ヒートテックを山岳ガイドが使わない理由

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冬のインナーウェアの代名詞といえば、ユニクロのヒートテックだ。しかし、条件次第では使用しないほうがいい場合がある。

寒い時期に、ランニングやフィットネス、肉体労働で汗をかく場合はヒートテックを使わない方がいい。理由は、北アルプス周辺で活動する山岳ガイドから教わった、生死を分けるインナーウェアの話にある。

筆者は、学生時代から社会人になりたての頃まで10年近く、冬の間は山岳ガイドの手伝いをしていた。雪山は、普段生活する町中とは違って過酷な環境だった。

雪山では様々な気象条件のなか数多くの経験をしてきたが、山のプロたちからも様々な知恵とアドバイスを頂いた。そこで知ったのは、身につけるウェア”たった1枚”で生死がわかれてしまう、という事実だった。

ここから私がお話することは、普段の生活には必要のない話かもしれない。しかし、寒い環境下で大量に汗をかく人や、肉体労働の仕事をする人にとって、知っておいて損はない情報だとおもう。

さまざまな環境条件と、読者がいることを前提に、ここから先の話を頭の片隅において頂けたら幸いだ。

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インナーひとつが、生死を分ける

冬の山に入ると文明の利器は何もない。

いまでは山でも携帯電話が繋がるようになった。しかし、そんな野暮なものは緊急時以外は使わない。私が生活していた山では登る、滑る以外にそれほど娯楽がなかったため、会話することが多かった。そこではたびたび、身に着ける「装備」について話題になることが多かった。

生死分ける山の装備はいつも話題になるし、みな手入れや使用状態に気を使っていた。

特に重要な装備といえば、体に一番近いインナーウェアだった。極端な話だが、普段わたし達が行っているような、ランニングやサイクリングといった活動量が多いスポーツ程度で汗冷えしたとしても「凍死する」事はまずありえない(余程の寒冷地に行かなければ)。

しかし、冬の山の場合は、発汗後の汗冷えが問題になってくる。

山(夏冬問わず)において、汗冷えによる体温の低下は死活問題だ。低体温症になり、最悪命を落とす。その際、肌に密着しているインナーウェアの素材が影響してくる。

それを理解してか、近年の装備の進歩は目覚ましく進んでおり、身体を保温し、汗を排出し、かつ体温を低下させず身体を守るインナーウェアの開発が進んでいる。ヒートテックも誰もが知っている高機能かつ「暖かいインナー」のひとつだ。

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私もヒートテックを使っていた

いま、こうやって雪山の事をよく知っているかのように記事を書いている私も、初めはインナーウェアの重要性など一切知らなかった。

今だから正直に言ってしまえば、ヒートテックが出始めたころ(CMで盛んに見ていたので)雪山で使用していた時期があった。暖かい”らしい”のだから、使用することが悪いなんて思ってもみなかった。

私の中では「命を守る装備」として使っていた。

ある日、山に行く際に装備の話になった。その時に私の装備を聞いたベテランの方がこう言った。「え、なに、ヒートテック使ってんの?、おまえ、素人か?」と、言われた。これから入山する、という段階の時だった。

少々、かんに障ったのだが、「ヒートテックなので温かいし、大丈夫です」と言った。言い返されたのは「ヒートテックは、むいていない条件があるんだよ」という一言だけだった。

気になって聞くと、むいていない条件とは「気温がとても低い環境かつ、発汗を繰り返す場合」だという。ヒートテックはある条件次第では、暖かいどころか逆に体温を奪ってしまうインナーウェアだった。

しかし、暖かいはずのヒートテックを発汗を繰り返す条件下で着用してはいけないなんてことが本当にあるんだろうか。

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ヒートテックの素材に理由がある

各社から様々なインナーが販売されているが素材に注目してみよう。ユニクロヒートテックの素材からだ。ヒートテックは様々な製品が存在しているが、これから紹介するのは一般的なアンダーシャツタイプを掲載している。

ユニクロヒートテックに使われている素材は以下の通り。

  • 34%ポリエステル
  • 34%レーヨン
  • 27%アクリル
  • 5%ポリウレタン

「レーヨン」という素材に着目してほしい。

レーヨンは人工繊維で植物繊維から作り出した天然素材が原料だ。レーヨンの特徴としては「肌触りが良い」という利点がある。しかし、吸水性が高いという繊維の性質があり、発汗が大量に行われると「吸水率が飽和する」という欠点がある。

結果、汗の乾きが遅くなる。この「乾くのが遅い」というのが外気温の影響で汗冷えを起こす。

次第に体温の低下につながっていく。したがって、3割もレーヨンが入ったユニクロのヒートテックは、特に汗を多くかくスポーツや、体温の低下が生死を分けるようなシチュエーションで使う場合に適していない。

パールイズミというウェア専業のメーカに「ヒートテックセンサー」というヒートテックの類似製品がある。ユニクロの製品を模造したインナーウェアかと思ってしまったがどうやら間違いのようだ。パールイズミの「ヒートテックセンサー」の素材を確認してみる。

  • ポリエステル89%
  • ポリアクリレート系繊維11%

キャッチコピーとして、「汗をスムーズに拡散し、ウェア内部の蒸れを防ぎ、身体を冷やしにくくする効果もあります」とある。ヒートテックという名前はついているものの、こちらはまったくレーヨンは全く使われていない。

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身につけるべき、山用のインナー

冬場に発汗を繰り返すと問題になるのは、「汗冷え」による体温の低下だ。では、いま私が何を使っているかというと、ガイド時代に教えてもらったモンベルのジオラインだ。10シーズン使ったが、山用のウェアはヘタれないし頑丈である。会社に行く際もジオラインを使用している。

ユニクロのヒートテックと比べても、体感できる”あたたかさ”に雲泥の違いがある。高機能インナーは汗冷えが極端に少ない。ただ、ここで色眼鏡なしにインナーウェアを評価するならば、汗をほとんどかかない普段の日常生活であれば、ヒートテックでも良いと思う。価格は少々高いが、5シーズンは確実に使える。

スポーツをする人が使う条件は「汗をかく普段以上の活動量」であり発汗も当然多い。山も登ると、活動量が増え発汗し体はあたたまる。ここまではいい。問題は休んでいるとき、下山しているときだ。汗が蒸発せず衣類に留まったままだと汗冷えしてしまう。

汗冷えは、寒い時期に最もつらく、最も命を脅かす。

冬でも汗をかくスポーツをされる人は、環境が異なれば使用するインナーも使い分けなければならないことを知っておいて損はないと思う。特に冬山では人一倍「汗冷え」について対策と知識が必要になってくる。

活動量が多ければ、自身の経験からヒートテックよりもモンベルジオラインをおすすめしたい。

私は過去の経験から、冬場に使用するインナーとして、毎日の仕事着として実際にジオラインを使用している。ラン、サイクリングであれば一番薄手で問題はない。普段の生活のインナーウェアとして使ってももちろん十分だ。

また、山用のインナーの特徴として3日ほど洗わずに着続けても匂いがほとんどしないのもメリットだ。

また繁忙期に会社でビバーク(!?)する場合や、北陸地方では冬場の停電時に暖かいインナーを身に着けておくと不測の事態の備えとしても重宝するはずだ。インナーウェアは非常に重要な装備だ。

だからこそ、素材にまでしっかりと目を向け、自身が使用する条件に適したインナーウェアを選択して欲しいとおもう。

 

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