78g、精度±1%、パワーメーターもここまできたか。
洗練されつくしたパワーメーターSIGEYI AXO SLはその存在感を消し、乗り手である人間と物理法則が直接対話するためのインターフェイスになる。
1980年代後半、SRM(Schoberer Rad MeBtechnik)が最初のパワーメーターを世に送り出して以来、パワーデータはプロフェッショナルの特権であった。しかし、21世紀に入り、技術の民主化が進む中で、その特権は広く一般のライダーへと開放された。
「SIGEYI AXO SL」は、このデータ民主化の潮流における一つの到達点である。中国・広州を拠点とするSIGEYI(シゲイー)が放ったこの第2世代スパイダー型パワーメーターは、単なる安価な代替品ではない。
それは、トポロジー最適化(位相最適化)という最先端の設計手法を用い、測定精度という科学的真実を追究し、そして「重量」という物理的制約に抗うための工学的挑戦の結晶である。
なぜ80グラムを切る重量で±1.0%の精度を実現できたのか。その有機的な形状はいかにして導き出されたのか。そして、前作AXOからの進化は、我々のライディング体験に何をもたらすのか。SIGEYI AXO SLの全貌を解き明かし、その真相に迫っていく。
測定の解剖学 – スパイダー型パワーメーターの構造的優位性
力の集約点としてのスパイダー
パワーメーターには、ペダル型、クランクアーム型、ハブ型など、計測箇所の異なるいくつかの形式が存在する。その中で、SIGEYIが採用し続けている「スパイダー型」は、構造力学的に見て極めて合理的な選択であると言える。
スパイダーとは、右クランクアームとチェーンリングを繋ぐ媒介パーツである。ライダーが左右のペダルに入力した力は、それぞれのクランクアームを経由し、最終的にこのスパイダー部分で合流する。
つまり、スパイダーは「ドライブトレインにおける力の交差点」であり、ここで計測を行うことは、システム全体に入力された総トルクを最も直接的に捉えることを意味する。
ペダル型パワーメーターが、左右それぞれの独立したセンサーからのデータを無線で統合する必要があるのに対し、スパイダー型は物理的に力が統合された後の「結果」を計測する。
これにより、通信エラーのリスクや左右のデータ同期のズレといった問題を構造的に回避しやすいというメリットがある。SIGEYI AXO SLが「両足計測」を謳いながらも、その実態が「総出力の計測」であることは、欠点ではなく、むしろシステムとしての堅牢性を示唆している。
ホイートストンブリッジと歪みの検知
AXO SLの核心にあるのは、金属の微細な変形を電気信号に変える「歪みゲージ」である。SIGEYIは、7075-T6アルミニウム合金で形成されたスパイダーアームの特定の部位に、複数の歪みゲージを接着している。
ライダーがペダルを踏むと、スパイダーには強烈なねじれ力(トルク)がかかる。金属は硬いが、微視的にはバネのように変形する。この変形量は、フックの法則に従い、加えられた力に比例する。歪みゲージは、この変形に伴う電気抵抗の微細な変化を検知する。
ここで用いられるのが「ホイートストンブリッジ回路」である。これは4つの抵抗素子(歪みゲージ)をひし形に配置した回路で、極めて微小な抵抗変化を電圧の変化として増幅して取り出すことができる古典的かつ究極のアナログ回路技術である。
AXO SLの精度±1.0%という数値は、この回路設計の精密さと、後述する温度補正アルゴリズムの高度な融合によって達成されている。
哲学的に言えば、パワーメーターとは「金属の痛みを聴く聴診器」である。ライダーの情熱や苦悶は、クランクという金属塊を歪ませる「応力」として物理現象化する。SIGEYIのエンジニアたちは、その金属の悲鳴をデジタルデータである「ワット(Watts)」へと翻訳する通訳者なのである。
ちょっとカッコイイことを言ってみた・・・。
トポロジー最適化 – 「形態は力に従う」の具現化
伝統的設計からの脱却
「トポロジー解析で導き出した形状」は、AXO SLを語る上で最も重要な視覚的・工学的特徴である。
従来の自転車部品の設計は、エンジニアの経験と勘、そして基本的な強度計算に基づいて行われてきた。「ここは力がかかりそうだから肉厚にしよう」「ここは軽めでも大丈夫だろう」といった具合である。
しかし、SIGEYIがAXO SLの開発に取り入れたトポロジー最適化は、このプロセスを根本から覆す。これは、設計空間、荷重条件、拘束条件をコンピューターに入力し、「剛性を最大化しつつ、質量を最小化せよ」という目的関数を与え、アルゴリズムに形状を生成させる手法である。
バイオミミクリーと構造の進化
