50mmで1,040g。少し前までは、「驚くべき重量!」「超軽量!」だとか、そういう言葉をくくりつけたいスペックだ。しかし、昨今のホイール事情を考えると、どこかあたり前のようなスペックに感じられる。慣れとは怖い。
唯一、このホイールに目新しさを感じるとしたらリムに使用しているカーボンの素材だ。東レのM40Xを採用したカーボンリムを使用している。PinarelloのTTバイクや、CANYON CFR、TREKのSLRといった最高峰の製品に使用が許されたM40Xカーボンだ。
いつかM40Xを使ったホイールが登場するだろう思っていたが、中国の8LIENが真っ先に製品化するとは夢にも思わなかった。
M40Xと合わせて東レの最高峰のカーボンT1100を使用している。スポークはVONOA Gen4を採用し、現在のトレンドに合わせて一歩先の素材を組み合わせたホイールが、今回レビューする8LIENの「AETHER(エーテル)」だ。
「AETHER」とは、古代ギリシャの自然学において、地上世界を構成する四元素(火・空気・水・土)を超越し、天界を満たす第五の元素を指す言葉である。
この名称が示唆するのは既存の製品開発における物理的制約、重量、剛性、空力、快適性のトレードオフからの脱却であり、8LIENがこのホイールの設計に込めた挑戦である。
今回のレビューでは、AETHER 5の全容に迫っていく。
サイクリストが中心の哲学
OEMからの脱却
「長年OEM事業を行ってきて、自社ブランドを~」
というストーリは、最近の中国系メーカーの常套句になっている。そのほうが何か信頼がおける気がするし、新興ブランドとして少しは箔が着くのだろう。ただ、聞き飽きた感じがする。
8LIENというブランドには馴染みが無い人の方が多いと思う。正体を解き明かすには、自転車産業の構造的背景を理解していく必要があると思う。どうやら、彼らは突如として現れた異物ではないようだ。
そのルーツを辿っていくと、10年以上にわたり世界的な有名ブランドのホイール製造を影で支えてきたOEMおよびODMとしての経験がある。
かつて、アジアの製造拠点は単なる工場であり、設計思想は欧米のブランドが握っていた。しかし、製造技術の高度化とエンジニアの熟練に伴い、工場自体が高度なR&D(研究開発)機能を持つに至った。
8LIENは、そうした技術的蓄積を持つエンジニアとデザイナーが、「コストやマーケティングの制約に縛られず、自分たちが乗りたい理想のホイールを作る」という純粋な動機の下に結集した集団だという。
ブランド名の「8LIEN(発音はエイリアン)」は、既存の産業構造に対する「異邦人(Alien)」としての立ち位置を皮肉と誇りを込めて表現したものであり、同時に地球外のテクノロジーを想起させる先進性への渇望を象徴しているという。
情報の透明性
8LIENの掲げるサイクリストが中心という哲学は、単なる顧客第一主義だけを表しているのではない。それは、製品のブラックボックス化を徹底的に排除する姿勢に表れている。
従来、ハイエンドホイールのスペックは「高弾性カーボン使用」といった曖昧な表現に留まることが多かった。対して8LIENは、使用するカーボンの型番(T1100G、M40X)、レジンの種類、ハブの合金グレード、テストデータに至るまでを詳細に公開している。
これは、ユーザーを消費者ではなく、共に技術を理解し共有する対等なパートナーとして扱う姿勢の表れだと言えるだろう。
彼らは、中間流通マージンを排除したD2Cモデルを採用することで、かつては50万円以上の価格帯でしか得られなかった性能を、現実的な価格で提供する性能の一般化を推し進めている。
東レTORAYCA T1100GとM40Xの複合積層
AETHER 5のリムは、単なる炭素繊維強化プラスチックの成形品ではない。それは、日本のTorayが誇る最先端素材を適材適所に配置した、高度な複合材料工学の結晶のような存在だ。
炭素繊維のトレードオフとナノアロイ
炭素繊維には、長らく乗り越えられない壁が存在した。強度を高めれば「弾性率」が伸び悩み、弾性率を高めれば「強度」が低下し脆くなるというトレードオフである。
