完璧な変速体験とは何か。その問いにカンパニョーロが出した新たなる回答。
カンパニョーロが市場に投入したスーパーレコード13(以下、SR13)は、単にスプロケットを1枚追加したという以上の意味を持つ。
過去、10速、11速、12速、そしてグラベル用1×13速(Ekar)と、常に多段化の先陣を切ってきたカンパニョーロの歴史的自負が、この2×13速ロードコンポーネントには色濃く反映されている。
しかし、SR13の本質は、単なる歯数の増加に留まらず、変速性能、エルゴノミクス、重量、さらには価格戦略に至るまで、前作スーパーレコードワイヤレス12速(以下、SR WRL 12s)から大幅な刷新が図られている点にある。
SR13は、カンパニョーロが市場の声に真摯に耳を傾け、迅速な製品改善へと舵を切った証左とも言えるだろう。前作SR WRL 12sの発表からわずか2年という短期間でのSR13の登場は、このイタリアンブランドの変革への意志を明確に示している。
新時代の幕開け:「次世代プラットフォーム」構想
カンパニョーロはSR13を「新たなプラットフォームの最初の柱」と明確に位置づけており、2025年9月以降には、1xロード、1xタイムトライアル、そして1xおよび2xのグラベル用へと展開する野心的な計画を明らかにしている。
この戦略は、コンポーネント間の互換性を高め、開発効率を向上させるとともに、より広範な市場セグメント、特に成長著しいグラベル市場への本格的な参入を意図したものと考えられる。
このプラットフォーム化は、将来的にChorusグレードなど、より広範な製品群への技術的波及効果(トリクルダウン)も期待させる。
SR WRL 12sに対して市場から寄せられた評価、特に高価格帯であることや一部エルゴノミクスに関する指摘を受け、SR13では価格競争力の向上や伝統的なサムシフターの復活といった具体的な改善が施された。
この迅速な対応と製品サイクルの短縮は、伝統を重んじる一方で市場の要求に柔軟に応えようとするカンパニョーロの新たな姿勢を浮き彫りにしている。これは、熱心な支持層だけでなく、より幅広いサイクリスト層へのアピールを強化し、競合他社との競争において優位性を確立しようとする明確な戦略的意図の表れであろう。
ドライブトレイン:精密工学の結晶
SR13は、カンパニョーロが長年培ってきた精密工学と最新技術の粋を集めたコンポーネント群だ。ドライブトレイン、シフティングシステム、ブレーキシステムといった主要構成要素の技術的詳細を深く掘り下げ、その革新性と性能の根源を明らかにしていく。
ドライブトレインは、ライダーのパワーを推進力へと変換する自転車の心臓部である。SR13では、クランクセット、チェーンリング、カセットスプロケット、チェーン、そしてボトムブラケットに至るまで、13速化に伴う最適化と、さらなる効率性向上が図られている。
クランクセットとチェーンリング:力の伝達効率の追求
SR13のクランクセットは、前作SR WRL 12sの美しいカーボン4アームスパイダーデザインを踏襲しつつ、チェーンリングにはEkarグラベルグループセットで実績のある歯先形状と新しい表面処理が施されている。
これにより、変速性能の向上と耐久性の向上が期待される。素材には高品質なカーボンファイバーが使用され、Ultra-Torqueシステムとチタン製セミ アクスルが組み合わせられることで、剛性の維持と軽量化、そしてダイレクトなパワー伝達を実現している。
クランク長は165mm、170mm、172.5mm、175mmの4種類が用意され、Qファクターは148.5mmに設定されている。チェーンリングの構成は、45/29Tから55/39Tまで、実に7種類もの幅広いオプションが提供され、あらゆる脚質のライダーと多様なコースプロファイルに対応する。
このオプションの多様性は、カンパニョーロがターゲットとするライダー層の拡大と、よりパーソナルなギアリング設定への要求に応えようとする姿勢を示している。特に45/29Tのようなコンパクトなオプションは、エンデュランス志向や厳しい登坂を好むライダーにとって大きなメリットとなるだろう。
Ekarで開発された歯先形状と表面処理の採用は、グラベルという過酷な環境で実証された技術をロードコンポーネントにフィードバックする好例であり、これはSR13が単なるロード用に留まらず、将来的な「オールロード」プラットフォームへの布石である可能性を示唆している。
パワーメーター搭載モデルも用意されており、16個のひずみゲージと内蔵ジャイロスコープにより±1%の精度でパワーを計測可能である。