トポロジー最適化によって生成されたAXO SLの形状を詳細に観察すると、ある種の「有機的な不規則性」が見て取れる。直線的なリブ(補強材)ではなく、力が流れる方向(ロードパス)に沿って滑らかに隆起し、応力がかからない部分は大胆に削り取られている。
AXO SLを初めて見た時、あるモノを連想した。あばら骨だ。
これは自然界における「骨」の形成プロセスと酷似している。生物の骨は、負荷がかかる方向には骨梁が発達して密度が高くなり、負荷がかからない部分は空洞化して軽くなるという、ウォルフの法則がある。
SIGEYIのエンジニアは、何万年とかかる生物進化のプロセスを、FEA(有限要素解析)を用いたシミュレーションの中で数千回の反復計算として実行し、短期間で「進化」させたのである。
SIGEYIによれば、AXO SLは「トポロジー最適化に基づいた3D構造設計」を採用し、「非重要応力エリアから余剰材料を除去」したとある。これにより、前作AXOに比べて体積を35%削減するという劇的なダイエットに成功している。
剛性と軽量化のパラドックスの解決
一般に、構造物を軽量化(材料を除去)すれば、剛性は低下する。しかし、AXO SLは前作から約25gの軽量化を果たしつつ、横剛性を8%、ねじれ剛性を10%向上させている。この直感に反する結果こそが、トポロジー解析の威力である。
前作AXOの設計には、構造力学的に見て「無駄な肉(剛性に寄与していない質量)」が存在していた。逆に、本当に剛性が必要な部分の補強が不十分であった可能性もある。
AXO SLでは、解析によって「力の通り道」が可視化されたことで、必要な部分にピンポイントで材料を配置し、不要な部分を徹底的に削ぎ落とすことが可能になった。
具体的には、チェーンリングボルト周辺の応力集中部と、クランクアームとの結合部(スプライン周辺)を繋ぐラインが強化され、一方でスパイダーアームの中間部における応力中立面付近の材料が除去されている。
これにより、ライダーの踏力はロスなくチェーンリングへと伝達され、数値上のパワーだけでなく、変速性能の向上やペダリングのダイレクト感といった官能的な性能向上にも寄与している。
80グラムの壁を破る – 重量削減の真相
前作AXOの重量が約105gであったのに対し、AXO SLはモデルによっては74g、平均して80g程度へと劇的な軽量化を遂げた。この「マイナス25グラム」は、単に削っただけでは達成できない。その要因を4つの次元で説明する。
1 Road AXO SL-SRAM-3-4-110 74g
2 Road AXO SL-SRAM-8-4-110 80g
3 Road AXO SL-ROTOR-ALDHU-4-110 82g
4 Road AXO SL-EASTON-4-110 79g
5 Road AXO SL-EE-3-4-110 74g
構造的要因:不要体積の35%削減
前述の通り、トポロジー最適化によって筐体デザインそのものが刷新された。スパイダーの「体積」自体が35%削減されていることは、使用されるアルミニウムの絶対量が減っていることを意味する。
特に、T47などの大口径ボトムブラケットに対応するために背面開口部を拡大したことは、互換性向上と軽量化の一石二鳥の効果をもたらした。
素材的要因:7075-T6アルミニウム合金の極限利用
AXO SLの筐体には、航空宇宙産業で標準的に使用される超々ジュラルミン「7075-T6」が採用されている。この合金は、一般的な6061アルミと比較して引張強度が非常に高く(約570MPa vs 310MPa)、より薄い肉厚で同等の強度を確保できる。
SIGEYIは、トポロジー解析の結果を7075-T6の物性と照らし合わせ、安全率を確保しつつ限界まで肉厚を薄くする設計を行った。これにより、見た目のスリムさと実用強度を両立させている。
電子的要因:PCBの小型化と統合
最も注目すべき技術革新は、内部のエレクトロニクスにある。SIGEYIの公式情報によれば、AXO SLではPCB(プリント基板)のサイズを57%削減することに成功している。
パワーメーターの重量は、金属筐体だけでなく、内部の電子基板、バッテリー、そしてそれらを防水・防振のために固定する「ポッティング材(充填樹脂)」によって構成される。
- 基板の縮小: 回路設計の最適化と高集積チップの採用により、基板面積が半分以下になった。
- ポッティング材の削減: 基板が小さくなれば、それを埋めるための樹脂の量も減る。樹脂は比重こそ軽いが、充填量が多いと数グラム単位の重量増となる。
- 配線の統合: 歪みゲージからの配線を統合し、ハンダ付け箇所やコネクターを最小限に抑えることで、信頼性を上げつつ重量を削っている。
