スペインのカーボンホイールブランドSISLENTが、英国Silverstone Sports Engineering Hubにおいて実施した風洞実験の結果が公開された。
同社のSISLENT Rapid 50 LCホイールにおけるALPINAカーボンスポークとVONOAカーボンスポークの空力性能差に焦点が当てられており、単体ホイールテストおよびコンプリートバイクテストの両面からその性能差が明らかになった。
比較対象として、ポガチャルが第4回目のツール・ド・フランス制覇に使用したENVE SES 4.5 PRO(ALPINAスチール)も同条件でテストされており、業界のベンチマークとしての位置づけも明確である。
機材構成で混同しやすい点として、SISLENTで使用しているのはALPINA社製のカーボンスポーク、ENVEで使用しているのはALPINA社製のスチールスポーク。VONOAは最新世代。
テスト条件と使用機材
風洞テストは45km/hおよび60km/hの2つの風速で実施され、ホイール回転速度は一定の45km/hに設定された。
ヨー角は-20°~+20°の範囲で動的に連続変化させる方式が採用されている。この条件設定により、実走行において遭遇しうる様々な横風シナリオを包括的にシミュレートしている。
テストは大きく2種類に分類される。
単体ホイールテストでは30mmタイヤと160mmディスクブレーキを装着した状態で各ホイール単独の空力特性を計測し、コンプリートバイクテストではColnago V5Rsにフロント50mm・リア55mmのホイールセットを装着した状態でバイク全体としての空力抵抗を測定している。
テスト対象ホイール
| 構成 | リム | スポーク | 備考 |
|---|---|---|---|
| SISLENT 50 LC 2025 / VONOA | 2025年モデル(内幅24.5mm / 外幅29.5mm) フックレス |
VONOAカーボン | 現行市販モデル・基準値 |
| SISLENT 50 LC 2025 / ALPINA | 2025年モデル(内幅24.5mm / 外幅29.5mm) フックレス |
ALPINAカーボン | スポーク変更のみ |
| SISLENT 50 LC 2026 / VONOA | 2026年モデル(内幅25mm / 外幅32mm) ミニフック |
VONOAカーボン | 新リム形状の検証 |
| ENVE SES 4.5 PRO | ENVE純正 | ALPINAスチール | 市場ベンチマーク |
Wheel Test 1:単体ホイールテスト(45km/h)
45km/hの風速条件における単体ホイールテストの結果は、ALPINAカーボンスポークの空力的優位性を明確に示すものであった。現行市販モデルであるSISLENT 50 LC 2025(VONOAスポーク)を基準とした場合、各ホイールの空力抵抗削減率は以下のとおりである。
| ホイール構成 | 空力抵抗変化率 (対2025 VONOA比) |
|---|---|
| SISLENT 50 LC 2025 / VONOA カーボン | 基準値(0%) |
| SISLENT 50 LC 2025 / ALPINA カーボン | -2.83% |
| SISLENT 50 LC 2026 ミニフック / VONOAカーボン | -1.67% |
| ENVE SES 4.5 PRO ALPINA スチール | -2.15% |
注目すべきは、ALPINAカーボンスポーク仕様がVONOAカーボンスポークとENVE SES 4.5 PRO(ALPINAスチールスポーク)をも上回る空力性能を発揮した点だ。
ALPINAカーボンスポーク仕様はENVEに対して0.68%の空力抵抗削減を達成しており、ポガチャルがグランツール制覇に使用したホイールを凌駕するという結果が得られている。
ヨー角ごとのドラッグ曲線を分析すると、ALPINAスポークは特に-15°~-10°および10°~15°のヨー角帯域において顕著な空力改善を示している。
これはディスクブレーキ側において特に顕著であり、スポーク断面形状の違いが横風条件下での空気の整流特性に大きく影響していることを示唆している。
Wheel Test 2:単体ホイールテスト(60km/h)
風速60km/hに条件を引き上げた単体ホイールテストでは、ALPINAカーボンスポークの優位性がさらに拡大する結果となった。高速域での空気抵抗は速度の二乗に比例するため、スポーク形状の差異がより顕著に現れるのは空力的に理にかなっている。
| ホイール構成 | 空力抵抗変化率(対2025 VONOA比) |
|---|---|
| SISLENT 50 LC 2025 / VONOAカーボン | 基準値(0%) |
| SISLENT 50 LC 2025 / ALPINAカーボン | -3.53% |
| SISLENT 50 LC 2026 ミニフック / VONOAカーボン | -2.16% |
| ENVE SES 4.5 PRO ALPINAスチール | -2.95% |
45km/h時に-2.83%であったALPINAカーボンスポークの空力優位性は、60km/hでは-3.53%にまで拡大している。
