マチュー・ファンデルプールが今シーズン始めから、プロトタイプのテストを重ねてきた新型AEROADがついに発売する。
新型AEROADは、パリ~ルーべ、そしてミラノ~サンレモという最高難度のレースにおいて優勝という形で実証されたモデルだ。マチュー自身が新型AEROADの全般にわたる性能に納得したことを経て、ついに市販化を迎えた。
今回の新型は、現行世界最速レベルに到達しているAEROADをベースに、フレーム形状ブラッシュアップしている。新型と前期型との違いはごくわずかに見えるが、キャニオンのエンジニアチームはどのような部分を変更し、そして何を変えなかったのか。
速報版としてお伝えする。
新型AEROADの変更点
プロチームのメイン機材として、最も多くのライダーが選ぶのがAEROADだ。そのためトッププロやメカニックから前作のAEROADに対して、数々な厳しいフィードバックが寄せられたという。その結果、以下の変更がAEROADに加えられた。
- ペダリングパワーの伝達効率を向上
- シートポストの固定機構変更
- シートポストの固定ボルト位置変更
- シートポストのセットバック5mm減
まず、1つ目の「ペダリングパワー伝達を向上」からだ。目に見える変化ではないものの、新型AEROADは、ペダリングの伝達効率が向上した。
これは、プロトタイプでも話題になっていた通り、シートチューブとトップチューブの接合部分のフレーム形状が変更されたことにある。リブのような形状がフレームに追加され、面積が広くなり剛性が高まっている。
この形状は、2つ目の変更点である固定機構変更によるものと思われがちだが、TARMAC SL7のようなフレーム形状でも同様のシートポスト固定方法を採用しているため、純粋に剛性アップを求めた形だ。
実際にAEROADを使用するトッププロからは、「シッティング中に高出力のペダリングをおこなうと、わずかなしなりが発生しパワーロスを招く」との指摘を受け改善に至っている。この構造の微妙な改善によって、より高いペダリングパワーの伝達を行うことが可能になった。
2つ目は「シートポスト固定機構変更と固定ボルト位置変更」だ。
前作のAEROADは、高い振動吸収性能を意図して設計されたシートポストだった。エアロ系ロードバイクはその形状から、乗り心地が悪化してしまう場合がある。そのためAEROADはシートポストをしならせ、エアロロードバイクらしからぬ快適性を実現した。
しかし、振動吸収の構造はトレードオフとして、シートポストとフレームがスムーズに摺動するよう定期的なグリスアップが必要になっていた。このため、ユーザビリティの向上を意図して組み立て時の作業を簡便にし、メンテナンス頻度を低減して整備性を向上させるためにシートポスト固定機構をアップデートした。
また、シートポスト固定ボルト位置変更も行われている。前作はシートステーの裏側にボルトを固定する構造を採用していた。
大きなサイズでは問題ないが、前作はシートポストのフレキシビリティを確保し、振動吸収力を発揮させるために、2XSやXSサイズでは構造上固定ボルト位置がシートステーの間に位置していた。そのためボルトへのアクセスがしにくくなっていた。
そのため新型AEROADでは、TTバイクのスピードマックスと同機構を採用した。その結果、アクセスのしやすいトップチューブ側にシートポスト固定ボルトを移設している。
3つ目は、「シートポストセットバック5mm減」だ。
シートポストのセットバックを5mm減らし、さらなる前乗りポジションに対応した。というのも、近年、プロライダーのポジションはサドルを前寄りにセッティングする傾向にある。
プロの要望から、シートポストのセットバックを5mmだけ減らした。写真は前期型(左)と新型(右)の比較だ。前期型と新型のフレーム・シートポストの組み合わせはそれぞれ専用となっており、互換性はない。
旧モデルからの継続ポイント
次に、新型AEROADで旧型から継続されたポイントは3つある。
- 空力性能
- 重量
- 価格(重要)
1つ目の空力性能は据え置かれた。すでに他社を圧倒する空力性能を備えているAEROADをベースにしている。日本国内で購入できるロードバイクとしては世界最速だ。既に完成の域に達している空力性能に関しては、前期型を引き継ぎ新型も残念ながら変わらない。
フレーム形状は、後述の通りシートチューブ・トップチューブ・シートポストが変更されているため、空力性能がさらに改善されるのではという憶測も飛び交っていたが、据え置きとなった。
2つ目の重量に関しても据え置きだ。AEROADは「登れるエアロロードバイク」として、シーンを問わず活躍し、こちらも軽量化が期待されていたが重量も据え置かれた。とはいえ、ツール・ド・フランスの山岳ステージから、日本のMt.富士ヒルクライムまで、あらゆる山岳レースで力を発揮できる軽さを達成している。
- AEROAD CFR DI2:7.20kg
- AEROAD CF SLX 8 DI2:7.76kg
- AEROAD CF SL 8:7.82kg
※いずれも前期型Mサイズ完成車平均重量
据え置かれた”バグった価格”
本日(2023年6月15日時点)のユーロは152.82円だ。ドルは141.38 円だ。ドル、ユーロ共に為替相場は乱高下が続き、年明けのユーロは138円だったのに対し、ドルを超え153円に迫ろうとしている。
CANYONのレートはユーロだ。そのため、間違いなく「値上げ」されると思っていたがどうやらそうではなかった。CANYONの公式発表によると、価格についてはいかのような声明が出されている。
キャニオンは、最先端の性能を、「現実的な適正価格」でライダーに提供することを目指しています。昨年と比べてユーロ高・円安が進行していますが、現在のところ日本円価格を据え置きとしています。
企業努力、すごいぞキャニオン!「現実的な適正価格」という言葉を、昨今の高騰する自転車界隈に是非投げかけてほしい。今回は大幅なアップデートが行われた訳では無く、「据え置かれた」部分も多かった。キャニオンは「価格」も据え置くとはなんとも粋だ。
- AEROAD CFR 完成車 1,109,000~1,259,000円
- AEROAD CFR フレーム&ブレーキキット539,000円
- AEROAD CF SLX 完成車 599,000~779,000円
- AEROAD CF SL 完成車 479,000円
AEROAD CFR eTapはフレームがおまけでついてくる
今回、最も衝撃的だったのがAEROAD CFR eTapの価格だ。
「1,259,000円」
えーっ、ロードバイクって100万円超えるのー!?
