ドイツのSchwalbeが市場に投入したハイパフォーマンス・チューブレスタイヤ「Pro One Tubeless Easy (TLE)」。単なる速さの追求ではなく、「Souplesse(スープレス)」という思想、すなわちチューブラーのような「しなやかさ」を核とした設計にある。
Schwalbe Pro One TLEは、実験室での純粋な転がり抵抗の数値を追い求めるのではなく、実際の路上で体感できる乗り心地と、チューブレスタイヤの普及を阻んできた装着の煩雑さを解消するユーザーフレンドリーな設計思想を最優先に掲げたハイパフォーマンスタイヤである。
Schwalbe Pro One TLE:技術仕様
Schwalbe Pro One TLEの性能特性を理解するためには、その根幹をなす独自の構造と素材科学を分析することが不可欠である。ここでは、タイヤの設計思想を構成する主要な技術要素を詳細に解説する。
「スープレス・カーカス」構造の哲学
Pro One TLEの最大の特徴は、Schwalbeが「スープレス・カーカス」と呼ぶ独自の構造にある。
これは「ターンアップ」工法と呼ばれる製造技術を応用したもので、トレッド下には2層の127 TPIカーカスを、サイドウォールには3層のカーカスを重ね合わせることで、優れた柔軟性を実現している。
Schwalbeの技術文書によれば、この設計の明確な目標は「比類なきほどしなやかで快適なタイヤ」を生み出し、クラシックなチューブラータイヤが持つ「絹のように滑らかな挙動」を再現することにある。この構造こそが、Pro One TLEの乗り心地を決定づける核心部分である。
ADDIX Raceコンパウンドの科学
Pro One TLEには、最新かつ最高品質のポリマーから作られた「ADDIX Race」マルチコンパウンドが採用されている。このコンパウンドは、シリカの充填レベルを大幅に引き上げており、その混合プロセスはコンピュータによってリアルタイムで制御され、一貫した品質を保証する。
トレッド中央部には転がり抵抗の低減を目的としたコンパウンドが、ショルダー部にはコーナリンググリップを最大化するための異なるコンパウンドが配置されている。このデュアルコンパウンド設計により、転がり抵抗や耐久性に悪影響を与えることなく、コーナリンググリップを向上させたとSchwalbeは主張している。
V-Guard耐パンクテクノロジー詳解
トレッド下には、幅14mmの「V-Guard」耐パンクベルトが配置されている。このベルトは、防弾・防刃ベストにも使用される特殊開発のハイテクポリマー繊維で構成されており、軽量でありながら優れた耐切創性と耐パンク性を発揮する。
V-Guardの設計思想は、タイヤの転がり抵抗やしなやかさに影響を与えることなく、高いレベルの保護性能を提供することにある。これは、パフォーマンスと耐パンク性という、タイヤ設計における古典的な二律背反を解決しようとするSchwalbeの技術的アプローチを象徴している。
公称値と実測値:重量とタイヤ幅の現実
公称値と実測値には、常に一定の差異が存在する。700x28Cモデルは公称280gに対し、313.5gだった。個体差が見られる。実際に、内幅21mmのリムに装着した28Cタイヤは、28.4mmから29.0mmの幅に収まる。
客観的データによる性能評価
設計思想や技術仕様が実際の性能にどう結びつくのかを検証するため、標準化された実験室でのテストデータを分析する。ここでは、転がり抵抗、耐パンク性能、ウェットグリップという3つの主要な性能指標について、競合製品との比較を通じてPro One TLEの客観的な実力を評価する。
転がり抵抗:ワット数で見る性能差
転がり抵抗は、タイヤの効率性を測る最も直接的な指標である。独立機関Bicycle Rolling Resistanceによるテストでは、空気圧5.5 BAR (80 psi)の条件下で、Schwalbe Pro One TLE (25C)の転がり抵抗は12.5ワットと測定された。
同条件でテストされたContinental GP5000 S TR (25C)は10.1ワットを記録しており、Pro One TLEはGP5000 S TRに対して約2.4ワット、率にして約24%高い転がり抵抗を示している。
タイムトライアルに特化したContinental GP5000 TT TR (28C)は、5.0 BAR (72 psi)で8.3ワットという極めて低い数値を記録しており、純粋なスピード性能では別次元の存在であることがわかる。
耐パンク性能:数値が示す堅牢性
耐パンク性能テストでは、Pro One TLEが優れた結果を示している。
トレッド面の耐パンクスコアにおいて、Pro One TLE (25C)は43ポイントを獲得した。これに対し、GP5000 S TR (25C)は36ポイント、GP5000 TT TR (28C)は33ポイントであり、Pro One TLEのV-Guardベルトが実験室レベルでの穿刺に対して高い抵抗力を持つことが証明された。
