前編の『スペシャライズド S-Works EPIC 8 XC界のヒエラルキーを破壊するモンスターマシン:前編』では、S-WORKS EPIC 8の技術的特徴や、詳細な改良点について解説した。後半は、実際にレースで使用し気付いた点や、上り、下りなどで試したインプレッションをお伝えする。

Specializedが満を持して発表した「S-Works EPIC 8」は、最先端技術と革新的な設計思想を融合させ、XCレースの常識を覆す可能性を秘めている。RockShox Flight Attendant電子制御サスペンション、進化したジオメトリ、そして徹底的な軽量化。勝利を追求するために生まれたS-Works EPIC 8はSpecializedが産んだモンスターだ。
- 革新的な電子制御サスペンション: RockShox Flight Attendant電子制御サスペンションを搭載し、0.002秒間隔で路面状況に自動で適応し、常に最適なパフォーマンスを発揮。
- 進化したジオメトリとフレーム: 「プログレッシブXCレースジオメトリ」を採用し、より長いリーチと寝かせたヘッドチューブアングル(フリップチップで調整可能)を実現。フレームは前世代より76グラム軽量化され、S-Worksモデルで1,795グラム。
- 120mmトラベルのサスペンション: 前後ともに120mmのサスペンショントラベルを備え、テクニカル化する現代のXCコースに対応。
- 統合されたワイヤレスエコシステムと実用機能: SRAM XX SL Eagle AXSトランスミッション、AXSドロッパーポスト、Quarqパワーメーターなどが連携するワイヤレスシステムを搭載。SWAT 4.0ダウンチューブストレージやステアリングストッパーといった実用的な機能も備えている。
- ハイエンドなコンポーネント構成: Roval Control SL一体型カーボンコックピットやRoval Control SLホイール、SRAM Level Ultimate Stealth 4ピストンブレーキなど、最高級のパーツで組まれている。
インプレッション
様々な先進的な機能を搭載したS-Works Epic 8であるが、実際の走行性能はどうか。
スペック上は最高のコンポーネントがアッセンブルされており、これ以上のアップグレードは事実上望めないほどの完成度である。 『S-Works』の名に恥じないバイクに仕上がっていることは間違いない。
Epic 8を購入してから、トレイルを走り込み、複数のレースに出場した。そこで明確に理解したのは、このバイクは『速い』という一言に尽きるということである。 その速さを生み出しているのは、Flight Attendantシステムだけが要因ではない。
Epic 8の考え抜かれたジオメトリ、硬すぎない絶妙なフレーム剛性設計など、全ての要素がバランスを取りながら連携し合うことで、全体のパフォーマンスを押し上げている。
Epic 8をテストした際の筆者のセッティングは以下の通りだ。最適なセッティングを見出すまでには時間を要したが、約2か月間、ホームコースである菖蒲谷トレイルで乗り込み、ある程度納得のいく形になった。
- フロントサスペンション(エア圧):58 psi
- リアサスペンション(エア圧):132 psi
- フロント リバウンド(伸び側減衰):12クリック戻し
- リア ローピードリバウンド(低速伸び側減衰):8クリック戻し
- フロントタイヤ(エア圧):1.20 bar
- リアタイヤ(エア圧):1.28 bar
- フリップチップ:Low(ヘッドアングル 65.9度)
革新のジオメトリ
これまで購入したS-WORKS EPICは、本作EPIC 8を合わせると合計3台だ。SサイズのEPIC(Gen5と6)に乗っていたが、EPIC 8ではMサイズを選択した。
これには明確な理由がある。 インプレッションに入る前に、EPIC 8の重要な要素であるジオメトリから話を始めたい。ジオメトリは前作から大幅に変更されている。

2016年頃に購入したS-WORKS EPIC(Gen.5)、EPIC Gen.6も購入している。
スペシャライズドが「Progressive XC Race Geometry」と呼ぶこの設計思想は、リーチが長く、ヘッドアングルが寝ており(緩やか)、シートアングルが立っている(急こう配)のが特徴である。
特にリーチの拡大は顕著だ。リーチを長くし、ステムを短くする傾向はスペシャライズドのバイクに限った話ではなく、他社のバイクも同様にリーチ設計を変更してきている。
