Vittoria CORSA PRO インプレッション “最高峰の標準”タイヤ

4.5
スポンサーリンク

VittoriaのCORSAシリーズは、長年にわたりプロのレース現場において、その卓越した性能と信頼性で確固たる地位を築いてきた。数々のグランツールやクラシックレースでの勝利は、CORSAシリーズが究極のレース環境で鍛え上げられてきた証左であるといえよう。

その輝かしい系譜を受け継ぎ、現代のロードレースシーンの要求に応えるべく登場したのが、今回レビューする「Vittoria CORSA PRO」だ。

先般、最上位モデルCORSA PRO SPEEDをレビューしたが、CORSA PROは低い転がり抵抗をそのままに、耐パンク性を高めたモデルだ。

『地球上、最速のタイヤ』Vittoria CORSA PRO SPEED インプレッション
『地球上、最速。』Vittoria CORSA PRO SPEEDは、地球上で最も転がり抵抗が小さいタイヤだ。事実上、CORSA PRO SPEEDよりも速く走れるタイヤは存在しない。タイム短縮を狙うライダー、レースで勝ちたいライダーに、最速への答えがここにある。データで裏付けられた性能と速さは、ワールドツアーライダーたちがこぞって採用し、数々の勝利を上げ続けている。クラシック、世界選手権、ヨーロ...

Vittoriaのロードタイヤラインナップにおいて、CORSA PROはオールラウンドなレースタイヤとして位置づけられている。

過酷な路面状況や、悪天候に対応する耐久性を重視した「CORSA PRO Control」、そして一秒を争うタイムトライアルやヒルクライムに特化した超軽量・低転がり抵抗モデル「CORSA PRO SPEED」とは明確に異なる役割を担っている。

ヴィスマはロードでVittoria CORSA PROを、TTでSPEEDを使う。

本レビューの対象は、この中核を成す「CORSA PRO」だ。その多岐にわたる性能を深掘りしていく。そして、単なるスペックの羅列や表面的なインプレッションにとどまらず、盛り込まれた技術、実際に使用し体感した情報に基づき、CORSA PROの真価を明らかにしていく。

CORSA PROは、Vittoriaが長年培ってきたコットンケーシングという伝統的な製法と、電気的加硫やGraphene+Silicaコンパウンドといった最先端技術が融合している。まさに「伝統と革新の結晶」ともいえる製品だ。

この背景には、過去の成功に甘んじることなく、常に最高のパフォーマンスを追求し続けるVittoriaのブランド哲学が色濃く反映されている。

さらに、多くのワールドツアーチームがCORSA PROを実戦投入し、あまたの勝利を積み重ねている事実がある。開発段階からプロライダーによる厳しいテストとフィードバックが繰り返され、その要求に応える形で性能が磨き上げられてきたことを強く示唆している。

今回は、VittoriaのオールラウンドタイヤCORSA PROをレビューしていく。

スポンサーリンク

技術進化の核心:CORSA PROのテクノロジー

Vittoria CORSA PROの卓越した性能は、いくつかの革新的な技術の結晶である。これらの技術は、それぞれが独自の役割を果たすと同時に、相互に作用し合うことで、タイヤ全体のパフォーマンスを新たな次元へと引き上げている。

新製法「電気加硫」

従来のCORSAシリーズでは、トレッドゴムをコットンケーシングに直接接着する製法が用いられてきた。

しかし、CORSA PROでは「エレクトリカル・バルカナイゼーション(電気的加硫)」と呼ばれる革新的な製造プロセスが導入された。この技術の核心は、トレッドとケーシングを文字どおり一体化させる点にある。

具体的には、ゴム製のトレッドをコットンケーシングに完全に埋め込み、100%シームレスな製品を生み出す。

このシームレス構造がもたらす最大の利点は、接着剤層の排除だ。接着剤が介在しないことで、タイヤ全体の柔軟性が大幅に向上し、ケーシング本来のしなやかさが最大限に引き出される。

結果として、路面への追従性が高まり、より滑らかで吸い付くような乗り心地と、コーナリング時や荒れた路面でのグリップ力向上に貢献するとされている。さらにVittoriaは、このシームレスな構造が空力特性の改善にも寄与すると主張している。

