シマノSPDをMTBで1シーズン使ってきたのだが、シクロクロスに投入したところ全く合わなかった。良くも悪くもシマノSPDはONとOFFがはっきりしていたし、TIME ATACは曖昧ながらもクリートキャッチが容易で泥に強いペダルだと改めて気付いた。
結論として、TIME ATACはクリートキャッチが苦手な方や、ドロ詰まりを避けたい方、泥が詰まってもクリートがはまってくれる事を期待する方にお勧めだ。特に、クリートがはまるタイミングが上死点から下死点まで幅広い。
ミドルグレードXC6の重量も294gでXTR PD-M9100よりも軽い。メンテナンスも容易でベアリングも規格品のためNTNなどに打ち替えることができる。しかし、ATACのクリートは摩耗が早い。このようにメリットもあればデメリットもあるのがTIME ATACペダルだ。
今回は、TIME ATAC XS(ダブルバネ)時代から10年以上使いながらやっとその良さに気づいたTIME ATAC XCのインプレッションをお届けする。
クリップイン
まず初めに、クリップイン(クリートをはめる)はライダーのクセや技術、泥の付着具合によって変わる。という前提の上、この章を読み進めていただきたい。
突然だが、SPDペダルを使うまで、ずっと当たり前だと思っていて気づかなかったことがある。
TIME ATACペダルは、クリップインできる機会が多い。ライダーをクランク側の側面から見たとき、時計の針で例えると11時から7時の間どこでもクリートをはめることができる。対して、SPDは4時から6時の間でしかはめられなかった(私の場合は)。
XCOでは気づかなかったが、シクロクロスでシケインを超えたあとレース中はなおさらクリップインするタイミングが狭まってくることがわかった。ATACは12時と6時、SPDは6時だけだった。
XCOで1シーズンSPDを使って慣れていたつもりだったが、SPDはシケインを超えたあと6時の位置で真下に踏み込まなないとまったくはまらなかった。
ATACはクリップインせずとも、ペダリングを無理やりしているとハマってくれる。クランクが1回転するうち、クリップインのチャンスは多ければ多いほど良い。単純なメリットだ。
SPDはかかと側のバネが動くことでクリートがハマる。ATACはつま先側のバネが動くことでクリートがハマる。構造の違いもクリップインのしやすさに影響しているかもしれない。
クリップアアウト
ATACはクリップアウトするまでに猶予がある。
- SPD:一気にバチンと外れる。1か0か。
- ATAC:ゆっくり粘りながら外れる。
好みが分かれる話だが、クリップアウトするまでのタイミングが掴みやすいのはATACだった。SPDは一気に外れる。クリップインと同じく1か0かはっきりしている。上級者向きかもしれない。
ATACは粘りながら、ヌルっと外れる。外れるまでに粘るため粘る傾向をつかんでくると、クリートが外れる手前で寸止めしつつ、シケインの手前で一気に外す方法ができる。シマノはペダルが水平になりながら外れるが、ATACはペダルがかかと側に下りながら、こぼれ落ちるように外れる。
何度も言うように、10年以上TIME ATACを使ってきたため慣れているということもある。しかし、MTBのXCOでは全く不便さを感じなかったSPDでも、クリップインとクリップアウトを毎周回繰り返すシクロクロスとでは手数も違うので全く異なるペダルの印象を受けた。
シケインに突入する際、クリートの外しやすさもATACのほうがやりやすかった。
泥に強い
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ATACは泥に強い、昔からサイクリスト達から言われてきた。SPDを使ってみて、なおさら理解できた。ATACには「セルフクリーニング機能」が備わっている。ペダルを蹴る方向にバネと金具が動くことで自動的に泥を排出する仕組みになっている。
SPDの場合は、ATACとは逆でつま先側の金具が動かないように固定されている。そのため、泥がどんどん奥に押し詰められて固まっていく宿命がある。最近のM9100はクリアランスが広くなり少しはマシになったかと思ったが、マッドコンディションのXCOで使ったところ全く役に立たなかった。
ATACは泥がついていてもクリートがハマるときに泥を押し出してくれる。そして、12時や6時で「適当に」ハマってくれる。MTBのレースで粘土質の泥がついたときのSPDは、もはやクリップ式ペダルとして意味をなさないただの重りだった。
ドロのコンディションでATACの快適さに慣れてしまっていたがゆえ、SPDは上手くはめられなかった。ただし、何度も言うようにクリップインとクリップアウトはライダーのテクニックやクセで変わってくる。両方ためした結果TIMEのほうが相対的に泥詰まりに強かった。