風速が上がるほどALPINAカーボンスポークのアドバンテージが増大するという傾向は、高速巡航やダウンヒルといった実戦的なシナリオにおいて、このスポーク選択がより大きな意味を持つことを意味している。
ENVE SES 4.5 PRO(ALPINAスチール)との比較でも、ALPINAカーボンスポーク仕様は0.58%の空力抵抗削減を達成しており、45km/h時の0.68%と合わせて、速度域を問わず安定的にENVEを上回る空力性能を発揮していることが確認された。
単体ホイールテスト総括:パワー換算での差異
単体ホイールテストの結論として、Silverstone Sports Engineering Hubは以下のパワー換算値を報告している。
| 比較項目 | パワー差(45km/h時) |
|---|---|
| VONOA → ALPINA スポーク変更 | 2.42W削減 |
| SISLENT 2025リム → SISLENT 2026リム変更(VONOAスポーク同士) | 1.44W削減 |
これは無視できない差だ。現代のハイエンドバイク自体の空力差が1~2W以内に収まる中、ALPINAカーボンスポークへの変更だけで2.42Wの節約が得られるという数値は、ホイール単体パーツの変更としては非常に大きなインパクトがある。
リム形状の変更による1.44Wと合わせて、2026リム+ALPINAカーボンスポークの組み合わせが最適解であることは明白であるが、SISLENT自身もこの2つの改善を単純加算できるかどうかは追加検証が必要であると慎重な姿勢を示している。
また、ENVEホイールに関する興味深い知見として、全テストホイールの中で最も対称的な空力挙動を示したことが報告されている。
ディスクブレーキの影響を完全に補償しており、左右どちらから風を受けてもドラッグの変動が最小限に抑えられている。さらに、最も極端なヨー角(-20°および20°)においてENVEが最高の空力性能を発揮するという特性も確認された。
Wheel Test 3:コンプリートバイクテスト(45km/h)
Colnago V5Rsに各ホイールセットとSISLENT AERO+ハンドルバーを装着したコンプリートバイクテストでは、バイク全体のシステムとしての空力特性が評価された。
フレーム、フォーク、シートポスト、サドルなどの共通パーツが空力全体の大部分を占めるため、ホイール変更による差異の割合は単体テストよりも小さくなるのは当然だ。
| ホイール構成(全てSISLENT AERO+ハンドルバー装着) | 空力抵抗変化率(対2025 VONOA比) |
|---|---|
| SISLENT 50|55 LC 2025 / VONOAカーボン | 基準値(0%) |
| SISLENT 50|55 LC 2025 / ALPINAカーボン | -1.03% |
| SISLENT 50|55 LC 2026 ミニフック / VONOAカーボン | -0.72% |
| ENVE SES 4.5 PRO ALPINAスチール | -0.03%(ほぼ同等) |
コンプリートバイク状態でもALPINAカーボンスポークの優位性は維持されており、VONOAに対して1.03%の空力抵抗削減を記録している。バイク全体で見れば1%の差異は大きな数値であり、レース終盤の消耗戦においてこの差が勝敗を分ける可能性は十分にある。
ENVEとの比較では、ALPINAスポーク仕様が0.32%の優位性を示した。単体テストほどの差は出ないものの、システム全体としてもALPINAがENVEを上回る性能を発揮するという結論は変わらない。
Wheel Test 4:コンプリートバイクテスト(60km/h)
60km/hでのコンプリートバイクテストにおいても、ALPINAスポークの空力優位性は一貫して確認された。
| ホイール構成(全てSISLENT AERO+ハンドルバー装着) | 空力抵抗変化率(対2025 VONOA比) |
|---|---|
| SISLENT 50|55 LC 2025 / VONOAカーボン | 基準値(0%) |
| SISLENT 50|55 LC 2025 / ALPINAカーボン | -0.97% |
| SISLENT 50|55 LC 2026 ミニフック / VONOAカーボン | -0.65% |
| ENVE SES 4.5 PRO ALPINAスチール | -0.03%(ほぼ同等) |
ALPINAカーボンのVONOAに対する空力優位性は0.97%で、45km/h時の1.03%からわずかに縮小しているが、ほぼ同等の水準を維持している。ENVEに対しても0.27%の優位性を確保しており、速度域を問わずALPINAスポークが最も空力的に優れた選択肢であるという結論に変わりはない。
バイクテストのドラッグ曲線に関して、Silverstone Sports Engineering Hubは興味深い補足を行っている。
コンプリートバイクのグラフがヨー角のプラス方向にわずかにシフトしているのは、マイナスヨー角が駆動系側(ドライブトレイン側)に風が当たる状態を表しており、チェーンやディレイラーといった空力的に不利な要素が集中する側であるためだ。
コンプリートバイクテストまとめ:パワー換算と最適組み合わせ
| 比較項目 | パワー差(45km/h時) |
