Nepestから新型NOVA 2が登場した。
VONOA第4世代スポークを採用した以外、目新しいことが無い。むしろリム内幅21mmの設計は保守的に見える。しかし、これらの設計は今後登場してくるであろうホイールが向かうべき方向性を示唆している。
2020年代初頭から中盤にかけて、ロードバイクのホイール技術はカンブリア爆発のような多様化と拡張の時代を経験した。
リム内幅は17mmから19mm、21mm、そして25mmへと急速に拡大し、タイヤの標準規格は23cから28c、30cへと移行した。フックレスリムの台頭、カーボンスポークの一般化、空力理論はより複雑化した。
エンジニア達は、常に「より太く、より低圧で、よりエアロに」というスローガンのもと、機材の境界線を拡張し続けてきたのである。

しかし、2025年時点において、その振り子は一度戻りつつある。あるいは、単に戻ったのではなく、膨大な実験データの果てに「真の最適解」という一点に凝縮し始めたと言うべきだろう。
このタイミングでNepest社が発表した「MAUI2」は、一見すると保守的に映るスペックの中に、極めて先鋭的なエンジニアリングの意図を隠し持っている。
特に、リム内幅を21mmに設定した決断は、同時代に市場をリードするSpecialized社のRoval Rapide CLX IIIが下した判断と完全に一致しており、業界全体が「無制限のワイド化」から「実戦的最適化」へと舵を切ったことを象徴している。
今回は、MAUI2の単なる「新製品紹介」に留まらず様々な観点から、このホイールがどのような意味を持つのかを詳らかにする。特に、同社の革新的モデルである「Nepest NOVA」との比較分析を通じて、ライダーが直面する選択のジレンマに対する明確な回答も提示したい。
リム内幅21mmへの回帰:物理法則と空力の「黄金比」
「ワイド化信仰」へのアンチテーゼとエンジニアリングの正気
リム内幅はどこまで広がるのか―――。
過去数年間、業界を支配していたのは「ワイド化信仰」であった。リム内幅を23mmや25mmに広げれば、タイヤのエアボリュームが増し、乗り心地が良くなり、転がり抵抗が減る――この理論に異論はない。
しかし、そこには重大な欠落があった。「システム全体の空力効率」と「重量ペナルティ」、そして「安全性」への視点である。Nepest MAUI2が21mmという内幅を選択したことは、2026年におけるロードレース機材の「正気」を取り戻す行為に見える。
なぜなら、プロフェッショナルレースの現場において、使用されるタイヤの主流は依然として26cから28cであり、30c以上のタイヤはパリ~ルーベのような特殊な環境を除けば、重量と空力の観点から敬遠される傾向にあるからだ。
Roval Rapide CLX IIIとの共通点:偶然ではなく必然


この21mmという数値の正当性を証明する最大の証左が、Roval Rapide CLX IIIの存在である。Specialized社のエンジニアリングチームは、膨大な風洞実験と実走データの解析の末、最新のフラッグシップモデルにおいても内幅21mmを継続採用した。
なぜ世界最高峰の開発力を持つ彼らが、トレンドである23mmや25mmに移行しなかったのか。筆者自身は23mmか25mmに移行する(して欲しい)と思っていたのだが、その考えは外れてしまった。
ROVALが内幅21mmにこだわったのは実験上の「空力とヒステリシスロスのスイートスポット」にある。
空力における「105%ルール」の支配