しかし、AETHER 5に採用されているT1100GとM40X、特にM40Xは東レのナノアロイ 技術により、この物理的限界を突破した素材として注目を集めている。
| 素材特性比較 | 引張強度 (MPa) | 引張弾性率 (GPa) | 特性・役割 | |—|—|—|—| | T700S (標準的素材) | 4,900 | 230 | 汎用的な強度材。柔軟だが重量増になりがち。 | | T800S (中間素材) | 5,880 | 294 | 多くのハイエンドホイールの主材料。 | | T1100G (AETHER採用) | 7,000 | 324 | 世界最高クラスの引張強度。破壊に対する圧倒的な耐性。 | | M40X (AETHER採用) | 5,700 | 377 | 高弾性かつ高強度。剛性と反応性の源泉。 |
T1100G:不屈の骨格
T1100Gは、ナノレベルでポリマーアロイ構造を制御することで、樹脂の塑性変形能力を飛躍的に向上させた素材だ。AETHER 5において、この素材は主に衝撃吸収と破壊耐性を担う層に使用されている。
リムは走行中、路面からの突き上げによる圧縮応力と、タイヤ空気圧による膨張応力、そしてスポークテンションによる局所的な引張応力に常にさらされている。特にリムベッドやニップルホール周辺は応力集中が激しい。
T1100Gをこれらの部位に対して戦略的に配置することで、極限まで薄肉化してもクラックが入らない粘り強い骨格が形成される。これは、ダウンヒルでの落車や、深い溝への突入といった限界状況において、ライダーの生還率を高める安全マージンとして機能する。
M40X:瞬発力の源泉
一方、M40Xは、従来のM40Jと同等の高弾性率(377GPa)を持ちながら、引張強度を約30%向上させた革新的な素材である。
AETHER 5では、このM40Xをリムのサイドウォールや、回転方向の剛性をつかさどる層に戦略的に配置している。ライダーがペダルを踏み込んだ瞬間、そのトルクはハブからスポークを介してリムへと伝達される。
この時、リムが柔らかすぎればエネルギーは変形によって熱として散逸してしまう。M40Xの高い弾性率は、入力されたエネルギーをみじんも逃さず、瞬時に路面を蹴る推進力へと変換する。
「硬いが、もろくない」
このM40Xの特性により、AETHER 5はスプリント時の爆発的な加速と、コーナーリング時は俗にいうナイフのような切れ味を実現している。
局所補強の美学
8LIENは、リム全体を均一な厚みで作るような単純な手法は採らない。
補強積層の技術を用い、スポークホール周辺のみカーボン層を増やすことで、重量増を最小限に抑えつつ、スポークテンション(最大300kgf以上)に耐える局所強度を確保している。
これにより、外周部重量(リム重量)の軽量化が実現し、慣性モーメントの低減による登坂性能の向上が達成される。
リム内幅25mmと転がり抵抗
AETHER 5(L5W仕様)における最大のトピックの一つが、リム内幅を25mmへと拡大したことである。これは単なるトレンドの追従ではなく、現代のワイドタイヤを前提とした物理的最適解の追求である。
エアロダイナミクス:ZIPP 105%のルール
空力性能を最大化するためには、タイヤ幅に対してリム外幅を105%以上に設定する「ZIPP 105%のルール」が知られている。しかし、より重要なのはタイヤとリムの接続形状である。
内幅25mmのリムに28c~30cのタイヤを装着すると、実測幅は30mm~32mm程度となる。この時、タイヤのサイドウォールは垂直に近い状態で立ち上がり、リム側面とタイヤ側面が段差なく連続する。
従来の狭いリム(内幅19mm等)では、タイヤ断面が電球型に膨らみ、リムとの境界で大きな気流剥離が発生していた。AETHER 5のワイドプロファイルは、この剥離を抑制し、気流をリム表面に再付着させる。
特に、横風が存在する実走環境において、この形状は翼断面としての効率を高め、セーリング効果(横風を推進力に変える効果)さえも誘発する。
ヒステリシスとインピーダンス
リム内幅25mmは、転がり抵抗の二つの要素に劇的な改善をもたらす。
