記事の要約:SILCA Synergeticは、オイルベース潤滑剤の最高峰と評され、極めて低い摩擦損失と高い耐久性を誇る。Zero Friction Cycling (ZFC) の独立試験で3.8Wの損失、清浄環境で摩耗率0%を記録し、98.1%の効率を実現 。2種類の合成油、二硫化タングステン (WS₂) ナノ粒子、およびジアルキルジチオリン酸亜鉛 (ZDDP) の相乗効果で強固なトライボフィルムを形成し、極めて静かでスムーズな駆動を実現する。
本製品は優れた防水性を持つ一方で、オイルベースの特性上、埃っぽい環境では汚れを吸着しやすく、毎走行後の拭き取りが推奨される。PFASフリーで1本で約19,300km以上の使用を誇る一方、その性能を最大限に引き出すには適切な手入れが不可欠。静粛性と効率を追求し、手入れを厭わないロードサイクリストやインドアトレーナーユーザーに最適だが、乾燥した埃っぽいオフロードでの使用は推奨されない

潤滑性能が高い順番に並んでいる。上位は全てピンク色のスロークッカーを使用したWAX系。続いてUFO Dripなどの緑色のWAX Dripが続く。SILCA Synergetic(18番目)はDrip系で最も優れた潤滑剤だ。 Data元:zerofrictioncycling
結論として、SILCA SynergeticはDripオイル系で最も優れた潤滑剤だ。
この表は潤滑性能が高い順番に並んでいる。上位は全てピンク色のスロークッカーを使用したMolten Speed Wax New Formulaに代表されるWAX系が占めている。

続いてCeramicSpeed UFO Dripやフラワーパワーワックスなどの緑色のWAX Dripが続く。


本製品は、従来のウェットルーブの利便性を維持しつつ、ワックス系潤滑剤に匹敵するほどの低摩擦と高耐久性を目指して設計されている。特に、先進的な添加剤技術を駆使し、金属表面の保護と効率的な動力伝達を両立させることを特徴としている。
超低摩擦を実現する成分
SILCA Synergeticは、1ボトルで約19,300km以上の潤滑が可能と謳われている。内容量59mlのスクイズボトルで提供され1滴づつ精密塗布する。PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)フリーであり、環境への配慮も示されている。
- 容量: 59ml
- 塗布方式: ニードルアプリケーター付きスクイズボトル
- 公称持続距離: 19,300km/ボトル
- 参考価格: 4,400円(日直商会)
これらの基本仕様は、製品のポジショニングを明確に示している。比較的高価ではあるものの、1ボトルあたりの持続距離が長いため、長期的なコストパフォーマンスも考慮されている設計と言えるだろう。
項目 | 仕様 |
---|---|
容量 | 59ml / 2oz |
参考価格 | 4,400円(日直商会) |
塗布方式 | ドロッパーボトル |
主要成分 | 合成油、二硫化タングステン (WS2) ナノ粒子、ジアルキルジチオリン酸亜鉛 (ZDDP) |
公称持続距離 | 約19,300 km / ボトル |
この表に示す通り、SILCA Synergeticは先進的な素材と精密な設計に基づいている。特に主要成分であるWS2とZDDPの組み合わせは、本製品の性能を理解する上で鍵となる。これらがどのように作用し、公称される持続距離や性能に貢献するのか、次項で詳述する。
主要成分と技術
SILCA Synergeticの核心技術は、基油となる2種類の合成油と、特殊な固体潤滑剤である二硫化タングステン (WS2) ナノ粒子、そして耐摩耗剤であるジアルキルジチオリン酸亜鉛 (ZDDP) の組み合わせにある。
これらの成分は相乗効果(Synergetic効果)を発揮し、金属表面に強固で潤滑性の高いトライボフィルム(潤滑膜)を形成する。
WS2ナノプレートレットはZDDPによって形成されるトライボフィルム内に保持され、極圧条件下での摩擦低減と耐摩耗性向上に寄与する。
この現象はリヨン大学のPaula Ussa Aldanaによる電子顕微鏡研究でも報告されている。SILCA社は、この研究で用いられたベースオイルよりも先進的なものを使用することで、さらなる摩耗・摩擦低減を実現している。
