ロードレースホイールの設計思想に、新たなパラダイムシフトが訪れた。2025年6月にRovalが発表した第三世代のRapide CLX IIIは、単なる後継モデルではない。
それは、空力性能の90%がフロントホイールに由来するという大胆な仮説を基に、フロントをディープ(51mm)、リアをシャロー(48mm)に設計し、前世代から215gもの軽量化を達成した革新的なシステムである。
今回のインプレッションでは、ROVALの解説責任者の方にインタビューを行い、ROVAL RAPIDE CLX IIIを試した。
新開発のコンポジットスポークやハブなどの技術的詳細を解剖し、卓越した横風安定性や加速性能といった実走での真価を徹底的に分析することで、Rapide CLX IIIが現代のレースシーンにおいてどのような価値を提供し、今後の展望を切り開くのかを明らかにする。
Rapide CLX III:技術革新の全貌
Rapide CLX IIIの核心を理解するためには、まずその技術的な構成要素を詳細に分析する必要がある。本章では、公表されているスペックから、その背後にある設計思想、そしてそれを実現したマテリアルサイエンスの結晶までを解き明かす。
主要技術仕様:数値が語る進化
Rapide CLX IIIの性能は、そのスペックシートに凝縮されている。
前世代からの飛躍的な進化と、競合製品に対する明確なポジショニングを理解するため、主要な技術仕様を以下の表に集約した。公称重量、リム寸法、ハブ、スポーク、そして日本市場での価格まで、客観的なデータがこのホイールの本質を物語る。
| 項目 | フロント | リア | ホイールセット |
|---|---|---|---|
| 公称重量(バルブ・テープ込) | 600 g | 705 g | 1305 g |
| リムハイト | 51 mm | 48 mm | – |
| リム内幅 | 21 mm | 21 mm | – |
| リム外幅(最大) | 35 mm | 31.3 mm | – |
| リム構造 | カーボンクリンチャー、フックド | ||
| ハブ | Roval LF Hub, DT Swiss 180 EXP 36T internals, SINC Ceramic Bearings | ||
| スポーク | Roval Aero Composite by Arris, 18H | Roval Aero Composite by Arris, 24H | – |
| 最適タイヤ幅 | 28 mm | ||
| 対応タイヤ幅 | 24 mm – 38 mm | ||
| 価格(税込) | 193,600円 | 290,400円 | 484,000円 |
設計思想の転換:フロントディープという解答
Rapide CLX IIIの最も革新的な点は、フロント51mm、リア48mmという、従来の常識を覆すリムハイト設定にある。これは「空力性能の90%はフロントホイールから得られる」というRovalの徹底した研究開発に基づく結論だ。
バイクのリーディングエッジであるフロントで空力性能を最大化し、ハンドリングへの影響が少なく、かつ空力的な寄与度が低いリアではリムハイトを抑えて回転質量を削減。これにより、加速性能と登坂性能を向上させるという、極めて合理的な思想である。
このアプローチは、前世代のRapide CLX IIが採用していたフロント51mm、リア60mmという構成とは真逆の発想である。
従来の多くのエアロホイールが横風安定性を確保するためにフロントを浅く、空力効果を狙ってリアを深くする設計を採用してきたのに対し、RovalはCFD(数値流体力学)モデリングと自社の風洞実験施設「Win Tunnel」での徹底的な検証を通じて、ディープなフロントリムでも安定したハンドリングが可能であるという自信を示した。
これは、単なる設計変更ではなく、オールラウンドホイールの最適解を再定義しようとする野心的な試みと言える。
マテリアルサイエンスの結晶:新開発コンポーネント
215gという大幅な軽量化は、単一の改良では達成できない。それは、スポーク、ハブ、リムというホイールシステム全体にわたる複合的な技術革新の賜物である。ここでは、その主要な構成要素を個別に分析する。
Roval Aero Compositeスポーク by Arris