接地形状の短縮化
同じ空気圧で比較した場合、リム幅が広がるとタイヤのエアボリュームが増大し、接地形状は横に広く、進行方向に短縮される。
タイヤの転がり抵抗の主因は、ゴムの変形に伴うエネルギー損失(ヒステリシスロス)である。接地長が短くなることで、タイヤの変形量が減少し、結果として転がり抵抗が低減する。
インピーダンスロスの抑制と低圧運用
内幅25mmはタイヤのサイドウォールを強固に支持するため、低圧運用(3.5~5.0bar)でもタイヤがヨレにくくなる。
低圧化により、タイヤは路面の微細な凹凸を包み込むように変形し、振動吸収性が向上する。これにより、振動がライダーの肉体を揺らすことで失われるエネルギー(インピーダンスロス)が最小化される。
航空宇宙グレードのハブ
7075-T6アルミニウム合金
AETHER 5のハブボディには、航空宇宙産業で多用される7075-T6アルミニウム合金が採用されている。まぁ、これも最近のホイールで常套句として使われている。
この合金組成としては、アルミニウムに対し、亜鉛(Zn)とマグネシウム(Mg)、銅(Cu)を添加したAl-Zn-Mg-Cu系合金であり、超々ジュラルミンの異名を持つ。
機械的特性としては、一般的な自転車部品に使われる6061-T6合金と比較して、7075-T6の引張強度は約2倍(570MPa以上)に達する。
ハブは、スポークテンションによる強大な圧縮力と、フリーボディからの駆動トルク、路面からの衝撃荷重を一手に引き受ける。剛性の低いハブでは、負荷がかかった際にベアリングシートがひずみ、ベアリングの回転抵抗を増大させてしまう。
7075-T6の高剛性は、極限の負荷状況下でも真円度を維持し、ベアリングの性能を100%引き出すための必須条件である。8LIENはこの難削材を精密なCNC加工で削り出し、重量をそぎ落としつつも、必要な剛性を確保している。
45Tラチェットシステム
AETHER 5の駆動伝達機構には、DT Swissのスターラチェットシステムと同様の、面接触型ラチェットが採用されている。特筆すべきは、その歯数が45Tに設定されている点である。標準は36Tの場合もあるが、45Tという仕様には明確な意図がある。
面接触の優位性: 従来の爪(ポール)式が3~6点の点で荷重を受け止めるのに対し、スターラチェットは全周の歯が同時にかみあい「面」でトルクを伝達する。これにより、パワーロスが極小化され、歯欠けのリスクも劇的に低減する。
45Tの幾何学
「360度 ÷ 45歯 = 8度」つまり、ペダルを踏み込んでから最大でも8度の空転で駆動が掛かる。これは、反応性と転がり抵抗のバランスにおけるスイートスポットである。
- 36T (10度): 耐久性は最高だが、テクニカルな登りで掛かりが遅い。
- 54T/60T (6度): 掛かりは瞬時だが、歯が細かくなり接触面積が減るため摩耗が早く、空走時の摩擦(ドラッグ)が増える。主にMTB向け。
- 45T (8度): 素早いエンゲージメントを確保しつつ、空走時の抵抗を抑え、十分な歯の大きさを維持して耐久性を担保する実戦的な最適解。
波形スプリング
このラチェットシステムを支えるのが、波形スプリングである。従来型のコイルばねと比較して、決定的な優位性を持っている。
一つ目は、省スペース化だ。波形に加工された平角線を使用することで、同じ荷重を発生させるのに必要な高さを約50%削減できる。これにより、ハブ内部のデッドスペースを減らし、ハブシェル自体のコンパクト化・軽量化が可能となる。
そして、均一な面圧分布がある。コイルばねはスパイラル状で斜めに傾き、圧縮時に微細なねじれや傾きが生じやすいが、波形スプリングは全周にわたって極めて均一な圧力をラチェットリングに加えることができる。
これにより、ラチェットの歯が斜めに噛み合う偏当たりを防ぎ、常に完璧な平行度でエンゲージすることを保証する。この微細な制御が、ペダリングの瞬発力とハブの長寿命化に寄与している。
TPIセラミックベアリング
回転体の性能を最終的に決定するのは、摩擦の制御である。AETHER 5は、台湾の精鋭ベアリングメーカーTPI製のセラミックベアリングを採用している。