- WS2 (二硫化タングステン): 層状構造を持つ固体潤滑剤で、極めて低い摩擦係数を示す。ナノ粒子化することで金属表面の微細な凹凸を埋め、潤滑性を高める。環境負荷が低い点も特徴である。
- ZDDP (ジアルキルジチオリン酸亜鉛): エンジンオイルなどに長年使用されてきた実績のある耐摩耗添加剤。金属表面と反応し、保護的な化学反応膜(トライボフィルムの一部)を形成する。
- トライボフィルム: 摩擦・摩耗現象(トライボロジー現象)の過程で、摺動する金属表面に形成される薄い反応生成物膜または吸着膜。この膜が金属同士の直接接触を防ぎ、摩擦と摩耗を低減する。
- Type V合成油: API(米国石油協会)による基油分類で、エステル系などの高性能合成油を指す。熱安定性や潤滑性に優れる。
SILCAがWS2とZDDPという、それぞれ単独でも高性能な添加剤を組み合わせた点は注目に値する。「Synergetic」という製品名自体が示唆するように、これらの成分が特定の条件下で相互作用し、より優れた性能を発揮するトライボフィルムを形成する設計思想だ。
潤滑剤の性能は、個々の成分の特性だけでなく、それらがどのように相互作用し、表面でどのような膜を形成するかに大きく依存している。
また、SILCAがリヨン大学の研究に言及し、さらにその研究で使用されたベースオイルよりも「先進的なベースオイル」を使用していると主張する点は、製品の科学的根拠を強調するとともに、基礎研究を基盤としつつもそれを超える改良を加えていることを示唆している。
これらは、高性能潤滑剤の開発において、基礎科学の知見に基づいたアプローチが重要であることを物語っている。
オイルベース潤滑剤で最速
SILCA Synergeticの性能は、独立試験機関およびメーカー内部試験によって評価されている。特に摩擦損失、耐久性、耐環境性において注目すべきデータが報告されている。これらのデータは、製品の効率性とコンポーネント寿命延長への貢献度を測る上で極めて重要だ。
摩擦損失
SILCA社内試験によると、Synergeticは250W入力時にわずか4.9Wの損失(効率98.1%)を記録し、「テストされた中で最も速く、最も静かなオイルベース潤滑剤」であると主張されている。
これは、特にトライボフィルムが効果的に機能し、金属間の直接接触を最小限に抑えることで達成されると考えられる。競合製品と比較しても遜色ない、あるいはより優れた効率を示すデータも提示されている。
独立試験機関であるZero Friction Cycling (ZFC) のレポートによれば、清浄なドライ環境下(ブロック1試験)での初期摩擦は極めて低い。
別の信頼できる第三者機関の効率試験で3.8Wの損失という結果もあり、これはウェットルーブとしては驚異的な数値だ。ただし、ウェットルーブ固有の静止摩擦の影響は、特にチェーンのように多数のリンクが静止と運動を繰り返す部位では無視できない要素である。
メーカーや試験機関が提示する理想条件下での最高性能値と、実際の多様なライディング環境での平均的・持続的性能との間には差異が生じうる。
ZFCのレポートは、ブロック2(乾燥汚染環境)で性能が低下することを示唆しており、これはウェットルーブ全般の課題である。データを見る場合は「最高の数値」だけでなく、「どのような条件下でその性能が維持されるか」を正確に理解する必要がある。
試験機関/情報源 | 試験条件 | ワット損失 (W) | 効率 (%) | 比較対象/コメント |
---|---|---|---|---|
SILCA Internal | 250W入力 | 4.9 | 98.1 | 自社テスト最速・最静音オイルベース |
FTT Lab (ZFC経由) | 不明 | 3.8 | – | ウェットルーブとして極めて低い |
Mukoff製品発表 | 250W入力 | Synergetic: (Muc-Offより) +0.09W遅い | – | Synergetic vs Muc-Off, Absolute Black |
Mukoff製品発表 | 250W入力 | Synergetic: (Absolute Black より) 約0.5W速い | – | 同上 |
Zero Friction Cycling (ZFC) | ブロック1 (清浄乾燥) | データなし (低摩擦と評価) | – | 初期摩擦は極めて低い |
