サンボルトのPASOPは、凸型エアロ生地とセットイン袖による空力性能、シームレス構造によるフィット感の向上、サイテック社製パッドの採用が特徴である。夏季の着用を想定した通気性と吸汗速乾性を備え、実戦での使用を重視した設計思想に基づいている。
- ➕️凸型エアロ生地とセットイン袖による空力性能の向上
- ➕️シームレス構造によるフィット感の進化
- ➕️サイテック社製パッドの採用
- ➕️夏季に対応する通気性と吸汗速乾性
- ➕️実戦を見据えた機能性
- ➖️特になし
ロードバイクにおいて「速さ」と「軽さ」はトレードオフの関係にあった。同じくして、サイクルウェアにおいても「速さ」と「快適さ」はトレードオフの関係にある。エアロダイナミクスを追求すれば身体を締め付け、快適性を優先すればバタつきが生まれる。
サンボルトのPROエアーシームレスワンピース(以下PASOP)は、その相反する性能に対して日本のオーダージャージメーカーならではのアイデアで解決したトップモデルだ。
今回は、実際にPASOPを試し、設計思想と各要素技術を掘り下げ、どのようなライダーにとって最適解となり得るのかを考察した。
エアロダイナミクス:凸型エアロ生地とセットイン袖
PASOPの空力設計において注目すべきポイントは、袖部に採用された凸型エアロ生地だ。表面に微細な凸型の縦線テクスチャーを持つこの生地は、走行時に腕周りの空気の流れを制御し、乱流の発生を抑制することで空気抵抗の低減を図っている。
サンボルトはこの凸型生地をジャージだけでなくグローブやソックスといったアクセサリーにも展開しており、トータルでの空力最適化を志向するブランドの姿勢が見て取れる。
従来モデルではラグラン袖に凸型エアロ生地を配置していたが、PASOPではセットイン袖への変更が行われた。ラグラン袖は肩から袖にかけての縫い目が斜めに走るため可動域の広さに優れるが、肩周りのシルエットがやや緩くなる傾向がある。
一方、セットイン袖は肩のラインに沿って袖が独立して付くため、ライディングポジションにおける上腕から肩にかけてのフィット感がより高まる。ドロップハンドルを握った前傾姿勢では、肩と上腕の境界が空気の剥離ポイントになりやすい。
セットイン袖による密着性の向上は、まさにこの剥離を抑えるための設計的判断といえる。
ボディ部には通気性と伸縮性に優れた超軽量メッシュ素材が使われている。エアロ性能が求められる袖部には凸型生地、体幹部には通気性重視のメッシュという異素材の組み合わせは、部位ごとに求められる機能を最適に配分するゾーニング設計の典型である。
前面投影面積が大きい胴体部分は速度域において空力への影響が腕部ほど顕著ではないため、通気性を優先するという判断は合理的だ。
シームレス構造とフィットの進化
PASOPの名称にも含まれる「シームレス」は、このモデルの核心を示すキーワードだ。
パンツ部分にシームレス生地を採用し、裾のすべり止めが別パーツではなく生地と一体化されている。従来のサイクルパンツでは、裾にシリコンバンドやゴムテープを別途縫い付けることでずり上がりを防止していた。
しかしこの構造は縫い目が肌に当たることによる不快感や、長時間の着用で生じる圧迫痕の原因にもなっていた。
シームレス化の恩恵は大きく3つある。
第一に、別パーツの縫製が不要になることによる軽量化。第二に、縫い目による肌への刺激が排除されることによる着用感の向上。第三に、パーツ接合部で生じていた微細な段差がなくなることによる空力特性の改善である。
特にレース中の高速走行時には、パンツ裾と太腿の境界部分も空気の乱れを生じさせる要因となるため、この部位のシームレス化は見た目以上に実効性がある。
完全一体型の構造、すなわちワンピースであること自体も軽量化に大きく寄与している。通常のジャージとビブショーツの組み合わせでは、ジャージの裾がビブの上に重なり、ビブの肩紐がジャージの下を通るという二重構造が発生する。
ワンピースではこの重複がなくなるため、生地の使用量が減り、体幹部の圧迫感も軽減される。さらにビブの肩紐による肩周りの圧迫がないことは、長時間のライドにおいて肩こりを軽減する効果も期待できる。
サイテック社製パッド
PASOPが搭載するパッドは、イタリアのCyTech(サイテック)社製である。
サイテック社はイタリア・ベネト地方に本社と工場を構えるサイクリング用パッドの専門メーカーであり、同社が展開するエラスティック・インターフェースブランドのパッドは、ASSOS、Rapha、スペシャライズドといった世界的なサイクルウェアメーカーが採用していることで知られている。
サイテック社製パッドの特徴は、部位によって密度や厚みが異なる多層構造にある。坐骨が当たる部分には高密度のフォームを配置し、ペダリング時に可動する部分にはより柔軟な素材を用いることで、サドルとの接点における圧力分散と脚の自由な動きを両立させている。
安価なパッドにありがちな「ただ厚いだけ」の設計ではなく、人間工学に基づいた立体的な設計がなされている点が、長距離ライドでの疲労軽減に直結する。
PASOPではメンズ用とレディース用の2種類のパッドが選択可能であり、骨格の違いに応じた最適なサポートが得られる設計となっている。レースからグランフォンドまで、走行距離や強度を問わず快適性を維持できるパッド品質は、このワンピースの実用価値を大きく押し上げている要素である。
実戦を見据えた機能
ワンピース型ウェアの宿命的な弱点として、トイレ時の煩雑さがしばしば挙げられる。通常のワンピースでは前面のファスナーを大きく開けるか、場合によっては肩まで脱ぐ必要があり、レース中やロングライド中のストレスとなっていた。
