いよいよ、シマノパワーメーターが発売された。機材好きにとっては喜ばしいことだが、悩みも出てくる。それは、「パイオニアを選ぶか、シマノを選ぶか」という究極の二択である。双方が日本メーカーということも有り甲乙つけがたい事は確かだ。
さらに自転車機材の中でも特に特殊で、高価であるがゆえに選択も慎重になる。そこで今回は、パイオニアペダリングモニターとシマノパワーメーターを多角的に比較し、どちらを購入すべきかを検討する。まだどちらも持っていない人は、1つの判断材料にしていただけたら幸いだ。
また、現状のパイオニアペダリングモニターを持っている人にとってシマノパワーメーターは本当に必要なのかも記載している。では気になるパイオニアペダリングモニターとシマノパワーメーター、二大メーカーの製品を見ていこう。
価格面の優位性
価格面でシマノパワーメーターは優位に立っている。FC-R9100-P パワーメーター内蔵はチェーンリング込で155,155円だ。対してパイオニアペダリングモニターは55,980円のクランクとセンサーが129,600円(税別)という状況である。
価格面での戦いはシマノに軍配が上がりそうなのだが、「左センサーだけ」であればパイオニアは59800円という破格で新型R9100対応のパイオニアペダリングモニターを使うことができる。「パワートレーニングスタート応援キャンペーン」
左右で見た場合はシマノのパワーメーターが安価であることは確かだ。しかしパイオニアペダリングモニターはペダリング効率の計測ができる点など、機能面でのアドバンテージがある。その機能差を価格差として捉えて考えれば、一概に安い、高いという安直な判断をしてはいけないことがわかる。
価格差は搭載している性能差と置き換えられる。
性能面の優位性
では性能面を見てみよう。まずシマノパワーメーターでペダリング効率が見られないのは残念だ。シマノのパワーメーターで目新しい機能は無い。「シマノのパワーメーター」という事以外は測定器として目新しいことは何もない機材だ。SRM、QUARQ、STAGEとできることは同じである(ちょっと高めに出力が出るなんてこともない!)。もちろん左右バランスを測定することはできるが、ペダリング効率の解析は出来ない。
ただ、ペダリング効率まではいらないというユーザーはシマノのパワーメーターを選択しても良いだろう。しかし、私にとってペダリング効率を計測できるということはとても重要な意味を持つ。なぜなら少しでも速くなりたいからだ。今まで競輪学校にしか無かったような大規模な(もちろん外に走り出せない)ペダリング解析システムが、自分のバイクに備わっているのだから。
私はペダリング解析を知ってしまったため、やはり必要なのだ。体の使い方ひとつでペダリング効率が変わる面白さは体験しないとわからない。ただ、シマノのパワーメーターを購入する際に「効率なんて無くても良い」という判断ができれば、シマノのパワーメーターを購入しても良いといえる。
ただ、私にとってはパイオニアペダリングモニターよりも「デグレード」する、いわゆる今使っているパワーメーターよりも性能が劣るプロダクトを選択するという判断は無い。シマノのパワーメーターという魅力的な新製品という理由以外には、購買意欲をくすぐる要素は無いという事実を記載しておきたい。
パイオニアペダリングモニターユーザーにとってシマノのパワーメーターは、有益なペダリング解析機能が外されたパワーメーターであって、SRMやQUARQやSTAGESで得られる事と変わりはない。
外気温問題
シマノパワーメーターには致命的な欠点がある。それは温度学習機能について言及がなされていないため、外気温の補正ができないかもしれない。これは、気温が低い日本の冬には致命的だ。古いパワーメーターを使っている人ならわかると思うが、外気温の影響であきらかに数値がおかしくなることを経験していると思う。
それらは、非常にナイーブなセンサーであるひずみゲージの特性とも言っていい。「精度」以前の問題なのだ。パイオニアペダリングモニターは温度変化を記録し補正が入る。冬でも安心して使えるわけだが、ここにきて過去の話になりつつある温度影響への問題にシマノパワーメーターは直面するかもしれない。