この表において、250W入力時の4.9Wという損失は、多くの高性能潤滑剤の中でも優れた部類に入ると考えられる。ただし、これらの数値は特定の条件下でのものであり、実環境では変動しうることを念頭に置かねばならない。
耐久性と摩耗
SILCA Synergeticの真価は、チェーンおよび関連コンポーネントの長寿命化と耐久性において発揮される。
WS2とZDDPの相乗効果によるトライボフィルムは、金属表面を摩耗から保護する。SILCAは、PFAS系ドライルーブと比較して最大95%の摩耗削減効果をテストで確認したと主張している。また、ZFCのピン・リング摩耗試験で最良の結果を示したという。
ZFCの詳細な摩耗試験では、ブロック1(1000km、清浄乾燥環境、250W)において、Synergeticは摩耗率0%という驚異的な結果を示した。これは、潤滑剤がチェーン内部に効果的に浸透し、金属部品を保護していることを示している。
しかし、ブロック2(1000km、乾燥汚染環境、砂塵噴霧)では摩耗が進行し、ウェットルーブが汚染に弱いという一般的特性が確認された。ZFCは、特にグラベルやMTBのような高汚染環境では、ウェットルーブよりもワックス系(チェーンコーティングタイプ)を推奨する見解を示している。
ZFCのブロック1テストでの摩耗率0%は非常に優れた結果で、理想条件下での保護能力の高さを示している。しかし、汚染環境下ではトライボフィルムが汚染物質の混入によって破壊されるか、汚染物質自体が研磨剤として作用するため摩耗が観測される。
Synergeticの卓越した耐摩耗性は、清浄な環境が維持されるロードライディングやインドアトレーニングで最も効果を発揮すると言えるだろう。
潤滑剤の評価は、単に初期価格や摩擦係数だけでなく、使用環境、メンテナンス頻度、コンポーネント寿命への影響を総合的に考慮した「総運用コスト」と「手間」で判断する必要がある。
Synergeticは初期費用が高いが、コンポーネント寿命延長により長期的には総合的に考えて機材費用が安価になるという考え方もある。知識のある読者はこの視点を重視するだろう。
試験ブロック (ZFC) | 条件 | 距離 | ZFCコメント/特記事項 |
---|---|---|---|
ブロック1 | 清浄乾燥、250W | 1000km | 初期摩耗ゼロ。潤滑剤の浸透と保護能力を示す。 |
ブロック2 | 乾燥汚染 (砂塵噴霧) | 1000km | 汚染により摩耗が進行。ウェットルーブの課題。 |
ブロック3 | 清浄乾燥 (ブロック2の後) | 1000km | 汚染物質の保持/排出能力をテスト。 |
ブロック4 | 湿潤 (水噴霧) | 1000km | 耐水性をテスト。Synergeticは洗い流されないと高評価。 |
ブロック5 | 湿潤汚染 (水・砂塵噴霧) | 1000km | 最も過酷な条件の一つ。 |
ブロック6 | 極乾燥汚染 (ブロック5の後) | 1000km | 総合的な耐久性を評価。 |
この表は、Synergeticの耐摩耗性が環境条件によって大きく影響を受けることを示している。清浄な環境では卓越した性能を発揮するものの、汚染が加わるとそのアドバンテージは相対的に低下する。この点を理解することが、製品を適切に評価する上で不可欠だ。
https://zerofrictioncycling.com.au/wp-content/uploads/2021/08/Lubricant-detail-review-Silca-Synergetic-v1.1.pdf
耐環境性
SILCA Synergeticは優れた防水性を有する。トライボフィルムが金属表面に強固に吸着し、潤滑剤自体も凝集性が高いため、水中完全浸漬試験においても潤滑剤がチェーン内部に留まり、洗い流されないことが確認されている。
これにより、雨天走行時や水たまり通過後も潤滑性能が維持されやすい。ZFCのテストでも、Synergeticは洗い流されないと評価されている。
一方で、前述の通り、乾燥した埃っぽい環境では、オイルベースであるため汚れを吸着しやすい傾向がある。
これはウェットルーブの一般的な特性であり、Synergeticも例外ではない。ただし、ZFCによれば、適切に塗布し余分を拭き取れば、他の多くのウェットルーブよりは清浄性を保ちやすいとされる。
