タイヤに塗るだけで、転がり抵抗が平均4.7%削減する。
この話を聞いたとき、9割の人が信じないだろう。私もそのうちの一人だ。
なぜなら、転がり抵抗の総エネルギー損失のうち、その大部分(80%から95%)を占めているのは、タイヤが路面に接地して変形し、その後元の形状に復元する過程で、ゴム内部の分子摩擦によってエネルギーが熱として失われる「内部ヒステリシス損失」である。
これは物質の表面や界面ではない内部、つまり大部分が持つ固有の性質、タイヤのゴムコンパウンドの化学組成やケーシング構造といったタイヤ全体の「バルク特性」に起因している。

残りの5%から20%が、タイヤトレッドと路面との間の摩擦、空気抵抗、路面の微細な凹凸による振動などに起因する。「表面のコーティング剤」であるLOADが影響を及ぼし得るのは、この比較的小さな割合を占める「表面界面での相互作用」に限られる。
コーティング剤がタイヤ内部のゴムの物性やケーシングの構造を変化させることは考えにくい(影響を与えない)ため、ヒステリシス損失という転がり抵抗の最大要因に直接的に寄与するとは考えにくい。
この物理的制約が、「LOAD」の転がり抵抗削減主張に対する科学的な疑問点を提起する。表面のトライボロジー特性を改質するだけで、タイヤ全体のエネルギー損失を4.7%も削減できるという主張は、従来のタイヤ力学の常識から見れば、十分に説明できるだけの材料を私はいま持ち合わせていない。
と、ここまでは机上の空論の話だ。
実際にLOADを入手し、タイヤに塗布、変数が少ない室内ローラーを用いてLOADの真価を確かめた。実験で試し、転がり抵抗の変化を数値として得る。これが何よりも重要で、説得力がある。批判を言うだけ、怪しい、と言うのは誰でもできる容易いことだ。
実験:高性能ロードタイヤ
高性能ロードタイヤと4本ローラーを用いて測定を実施した。測定方法はbicycle rolling resistanceで古くから実施されているプロトコルと合わせた。測定における条件は以下の通り。
実験条件
- ローラー:グロータック GT-Roller Q2.0 4本ローラー
- バイク:S-WORKS TARMAC SL8
- パワーメーター:ASSIOMA PRO RS2
- ギア:固定
- タイヤ:ミシュランパワーカップクリンチャー28C
- チューブ:SOYO LATEX
空気圧4.5Barに設定し、ローラーを時速30km/hで30秒間維持するために必要な平均電力を測定した。これを5回繰り返し平均値を求めた。以上の手順を「LOAD施工前」「LOAD施工後」の条件毎に実施し結果を求めた。
結果
| LOAD施工前 | Watt(W) | Speed(km/h) |
| 1 | 193.26 | 30.4 |
| 2 | 195.88 | 30.56 |
| 3 | 196.74 | 30.57 |
| 4 | 195.15 | 30.57 |
| 5 | 193.05 | 30.3 |
| Average | 194.816 | 30.48 |
| LOAD 施工後 | Watt(W) | Speed(km/h) |
| 1 | 194.68 | 30.31 |
| 2 | 194.06 | 30.53 |
| 3 | 193.12 | 30.31 |
| 4 | 193.23 | 30.58 |
| 5 | 194.13 | 30.56 |
| Average | 193.84 | 30.46 |
LOAD施工前の平均は194.816W、LOAD施工後は193.84Wで抵抗が0.976W減少した。
MichelinパワーカップとLatexチューブの転がり抵抗は、Bicycle Rolling Resistanceの情報によると1タイヤあたり約13W(ペアで26W)程度である。この場合、4.7%の削減効果は、26 W x 0.047 = 1.222 W となる。ペアで約1.222Wの削減に相当する。