この性能差は、トレッドの厚さにも関連している。Pro One TLEのトレッド厚が2.7mmであるのに対し、GP5000 S TRは2.3mm、TT TRはわずか1.9mmである。このデータは、Pro One TLEが物理的な保護層において競合よりも堅牢な設計であることを示している。
ウェットグリップとハンドリングの指標
静的なウェットグリップテストにおいて、Pro One TLE (25C)は64ポイントを記録した。GP5000 S TR (25C)は66ポイント、同28Cモデルは70ポイントと、僅かに高いスコアを示している。GP5000 TT TR (28C)は66ポイントであった。
これらの数値は、3つのタイヤがいずれも高いレベルのウェットグリップ性能を有していることを示唆する。
ドイツの権威ある自転車雑誌『TOUR Magazin』による32mm幅タイヤのテストでは、Pro One TLEのグリップ性能が「最高」と評価される一方、GP5000 S TRは「グリップの限界点が高く、滑り出しにくい」と評されており、両者がウェットコンディションにおけるトップパフォーマーであることが裏付けられている。
主要性能指標 比較表
以下の表は、主要な競合製品との客観的性能データをまとめたものである。この一覧により、各タイヤの長所と短所、そして設計上のトレードオフが一目でわかる。
| 性能指標 | Schwalbe Pro One TLE (25C) | Continental GP5000 S TR (25C) | Continental GP5000 TT TR (28C) |
|---|---|---|---|
| 転がり抵抗 | 12.5 ワット | 10.1 ワット | 8.3 ワット |
| トレッド耐パンクスコア | 43 ポイント | 36 ポイント | 33 ポイント |
| ウェットグリップスコア | 64 ポイント | 66 ポイント | 66 ポイント |
| 実測重量 | 263 g | 255 g | 250 g |
| トレッド厚 | 2.7 mm | 2.3 mm | 1.9 mm |
出典: Bicycle Rolling Resistance
これらのデータは、明確なトレードオフを示している。GP5000 S TRは転がり抵抗で優位に立ち、Pro One TLEは耐パンク性能で勝る。この数値上の違いが、実際の走行体験にどのように影響するかを理解することが重要である。
<p.実験室の滑らかなドラム上でのテストは、変形の少ない硬いタイヤに有利に働く傾向がある。
しかし、現実の不整地を含む路面では、しなやかなタイヤが微細な凹凸を吸収し、車体の振動によるエネルギー損失(サスペンションロス)を低減させることで、実質的な走行抵抗を抑える可能性がある。
データ上ではPro One TLEの転がり抵抗はGP5000系には及ばないが、不利は路上では感じにくく、パワーメーターを用いた実走比較では実験室のデータほどの差は体感できない。
実走での体験と品質
技術仕様と実験データが示す性能は、最終的にライダーの実走行体験によって評価される。ここでは、実走からのフィードバックを統合し、Pro One TLEが路上でどのような品質を提供するかを明らかにする。
装着作業の容易さ:「Tubeless Easy」の真価
Pro One TLEが最も高く評価されている点の一つが、その装着作業の容易さである。「Tubeless Easy (TLE)」の名が示す通り、このタイヤは市場で最もユーザーフレンドリーなチューブレスタイヤの一つとして広く認識されている。
タイヤレバーを使わずに手でリムにはめることができ、コンプレッサーやブースタータンクなしで、通常のフロアポンプだけでビードを上げられる。これは、装着が困難であることで知られるContinental GP5000 S TRとは対照的である。
Schwalbe自身も、リムメーカーとの長年の協力関係、製造公差の最適化、そしてビードに設けられた特殊なシーリングリップがこの容易さを実現したと説明している。
路上でのインプレッション:「スープレス」の感覚
路上での走行フィールは、Pro One TLEの核心的な価値を最もよく表している。語るべきは、その卓越した乗り心地である。浮力があり滑らかでスムーズであり、路面からの微振動や衝撃を効果的に吸収するしなやかさがある。
この感覚は、Schwalbeが掲げる「スープレス」というコンセプトが、単なるマーケティング用語ではなく、実際に体感できる性能であることを証明している。
また、Pro One TLEは低い空気圧で運用した際にも、サイドウォールが腰砕けになるような挙動を示さず、正確でコントロールされたハンドリングを維持する。これにより、ライダーは快適性とグリップを最大限に引き出しながら、走行安定性を犠牲にすることなくライディングに集中できる。
コーナリングの信頼性とグリップ性能