Rovalロードホイールとして初めて採用されたカーボンスポークは、先進マテリアル企業Arris Compositesとの共同開発品である。
1本あたり1.9gという軽さで、システム全体で約96.6gの軽量化に貢献するだけでなく、スチール製のエアロスポークと比較して20%高い強度を誇る。この高強度・軽量という特性は、ホイール全体の剛性向上と反応性の高い乗り味に直結する重要な要素である。
ただし、チタン製のエンドピースを持つ独自のTヘッド形状のスポークは、破損時の入手性や交換作業の特殊性という点で、従来の汎用スポークとは異なる配慮が必要となる可能性がある。
軽量化されたハブとリム構造
新設計のRoval LF (Low Flange) ハブは、従来のハブから50g以上の軽量化を達成している。内部には、信頼性の高いDT Swiss 180 EXPの36Tラチェットと、低抵抗なSINCセラミックベアリングが搭載されており、軽量化と信頼性、そして素早いパワー伝達を両立している。
さらに、リムのカーボンレイアップも最適化され、リム単体でも前世代からの軽量化に貢献していることが示唆されている。これらスポーク、ハブ、リムの三位一体の軽量化が、1305gという驚異的な重量を実現したのである。
FlatStopビードフックと安全性の追求
Rovalは、近年のトレンドであるフックレスリムとは一線を画し、フックドリムにこだわり続けている。CLX IIIでは、その思想をさらに推し進めた「FlatStop」ビードフックを採用した。
ビードフックの上面を広く、角を大きなR(曲率半径)にすることで、衝撃を受けた際のタイヤへのダメージを分散させる。これにより、リム打ちパンク(ピンチフラット)に必要なエネルギーが39%増加し、クラス最高レベルの耐パンク性能を実現したと主張する。
この設計は、過去のモデル開発で直面したチューブレスの安全性問題への明確な回答である。初代Rapide CLXが開発最終段階でチューブレス非対応となった苦い経験を経て、Rovalは安全性を最優先事項と位置づけている。
フックドリムの採用は、幅広いタイヤ選択の自由度と、高圧設定の許容、そしていかなる状況でもタイヤが外れにくいという絶対的な安全性をユーザーに提供するという、Rovalの強い意志の表れである。
さらなる詳細については、先般の記事を参照していただきたい。
インプレッション:実走から見る真価
ROVAL RAPIDE CLX IIIのローンチに参加し、いち早くこのホイールを試す機会を得た。使用するバイクはメインバイクのTarmac SL8で、空気圧はパナレーサーのデジタルゲージで0.01bar単位でチューニングしている。
技術仕様がどれほど優れていても、その真価は実際の走行性能によってのみ証明される。実際に乗ることで、CLX IIIのパフォーマンスを多角的に評価する。前世代モデルのインプレッションを基に、技術的進化が乗り味にどのような変化をもたらすかも考察した。
あぁ、ROVALもこっちに行ったか。
「カーボンスポークホイールの乗り心地はこうだ」という感覚が体に染みついている。
LightweightやCosmic ULTIMATEをチューブラー&リムブレーキから何本も乗り継ぎ、最近ではCADEXや中華系カーボンスポークに乗ったからこそわかる。カーボンスポークホイールは単純に硬すぎて遊びが無く、走らせにくいホイールだと感じることが多い。
だから、私はカーボンスポークの乗り心地の悪さと遊びのなさが嫌いで、しなやかな鉄スポーク(CX-RAYやDT AEROLIGHT)を好んできた。カーボンスポークはどうしても剛性が高すぎるのだ。
どうやら、この感覚は私だけではなかったようだ。ローンチで来日していたROVALの最高開発責任者の方が「レムコがもう少し剛性を下げてほしいとオーダーしてきた」と語っていた。
「どのように剛性を落とすか」のアプローチは企業秘密だが、ホイールとして必要な剛性を担保しつつも、走りで不快感があるような過度な剛性は削り落とされたという。その結果は、はっきりとRAPIDE CLX IIIの特徴として表れている。
ROVAL RAPIDE CLX IIIテストするまで、一抹の不安があった。「カーボンスポーク特有の硬さだったら、CLX IIIを使いたくないなぁ」と考えていた。
