「良いことは自分の手柄、悪いことは他人のせい」
とする心理は、自己奉仕バイアスと呼ばれている。成功を自分に帰属させて自己肯定感を高める一方、失敗の責任を外部に転嫁する傾向だ。このバイアスを深く理解しつつも、今シーズンは、何か自分では全くコントロールの効かない問題に悩まされ続けた。
結局、全日本選手権前にダメ押しのインフルエンザA型にかかってしまった。2カ月のうちに肺炎、溶連菌、インフルエンザと調子は落ち続けた。それでも、なんとか戻そうと体調管理や食事には気を使っていたし、トレーニングも積んだ。やれるだけの事はやり続けた。
そして、結果は出なかった。それだけだ。
ただ、一つ言えることは「悪いことが重なっているから良い走りができない」という、無意識の暗示を自分にかけ続けていたのも原因かもしれない。要するにネガティブになっていたのかもしれない。自分では気づいていなかったが、妻は気づいていたようだ。
過去の全日本選手権MMは、5位→4位→3位と着実に上がってきた。今回の4位なんていうものに何の意味ない。1位以外は意味がないのがこのレース。レースレポートを書くのも嫌で遅れてしまったが、こういう時の思考は書き留めておいた方がいいと、俯瞰して思った。
来年につながるかはわからないが、思考の整理、思考のジャーナリング目的で書きとどめておこうと思う。書くと反省点も見えてくるだろう。見つけたいのは、病気や体調不良といった外的要因ではなく、内面の問題だ。
全日本選手権 MM 4位
二色浜のコースは砂が注目されるが、砂自体はコース全体の30%ほどしかない思う。ただ、タイム差が付きやすいセクションでもある。試走段階で波打ち際を最後まで走る事が出来たが、自分のレース時間の潮の満ち引きによっては走れない可能性もあると判断していた。
そのため、レース時間中のタイドグラフ(潮見表)で潮の満ち引きを確認した。朝の試走からレース前にかけて満潮になる潮のため、波打ち際は走れなくなる可能性が高いと判断。1周目は波打ち際に突っ込んで様子を探った後ダメなら、2周目以降はイン側のテープを走る作戦にした。
潮の満ち引き以外にも、金曜日にコースウォークして、砂で硬い場所を念入りに探すなどコースチェックもしっかりと見た。ただ、海辺以外の砂のラインは刻々と変わっていったため、最後はコータプロのラインがめちゃくちゃ速かったのでそれをぬすむことにした。
コースは全体的にスピードコースで流れがある。とても素晴らしい走りがいのあるコースだ。自分には向いている。ただ、試走中もウォーミングアップもいつものパワーが出せないのが気がかりだった。
パワーは出ないが、バランス的な体の動きはわりとよく、松木さんに「体の使い方が上手くなったね」と言われた。
しかし、「これぐらいで踏んだらこれぐらいのパワー」という感覚の話で行くと2割程低い。度重ねる感染症で後遺症が残っているのか(不明だが)調子はかなり悪い様子だ。
余談だが、近くにゴローさんが居て「なに?緊張してるの?」と言われたが、自分はそんな気はしていなかった。ただ、傍から見ると気合が入っていない事が見えたのかもしれない。
この日シングルスピードで優勝するコッシーが隣の車に居た。コッシーにはSSで絶対に優勝してほしい気持ちがあったのだけど、彼の前では「優勝」の言葉を絶対に言わなかった。「優勝期待している」とか「優勝できるよ」とかそういう言葉は、今は何となく言わないほうが良いと思った。
ただ、色々と話すうちに勝つときのメンタルのようなモノをコッシーからひしひしと感じた。それを自分に置き換えたとき、「今の自分にはコッシーほどの強い気持ちが無いな」とレース前に思ってしまった。レースが始まる前のこの時点で、終わっていたと今では思う。
コッシーは結局優勝して安堵。本当におめでとう。この勝利を喜んだ人は多いと思う。
さて、自分のレースはというとかなり浮足立っていた。なんか落ち着かなく、しっかりと準備してきたものの、代車をピットに持っていくのを忘れてしまった。気づいたのはスタート前だった。それでも、「まぁ、いいか」と気持ちを切り替えた。