この「電子的なダイエット」は、外からは見えない部分での壮絶なエンジニアリングの成果である。
※ポッティング材とは、電子部品や回路を湿気、塵、振動、衝撃などから保護するために使われる液体状の封止材(樹脂)のこと。
製造的・環境的要因
PCB製造における材料廃棄物を65%削減したという事実は、SIGEYIが単なる性能向上だけでなく、製造プロセスの効率化と環境負荷低減を意識していることを示している。
効率的な設計は、無駄な材料を使わないことであり、それは結果として軽量化とコストダウン、そして流行のサステナビリティへと繋がる。
精度の哲学 – ±1.0%を支える「見えない」技術
SIGEYIはAXO SLにおいて、測定精度±1.0%を謳っている。
安価なパワーメーターに対して懐疑的な視線が向けられることもあるが、著名なGPLamaやユーザーによる検証では、Tacx NeoやAssiomaといった基準機と比較しても極めて高い相関を示している。この精度を支える技術的背景を詳述する。
ASSIOMA PRO RSとの比較
SIGEYI AXO SLにASSIOMA PRO RSを取り付けて検証を行った。データーは無作為に抽出している。データーはDC RAINMAKERのアナライザーを使用した。
結果は、ほぼ同じ値を示している。ASSIOMA PRO RSとの誤差が最も大きかったのはスプリント時だ。最大で4.85%の誤差が生じた。それ以外は、おおむね1%以内の誤差に収まっているため、非常に高精度と言えるだろう。
SIGEYIはGen1でもGPLamaのテストで非常に良い結果を出している。Gen2になり内部チップは縮小されたかもしれないが、精度が高いと言われるASSIOMA PRO RSと遜色のない結果を出している。パワーメーターとして「かなり使える」部類に入る。
さらに今回のテストは気温が5℃と低い早朝に”わざと”行っている。SIGEYIに限っては、測定精度の心配は無用だろう。
能動的温度補正の真価
パワーメーターにとって最大の敵は「温度変化」である。金属は温度によって膨張・収縮する(熱膨張)。アルミニウムの熱膨張係数は比較的高く、たとえば冬の朝、暖かい室内(20℃)から極寒の屋外(0℃)へバイクを持ち出した場合、スパイダーは収縮する。
この収縮による変形は、歪みゲージにとっては「力がかかった」状態と区別がつかない。これが「ゼロ点ドリフト」である。補正がなければ、何も踏んでいないのに「50ワット」と表示されたり、実際の出力より低く表示されたりしてしまう。
AXO SLは、温度センサーを内蔵し、リアルタイムで温度変化を監視している。アルゴリズムは、事前にプログラムされた7075アルミの熱膨張特性に基づき、検知した温度変化分を測定値から差し引く(または加える)。
これを「能動的」に行うことで、氷点下のライドから炎天下のヒルクライムまで、環境に左右されない一貫したデータを提供する。
これは哲学的に言えば、デバイスが「自らの置かれた環境を認識し、自己を律する」機能である。外界の変動(ノイズ)を排除し、ライダーの出力(シグナル)だけを抽出する純粋化のプロセスである。
オートゼロと手動キャリブレーション
ATCに加え、AXO SLは「オートゼロ」機能を搭載している。走行中、ライダーが足を止めてクランクを空転させている間(トルクがかかっていない状態)、パワーメーターは自動的にゼロ点を再設定する。
これにより、長時間のライド中に蓄積する微細なズレ(ドリフト)がリセットされ、常にフレッシュな基準点で計測が行われる。
また、ユーザーはアプリやサイクルコンピューターから手動で「ゼロリセット(キャリブレーション)」を行うことも可能である。SIGEYIのマニュアルでは、チェーンリング交換時や取り付け直後には必ず手動キャリブレーションを行うよう推奨している。
これは、ボルトの締め付けトルクの変化がスパイダーの初期応力を変化させるためである。
推定左右バランスの是非
AXO SLは「左右バランス」を表示する機能を持つが、これはペダル型のような独立した左右のセンサーによる実測値ではない。スパイダー型は構造上、右足の踏み込みも左足の踏み込みも、同じ方向への回転トルクとして合算して計測する。
では、どうやって左右を分けているのか? それは「時間」と「角度」による推測である。
クランク1回転(360度)のうち、0度~180度(右足の踏み込み区間)で発生したトルクは右足のもの、180度~360度(左足の踏み込み区間)は左足のもの、と加速度センサーのデータと照らし合わせてアルゴリズムで振り分けている。
これを「偽物のデータ」と断じるのは早計である。