トレッドのエッジ部分に生じていた微細な段差がなくなることで、タイヤ周りのエアフローがよりスムーズになり、特に高速域での空気抵抗低減効果が期待されるという。

バルカナイゼーション(加硫)とは、ゴムに架橋剤を加えて加熱することで、ゴム分子間に「橋渡し構造」を形成し、弾性、強度、耐久性といった特性を飛躍的に向上させる化学的処理プロセス。

一般的なタイヤ製造において不可欠な工程であり、この処理によってゴムは実用的な製品へと生まれ変わる。

Vittoriaが採用する「電気的加硫」は、この加硫プロセスにおける加熱手段として電気エネルギーを利用するものであり、従来の蒸気過熱などに比べて、より精密な温度管理や均一な熱分布を実現している。結果として製品の品質向上やエネルギー効率の改善が見込める。

コンパウンドの革新:「グラフェン + シリカ」

CORSA PROのトレッドコンパウンドには、Vittoriaが誇る二つの先進素材、「グラフェン(Graphene)」と「シリカ(Silica)」を組み合わせて使用されている。

グラフェンは、炭素原子が六角形格子状に結合した一層のシート状物質であり、その驚異的な薄さ、軽さ、そして卓越した強度と導電性で知られる次世代素材だ。

Vittoriaは2015年頃からいち早くこのグラフェンをタイヤコンパウンドに応用しており 、転がり抵抗の低減、グリップ力の向上、そして耐摩耗性の強化に寄与すると主張してきた。特に興味深いのは、グラフェンを配合したコンパウンドが、負荷に応じてその硬度を変化させるという特性である。

直線走行時など負荷が小さい状況ではコンパウンドが硬度を保ち転がり抵抗を低減する一方、コーナリングやブレーキング時など負荷が大きい状況ではコンパウンドが柔軟に変形し、グリップ力を最大化する特性がある。

一方のシリカ(二酸化ケイ素)は、タイヤ業界では特にウェットコンディションにおけるグリップ性能向上と、転がり抵抗低減に効果を発揮する材料として広く認知されている素材だ。

微細なシリカ粒子をゴムコンパウンドに均一に分散させることで、ゴムが低温時やぬれた路面でも柔軟性を保ちやすくなり、路面との密着性が向上する。

CORSA PROでは、これら二つの素材の長所を融合させた「Race Formulation Graphene + Silica」コンパウンドを採用している。

グラフェンがもたらす転がり抵抗の低減と耐久性の向上、そしてシリカがもたらすウェットグリップの強化と、さらに転がり抵抗低減効果を組み合わせている。

その結果、ドライ・ウェットを問わない高いグリップ性能、低い転がり抵抗、そして向上した耐摩耗性という、レーシングタイヤに求められる相反する要素を、高次元でバランスをとることに成功している。

グラフェンは、その特異な物理的特性から「夢の素材」とも呼ばれる。

タイヤコンパウンドでは、ゴムポリマー鎖間の相互作用を変化させ、エネルギー損失(ヒステリシスロス)を低減することで転がり抵抗を削減したり、素材自体の強度によって耐摩耗性を向上させたりする効果が期待されている。

シリカは、元来ゴムとの親和性が低い素材であるが、シランカップリング剤などを用いて表面処理を施すことでゴムとの結合力を高め、効果的な補強材として機能する。特に低温域でのゴムの硬化を抑制し、ウェット路面での追従性を高めることで、走行時における安全性の向上に大きく貢献している。

卓越した乗り心地

Vittoria CORSAシリーズのアイデンティティーともいえるのが、高TPI(Threads Per Inch)のコットンケーシングの採用である。CORSA PROもこの伝統を継承し、320TPIという非常に高密度のコットンをケーシング素材として使用している。

コットンケーシングは、一般的なロードバイクタイヤに多く用いられるナイロンケーシングと比較して、繊維自体がよりしなやかであるという特性を持つ。

このしなやかさにより、タイヤは路面の微細な凹凸にも巧みに追従し、まるで路面をなめるように変形できる。その結果、非常に滑らかで振動の少ない乗り心地と、高い路面追従性からもたらされる優れたグリップ力を提供する。