以前、別のメーカーの担当者に「最近のマウンテンバイクはなぜリーチが長くなっているのか」と質問したことがある。その際の回答は「バイクの安定性向上と、短いステムを使用するため」というものであった。
トレイルバイクでは俊敏なハンドリング性能を求めるため、30mmや40mmといった極めて短いステムを選択することが増えているようである。 短いステムを使うのは、拡大されたリーチ分を相殺するためかと当初考えていた。
しかし、実際には「短いステムを使うこと」が目的の一つであり、そのためにリーチを調整するという逆の考え方もあるようだ。クイックな操作性が求められる現代のライディングスタイルも影響しているのだろう。
その流れはトレイルバイクで特に顕著であるが、XCバイクにも影響を与えつつある。 プロライダーのニノ・シューター選手は、かつて110mmのステムを使用していた時代もあるが、年々短縮傾向にあり、2022年は90mm、2024年シーズンは80mmまで短くなっている。
その分、ハンドル幅はワイド化している。Cannondaleファクトリーレーシングのサイモン・アンドレアッセン選手やチャーリー・アルドリッジ選手のステムに至っては60mmである。
それゆえ、スペシャライズドもこのトレンドを的確に捉えており、S-Works Epic 8のステム長は、S、M、Lの全サイズで60mmに設定されている。初めてスペック表を見たとき、「ステムが短すぎないか?」という印象を抱いた。
EPIC 8のリーチは、Sサイズで420mm(前作比+5mm)、Mサイズで450mm(同+5mm)、Lサイズで475mm(同+5mm)と、それぞれ5mm延長されている。たった5mmか、と思うかもしれないが(筆者も当初はそう感じた)、実際に乗ってみると、このジオメトリ設計の意図が明確に理解できた(詳細は後述)。
バイクの安定性を高めるためのリーチ延長と、クイックなハンドリングを引き出すためのショートステム化は、今後さらにスタンダードになっていくと考えられる。これらのトレンドを踏まえた上で、筆者の身長(169.5cm)からどのサイズのバイクを選ぶべきかを検討した。
スペシャライズドが公表している身長別の推奨サイズチャートは以下の通りである。
- S:157-165cm
- M:165-178cm
- L:178-185cm
この表記通りにバイクサイズを選べば基本的には問題ないが、スペシャライズドの米国ウェブサイトには、より詳細にバイクサイズを選択するためのツールがある。
身長と股下の長さを入力すると、推奨サイズを提案してくれる仕組みである。 筆者の場合、身長は169.5cmだが、股下が比較的短い体型のため、SサイズとMサイズの中間がベストサイズという結果になった。
このような場合、ロードバイクであれば小さい方のSサイズを選ぶことが多いが、マウンテンバイクの特性とEPIC 8のジオメトリを考慮し、今回はMサイズを選択した。 その理由は、試乗した際に最もフィット感が高かったのがMサイズだったからである。
Sサイズは窮屈で小さく感じられ、標準装備の60mmステムでは短すぎ、あと20~30mmは長くする必要があると感じた。一方、Mサイズでは60mmステムでジャストサイズのライディングポジションを出すことができた。
先ほどの「ステムが短すぎやしないか?」という疑問は、筆者にとって適正サイズであるMサイズにおいて、60mmステムがジャストフィットだったことで解消された。ただし、Mサイズで懸念していたのは旋回性能である。
一般的に小さいSサイズの方が小回りは利き、トレイルでの俊敏な動きを期待するならSサイズが良いと考えていた。 しかし、実際にEPIC 8のMサイズを使用してみると、その操作性の高さに感銘を受けた。
ステムが短くなったことによって過敏な動きになるかと思いきや、むしろ落ち着きがあり、狙ったラインに対して素直にバイクをコントロールできる正確性があった。 詳細なコントロール性能や安定性については、この後のセクションで詳しく記述する。
「認知」を速さに。
Epic 8は、ライダーの走りの癖やパワープロファイルを常に収集している。Flight Attendantシステムは、過去7回のライディングデータを蓄積・分析し、最適なサスペンションポジションや効率の良い走りができるように学習・進化していくのである。
Epic 8は乗れば乗るほど賢くなり、ライダーの特性を理解していく。
その賢さが顕著に現れたのは、レース序盤の激しい展開の中で見せたバイクの挙動変化である。XCレースはスタートと同時に最大パワーでスプリントを行い、最初のコーナーで激しいポジション争いが繰り広げられる。