フロート機能
ロードもオフロード用も、TIMEのフロート機能も素晴らしい。私はコーナー中や下っている最中にかかとを内側に入れたり、外側に入れたりしてバランスをとるライディングの「クセ」がある。
チェーンステーやクランクアーム、シューズのかかとの側面が剥がれるほど顕著なクセがあるのだが、このような動きをする場合、SPDは相性が悪い。SPDを使っていたときはライディング中になんども外れることがあった。
SPDの開放角度を超えた足の遊びだったようで、許容できる角度を超えていたようだ。ATACはペダルの上でふわふと浮いたようなフロート機能と呼ばれる固定方法が採用されているため、粘りながら保持されるという独特のホールド性能がある。
足を捻りすぎて外れても、粘りがあるためすぐさまリカバリーしてクリップインするという使い方もできる。SPDの場合は一度外れてしまうともう一度クリップインのタイミングと動作が必要になってくる。
何度も言うようにライダーのクセで使い方は分かれると思うが、フロート機能は複雑な脚と足の動きが大きければ大きいほどその恩恵を得られると思う。
膝に優しい
フロート機能の利点は膝への負担の少なさだ。SPDで足の動き、特にかかとの横方向の動きが多い場合は膝側にしわ寄せが来て負担がかかることがわかった。膝の痛みがシクロクロスで出たことはなかったが、SPDを使うことで膝に初めて痛みがでたため使うのをやめた。
これが、SPDを辞めるきっかけだった。
何度も言うようにライダーのクセでSPDが合うかATACが合うのかは分かれると思う。フロート機能は非常に優秀で、足の横方向の動きが多いライダーは動きを妨げないATACのほうが合っていると思う。
一方で、垂直に上手くペダリングできる方や、ライディング中に母指球を中心にかかとが動かないライダーはSPDのほうがロスがなく動かないので合うだろう。
ATACは万人にあうというわけではなく、ライダーのクセによっては合う合わないがある。
スタックハイト
ATACはスタックハイトが高い。SPDはスタックハイトが低い。シマノ SPDと同じくATACもモデルによってスタックハイトが異なっている。SRAMがTIMEペダルの販売を始めてから3種類になった。モデル別のスタックハイトは以下の通り。Qファクターは54mmで共通だ。
- ATAC XC 12:18.3mm
- ATAC XC 10:18.3mm
- ATAC XC 6:19.0mm
一方で、シマノSPDのスタックハイトは以下の通り。
- PD-M9100:15.1mm
- PD-M8100:16.5mm
実際にPD-M9100からTIME ATAC XC6に変更したのだが、違いは正直わからなかった。ATACのほうがわずかに高いかな、と思うだけでATAC→SPD、SPD→ATACに変えても違和感がなかった。
しかし、ロードとトラックの場合はスタックハイトの違いが顕著にわかる。オフロード用の場合はそれほど違いがわからないのはシューズの剛性や、タイヤの空気圧など、全体的に縦方向のコンプライアンスに柔軟性があるのも要因かもしれない。
私は普段トラックバイクやロードに乗ることが多く、これまでスタックハイトが高くなることに対してこれまで拒否感があったのだがオフロード用機材はそれほど気にする必要はなさそうだ。
真鍮製クリート
真鍮製クリートは良くも悪くも柔らかい。
ATACのクリートは真鍮鋼合金で、ペダルのスプリング部分の金具よりも柔らかい。長時間(3シーズン、30レース+練習)使い続けるとクリートが負けて摩耗する。その結果、クリップの着脱がやりやすくなるが、ペダルが全方向に大きく動くため、安全性が低下するのがデメリットだ。
しかし、このあたりが出た状態がすこぶる調子が良い。ようは、好みの問題だ。
メンテナンスが容易
TIMEのATACペダルはベアリングの交換が簡単だ。ベアリングは既製品なのでNTNなどに交換することも可能だ。そして、プラスチック製のブッシュはニードルベアリングに変更することが可能だ。モデルによって使っているブッシュも異なるのでサイズを必ず確認しほしい。
¥298
ブッシュは回転しないただのプラスチック製の部品だ。シャフトとの間で摩耗が発生する。抵抗が増すばかりでなく、長期間の運用しているとブッシュがやせ細ってガタが出てくる原因にもなる。
ニードルベアリングに変更したほうが良いだろう。
ペダルスペーサー
SRAMがTIME ATACを販売するようになってから、詳細な公式マニュアルが作成され入手できるようになった。改めて基本的な事に気づいたのだが、ペダルワッシャーを挟むことが公式見解になった。
