握りやすく、疲れにくい。
Ergon GE1 EVOは、エンデューロおよびオールマウンテンライディングという、要求の厳しいマウンテンバイクの分野に特化して開発されたグリップだ。本レビューでは、その技術的特性と実際の使用感を、レースやトレイルで使用した見地から深く掘り下げて分析する。
Ergon社は、ドイツのコブレンツに本拠を構え、サイクリストのパフォーマンス向上と身体的快適性の最大化を至上命題とし、人間工学に基づいた革新的な自転車コンポーネント開発を追求している企業だ。
同社の製品群は、単なる思いつきやはやりを追うのではなく、科学者、医師、エンジニア、そしてトップレベルのプロライダーたちとの緊密な協力体制のもとで設計・検証が進められている。
その結果生み出される製品は、「Made in Germany」の厳格な品質基準をクリアしたものだけである。
Ergonの製品開発における「人間工学」への強いこだわりは、単に「握りやすい」「疲れにくい」といった受動的な快適性の追求にとどまるものではない。むしろ、ライダーが自転車をより精密にコントロールし、潜在的なパフォーマンスを最大限に引き出すことにある。
具体的には疲労の軽減や長時間の集中力維持といった、ライディングにおける生理学的課題の解決とパフォーマンス向上を目的とした、より能動的かつ科学的なアプローチがその根底にある。この点が、他の多くのグリップメーカーとの明確な差別化要因となっていると言えるだろう。
技術の深えん
本章では、Ergon GE1 EVOグリップに秘められた技術的な側面を、多角的にかつ詳細に掘り下げていく。
その独創的な設計思想から、それを具現化する構造、厳選された素材、そして製品の核となる人間工学に基づいた特徴群に至るまで、一つひとつを丁寧に解き明かし、GE1 EVOがいかにして優れたパフォーマンスと快適性を両立させているのかを明らかにする。
設計思想
GE1 EVOの設計思想は、過酷なエンデューロレースシーンでの要求に応えることを原点としている。開発には、エンデューロワールドシリーズを戦うトッププロライダーたちからの広範かつ詳細なフィードバックが不可欠な要素として組み込まれた。
特に、現代のエンデューロバイクで主流となっている幅広のライザーバーを使用し、肘を曲げたアグレッシブなライディングポジションを積極的にサポートするよう、グリップの形状、素材、テクスチャの全てが最適化されている。
GE1 EVOの最も特徴的な設計要素の一つが、グリップ表面がハンドルバーの軸に対して8度傾斜している点だ。このわずかな角度が、ライダーのフォームに大きな影響を与える。
グリップを握ると肘が自然と外側に持ち上がり、いわゆる「エルボーアップ」の攻撃的なライディングフォームを促進する。このフォームは、テクニカルな下りやハイスピードコーナリングにおいて、バイクコントロールの自由度を高め、安定性と路面追従性を向上させる上で極めて重要となる。
実は、筆者は肘を張るフォームを無意識に取れていなかった。それが、GE1 EVOを試すきっかけになった一つである。この8度の傾斜は、単に肘の位置を最適化するだけでなく、手首の角度にも配慮した結果だ。
多くの従来型グリップでは、特にワイドバーとの組み合わせにおいて手首が不自然な角度に曲げられやすく、これが長時間のライディングにおける疲労や神経圧迫(特に尺骨神経への影響)の一因となっていた。
GE1 EVOの8度傾斜は、手首の角度をより自然でニュートラルな状態に近づけることを意図している。これにより、神経への圧迫リスクを低減し、結果としてグリップを握りしめる力を最小限に抑えられる。
つまり、よりリラックスした状態で、より長時間、正確なバイクコントロールを維持することが可能になるのである。
構造と素材
GE1 EVOの優れた握り心地と振動吸収性は、その巧みなインナーコア構造に負うところが大きい。
グリップの内部コアは、単一の肉厚ではなく、部位によって戦略的に肉厚が変化するよう設計されている。この可変肉厚構造により、手のひらが最も圧力を受ける部分や、微振動が伝わりやすい部分など、特定のゾーンで振動減衰特性を最適化している。
特にグリップの外縁部では、この構造が追加のダンピング効果を生み出し、長時間のライディングでもソフトで快適な握り心地を持続させる。