潤滑剤において、完璧な防水性と完璧な防汚性(特に乾燥ダストに対する)を両立することは極めて難しい。
Synergeticは防水性を重視した結果、ある程度の汚れやすさを受け入れている設計と言える。ユーザーは、自身の走行環境(雨が多いか、埃っぽいか)に応じて、どちらの特性を優先するか選択する必要がある。
塗布と保守
SILCA Synergeticの性能を最大限に引き出すためには、適切な塗布方法と定期的なメンテナンスが不可欠だ。メーカーは精密な塗布と、余剰潤滑剤の拭き取りを推奨している。これにより、潤滑効果を高めつつ、汚れの付着を最小限に抑えることを目指している。
塗布方法
最良の結果を得るためには、まずチェーンを完全に洗浄し乾燥させることが推奨される。ただし、これは絶対条件ではなく、新品チェーンの工場出荷時のグリスの上から塗布しても、4~5回の使用でグリスを置換し効果を発揮するようだ。
塗布時には、ボトルをよく振る必要がある。これは、WS2などの固体潤滑剤粒子が沈降しやすいためだ。低温下では粘性が増し混ざりにくい。そして、思うよりも振らないと混ざらない。
各ローラーの隙間に1滴ずつ(ローラーあたり2滴)塗布し、クランクを逆回転させて潤滑剤をチェーン内部に浸透させる(例:10~12回転)。塗布後、チェーン外側の余分な潤滑剤はマイクロファイバークロスなどで可能な限り拭き取ることが重要だ。塗布後の硬化時間は不要である。
製品の性能を最大限に引き出すためには、ユーザーが塗布指示を正確に理解し実行することが重要だ。特に固体粒子を含む潤滑剤の場合、使用前の攪拌の重要性は看過できない。SILCA自身も「20-30秒振る」ことを推奨している。
また、塗布後の「拭き取り」の徹底度は、Synergeticの性能と清浄性を大きく左右する。潤滑剤はローラー内部にのみ必要であり、チェーン外側に残ったオイルは汚れを吸着し、研磨ペースト化するのを防ぐため、この作業は非常に重要だ。
Synergeticの清浄性に関しては、この拭き取りの徹底度の差に起因する可能性が高いと考えている。
保守と再塗布
メーカーは、約800kmごと、または雨天走行後に再塗布を推奨している。実際のテストでは、ロードで約600kmごとの再塗布で良好な状態を維持できた。室内のトラックバイクに使用した場合は、月に20日、1日70分ほど使用して1カ月ほど良好な状態で走行できた。
走行条件や個人の感覚により、400kmから700km程度で再塗布するのが現実的だろう。
保守の基本は、走行後にチェーン外側を拭き清掃することである。毎走行後にチェーンをペーパータオルやマイクロファイバークロスで拭くことを推奨する。
これにより、汚れの蓄積を抑え、潤滑性能を長く維持できる。雨天走行後や、特に汚れがひどい場合は、より念入りな清掃(場合によってはディグリーザーを用いた洗浄)と再塗布が推奨される。
SILCA Synergeticは800km以上という長い再塗布間隔を謳っているが、この長寿命を享受するためには、毎走行後の拭き取りという手間が伴うことが多い。
ワックス系潤滑剤は初期準備に手間がかかるが、一度施工すれば比較的クリーンな状態が長く続き、走行後の拭き取りも軽微で済む場合がある。ユーザーは、再塗布の頻度と、日常的な清掃の手間という二つの側面からメンテナンス性を評価する必要がある。
インプレッション
SILCA Synergeticを実際に使用した際の印象は、その静粛性と滑らかな駆動感に集約される。しかし、その評価は天候や路面状況、そしてメンテナンス習慣によって大きく左右される。ここでは、技術データだけでは見えてこない、生きた使用感を掘り下げていく。
静粛性と滑らかさ
SILCA Synergeticを使用して最初に体感するのは、ドライブトレインの顕著な静粛性だ。あえて表現するなら「驚くほど静か」、「不気味なほど静か」といった表現が適切だ。特に他の潤滑剤から切り替えた際にその差を明確に感じる。
この静粛性は、ペダリング時の滑らかさにも繋がり、「著しくスムーズなパワー伝達」 を感じさせてくれる。まるでチェーンが抵抗なくコンポーネント上を滑るかのような感覚だ。