「カーボンスポークだから硬いはずだ」という先入観をもってRAPIDE CLX IIIに乗り始めると、はっきりとした違和感があった。カーボンスポークらしからぬ、しっかりとしたしなやかさがある。懸念していた創造とは逆を行く、好きなホイールだった。
ようするに、スチールスポークのような乗り心地の良さがある。
実は、この感覚を自分の中で理解したのはVONOA Gen4スポークを使ってからだ。今まで知らず、理解してなかったのは、「カーボンスポーク」だからといってすべてが硬く、遊びや、バネ感のないモノばかりではない。

確かに、これまでのカーボンスポークホイールのどれもが、踏み込んだ時にわずかな遊びも許さぬ硬さがあった。しかし、パラダイムシフトが起きたのは、VONOA Gen4からだ。そして、ARRIS社のスポークもこの設計思想と同じ方向に進んでいた。
まさかROVALがこの方向に行くとは思わなかったが、この走りをする時点でもう買う決断ができていた。
プレスローンチで一緒に走っていた方(世間では皆が知る有名な方・・・)に、「RAPIDE CLX IIIどうですか?」と聞かれたのだが、唯一判別できた「スチールスポークの乗り心地」しか答えられなかった。「あと、CLX IIより回転が軽い」ぐらい。
空力や、カカリはまったくわからなかったが、カーボンスポークでこの方向性と、物理的な軽さが1300gなら十分だ。具体的かつ、正直に書いてしまうが、CLX1やCLX2、ましてやVONOA NOVA 45をメインレースで使うことはないだろう。これからは、RAPIDE CLX IIIがメインホイールになる。
RAPIDE CLX IIIは踏み込んだときにわずかにしなりながら、徐々にしなりを押し戻してくるバネ感がある。この理由は、ホイールシステムARRIS社のカーボンスポークによるものだろう。数あるカーボンスポークの中で特に柔らかい設計になっている。
ARRIS社のカーボンスポークのしなり具合は、VONOA Gen4スポークに匹敵するかそれ以上のしなやかさがある。何なら、CX-RAYに近い。簡単に手で曲げられる柔軟性があるのは、VONOA Gen4かARRIS社のスポーク、この2つだけしか記憶にない。
VONOA Gen4とARRIS社のスポークを使ったホイールは、他のカーボンスポークホイールの乗り心地とは全く異なる。
ROVALが、スポークに過度な剛性を求めず、むしろ、しなやかさを求めたのは評価できる。これが、巷に出回っている「カーボンスポークホイール」のような過剰剛性のホイールを出して来たら、評価は大きく変わっていたかもしれない。
「あぁ、ROVALもこっちに行ったか。素晴らしいことだ。」
走らせながら、何度もそう思った。
この、計算された剛性感や走りの快適さはスチールスポークを連想する。「カーボンスポークホイール」として、あえてこの優れたフィーリングと走りを引き出せるのだから、ROVALの開発思想と設計は恐れ入る。
むやみに数値的、スペック的な数値や剛性を求めず、純粋に速さと使い勝手の良さを追及したROVALには感謝しかない。
ホイール全体をしならせる
ROVALの開発責任者の方と新型RAPIDE CLX IIIについて話す中で、998gのROVAL CONTROL WCを購入してレースで使用している事も伝えた。

『あれ使っているのか!どうだった!?』と、文字通り目を輝かせて喜んでくれた。その後、ハイタッチを交わした。なんともアメリカ的だ。
海外のWCで連戦連勝している「地球上最速」の異名をもつROVAL CONTROL WCと、RAPIDE CLX IIIこの2つホイールを使った結果、設計思想やホイールの特徴が大幅に異なっている事が疑問だった。これらの「ホイールシステム」は方向性が全く異なっているのだ。

S-WORKS EPIC8 x ROVAL CONTROL WCをレースで使う。
実は、私自身は「何か、たわみ方の位置が違う」と感じていただけだ。具体的にどの部分が、どれだけ変化しているのか解読できず、理解できていなかった。この疑問をROVALの開発者の方に伺ったところ、以下のような回答が返ってきた。
- RAPIDE CLX III:ホイール全体をしならせる設計
- CONTROL WC:リム側をしならせる設計