この状況で、Epic8はサスペンションがロック状態(またはそれに近いSprint-On-Lockモード)が最適であると判断し、最大効率のセッティングに速やかに移行する。
登り区間でもロック状態が続くが、リアのトラクションが要求されるような荒れた路面や急勾配になると、自動的にペダルモード(Magic Middle:ショックがわずかに動作し路面追従性を高めるモード)に移行する。
本領を発揮するのはここからである。序盤に一気に登り、最大心拍近くまで達すると、次に下り区間が待ち受けている。このとき、通常であればサスペンションのロックを手動で解除する必要がある。
しかし、Epic 8はバンプ(路面の突起)や下りの加速度を検知し、サスペンションを自動でオープンモード(最大限に衝撃を吸収するモード)にする。 下りに入る際に、どんなに酸欠状態で判断力が低下していても、確実に最適なサスペンション状態に移行してくれる。
これまで、目の前の状況を認識し、考えて、判断を下し、手動で操作を行っていた一連の動作が大幅に削減されたことで、今まで以上にライディングそのものに集中できるようになった。
懸念していたのは、ロック状態からフロントタイヤがバンプに衝突した際に、サスペンションがスムーズに動作するかという点であった。僅かな反応遅延(ラグ)が生じるものと予想していたが、その心配は不要であった。
ライダーが頭で考えるよりもさらに早くサスペンションが状況を判断し動作する。もはやFlight Attendantに任せた方が確実であり、人間が操作に介入する方が、逆に機材のパフォーマンスを最大限に引き出せないのではないかとさえ感じた。
Epic 8に乗ることで気づいたのは、以前よりもさらに走りに集中できるようになったことである。サスペンションのロックアウト操作をする際に、登りや下りといった地形の状況を常に意識し、操作の判断を下す必要がなくなった。
スペシャライズドはこれを「認知疲労」の軽減と呼んでいるが、まさにその通りである。状況を理解し、判断を行うというプロセスは、特にVo2MAX領域や無酸素領域といった極限状態では大きな負担となる。脳に酸素が十分に行き渡りにくい状況下で、的確な判断を下し続けなければならない。
この判断の一部を機材が肩代わりしてくれるのだから、ライダーの負担は大幅に軽減される。その分、ライディングに集中できるようになる。認知疲労が減ることで、下りのライン取りや、テクニカルセクションをクリアするための動作により集中できるのである。
感覚としては、自動車のオートマチックトランスミッションに近い。ライダーはペダルを漕ぎ、ハンドルを操作するという基本動作に集中すれば、バイクが状況に応じて最適なアシストをしてくれる。
はっきりとわかる安定性
初めてEPIC 8に乗り換えたとき、下りにおける安定性の高さが直ちに理解できた。
ロードバイクと異なり、マウンテンバイクの場合は性能の違いが比較的明確に体感できるのが面白い。下りでバイクが暴れず、まるでトレイルを舐めるように疾走してくれる。 EPIC 8で、いつも走り込んでいる約6分間のダウンヒル区間のタイムを計測した。
結果は、自己ベストタイムが約30秒も縮まった。当初はタイム計測の誤差かと思うほどであったが、その後、複数回走行を重ねるごとにさらに10秒ずつ短縮し、最終的には従来のベストタイムを約60秒も更新した。
筆者は元々下りが得意ではなかったが、EPIC 8に乗ることで自信を持って下れるようになった。タイトなヘアピンコーナーであっても、バンクに一旦フロントタイヤを当て込んでからリアをスライドさせるような動きも、以前より容易にできるようになった。
特に、下りで荒れたセクションを走る際に、その安定性が顕著に感じられる。ホイールベースが長くなったことも影響しているが、常に前輪と後輪の接地感が失われない。以前別のバイクに乗っていたときは、下っている最中にフロントやリアが、わずかにフワッと浮くような不安定な挙動を示すことがあった。
EPIC 8は、荒れたトレイルであっても、まるで綺麗に整備されたスキー場のゲレンデを滑るかのようにスムーズに走破してくれる。体の下でバイクが衝撃を巧みにいなしながら、ホバリングしているかのような独特の浮遊感を伴う動きをする。
下りでの安定性の高さは、一昔前のダウンヒルバイクを彷彿とさせる65.9°(Low設定時)という寝たヘッドアングルや、洗練されたサスペンション設計とFlight Attendantシステムが組み合わさった結果と言える。一瞬、自身のバイクコントロールスキルが向上したかと錯覚したが、これらは明らかに機材性能の高さに起因するものであろう。