この感覚は、WS2とZDDPが形成するトライボフィルムが金属部品間の摩擦を効果的に低減していることの証左と言えるだろう。清潔なチェーンに適切に塗布された直後のSynergeticは、まるでドライブトレインが存在しないかのような錯覚さえ覚える。
ペダルを踏み込むと、パワーはロスなく後輪に伝達され、ギアチェンジも軽快かつ確実に行われる。この静かで滑らかな体験は、特に長距離ライドやヒルクライムにおいて、ライダーの疲労軽減と集中力維持に貢献するはずだ。
一貫して「静かさ」がSynergeticの大きなメリットとしてあるが、この静粛性は、単に騒音が減るという物理的な変化だけでない。ライダーに「バイクが最適な状態である」という安心感や満足感を与える。
ドライブトレインからの異音はライダーにとってストレスの原因となり得るため、静かで滑らかな駆動系は、ライダーがペダリングや周囲の状況により集中することを可能にし、結果としてより効率的で快適なライディング体験に繋がっている。
多様な環境下で
SILCA Synergeticは「全天候型ウェットルーブ」 と謳われているが、その性能は環境によって評価が分かれる。
乾燥路面、特に舗装路では、前述の通り卓越した静粛性と滑らかさを長時間維持する。1回の塗布で150kmほどのトレーニングを4回、合計約600kmの走行をほぼドライコンディションで走り切り、雨に降られた日もあったがチェーンは美しく機能している。
また、インドアトレーナーでトラックバイクで使用しているが、一日70分の使用で1ヶ月使い続けても快適な潤滑を発揮してくれる。
しかし、乾燥した埃っぽいオフロード(グラベルやMTB)では、オイルベースの特性上、砂塵を吸着しやすいという課題が顕著になる。ローラー部が黒くザラザラになりやすく、頻繁な拭き取りが必要となる。
そのため、ドライコンディションでのマウンテンバイク使用は推奨しない。
雨天時やウェットコンディションでは、Synergeticの優れた防水性が発揮される。潤滑剤が洗い流されにくく、潤滑性能を維持する。雨の菖蒲谷と八幡浜国際においても、Synergeticを使用し、良好な性能を維持できた。
しかし、ウェットライド後は、泥や砂を含んだ潤滑剤がチェーンに残りやすいため、念入りな洗浄と再塗布が不可欠となる。この手間を考慮すると、ウェットコンディションでの使用は「時間とコストがかかる」という見方もできる。
「全天候型」という言葉は「どんな状況でも最高の性能を発揮し、かつメンテナンスフリー」という意味ではない。むしろ、「様々な状況に対応できるが、状況に応じた適切なメンテナンスが必要」と解釈すべきだ。
メーカーは各条件下での最適な使用方法やメンテナンス方法を提示し、ユーザーは自身の主なライディング環境とメンテナンス許容度を考慮して、この「全天候型」の真の意味を理解する必要がある。
Synergeticはあくまで「オイルベースのウェットルーブ」であり、液体であるため汚れを吸着しやすいという基本特性を持つ。高汚染環境ではワックス系が、汚れを固めて剥離させる自己洗浄性により、長期的にはクリーンで低摩耗を維持しやすい。
Synergeticの利点は、ワックスのような初期の徹底的な脱脂や乾燥時間を必要としない手軽さにある。Synergeticを選択するということは、初期塗布の手間は少ないが、走行後の清掃という形で継続的なメンテナンスを受け入れるということである。
SILCA Synergeticに関する評価は、その卓越した静粛性や潤滑性能の一方で、汚れやすさや高額な価格設定はデメリットとして指摘しておきたい。
長期使用レビュー
室内環境において、ピストバイクと4本ローラーを使用し長期間Synergeticを使用している。その耐久性とコンポーネント保護効果に対しては肯定的な印象だ。
1回の塗布で400kmから700km走行可能であり、定期的な拭き取りと適時の再塗布により、SUGINO KAIチェーンはおよそ7000km走行後もほぼ新品同様の摩耗度であった(厚歯とシングルスピードという好条件も影響している)。
再塗布のタイミングについては、走行距離や、ドライブトレインのノイズの変化、チェーンの見た目で判断している。過度な汚れの付着も感じないが、これは条件の良い室内環境での話である。
一方で、汚れの蓄積は長期使用における課題だ。Synergeticが黒く粘着性のある汚れを付着させやすく、ペーパータオルでの拭き取りだけでは解決しなかった。このため、清浄性を重視するユーザーにとっては、定期的なディグリーザーによる洗浄が避けられないだろう。