多くのサイクリストにとって、左右バランスはペダリングの癖を知るための相対的な指標であり、厳密な絶対値よりもトレンド(傾向)が重要である。
SIGEYIのアプローチは、高価なデュアルセンサーシステムを導入することなく、単一センサーと高度なアルゴリズムによって「実用上十分なインサイト」を提供するという、プラグマティズム(実用主義)に基づいている。
前作AXOからの変更点と進化の全貌
AXOからAXO SLへの進化は、単なるマイナーチェンジではない。それは「再定義」に近い。
| SIGEYI AXO (旧モデル) | SIGEYI AXO SL (新モデル) | 進化 | |
| 重量 | 約100-110g | 74g – 85g |
約25%の軽量化。回転体の軽量化はバイクの振りに好影響。 |
| 前面形状 | 凹凸のあるデザイン | 完全フラット |
エアロダイナミクス向上、掃除のしやすさ、OEMのような一体感。 |
| 体積 | 標準的 | -35% |
コンパクト化。T47などBB周辺が狭いフレームとの干渉回避。 |
| 横剛性 | 基準値 | +8% |
フロント変速時のたわみ減少、変速性能の安定化。 |
| ねじれ剛性 | 基準値 | +10% |
パワー伝達ロスの低減、ペダリングのダイレクト感向上。 |
| 測定項目 | パワー, ケイデンス, L/R | +ペダルスムーズネス |
ペダリング効率の可視化。より高度なトレーニング解析が可能に。 |
| 精度 | ±1.0% | ±1.0% | 高精度を維持。信頼性の継承。 |
| 充電ポート | マグネット式 | 改良型マグネット式 |
接続安定性の向上。泥や汗に対する耐性強化。 |
| PCB | 標準サイズ | -57% 小型化 |
軽量化の主因。環境負荷の低減。 |
| 対応クランク | 主要メーカー対応 | ラインナップ拡大 |
Shimano MTB, SRAM 3/8-bolt, Rotor, Easton, RaceFaceなど広範に対応。 |
「SL」の称号とデザイン言語
「SL(Super Light)」という接尾辞は、自転車業界において特別な意味を持つ。それは極限までの贅肉の削ぎ落としを意味する。
AXO SLの起伏の少ないフラットな表面仕上げは、空力特性の向上を意図したものであると同時に、近年のカーボンクランクやエアロチェーンリングとの視覚的な調和を目指したものである。
また、装飾用のデカール(ステッカー)が付属し、ユーザーが自分のバイクのカラーに合わせてカスタマイズできる点も、機材を愛でるホビーサイクリストの心理を巧みに突いている。
機能追加:ペダルスムーズネス
AXO SLでは、ANT+の規格に含まれる「ペダルスムーズネス」の送信に対応した。これはペダリング1回転中の平均パワーと最大パワーの比率を示す指標である。
前作ではパワーとケイデンス、左右バランスだけであったが、この指標が加わったことで、ユーザーは「いかに綺麗に回せているか」を数値化できるようになった。
これはハードウェアの変更というよりは、内部プロセッサーの処理能力向上とファームウェアの進化による恩恵と考えられる。
市場における立ち位置と競合比較
SIGEYI AXO SLの登場は、パワーメーター市場における「価格破壊」と「性能の底上げ」を同時に加速させた。競合他社との比較を通じて、その立ち位置を明確にする。
vs. Quarq (SRAM)
SRAM傘下のQuarqは、スパイダー型パワーメーターの事実上の業界標準(ゴールドスタンダード)である。
- 精度と信頼性: Quarqは長年の実績があり、プロツアーでも使用される信頼性がある。SIGEYIも精度面では肉薄しているが、ブランド力と長期間の耐久実績ではQuarqに分がある。
- 価格: Quarq DZeroスパイダーは単体で約9万円ほどであったが、SIGEYIは約6.8万円と、半額近い価格設定である。
- 重量: Quarqのアルミ製スパイダーと比較しても、AXO SL(約80g)は軽量である(Quarqはモデルによるが100g超のものが多い)。
- 拡張性: SIGEYIは、古いSRAMクランクや、Shimano MTBクランク、Eastonなど、Quarqがサポートしていない規格にも対応するモデルを展開しており、「既存のクランクをパワーメーター化する」というニーズに対して圧倒的に柔軟である。
vs. Power2Max (NGeco)
ドイツのPower2Maxは、堅牢性と信頼性で知られる。特にトラック用途での採用が多く、アワーレコードでも使用された実績がある。筆者のトラックバイクもNGecoだ。
