前作のNepest MAUIは本当に使いたくないホイールだった。
当時、インフルエンサーやYoutuber達が絶賛していたが、どうしてもホイールの走りが合わず、インプレッションにもそう書いた。Nepest社には貴重な機会を与えていただいた感謝を伝え、記事内容の謝罪を行いホイールを返却した。
しかし、NOVAは違っていた。これまでのカーボンスポークホイールとは一線を画していたのだ。

従来のカーボンスポークが抱えていた「高剛性だが乗り心地が硬すぎる」という根本的な課題、いわば「カーボンスポークのパラドックス」を解決するために設計された完組ホイールは新型ROVAL RAPIDE CLX IIIとNepest NOVAだけだ。
だから、NOVA 45は気に入ってずっと使っている。今回はこちらからお願いして、NOVA Xをテストすることになった。前作のMAUIを散々酷評しているのにもかかわらずまた機会を頂いた。Nepest社の懐の深さと、NOVAに対する自信の表れだろう。
前置きが長くなったが、Nepest NOVA Xについて話していこうと思う。
香港を拠点とする新興ブランドNepestが市場に投入したNOVA X (45/55)ホイールセットは、単なる軽量カーボンホイールという枠組みを超え、性能における新たな地平を切り拓く可能性を秘めている。
2025年のユーロバイクやサイクルモード東京といった主要な国際展示会で注目を集めたこの製品は、特に技術に精通したサイクリストから高い注目を集めた。本記事は、このホイールセットがなぜ注目を集めるのか、その核心に迫るものである。
中国・厦門の先進的な製造拠点で生み出され、約219,800円という戦略的な価格で提供されるNOVA Xは、VONOA製第4世代カーボンスポークとCEMAセラミックベアリングという最先端技術を統合し、これまで両立が困難とされてきた「高剛性」と「快適性」の融合をいかにして実現したのかを技術的観点から解き明かす。
Nepest NOVA X (45/55) の技術的解剖
Nepest NOVA X (45/55)の性能を理解するためには、個々のコンポーネントを詳細に分析し、それらがシステムとしてどのように機能するかを解明する必要がある。
リムの設計思想から、革新的なスポーク技術、そして動力伝達の心臓部であるハブに至るまで、全ての要素が緻密な計算と明確な目的の下に統合されている。本章では、このホイールセットを構成する各技術要素を客観的なデータに基づき徹底的に解剖する。
構造と主要諸元
まず、ホイールセットの全体像を把握するために、その基本となる技術諸元を一覧で示す。以下の表は、メーカー公称値や実測値をまとめたものである。このデータは、後述する詳細な技術分析の基礎となる客観的な指標を提供する。
| 項目 | 仕様 | 出典 |
|---|---|---|
| リムハイト(前/後) | 45mm / 55mm | |
| リム内幅 | 23mm | |
| リム外幅 | 30mm | |
| リム素材 | 東レ T800 カーボンファイバー | |
| タイヤ適合性 | チューブレスクリンチャー(フックド) | |
| スポーク | VONOA 第4世代 Tヘッド カーボンエアロスポーク | |
| スポーク本数(前/後) | 21本 / 21本 (2:1 レーシング) | |
| ハブ | Nepest パテントハブ / 36T ラチェットシステム | |
| ベアリング | CEMA セラミックベアリング | |
| 公称重量(セット) | 約1250g | |
| ライダー体重制限 | 125kg / 275lbs | |
| 国内販売価格 | 219,800円 |
実測重量
55の実測重量は698gであった。

45mmは653gだ。35gほど55mmは重い。

45mmのフロントは565gであるため、NOVA X(45/55)の合計実測重量は1,263gとなる。
リム:空力と安定性の設計思想
NOVA Xのリムは、現代のロードサイクリングにおける要求を深く理解した設計思想に基づいている。素材には軽量かつ高剛性で知られる東レT800カーボンファイバーを採用し、塗装を排したペイントレスフィニッシュとすることで、傷への耐性を高めると同時に、数グラム単位での軽量化を徹底している。
しかし、その真価は断面形状と寸法にこそ見いだされる。リムは横風の影響を受けにくく、安定したハンドリングを実現する現代的なU字形状プロファイルを採用している。
特に注目すべきは23mmという極めて広いリム内幅である。この設計は、28mmから32mm幅のタイヤとの最適なインテグレーションを意図したものであり、タイヤとリムが一体となった滑らかな翼断面を形成する。
これにより、タイヤを含めたシステム全体の空力性能が向上するだけでなく、タイヤのサイドウォールが適切に支持され、コーナリング時のグリップと安定性が大幅に向上する。
この設計は、単一の空力指標、例えばゼロヨー角での抗力係数(C_d)の最小化のみを追求する旧来の思想とは一線を画す。