CONTROL WCの独特の、「よくわからないけど不思議なしなり方」はリム側を中心にしならせている。実際に、スペシャライズドの小田島さん(全日本選手権9連覇、二大会連続オリンピック出場)も同じことをおっしゃっていた。なので、設計上、フィーリング上間違いない。
この設計思想の違いは、競技性の違いによるものが大きいようだ。
RAPIDE CLX IIIはロード競技で使用する。3~5時間の長時間に及ぶレースで、身体的疲労や、アタック、高速巡行などといった様々な条件に対応する必要がある。ただ全体が硬いだけでは走り続けられない。それでも、スプリントやプロの大容量のパワーに耐える必要がある。
その絶妙なバランスをねらって、ロード用ホイールとしての味付けをしている。
CONTROL WCはXCOで使用する。レース時間は60~90分だ。ハードなコースと、急落下、ジャンプや、ドロップオフ、ロックセクションでの衝撃に耐える必要がある。CONTROL WCで使用しているスポークはVONOAだが、円柱スポークで手では曲げられないほど硬い。

CONTROL WCは剛性と堅牢性を追求していった結果、頑丈なスポークと左右クロス組(RAPIDE CLX IIIはクロス&ラジアル)の構成になった。リム側をしならせる設計は、2.4インチの主流のワイドタイヤの形状変化に追従させるためであったり、衝撃を吸収させるためだったりする。
タイヤを潰して面圧を高め、ノブを地面に突き刺すという性能を引き出すためにはホイールに縦方向の硬さが必要になってくる。
CONTROL WCはハブからスポークにかけて頑丈さや壊れにくさが優先されつつも、最後の外周であるリム側に柔軟性を持たせ、タイヤの性能を引き出すことも主眼に置かれた。一見すると、基本的な構造は同一ながらも、目指す設計や求められる性能は180°違うのである。
ROVAL、なんかすごいな。
21mmリム内幅の選択:トレンドへの逆張りと最適化の追求
21mmのリム内幅を使用したことはだれもが疑問に思うことだろう。発表後3人ほど私に連絡してきた方がいた。よっぽど気になるのも無理はない。私も「21mmって、いまさら・・・」と思っていた。
Rapide CLX IIIが採用する21mmのリム内幅は、一見すると保守的に映るかもしれない。事実、25mmのワイドな内幅へと移行する現代のトレンド反している。この数値は「古臭い」と揶揄されることもある。
しかし、これは単なる時代遅れではなく、Rovalの徹底したシステムアプローチに基づく、意図的かつ戦略的な選択だ。
直接、開発者の方に伺ったところRovalの結論は明確だった。
広範なドラムテストとCFDモデリングの結果、滑らかな路面と荒れた路面の両方において、「28mmタイヤと21mm内幅リムの組み合わせ」が一貫して最も低い転がり抵抗(Crr)と最高の空力性能を提供するという事実を突き止めた。
これは、単にリム幅やタイヤ幅を個別に最適化するのではなく、両者(タイヤ幅、リム内幅)を一つのシステムとして捉え、その相互作用から生まれる総合的なパフォーマンスを最大化しようとする思想の表れである。
この「28/21ペアリング」は、他の設計要素とも密接に関連している。21mmの内幅は、28mmタイヤを装着した際に、35mmという極めて広いリム外幅に対して理想的なタイヤプロファイルを生み出し、空力的に有利とされる「105%ルール」の実現に貢献する。
さらに、この内幅は、耐パンク性能を向上させる幅広の「FlatStop」ビードフックを設計するための『物理的なスペースを確保する』上でも重要な役割を果たしている。
つまり、21mmという数値は、トレンドに追従するのではなく、重量、空力、転がり抵抗、そして安全性のすべてを最適化するための、計算され尽くした解答なのである。
ROVALは数多くの実験を行い、最も早く走ることのできる設計を採用した。これが「トレンドは内幅23mm~25mmだからユーザーのウケがいい設計にしてしまおう、データーは良くないけど。」と思わなかったのはROVALの真摯な設計開発姿勢がうかがえる。
ユーザーが「こうあってほしい」や「こうであろう」という設計は、必ずしも求める性能とは結果が異なることがある。ROVALは純粋に「速さ」を求めた。その結果が21mmだった。
では、内幅とタイヤ幅にどのような相関関係があるのだろうか。
リム内幅とタイヤ性能の相関関係