本実験における0.976Wの減少は、0.976W / 26 W = 0.0375で、3.75%の削減となる。
クレストヨンドが主張する「平均4.7%の転がり抵抗削減」までは到達できなかったが、原因として、人間が速度を維持する際のばらつき、パワーの揺らぎ、施工方法や気温など様々な条件が影響したと考えられる。
事象からは、LOADタイヤコーティング剤について解説していく。
LOAD タイヤコーティング剤
「チタンの鎧-LOAD-」は、走行性能の向上を目的としたタイヤ専用のコーティング剤である。その核心には、特許技術を応用した酸化チタンナノ粒子が用いられている。
開発元であるクレストヨンド社は、既に自転車のドライブトレイン用コーティング剤「チタンの鎧」で酸化チタンナノ粒子技術の実績を有しており、本製品はその技術をタイヤ用に応用した派生製品と位置づけられている。同社は関連技術において特許を取得している。
主張される性能向上効果
クレストヨンド社は、「LOAD」の性能向上効果について、具体的かつ定量的な数値を提示している。これらの数値は、国内の第三者メーカーや試験機関でのテスト結果に基づくものとされている。
転がり抵抗の低減
最も重要な性能指標として、国内タイヤメーカーのラボ試験で平均4.7%の転がり抵抗削減が実証されたと主張されている。転がり抵抗は、自転車の推進効率に直接影響を与える主要な抵抗要素であり、この数値が事実であれば、ライダーのエネルギー消費を明確に削減する効果が期待できる。
グリップ力の向上
同じく第三者機関のテストにおいて、滑り方向のグリップ力が平均16.2%向上したとされている。この大幅なグリップ力向上は、コーナリングやブレーキング時の安定性と安全マージンを著しく高める可能性があり、特にウェットコンディションでの走行性能に大きな影響を与えると強調されている。
副次的効果
上記の二大効果に加え、ロードノイズの低減、タイヤ表面の摩耗抑制、そして酸化チタンの光触媒作用によると考えられるセルフクリーニング(自浄)効果も副次的な利点として挙げられている。これらは、走行の快適性やタイヤの経済寿命に寄与する要素である。
これらの主張は、製品の魅力を高める上で非常に強力であるが、その信頼性はテストの具体的内容に依存する。
しかし、現時点で公開されている情報には、テストを実施した機関の名称、採用された試験プロトコル(ドラムの表面材質、試験速度、負荷、温度など)、ベースラインとして使用されたタイヤのモデルといった、結果を客観的に評価するために不可欠な詳細情報が含まれていない。
これらの定量的主張は文脈が欠落しており、独立した検証が不可能な「ブラックボックス」の中に存在すると言わざるを得ない。
ナノ粒子による表面改質
クレストヨンドによると、これらの性能向上が酸化チタンナノ粒子によるタイヤ表面の物理的・化学的改質によってもたらされると説明している。
グリップ向上メカニズム
タイヤのトレッド表面に塗布された酸化チタンナノ粒子が、ナノスケールの微細な凹凸構造を形成する。この凹凸が路面との機械的な噛み合い(インターロッキング)を増加させ、結果として摩擦係数が高まり、グリップ力が向上するとされる。
ウェットグリップ向上メカニズム
酸化チタンが持つ固有の親水性という化学的性質が重要な役割を果たす。この親水性により、タイヤと濡れた路面との間に介在する水膜が効果的に排除され、タイヤゴムが直接路面を捉えることが可能になる。
これにより、ウェットコンディションにおけるハイドロプレーニング現象が抑制され、グリップが維持されると説明されている。
ロードノイズ低減メカニズム
形成されたコーティング層が、タイヤと路面との接触・離脱時に発生する微細な振動を吸収・分散するダンピング材として機能し、タイヤ自体の共振を抑制することでロードノイズを低減すると考えられている。
これらの作用機序に関する説明は、特にグリップ向上に関しては物理現象として一定の合理性を持つ。しかし、転がり抵抗の削減メカニズムについては、表面改質がどのようにしてタイヤ全体のエネルギー損失をこれほど大きく低減させるのか、より詳細な物理的説明が求められる。