PASOPではWジッパー(ダブルジッパー)を前面に採用することで、この問題に対処している。上下どちらからでも開閉できるWジッパーにより、上部を閉じたまま下部だけを開くことが可能となり、ワンピースでありながらセパレートウェアに近い利便性を実現している。
また、新モデルではファスナーがより長くなったことで着脱が容易になり、胸部のロゴやデザインがファスナーの開閉時にV字型に崩れにくくなるという改善も施されている。さらに襟付きデザインへの変更により、首元の日焼け防止と走行時の風の巻き込み抑制という2つの実用的なメリットが加わった。
これらの改良点はいずれも、実際にワンピースを日常的に着用するライダーからのフィードバックに基づくものだ。
サンボルトの橋本社長自らが現場に赴き、ユーザーに着心地の感想を聞き、今後どのような製品が欲しいかを尋ねるという姿勢は、同社の製品開発がスペックシート上の数値ではなく、実走における体験価値を起点としていることを示している。
夏季の快適性:通気性と吸汗速乾
日本の夏は高温多湿という世界的にも過酷な環境であり、この気候条件下でのパフォーマンス維持は国内サイクリストにとって切実な課題になっている。PASOPのボディ部に採用されている超軽量メッシュ素材は、この日本特有の気候への対策として設計されている。
メッシュ素材は繊維の隙間から外気を取り込み、体表の湿った空気を外部に排出する対流を促進する。走行中の風圧がこの対流をさらに加速させるため、速度が上がるほど冷却効果が高まるという好循環が生まれる。
吸汗速乾性に優れた素材特性により、汗が肌表面に留まることなく素早く生地に移行し、蒸発するサイクルが維持される。肌のベタつきが減ることで不快感が軽減されるだけでなく、汗冷えによる体温低下のリスクも抑えられる。
ただし、メッシュ素材の高い通気性は紫外線透過率の上昇を意味する点には注意が必要である。長時間のライドでは日焼け止めの併用が推奨される。この点はトレードオフとして認識した上で、夏季の快適性という圧倒的なメリットを享受すべきである。
サンボルトの設計思想
サンボルトは大阪府東大阪市に本社を構えるオーダーサイクルジャージの専門メーカーであり、オーダージャージのパイオニアとして知られている。
最低1枚からのオーダーに対応し、約25~35日の納期でオリジナルウェアを届けるという体制は、大手海外ブランドにはない柔軟性である。その根底には「ホビーレーサーからトップアスリートまで、自転車を楽しむすべての人に快適なサイクルライフを提供する」という理念がある。
PASOPはサンボルトのラインナップにおいて、PROエアーワンピースの系譜に位置するフラッグシップモデルだ。セパレートワンピースよりもさらにエアロで軽量、TTワンピースよりも着用しやすいという中間的なポジションを確立しており、レースにおける空力性能と日常的な使い勝手の両立を狙っている。
UCIグランフォンド世界選手権のTeam JAPAN統一ジャージとして採用されている事実は、PASOPの性能が国際レベルの競技に対応していることの証左とも言えるだろう。
同時に、一般サイクリストでも購入可能であるという間口の広さは、競技志向の製品を広くアマチュアライダーに開放するサンボルトの姿勢を体現している。
24,000円(税込)という価格設定は、サイテック社製パッドを搭載したワンピースとしては非常に競争力のある水準であり、コストパフォーマンスの高さも見逃せないポイントだ。

PASOP:4つの進化ポイント
| 進化項目 | 従来モデル | PASOP |
|---|---|---|
| パンツ裾 | すべり止めが別パーツ縫い付け | シームレス生地で一体化 |
| ファスナー | 短めのファスナー | より長いファスナーで着脱性・デザイン維持を向上 |
| 袖の構造 | 凸型エアロ生地のラグラン袖 | 凸型エアロ生地のセットイン袖に変更 |
| 襟 | 襟なし | 襟付きで日焼け防止と風の巻き込み抑制 |
スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 製品名 | PROエアーシームレスワンピース(PASOP) |
| メーカー | サンボルト(SUNVOLT) |
| 構造 | 完全一体型ワンピース |
| 身頃素材 | 超軽量メッシュ素材(通気性・伸縮性優先) |
| 袖素材 | 凸型エアロ生地(空気抵抗低減) |
| 袖型 | セットイン袖 |
| パッド | CyTech(サイテック)社製 Elastic Interface |
| パッド選択 | メンズ / レディース |
| ファスナー | Wジッパー(ダブルジッパー) |
| サイズ展開 | XS / S / M / L / XL / XXL |
| 価格 | 24,000円(税込・送料無料) |
| 販売形態 | 受注生産 |
まとめ
PROエアーシームレスワンピース(PASOP)は、サンボルトがこれまで培ってきたセパレートワンピースの知見を結集し、さらにエアロダイナミクスと快適性の両面で進化させたフラッグシップモデルだ。
凸型エアロ生地とセットイン袖による空力最適化、シームレス構造による軽量化とフィット感の向上、サイテック社製パッドによる長距離ライドへの対応、そしてWジッパーや襟付きデザインといった実戦的な配慮が、一切の妥協なく詰め込まれている。
UCIグランフォンド世界選手権のTeam JAPAN統一ジャージとしての実績を持ちながら、一般サイクリストにも手の届く価格帯で提供されている点は、サンボルトの「すべてのライダーに最高の一着を」という設計思想の具現化である。
日本の高温多湿な夏を戦い抜くための武器として、そしてレースでの1秒を削り出すためのエアロウェアとして、PASOPは検討に値する一着だ。

















