キャノンデールはスペイン・ジローナで第3世代SuperSliceを正式発表した。「The Showcase of Speed」と銘打たれた本機は、先代比14%の空気抵抗削減(時速50kmで10Wセーブ)を達成しながら、フレーム重量増はわずか60gに抑えている。
EF Education-EasyPostとの共同開発により生まれたこの最上位TT専用機は、LAB71ブランドのUltralight Series 0 Carbonを採用し、フレームセットモジュール(フレーム・フォーク・シートポスト・コクピット一式)で日本国内価格75万円(税込)という、同カーボングレードとしては攻めた価格設定で市場に投入された。
SuperSix EVO Gen5 LAB71よりも安いのだ。日本代理店としては、戦略的な価格を狙っての事だろう。それだけでなくUCIの規制に対して合法的にトライアスロン対応し、最大32mmのタイヤクリアランスと、TTバイクの常識を塗り替える仕様でひそかに注目を集めている。
CFDと風洞で削り出した14%のドラッグ削減
第3世代SuperSliceはヨー加重ドラッグで14%削減、時速50km走行時に10Wのパワーセーブを実現している。この数値はヨー角ゼロ度から実走環境で遭遇する複数のヨー角にわたって加重平均した値であり、実走条件に近い指標といえる。
空力開発は数百時間に及ぶCFD(数値流体力学)シミュレーションと風洞試験の積み重ねで実現された。
キャノンデールのシニアデザインエンジニアNathan Barryが率いた開発チームは、フレーム単体ではなくライダーを含むシステム全体でのドラッグ最小化を追求した。
チューブ形状、接合部、コンポーネント間のトランジションすべてを最適化し、寄生乱流(フレーム表面の微細な突起や段差で発生する不要な空気の渦)の排除に注力している。
最も大きな設計変更はフロントフォークである。先代と比較して大幅に深い翼断面形状を持つ新型フォークは、クリーンエアが最初に接触するフォーク・ヘッドチューブ・ダウンチューブ周辺のエアフロー管理を根本から再設計した。
後述するDelta Steererによる極めて狭いヘッドチューブとの組み合わせにより、フロントエンド全体の空気抵抗を劇的に低減している。たとえるなら、先代が普通の包丁で空気を切っていたとすれば、第3世代は日本刀で風を裂いているようなものだ。
余談だが、第1世代SuperSliceの開発に携わった元エンジニアリングマネージャーのDamon Rinard氏は、Slowtwitchフォーラムで興味深い発言をしている。
「SuperSliceは特に重要な-10°~+10°のヨー角範囲で、最速のバイクに極めて近い性能を持つ」「横力(サイドフォース)が他のスーパーバイクと比較してかなり低い」と述べており、プラットフォームとしての空力的ポテンシャルの高さは開発者自身が裏付けている格好だ。
空力性能はどれほど向上したのか? ── CdAデータが語るGen 3の真価
第3世代SuperSliceは測定されたほぼ全てのヨー角においてGen 2を明確に上回る空力性能を示している。キャノンデールが公開したCdA(空気抵抗面積)のヨースイープデータは、このバイクの設計思想がどこに向けられているかを雄弁に物語る。
CdA Yawスイープデータ
公開されたグラフから読み取れる各ヨー角でのCdA値は以下の通りである。
| ヨー角 | Gen 2(m²) | Gen 3(m²) | 削減幅 |
| 0° | 約0.055 | 約0.048 | 約13% |
| -5° | 約0.049 | 約0.046 | 約6% |
| -10° | 約0.032 | 約0.029 | 約9% |
| -15° | 約0.032 | 約0.031 | 約3% |
| -20° | 約0.043 | 約0.042 | 約2% |
| +5° | 約0.053 | 約0.047 | 約11% |
| +10° | 約0.048 | 約0.045 | 約6% |
| +15° | 約0.039 | 約0.028 | 約28% |
| +20° | 約0.050 | 約0.044 | 約12% |
このデータで最も目を引くのは、Gen 3のCdAカーブがGen 2と根本的に異なる形状を描いている点である。
Gen 2はゼロヨー付近(0°〜+5°)で最大のCdA値を示し、ヨー角が増すにつれて急激にドラッグが低下する典型的なV字カーブを描く。これに対しGen 3はゼロヨー付近でのピーク値が大幅に抑えられ、カーブ全体がフラットかつ低い位置に移動している。
ゼロヨー(正面からの向かい風、実走で最も頻繁に遭遇する条件)でのCdA約0.048 m²は、Gen 2の約0.055 m²から約13%の削減である。時速50kmにおける空気抵抗のパワー換算では、この差が約10Wのセーブに相当する。
40kmのフラットTTに換算すれば、この10Wは理論上30〜40秒のタイム差を生み出す。エリートレースではゴールラインでの1秒が順位を分ける世界であり、10Wという数字の持つ意味は計り知れない。
なぜゼロヨー付近の改善がこれほど重要なのか?
