このソックスは、2度驚く。
一時期、RxLソックスを愛用していたのだが次第に使わなくなった。老舗ソックス製造メーカーである武田レッグウェアーの製品は、品質と作り込み、注ぎ込まれたひとつひとつの技術が素晴らしかったが、自転車用のソックスとして使っていくと不満も出てきた。

10年前、2014年頃はRxLソックスを愛用していたが・・・
理由はいくつかあった。
- 丈夫だが生地が全体的に厚めだった
- 開口部の生地が厚めだった
- 丈が短かった
- デザインが余計だった
- 破れやすいモデルがあった
結局は、RxLソックスからFOOTMAXに変更して5年近く経った。10年ぶりにRxLソックスの310Rを試したところ、先ほどあげたネガティブな面を全て改良しているばかりか、新たな機能も追加されていた。使い終わった後、メインのソックスとして使おうと思ったほどだ。
今回は、RxLソックスのR310Rを試した。昔使っていたRxLソックスに出戻りしたわけだが、何が変わり、何が進化していたのか。R310Rをロードからオフロードまで試し、新しく生まれ変わったRxLソックス310Rの真価に迫る。
ソックス立体化計画RxL特許製法技術
RxLソックスと言えば『ソックス立体化計画RxL特許製法技術』だ。人類補完計画のような仰々しい文字が並んでいるが、左右の足形や形状に合わせてソックスの形状も変える製法のことで、左右別々に独立したソックスが形成されている。
「足の形は左右で違うのに、なぜソックスは左右で一緒なんだ?」
これまでのソックスのどれもが、コストや生産性を考えて左右対称のものばかりだった。理由は単純で、ソックスの生地は伸縮性に優れているため履けば足の形にフィットする。あえて消耗品のソックスなんぞに、手間とコストがかかるようなことをメーカーはやりたがらない。
しかし、RxLソックスは違った。
武田レッグウェアー株式会社は1982年創業のソックス製造メーカーだ。1997年に世界で初めて、つま先部が靴のように左右に分かれているソックスの開発&生産に成功した。1998年に日本で特許を取得、欧米やアジアでも特許を取得した。ソックスとして初のグッドデザイン賞も受賞している。
あえて手間がかかる製法を用いて、足の構造を考えたソックスを作り続けている。その設計思想は、ロードバイク用ソックスにも受け継がれている。
310Rを支える製法技術
RxLソックスの310Rは、同社のフラッグシップである300Rの後継モデルだ。
素足で履いているような感覚、レーシーさやデザインがブラッシュアップされている。ロードレースやヒルクライムを明確なターゲットにしており、次世代のレーシングソックスという位置づけだ。
310Rがモデルチェンジする際の課題は、更なるレーシーな履き心地、ビジュアル、環境への配慮だったという。
生地は従来よりも薄くなり、素足に近いレーシーな履き心地に進化した。足の力がペダルにダイレクトに伝わる効果もあるという。薄くすると強度の低下が懸念されるが、つま先部分に強度を高めるナイロンが採用されている。
丈は従来より2cm長くなり、足を安定させる効果が増した。デザインは従来のデカロゴデザインからシンプルになった。前作のデザインは、余計で騒がしいデザインでカッコ良いとは言えなかった。新型は、様々なサイクリストに受け入れられるようなシンプルなロゴだけに変更された。
デザインは好みもあるため一概には評価できないが、310Rに詰め込まれた技術は「ソックスでそこまでやるのか」というレベルにまで及んでいる。
『内外リアル立体サポートヒール』は特許登録されている独自の編み方だ。左右のカカト部分を『Y字』のような形で編むことでカカト周りを立体的に仕上げる。カカトのズレなどを抑制しホールド性をアップさせる。
『フィットエアー製法』は、足首の表側と土踏まずの内側の糸をあえて減らす製法だ。シューズとの圧が比較的高いエリアを重点的にフィット感を高めている。
つま先と甲のつなぎ目部分が表も裏もフラットになる独自の編み方のためストレスなく着用することができる。
ソックスの底には滑り止めがある。シューズ内で足が動かないようにするこの仕組みは、程よい吸い付きでペダリングをサポートしてくれる。
そして、RxLソックスと言えば『つま先左右別立体設計(特許第4732295号)』だ。左右立体製法は親指側、小指側の指の長さ太さに合わせてソックスを立体的に編み込んでいる。余計な突っ張りや、隙間がほとんど無いため素足感覚でソックスを味合うことができる。