表1:Super Record 13 クランクセット仕様
クランク長 (mm) | Qファクター (mm) | アクスル素材 | クランクアーム素材 | 対応BB規格 | パワーメーターオプション |
---|---|---|---|---|---|
165, 170, 172.5, 175 | 148.5 | チタン (Ultra-Torque) | カーボンファイバー | Ultra-Torque (QCK-Tech) | あり (HPPMシステム) |
表2:Super Record 13 チェーンリング構成オプション
構成 | 想定される用途/ライダータイプ |
---|---|
45/29T | エンデュランス、急勾配クライミング、グラベル寄り |
48/32T | エンデュランス、クライミング、オールラウンド |
50/34T | オールラウンド、ホビーレース |
52/36T | オールラウンド、レース志向 |
53/39T | レース、パワフルなライダー向け |
54/39T | プロレベルレース、タイムトライアル |
55/39T | プロレベルレース、タイムトライアル、スプリンター |
カセットスプロケットとチェーン:13速化による恩恵
SR13の核心は、その名の通り13枚のスプロケットにある。カンパニョーロは、Ekarグループセットでの13速化の経験を活かし、スプロケット間の距離と厚みを削減することで、従来の12速カセットと同等のスペースに13枚目のギアを収めることに成功した。
これにより、既存のN3Wフリーハブボディとの互換性を維持している。この13速化の最大のメリットは、単にギアの選択肢が増えること以上に、ギア間のステップがより細かくなることにある。
これにより、ライダーはあらゆる状況で最適なケイデンスを維持しやすくなり、結果としてエネルギー効率の向上と疲労の軽減が期待できる。
カセットオプションは、10-29T、10-33T、11-32T、11-36Tの4種類が用意される。これらのカセットは、特に10-29Tでは最小ギアから9枚目までが1歯ずつの増加となるなど、よりスムーズなギアステップと最適なケイデンス維持を追求した設計となっている。
これは、ライダーがより細かく自身の出力に合わせてギアを選択できることを意味し、疲労軽減とパフォーマンス最大化に貢献する。チェーンとカセットには新しい「ブラッククローム」フィニッシュが施され、駆動音の低減と耐久性向上が謳われている。
カセットの構造は、最初の3枚のコグと最後の4枚または5枚のコグが鍛造スチールの一体ブロックから機械加工されるなど、高トルクに対応しつつ高性能を発揮するよう設計されている。
カンパニョーロが既存のN3Wフリーハブ規格を維持したことは、既存ユーザーにとってホイール交換の必要がなくアップグレードが容易になるという実利的なメリットを提供する。
これは、競合他社が新しい規格を導入する際にしばしば見られるユーザーの負担増を回避する戦略であり、顧客ロイヤルティの維持と新規顧客獲得の両面で賢明な判断と言えるだろう。
表3:Super Record 13 カセット構成とギア比
カセット構成 | 各スプロケット歯数 | 主な特徴 |
---|---|---|
10-29T | 10-11-12-13-14-15-16-17-18-20-23-26-29 | 最もクロスレシオ、9連続1歯刻み |
10-33T | 10-11-12-13-14-15-16-18-20-23-26-29-33 | ワイドレンジとクロスレシオの両立 |
11-32T | 11-12-13-14-15-16-17-18-20-23-26-29-32 | 伝統的な構成に近い、8連続1歯刻み |
11-36T | 11-12-13-14-15-16-18-20-23-26-29-32-36 | 最もワイドレンジ、登坂向け |
ボトムブラケット:QCK-TechとN3Wフリーハブ規格
ボトムブラケットには、Ekarで導入されたProTechを発展させたQCK-Tech (Quick Tech) が採用されている。この技術は、ベアリングリテンションピンがノンドライブサイドに移動し、作業性が向上したこと、クランクアクスルのボルトが順ネジになったことなどが変更点だ。
従来のUltra-Torqueシステムの基本構造は維持しつつ、EkarのProTechで導入された改良点を引き継ぎ、さらに最適化が図られたものと推測される。