TPIという選択の正当性
TPIは台湾のベアリング業界のトップメーカーである。NTNやNSKといったティア1メーカーに次ぐティア2メーカーとして位置づけられるが、自転車用ハブベアリングにおいては、ティア1に肉薄、あるいは上回る品質管理能力を持つ。
DT Swissの純正ベアリングとしても採用実績があり、その真球度とレースの研磨精度は世界最高水準にある。
セラミックボールの物理特性
採用されているのは、セラミックボールである。スチールと比較して以下の特性を持つ。
- 硬度: ビッカース硬度で鋼球の2倍以上。異物が混入してもボールが傷つくことは稀であり、逆にレースを粉砕してしまうほど硬い。
- 軽量性: 密度は鋼の約40%。回転運動における遠心力が減少し、高速回転時の摩擦熱低減に寄与する。
- 熱膨張係数: 鋼の1/4。ロングダウンヒルでのブレーキング熱(ディスクブレーキでもハブへ熱伝導する)による膨張が少なく、予圧(プリロード)の変化が起きにくい。
セラミックベアリングの効果は賛否両論だが、ほとんどはシールやグリスの抵抗が支配的でありここでは多くは語らない。
ゼロ・フリクションの感覚
私自身、セラミックベアリングには懐疑的なスタンスを取っている。しかし、TPI製のセラミックベアリングを搭載したAETHER 5を空転させた時、その回転は不気味なほど止まらない。
空転で良く回る「プロモーション的に都合の良い」性能を発揮する。
シールはほぼ非接触、極低摩擦接触型が採用されており、手で軸を回した時の粘りは皆無である。ベアリングの抵抗の60%はシールであり、非接触にすることで抵抗が大幅に削減される。
実走において、この低摩擦は「脚を止めた時の減速感のなさ」に影響する。実際には体感できないほど小さな抵抗だが、集団内でペダリングを止めても、自分だけが前に吸い出されるような効果が”期待できる”という。
これは、数ワットの節約という数値以上の、プラシーボ的、精神的な余裕をライダーに与える。ただし、体感することは非常に難しいとは思う。計算すればわかるが、ベアリングで生じるトルクは非常に小さい。体感するのは測定器が必要、人間には無理だ。
スチールからセラミックベアリングに変更する意味はあまりなく、使うユーザー側の気持ちが多少上がるくらいの効果がある、という理解に留めておいた方が良いだろう。
VONOAエアロカーボンスポーク
ステンレスからの解放
AETHER 5は、伝統的なステンレススポーク(Sapim CX-Ray等)ではなく、専用設計のカーボンスポークを採用している。これは、ホイールという構造体の剛性バランスを根本から変える要素である。
カーボンスポークの最大のメリットは、圧倒的な比強度と非伸長性にある。重量はステンレススポークが1本約4.3gであるのに対し、カーボンスポークは約2.5g~3.0g。前後合わせれば約40g~60gの軽量化となる。
剛性はカーボン繊維は引張方向に対して極めて伸びにくい。ステンレススポークは強いトルクがかかると微細に伸びてエネルギーを吸収してしまうが、カーボンスポークはその伸びがほぼゼロである。
メカニカル・ロッキング機構
8LIENのカーボンスポークは、リムやハブに接着された一体型ではない。両端に金属製のねじ切りパーツが接着された「メカニカル・ロッキング」タイプである。
これにより、通常のホイールと同様にニップル回しでの振れ取りが可能であり、万が一の破損時もスポーク単体での交換が可能である。これは、遠征先でのトラブルを恐れるライダーとって決定的なアドバンテージとなる。
ダイレクト感の極致
カーボンスポークが生み出す乗り味は即応である。ダンシングでバイクを振った際、ホイールのたわみを感じる時間的ラグが存在しない。入力したパワーが、光の速さで路面に伝達される感覚。
特に急勾配でのアタックや、コーナー立ち上がりでのスプリントにおいて、その硬さはライダーを強烈に前へと押し出す。
8LIEN Laboratory Testing