という、ボケはさておき、付属するパーツの価格を国内正規代理店で購入した場合の合計金額は以下の通りだ。
- SRAM Red eTap AXS HRD 2X Groupset:513,300円
- SRAM Red D1 Chain:15,120円
- SRAM RED XG-1290, 10-28:67,460円
- SRAM Red AXS Powermeter:246,300円
- SRAM Centerline XR Rotor x2:31,400円
- ZIPP 454 NSW Tubeless Disc:785,000円
- GRAND PRIX 5000S TR x2:26,000円
- Fi’z:k Fizik Vento Argo Adaptive:39,800円
合計、1,724,380円だ。
パーツ代だけで国内入手した場合、1,724,380円だ。
少し前の記述に戻ろう。
今回、最も衝撃的だったのがAEROAD CFR eTapの価格だ。
「1,259,000円」
えーっ、フレームとフォークとハンドルとシートポストが実質無料な上に、パーツ代引くと、465,380円もお買い得なのー!?
ということだ。
転売ヤーが湧いてこないことを祈る。
AEROAD CFR Di2完成車、フレームが実質無料
AERAOD CFR DI2の価格は1,109,000円だ。なお、クランクはROTOR POWERでコンポーネントはDura-ACE R9200のため、合計は50万近い。さらに世界最速のホイール、DTSWISS ARC 1100は466,400円だ。マチューが愛用するセライタリアのサドルは4万、パーツの合計金額は約100万だ。
あと追加で10万9千円足すと、新型のAEROAD CFRとシートポスト、ハンドルが付属してくる。
新型 AEROAD ラインナップ
AEROAD CFR
- AEROAD CFR eTap 1,259,000円
- AEROAD CFR DI2 1,109,000円
- AEROAD CFR フレーム&ブレーキキット 539,000円
AEROAD CF SLX
- AEROAD CF SLX 8 DI2 779,000円
- AEROAD CF SLX 8 Force eTap AXS D2 779,000円
- AEROAD CF SLX 7 Rival eTap 599,000円
AEROAD CF SL
- AEROAD CF SL 8 479,000円
まとめ:マイナーアップデートながら、価格据え置き。
今回のアップデートは、期待されていた新レギュレーションを採用した空力改善のフルモデルチェンジではなく、マイナーアップデートといった印象だ。しかしながら、フレームの構造は全く別物になっており、金型を一から制作する必要があるほどのアップデートだなのだ。
そのため、前作と新型では別物のフレームと言って良いできだ。ペダリングの伝達効率の向上や、これまで問題として上がっていたシートポストの異音問題、整備性の向上など、様々な細かい配慮がなされたアップデートに仕上がっている。
そして、最後に価格である。
高騰する自転車コンポーネントの話題に頭を悩ませているのはユーザだけではない。メーカーも同じように仕入れ価格が高騰しているだ。それゆえ、完成車の価格が200万円超えのバイクが登場する中、CANYONはお値段据え置きという「異次元の価格高騰化対策」を行った。
どこかの国の「異次元の少子化対策」とは違うのだ。キャニオンの言葉をもう一度紹介しておく。
キャニオンは、最先端の性能を、「現実的な適正価格」でライダーに提供することを目指しています。昨年と比べてユーロ高・円安が進行していますが、現在のところ日本円価格を据え置きとしています。
とはいえ、だ。
ドイツから1,259,000円の完成車を買うと、日本で購入すると1,724,380円相当のパーツが付属、さらにフレームとフォークとハンドルとシートポスト”も”ついており実質無料。465,380円はどこに行った?という状況だ。さらに年明けのユーロは138円だったのに対し、ドルを超え153円に迫ろうとしている。
正直、自転車業界の値付け感覚が私はよくわからない。ただ一つ言えることは、CANYONが謳う「現実的な適正価格でライダーに提供することを目指す」ということが十二分にサイクリストに伝わった価格設定だということだ。
「現実的な適正価格」
CANYONのこの言葉の意味は、はたして末端にいるサイクリストに投げかけられた言葉なのか、それとも他社、自転車業界そのものに投げかけられた問なのか―――、
その答えは、これから登場する新型AEROADのセールスと性能が証明してくれるのかもしれない。