この1冊さえあれば、いい。
『スポーツ栄養学 第2版』が発売された。最新の研究結果を元に、膨大な情報と解説が加わり大幅なアップデートが行われた。本の厚みが増したことも、すぐにわかるほどだった。
本書があれば、巷にあふれる〇〇ダイエットや、〇〇メソッドという類の情報には用がなくなる。本書を読んで理解することで、科学的なエビデンスを元にした正しい知識を身に着けることができる。スポーツ選手に必要な栄養学を、裏付けをもって体系的に学べる貴重な1冊だ。
スポーツ選手のパフォーマンスを向上させるための食事摂取法とは。運動と食事をどのように組み合わせれば、健康の維持増進につながるのか。
これが、『スポーツ栄養学』の趣旨だ。スポーツ栄養学的手法が「なぜ効果的なのか」というメカニズムを、細胞レベルで解説することを目指した稀な本に仕上がっている。
著者は寺田 新氏(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系准教授)で、日本学術振興会特別研究員、2004年ワシントン大学医学部応用生理学教室ポスドク研究員、2006年三共(第一三共)株式会社研究員、2007年早稲田大学先端科学健康医療融合研究機構講師、2009年日清オイリオグループ株式会社中央研究所主管と、素晴らしい経歴の持ち主だ。
初版と同様に第二版も、全編にわたって専門的な内容で構成されている。読者のレベルを選ぶ事は確かだ。そこで今回は、本書を読了した上で競技を行う選手に有益な箇所をダイジェスト的に紹介する。
特に、これから大事なレースに向けてパフォーマンスを高めていく方、フィジカルを向上させたい方は必ず知識として知っておくべき内容だ。
本書で、競技者に役立つであろう項目は以下だ。
- 「貯める」脂肪と「使う」脂肪
- 運動によるエネルギー消費
- 「腹八分目」で得られる効果
- 運動や食事制限を行っても次第に体重が減りにくくなるのはなぜか?
- ダイエット後にリバウンドするのはなぜか?
- 過酷な減量の先にあるもの
- Holloszy 教授とエネルギー摂取制限
- 運動時における糖質の重要性
- パフォーマンス向上のための糖質摂取法
- 筋グリコーゲン量を高める
- グリコーゲンローディング
- 運動前の糖質補給に関する注意点
- 運動中の糖質の利用を減らすためには?
- 持久的トレーニングの効果を高める方法─―Train-Low, Compete-High 法
- 超高糖質食による効果
- 糖質制限食の効果
- 腸内細菌と運動・パフォーマンス
- 「たんぱく質」「アミノ酸」「ペプチド」の違いは?
- 筋肥大のメカニズム
- 筋力の生理的限界・心理的限界
- たんぱく質の摂取法
- たんぱく質の摂取量
- たんぱく質摂取のタイミング
- プロテインサプリメントの効果
- たんぱく質摂取の効果を高める方法
- 怪我,筋痛および減量に対するたんぱく質摂取の効果
- たんぱく質はできるだけ多く摂取したほうがよいのか?
- ケトン食によるポジティブな効果
- ケトン食によるネガティブな効果
- ケトン体サプリメントの効果
- n-3系脂肪酸とパフォーマンス
- 運動中の水分摂取法とスポーツドリンクの効果
- 運動時の発汗量とパフォーマンスへの影響
- エリートマラソン選手における脱水率とパフォーマンスとの関係
- 冷却水およびアイススラリーによる効果
- スポーツドリンクの効果
- スポーツドリンクの組成
- スポーツドリンクに含まれる糖質
- 新型スポーツドリンクの効果
- 糖質飲料で口をゆすぐ─―マウスリンス
- スポーツドリンクの浸透圧─―ハイポトニックvs. アイソトニック
- パフォーマンス・健康とサプリメント
- サプリメントに関する基礎知識
- 医薬品と食品・サプリメントの違い
- 活性酸素・フリーラジカルとビタミン
- 筋痙攣と電解質
- 競技選手における貧血の原因
- 鉄の必要量および摂取法
- パフォーマンス向上を目的としたサプリメント
- エルゴジェニックエイド
- サプリメントについてのエビデンス(科学的根拠)
- サプリメントの情報源
- 競技選手がサプリメントを活用する際の心構え
- 代表的なエルゴジェニックエイドの効果とその作用機序
- クレアチン/カフェイン/重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)
2017年に初版が発売された当時から、今でもトレーニングに取り入れ続けていることがある。『持久的トレーニングの効果を高める方法─―Train-Low, Compete-High 法』だ。
一日の生活リズムの中で、筋グリコーゲンの濃度の高い状態のとき、低い状態のときに応じて、最適な強度のトレーニングを割り当てる方法だ。筋グリコーゲンが高い時は高強度を、低い時は持久系メニューを行うことで、トレーニングの効果を最大限に高める。
詳しくは本書を読み進めてほしいが、持久能力を増やす細胞にスイッチを入れるためのハックが紹介されている。『トレーニングだけ』をやみくもに行う時代は終わったのだ。
本書を参考に、朝練は持久系メニュー(SST 50~70分)、夜練習はVo2Max SIを行うメニューを続けて7年以上になる。筋グリコーゲン濃度を考慮した運動強度、睡眠中も考慮した持久的トレーニングの効果を高める方法は、確かな研究結果がベースだ。
次にスポーツドリンクの章では、サイクリストが知りたい最新の糖質戦略がまとめられている。デュアルソース飲料、1時間あたりの糖質吸収量の上限の解説はサイクリスト必見だ。世界トップレベルのマラソンや自転車レースで、高濃度のドリンクが取り入れられている効果にも触れられている。
60分あたり、どれくらいの糖質を摂取すればよいのか。本書では糖質の吸収が飽和するデータも掲載されており非常に有用だ。詳細は本書を読み進めてほしい。
第二版の新情報として、『ハイドロゲル』を名指しにした新型スポーツドリンクの効果についても触れられている。これは、Maurtenの話だ。わたし自身もMaurtenを愛用しているが、本書で新たに追加された内容に驚いた。
Maurtenはハイドロゲルの簡単な話ではなく、人種レベル、遺伝子レベルの話に発展している。新たな知見が得られるだろう。
レース中のエネルギー戦略について、確かな情報を得たい方は必ず目を通すべき内容だ。
『パフォーマンス向上を目的としたサプリメント』の章では、エビデンスに基づいた効果のあるサプリメントが多数紹介されている。クレアチン、カフェイン、MaurtenがリリースしたBicarbシステムにも含まれている『重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)』についても紹介されている。
効果があるサプリメントを知り、パフォーマンスを高めたいアスリートには必須の内容と言えるだろう。
2017年の初版から言えることだが、本書以上に読みやすく、栄養に関して深い理解と知見が得られる情報元はない。学術書であるため価格は高いが、雑誌や○○メソッド的な書籍を何冊も買うくらいなら、本書を1冊持っているだけでいい。
本書以上に、最新の情報と確かなエビデンス、わかりやすい解説が行われている書籍はないのだ。
身体の能力を高めたい方、成績を出したい方、目標を持ってトレーニングを行っている方は書籍『スポーツ栄養学』で確かな知識を身に着けてほしい。情報過多、玉石混交の栄養情報の中で、確かな知見が得られる良書だ。