リム内幅とタイヤ性能の関係は複雑であり、独立したテストデータがその理解を助ける。第三者機関のテストによると、リム内幅が広がるにつれて、同じ空気圧でもタイヤの実測幅は広がる傾向にある。
例えば、25mmのロードタイヤの場合、リム内幅が1mm増加するごとに、タイヤの実測幅は約0.425mm増加するという結果が出ている。この実測幅の変化は、タイヤの空気容量や路面とのコンタクトパッチ形状に影響を及ぼす。
転がり抵抗に関しては、同じ空気圧で比較した場合、広いリムの方が低い抵抗値を示す。しかし、これは主に空気容量の増加による快適性の向上に起因する。
タイヤのたわみ量が同じになるように空気圧を調整し、快適性を同等にした場合、ロードバイクタイヤにおいてはリム幅による転がり抵抗の差はごく僅かになることが示されている。
テストでは、転がり抵抗が最も低くなる「スイートスポット」は、リム内幅がタイヤ公称幅の約65%~75%の範囲にあると結論付けている。
この理論に基づけば、Rovalが最適とする28mmタイヤに対し、19mmから21mm(75%)の内幅が理想的な範囲となり、CLX IIIの21mmという選択の合理性を裏付けている。
先日発表されたDTSWISSとSWISS SIDEが共同開発したARC 1100 Gen3もAERO 111の29mmタイヤを使用する前提でリム内幅は22mmだった。これは、リム内幅がタイヤ公称幅の75.8%であり、まさにスイートスポットである。
DTSWISS、SWISS SIDE、ROVALという最先端の知見を持つホイールメーカーがあえて(私たちが期待するような)23mmや25mmのリム内幅にシフトしなかったのは、「こうあってほしい」という妄想の世界ではなく、現実的かつデーターに裏付けられた速さを追及する世界で戦っている証左だろう。
ただし、リムが広すぎるとタイヤプロファイルが角張り、コーナリング時のグリップに影響を与える可能性も指摘されており、Rovalの選択は転がり抵抗、空力、グリップのバランスを考慮した結果と言える。
違いはわかるのか
Nepest NOVA 45の内幅23mmに28cを付けた場合と、ROVAL RAPDE CLX IIIの21mm内幅に28cをつけた場合で比較した。見た目では、違いがすぐにわかる、明らかに内幅23mmに取り付けたタイヤは幅が広い。21mm内幅に取り付けたタイヤは相対的に細く見える。
タイヤの空気圧チューニングについては、23mm幅の場合は0.2~0.4Barほど低く設定できる。空気圧を下げたとしても、転がり抵抗の低下はごくわずかだ。
唯一のデメリットといえば、グリップ感に違いが出る。21mm幅はサイドが使える限界の幅が狭く感じる。23mmはよりサイドを使える。これは、グラベルタイヤやMTBタイヤで普段よりも空気圧を入れた時のグリップ感のなさと似ている。
タイヤが縦方向に潰れず、粘りが無くなるような感じを受けるが、内幅23mmと28cタイヤを使っているからこそわかる違和感であり、慣れれば内幅21mmと28cの組み合わせでも走行体験に大幅違いは生まれにくい。
加速性能と登坂性能:軽量化がもたらす恩恵
1305gというホイールセット重量は、リムハイト50mm前後のエアロホイールとしては傑出している。前作CLX IIからの215gの軽量化は、特に回転部分の慣性モーメントの低減に大きく寄与する。
これは、ゼロ発進やコーナーからの立ち上がり、アタックへの反応といった「爆発的な加速」に直結する。過去に軽量Rovalホイールを使ったテストでも、その加速の鋭さは際立っていた。ライダーの入力に対して即座に推進力に変換される感覚がある。
CLX IIIも同様に、その特性がさらに先鋭化されている。
登坂においても、重量のアドバンテージは明らかだ。特に勾配が変化するような場面でのペースアップや、ダンシング時の振りの軽さは、ライダーの疲労を軽減し、より高いパフォーマンスの維持を可能にする。
CLX IIIは、ヒルクライム性能と平坦での空力性能という、相反する要素を高次元で両立させた、真のオールラウンドホイールとしての資質を備えている。
横風安定性とハンドリング:Rovalの血統
Roval Rapideシリーズは、初代からその卓越した横風安定性で高い評価を確立してきた。CLX IIIもその血統を受け継ぎ、特にフロントリムは突風に対する安定性を考慮して設計されている。