新興ブランドに対する最大の懸念は安全性であるが、8LIENはこの点において過剰なまでの検証データを提示しているようだ。彼らのラボテストは、ISO 4210規格は単なる通過点として位置づけ、さらに過酷な独自基準を設けている。
垂直剛性テスト
| テスト | 負荷荷重 | AETHER5 測定結果 | |
| 垂直剛性 | 50kgf | 変形量 1.26mm – 1.36mm | 適切なコンプライアンスを維持しつつ高剛性 |
| 最大耐荷重 | 300kgf | 破壊なし・永久変形なし | 極めて高い安全マージンを確保 |
このデータが示すのは、AETHER 5が単に硬いだけでなく、垂直方向には適度な変形を許容し、衝撃を逃がす設計になっていることである。これが、高剛性カーボンホイールにありがちな突き上げの激しさを緩和している。
衝撃テスト
UCI基準を超える80ジュールのエネルギーをリムに打ち込むテストにおいて、8LIENは以下の基準をクリアしている。
- クラック発生なし: 外観上の亀裂が入らないこと。
- 振れ精度: 衝撃後の振れが0.5mm以内であること。
さらに、彼らは破壊限界テストを行い、どの程度の衝撃で最初のクラックが入るかを検証している。この破壊的試験の繰り返しこそが、T1100Gの積層スケジュールを最適化し、軽量化と強度の限界点を見極める唯一の方法である。
インプレッション
CANYON CFRやTREK OCLV 900、そしてPinarelloの最高峰バイクにM40Xが採用され始めた時、いつかホイールのリムにも採用されるだろうと考えていた。しかし、バイクフレームにM40Xが採用されてから4年以上経っても、リムに採用される気配はなかった。
どのメーカーが先駆けてM40Xを採用するのか、ROVALか、ENVEか、はたまたシマノか。
単純に考えてM40Xをフレームにいち早く採用したTREK傘下のBONTRAGERだと思っていた。理由は単純で、AEOLUS RSLのモデルチェンジからかなりの時間経過しており、M40Xを採用したホイールをボントレガーがいち早く出すのではないかと予想していた。
しかし、どこよりも早くM40Xを採用したホイールを出したのは中国のアモイに拠点を置く8LIENであった。今や中国は、自転車カーボン部品のシリコンバレーである。世界最先端は中国から生まれているのだ。
前述したとおり、M40Xは最新のカーボン素材である一方で、少々特殊な素材でもある。
M40Xは、従来のM40Jと同等の高弾性率(377GPa)を持ちながら、引張強度を約30%向上させている。この特徴の素材を、リムのどこに使うのが最適なのだろうか。AETHER 5は、リムのサイドウォール、回転方向の剛性をつかさどる層に対して政略的に配置している。
リムが柔らかすぎればエネルギーは変形によって熱として散逸してしまうが、M40Xの高い弾性率は、入力されたエネルギーをリムから逃さず、瞬時に推進力へと変換する役割を担っている。しかし、M40Xも不得意な部分がある。「衝撃吸収」と「破壊耐性」だ。
そこで、T1100Gの出番である。
T1100Gに「衝撃吸収」と「破壊耐性」を担う層に使用されている。
路面からの突き上げによるリムの圧縮応力、タイヤ空気圧による膨張応力、そしてスポークテンションによる局所的な引張応力、この3つの力は常にホイールに生じている。この力を処理するためにT1100Gがさらされている。
具体的には、応力集中が常に働いているリムベッド、ニップルホール周辺だ。いわゆるリムの最外周、最内周である。この末端には、スポーク、タイヤという圧力が生じるエリアが集中しているため、M40XよりもT1100Gを使う方が合理的であることがわかる。
T1100Gをこれらの部位に集中配置することえ、極限まで薄肉化してもクラックが入らない粘り強い骨格が形成される。
この適材適所、最先端の東レカーボン素材を「どこに」「どのように」使うのかはリムに求められる要素を理解せねば設計できないし、設計者の腕の見せ所だ。8LIENのエンジニアは、この点を理解しリムを設計した。
しかも、わざわざコストのかかる東レの最高峰素材を複数使用して。