Pro One TLEのグリップ性能は、コンディションを問わず高い信頼性を提供する。ADDIX Raceコンパウンドとしなやかなカーカス構造の組み合わせにより、路面との接地感が豊かで、コーナリング中にタイヤがどのように変形し、グリップしているかを的確にライダーに伝える。
ウェット、ドライいずれの路面でも、ライダーに高い安心感を与え、自信を持ったコーナリングを可能にする。絶対的な限界域での挙動がVittoria Corsaなどに比べてわずかに曖昧である印象を受けたが、全体としてはグリップとコントロール性能は高い。
競合分析:Pro One TLE vs GP5000シリーズ
Pro One TLEの市場における位置付けを明確にするため、主要な競合製品であるContinental GP5000シリーズとの直接比較を行う。これにより、各タイヤがどのようなライダーに最適であるかが明らかになる。
オールラウンダー対決:Pro One TLE vs GP5000 S TR
この2つのタイヤは、ハイパフォーマンス・オールラウンダーという同じカテゴリーに属しながら、その設計思想は大きく異なる。選択は、ライダーが何を最優先するかという価値観のトレードオフに集約される。
- スピード:実験室のデータでは、GP5000 S TRが約2.4ワット優位に立つ。測定可能なあらゆるワットを削りたい純粋なレーサーにとっては、GP5000 S TRが論理的な選択となる。
- 乗り心地と快適性:Pro One TLEが明確に優れている。そのしなやかな乗り心地は、長距離での疲労を軽減し、荒れた路面での安定性を向上させる。対照的に、GP5000 S TRはより硬質で、路面からの情報をダイレクトに伝える乗り味であると評されることが多い。
- 装着作業:Pro One TLEが圧倒的に容易である。チューブレスのセットアップに不安を感じるライダーや、メンテナンスの手間を最小限に抑えたいライダーにとって、これは決定的な利点となる。
結論として、GP5000 S TRは、最大のスピードと実績ある耐久性を求め、困難な装着作業を厭わないライダー向けのタイヤである。一方、Pro One TLEは、卓越した乗り心地とストレスのないメンテナンス性を重視し、わずかなスピード差を許容できるライダーにとって最適な選択肢となる。
Schwalbe Pro One TLEのメリットとデメリット
これまでの分析に基づき、Schwalbe Pro One TLEの利点と考慮すべき点を簡潔にまとめる。
主な利点
- 卓越した乗り心地:「スープレス・カーカス」構造がもたらす、非常にしなやかで快適な走行感。
- 簡単な装着作業:市場で最も取り付けが容易なチューブレスタイヤの一つであり、ユーザーフレンドリーである。
- 優れたグリップ性能:ドライ、ウェットを問わず、高い信頼性と安心感を誇るコーナリンググリップ。
- 高い耐パンク性能 (ラボテスト):標準化されたテストにおいて、主要な競合製品を上回る穿刺耐性スコアを記録。
考慮すべき点
- 転がり抵抗:実験室のテストでは、Continental GP5000 S TRに比べて転がり抵抗が高い。
- 実走での耐久性:ユーザーレビューによると、特に荒れた路面での耐カット性や耐摩耗性に懸念があり、評価が分かれる。
- 重量の個体差:公称値からの重量のばらつきが一部のユーザーから報告されている。
- 価格:ハイエンドモデルとして、日本国内での販売価格は1本あたり12,000円から14,000円台と比較的高めに設定されている。
まとめ|チューブラーのあの感覚を
Schwalbe Pro One TLEは、その設計目標である「快適性とユーザビリティを中心としたエリートレベルのパフォーマンス体験の提供」を見事に達成した、巧みに設計されたタイヤである。
客観的なデータは、滑らかなドラム上での計測において最速のタイヤではないことを示しているが、その「スープレス」構造は、現実の路上での明確な乗り心地の利点を提供している。
そして、その卓越した装着の容易さは、チューブレス技術に関連する大きな障壁を取り除き、この技術の普及に貢献する重要な要素である。
Schwalbe Pro One TLEと、その主要な競合製品であるContinental GP5000 S TRのどちらを選択するかは、あなた自身の優先順位を明確に評価することにかかっている。
もしあなたの目標が、レースのために定量化可能なあらゆるワットを最適化することであり、挑戦的な装着プロセスを受け入れる準備ができているならば、GP5000 S TRがベンチマークであり続ける。
しかし、もしあなたが長距離ライドでの疲労を軽減する崇高で快適な乗り心地を最優先し、シンプルでストレスのないメンテナンス体験を重視するならば、Schwalbe Pro One TLEが優れた選択となる。
あなたのライドを真に向上させるものが何か、つまり、画面上の数値なのか、それとも路上での感覚なのかを自問し、その目的に合わせて設計されたタイヤを選択すべきである。













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