通常、クランクアーム側にぬすみ加工と呼ばれるへこみがある場合はペダルワッシャーを使用する。クランクアームとペダルのネジ山の密着調整の為にペダルワッシャーを使うのだがTIME ATACはクランク側のぬすみ加工を問わず、ワッシャーを必要とする指示になっている。
ワッシャーはペダルに付属していないため別途用意する必要がある。様々な製品が出ているが、国産ブランドのMKS(ミカシマ)のペダルワッシャーが良い。精度も剛性も、クランク側へのフィットも大変すばらしい品だった。
ワッシャーは4枚入っているため、バイクを複数持っている場合や、Q-ファクターを広げたい場合に重宝する。私はシクロクロスバイク2台、ロードバイク1台、マウンテンバイク2台に取り付ける必要があるため4セット買った。
ペダルワッシャーは取り付けるときだけでなく、取り外しの際も固着を防ぐことができるため必ず使用しておきたい部品のひとつだ。
¥305
デメリット
ここまでTIME ATACを推してきたが欠点や注意点もある。
- 左側だけごくわずかなガタが生じる(SRAM買収後のATAC B1でも発生)
- カバーを締めすぎると削れてペダルにガタが出る
- 白ボディは地雷
なぜか左側のペダルだけごくわずかな0.1mmほど上下に動くガタが生じる。SRAMが販売するようになったATAC(B1)の新品でもこの事象を確認した。TIMEが販売していた時代のATAC XC8でも同様の事象が発生している。何なら旧型ボディのATAC XSでもだ。
この事象の原因は不明なのだが、恐らくペダルボディにシャフトを固定する方法にあるように思う。外側のカバーを外してから、シャフトを押し込むとボディの奥にどんどん入って行ってしまう。
TIME ATACのシャフトはカバーが”どんつき”になるように設計されており、このどんつきの位置でシャフトとペダルボディの位置関係を調整している。そのため、カバーの締め込み量がベアリングの玉当たり調整と同じような役割をしているのだ。
その結果、カバー部分を締め付けすぎてしまうとカバー内部の接触部分が摩耗してきてペダルとシャフトにガタが出るようになる。したがって、中古のATACペダルは避けたほうが良いかもしれない。もし可能なら、カバーを開封したことがあるか確認したほうがいい。
他のデメリットとしては、白いボディのATACペダルはなぜか泥掃けが悪かった。ボディ自体がざらざらしていることが原因なのか、白色を着色する材料が問題なのかは不明なのだが泥掃けも悪く、ペダルキャッチするときにザラザラとして、サメ肌を触るような気持ち悪い感覚があった。
白ボディは泥が詰まらなくとも、シューズとの間で軋轢が生じて「キュッ」という音が出る。もう販売はされていないがATACの白ペダルは絶対に避けたほうがいい。過去に安かったので2つ買ったがすぐに手放した。
金属製のシマノSPDペダルであればこんなことは起きないのだが、樹脂製のATACペダルには個体差や構造上避けられないデメリットがある。それらを理解しておく必要がある。
まとめ:合う人には最高のオフロードペダル
TIME ATACは膝に優しく、クリップインとクリップアウトがしやすい。そして、泥でクリートを何が何でもはめたい方に合うとおもう。逆に、クリートの「ハマった感」やホールド感がしっかりしているほうが好きな方にはあわない。ONとOFFの明確な違いをクリートに求める場合はSPDのほうが合うと思う。
ペダルは使い慣れたら何でも使いやすいのだが、ライダーのクセや相性によって合う合わないがある。私の場合はTIME ATACが相性が良く、SPDはシクロクロスで特に相性が悪かった。MTBの場合は問題なかっただけに、競技の違いでペダルの奥深さを知ることができた。
当たり前だと思って気づかなかったが、クリートがはまるタイミングが上死点から下死点まで幅広い。踏み込んでいる際にハマってくれる猶予が長いのはシクロクロス向きだと思う。
SPDは下死点だけであったり、ある局所的なポイントだけでしかハマらない傾向にある。SPDに慣れている方であれば、色々なポイントではめることができるのかもしれないのだが私はうまくできなかった。ペダルの差というよりも、ライダーのクリートをはめるスキルの違いも大きいだろう。
それらを差し引いても、シクロクロス、グラベル、MTBで使うのなら私の場合はTIME ATACが好みだ。それが結論である。
私は「タイム真理教」から一度解脱したが、どうやらTIME ATACの設計思想から抜けだせず、また入信してしまった。SPDに1シーズン浮気して、ATACの良い部分と悪い部分に改めて気づけたことは大きな収穫だった。
最後は自分で試して納得したペダルを使うことが望ましい。その一つの候補として、TIME ATACは一度試す価値があるペダルだ。もしかしたら、あなたもTIME ATACから抜け出せなくなるかもしれない。