チェーンの摩耗が僅少という結果は、Synergeticの潜在的な保護能力の高さを示しているが、「黒くネバネバになる」という不満は、拭き取りが不十分か高汚染環境での使用が原因である可能性が高い。
Synergeticの長期的な性能と満足度は、ユーザーのメンテナンスへの取り組み方(特に拭き取りの頻度と質)に大きく依存すると言えそうだ。
他製品比較
SILCA Synergeticは、多くのユーザーによって他の潤滑剤と比較されている。特に、ワックス系潤滑剤や、Muc-Off、Squirtといった人気製品が比較対象となることが多い。
対ワックス系潤滑剤:Synergeticの手軽な塗布を評価する一方で、清浄性ではワックス系に軍配が上がる。ZFCのテストでは、Synergeticはウェットルーブの中で最高の性能を示すが、特に汚染環境下での摩耗率ではトップクラスのワックス系に劣る場合がある。
- 対Muc-Off:SynergeticはMuc-Offのウェットルーブやドライルーブと比較して、「格段に静か」だ。Muc-Off製品は、早期に摩耗を促進したり、黒いタール状になったりする。
- 対Squirt:Squirtは安価で比較的クリーンだが、初期の浸透性に課題がある。時間経過とともに固着物が発生しやすい。ZFCのテストでは、SILCA Super Secret(ワックス系ドリップ)の方がSquirtより摩耗率が低い。SynergeticはSquirtより高価だが、潤滑性能や耐久性で優れる可能性がある一方、Squirtより汚れやすい。
Synergeticは、ウェットルーブの中では最高峰と認識されているが、やはりワックス系との比較で、汚染環境での性能やメンテナンス性については劣っている。
多くの比較において、Synergeticは他の「ウェットルーブ」に対して性能面で優位性を示すことが多い。しかし、「ワックス系潤滑剤」と比較されると、特に「清浄性」と「高汚染環境下での摩耗」で課題が露呈する。
SILCA自身もSynergeticを「ワックスへの切り替えを望まない人向けの選択肢」と位置付けており、この製品カテゴリーの違いをユーザーが理解することが重要である。
まとめ:オイルベースで最速の潤滑剤
SILCA Synergeticは、先進的な潤滑技術を駆使し、オイルベースのウェットルーブでありながら、極めて高い潤滑性能と耐久性を実現した製品だ。しかし、その評価は一様ではなく、利点と欠点を理解した上での選択が求められる。
メリット
SILCA Synergeticの最大のメリットは、その卓越した潤滑性能に由来する静粛性と滑らかな駆動感だ。WS2とZDDPを含む独自の配合により、金属表面に形成される強固なトライボフィルムが摩擦を大幅に低減し、効率的なパワー伝達を実現する。
これにより、特にロードライディングやインドアトレーニングにおいては、非常に快適な走行体験を提供してくれる。
また、優れた防水性も大きな利点だ。雨天走行後も潤滑性能が維持されやすく、頻繁な再塗布の必要性を低減する。公称される長い再塗布間隔と1ボトルあたりの総走行距離の長さは、初期コストの高さを補って余りある長期的な経済性を示唆している。
さらに、PFASフリーである点は環境意識の高いユーザーにとって評価できるポイントだ。
- 極めて高い静粛性と滑らかな駆動感
- 優れた摩擦低減効果による高効率
- 卓越した防水性能
- 長い再塗布間隔とボトルあたりの総走行距離
- 適切にメンテナンスされた場合の高い耐摩耗性とコンポーネント寿命延長効果
- PFASフリー
- ワックス系潤滑剤のような複雑な初期準備が不要な手軽さ
デメリット
SILCA Synergeticの主なデメリットは、オイルベースであることに起因する汚れやすさだ。
特に乾燥した埃っぽい環境では、チェーンが黒く汚れやすく、砂塵を吸着して研磨ペースト状になるリスクがある。これを防ぐためには、毎走行後のチェーン外側の丁寧な拭き取りが不可欠であり、これを怠ると性能低下や摩耗促進に繋がる可能性がある。
このメンテナンスの手間は、特に清浄性を重視するユーザーや、メンテナンスに時間をかけたくないユーザーにとっては大きな負担となりうるだろう。