この特性こそが、多くのライダーがCORSAシリーズに対して抱く「路面に吸い付くような」「まるでシルクの上を滑るような」あるいは「浮遊感がある」といった独特の官能的な走行感覚の元となっている。

TPIは、タイヤのケーシング(カーカス)を構成する繊維の密度を示す指標であり、1インチあたりに織り込まれている繊維の総数を表す。TPI値が高いほど、使用される個々の繊維は細くなり、ケーシング全体がより薄く、よりしなやかになる傾向がある。

この「しなやかさ」は、タイヤが路面形状に合わせて効果的に変形する能力を高め、結果として転がり抵抗の低減(変形に伴うエネルギーロスが少ない)、グリップ力の向上(接地面積の最適化)、そして乗り心地の向上(振動吸収性の向上)につながる。

一方で、繊維が細くなることは、物理的な強度や耐パンク性の低下を招く可能性がある。多くの高性能タイヤでは、ケーシングのしなやかさを活かしつつ、トレッド下やサイドウォールに別途耐パンクベルトや補強層を設けることで、総合的な性能バランスを追求している。

CORSA PROも耐パンクベルトを装備している。対して、最速を追求するCORSA PRO SPEEDは耐パンク性能が相対的に低い。トレード・オフの関係にある。

これら3つの主要技術、すなわち電気的加硫によるシームレス構造、Graphene + Silicaコンパウンド、そして高TPIコットンケーシングは、単独で機能するだけでなく、相互に補完し合い、相乗効果を生み出すように設計されている。
コットンケーシングが持つ「しなやかさ」という最大の武器を、電気的加硫による「シームレス構造」がさらに先鋭化させる。接着層という物理的な障壁が取り除かれることで、ケーシング本来の柔軟性がよりダイレクトに路面へと伝達されるようになる。
この極限まで高められたしなやかさが、Graphene + Silicaコンパウンドの持つ「路面追従性」を最大限に引き出している。タイヤが路面の微細な凹凸にまで密着しやすくなることで、コンパウンドが持つ化学的なグリップ性能が、物理的な接地性によってフルに発揮されるのだ。
さらに、Graphene + Silicaコンパウンドは、コットンケーシングが潜在的に抱える可能性のある弱点、たとえば耐摩耗性や特定の条件下でのグリップ特性などを補強する役割も担っている。
グラフェンによる耐久性の向上、シリカによるウェットグリップの強化は、伝統的なコットンタイヤの性能を、現代のレースシーンが要求するオールラウンドなレベルへと昇華させている。
このように、Vittoriaは「乗り心地」という、ともすれば主観的で数値化しにくい官能的な性能を、TPI値の高いコットンケーシング、電気的加硫といった具体的な技術要素を組み合わせることで、科学的なアプローチをもって追求している。
これは、感覚的な性能を単なる経験則に頼るのではなく、材料工学や最先端の製造技術によって精密にコントロールし、再現可能な高いレベルで実現しようとする同社の強い意志の表れといえるだろう。
ヴィスマやアルペシンなど、世界トップレベルのプロチームが長年にわたりCORSAシリーズを支持してきた背景には、この数値化しにくい「乗り心地の良さ」が、実際のレースパフォーマンスや長距離走行における疲労度に決定的な影響を与えるという経験則があったのではないだろうか。
Vittoriaは、その経験則を最新技術によって裏付け、さらに進化させようとしているのである。

表1:Vittoria CORSA PRO – 主要スペック一覧

特性 詳細
公称重量 (700x28c) 280 g
実測重量 (700x28c) 274 g 
実測重量 (700x26c) 257 g 
TPI 320 TPI
コンパウンド Graphene + Silica
ケーシング Cotton Corespun 
製法 Electrical Vulcanization (電気的加硫)
メーカー希望小売価格 

¥14,960(税込み)

スポンサーリンク

インプレッション

Vittoria CORSA PROを語る上で欠かせないのが、走行体験だ。単なる数値データでは捉えきれない、路面との濃密な対話、快適性、そしてライダーをうならせる加速と巡航性能の高さがある。