Nepestのエンジニアリングレビューよると、NOVAのリムプロファイルは絶対的な空気抵抗の削減よりも、むしろ現実世界の多様な風向条件下での「安定性」を優先して最適化されていることが示唆されている。
これは、ライダーが自信を持ってバイクをコントロールできることこそが、実質的な走行速度を決定するという、より高度な設計哲学の現れである。純粋な空力性能から、機械的安定性を含めたシステムダイナミクスへと設計の重点が移行していることを示している。
スポーク:VONOA第4世代カーボンの革新
NOVA Xホイールセットの性能を決定づける最も重要な要素は、VONOA製の第4世代カーボンエアロスポークである。
このスポークは、従来のカーボンスポークが抱えていた「高剛性だが乗り心地が硬すぎる」という根本的な課題、いわば「カーボンのパラドックス」を解決するために設計された革新的なコンポーネントである。
一本あたりの重量が約1.8gと極めて軽量でありながら、その引張強度はトップクラスのスチールスポークを凌駕する。これにより、少ないスポーク本数(前後各21本)で高い横剛性を確保し、スプリントや登坂時における鋭い反応性を実現している。

さらに、ハブ側には回転を防ぐTヘッドデザインとチタン製のエンドパーツが採用されており、正確なスポークアライメントを維持し、長期的な信頼性を高めている。
しかし、このスポークの真の革新性は、メーカーが謳う「最適化された柔軟性」と「優れた振動減衰性」にある。これは、スポークの素材であるHI-MODカーボンの積層設計(レイアップ)を意図的に調整することで達成される。
単一の硬い梁として機能するのではなく、高周波の路面振動に対してはスポーク全体が微細に撓(しな)り、エネルギーを効果的に吸収・減衰させる。一方で、ペダリングによる低周波の大きな入力に対しては、その高い引張強度によって変形することなく、パワーを確実に伝達する。

この特性により、垂直方向の快適性と、横方向およびねじれ方向の剛性という、相反する性能を分離することに成功している。NOVA 45のレビューでも「ステンレススポークのようなしなやか」と表現したのは、この高度なマイクロエンジニアリングの成果に他ならない。
これは単に「快適なカーボンスポーク」ではなく、材料科学の根本的な課題を解決した技術的ブレークスルーであり、NOVA Xが従来の性能トレードオフを打破した核心的な理由である。
ハブ:動力伝達の心臓部
ホイールの心臓部であるハブにも、信頼性と性能を両立させるための設計が施されている。Nepestが独自に開発し特許を取得したハブ構造は、走行中の衝撃によるスポークの脱落を防ぐ「アンチデタッチメント構造」を特徴とし、ライダーに高い安全性と安心感を提供する。
フリーハブには、DT Swiss社製ハブでも広く採用され、その信頼性が証明されている36Tのスターラチェット機構が搭載されており、確実な動力伝達とメンテナンスの容易さを両立している。
本ハブ内部に使用されているグリスは、いわゆるDTSWISSの「赤グリス」ではなく透明で粘度のやや高いグリスである。雨天や晴天の日など、様々な条件で4ヶ月ほどかなり使い込んだが、内部はふき取るとすぐに汚れが取れるほど綺麗でありその防塵性能がうかがえる。
ベアリングには、ツール・ド・フランスなどのプロレースでも使用実績のあるCEMA製セラミックベアリングを標準装備している。セラミックベアリングによるワット削減効果については議論があるものの、その採用は、目に見えない内部部品においても品質に妥協しないというブランドの姿勢を示す強力なシグナルである。
これは、製品のプレミアムな位置付けを正当化し、専門知識を持つユーザーからの信頼を獲得するための戦略的な部品選定と言える。
また、スポークの組み方には2:1レーシングパターンが採用されている。これは、ディスクブレーキ側やドライブ側にスポークを反対側の2倍配置することで、左右のスポークテンションを均一化し、ホイール全体の耐久性と安定性を向上させるための業界のベストプラクティスである。
これらの要素は、NOVA Xが長期的な信頼性とライダーの安心感を重視して設計されていることを明確に示している。
インプレッション:実走性能レビュー
技術仕様が実際の走行体験にどのように反映されるかを検証することは、ホイールセットの真価を評価する上で不可欠である。
実走におけるNOVA Xを分析し、性能を多角的に評価する。これらの主観的なインプレッションは、前章で詳述した客観的な技術データと密接に関連している。
加速と登坂性能:軽量性がもたらす恩恵
頻繁に体験できるのは、その驚異的な軽量性に由来する加速性能である。「漕ぎ出しが違う」「めちゃくちゃ軽い」といった直感的な体験は、このホイールセットの特性を的確に捉えている。この鋭い加速感は、単に全体の重量が軽いだけでなく、回転部分、特にリムとスポークの質量が極めて小さいことに起因する。
物理学的に、回転体の加速に必要なエネルギーは、その回転慣性質量に比例する。NOVA Xは、軽量なT800カーボンリムと1本あたり約1.8gのVONOAカーボンスポークの採用により、回転慣性を大幅に低減している。