初代P2MやQuarqの温度変化の弱さときたら目も当てられないセンサーだったことを思い出す。測定精度というものは、「どんな気象条件においても」というのが前提であって、温室の実験室内でいくら高精度でも意味がないのだ。
バッテリー問題
シマノパワーメーターは充電式のバッテリーの交換が「不可能」である。これはシマノのテクニカルセミナーでも説明が実際にあったようだ。充電を怠れば測定ができなくなる。これは利便性を考えるとマイナスである。
対して、パイオニアペダリングモニターは、ボタン電池をツールボックスに忍ばせていればすぐさま交換できる。実際に練習をしている時にパイオニアペダリングモニターの電池が切れて、コンビニでサッと買い換えている人も多い。利便性を追求したら、使い捨ての電池というのは実に便利なのだ。
できれば電動の充電から給電できれば一番良いのだが、常に回転しているクランクだから難しいだろう。また、充電する際には近くに電源コードがないと不便である。そのような点を考えても、ペダリングモニターのボタン型電池というのは以外と便利な仕組みだといえる。
電池が切れた時に、充電する時間を待てるか、もしくはサッと電池を変えてフルパワーで運用するか、それぞれ性格で使い勝手が分かれるところである。
アップグレードの可否
シマノは既存のクランクからアップグレードすることが不可能だ。その点、パイオニアペダリングモニターはお持ちのクランクにアップグレードすることが可能である。要するに、いまは新型デュラエースのクランクを買って、お金が溜まってからアップグレードすることを考えた場合は、シマノのパワーメーターはまるごと買う必要がある。
もちろん、思い切ってはじめに買っておけば問題ないのだが、拡張性を考えた場合、パイオニアペダリングモニターは後付できるのが魅力だ。はじめは左側だけ、次は右側という柔軟なアップグレードが可能になっている。
解析とサイコン
おそらくシマノのパワーメーターが想定しているサイコンと解析方法はガーミンEdgeシリーズとガーミンコネクトなのだろう。それなら、私はパイオニアのサイコンを推奨するが、と個人的な意見を添えておきたい。やはりトレーニングアシストが使えることは大きい。
もちろんシマノもANT+対応だからパイオニアのサイクルコンピューターを使うことができる。シマノのパワーメーターにとっての解析ソフトはTrainingPeaksだったりゴールデンチーターだったりするのだろう。一番馴染みのあるソフトはガーミンコネクトなのかもしれない。
既存パワーメーターユーザーにとっては使い慣れたソフトウェアを使えば良い。ということを考えても、特に何か目新しい事は出来ないが、こなれたシステムをシマノのパワーメーターでも使い続けられるということになる。
ただ、シマノはソフト屋ではないので解析ソフトを自社で持つとしたら外注になるだろう。それであれば、パイオニアと協力したらいいのになと思うのは私だけだろうか。
所有欲と満たせるか
以外と、、、これは重要なのかもしれない。シマノのパワーメーターは「センサーが中に入りすぎた」といえる。パイオニアペダリングモニターは昔「おにぎり」と揶揄されたバッテリーケースはすっかりカラバリが増え「パワーメーターを持っているんだぜ!ドヤッ!」という「自己顕示欲」を満たしてくれる装置になった。
パワーメーターを購入した人は少なからず「私はパワーメーターを使っている」という見栄をはるものだ。その時にパイオニアペダリングモニターのおにぎりは非常に良い仕事をする。わたしもイベントで販売促進のパールホワイトをゲットした時に真っ先にSNSへ上げた。
機材にとってカラーバリエーションというのは非常に重要な要素になってきている。シマノパワーメーターは、ほぼその楽しみがない。自分で「ホラホラ見てみて、このクランクに小さく見える部品なんだかわかる?わかるよね?これはしんg」と・・・言う必要が出てくるかもしれない。
所有欲を満たし、「スタバでMac」のようにドヤリングをしたいのであれば間違いなくパイオニアペダリングモニターである。間違いなく「ロードバイクにパワーメーター付いてる」というドヤラー達の欲望を満たしてくれることは間違いない。