実走環境における有効ヨー角の分布を考えると、この改善パターンの価値がさらに明確になる。プロのTTコースでは、ライダーが経験するヨー角の大半は-10°〜+10°の範囲に集中する。
風洞テストの一般的な加重平均では、ゼロヨー付近のデータに最大の重み付けがなされる。つまり、Gen 3がまさにこの最頻出ゾーンで最大の改善を見せていることは、実走での体感速度に直結する設計判断だといえる。
+15°での約28%という突出した削減幅も興味深い。これはコース上のコーナー立ち上がりや横風区間で、Gen 2では急激にドラッグが増大していた領域でGen 3が大幅に安定していることを意味する。
横風を受けながらのエアロポジション維持は精神的にも肉体的にも消耗するが、バイクそのもののドラッグ変動が小さければ、ライダーはペダリングに集中できる。風が吹くコースほど、この特性の恩恵は大きくなる。
一方で、-15°〜-20°のヨー角域ではGen 2との差が小さい(2〜3%程度)。この領域ではもともと両世代ともCdAが低く、改善の余地が限定的だったと推測される。
フロント周りの徹底的な再設計がもたらしたもの
キャノンデール自身が語る開発哲学は明快である。
第3世代のSuperSliceはタイムトライアルにおける効率性を極限まで突き詰めた存在であり、空気抵抗の最小化に一切の妥協をしない設計思想が貫かれている。タイムトライアルではスタートからフィニッシュまで可能な限り高い平均速度を維持することが求められ、多少の重量増よりも空力性能の向上が優先される。
特にフロント周りは重点的に見直された。単にフォークブレードを深くするだけではなく、フォーク、クラウン、ヘッドチューブ、ダウンチューブ、そしてフロントホイールとの相互関係そのものを最適化することで、空気抵抗を最小限に抑えている。
CFD解析を何十回も繰り返し、すべてのチューブ形状や接合部を細部にわたって最適化した結果がこのCdAカーブに凝縮されている。
ディープエアロ形状(縦横比の大きい翼断面チューブ)には構造的な制約も存在する。薄く深いチューブは面外方向の剛性が不足しやすいという特性があるが、キャノンデールはハンドリング性能を犠牲にすることなく、カーボン積層の最適化によってこの機械的な不利を相殺している。
空力性能が極めて重要であるため、ジオメトリー上の剛性不足を補うべく積層設計そのものを根本から見直したという点は、Series 0 Carbonのレイアップ技術がなければ成立しなかった解であろう。
フレームセットに加え、新型SuperSliceには完全新設計のワンピース・ベースバーを備えた専用コクピットが採用されている。
コクピットとフレームを一体で設計することで、フロント全体の空力を最適化し、従来システムに対して大幅な空気抵抗低減と軽量化を同時に実現した。ベースバーで得られた軽量化は、フォーク側で増えた重量を相殺し、結果として同重量でありながら明確に速いバイクに仕上がっている。
CdAデータをどう読み解くべきか
このCdAデータはキャノンデール社内の風洞テストに基づく自社公表値であり、測定条件(ライダーのポジション、使用ホイール、タイヤ幅、マネキンか実人かなど)は完全には開示されていない。
自社テストでは当然ながらGen 3に最適化された条件が選ばれている可能性があり、同一条件での他社バイクとの直接比較データも現時点では存在しない。
とはいえ、Gen 2対Gen 3という同一プラットフォーム内での比較は測定バイアスの影響を受けにくく、相対的な改善幅の信頼性は高い。
ゼロヨーで13%、ヨー加重平均で14%という削減は、チューブプロファイルの微修正だけでは到達できない数値であり、フロントエンド全体のアーキテクチャ変更(Delta Steerer、新型フォーク、統合コクピット)が複合的に効いていることを示唆している。
今後、CN LabsやSwiss Sideといった独立機関による第三者テストで、他社フラッグシップTTバイクとの横並び比較が行われることを期待したい。
それが実現したとき、CdAグラフのカーブ形状そのものが数値以上にSuperSlice Gen 3の空力設計がいかに根本的なレベルで進化したかを証明することになるだろう。
LAB71 Series 0 Carbon
カーボン構造とフレーム重量
第3世代SuperSliceはキャノンデール最高峰のカーボン技術であるUltralight Series 0 Carbonを採用している。先代のHi-MODカーボンから大幅にアップグレードされた本レイアップは、薄壁チューブでありながら深い翼断面形状を実現するために最適化された。