これらがどのようにして生まれるのか、実際に走行することでその実像に迫った。

グリップ性能

CORSA PROを試した日は雨だった。

残念という気持ちもあったが、グリップ性能を確かめるには好都合だったのかもしれない。

CORSA PROのグリップ性能は高い。「ウェット性能が高い」と表現した方がCORSA PROにとって都合がよいだろうか。特にコーナリング時の安定感と「このぐらいのラインをトレースできる」という予測可能性は、コーナリングに大きな自信を与えてくれる。

このタイヤは、しなやかで追従性が高く、コーナーでのグリップ力を高める弾力性のある感触がある。少しだけ楽に曲がれるように感じた。これは、タイヤが路面形状に巧みに適応し、常に最適な接地状態を保とうとする特性を示唆している。

4月から5月半ばまで、比較的ハードな使用を経てもなお、特に緩んだ路面、汚れた路面、あるいはぬれた路面といった厳しい条件下でのコーナリングにおいて、十分にグリップする感触が非常に気に入った。

一方で、Continental GP5000 S TRと比較すると別の印象、フィーリングを表現する必要がある。

コットンケーシングは(ナイロンケーシングに比べて)変形しやすいため、コーナーでの安心感が(GP5000 S TRに対して)若干劣るように感じる。これは、絶対的なグリップ力の限界が低いという意味ではなく、タイヤが限界付近で示す挙動や、ライダーへのフィードバックの質の違いに起因する可能性がある。

コットンケーシング特有のしなやかさは、限界域で穏やかに滑り出す特性を持つかもしれないが、それが「腰砕け感」や「つかみどころのなさ」として認識される可能性がある。

対照的に、より剛性感のあるケーシングを持つタイヤ(GP5000系)は、限界まで粘り強くグリップするものの、ひとたび限界を超えると急激にグリップを失う場合がある。

どちらの挙動を「安心」と感じるかは、ライダーのスキルレベルやライディングスタイル、さらに好みに大きく左右される部分だ。この差異は非常に微妙なものであるが、興味深い対比といえる。

運良く試せたウェットコンディションにおけるグリップ性能に関しても、Graphene + Silicaコンパウンドの恩恵は大きい。雨天時やぬれた路面でも信頼性の高いグリップを発揮するだろう。これは、特にシリカが低温時や水分のある状況下でゴムの柔軟性を維持し、路面との密着性を高める効果によるものと考えられる。

快適性:路面追従性と衝撃吸収性

CORSA PROを他のハイパフォーマンスタイヤと一線を画す存在たらしめている最大の要因の一つが、その快適性である。これは主に、高TPIコットンケーシングがもたらす、しなやかさに由来するものだ。

その乗り心地を表現するとしたら、ありきたりな「バターのように滑らか」と表現したいところだが、「アスファルトの上で浮いているかのよう」と、どこか接地感の少ない(薄い)印象を受けた。逆に、舗装状態の悪い状況は、その恩恵は計り知れないだろう。

六甲山の下り、一定間隔で黄色いバンプが連続する箇所で毎回タイヤテストをしている。通常であればガタガタと不快な振動が伝わってくるところ、CORSA PRO(SPEEDも同様に)を装着していると路面が驚くほど滑らかに感じられる。

これは、何十回と走り込んでいる六甲山の下りだからこそわかる違いであり、その高い衝撃吸収能力が具体的に体感できた恒例だ。

ベンチマーク的に使用しているContinental GP5000 S TRと比較すると、CORSA PROははるかにラグジュアリーな乗り心地だと思う。タクシーのクラウン・コンフォートに乗ったときのボワボワ感と似ている。

このタイヤの快適性が明確に体感できるレベルであることは、快適性が単に心地よいだけでなく、長距離・長時間のライディングにおけるライダーの疲労蓄積を大幅に軽減する効果も期待できるだろう。

路面からの微細な振動や衝撃は、知らず知らずのうちに身体への負担となり、パフォーマンス低下の原因となる。CORSA PROの優れた振動減衰能力は、こうした負担を和らげ、ライド後半まで高い集中力と出力を維持することを助けるだろう。