最大幅35mmという極太のフロントリムは、横風を受けても急激なステアリングトルク(ハンドルが取られる感覚)を発生させず、ライダーが予測可能な「押される」ような穏やかな挙動を示す。この特性は、ホイールからのメッセージにも似ており「啓示的」な動きをする。
この安定性により、ライダーは強風下でも安心してエアロポジションを維持でき、結果として実走行での平均速度向上に繋がる。特に、山岳からのダウンヒルや、開けた平坦路での走行において、このハンドリング性能は大きなアドバンテージとなる。
これは、プロライダーだけでなく、あらゆるレベルのライダーに自信と安全性をもたらす、Rapideシリーズ最大の美点の一つである。
剛性とパワー伝達:進化の検証
剛性に関しては、客観的な数値と主観的な評価の両面から考察する必要がある。過去のRapide CLXモデルは、第三者機関のテストにおいて、競合(例:CADEX)と比較して横剛性の数値が低いというデータが存在した。
一方で、多くのユーザーやROVALのサポートを受けるプロ選手であっても、スプリントでも剛性感に不足を感じず、その評価は一様ではなかった。この背景には、Rovalが意図的に剛性と快適性のバランスを取っていた可能性が考えられる。
しかし、CLX IIIでは、この点が明確に改善されている可能性が高い(が、体感はできなかった)。
20%強度を増した新開発のコンポジットスポークと、高い巻き上げ剛性(windup stiffness)を目指して最適化されたスポークの組み方は、ペダリングパワーをよりダイレクトに推進力へと変換し、急加速やブレーキング時の反応性向上に寄与する(が、体感はできなかった)。
これは、前作の「しなやかで快適」という評価から、よりダイレクトで反応性の高い、純粋なレーシングホイールへと進化したことを示唆している。
耐久性とメンテナンス性:長期使用における考察
高性能ホイールの評価には、長期的な視点が不可欠である。
ベアリングの寿命やスポークの破損(特に第一世代)といった問題が散見された。CLX IIIでは、信頼性の高いDT Swiss 180ハブの採用によりベアリングの問題は改善が期待されるが、長期的な耐久性については今後の実証を待つ必要がある。
また、Rapideシリーズはタイヤの着脱が非常に困難である場合がある。
これは、安全性を確保するためのタイトな公差設計に起因するものであり、CLX IIIにおいても同様の傾向が続くと予測される。特に、出先でのパンク修理の際には、相応の技術と力が必要になる可能性がある。
さらに、独自仕様のコンポジットスポークは、破損時の交換部品の入手性や作業の煩雑さという点で、従来の汎用スポークとは異なる新たな懸念材料だが、スペシャライズドによると保守部品は用意してあるため気にしなくてもよさそうだ。
国内主要市民レースにおけるRapide CLX IIIの優位性
Rapide CLX IIIの持つ「軽量性」「空力性能」「安定性」という三つの要素は、日本の多様なコースプロフィールを持つ主要な市民レースにおいて、それぞれ異なる形で、しかし決定的なアドバンテージとして機能する。
ここでは、国内最高峰の市民レースを例に、その具体的な優位性を分析する。
ニセコクラシック:総合力が試されるグランフォンドでのアドバンテージ
獲得標高2,600m超、距離150kmに及ぶニセコクラシックは、登坂力、平坦巡航能力、そして変化する天候への対応力という総合力が問われる。ここでRapide CLX IIIはどのように生かせるのか。走りながら想像してみた。
1305gという軽さは、繰り返される丘や長い登坂区間での負担を確実に軽減する。同時に、前世代と同等の空力性能は、平坦区間や集団内でのエネルギー消費を抑制し、レース終盤まで脚を残すことを可能にする。
また、北海道特有の予測不能な横風に対し、卓越した安定性がライダーに安心感を与え、安定したペース維持に貢献するだろう。
ツール・ド・おきなわ:長距離・高低差・横風を制する性能
日本最長の市民レースであるツール・ド・おきなわ(200km)は、ニセコクラシック以上にサバイバルな要素が強い。序盤から続く厳しいアップダウンでは、軽量化による鋭い加速性能がアタックやペース変動への対応を容易にする。
レース中盤の海岸線沿いの平坦区間では、空力性能と横風安定性が独走や小集団での逃げにおいて強力な武器となる。そして、レース終盤の勝負どころである羽地ダムへの登りでは、蓄積した疲労の中で、その軽量性が最後のひと踏ん張りを可能にする。