また、初期費用が高いこともデメリットとして挙げられる。長期的には経済的であると主張されてはいるものの、購入時の価格は他の多くの潤滑剤よりも高価である。
塗布時にボトルをよく振る必要がある点や、精密ニードルアプリケーターによる塗布がやや時間がかかると感じるユーザーもいる。ウェットコンディションでの使用後には、念入りな洗浄が必要となる場合があり、これも手間となる。
- オイルベースのため、乾燥した埃っぽい環境では汚れやすい
- 清浄性を維持するためには毎走行後の拭き取りが推奨され、手間がかかる
- 初期費用が高い
- 使用前にボトルをよく振る必要がある
- 精密塗布にやや時間がかかる場合がある
- 高汚染環境やウェットライド後は、より念入りな清掃が必要
評価項目 | 評価 | |
---|---|---|
静粛性 | ◎ 非常に良い | 驚くほど静か |
持続性(再塗布間隔) | ○ 良い | 公称800km以上。実走で400km。 |
清浄性/汚れやすさ | △ 普通 | 乾燥ダストで黒く汚れる。拭き取り必須。適切なら他ウェットよりクリーン。 |
ウェット性能 | ○ 良い | 優れた防水性、洗い流されにくい。雨天走行後も性能維持。ただし後処理は念入りに。 |
ドライ性能(舗装路) | ◎ 非常に良い | 卓越した静粛性と滑らかさ。インドアにも最適。 |
ドライ性能(オフロード/ダスト) | × 悪い | 砂塵を吸着しやすい。MTBでのドライ使用は非推奨。 |
塗布容易性 | △ 普通 | ニードルで精密だが時間かかる意見も。振る手間。硬化不要は利点。 |
価格価値 | △ 普通 | 初期費用高。長期的な部品寿命延長で元が取れるとの主張。ZFCのCost to Run良好。 |
コンポーネント保護 | ○ 良い | 適切メンテで摩耗大幅減の可能性。ZFCブロック1で摩耗0%。 |
この表は、SILCA Synergeticが持つ多面的な特性を示している。静粛性やウェット性能、適切に管理された場合のコンポーネント保護能力は高く評価される一方で、汚れやすさとそれに伴うメンテナンスの必要性、そして初期コストが主な検討事項となる。
Synergeticが合う人は?
以上の技術特性と実際の使用感を総合的に勘案すると、SILCA Synergeticが最適なユーザーは以下のようなサイクリストであると考えられる。
まず、ドライブトレインの静粛性と滑らかな駆動感を最優先し、そのためにある程度のメンテナンスの手間を厭わないロードサイクリストだ。特に、比較的クリーンな舗装路を主戦場とし、走行後にチェーンを拭く習慣があるライダーにとっては、Synergeticの性能を最大限に享受できるだろう。
筆者のように、インドアトレーニングがメインのユーザーにとっても、汚れの心配が少なく、静かで効率的な潤滑は魅力的である。
また、ウェットコンディションでの走行が多いが、ワックス系潤滑剤の初期準備(完全脱脂や湯煎など)を避けたいユーザーにも適している。Synergeticの優れた防水性は、雨天でも潤滑性能を維持する助けとなるが、走行後の清掃・再塗布は必須となることを理解している必要がある。
コンポーネントの長寿命化に関心が高く、初期投資よりも長期的な運用コストを重視するユーザーもSynergeticの候補となる。ただし、その効果を最大限に引き出すには、やはり適切なメンテナンスが前提となる。
一方で、極度の清浄性を求めるユーザー、メンテナンスの手間を最小限にしたいユーザー、あるいは主に埃っぽいオフロード環境を走行するMTBやグラベルライダーにとっては、ワックス系潤滑剤(特にイマージョンワックスや高性能ドリップワックス)の方が適している可能性が高い。
Synergeticのメリットを享受するには、デメリットを受け入れ、適切に対処する必要がある。これは、単に「塗っておけばOK」という安易なウェットルーブの使い方とは一線を画す。
ZFCが推奨する「少量を塗布し、徹底的に拭き取る」 という使用方法は、潤滑理論に基づいた意識的なアプローチである。この製品を最大限に活かせるのは、潤滑剤の役割を理解し、最適な状態を維持するために手間を惜しまない、知識と実践力を備えたユーザーであると言えるだろう。
オイルベースの潤滑剤で最高性能を探している方はぜひSILCA Synergeticを試してみてほしい。
国内で在庫があり購入できるamazonが最安でした。