特にボトムブラケット周辺とヘッドチューブ周辺のねじり剛性が重点的に強化されている。
公称重量(サイズM)は以下の通りである。
| コンポーネント | 重量 |
| フレーム | 1,122g |
| フォーク | 610g |
| シートポスト | 267g |
| ベースバー(SystemBar TT) | 321g |
各部重量の単純合計は2,320gとなるが、一部の海外メディアではシステム合計を約2,026gと報じている。この差異の原因は明確ではないが、測定条件やヘッドセットベアリング等の付帯パーツの有無による可能性がある。
いずれにせよ、TTプラットフォームとしては極めて軽量な部類に入る。
フレーム単体の1,122gは先代比約60g増だが、これはより深い翼断面チューブによるエアロ性能向上のためのトレードオフである。
キャノンデールはホワイトペーパーで「通常のTTコースでは登坂を含めても、軽量化よりも空力効率の向上がタイム短縮に直結する」と説明しており、60gの重量増を上回る10Wのエアロ改善で実走タイムは確実に速くなるとの立場だ。
たとえば40kmの平坦TTでは、60gの重量増加によるタイムロスは1秒にも満たないが、10Wのドラッグ削減は数十秒のタイム短縮をもたらす。この非対称性こそが、現代TTバイク開発の核心である。
EFチーム仕様の完成車重量は約9kg(68Tチェーンリング、90mmフロントホイール、リアディスク装着時)で、パーツ選択次第では9kg以下のビルドも十分に可能とされている。
フレーム規格の変更点
注目すべきは、ボトムブラケットがBSA 68mmスレッドに変更された点である。先代のPF30aから切り替えられたこの決定は、メンテナンス性とクリープ音対策を重視したものだ。
TTバイクのBBからの異音はレース中に精神的ストレスとなるだけでなく、機材への信頼感を損なう要因でもある。スレッドBBへの回帰は、プロの現場からのフィードバックを反映した合理的な判断といえる。
リアドロップアウトにはUDHを採用し、SRAMの新世代コンポーネントとの互換性を確保している。
ブレーキはフラットマウントディスク、スルーアクスルはフロント12×100mm、リア12×142mm。対応コンポーネントは電子式変速のみ(Shimano Di2、SRAM eTap AXS)で、機械式は非対応となる。
チェーンリングは2x構成で最大60/46T、1x構成で最大64T(SRAM Red AXS XPLR 13速シングルチェーンリング対応)に公式対応している。
ただし、EFプロ選手の一部は68Tチェーンリングを使用しているが、キャノンデールは64Tを超えるチェーンリングによるフレーム損傷を保証対象外としており、自己責任という注意喚起を行っている。
SystemBar TTコクピットとDelta Steeeer
Delta Steerer:ヘッドチューブを極限まで細くする仕掛け
第3世代SuperSliceで空力性能を大きく押し上げた技術の一つがDelta Steeererである。三角断面(ウェッジシェイプ)のステアラーチューブにより、ブレーキホースとシフターケーブルをステアラー内部に完全に格納している。
これによりヘッドチューブ上下ともに1-1/8インチベアリングで構成でき、従来の1.5インチ下玉押しが不要になったことでヘッドチューブの断面積を大幅に縮小した。
通常のロードバイクでは、ステアリングの剛性確保のためにヘッドチューブ下部を太くする必要がある。
しかしDelta Steererは三角断面によるねじり剛性の向上と、ケーブル内蔵による外部突起物の排除を同時に実現しており、空力面でも構造面でも一石二鳥の解決策となっている。
この技術は同時発表のSuperSix Evo第5世代にも採用されており、キャノンデールの次世代プラットフォーム共通技術となっている。
SystemBar TT:専用設計のフルカーボンコクピット
コクピットは380mm幅のフルカーボン一体型ベースバーに、Vision MonoRiser JS-bend Carbonエクステンションを組み合わせた専用システムである。調整範囲は以下の通りだ。
| パラメータ | 調整範囲 | 刻み |
| パッドスタック | 最大100~105mm | 5mm |
| パッドリーチ(前後) | 最大119~120mm | 7.5mm |
| エクステンション角度 | 0°~30° | 無段階 |