まさに、このレースを制するために設計されたかのようなオールラウンド性能である。
富士ヒルクライム:軽量性がもたらす純粋な登坂アドバンテージ
Mt.富士ヒルクライムのような純粋なヒルクライムレースにおいて、最も重要な要素は重量である。Rapide CLX IIIの1305gという重量は、約50mmハイトのホイールとしては異例の軽さであり、純粋なクライミングホイールであるAlpinist CLXにあと57g迫る性能を持つ。
回転質量の軽さは、勾配が緩む区間でのペースアップや、ゴール前のスプリントにおいて、ダイレクトな反応性として体感できるだろう。
空力性能は二の次に思われがちだが、レース序盤の比較的斜度が緩く、速度が乗る区間では決して無視できない要素であり、タイム短縮に貢献する。まさに「登れるエアロホイール」の特性が最大限に活かされる舞台である。
メリットとデメリット
ここまでの技術分析とパフォーマンス評価を基に、Roval Rapide CLX IIIの明確な長所と短所を整理する。これにより、ホイールの特性を客観的に把握し、個々のライダーのニーズとの適合性を判断する材料とする。
メリット
- 卓越した重量対空力比: 約50mmのリムハイトを持ちながら1305gという重量は、登りも平坦もこなすオールラウンド性能において、現時点で市場最高レベルのバランスを実現している。
- クラス最高レベルの横風安定性: 伝統的に評価の高いハンドリング性能は健在。ディープリムでありながら、横風の影響を受けにくく、ライダーに安心感と実走での速さをもたらす。
- フックドリムによる汎用性と安全性: フックレスの潮流と一線を画し、フックドリムを採用。これにより、幅広いクリンチャー・チューブレスタイヤが使用可能で、高圧設定も許容する。タイヤ選択の自由度と安全性の高さは大きな利点である。
- 向上した耐パンク性能: 新開発の「FlatStop」ビードフックにより、リム打ちパンクのリスクが大幅に低減。レースや荒れた路面での信頼性が向上している。
デメリット
- 市場トップクラスの高価格帯: 前後セットで約48万円という価格は、競合のハイエンドモデルと同等かそれ以上であり、誰もが容易に手を出せるものではない。
- 純粋な空力性能は前世代と同等: 公式発表では、空力性能はCLX IIを「上回らない」とされている。進化の主眼は軽量化にあり、絶対的なエアロ性能の向上を求めるユーザーには物足りない可能性がある。
- 独自スポークのメンテナンス性: 新採用のコンポジットスポークは、性能向上に大きく貢献する一方、破損時の補修部品の入手性や交換作業の特殊性が懸念される。
- タイヤ装着の難易度(予測): 過去モデルの傾向から、安全性を確保するためのタイトなリム設計により、タイヤの着脱には相応の困難が伴うと予測される。
まとめ:Rapide CLX IIIは誰のためのホイールか
Roval Rapide CLX IIIは、単一の性能指標を極限まで追求したホイールではない。
最軽量を求めるならAlpinistが、純粋な空力性能を求めるならRapide Sprintや他社の80mmクラスのホイールが存在する。このホイールの真価は、その驚異的な「バランス」にある。前世代と同等の空力性能を、215gも軽いパッケージで実現した点にこそ、最大の価値がある。
これは、ホイール設計における思想の転換を象徴している。もはや、最近まで開発トレンドだった「空力か、重量か」という二者択一の時代ではない。
Rapide CLX IIIは、あらゆるレース状況、多様なコースプロフィールにおいて、常に高いレベルでパフォーマンスを発揮することを目的として開発された。
『平坦での巡航性能を犠牲にすることなく、鋭い加速と軽快な登坂性能を手に入れたい』『どんな風の状況でもバイクを完璧にコントロールしたい』
そう考える、勝利を目指すすべてのオールラウンドレーサーにとって、Rapide CLX IIIは現時点で最も完成度の高い「一つの答え」と言えるだろう。
その価格は決して安くはないが、一つのホイールセットですべてをこなす究極の性能を求めるならば、これ以上の選択肢を見つけることは困難である。

