結果として、これは単なる快適性を超えて、実質的な「速さ」にもつながり得る重要な要素といえる。

加速と巡航

CORSA PRO SPEEDとも比較検証を行った。

CORSA PROは、その低い転がり抵抗(詳細は後述)とあいまって、速いタイヤであることは間違いない。このタイヤの持つスピード感は、CORSA PROが秘めるポテンシャルに応えようと、思わずペダルを強く踏み込みたくなる。

CORSA PROが提供するスピードは、単に「転がりが軽い」というだけではない。踏み出しの瞬間の軽快さ、加速時のダイレクトな反応、そしてひとたびスピードに乗った後の巡航のたやすさがある。これら、複合的な要素によって構成される「質の高いスピード感」であるということだ。

しなやかなケーシングが路面を捉え、効率的に推進力へと変換し、Graphene + Silicaコンパウンドがエネルギーロスを最小限に抑える。これらの要素が一体となって、加速感と巡航をもたらしている。

スポンサーリンク

ラボテストとリアルワールド

CORSA PROの性能を客観的なデータと照らし合わせることで、その実像はより明確になる。ここでは、転がり抵抗、耐パンク性能、耐久性、そしてチューブレス運用における装着性について、ラボテストの結果とリアルワールドでの評価を比較分析する。

転がり抵抗:ラボテストデータと比較

独立系テスト機関であるBicycleRollingResistance.comの測定によると、Vittoria CORSA PRO TLRの28mm幅モデルは、空気圧120 psi (約8.3 bar)、シーラント20ml使用の条件下で9.3ワットという転がり抵抗値を記録している 。

同タイヤの26mm幅モデルでは、空気圧100 psi (約6.9 bar)で9.6ワットであった。参考までに、CORSA PRO SPEEDはわずか6.7ワットである。

『地球上、最速のタイヤ』Vittoria CORSA PRO SPEED インプレッション
『地球上、最速。』Vittoria CORSA PRO SPEEDは、地球上で最も転がり抵抗が小さいタイヤだ。事実上、CORSA PRO SPEEDよりも速く走れるタイヤは存在しない。タイム短縮を狙うライダー、レースで勝ちたいライダーに、最速への答えがここにある。データで裏付けられた性能と速さは、ワールドツアーライダーたちがこぞって採用し、数々の勝利を上げ続けている。クラシック、世界選手権、ヨーロ...

これらの数値は、ハイエンドレーシングタイヤのベンチマークの一つとされるContinental GP5000 S TR(同条件下の28mm幅でおおむね8.5ワット前後)と比較すると、わずかに高い値を示している 。

GP5000 S TRよりも0.8ワット遅いが、この程度の差は実世界の走行ではまず体感できない。GP5000 S TRがテストデータ上ではわずかに速いことは認めなければならないが、CORSA PROは優れた乗り心地の良さがある。

ラボデータと実際の走行感の間には、必ずしも完全な一致が見られるわけではない。CORSA PROの転がり抵抗は絶対的なトップレベルにはわずかに及ばないものの(CORSA PRO SPEEDを含め)、依然として非常に低い水準にある。

ハイパフォーマンスタイヤとして十分に競争力のある数値であるといえる。そして、実走で感じる「速さ」は、純粋な転がり抵抗値だけでは決まらない。前述した卓越したしなやかさや路面追従性、さらにエアロダイナミクスといった他の要素との複合的な結果だ。

耐パンク性能

CORSA PRO SPEEDよりもパンク性能は高いが・・・。

Vittoriaは、CORSA PROにおいて、旧モデルと比較して耐パンク性が18%向上したと公式に発表している。

この耐パンク性能の向上には、トレッド下に配置された高密度な耐パンクベルトが貢献している 。BicycleRollingResistance.comによるトレッド突き刺し強度テストでは、CORSA PRO TLR 28mmが46ポイント、26mmが43ポイントという結果であった。

これは、競合のGP5000 S TR(同テストで40ポイント前後)と比較して若干高い数値であり、ラボ環境下での耐パンク性能は優れていることを示している。VittoriaのタイヤはMTBタイヤでも優れた耐パンク性能があることで知られている。

CORSA PROはデータ上は特にパンクしにくいタイヤと言えるが、実際の使用状況(路面状態、天候、空気圧管理など)、使用するシーラントの種類や量、そして純粋な運の要素などが複雑に絡み合ってパンクするか、しないかが決定する。