これにより、ライダーがペダルに込めた力が、タイムラグなく即座に推進力へと変換される。この「スナップの効いた」感覚は、ゼロ発進時やコーナーからの立ち上がり、そして勾配が変化する登坂路で特に顕著なアドバンテージとなる。
巡航性能と快適性:剛性と柔軟性の両立
NOVA Xが真に革新的である点は、前述の鋭い加速性能と、長距離走行における卓越した快適性を両立させていることにある。
従来の硬質なカーボンスポークホイールとは異なるのは、「長時間のライドでも疲れにくい」「ステンレススポークのホイールのようなしなやかさを感じる」という点だ。これは、VONOAスポークが持つ振動減衰特性が、路面からの微細な振動を効果的に吸収し、ライダーへの負担を軽減していることの証左である。
重要なのは、この快適性が動力伝達効率の犠牲の上に”成り立っていない”点である。
同時に「平坦の巡行がラク」という体感があり、一度速度に乗れば、その速度を効率的に維持できることを示している。ただし、ROVAL RAPIDE CLX IIIやPrinceton Carbon Works WAKE6560、DTSWISS ARC 1100 50、ENVE SES 4.5 Gen3といった50~60mmの前後ディープリムと比較すると、NOVA Xは減衰スピードがやや早い。
しかし、COSMIC ULTIMATE 45、LightWeight、パーティントンR-SERIES MKII R39/44のような完全剛体のホイールにありがちな、パワーを与え続けなければすぐに減衰していってしまうような嫌な走り方をしない。
NOVA Xは、高いスポークテンションと横剛性が、ペダリングパワーのロスを最小限に抑えていることが想像できる。NOVA Xは剛性と柔軟性という二律背反の要素を高い次元で両立させたことこそ、NOVA Xの最大の功績である。
ハンドリングと横風安定性
フロント45mm、リア55mmという前後異径のリムハイトは、空力性能とハンドリングのバランスを最適化するための合理的な選択である。フロントリムの高さを抑えることで、横風を受けた際のステアリングへの影響を最小限に留め、ライダーに安定したコントロールを提供する。
実際に、「横からの突風も問題ない」と感じた。その安定性の高さを裏付けている。
一方で、よりハイトの高いリアホイールは、慣性モーメントを活かして高速巡航時の速度維持に貢献する。この組み合わせに、タイヤとの一体感を高めるワイドなU字型リムプロファイルが加わることで、高速域でのコーナリングや荒れた路面においても予測可能で信頼性の高いハンドリング性能が実現される。
現代の最新設計のホイールは、ROVAL RAPIDE CLX IIIのようにフロントが高く、リアが低い設計が登場してきた。しかしNOVA Xは、前述の通り、リム設計が絶対的な空力性能よりも現実世界での安定性を重視していることの直接的な結果であろう。
市場における位置付けと競合比較
Nepest NOVA X (45/55)の真の価値を評価するためには、技術的な優位性だけでなく、競争の激しいハイパフォーマンスホイール市場におけるその位置付けを明確にする必要がある。
ここでは、主要な競合モデルとの客観的な比較を通じて、NOVA Xのコストパフォーマンスと独自の価値提案を分析する。
主要競合モデルとの比較分析
NOVA Xは、軽量オールラウンドホイールというカテゴリーにおいて、業界をリードする複数の著名なモデルと直接競合する。
以下の表は、重量が近しい1200g台のRoval Alpinist CLX II、Cadex 42 Disc、Bontrager Aeolus RSL 37といったベンチマークとなる製品群とNOVA Xの主要スペックを比較したものである。このデータは、各製品の設計思想の違いと、NOVA Xの競争上の優位性を浮き彫りにする。
| 項目 | Nepest NOVA X (45/55) | Roval Alpinist CLX II | Cadex 42 Disc | Bontrager Aeolus RSL 37 |
|---|---|---|---|---|
| 公称重量 (g) | 1,250 | 1,265 | 1,327 | 1,325 |
| リムハイト (mm) | 45/55 | 33 | 42 | 37 |
| リム内幅 (mm) | 23.0 | 21.0 | 19.4 | 21.0 |
| スポーク技術 | VONOA カーボン | DT Swiss Aerolite (スチール) | Cadex カーボン | DT Swiss Aerolite (スチール) |
| ハブ内部機構 | Nepest 36T ラチェット | DT Swiss 180 (36T EXP) | Cadex ラチェット | DT Swiss 240 (36T EXP) |
| 国内参考価格 (円) | 約220,000 | 約385,000 | 約396,000 | 約360,000 |
比較から明らかなように、リムハイトと重量が良い意味でアンバランスだ。