ここまで、カーボンの話が長くなったが実際の走りはどうだったかを話していきたい。机上では最高かもしれないが、本質的な走りが伴わなければ、何の意味もない。8LIENのAETHER 5を取り付けて走り出すことにした。
軽さなのか、それとも素材なのか
素材は、機材の性格を変える。
CANYON AEROAD CFR(M40X)とCF(T700 & 800)を乗り比べると、全く同じフレーム金型なのにはっきりとした差がわかった。単純にCFRはバネ感があり、踏み込むと滑らかに押し戻すような動きをする。
CFはとにかく跳ね返してくる。瞬間的な100メートルの加速感で言えばCFの方が「カカリが良い」と思うだろう。ただ、それだけではフレームの良し悪しは測ることはできない。ライダーの趣味趣向にもよるが、長丁場のレースで身体へのダメージを最小限に抑えるならCFRの方がいい。
話は8LIENのホイールに戻り・・・。
M40Xを採用したホイールを使うのはとても楽しみだった。冒頭でM40Xの話が長かったことからも気づいたと思う。どんな走りをするのか、登り、下り、そして平たんと試した。難しいことは抜きにして、機材は使った瞬間が一番その変化が良くわかる。
AETHER 5の第一印象は「まぁ、普通」だ。
端的に言うなら、特徴があまり感じられない。例えば、Nepest NOVAを使った時はしなやかさが際立っていた。その中にもリムが回っているという感覚が走行中、確かに存在していた。この感覚はNOVAやROVAL RAPIDE CLX IIIでも同じだ。
何度もペダルを回す中で、踏み込みと同時にしなやかさが生まれ、一切のラグを生じさせずにリムが回りだす。その時、その瞬間には、ライダーは確実にリムを意識でき、物体として確実に存在を認識していると理解するだろう。
しかし、AETHER 5は存在感があまり感じられない。リムとタイヤごと無くなってしまうような感覚がある。正確には、リムという物質は確実に存在しているし、タイヤももちろんついている。
AETHER 5は、ライダーが走行する中でリムを回す感覚が非常に希薄になる。存在が無くなる。まるで、徐々に眠りに落ちていく中で、自分という存在を次第に意識できなくなるように、”あるはずのモノ”がそこから存在しなくなるのだ。
言い方は悪いが、「気持ちが良くない」感覚がある。この感覚は、8LIEN(エイリアン)の名前そのものを表しているようであるが、この理由を走りながら探していた。
あるはずのものが無くなる。では逆に、存在してはならないものが、そこに存在していたらどうだろう。同じように、気持ちが悪いと感じる。
存在してはならないものが存在すると、「存在の違和感」が生じる。50mmハイトで1,040gという違和感なのか、それともM40XとT1100Gを複合した初めてのリムに困惑しているのか。自分自身でも、生じている感覚の説明をすることができない。
初乗りでの評価を誰にでも伝わる言い方をするのならば、回している実感が感じられないような滑らかな軽さだ。先ほどの気持ちが悪いという表現は、良い意味なのか、悪い意味なのか判定するとしたら、51:49で前者、ポジティブな感覚だ。
レビュー用に録音していたボイスレコーダーの記録を俯瞰して聞き直すと、この滑らかに感じる理由は3つあると分析している。そもそも、感覚的な「気持ち悪さ」の説明はできない。
しかし、数値、素材、オカルトの類を抜いた物質的、無機質な物理法則の元でならある程度の説明はつく。
1つ目はリムの素材、2つ目は25mm内幅によるタイヤエアボリューム、3つ目は50mmホイールで1,040gの重量分散、この3つだ。
リム素材はM40XとT1100Gを使ったが故の変化の可能性がある。リム外周、リム側壁に対して必要とされる応力に応じた素材を適材適所で戦略配置する。これが功を奏したという理由だ。
NepestはT700とT800の混在だという。ちなみに、リムは形状が単純なので、ほとんどのメーカーがT700かT800を使っているという。T1100GやM40Xはそもそも素材単価が倍以上違うのでコストアップになり違い価格競争力が落ちる。
しかし、モノは良い。
2つ目はリム内幅25mmの拡大による、タイヤ内部の空気体積の増加だ。