ラボテストの標準化された条件下では捉えきれない、現実世界の路面状況の状況変化、たとえば、鋭利なガラス片と金属片ではタイヤへのダメージの仕方が異なることや、コットンケーシング特有の挙動として、ひとたび傷が入ると、ナイロンケーシングよりも傷口が広がりやすい特徴もパンクの耐性の違いを生む可能性がある。

したがって、ラボデータを参考にしつつも、実際の使用感や経験を考慮し、自身の使用目的や許容できるリスクの範囲と照らし合わせて、判断する必要があるだろう。

耐久性と摩耗特性

常用するなら、CORSA PRO SPEEDではなく、CORSA PROだ。

一般的に、高性能なコットンケーシングタイヤは、そのしなやかさと引き換えに、ナイロンケーシングタイヤと比較して摩耗が早い傾向にあるとされる。CORSA PROに採用されているGraphene + Silicaコンパウンドは、この点に関しても耐久性の向上をうたっているが 、実際の長期使用における評価は今後確認していく必要がある。

同様のタイヤを使用しているライダーによると、約3000km以上使用した後でも、トレッドの状態から判断してさらに約1000kmは問題なく使用できそうだと語っていた。ハイパフォーマンスタイヤとしては良好な耐久性をと言えるだろう。

しかし、私の肌感ではいくらオールラウンドタイヤと言えど、トレーニング用途としては摩耗が速すぎるような気がしている。

タイヤの摩耗速度は、ライダーの体重、ライディングスタイル(急加速・急制動の頻度など)、路面状況、空気圧管理といった多くの要因に大きく左右される。CORSA PROに関しても、恐らく期待以上の寿命があると思う一方で、使い込んでいくと摩耗が指数関数的に進む可能性もある。

装着とチューブレス運用

チューブレスタイヤの普及に伴い、装着の容易性や気密性の確保はタイヤ選択における重要な評価項目となっている。

Vittoriaは、CORSA PROにおいて、旧世代のコットンチューブレスレディタイヤと比較して、ビードシーリングの改善、より簡単な空気注入、そして気密性の向上を実現したと主張している。

これは、新しい電気的加硫プロセスによってケーシングがより一体的に成型され、ビード部分の精度が向上したことなどが貢献している可能性がある。

実際に取り付けた感触としては、比較的簡単に装着できるが最後のはめ込みはIRCのチューブレスタイヤレバーが必要だった。ビード上げは、フロアポンプだけでビードを上げられた。

それでも競合他社と比べると、Continental GP5000S TRよりも装着は困難だと思う。慣れていなければ、せっけん水を使用してビードを上げてもいい。CORSA PROのチューブレスセットアップに関しては、リムとの相性が他の一般的なチューブレスタイヤ以上にシビアである可能性がうかがえる。

Vittoria自身も旧モデルからの改善を強調しているが、依然として一部の組み合わせでは装着やビード上げに困難を伴うケースが存在する可能性がある。

これは、CORSA PROのしなやかなコットンケーシングやビード部分の設計が、特定のリム形状(特にリム内側のセンターチャンネルの深さや形状、ビードフックの高さや角度など)と組み合わせた際に、ビードをリムショルダーに押し上げて初期の密閉状態を作り出すのに必要な条件を満たしにくい場合があることを示唆している。

特に、フックレスリムはタイヤとリムの寸法精度に対する要求がより厳格であるため、相性問題がより顕著に表れやすい可能性がある。

ユーザーは、購入前に自身のホイールとの適合性を確認するとともに、場合によってはセットアップにある程度の技術や専用工具(タイヤレバー、エアコンプレッサーなど)が必要になる可能性を認識しておくべきだろう。

スポンサーリンク

競合タイヤとの比較

Vittoria CORSA PROの真価をより深く理解するためには、市場における主要な競合製品との比較が不可欠だ。

特に、ハイパフォーマンスロードタイヤの分野で長らくベンチマークとされてきたContinental GP5000 S TRとの対比は、CORSA PROの持つ独自性と優位性、そして選択におけるトレードオフを浮き彫りにする。