クランプシステムには、インボードタイプの鍛造アルミニウム製シングルクランプが採用されている。この方式の利点は、グリップの外側端まで最大限の握りスペースを確保できる点にある。
これにより、ライダーは手の位置をより自由に選択でき、特にワイドバーの端を握るような幅広いグリップスタイルに柔軟に対応する。クランプはCNC加工によって精密に仕上げられており、確実な固定力を提供するとともに、カーボンハンドルバーへの使用にも適している。
GE1 EVOシリーズには、特性の異なる2種類のラバーコンパウンドが用意されている。標準モデルのGE1 EVOには「GravityControl Rubber」が採用される。これはドイツ国内で開発・製造され、独立第三者認証機関であるTUV(テュフ)の認証を受けた高品質なコンパウンドだ。
耐UV性に優れ、可塑剤には医療グレードのホワイトオイルのみを使用するなど、安全性と耐久性にも配慮されている。
一方、上位モデルであるGE1 EVO Factoryには、「Factory Custom Rubber」という専用コンパウンドが用いられる。このコンパウンドは、GravityControl Rubberと比較して更にソフトな質感を持ち、グリップ力、特に粘りつくような感触と反発特性が大幅に向上している。
これにより、より繊細なバイクコントロールが可能となり、プロライダーの要求に応える高いパフォーマンスを発揮する。ただし、この高性能と引き換えに、耐摩耗性に関しては標準コンパウンドに劣る傾向がある点は留意すべきだ。
どちらのコンパウンドも「Made in Germany」の品質基準をクリアしている。
「Factory Custom Rubber」の採用は、Ergonがプロレベルの競技シーンで求められる究極のグリップ性能を追求した結果と言えるだろう。その卓越したグリップ力と振動吸収性は、多くの海外専門メディアやトップライダーから称賛されている。
私自身も、海外メディアのpinkbikeやmbr.comでGE1の評価が良かったため使用に至っている。
しかし、この性能特化の代償として、耐摩耗性がある程度犠牲になっている。Factoryバージョンのコンパウンドが標準バージョンと比較して早期に摩耗するようだが、この特性を裏付けている。
Ergon自身もFactoryバージョンを「明確な摩耗挙動を示す(defined abrasion behavior)」と表現しており、このトレードオフを認識していることがうかがえる。
最高のパフォーマンスを求めるコンペティティブなライダーにとっては許容範囲内の特性かもしれないが、一般的なトレイルライダーにとっては、ランニングコストや交換頻度を考慮する上で重要な判断材料となるだろう。
グリップ部分が単体売りしているため、筆者はあまり気にしていないのだが。
主要諸元
Ergon GE1 EVOシリーズのグリップは、モデル(標準EVOまたはFactory)、サイズ(レギュラーまたはスリム)によって寸法や重量が異なる。
長さは136mmとされている。直径は、レギュラーサイズが約32mm、スリムサイズが約30mmで、手の大きさや好みに応じて選択できる。
重量(ペア)に関しては、GE1 EVO(レギュラー)が約110g、GE1 EVO Factory(レギュラー)がより軽量な約105gとなっている。スリムモデルでは更に軽量化され、GE1 EVO Factory(スリム)は約90gから98gだ。
これらの数値は、グリップの性能だけでなく、バイク全体の軽量化を追求するライダーにとっても重要な情報となるだろう。
人間工学
GE1 EVOの人間工学設計は、ライダーの手にかかる負担を軽減し、長時間のライディングでも快適性とコントロール性を維持することに主眼を置いている。
その核心の一つが、グリップ外側に向けてわずかに広がる独特の形状と、グリップエンドまで途切れることなく続く表面テクスチャだ。これにより、特に手のひらの外側(小指球側)にかかる圧力が効果的に分散される。
このエリアには尺骨神経というデリケートな神経が走行しており、圧迫されるとしびれや不快感の原因となるが、GE1 EVOの設計はこの尺骨神経への圧迫を最小限に抑えるよう配慮されている。
親指がグリップに接触するサムゾーンの設計も、人間工学的な配慮が凝らされている部分である。このエリアは、内側にわずかにくぼんだティアドロップ形状のソフトラバーで構成されており、親指にかかる圧力を効果的に軽減する。