Vision Speed JS-BendおよびVision TFE EVOエクステンションと互換性があり、モノライザー方式でスライド調整後に固定するワークフローを想定している。
ただし、サードパーティ製ベースバーには一切非対応であり、エクステンションもVision/FSA単柱・モノリンクTFA Evo構成に限定される。この点はフィッティングの自由度を重視するライダーにとって大きな制約となりうるだろう。
シートポストはディープセクション翼断面のカーボン製(350mm長)で、前後45mmのサドル調整幅を持つ。有効シートチューブ角は74°~77°をカバーし、UCIタイムトライアルとトライアスロンの両方のポジションに対応する。
32mmタイヤクリアランス
第3世代SuperSliceの最大32mmタイヤクリアランスは、TTバイクとしては異例の広さである。
フレームとホイール間には四方に4mmのクリアランスが確保されており、キャノンデールはこの間隙自体がフレーム・ホイール間のエアフロー相互作用を最適化する設計意図を持つと説明している。
この広いクリアランスは、2025~2026年にかけて登場した新世代TTタイヤVittoria Corsa Pro Speed TLR 30cやContinental GP5000 TT TR 30mmへの対応を想定したものだろう。
幅広タイヤは転がり抵抗の低減、横風安定性の向上、そして長時間ライドでの快適性改善をもたらす。特に不整路面を含むコースや、ロングディスタンスのトライアスロンにおいて、この汎用性は明確なアドバンテージとなる。
自身のレース経験を振り返っても、TTバイクで路面が荒れているセクションに遭遇したとき、細いタイヤのバイブレーションがエアロポジションの維持を困難にした記憶がある。32mm対応というスペックは、カタログ上の数字以上に実戦的な意味を持つ。
競合他社との比較では、Cervelo P5の34mmに次ぐ広さで、BMC Speedmachine(30mm)、Canyon Speedmax(30mm)、Specialized Shiv(28mm)、Felt IA(28mm)を上回る。
75万円のフレームセットは買いか?
TTバイクにしては破格だ。
主要競合との比較
SuperSliceの立ち位置を理解するには、主要競合との比較が不可欠だ。以下に2026年時点での主要TTバイクとの比較表を示す。
| 項目 | SuperSlice 2026 | Cervelo P5 | BMC Speedmachine | Canyon Speedmax | Specialized Shiv TT |
| フレーム重量 | 1,122g(M) | 非公開 | 非公開 | CF: 1,380g | 非公開 |
| エアロ公称値 | 先代比14%削減/10W | 数値非公開 | 全ヨー角でTimemachine超え | 先代比8-10W削減 | UCI限界まで追求 |
| タイヤクリアランス | 32mm | 34mm | 30mm | 30mm | 28mm |
| 統合ストレージ | Vision後付けのみ | 内蔵オプション有 | 1.2L統合ハイドレーション+リアストレージ | ベントボックス+ハイドレーション一体 | 最小限 |
| UCI合法 | ○ | ○ | ○(ストレージ取外し時) | ○(TTバージョン) | ○ |
コストパフォーマンス
SuperSliceの75万円はコクピット一式を含むフレームセット価格であり、Vision MonoRiserエクステンション付きベースバーの単体価値を考慮すると、見かけ上の数字ほど割高ではない。
LAB71のUltralight Series 0 Carbonを使用してこの価格はかなり攻めていると思う。わかる人にはわかる、SuperSix EVO LAB71よりも安いのは、ユーザーとして納得ができない人も居ると思うが、それほど攻めた価格なのだ。

一方で、BMC Speedmachineのモジュールは同じ$6,999で統合ハイドレーションとストレージを含む。Canyon Speedmaxに至っては完成車が4,299ユーロ(約67万円)から購入可能であり、予算対性能比ではSuperSliceは不利だ。
とはいえ、フレームの出来が良ければパーツ選択の自由度が広がり、長期的な満足度につながる。SuperSliceのSeries 0 Carbonフレームは、そうした長期投資として考えるべき機材だろう。
TTレースとトライアスロン、どちらに向いている?