対 Continental GP5000 S TR

Continental-GP5000-S-TR_KV_Image1-753a0b0

CORSA PROとGP5000 S TRは、共にワールドツアーレベルのレースで使用されるトップエンドのチューブレスレディタイヤだ。しかし、その設計思想と特性には明確な違いが見られる。

コンチネンタルがGP5000STRを発表!20%抵抗減、サイド28%強化、-50g軽量化、フックレスリム対応!!
GP5000TL比で20%転がり抵抗が小さい。GP5000TL比でサイドウォール28%強化。GP5000TL比で-50g軽量化し重量250gフックレスリム対応。世界選手権TTとパリルーベで投入されそれぞれ優勝・・・。ContinentalからついにGP5000STR(チューブレス対応)が発表された。GP5000STRは、2021年シーズン中に複数のプロ選手によってフィールドテストされていた。多数の...
  • 乗り心地・しなやかさ: この点では、CORSA PROがGP5000 S TRを明らかにりょうがしている。CORSA PROの320TPIコットンケーシングが生み出す卓越したしなやかさは、「シルキー」「バターのよう」と形容されるほどの快適性をもたらす。対照的に、GP5000 S TRのケーシングは、より剛性が高く、「硬い」「路面の凹凸で跳ねる感じがする」といった感触がある。この快適性の差は、特に荒れた路面や長距離ライドにおいて、疲労度やバイクコントロールのたやすさに影響を与える可能性がある。
  • グリップ感: ドライコンディションにおける絶対的なグリップ力は両者ともに非常に高いレベルにある。ウェットコンディションでは、CORSA PROのGraphene + Silicaコンパウンドが優れた性能を発揮し、GP5000 S TRに対してアドバンテージがある。コーナリング時のフィーリングに関しては、CORSA PROのしなやかなケーシングが路面に追従し、接地感を高める。一方で 、GP5000 S TRの持つケーシングの剛性感がもたらすダイレクトな反応と安定感を好むライダーもいる 。これは、前述したように、タイヤが限界付近でどのような挙動を示すか、そしてそれをライダーがどう解釈するかの違いに起因すると考えられる。
  • 耐パンク性・耐久性: 世間一般的な評価としては、GP5000 S TRの方が耐パンク性および全体的な耐久性において優れているとされることが多い。これは、GP5000 S TRの堅ろうなナイロンケーシングとVectranブレーカーによるものだろう。ただし、BicycleRollingResistance.comによるラボテストでは、CORSA PROのトレッド突き刺し強度がGP5000 S TRを若干上回るデータも存在する 。摩耗に関しては、GP5000 S TRの方がCORSA PROよりも長持ちする傾向にあるようだ。
  • 転がり抵抗: ラボテストのデータ上では、GP5000 S TRがCORSA PROに対してわずかに低い転がり抵抗値を示すことが多いが、その差は極めて小さく、多くの場合1ワット未満である 。この程度の差を実走行で体感することは困難であり、両者は実質的に同等の転がり抵抗性能を持つと考えてよいだろう。
  • 装着性: Continental GP5000シリーズは、リムへの装着が非常にタイト(硬い)であることで知られている。CORSA PROも、前述のとおりリムとの相性によっては装着が困難な場合があるため、一概にどちらが容易であるとは断言できない。両者ともに、適切なテクニックと、場合によってはタイヤレバーが必要となる可能性がある。

これらの比較から浮かび上がるのは、CORSA PROとGP5000 S TRの選択が、多くの場合、ライダーが「官能的な性能・卓越した快適性」と「実用性・堅ろうな信頼性」のどちらに、より重きを置くかという、ある種のトレードオフになるということだ。

CORSA PROは、その比類なき乗り心地、しなやかさ、そしてグリップの質といった、「乗っていて純粋に気持ちが良い」と感じさせる官能的な性能において、GP5000 S TRを上回るという評価が支配的である。

一方、GP5000 S TRは、転がり抵抗におけるわずかな優位性に加え、より安定した耐パンク性能、優れた耐久性、そしてチューブレスシーラントでの扱いやすさといった、日々の使用における実用面での信頼性が高い。