NOVA Xは競合製品と同等、あるいはそれ以上に軽量でありながら、リム内幅は23mm、45mm/55mmと最も広く深く、現代的なタイヤとの組み合わせにおいて優位性を持つ。
最も顕著な違いは、カーボンスポークを搭載している点と、圧倒的な価格競争力である。競合が40万円前後の価格帯に位置する中で、NOVA Xは約半額近い価格で同等以上の技術仕様を提供している。
コストパフォーマンスと価値提案
NOVA Xの価値提案は、単に「安価である」ということではない。むしろ、「先進技術へのアクセスを民主化する」という点にある。RovalやBontragerといった大手ブランドは、長年の研究開発投資とブランドエクイティを背景に高い価格設定を維持している。
これに対し、Nepestは異なる戦略を採用している。
彼らは、全てのコンポーネントを自社開発するのではなく、各分野で最高水準の技術を持つ専門メーカーと戦略的に提携する「スマート・コンポーネント・インテグレーション」という手法を採っている。
スポークはVONOA、ベアリングはCEMAといった、その分野で最先端を走る企業の製品を積極的に採用することで、巨大な研究開発コストを投じることなく、最先端の技術パッケージを構築しているのである。
このアプローチは、より俊敏で現代的なサプライチェーンを反映したものであり、市場における破壊的イノベーションの典型例と言える。ユーザーは、ブランドの威光ではなく、純粋な技術的価値に基づいて製品を選択することが可能になる。
NOVA Xが提供するのは、単なる低価格ではなく、技術的先進性と価格的合理性を両立させた、極めて賢明な価値提案なのである。
メリットとデメリットの総括
これまでの技術分析と実走レビュー、市場比較を踏まえ、Nepest NOVA X (45/55)のメリットとデメリットを客観的に総括する。このホイールセットは多くの点で画期的な性能を提供する一方で、いくつかの考慮すべき点も存在する。
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メリット
- 革新的な乗り心地: VONOAカーボンスポークがもたらす、高い剛性と卓越した快適性の両立は、このホイールセット最大の利点である。スプリント時の鋭い反応性と、長距離走行での疲労軽減を同時に実現する。
- 卓越した軽量性: 競合のトップモデルに匹敵する軽量性を実現しており、特に登坂性能と加速性能において明確なアドバンテージを提供する。回転質量の低さが、軽快なライディングフィールに直結する。
- 高いコストパフォーマンス: カーボンスポークやセラミックベアリングといった、通常はハイエンドモデルにのみ採用される技術を、ミドルレンジの価格帯で提供している。技術的な価値提案が極めて高い。
- 高品質なビルドと付属品: 丁寧な手組みによる均一なスポークテンションや、高品質なホイールバッグ、予備スポークが付属するなど、製品全体の品質とユーザーへの配慮が見られる。
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デメリット
- ブランド認知度と実績: Nepestは比較的新しいブランドであり、長年にわたるレースシーンでの実績やブランドの権威性という点では、確立された競合他社に及ばない。
- 専用部品とメンテナンス性: 独自のTヘッドカーボンスポークや内蔵ニップルは、メンテナンス時に専用の工具や知識を必要とする。予備スポークの入手や、対応可能なメカニックを見つけるのが困難になる可能性がある。
- 最高速域での巡航性能: 一部のレビューでは、超軽量設計のトレードオフとして、トップエンドのエアロホイールと比較した場合に、平坦での最高速維持性能がわずかに劣る可能性が示唆されている。
まとめ:最終評価と次のステップへの提言
総合的に評価すると、Nepest NOVA X (45/55)は、単なるコストパフォーマンスに優れた代替品ではなく、ホイール設計における新たな方向性を示す、技術的に極めて重要な製品である。
特に、VONOA第4世代カーボンスポークの採用によって達成された「剛性と快適性の両立」は、これまで多くのライダーやエンジニアが直面してきた性能のトレードオフを解消する、画期的な成果と言える。
このホイールセットは、ブランドの歴史や名声よりも、純粋な技術的合理性と実質的なパフォーマンスを重視する、知識集約型のサイクリストにとって理想的な選択肢となるだろう。
それは、最新の材料科学と機械設計がもたらす具体的なメリットを理解し、自身のパフォーマンス向上に直結させたいと考えるサイクリスト達である。結論として、Nepest NOVA X (45/55)は、現代のホイール技術が到達した一つの最適解示している。
もしあなたが、既存の枠組みを打ち破る革新的なエンジニアリングによってもたらされる、定量的なパフォーマンス向上を求めているのであれば、このホイールセットは真剣な検討とテストに値する。
これは、高性能ホイール設計における長年の課題に対する、説得力のある一つの解答を体験する絶好の機会となるだろう。
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