空力エンジニアリングの世界には「105%ルール」と呼ばれる経験則が存在する。リムの外幅は、装着されたタイヤの実測幅の少なくとも105%でなければならない、というものだ。
これにより、タイヤ側面で剥離した気流をリムが再捕捉し、乱流を抑制して推進力に変える「セーリング効果」を得ることができる。
28cタイヤを21mm内幅のリムに装着した場合、タイヤの実測幅はおよそ29mm~30mmに落ち着く。これに対し、MAUI2のリム外幅は29mmである。これはタイヤとリムの段差を極限まで減らし、サイドウォールをフラットに保つためのギリギリの設計値だ。
もし内幅を23mmに広げてしまえば、同じ28cタイヤでも実測幅は31mmを超えて膨張する。これに対応して「105%ルール」を守ろうとすれば、リム外幅は32mm~33mm必要となり、ホイール重量は劇的に増加してしまう。
つまり、MAUI2の21mm内幅は、「28cタイヤを最速で走らせるための、重量と空力の妥協なき均衡点」と捉えることができる。
フックドリムによる絶対的安全マージン
MAUI2が採用した「Uシェイプ・フックドリム」 もまた、プロフェッショナルユースを意識した選択だ。フックレスリムは製造コストが安く軽量化しやすい反面、タイヤのビード保持力においてフックドリムに劣るという物理的特性からは逃れられない。
最大空気圧8.2 Bar(クリンチャー運用時) を許容するMAUI2の設計は、ダウンヒルで時速100kmに迫るプロライダーや、機材の不確実性を嫌うエンジニアにとって、何物にも代えがたい「安心」という性能を提供する。
タイヤが外れるリスクが0.1%でもある機材で、限界のコーナリング攻めることはできない。MAUI2は、革新よりも信頼を選んだのではなく、「信頼こそが速さの基盤である」という哲学を体現している。
VONOAスポークの採用:ホイールという構造体の「筋肉」を変えた
ステンレスからカーボンへ:素材革命の第4世代
MAUI2の走りを決定づける最大の要素は、VONOA社製のST-400カーボンスポークの採用である。これは従来のステンレススチールスポーク(例:Sapim CX-Ray)からの単なる素材変更ではない。ホイールという構造体の「筋肉」そのものを入れ替える革命だ。
ステンレススポークは金属の「バネ」としての性質を持つ。ペダルを踏み込んだ際、スポークは微細に伸長し、その反動でホイールが回転する。これに対し、カーボンスポークは「柱」である。引張強度が圧倒的に高く、弾性変形が(基本的には)極めて少ない。
30%の断面積縮小は何をもたらすか
Nepest NOVAで採用された第4世代VONOAスポーク技術は、MAUI2にも継承されている。特筆すべきは、従来のカーボンスポークと比較して断面積を30%縮小し、空気抵抗を低減している点だ。
実際にこのスポークを用いたホイール(NOVA 35, 45, 55)を何度もテストしたが、感覚を言語化するならば、それは「スチールのしなやかさ」である。従来のカーボンスポークの特徴だった「木の車輪」の様な嫌な硬さが無い。
スチールスポークのような「溜め(ウィップ)」が感じられる。ペダルに込めた力が、チェーンを介してハブに伝わり、ほんの僅かにしなった(ように感じられた)あと、瞬時にリムをぐるんと回す。この間に生じる伝達にラグはなく、全てが走りに変換される動きだ。
振動減衰:硬いが、響かない

通常、高剛性なホイールは乗り心地が犠牲になる。路面の凹凸が直接ライダーの身体を下から突き上げる(叩く)からだ。しかし、VONOAカーボンスポークはここで矛盾する性能を発揮する。カーボン繊維特有の「振動減衰能」である。
金属(スチール)は振動を伝えやすいが、複合素材(カーボン)は繊維間の摩擦で振動エネルギーを熱に変換し、減衰させる。