同時に、ライディング中に親指がしっかりとグリップを保持し、バイクコントロールの基点となるようサポートする役割も果たす。この細やかな設計が、長時間のライディングにおける親指周りの疲労感の差として現れる。
グリップ表面に施された複雑なテクスチャパターンも、GE1 EVOの人間工学的特徴を際立たせている。このテクスチャは、単に滑り止めとして機能するだけでなく、より深い意図を持って設計されている。
主要なパターンは、ライダーの手がグリップを握りしめる際に生じる回転力と反対方向(アンチローテーション)に向けられており、これによりグリップのねじれを防ぎ、手の滑りを効果的に抑制する。
さらに、グリップ上部と下部では異なる種類のブロックやチャネル(溝)が組み合わされ、ダンピング性能の向上と、バイクを引き上げる際の指の掛かりやすさを両立させている。
この表面テクスチャの巧妙な設計は、単に受動的に滑りを防ぐだけでなく、ライダーの手の特定部位にかかる力や動きを考慮し、能動的にライディングをサポートするという思想に基づいている。
例えば、ブレーキング時やバイクをプッシュする際には手のひら上部に荷重がかかりやすく、バイクを引き上げたり、細かなコントロールを行う際には指先の力が必要となる。GE1 EVOのテクスチャは、これらの異なる力の入力方向や動きに対して、それぞれ最適なグリップとサポートを提供するよう最適化されている。
結果として、ライダーはより少ない力で確実にハンドルバーを保持でき、疲労の軽減とコントロール精度の向上という恩恵を同時に享受できるのである。
インプレッション
余談だが、GE1 EVOは国内XCO開幕戦である菖蒲谷の3週間前からテストした。DMRのDEATH GRIPとスパカズのグリップも試したが、感触が良かったGE1 EVO Factoryを選択している。
本セクションでは、筆者自身がErgon GE1 EVO Factoryモデルを実際にレースからトレイルで使用した体験に基づき、その性能と使用感を詳細に報告する。
取り付けの第一印象から、様々なコンディションにおけるグリップ性能、長距離ライドでの快適性、そして多くのライダーが関心を寄せるであろう耐久性についてまとめた。
第一印象
製品パッケージはErgonらしい質実剛健な印象で、グリップ本体を手に取ると、まずその独特なエルゴノミック形状と、Factoryコンパウンドならではのしっとりとした質感が伝わってくる。
重量は公称通り非常に軽量である。取り付けはシングルインボードクランプのため比較的容易であるが、GE1 EVOは左右非対称デザインであり、グリップ本体とクランプ部分には「L」「R」および「UP」の刻印が施されている。
これらを正確に確認し、適切な向きで装着することが不可欠である。クランプボルトの締め付けトルクは3Nmが推奨されており、トルクレンチを用いた正確な管理が求められる。
初めてGE1 EVOを握った際の印象は、従来の円筒形グリップとは明らかに異なるものであった。手のひらに吸い付くような独特のエルゴノミック形状は、最初はわずかな違和感を伴うかもしれない。
しかし、メーカーが推奨する「UP」マークを基準としつつ、そこから数ミリ単位でグリップを回転させて角度を微調整していくプロセスが極めて重要(少々手間)である。
筆者の場合、数回の試行錯誤の末、手首が最も自然な角度になり、手のひら全体がグリップ表面に均等に接触する「スイートスポット」を見つけ出せた。この最適な角度が見つかると、まるでオーダーメイド品のように手になじみ、バイクとの一体感が格段に高まるのを感じた。
グリップ性能
ドライコンディションにおけるGE1 EVO Factoryのグリップ力は、期待をはるかに超えるものであった。素手で握ると、Factory Custom Rubber特有の粘りつくような高い摩擦係数がダイレクトに感じられ、まるで手に吸い付くようだ。
グローブを着用した場合でも、その確かなグリップ感は損なわれることなく、バイクコントロールにおける安心感は絶大である。
特に、手の回転を防ぐように設計された表面テクスチャは秀逸で、急な加減速やテクニカルなセクションでのバイク操作において、グリップが手の中でねじれる感覚は皆無であった。これにより、より少ない力でハンドルを保持でき、長時間のライディングでも前腕の疲労が明らかに軽減された。