登りも軽やかに
EPIC 8は実によく登る。
立ったシートアングルは、急勾配の登りでもフロントタイヤが路面にしっかりと接地し続け、安定した登坂を可能にする。以前のバイクではフロントタイヤが浮き上がってしまうような急勾配を登る際にも、EPIC 8では意図的にフロントを押さえつける必要がほとんどなくなった。
登っている途中で木の根などを乗り越える際も、フロントアップ(前輪を持ち上げる動作)がしやすい。無理にハンドルを引き上げる必要はなく、わずかにサスペンションを沈み込ませてその反動を利用し、ペダルを踏み込むだけで、大抵の木の根はスムーズに処理できる。
顕著な違いを感じたのは、滋賀県朽木スキー場のゲレンデを利用したレースでの長い登り坂である。昨年よりも明らかに登りが楽に感じられた。エネルギーの損失が少なく、淡々と効率的に頂上へと向かっていける。
下りと同じく、登りの軽快さも、考え抜かれたジオメトリとFlight Attendantシステムの相乗効果が巧みに作用しているからであろう。 登りでの軽快さと、左右にぶれることなく真っ直ぐに進む安定感は突出している。
現実世界の留意事項
S-Works EPIC 8のような高度な電子制御システムを搭載したマシンを所有すると、これまであまり気にする必要がなかった様々な考慮事項が見えてくる。実際にEPIC 8と共にライドし、メンテナンスやチューニングを行う上で気づいた点をいくつか紹介する。
バッテリーが多い
電子部品を多数搭載しているのがS-Works EPIC 8の大きな特徴である。
Flight Attendantシステムはフォーク用とショック用にそれぞれ1つ、合計2つのバッテリーを必要とし、さらにAXSディレイラー、AXSドロッパーポスト、そしてパワーメーターやオプションのTyreWizタイヤ圧力センサーなど、複数のバッテリー残量を監視し、充電する必要がある。
ユーザーはバッテリー充電の管理に常に注意を払う必要がある。特にFlight Attendantサスペンションシステムのバッテリーは、公称で約20~25時間のライドで消耗する。システムの主要な処理ユニットを内蔵するフォーク側のバッテリーは、リアショック側のバッテリーよりも早く消耗する傾向がある。
厄介なのは、自動車でバイクを運搬する際である。わずかな加速度、傾き、振動でもFlight Attendantシステムは起動してしまう。そのため、車で移動している最中も、Flight Attendantは動作し続けていることがある。
他のAXSデバイスからの信号を受信するために、スタンバイ状態を示すLEDが点灯し続ける。 結果として、遠征などで2~3回程度のライドをすると充電が必要になる場合もある。電子機器がふんだんに搭載された最新バイクならではの、新たな悩みと言えるだろう。
テクノロジーのメンテナンス
最先端の電子機器は、S-Works EPIC 8の卓越した性能を可能にする一方で、従来の機械的なメンテナンスとは異なる、テクノロジーに関するメンテナンスも必要とする。これは主に、複数のワイヤレスコンポーネントのバッテリー管理と、電子的なトラブルシューティング(問題解決)である。
Flight AttendantやAXSシフトのようなシステムの利点は疑いようがないが、高度に統合された電子システムに慣れていないユーザーは、ファームウェアのアップデート方法、バッテリー状態の監視方法、センサー間の接続確認方法などを習得する必要がある。
これらが、伝統的な機械的メンテナンスと並んで、日常的なケアの一部となることを認識しておく必要がある。Flight Attendantシステムの詳細なチューニングや設定変更は、専用のスマートフォンアプリ(SRAM AXSアプリ)を介して行う必要がある。
しかし、山奥など通信電波が届かない環境では、スマートフォンとコンポーネント間のペアリングや設定変更ができない場合がある。
筆者が発見した一つの対処法としては、スマートフォンの通信モードを「フライトモード(機内モード)」に設定することである。 皮肉なことに、電波を遮断してオフライン状態にする「フライト(飛行)」モードを使用すると、自転車の「フライトアテンダント(客室乗務員=サスペンションシステム)」が使用できるのである。
まとめ:S-Works EPIC 8はXCの新たなベンチマーク