まとめ:シマノがパワーメーターを出すということ
最後はパワーメーター黎明期からその時代の移り変わりを経験し、使ってきた一人のユーザーとして書きたい。
シマノという世界最大の自転車コンポーネントメーカーは巨人であるがゆえに、自転車機材業界を動かすことはそう難しくはない。シマノが規格を採用すればそれが「デファクト・スタンダード」になる(ただしロードだけと言っておこう、オフロードは規格が乱立しすぎている)。
そのシマノがパワーメーターを出す意味は一体何なのだろうか。自転車メーカーとしての責務なのだろうか、それとも金属加工技術のみならず、電子機器の技術も備えているという企業アピールなのか。いや、世間の注目が「パワーメーター」という測定器に向けられているという情勢もあるのかもしれない。
いずれにせよ、私という一個人のバイアスを通して見た場合、今回のシマノパワーメーターのリリースは少し残念だ。自転車コンポーネントメーカーとして日本製のプロダクトが世界を取ったように、パワーメーターもそうであってほしかった。国産のパイオニアが培ってきた素晴らしいペダリング解析技術と、シマノの金属加工技術が相まって、最高のパワーメーターを生み出すチャンスだった。
ROTOR POWERがそうだ。センサーはROTORが作っていない。金属加工に長けているスペインのROTORが初代のパワーメーターを出すときには、イタリアに拠点を置く電子機器メーカーのStudio AIPのMEP Systemを流用した。元々ROTORのクランクには空洞が在るのでそこにセンサーを入れている。
金属加工のシマノ、電子機器メーカーのパイオニア。日本製の夢のコラボレーションは「対立」という競争の渦に巻き込まれたのだ。餅は餅屋ということわざがあるように、それぞれが得意分野を提供し、さらに昇華させた最高のパワーメーターの登場を期待したが、それは幻想だったのだ。
過去にブルーオーシャンだった「パワーメーター」という市場は、いまやシマノの参入によりレッドオーシャン化している。さらに、国産パワーメーターのシェアの取り合いがこれから訪れる。価格が同じであればROTORやstagesよりもシマノパワーメーターを選択するという判断を誰しもがするはずだ。
確かに競争することで良いプロダクトが生まれ、ユーザーに還元される場合もある。しかしどうだろう。ある程度市場に行き渡ってしまえばパワーメーターは壊れなければ買い換える必要もなくなる。元々高価だし、1つあれば事足りる装置だ。
私はこれからのパワーメーターの動向を、アナログテレビ終焉の時の液晶テレビバブルと重ねる。一家に一台行き渡ってしまえば、その後はなかなか売れなくなる。液晶テレビ特需の波に乗り、シャープは急成長した。東芝もREGZAの映像技術でその地位を築いた。
今日、これらの大企業の業績については説明する必要すらない。
そしてレッドオーシャン化した市場には何が起こるかといえば、最後は価格戦争だ。何を選んでも「パワーを測定できる」という機能は同じなのだから(もちろんペダリング効率という差別化はできる)安いほうが良い。そうなってくると、落ちるところまで値段が落ちていく。
コモディティ化が進んだパワーメーター市場もその渦から抜けだせず、最後は企業体力がある所が残るのではないかと気が気でならない。それが、技術力に長けた日本企業同士が生み出した戦いだとしたら、なんとも寂しいものだ。市場が望むものは何か。選択肢が多いことが良いことなのか、それとも、価格戦争で安価にユーザーに落ちてくることが最良なのか。
畑は違うが、一人の技術者として思う。世界に目を向けたとき「日本企業」として協力し1つの最強のパワーメーターを作ることは叶わなかったのか、とても残念に思う。もちろん「企業の垣根を超えて」という条件が在ることは確かで簡単には片付かない問題なのだが。
今回の国産パワーメーター戦争に関しては、いろいろな意見が在るのは確かだ。しかしいちばん重要なのは、我々ユーザーがどのようなプロダクトを期待しているかだ。この記事を最後まで読んだ日本のサイクリストの方々は、いかがお考えだろうか。
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