。
ただし、バルブ根元やチューブの接合シーム部分への修理は推奨されておらず、パッチの重ね貼りも避けたほうがいいだろう。
レース現場に実戦投入
SmarTUBE RSは、Pirelliのパートナーチームであり世界最高峰のプロチームであるAlpecin-DeceuninckとLidl-Trekによって、すでにグランツールの山岳タイムトライアルステージで実戦使用されている。
軽量性と低転がり抵抗が最も価値を持つ、純粋な登坂力勝負の場面でプロが選択しているという事実は、このチューブの競技レベルでの信頼性を裏づけるものである。
使用上の制約として最も重要なのは、SmarTUBE RSがディスクブレーキ専用であるという点だ。リムブレーキ車両での使用はPirelliが明確に禁止している。
リムブレーキの制動熱がTPU素材の耐熱限界を超え、チューブのバーストを引き起こすリスクがあるためだ。
ディスクブレーキが普及した現代のロードバイクにおいては大きな制約とは言えないが、旧車やヴィンテージバイクの愛好家はこの点に注意が必要である。
対応サイズは700×26~35mmと幅広く、現代のロードバイクで主流の28~32mm幅タイヤに最適化されている。バルブ長は42mm、60mm、80mmの3種類が用意されており、ローハイトリムからディープリムまで対応可能である。
バルブコアは接着固定式で取り外しできないため、バルブエクステンダーの使用には外付けタイプが必要となる。
価格は市場によって異なるが、希望小売価格は5,400円(税込)前後だ。
ブチルチューブの1,500円弱と比較すれば高価だが、軽量ホイールへのアップグレード費用(数十万円)と比較すれば、ペアで10,000円程度の投資で得られる性能向上としては極めてコストパフォーマンスが高い。
まとめ:SmarTUBE RSは何を意味し、誰のための製品か?
Pirelli P ZERO SmarTUBE RSは、単なるインナーチューブの改良ではなく、ロードバイクのタイヤセットアップにおけるパラダイムの転換点となり得る製品だ。
チューブレスの性能に匹敵する転がり抵抗、チューブレスを凌駕する軽量性、ラテックスチューブに肉薄する乗り心地、そしてブチルチューブ並みのメンテナンスフリー性。これらを一本のチューブに凝縮したことが、SmarTUBE RSの本質である。
このチューブは明確にレースユーザーとパフォーマンス志向のライダーに向けて設計されている。
チューブレスのシーラント管理やビードの嵌合(かんごう)に煩わしさを感じているライダー、山岳ステージやヒルクライムで1gの軽量化を追求するライダー、そしてシンプルかつ高性能なセットアップを求めるすべてのライダーにとって、SmarTUBE RSは検討に値する選択肢と言えるだろう。
ただし、万能ではない。パンク修理の特殊性、ディスクブレーキ専用という制約、ブチルチューブの数倍の価格は、トレードオフとして受け入れる必要がある。
しかし、これらの制約を許容できるライダーにとって、SmarTUBE RSがもたらす性能の向上は、数字以上の確かな体験として脚に伝わってくるはずである。
自転車機材の進化は、しばしば見えにくい部分で起きる。タイヤの内側という最も地味な場所で起きたこの革新は、ペダルを踏んだ瞬間に全身で感じられる。それは、真に優れた技術が持つ静かな説得力である。