雨の菖蒲谷と八幡浜国際でウェットコンディションでの性能評価を試した。グリップにとって常に厳しい課題となる。
GE1 EVO Factoryの表面テクスチャは、その複雑なパターンとチャネル構造により、水分を効果的に排出し、グリップ表面とグローブ(または素手)との間の水の膜を最小限に抑えようとする設計意図が感じられる。
実際、転倒によってグローブにドロや水分が付着した状態でも、ドライコンディションと遜色ないとは言えないまでも、多くの標準的なグリップと比較して明らかに高いグリップレベルを維持していた。
特にFactoryコンパウンドのソフトさが、ウェットな状況下でも食いつきを助けている印象を受けた。ただし、コンパウンドの種類やグローブ(今回はナノフロントを使用)との相性によってウェット時の評価が分かれる可能性もある。この点は留意が必要だろう。
ウェットコンディションにおけるグリップ性能は、ラバーコンパウンドそのものの化学的な特性と、表面テクスチャの物理的な設計という二つの要素が複雑に絡み合って決定される。
GE1 EVOに採用されている「手の回転と逆向きのテクスチャ」や「複数の異なるブロックパターン」は、単にドライ時のグリップを高めるだけでなく、ウェット時でも水分を効率的に排出してくれる。
タイヤのサイプのようにエッジ効果を発揮することで接触面積を確保し、グリップ低下を抑制する狙いがあると考えられる。しかし、ラバーコンパウンド自体の摩擦係数が水分によってどの程度低下するかという根本的な性質も無視できない。
今回のテストでは限定的な状況下での評価となったが、設計上の工夫が実走行において一定の効果を発揮していることは確認できた。例えば、雨のSDA王滝など更に過酷なウェットコンディションでの長時間走行では、さらなる検証が必要となるだろう。
快適性と疲労
GE1 EVO Factoryの振動吸収性は特筆すべきレベルにある。
インナーコアの部位によって肉厚を変化させたダンピング構造と、ソフトなFactoryコンパウンドの相乗効果により、トレイルからの微細な振動から、木の根や岩を乗り越える際の比較的大きな衝撃まで、効果的に吸収・減衰してくれる。
特に、高速で荒れた路面を長時間走行した際に、手に伝わる不快な振動が明らかに少なく、バイクコントロールに集中しやすかった。この振動吸収性の高さは、疲労軽減に大きく寄与していると感じられた。
アームパンプや手のしびれは、長時間のマウンテンバイクライディングにおいて多くのライダーが直面する問題だ。GE1 EVO Factoryは、そのエルゴノミック形状、最適化された圧力分散設計、そして前述の優れた振動吸収性により、これらの問題を大幅に軽減する効果が期待できる。
実際に数時間に及ぶテクニカルなトレイルライドを複数回行ったが、従来使用していたグリップと比較して、アームパンプの発生が明らかに遅れ、手のひらや指先に生じがちだったしびれもほとんど感じられなかった。
これは、よりリラックスした状態で、かつ少ない力でグリップを保持できるようになった結果であろう。GE1 EVOの設計思想が実走行において具現化されている証左と言える。
アームパンプや手のしびれの軽減効果は、単一の設計要素によるものではなく、GE1 EVOに盛り込まれた複数の人間工学的配慮が複合的に作用した結果であると考察できる。
具体的には、第一に、8度のグリップ角度が手首と肘をより自然で負担の少ない角度に導き、適切なライディングフォームを維持しやすくする。
第二に、グリップ全体の独特な形状と外側への広がりが、手のひらにかかる圧力を広範囲に分散させ、特定部位への集中を防ぐ。
第三に、インナーコアのダンピング構造と高品質なラバーコンパウンドが、路面からの不快な振動を効果的に吸収・減衰する。
そして第四に、滑りにくい表面テクスチャが、グリップを握りしめるために必要な力を低減させる。これらの要素が相互に作用し、相乗効果を生み出すことで、長時間の過酷なライディングでも持続的な快適性と高いコントロール性を提供している。
耐久性検証
ラバーコンパウンドの摩耗に関しては、今回の比較的短期間のテストでは顕著な摩耗は見られなかった。