SuperSliceはUCIタイムトライアルに最適化された設計であり、トライアスロンは二次的な用途として位置づけられている。
Vision MetronフロントハイドレーションとTrimax リアハイドレーションシステムに対応するが、フレーム統合型のストレージは持たない。例えば、70.3以上のレースではストレージ不足が課題になってくる。
ロングディスタンストライアスロンにはBMC SpeedmachineやCanyon Speedmaxのほうが実用的だ。


逆に、短距離TT・プロローグ・UCI公認レースでの純粋な速さを追求するなら、SuperSliceのフレーム軽量性と空力性能は最有力候補の一角となる。
UCI規制を最大限に準拠
SuperSliceはUCIレギュレーションの限界まで攻めた設計である。プロダクトマネージャーWill Gleason氏は「TTバイクはブランドの空力知見の結晶。UCI規則書を徹底的に読み込み、シミュレーションで1ワットでも削る」と語っている。
2026年のUCI規則改定で許容されたより深いフォークブレード形状を最大限活用しており、前述のフォーク翼断面の大幅深化はその直接的な恩恵である。
2026シーズンはツール・ド・フランス開幕ステージでのチームタイムトライアル、およびツール・ド・フランス・ファムでの個人タイムトライアルが予定されており、EF Education-EasyPostが新型SuperSliceで走る姿が期待される。
ハンドリング
ハンドリングについて、キャノンデールは「先代とほぼ同一のジオメトリを維持しつつ、ステアリングジオメトリの微修正で高速コーナーとタイトターンでのシャープさを向上させた」と説明している。
ヘッドチューブとBBの剛性増加により、パワー伝達とステアリング精度が荷重下で改善されたとする。空気をより効率的に切り裂きながら、ハンドリングがシャープになったバイクと表現している。
筆者自身がTTバイクに求める要素を考えると、単なる空力数値よりもハンドリングの安心感が重要だと感じる場面が多かった。とにかくTTバイクはコーナーリングが怖く感じる。
コーナーやドン着きまで行ってUターンをする不安定さは、タイムロスに直結するだけでなく、心理的にもエアロポジションを深く取ることを躊躇させる。SuperSliceが空力と操安性の両立を主張している点は、実戦的な視点から高く評価できる。
見過ごせない制約事項
SuperSlice第3世代は卓越した空力性能を持つ一方で、購入検討者が認識すべき制約がいくつか存在する。
コクピットの互換性制限が最大の懸念点である。サードパーティ製ベースバーには一切非対応で、エクステンションもVision/FSAモノリンク系に限定される。
TTバイクのフィッティングは非常にパーソナルであり、長年かけて最適化したポジションを再現できない可能性があるという事実は、この価格帯のフレームセットにとって致命的となりうる。
フレームセットのみの販売形態は、完成車を提供するCervelo P5やCanyon Speedmaxと比較して購入ハードルが高い。コンポーネント・ホイール・サドルの別途調達により、最終的なビルドコストは180万円以上に膨らむ可能性がある。
カラーもRawの1色のみ、サイズ展開は4サイズ(XS, S, M, L)と限定的だ。
まとめ:純粋なスピードを求める者へ
第3世代Cannondale SuperSliceは、タイムトライアルにおける絶対速度を追求したライダーにとって、注目すべきフレームセットの一つである。
1,122gのフレーム重量、14%のドラッグ削減、32mmタイヤクリアランスという三要素の両立は、他社が容易に追随できないパッケージだ。
BSAスレッドBBとUDHへの移行は実用面でも歓迎すべき進化であり、Delta Steererによるクリーンなフロントエンドは今後のキャノンデール全モデルの方向性を示している。
一方で、75万円のフレームセットが万人向けではないことも事実だ。ロングディスタンストライアスロンにはストレージの統合度で劣り、コストパフォーマンスではCanyon Speedmaxに大きく水をあけられる。
コクピットの互換性制限は、多様なフィッティングニーズを持つエリートライダーにとって検討事項となる。しかし、それは2次的な懸念点であってSuperSlice Gen3が本来追及すべき、最も活かせる領域ではないのかもしれない。
個人TTで1秒を削ることに全てを賭けるライダー、そしてEFプロサイクリングが実戦で証明するであろう性能を自身の機材にも求めるエンスージアストにとって、SuperSlice LAB71は最も説得力のある選択肢だ。本来の真価はここで発揮される。
2026年のツール・ド・フランスTTTで、このバイクがどのような結果を残すかそれが最終的な評価を決定づけることになる。
もしあなたが次のTTバイクの選択で迷っているなら、自分のフィッティングがSystemBar TTの調整範囲内に収まるかどうかを最初に検証することを強く推奨する。速さへの投資は、正しいフィットの上にしか成立しない。





