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2024年シーズンのUCIマウンテンバイクワールドカップ開幕戦において、男女エリートXCOレースでS-Works EPIC 8を駆るライダーが表彰台のトップ3を独占するという快挙が成し遂げられた。
もちろん、ライダー自身の卓越した能力が大前提ではあるが、ショートトラック(XCC)レースでも同様に破竹の勢いで表彰台を獲得した。このような独占的かつ圧倒的な結果は、S-Works EPIC 8の完成度の高さを雄弁に物語っている。
スペシャライズド S-Works EPIC 8は、並外れた走行性能と、現時点で考え得る最高のスペックを備えて登場した。デザイン、技術、性能、特性を丁寧に分析していくと、この先進的なバイクに対する明確な評価が浮かび上がってくる。
S-Works EPIC 8は、120mmトラベルのXCバイクとして卓越した能力を有し、猛烈な登坂性能と、下りに対する絶対的な自信をライダーに与える能力を巧みに融合させている。ペダリング効率は驚くべきレベルにあり、不要なサスペンションの動きを大幅に削減し、衝撃吸収性能を大幅に向上させつつ、ライダーの認知疲労をも軽減する。
RockShox Flight AttendantとスペシャライズドのRide Dynamicsカスタムチューニングを組み合わせた革新的なインテリジェントサスペンションシステムは、複雑なダンピング調整を自動化することで、常に最高効率の走りを引き出すことに成功している。
S-Works FACT 12mカーボンフレームは軽量かつ機能豊富であり、SWAT 4.0ストレージといった実用的な追加機能を備えながらも、フレームセットの総重量を増加させることなく利便性を向上させている点は特筆に値する。
さらに、進化的で適応性の高いジオメトリは、現代のテクニカルなクロスカントリーコースの要求に完璧に対応している。
一方で、そのプレミアムな価格設定に対して、投資するだけの価値があるのかどうかを最後に考察したい。
S-Works EPIC 8は、日本国内販売価格で約179.3万円(税込)と、非常に高価なバイクであることは紛れもない事実である(でも世界一日本が安いんですけどね)。購入には相当な経済的負担を要する。
このプレミアム価格は、最先端のテクノロジー、最高級のカーボンファイバー構造、そして一切の妥協を許さないコンポーネント選択を反映したものである。 価格は確かに高いが、その価格を納得させるだけの価値と性能がこのバイクには備わっていると、筆者は断言できる。
このバイクはどのようなライダーのためのものか。
このマシンは、特定の層のライダーに向けて明確に設計されている。すなわち、あらゆるパフォーマンス上の優位性を追求し、そのためのテクノロジーに投資する覚悟のある真剣なXCレーサーである。
現在のXCバイクのデザインとパフォーマンスの頂点を求める方や、過酷でテクニカルなXCコースを定期的に攻略し、登りではロケットのような加速力と、下りでは圧倒的な走破能力を備えたバイクを重視するライダーにとって、S-Works EPIC 8は最良の選択肢の一つとなり得る。
筆者自身がS-Works EPIC 8を使い込んでいくうちに見えてきたのは、常に進化するXCレースシーンに適応しようとするバイク自身の進化の姿である。
スペシャライズド S-Works EPIC 8は、ハイパフォーマンスXCカテゴリーにおける新たなベンチマークとなる強力なバイクである。120mmトラベルプラットフォームにインテリジェントサスペンション技術を成功裏に統合した点は、大きな技術的成果と言える。
これは、XCバイクの未来が向かうであろう方向性を体現している。
すなわち、より高性能で、よりスマートで、そしてこれまで以上に全体として統合されたバイクシステムである。長年採用されてきたBrainシステムからの脱却は、スペシャライズドがこれらの新技術と、それらがもたらす優れた性能に対する明確な自信を持っていることの証左である。
S-Works EPIC 8は、その高額な価格と先進技術により、スペシャライズドの「フラッグシップ」製品としての地位を確固たるものにしている。その恩恵を享受できるオーナーは限られた層になるかもしれないが、彼らは間違いなくその投資に見合う、あるいはそれ以上のパフォーマンスと満足感を得られるであろう。
S-Works EPIC 8は、競合他社にとって強力なベンチマークとなるだけでなく、スペシャライズド自身の研究開発の方向性を示す先導役としても機能するはずである。その革新性が、ダートの上でのスピードの進化に、新しい時代を築こうとしている。