しかし、GE1 EVO Factoryに採用されているFactory Custom Rubberは、その非常にソフトな特性から、標準モデルのGravityControl Rubberと比較して耐摩耗性の面では劣るようだ。
特にハードなライディングを頻繁に行う場合や、体重のあるライダーの場合、摩耗が早期に進む可能性は考慮しておくべきだろう。
グリップエンドとインナーコアの耐久性については、GE1 EVOシリーズにおける最も注意すべき点と言えるかもしれない。GE1 EVOは、グリップエンドがインナーコアと一体化したデザインを採用しており、バーエンドプラグは存在しない。
転倒時や立木などへのヒット時に、グリップエンドのラバー部分が裂けたり、内部のプラスチック製インナーコアが破損したりしやすいという可能性がある。これは、グリップエリアの最大化と軽量化に貢献するシングルインボードクランプ構造の宿命とも言える弱点だ。
グリップ外側端の強度が構造的に犠牲になっている可能性が考えられる。
特にインナーコアの破損は、グリップがハンドルバー上で回転してしまったり、ガタつきが生じたりするなど、グリップ全体の機能不全に直結するため、ユーザーにとっては深刻な問題となり得る。
実際に、軽微な転倒でインナーコアが破損し、グリップが使用不能になる場合がある。この点は、GE1 EVOが誇る優れたエルゴノミクスと快適性という大きな利点に対して、無視できない重要なトレードオフと言えるだろう。
製品を選択する際には、自身のライディングスタイル、転倒の頻度、そして破損した場合の交換コストなどを総合的に考慮する必要がある。
メリットとデメリット
これまでの技術詳細、実走体験を総合的に踏まえ、Ergon GE1 EVOグリップの明確な利点と、考慮すべき潜在的な欠点を以下に整理する。
メリット
Ergon GE1 EVOの最大の利点は、その科学的根拠に基づいた卓越したエルゴノミックデザインだ。
8度のグリップ角度、手のひらの形状に最適化された断面形状、そして効果的な圧力分散機能は、長時間のライディングでも手の疲労、しびれ、さらにはアームパンプといった典型的な問題を効果的に軽減する。
この快適性への貢献は、実際に使用すると恩恵を感じる部分であり、高く評価したい点である。
次に挙げるべきは、高いグリップ力とそれに伴うコントロール性の向上だ。最適化された表面テクスチャは、手の回転を防ぎ、確実なホールド感を提供する。
特にFactoryモデルに採用されるFactory Custom Rubberは、粘りつくような感触で、ドライコンディションはもちろんのこと、ある程度のウェットコンディションでも安定したグリップ力を発揮する。
ライダーに自信と安心感を与え、より正確なバイクコントロールをサポートする。
「Made in Germany」をうたうErgon製品の品質と、細部にまで貫かれた革新的な設計思想も大きな魅力である。ドイツ国内での厳格な管理下における開発・製造プロセスは、製品の高い信頼性を担保している。
また、エンデューロワールドシリーズ(EWS)のプロライダーからのフィードバックを積極的に製品設計に反映させる姿勢は、常に最先端の要求に応えようとするブランドの真摯な取り組みを示している。
さらに、豊富なカラーバリエーションと、レギュラーおよびスリムの2種類のサイズ展開は、ライダーの多様な好みや手の大きさに合わせた選択を可能にする。バイクのカラーコーディネートを楽しみたいライダーや、自身の手のサイズに最適なグリップ径を求めるライダーにとって、この選択肢の多さは大きなメリットとなるだろう。
デメリット
一方で、Ergon GE1 EVOには幾つかの潜在的な欠点も存在するようだ。
走行中に転倒した際に気になったのが、インナーコアおよびグリップエンド部分の耐久性に関する懸念だ。シングルインボードクランプ構造は、グリップエリアの最大化という利点をもたらす反面、構造的にグリップ外側端の強度が犠牲になっている可能性がある。
そのため、転倒時や立木へのヒットなど、グリップエンドに直接的な衝撃が加わった際に、ラバー部分が裂けるだけでなく、内部のプラスチック製インナーコアが破損しやすい可能性がある。
特にFactoryモデルに採用されているFactory Custom Rubberは、その卓越したグリップ性能と引き換えに、標準コンパウンドと比較して摩耗が早い可能性がある、長期的な使用を考慮する上でのデメリットとなり得る。頻繁な交換が必要となれば、ランニングコストの増加は避けられない。