- 課金モデル: NGecoは安価なエントリーモデルだが、一部の高度な機能(左右バランスなど)を有効化するために追加の課金が必要な場合がある(モデル・時期による)。SIGEYIは全機能を最初から開放している。
- バッテリー: NGecoはボタン電池(CR2450)仕様が主流だが、AXO SLは充電式である。これは好みが分かれる点だが、ランニングコストと防水性(電池蓋の開閉がない)の面では充電式にメリットがある。
vs. Magene / XCadey
同じ中国系ブランドであるMagene(P505)やXCadey(XPOWER-S)も強力なライバルである。
- Magene P505: 重量は約110gとAXO SLより重いが、専用チェーンリングとの統合デザインなど、見た目の高級感に力を入れている。
- XCadey: 重量は約100g~110g。価格はSIGEYIと同等かさらに安い場合があるが、初期の防水トラブルなどの評判から、信頼性の面でSIGEYIが一歩リードしているという市場認識がある。
- SIGEYIの優位性: 「80g以下」という明確な軽量化アドバンテージと、トポロジー最適化による剛性強化のストーリー、そしてGPLamaやDC Rainmakerといった主要レビュアーからの肯定的な評価が、SIGEYIを「中華パワーメーターの筆頭」へと押し上げている。
インプレッション – データと人間性の融合
不確定性の中の定数としての「ワット」
サイクリングは、不確定要素の塊である。向かい風、路面抵抗、勾配、そして自身の体調。その中で、AXO SLが指し示す「250W」という数字だけが、揺るぎない真実である。
パワーメーターは「自己客観視のための鏡」である。鏡は嘘をつかない。調子が良いと感じてもパワーが出ていなければそれは幻想であり、逆に苦しくてもパワーが出ていればそれは成長の証である。
SIGEYI AXO SLは、その鏡をかつてないほど軽量かつ高精細にし、多くのライダーの手に届く場所に置いた。
テクノロジーの不可視化
AXO SLのデザイン哲学には、「存在の消去」が見て取れる。
小型化、軽量化、そしてクランクと一体化するフラットなデザイン。これらはすべて、デバイスが主張することをやめ、「黒子」に徹するための進化である。ライダーはパワーメーターの存在を意識することなく、ただ走ることに集中する。
そしてライドが終わった後、ログを見返したときに初めて、膨大なデータが記録されていることに気づく。
アーサー・C・クラークの法則の言葉を借りれば、「最高のテクノロジーとは、区別がつかないほど自然なものである」。AXO SLは、その領域に足を踏み入れている。80gという質量は、もはや持っていることさえ忘れさせる軽さである。
リスクと信頼
一方で、充電式バッテリーや無線通信、歪みゲージといった繊細な電子機器を、泥や雨、振動に晒されるクランク周りに配置することは、常に故障のリスクと隣り合わせである。SIGEYIがIP67の防水防塵性能 を確保し、2年間の保証 を提供していることは、このリスクに対するメーカーの回答である。
我々は、この小さな黒い円盤(スパイダー)に、トレーニングの指針やレースのペース配分という、サイクリストとしての「運命」の一部を委ねている。その信頼に応えるために、SIGEYIはトポロジー解析で骨格を粘り強くし、温度補正で脳髄(アルゴリズム)を賢くしたのである。
まとめ:次世代のスタンダードへ
SIGEYI AXO SLについてまとめると、結論が導き出される。
- 軽量化: トポロジー最適化による不要部分の35%削減、PCBの57%縮小、7075-T6アルミの採用により、80g切りというクラス最軽量レベルを達成した。これは偶然ではなく、緻密なエンジニアリングの必然である。
- 精度: ±1.0%の高精度計測とオートゼロ、温度補正機能を備えながら、競合の半額近い価格設定を実現したことで、高度なパワートレーニングへの参入障壁を劇的に下げた。
- 構造的合理性: スパイダー型という、ドライブトレインの核心部での計測方式を採用しつつ、剛性を前作比で約10%向上させたことで、データ計測だけでなく、バイクの駆動系パーツとしての基本性能も高めた。
SIGEYI AXO SLは、単なる「安くて軽いパワーメーター」ではない。それは、現代の解析技術(FEA/トポロジー最適化)と製造技術(CNC/PCB集積)が融合した、機能美の結晶である。
サイクリストがそのペダルを踏むとき、AXO SLは静かに、しかし正確に、その情熱を数値へと変換し続ける。それはまさに、デジタル時代におけるサイクリストと世界を繋ぐ、信頼に足るリンク(絆)なのである。

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