QCK-Techの導入は、メンテナンス性の向上という実用的なメリットをユーザーに提供する一方で、旧来のUltra-TorqueやProTechとの細かな互換性の差異が、ユーザーやメカニックにとって混乱を生む可能性を秘めている。
N3Wフリーハブ規格の採用により、既存のカンパニョーロ対応ホイールとの後方互換性が確保されている点は特筆すべきである。
シフティングシステム:電光石火の変速体験
SR13のシフティングシステムは、「市場最速」を謳い文句に、精度、静粛性、即応性を極限まで高めることを目指して全面的に刷新された。ワイヤレス電動システムを基盤とし、Ergopowerコントロール、ディレイラー、そしてそれらを連携させるMyCampyアプリに至るまで、あらゆる要素が再設計されている。
Ergopowerコントロール:エルゴノミクスと機能の融合
新しいErgopowerコントロールは、SR13における「最大の革命」と称されており、エルゴノミクスと機能性が大幅に向上した。フード形状はより長くスリムになり、トップ部分はフラット化され、あらゆるハンドポジションでの快適性とコントロール性が追求された。
ブレーキレバーのピボット位置はハンドルバーから遠ざけられ、少ない力での確実なブレーキングを可能にしつつ、レバー下のスペースを拡大。また、ブレーキレバー自体もカーボン製で新設計され、ハイグリップ時でも指が干渉しにくい形状となっている。
油圧ホースの取り回しがキャリパー側に変更されたことも、フードの小型化とエルゴノミクス向上に貢献している。
復活のサムシフターと新スマートボタン
カンパニョーロの象徴とも言えるサムシフターが、SR13で復活を遂げた。これは単なる懐古趣味ではなく、ミニマルなプロファイルで多様なポジションからの操作性とグリップコントロール向上を目指した結果である。
新しいサムシフターは、ドロップ部からの操作性に優れる一方、フード上部からの操作には慣れが必要だ。さらに、フード内側上部には新たに「スマートボタン」が追加された。
このボタンはMyCampyアプリを介して完全にカスタマイズ可能で、変速操作だけでなく、サイクルコンピュータのページ送りや、接続された他のBluetoothデバイスの制御にも使用できる。
サムシフターの復活は、長年のカンパニョーロファンにとっては歓迎すべきニュースである一方、その操作性、特にフードポジションからのアクセスについては賛否両論があるかもしれない。
これは、伝統的な操作感と現代的なライディングスタイル(フードポジションの多用)との間で、カンパニョーロがバランスを模索していることの現れかもしれない。
スマートボタンの導入は、このジレンマに対する一つの解答であり、ライダーに最大限のカスタマイズ性を提供することで、個々の好みに合わせた解決策を提示しようという意図がうかがえる。
結果として、SR13の操作系は、伝統を尊重しつつも、現代の多様なニーズに対応するための高度なパーソナライゼーション能力を備えたシステムへと進化している。
フロント・リアディレイラー:設計と性能の進化
SR13のディレイラーは、内外ともに大幅な進化を遂げている。リアディレイラーは、前作SR WRL 12sと比較して横方向の張り出しが25%削減され、よりスリムで空力的に優れたデザインとなった。
これにより、チェーンラップが改善され、風の影響や衝撃のリスクも軽減される。プーリーホイールは従来の12Tから14Tへと大径化され、チェーンのフリクション低減と変速精度向上に貢献している。アッパープーリーにはセラミックベアリングが採用され、極限まで抵抗を排除している。
変速速度は劇的に向上しており、カセット全段のアップシフト(ロー側へ)は2.1秒(SR WRL 12sでは3.3秒)、ダウンシフト(トップ側へ)は1.9秒(同3.6秒)と公称されている。
これは、スプロケット間の距離短縮と歯先形状の最適化、そしてディレイラー内部機構の刷新によるものである。公称されている変速速度の大幅な向上は、単一の改良によるものではなく、複数の要素が複合的に作用した結果であると考えられる。
スプロケットの物理的な近接化、歯先形状の最適化によるチェーンエンゲージメントの改善、ディレイラーモーターの高出力化や制御アルゴリズムの洗練、そして14Tプーリーによるフリクション低減とチェーン流れの円滑化などが、総合的に作用して「市場最速」のシフト性能を実現しているのだろう。