このように、数多くの技術とアイデアが盛り込まれたRxL 310Rだが実際の履き心地はどうなのか。
インプレッション:これは良いものだ
310Rは、2度驚く。
ソックスを履いたとき、そしてシューズを履いたときに。
足にソックスを通しているときは立体的な構造に違和感がある。しかし、その過程を通り過ぎ、履き終わってしまえばパーフェクトフィットを感じられる。親指と小指の高さを埋めるつま先の裁断、アキレス腱周りのくぼみに生地が寄り添う。ふくらはぎに向かう絶妙な着圧も適格だ。
と、ここまでは単純にソックスを履いただけの感想だ。シューズをはいたりましてやペダリングも何もしていない状態である。話はここからだ。足をシューズに入れていくと『シューズが近くなる』これまで以上に。
言い方は良くないが、これまでのRxLソックスのどれもが、ロードバイク用としては厚めで頑丈な生地ばかりだった。冬用の厚手のソックスを履いているかのようだった。シューズとの一体感が希薄なソックスという印象だった。
確かにクッション性は良いかもしれないが、ロードバイク用のシューズとして考えるとシューズとの一体感が崩れてしまっていた。
310Rは違う。
耐久性とフィット感の狭間で、開発者が苦悩しながらギリギリまで生地を薄くし、攻めた設計に仕上げたことが伝わってくる。シューズのバックルを締めていくとき、いつも履いているソックスよりもBOAダイアルが数クリック余計に締まるような気がした。
足のむくみが取れた時に、シューズがガバガバすることがある。あの感覚と近かった。
一体感という話であれば、これまでのソックスでダントツで履き心地がいい。左右独立した3D立体裁断と生地の構造の賜物だろう。重要なことなのでもう一度書いておく。ソックスを履いたとき、シューズを履いたとき、この2回が合わさって特別な足体験が生じる。
『ソックス立体化計画』を仕組んだ武田レッグウェアは「計画通り」とほくそ笑んでいるだろう。ただ、この計画にはソックスをはくサイクリストなら全員乗っておいた方がいい。
この時点で満足していたのだが、まだ重要な作業が残っている。実際のライドでどのように感じるかだ。RxLソックスにしては長めの丈であるため、ふくらはぎ下の着圧が強すぎないか気になっていた。
310Rの丈の開口部を引っ張りながら上げて、手を離すとその位置でビタッと止まる。着圧が弱すぎるとズレ落ちるし、強すぎても戻りが速すぎてズレる。その中間、丁度良い圧でアキレス腱の上側からふくらはぎまでを包み込む。
ペダリングを始めると、シューズの中で足がほとんど動かない。シリコンのグリッパーが、ソックスがインソールからズレないように粘ってくれる。シューズの中で足をわざと動かしたとしても、BOAがしっかりと締まっていれば動くことはほとんどできない。
シリコングリッパーのおかげで、シューズの中で足が自由に遊びまわることが無くなる。それでいて、適度に薄いソックス生地の相まって、全体的なダイレクト感が増すのだ。
この『履き心地が良い』『ダイレクト感が増す』『シューズと近くなる』といった感覚は、310Rに仕組まれた、ひとつひとつの機能が集合することによって実現できている。
まとめ:そう、これでいい
RxLソックスは高機能がウリだ。ただ、一時期はデザインや生地の厚みなど、ロードバイク用ソックスとしては魅力的ではないと感じていた時期もあった。
しかし、310Rはロードバイク用ソックスに求める要素が、高いレベルで詰め込まれ再定義されていた。満足度でいえば90点だ。では、残りの10点はというと耐久性だ。薄さは耐久性とのトレードオフだ。どのソックスであれ、シューズ内で絶え間なく生じる摩擦との戦いになる。
以前使っていたRxLソックスは、比較的早い段階で破れてしまった記憶がある。310Rもこれから履きつぶしていかないと真価はわからない。その点だけが気がかりだ。
現時点では、大変満足している。2700円を超える価格だが、日本製ということを考えると妥当な価格設定だと思う。それだけの価値を提供しているし、なによりソックスは構造がシンプルであるがゆえ革命的なことは起こらない。
だからこそ、310Rのように細部に施された細かな作り込みが違いを生む。310Rを実際に手に取り、ひとたび足を通せば、だれもがその違いにすぐ気づくだろう。
たかがソックス、されどソックス。生地と裁縫が奏でる造形美のシンフォニーを、次はあなたの足で確かめてみてほしい。
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