今まで、代車を忘れた事は1度も無かっただけに、この日はどう考えても注意散漫だった。
スタートは2列目、斎藤さんの後ろ。
レース前に齋藤さんに「ITさんマキノでも烏丸でも速かったしなぁ」と言われたけど、現状を考えるとパフォーマンスは下降する一方だから、気にしなくても良いと思うと伝えた。
号砲が鳴るまでの30秒ほどは異様に長く感じた。スタートからファーストコーナーまでは長いが、かかりがかなり悪く10番手程の位置。そこからコブを走る時に前の選手のミスに巻き込まれて一気に後ろに下がる。あぁ、走っている位置が悪い。それもまたスタートループを処理できない実力のうち。
芝区間を過ぎて砂浜へ。先頭はかなり前に行っている。正直な話、スタートループで勝負は結構決まると思っていた。走りながら体の調子や周りとの差を見て「だめかもしれない」とかなり弱気になっていたと思う。
去年の全日本はスタートの落車で最後尾まで落ちたんだけど、「絶対に表彰台には登る」という強い意思があった。そういうのが全く湧いてこないのは感じていたが、踏み止めるわけでもなく、一定ペースを刻む。
1周目はもはや混雑回避に時間を使ってラップタイムも散々、ただ2周目3周目は落ち着いてはしることができラップタイムは1秒以内に収まった。3周目に吉田選手と合流した。烏丸で2分半ぐらい差を着けて吉田選手には勝っては勝っていたものの、今日は自分の走りに自信が無かった。
追い込むごと、走るごとに、何かブレーキがかかる。
一緒に走っていて感じたのは、吉田選手は気持ちが強かった。ああ、これは自分は負けるなと思った。もうこうなると、負のスパイラルに入る。案の定、最終周回で自分の気持ちが切れてしまって、吉田選手を見送った。
特に追い込むわけでもなく、何かをするわけでもなく、ゴールまでの距離を消化した。正直最終周回の事はあまり覚えていない。写真を見返しても、良く思い出せない。
レース後、ピットに持っていくはずだった置き忘れた代車のハンドルをつかんだら、ぐるんとハンドルが回転した。最終締めを忘れて緩んでいたらしい。何から何まで、全てが緩んでいたレースだった。もしパンクして、代車に乗り換えていたら危なかった。
よくわからないが、ピットにバイクを置き忘れたのは、「台車に乗るな」という何かの暗示だったのかもしれない。ようわからんが、そういうことにしておこう。
全日本は日本一を決める大会だ。優勝以外に意味はない。敗因は何か考えるが、レース前から「今日はダメだわ」と思っていたメンタル面にあると思う。それをレースまで引きずった。
練習はかなり積んできたが、思うように戻らず、感染症は直ったものの、パワーや数値は正直で、今もフィジカルは戻ってこない。そういうフラストレーションがずっと続いて、徐々にネガティブになっていた可能性はある。今回の敗因という敗因は自分自身か。
「良いことは自分の手柄、悪いことは他人のせい」
という言葉はあるが、こうなった、こういう望ましくない結果に導いてしまったのは自分の責任にある。まぁ、それがわかっただけでも良かったのではないか。外的要因が結果に与えた理由など、何もない。
病気も完治した。走れるだけの身体も戻った。それでも、最後は精神的な弱気がブレーキをかけた。
敗因は自分の中に、あった。
来年は亘理で全日本選手権がある。もちろん走る。そこまでどう過ごすかは自分次第だけど、来年この記録を見返した時に、何かしら役に立ったと思えるようにしたい。またここからひとつひとつやっていく。
レース翌日からまた練習を再開した。ピーキングしていたが、やはりフィジカルは上がってこない。これは、これで受け入れる必要がある。今年はシーズン序盤の結果が良すぎたと思う。もうそのイメージは捨てよう。
また地道に練習して、上の順位を目指して走りたと思う。
今週も信太山、年明けは堺、希望ヶ丘、マイアミ、富田林と続くが本当に楽しみでならない。今回の結果で嫌になると思いきや、「次のレースを早く走りたい」と思う半ば病的なものがある。
それはCXが楽しいからなんだけど、そういう気持ちや悔しさが湧いてくるうちは、まだ走り続けようと思う。



