これは、両製品の根底にある設計思想の違いを反映しているのかもしれない。

CORSA PROは、コットンケーシングの持つ素材特性を最大限に活かし、究極のライドフィールを追求する方向性であるのに対し、GP5000 S TRは、堅ろうなナイロンケーシングをベースに、あらゆる性能を高次元でバランスさせることを目指す方向性といえるだろう。

したがって、最高のライドクオリティーを求めるライダーや、特定のレースイベントで一瞬の最高のパフォーマンスを重視するライダーは、CORSA PROに強い魅力を感じるだろう。

一方で、日々のトレーニングからレースまで幅広く、トラブルの少なさと安定した性能を重視するライダーはGP5000 S TRを選んだ方がいい。

表2:Vittoria CORSA PRO vs. Continental GP5000 S TR

項目 Vittoria CORSA PRO (28mm) Continental GP5000 S TR (28mm)
転がり抵抗 (120psi) 9.3W 約8.5W 
実測重量 (グラム) 274g 約275g 
快適性・しなやかさ 非常に高い、卓越したしなやかさ 標準的、CORSA PROと比較すると硬質
ドライグリップ 非常に高い 非常に高い
ウェットグリップ 高い、Graphene+Silicaコンパウンドの恩恵 高い
コーナリング安定感 高い、しなやかさが路面追従性が向上GP5000 S TR比で剛性感に欠ける 高い、ケーシングの剛性感がダイレクトな反応をもたらす
耐パンク性 (実走評価) 評価が分かれる。 比較的安定しており、信頼性が高いとされる
耐久性・摩耗 (実走評価) コットンタイヤとしては標準的だが、GP5000 S TR比でやや早い傾向 比較的良好、CORSA PROよりも長持ちする傾向
スポンサーリンク

まとめ:最高の標準タイヤ、CORSA PRO

Vittoria CORSA PROは、同社が長年にわたり培ってきたコットンタイヤ製造の伝統と、Graphene + Silicaコンパウンドや電気的加硫といった革新的なテクノロジーを高次元で融合させた、革新的なプロダクトである。

その乗り心地、路面に吸い付くような卓越したグリップ性能は、ライダーを魅了するに違いない。このタイヤが提供する独特の走行フィールは、単に「速い」という言葉だけでは表現しきれない。

自転車に乗ることの本質的な楽しみを、再認識させてくれる可能性を秘めている。

一方で、耐パンク性や耐久性に関しては、依然として高性能コットンタイヤが抱える宿命ともいえる。また、タイヤサイドは汚れやすい。雨天で使用したあとは、アメ色の色味がさらに増して深くなった。これら、トレードオフが存在する可能性は否定できない。

ラボテストでの良好な数値とは裏腹に、リアルワールドでの挙動や摩耗の速さは、評価が分かれているのが現状だ。これらの点を、CORSA PROが提供する卓越したパフォーマンスの代償として許容できるかどうかが、このタイヤを選択する上での大きな壁となるだろう。

購入を検討する方は、自身の使用するホイールとの相性を確認する必要がある。特にチューブレス運用を前提とする場合、リムの内幅やビードフック形状との適合性などだ。

そして、走行環境(路面状況、天候)、タイヤに求める性能の優先順位(快適性、グリップ、堅ろう性、長寿命)を総合的に勘案し、慎重な判断を下すことが求められる。

結論として、Vittoria CORSA PROは、その価格に見合うだけの特別な、そして官能的なライディング体験を提供してくれる可能性を秘めたタイヤだ。

しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出し、恩恵を享受するためには、適切なセットアップと、ある程度の割り切り(たとえば、パンクリスクに対する備えや、消耗品としてのコスト意識)も必要になるだろう。

このタイヤの評価は、ある意味でライダーの「タイヤに対する価値観」そのものを映し出す鏡となる。絶対的な数値性能だけでなく、フィーリングや快適性といった官能的な要素にどれだけの価値を見いだせるかということだ。

CORSA PROは、その問いを我々に投げかけているのかもしれない。

 

Ads Blocker Image Powered by Code Help Pro

広告ブロックが検出されました。

IT技術者ロードバイクをご覧いただきありがとうございます。
皆さまに広告を表示していただくことでブログを運営しています。

広告ブロックで当サイトを無効にして頂き、
以下のボタンから更新をお願い致します。