例えるなら、アルミフレームのロードバイクが「コンクリートの上を走る」感触だとすれば、VONOA Gen4のフィーリングは「硬質なゴムの上を走る」感触に近い。路面からの微細な高周波ノイズがカットされ、ライダーには必要なロードインフォメーションだけが伝わる。
長距離のロードレースにおいて、この微細な振動の蓄積は後半の疲労度に直結する。VONOAスポークは、硬さと快適性という二律背反を、素材工学の力でねじ伏せたのである。
回転体の核心:ハブテクノロジーと54Tラチェットの優位性
6.6度の世界:54Tラチェットが変える「時間」
MAUI2には標準で54Tのスターラチェットシステムが組み込まれている。これはDT Swiss等の標準仕様である36Tや18Tと比較して、どのような意味を持つのか。
- 18T:係合角 20度(空走距離が長い)
- 36T:係合角 10度
- 54T:係合角 6.6度
ペダルを止めてから再び踏み込む際、54Tラチェットはわずか6.6度の回転で爪が噛み合い、駆動力を伝え始める。36Tと比較して、その反応速度は1.5倍だ。
平坦な巡航では気にならないかもしれない。しかし、激坂でのダンシング、ヘアピンコーナーの減速から立ち上がりでの再加速、あるいは集団内での位置取りのような「マイクロ・インターバル」が発生する場面において、この「即応性」は武器になる。
ペダルを踏んだ瞬間の「スカッ」という空走感が排除され、ライダーの意思とバイクの挙動が完全にリンクする。
セラミックベアリングの標準装備:初期性能への執着
NepestはMAUI2のハブ(NP-C01)にセラミックベアリングを標準採用した。
通常、セラミックベアリングへの換装は数万円のコストがかかるアップグレードだ。これを標準化した意図は明確である。「摩擦(フリクション)の徹底的な排除」だ。
セラミック球は鋼球に比べて真円度が高く、硬度があり、熱膨張が少ない。高速回転時においてもベアリング内部の発熱による膨張が起きにくく、回転性能が低下しない。また、セラミックは錆びないため、過酷な天候下でのレースにおいても性能劣化が緩やかである。
「箱から出した瞬間が最高性能」であることを求めるハイエンド機材愛好家やプロフェッショナルにとって、ベアリングの打ち替えという手間を省ける点は大きなメリットとなる。
ホイール重量とリムハイト:2つの選択肢
MAUI2は、中途半端な選択肢を排除し、明確な目的を持った2つのリムハイトのみをラインナップした。
MAUI2 35mm(1235g ±30g)
- リムハイト:35mm
- 重量:1235g (ペア)
- 特性:純粋なクライミング性能と横風耐性
1235gという重量は、ディスクブレーキ用ホイールとしては「フェザー級」の領域にある。リム重量自体もおそらく360g前後 と推測され、外周部が極めて軽い。
これは、アルプスやピレネーのような超級山岳、あるいは日本の乗鞍のようなヒルクライムレースにおいて、物理的なアドバンテージを約束する。
また、35mmというハイトは強風下でもハンドルを取られにくく、体重の軽いライダーや、テクニカルなダウンヒルを含むコースにおいて安心感がある操作性を提供する。
MAUI2 50mm(1315g ±30g)
- リムハイト:50mm
- 重量:1315g (ペア)
- 特性:高速巡航性能と登坂性能のハイブリッド
特筆すべきは、50mmハイトでありながら1300g台前半という驚異的な軽さである。競合他社の50mmクラス(Zipp 303 FirecrestやEnve SES 4.5など)が1400g~1500g前後であることを考慮すれば、この数値は驚異的とも言える。
平坦ステージでのエアロダイナミクスを享受しつつ、勝負所の登りでも重さを感じさせない。クリテリウムからグランフォンドまで、一本で全てをこなすオールラウンドホイールとしてのスペックを備えている。
Nepest NOVA vs MAUI2 – 兄弟モデルの決定的な違い
読者諸兄が最も関心を抱いているのは、展開されている「Nepest NOVA」と「MAUI2」のどちらを選ぶべきか、という点であろう。両者は似て非なる哲学で作られている。ここでは詳細な比較データを提示し、その違いを浮き彫りにする。
スペック比較詳細テーブル
以下の表は、両モデルの仕様を直接比較したものである。
| 比較項目 | Nepest MAUI2 (The Pure Racer) | Nepest NOVA (The Modernist) |
| 設計哲学 | 純粋ロードレース、トラディショナルな最適化 | オールロード、空力トレンド、新技術 |
| リム内幅 | 21mm | 23mm (23.4mm実測) |
| リム外幅 | 29mm | 30mm |
| 推奨タイヤ幅 | 25c – 34c (最適: 28c) | 28c – 47c (最適: 30c-32c) |
| リム形状 | Uシェイプ | Uシェイプ |
| リムハイト構成 | 35mm / 50mm | 35, 45, 55, 66mm (前後異径セットアップ可: 45/55mm等) |
| 重量 (目安) | 35mm: 1235g / 50mm: 1315g | 35mm: 1180g / 45/55mm: 1265g (NOVAの方が若干軽い傾向) |
| スポーク | VONOA ST-400 (外部ニップル推測) | VONOA Gen4 |
| ハブ | NP-C02 (セラミック) | NP-C02 (セラミック) |
| 価格 | ¥209,800 ($1,399) | ¥219,800 ($1,499) |
差別化の要因
リム設計思想:「シャープ」か「コンフォート」か
MAUI2の21mm内幅は、25c~28cタイヤのサイドウォールを垂直に立たせるため、シャープなコーナリング性能を生み出す傾向が強い。タイヤの変形量が適度に抑制され、ダンシング時の反応が良い傾向にある。
対してNOVAの23mm内幅は、タイヤをより丸く広げ、エアボリュームを稼ぐ設計だ。これは優しめの乗り心地と、荒れた路面でのトラクションを生むが、25cタイヤを使用するとリム打ちのリスクが高まるため、実質的に28c以上(推奨は30c以上)専用となる。
重量のアドバンテージ
カタログスペック上、NOVAの方が同等ハイト比で数十グラム軽い。これは第4世代VONOAスポークの軽量化(1本あたり1.8g)とハブの肉抜きによるものだ。しかし、MAUI2の1235g~1315gも十分に軽量であり、実走での体感差は誤差の範囲と言えるだろう。
選択の指針:あなたへのおすすめはどちらか?
Nepest MAUI2を選ぶべきライダー
- 25c~28cタイヤを愛用するピュアレーサー:タイヤのプロファイルを崩さず、空力とグリップを引き出したいならMAUI2だ。
- ヒルクライムレース:35mmハイトのMAUI2は、急勾配での反応性が優れている可能性がある。とはいえ、NOVA 35の1,180gの存在があるため純粋な重量を考えるとNOVA 35が良いかもしれない。タイヤアッセンブルの方向性で使い分ける形になるだろう。
- 信頼性と整備性を重視:フックドリムの確実なタイヤ保持と、標準的な構造は、長期的な運用においてストレスフリーである。
Nepest NOVAを選ぶべきライダー