価格設定も、市場の他の多くのグリップ製品と比較して高価な部類に入ることは否めない。高品質な素材の採用や、ドイツでの開発・製造、そして高度なエルゴノミック設計を考慮すれば理解できる面もある。
しかし、消耗品としての側面も持つグリップというパーツにおいて、この価格は一部のユーザーにとっては導入の障壁となる可能性がある。Factoryモデルは更にその傾向が強い。
最後に、エルゴノミックな効果を最大限に引き出すためには、取り付け角度の微調整が非常に重要であるという点も、ある種の「扱いにくさ」と捉えられるかもしれない。
「どの位置が最適なのか?」は最後までわからなかった。今でも良くわかっていない。最適なポジションを見つけ出すまでには、ある程度の試行錯誤と時間を要する場合があり、経験の浅いライダーにとっては少々ハードルが高いと感じられる可能性もある。
インナーコアの破損リスクと製品の高価格という二つの欠点は、ユーザーにとって大きなジレンマを生じさせる要因となり得る。
高価な投資をして手に入れたグリップが、一度の不運な転倒によって使用不能になるかもしれないというリスクは、特にテクニカルなトレイルを攻め、転倒の可能性が低くないライダーにとっては、決して無視できない懸念事項である。
加えて、Factoryコンパウンドを選択した場合の早期摩耗の可能性は、この問題を更に増幅させ、グリップの交換頻度を高め、結果的にランニングコストを押し上げることにもつながりかねない。これらの欠点が複合的に作用することで、製品の長期的な価値提案に影響を与えている現状は否定できないだろう。
まとめ:科学的根拠をグリップする
Ergon GE1 EVOは、その科学的根拠に基づいた精巧なエルゴノミックデザインにより、特にエンデューロやオールマウンテンといったアグレッシブなマウンテンバイクライディングにおいて、卓越した快適性とコントロール性を提供するグリップだ。
特徴的な8度のグリップ角度、手のひら全体への最適化された圧力分散、そして高品質なラバーコンパウンドは、ライダーの疲労軽減とパフォーマンス向上に大きく貢献する可能性を秘めている。
本製品は、自身のライディングスタイルや使用する機材に対して深い理解とこだわりを持ち、製品の細部にまで目を向けるライダーにとって、その真価を最も発揮するだろう。
また、最新技術や革新的な設計に対して感度の高いアーリーアダプターにとっても、GE1 EVOは魅力的な選択肢となるはずだ。特に、長時間のライディングにおける手のしびれやアームパンプといった具体的な問題に直面しているライダーにとっては、試す価値のある解決策の一つとなり得る。
最終的な見解を述べるならば、Ergon GE1 EVOは、ハンドルグリップという比較的小さなコンポーネントが、いかにライディング体験全体を大きく左右し得るかを明確に体現する製品だといえる。
その設計には、エルゴノミクスへの徹底した追求が隅々にまで見て取れ、その効果は多くのプロライダーによって実証されている。
しかし、インナーコア部分の耐久性に関しては、特に転倒の頻度が高いアグレッシブなライダーや、コストパフォーマンスを重視するユーザーにとっては、慎重に検討すべき課題として残る。
Factoryモデルは究極のグリップ性能とフィーリングを求める競技者向けであり、標準のEVOモデルは性能と耐久性のバランスに優れた選択肢と言えるだろう。
最終的には、自身のライディングスタイル、走行頻度、予算、そして何よりも快適性に対する個々の要求度を総合的に勘案し、最適なモデルを選択することが肝要である。
Ergon GE1 EVOシリーズの評価は、マウンテンバイクにおける「接点(コンタクトポイント)」の重要性を改めて浮き彫りにしたと言える。
ハンドルグリップ、サドル、ペダルは、ライダーとバイクという二つの個体をつなぐ数少ない貴重なインターフェースであり、これらのコンポーネントの最適化が、ライディングのパフォーマンスと快適性に直結することは論をまたない。
Ergon社がGE1 EVOで示した、科学的知見とライダーの実体験に基づく人間工学の深化というアプローチは、今後もバイクコンポーネント設計における重要なトレンドであり続けることを強く示唆している。