|---|---|
| VONOA → ALPINAカーボンスポーク変更(同一リム・ハブ条件) | 1.62W削減 |
| SISLENT 2025リム → SISLENT 2026リム変更(VONOAスポーク同士) | 1.13W削減 |
コンプリートバイクにおけるALPINAスポークの節約パワーは1.62Wである。単体テストの2.42Wと比較すると数値は小さくなるが、これはフレームやコックピットなどの共通要素が全体の空力抵抗の大部分を占めるためであり、ホイール変更の効果としては依然として有意な数値である。
SISLENTは、2026リム+ALPINAカーボンスポークの組み合わせが1.13W+1.62Wの合算値を実現するかどうかは追加テストなしには断言できないとしながらも、全てのデータがこの組み合わせが最も空力的に優れたコンフィギュレーションであることを示唆していると結論づけている。
ALPINAカーボンスポークとVONOAスポークの性能差
全4テストを通じて浮かび上がったALPINAスポークとVONOAスポークの空力特性の違いを総合的に整理した。
ALPINA カーボンスポーク
別記事で詳しく紹介。

速度域による影響
| テスト条件 | ALPINAカーボン vs VONOA 空力抵抗削減率 |
|---|---|
| 単体ホイール / 45km/h | -2.83% |
| 単体ホイール / 60km/h | -3.53% |
| コンプリートバイク / 45km/h | -1.03% |
| コンプリートバイク / 60km/h | -0.97% |
単体ホイール条件では、速度が上がるほどALPINAの優位性が拡大する傾向が確認された(2.83% → 3.53%)。これはスポーク周囲の気流がレイノルズ数の変化とともに異なる挙動を示し、ALPINAの断面形状がより高速域での整流に適していることを示唆するものである。
一方、コンプリートバイク条件ではこの速度依存性はほぼ見られず(1.03% → 0.97%)、バイク全体のシステムとしては速度域を問わず安定した差異が維持されている。
ENVEとの比較における立ち位置
| テスト条件 | ALPINAカーボン vs ENVE SES 4.5 PRO ALPINAスチール 空力抵抗削減率 |
|---|---|
| 単体ホイール / 45km/h | -0.68% |
| 単体ホイール / 60km/h | -0.58% |
| コンプリートバイク / 45km/h | -0.32% |
| コンプリートバイク / 60km/h | -0.27% |
ALPINAスポーク仕様は、全テスト条件においてENVE SES 4.5 PROを空力的に上回っている。
ただし、ENVEには固有の強みも存在する。ENVEは全テストホイールの中で最も対称的な空力挙動を示しており、風向きに依存しない安定した特性を持つ。また、最も極端なヨー角(±20°)においてはENVEが最良のパフォーマンスを発揮するという特性がある。
つまり、平均的な空力抵抗ではALPINAが勝るが、極端な横風条件での安定性という点ではENVEに一日の長があると言える。
ヨー角帯域による特性の違い
ALPINAスポークが最も大きな空力改善を見せるのは、ヨー角-15°~-10°および10°~15°の帯域だ。これは実走行において頻繁に遭遇する横風条件に該当し、特にディスクブレーキ側での効果が顕著である。
逆に、ヨー角0°付近(正面からの風)ではALPINAとVONOAの差は比較的小さく、両者の差異が主に横風処理能力に起因するものであることが読み取れる。
まとめ:ENVE SES 4.5 PROユーザーの視点から

本風洞実験は、SISLENTが2026年モデルの開発に向けて実施した包括的な空力検証であり、その結果は同社のプロダクトが市場最速と言われるENVE SES PROというベンチマークと十分に競争力を持つことを実証するものであった。
ALPINAスポークとVONOAスポークの空力性能差は明確であり、全テスト条件においてALPINAが一貫した優位性を示している。45km/hで2.42W、コンプリートバイクで1.62Wという節約幅は、スポーク変更という単一パーツの交換としては無視できない数値である。


特にロードレースやタイムトライアルにおいて、この差はフィニッシュタイムに直接影響を与えうる。
SISLENTが2026リム+ALPINAカーボンスポークの組み合わせを「勝利の組み合わせ」と位置づけながらも、その合算効果を断言せずに追加検証が必要としている点は、エンジニアリングブランドとしての誠実さを感じさせる。
仮説の確認のためではなく、仮説に挑戦するためにシルバーストーンへ行ったというSISLENTの言葉は、データに基づいたプロダクト開発の姿勢を象徴している。
なお、本テストはSilverstone Sports Engineering Hubの監修のもと、同施設の基準とプロトコルに従って実施されたものであり、SISLENTチームも立ち会いのもとで検証プロセスを確認している。
ディレクターRob Lewis氏の署名入りパフォーマンス認証書が添付されており、テスト結果の第三者的な信頼性が担保されている。