リアディレイラーはUDH(ユニバーサル・ディレイラー・ハンガー)フレームへのダイレクトマウント、および従来型フレーム用ハンガーへの取り付けに対応する。フルマウントは未対応で、ダイレクトマウント式のUDHハンガーに接続する方式だ。
フロントディレイラーも完全に再設計され、10g軽量化された。新しいカーボン製アウターケージと内部機構により、高負荷時でもスムーズな変速を実現するとされる。
バッテリー搭載位置が前方に変更され、リアタイヤとのクリアランスが改善されている点も、将来的なワイドタイヤ化やグラベル用途への対応を視野に入れた設計と言えるだろう。
リアディレイラーのUDH対応やフロントディレイラーのタイヤクリアランス拡大は、SR13が単体製品として完結するのではなく、カンパニョーロが推進する「次世代プラットフォーム」構想の基盤として、将来の多様なフレーム設計や用途への適応性を当初から考慮していることを強く示唆している。
表4:公称変速速度比較:SR13 vs SR WRL 12s
操作 | Super Record 13 (秒) | Super Record WRL 12s (秒) | 短縮率 (%) |
---|---|---|---|
カセット全段アップシフト | 2.1 | 3.3 | 約36% |
カセット全段ダウンシフト | 1.9 | 3.6 | 約47% |
MyCampyアプリ連携とカスタマイズ性
SR13は、BluetoothおよびANT+を介してMyCampyアプリ(iOS/Android対応)と連携し、高度なカスタマイズ機能を提供する。
ライダーは、各シフトボタンの機能割り当て(アップ/ダウン、フロント/リア)、マルチシフトの挙動(短押し/長押しでの連続変速段数など)、さらにはスマートボタンによる外部デバイス連携(サイクルコンピュータの画面操作、音楽プレイリスト操作など)を自由に設定できる。
また、バッテリー残量の確認やファームウェアアップデートもアプリ経由で行える。この高度なカスタマイズ性は、SR13が単なるコンポーネントではなく、ライダー個々のニーズに最適化可能な統合システムであることを示している。
ブレーキシステム:絶対的制動力とコントロール
SR13のディスクブレーキシステムは、前作で既に高い評価を得ていた基本性能を継承しつつ、細部に改良が加えられている。
キャリパーはブリーディングプロセスが容易になるよう改良され、チタン製ハードウェアの採用により数グラムの軽量化が図られた。ブレーキパッドは、標準装備のオーガニックコンパウンドに加え、新たにウェットコンディションや低温下での耐久性に優れるシンタードコンパウンドのオプションが用意された。
両コンパウンドとも、振動を低減し放熱性を高める吸音ブレードを備え、摩耗インジケーターも装備されている。
ローターは160mmと140mmのサイズが用意され、フローティングデザインとC3スロットが特徴である。SR13のブレーキシステムにおける変更点は、劇的な刷新というよりも、既存の優れたシステムの「完成度」をさらに高める方向性を示している。
ブリーディングの容易化や軽量化は、プロメカニックやエンスージアストにとって実用的なメリットである。
シンタードパッドの追加は、カンパニョーロが多様なライディングコンディション(特に悪天候)への「適応性」を重視していることの表れであり、これはグラベル用途への展開も視野に入れた布石とも解釈できる。
ブレーキ性能は既に高い評価を得ているため、これらの細やかな改良は、信頼性とユーザーエクスペリエンスのさらなる向上を目指したものと言えるだろう。
重量、素材の比較分析
ハイエンドコンポーネントにおいて、重量は常に重要な評価指標の一つである。SR13は、グループセット総重量で2,435g(パワーメーターなし、公称値)を達成し、これは前作SR WRL 12s(公称s2,518g~2,520g )から約75g~85gの軽量化に相当する。
これにより、SRAM Red AXS(約2,460g~2,548g )やShimano Dura-Ace Di2(約2,507g~2,514g )と比較しても、市場で最軽量クラスの電子ディスクブレーキグループセットとしての地位を確立している。
主要コンポーネント重量:公称値
各コンポーネントの軽量化への貢献は以下の通りである(公称値ベース)。実測値については、現時点ではデータがない。
表5:Super Record 13 主要コンポーネント重量一覧(公称値)
コンポーネント名 | 公称重量 (g) | 備考(仕様など) |
---|---|---|