同じ空気圧でも、タイヤ内のスペースが拡大するため空気の体積は増える。1.0barでもMTB用の太いタイヤには何回もポンピングして空気を多く充填しなければならないように、タイヤ内部のスペースが拡大するとその分体積も増加する。
3つ目は50mmで1,040gというアンバランスな重量だ。LightWeight Obermeyerが1,200g、最新のROVAL ALPINIST CLX iii(33mm)が1,131gということを考えると、50mmで1,040gという軽さがいかにアンバランスかがわかるだろう。
スポーク重量はVONOA Gen4の場合、ニップルを合わせて2.0~2.3gの間になる。ROVAL RAPIDE CLX iiiのようにスポーク本数をフロント側18本に減らしているわけではなく、前後20本である。これだけで80~90gある。ハブは210~230gと予想される。
となると、リムの重量は1本あたり360~370gほどだ。
一般的な50mmのリム重量はというと、ROVAL CLX 50が450gだった。軽いもので420g程だったと思う。
こうなってくると思い当たるのは、現行最新のアレしかない。
ENVE SES 4.5 PRO Gen4(2025年モデル)のリム重量は、前49mm/後55mmのリムハイトで、フロントが約369g、リアが約383gだ。これは、従来のSES 4.5から大幅に軽量化され、ヒルクライムとオールラウンド性能を追求したモデルである。
SES 4.5 PRO Gen4の49mmで369g、8LIEN AETHER 5が360~370gであってもそう見当違いなぶっ飛んだ値ではない。ただし、「ENVEだから作れた」と思っていたこの重量のリムを、8LIENはM40XとT1100Gを組み合わせることで達成した可能性がある。
最高峰のENVE SES 4.5 “PRO” Gen4クラスのリム重量でありながら、VONOA Gen4カーボンスポーク、航空宇宙産業レベルの7075-T6アルミニウム合金で組まれたホイールは、それぞれが高次元でバランスを取りあうことでこの走りを実現している可能性がある。
「何か一つが原因」
ではなく、いままで到達できなかった全てのバランスの上にAETHER 5の走りが成立しているのかもしれない。
では、ENVE SES 4.5 “PRO” Gen4でもそれが実現できるのだろうか。できるだろうが、SES 4.5 “PRO” モデルは649,990円である。ここに、VONOAスポークを着けると一体幾らになるのだろう。
AETHER 5は中華ホイールながら比較的高めの価格設定だが、これには理由があるのだと腑に落ちた。
“困る”ホイール
少し前まで1,000g台(1,000~1,099g)のホイールと言えば、「超軽量」「飛び道具」「危うい」というイメージしかなかった。しかし、ここ数年はカーボンスポークの技術が向上し、45~50mmの比較的リムハイトが高いホイールでも1,200g台が当たり前になってしまった。
冒頭で、以下のように書いたのはそのためだ。
50mmで1,040g。少し前までは、「驚くべき重量!」「超軽量!」だとか、そういう言葉をくくりつけたいスペックである。しかし、昨今のホイールではどこかあたり前になってしまったスペックに感じられた。慣れとは怖い。
1,300g台はやや重めに感じ、1,400g台は鉄下駄ホイールと言われかねない時代になってしまった。ロードバイクフレームの開発が軽さと空力の時代に突入したが、少し遅れながらも急激にホイールの開発傾向も追従してきている。
こうなってくると、軽さと空力の境界線は曖昧になってくる
8LIENの50mmながら1,040gは、ヒルクライムホイールというカテゴライズを消滅させてしまった。値だけ見ればクライミングホイールとして十分な重量であり、ひと昔前まではLightWeightなど一部のホイールだけが到達していた領域に入り込んでいる。
しかも、半分以下の価格で。
もはやエアロホイールだとか、クライミングホイールというカテゴライズは消滅するのかもしれない。これまでのインプレッションで、「平たんでも使えるし、軽さはクライミングホイールのようだ」という表現を多用してきた。