- 最新の空力トレンド(マレット仕様)を試したい:フロントを低くして操作性を保ちつつ、リアを高くして空力を稼ぐセットアップ、またはその逆はNOVAでしか実現できない。
- 30c以上のタイヤで走りたい:23mm内幅の恩恵を最大限に活かせる。舗装路や未舗装路を含むルートではNOVAが適している。
- 45mmのスイートスポットレンジ(空力&軽量化)のホイールを求めている場合はNOVAだ。
- タイヤ内部のエアボリュームを稼いで、身体に負担のかからない乗り味を求める場合はNOVAが良い選択肢になる。
メリット・デメリット
最後に、両モデルの優劣を評価した。
Nepest MAUI2
優れている点
- 28cタイヤへの最適化:28cタイヤ用を用いた現代のレースシーンに即した空力設計。
- 54Tラチェットの即応性:掛かりの良さ。
- コストパフォーマンス:NOVAより10,000円安価でありながら、ベアリングやスポークのグレードは同等。
劣っている点
- タイヤ幅の拡張性:32c以上のタイヤを使うと空力効率が落ちる可能性がある(リム幅がタイヤより狭くなるため)。
- 先進性の演出:異径リムハイトといった「目新しいギミック」に欠ける。
Nepest NOVA

優れている点
- 圧倒的な汎用性:ロードからグラベルまで、一本でこなせる守備範囲の広さ。
- 空力アドバンテージ。
- 最軽量:クラス最軽量レベルの重量。
劣っている点
- 25cタイヤ使用不可:細いタイヤを履きたいライダーには選択肢に入らない。
まとめ:「流行」よりも「実利」を。
Nepest MAUI2は、決して「NOVAの廉価版」ではない。それは、ロードバイクがアスファルトの上を最も速く走るための物理法則に対して、極めて忠実かつストイックな回答を出した競技用機材である。
Rovalが21mm内幅を堅持したように、NepestもまたMAUI2において「流行」よりも「実利」を選んだ。
VONOAカーボンスポークという強靭な筋肉と、セラミックベアリング+54Tラチェットという鋭敏な神経系を宿したこのホイールは、入力したパワーを漏らすことなく、推進力へと変換する。
もしあなたが、快適さと多様性、タイヤエアボリュームを獲得し、前後異形を求めるならNOVAが良いだろう。だが、もしあなたが、タイヤアッセンブルの方向性が25~28cならば選ぶべき相棒は間違いなくMAUI2である。
NOVAとMAUI2のどちらか悩みどころだが、自身のタイヤセッティングを基準に決定すれば、外れのない選択になるだろう。
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