クランクセット | 590 | 172.5mm, 45x29T, ベアリング込 |
クランクセット (パワーメーター付) | 650 | 172.5mm, 45x29T, ベアリング込 |
リアディレイラー | 286 | バッテリー込 |
フロントディレイラー | 未公表 (前作比-10g) | バッテリー別 |
Ergopowerコントロール (ペア) | 未公表 | ブレーキフルード、ホース含まず |
ディスクブレーキキャリパー (ペア) | 未公表 (前作比-6g/ペア) | チタンネジ採用 |
カセットスプロケット (10-29T) | 未公表 | |
チェーン | 未公表 | |
フロントディレイラー用バッテリー | 34 | |
リアディレイラー用バッテリー | 38 | |
ディスクローター (160mm x1, 140mm x1) | 未公表 | AFS |
ボトムブラケットカップ | 未公表 | QCK-Tech |
グループセット総重量 | 2,435 | パワーメーターなし、ブレーキフルード・ホース・BBカップ含まず |
素材選定:カーボン、チタン、アルミニウムの最適配置
SR13は、軽量性と高剛性、そして美観を高い次元でバランスさせるため、各コンポーネントの機能と要求特性に応じてカーボンファイバー、チタン合金、アルミニウム合金といった高級素材を巧みに使い分けている。
クランクアーム、ブレーキレバー、ディレイラーケージなどには軽量かつ高強度なカーボンファイバーが多用されている。クランクセットのセミ アクスルやブレーキキャリパーの固定ネジにはチタンが採用され、軽量化と耐腐食性に貢献している。
ディレイラー本体やブレーキキャリパーの一部には、精密加工されたアルミニウム合金が用いられ、強度と放熱性を確保している。
競合製品との比較:R9200およびRed AXS
SR13は、Shimano Dura-Ace Di2 R9200シリーズ(以下、Dura-Ace)およびSRAM Red AXS(以下、Red AXS)という二大巨頭と直接競合する。以下の表は、主要な比較ポイントをまとめたものだ。
表6:主要グループセット比較:Super Record 13 vs Dura-Ace Di2 vs Red AXS
項目 | Campagnolo Super Record 13 | Shimano Dura-Ace Di2 R9200 | SRAM Red AXS |
---|---|---|---|
変速段数 | 2×13速 | 2×12速 | 2×12速 |
公称総重量 (パワーメーターなし) | 2,435g | 約2,471g (パワーメーターなし、実測ベース) | 約2,450g (パワーメーターなし、実測ベース) |
リアカセットオプション | 10-29, 10-33, 11-32, 11-36 | 11-30, 11-34 | 10-28, 10-33, 10-36 |
チェーンリングオプション | 45/29~55/39 (7種) | 50/34, 52/36, 54/40 | 46/33, 48/35, 50/37 |
シフター特徴 | サムシフター復活、スマートボタン、モードボタン | フード上部ボタン、セミワイヤレス | 1ボタン/レバー方式、完全ワイヤレス |
バッテリーシステム | 前後個別着脱式 (非互換) | 内装集中バッテリー (シフターはコイン電池) | 前後共通着脱式 (シフターはコイン電池) |
SR13は、13速というユニークなアドバンテージ、最軽量クラスの重量、そして伝統と革新を融合させたエルゴノミクスで独自性を打ち出している。
価格は依然としてプレミアムレンジに位置するものの、前作SR WRL 12sからは戦略的な価格改定がなされ、競合との差は縮まっている。変速スピードにおいても「市場最速」を主張しており、これはDura-Aceの定評あるスムーズさとRed AXSの素早いレスポンスに対する明確な挑戦状と言えるだろう。
バッテリーシステム:持続性と利便性
SR13のワイヤレスシステムは、フロントディレイラーとリアディレイラーそれぞれに専用の着脱式バッテリーを使用する。このバッテリーは、SR WRL 12sと互換性がある。
バッテリー寿命と充電時間
公称バッテリー寿命は、通常使用条件下で約750kmである。これはワールドツアーチームCofidisのトレーニングキャンプでも確認された数値とされている。