しかし、もはやそんな表現など「言われなくてもわかっている」という時代になってしまった。では、8LIEN AETHER 5はどこに属すべき存在なのか。クライミングホイールなのか、エアロホイールなのか。それとも、また別の領域に属するのか。
1,000g台でありながら45~50mmハイトのホイールは、単に「オールラウンドホイール」である。これまでのオールラウンドホイールは、平たんやワインディングロードをもちろん走るし、ある程度登る。汎用的に使えるホイールだった。
しかし、8LIEN AETHER 5は空力性能はもとより、1,040gというクライミングホイールの重量で登れるホイールだ。もはや、平坦だろうが、クライミングだろうが迷う必要はない。エアロと重量、曖昧だった境界線はもはやなくなったのだ。
50mmで1,040g、もう何も迷う必要がない。
誰のためのホイールか
全方位的に死角がないホイールを目の前にすると、「これは一体誰のためのホイールなのか」という疑問が湧いてくる。シリアスなレーサー向きなのか、ヒルクライマー、軽量化を追及するウェイトウィニーか。それとも。
ただ一つ言えることは、誰が使ったとしても、重量は重量であって、軽量化は達成される。あとは、走りの質、空力性能、振り回した時の脚当たりがどうかという世界になってくる。
8LIEN AETHER 5は軽量ホイールにありがちなスカスカ感がない。その重量に見合わず、踏み込んだ瞬間に比較的長めのタメの後走り出すような、悪く言えばワンテンポ遅れる、良く言えばムチのようなバネ感がある。
だから、「カカリの良さ」を追求する場合は8LIEN AETHER 5は向いていない。もう少し硬めのホイールの方が良いだろう。この辺りの話になると、完全に好みの話になるのだが、方向性は好きな方ではある。
一般的なパワーレベルであれば8LIEN AETHER 5はちょうど良いしなやかさもある。
この手のホイールは俗にいう「遠くに連れて行ってくれる」ホイールであり、身体への負担も少ない。それゆえ、パワーが高いライダーや大柄なライダーは物足りないと感じてしまう可能性がある。
それらを差し引いても、8LIEN AETHER 5は比較的扱いやすいホイールであると思うし、誰が使ってもある一定以上の恩恵は受けられる。これで『走らない』なんて言うライダーがいれば、それは己の自己研鑽不足だろう。
中華系ホイールの中でも比較的強気な価格設定ではあるが、使用している素材や構成するパーツを考えると納得感はある。
まとめ:AETHER 5が提示する未来
ここまでのレビューから導き出される結論として、8LIEN AETHER 5が単なるコストパフォーマンスに優れた製品ではなく、考えられたカーボン素材の配置と、明確な設計思想が構造に反映された良く考えられたホイールだと言える。
- T1100GとM40Xによる、相反する強度と弾性の融合
- 25mm内幅リムによる、空力と転がり抵抗の物理的最適化
- 7075-T6ハブと45Tラチェット・波形スプリングによる、精密時計のような駆動システム
- TPI社製セラミックベアリングによる低摩擦
- カーボンスポークによる反応速度
これら全ての要素が、「サイクリストが中心」という哲学の下に統合されている。このホイールに乗るということは、エンジニアたちが実験室で積み重ねた膨大な試行錯誤の結果を、路面の上で体感する行為に他ならない。
ただし、価格を優先して考えた場合もう少し別のホイールも検討したほうが良いかもしれない。M40XとT1100を使用しているという理解があれば、納得感は高いと思うが、素材は何でも良い方は別のホイールを選択すべきだろう。
AETHER 5は、優れた素材を用い、競技志向のライダーには勝利をつかむための兵器として、機材マニアには複合材料の可能性を示す標本として、そして一般的なサイクリストには、自らの限界を超えて未知の領域へ到達するための翼として機能するだろう。
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