充電はマグネット式の専用USB-Cケーブルで行い、バッテリーをコンポーネントに取り付けたままでも、取り外した状態でも充電可能である。フル充電に要する時間は約60分で、45分で90%の充電が可能。緊急時には10分間の充電で20%以上の容量を回復できるクイックチャージ機能も備える。
バッテリーの互換性とデザイン
フロントディレイラー用バッテリー(公称34g)とリアディレイラー用バッテリー(公称38g)は、重量が異なることから物理的に異なる部品の可能性がある。この点は、SRAM AXSのように前後でバッテリーを融通し合えるシステムとは異なるため、運用上の注意が必要となるかもしれない。
各バッテリーには充電状態を示すLEDインジケーターが搭載されており、MyCampyアプリや対応サイクルコンピュータからも残量を確認できる。
まとめ:Super Record 13の真価と市場への影響
Campagnolo Super Record 13は、単なる13速化に留まらない、技術革新とユーザーエクスペリエンスの向上に対するカンパニョーロの強い意志が込められたグループセットである。その真価は、卓越した変速性能、洗練されたエルゴノミクス、そして将来への拡張性を見据えたプラットフォーム構想にあると言えるだろう。
メリット
- 市場最速クラスの変速性能:瞬時かつ静粛、高負荷下でも確実なシフトチェンジ。
- 優れたエルゴノミクス:刷新されたErgopowerコントロールは快適性と操作性を大幅に向上させ、サムシフターの復活とスマートボタンの追加により、多様なハンドポジションでの操作性が向上。
- 13速化による最適なケイデンス維持:より細かいギアステップにより、あらゆる状況で理想的なケイデンスを維持しやすくなり、効率性と快適性が向上。
- クラス最軽量級の重量:2,435g(公称値、パワーメーターなし)という重量は、パフォーマンス志向のライダーにとって大きな魅力である。
- 高いカスタマイズ性:MyCampyアプリを通じて、シフトボタンの機能割り当てなどを自由に変更でき、ライダー個々の好みに最適化できる。
- N3Wフリーハブ互換性の維持:既存のカンパニョーロユーザーはホイール交換なしにアップグレードが可能。
- 将来のプラットフォーム展開:ロード、グラベル、タイムトライアルへと展開予定の「次世代プラットフォーム」の第一弾であり、将来性が期待できる。
- 高品質なブレーキ性能:既に定評のあるブレーキシステムは、さらなる改良により信頼性とコントロール性が向上した。
- Made in Europeへのこだわり:コンポーネントの多くがイタリアおよびルーマニアで製造されており、品質とブランドイメージを重視する姿勢がうかがえる。
デメリット
- サムシフターの操作性:フードポジションからのサムシフター操作には慣れが必要な場合があり、全てのライダーにとって最適とは言えない可能性がある。
- バッテリーの前後非互換性:フロントディレイラー用とリアディレイラー用のバッテリーが異なり、緊急時の融通が利かない可能性がある。
- 依然として高価格帯:価格は引き下げられたものの、依然としてプレミアムな価格帯であり、多くのライダーにとっては手が届きにくい。
Super Record 13が提示する未来とカンパニョーロの挑戦
Super Record 13は、カンパニョーロが過去の栄光に安住することなく、常に技術の限界に挑戦し続けるブランドであることを改めて証明した。
13速化という技術的マイルストーンを達成しただけでなく、エルゴノミクス、変速性能、軽量化、そしてユーザーとのインタラクションに至るまで、あらゆる面で妥協のない追求が見られる。
特に、「次世代プラットフォーム」構想は、今後のカンパニョーロ製品群全体の進化を示唆しており、ロードバイクコンポーネント市場における同社の影響力を再び高める可能性を秘めている。
前作SR WRL 12sに対する市場からのフィードバックを真摯に受け止め、短期間でこれほど大幅な改良を施したSR13の登場は、カンパニョーロの製品開発におけるアジリティと市場対応能力の向上を示している。
これは、伝統と革新を両輪とする同社が、変化の激しい現代の市場において、確固たる地位を築き続けるための重要な一歩と言えるだろう。SR13は、単なる高性能コンポーネントを超え、カンパニョーロの未来への強い意志と、サイクリング体験のさらなる深化を追求する情熱を体現している。
専門家、プロフェッショナル、そしてテクノロジーの最先端を求めるすべてのサイクリストにとって、Super Record 13は注目に値する存在であり続けるだろう。