酸化チタンナノ粒子とゴム表面のトライボロジー
潤滑剤添加剤としてのTiO2ナノ粒子
「LOAD」の核心技術である酸化チタンナノ粒子(TiO_2 NPs)のトライボロジー的挙動を理解するためには、既存の学術研究を参照することが不可欠である。学術文献をレビューすると、TiO_2 NPsは主にエンジンオイルや工業用グリースといった液体潤滑剤の添加剤としての応用が広く研究されていることがわかる。
これらの研究で報告されている主な作用機序は、金属-金属間の摺動接触面において、ナノ粒子が以下の役割を果たすというものである。
トライボフィルムの形成
摺動面の圧力と熱により、ナノ粒子が表面に付着・堆積し、摩擦と摩耗から母材を保護する薄い膜(トライボフィルム)を形成する。
ナノ・ボールベアリング効果
球状のナノ粒子が接触面間を転がることで、すべり摩擦をころがり摩擦に変換し、摩擦係数を低減する。
表面修復(メンディング)効果
摩耗によって生じた表面の微細な凹凸をナノ粒子が埋めることで、表面を平滑化し、応力集中を緩和する。
重要な点は、これらの研究が対象としているのは、ほとんどが金属同士の「すべり摩擦」であり、ゴムのような粘弾性体が変形を繰り返すことによって生じる「転がり抵抗」とは物理現象として根本的に異なるということである。
学術界におけるTiO_2 NPsの知見は、主に潤滑油中での摩擦・摩耗低減に関するものであり、タイヤゴム表面に直接塗布した場合の転がり抵抗への影響を直接論じた研究は、調査した資料の中では見当たらない。
転がり抵抗の発生メカニズムと表面コーティングの影響
自転車のタイヤにおける転がり抵抗の発生源を理解することは、「LOAD」の主張を評価する上で極めて重要である。
転がり抵抗の総エネルギー損失のうち、その大部分(80%から95%)を占めるのは、タイヤが路面に接地して変形し、その後元の形状に復元する過程で、ゴム内部の分子摩擦によってエネルギーが熱として失われる内部ヒステリシス損失である。
これは物質の表面や界面ではない内部、つまり大部分が持つ固有の性質、タイヤのゴムコンパウンドの化学組成やケーシング構造といったタイヤ全体の「バルク特性」に起因する。
残りの5%から20%が、タイヤトレッドと路面との間の摩擦、空気抵抗、路面の微細な凹凸による振動などに起因する。表面コーティング剤である「LOAD」が影響を及ぼし得るのは、この比較的小さな割合を占める表面界面での相互作用に限られる。
コーティング剤がタイヤ内部のゴムの物性やケーシングの構造を変化させることは考えにくいため、ヒステリシス損失という転がり抵抗の最大要因に直接的に寄与しない。
この物理的制約が、「LOAD」の転がり抵抗削減主張に対する科学的な疑問点を提起する。表面のトライボロジー特性を改質するだけで、タイヤ全体のエネルギー損失を4.7%も削減できるという主張は、従来のタイヤ力学の常識から見れば、非常に野心的と言える。
ナノテクノロジー分野の概説では、ナノマテリアルがタイヤの転がり抵抗を低減する可能性が示唆されているが、これは一般的に、シリカナノ粒子などをゴムコンパウンドに練り込むことでヒステリシス損失そのものを低減する技術を指しており、表面塗布によるアプローチとは根本的に異なる。
既知の科学的知見との整合性と乖離
クレストヨンドの主張を科学的妥当性の観点から評価すると、グリップ向上と転がり抵抗削減とでは、その確からしさに大きな隔たりが見られる。
- グリップ向上主張の妥当性: こちらの主張は、比較的高い科学的妥当性を持つ。
- 物理的効果: TiO_2ナノ粒子によるナノスケールの凹凸形成が、表面の有効粗さを増大させ、路面との機械的インターロックを強化するというメカニズムは、物理の基本原則に沿っている。
- 化学的効果: TiO_2の親水性が水膜を破断・排除し、ウェットコンディション下でのゴムと路面の直接接触を促進するという説明も、界面化学の観点から合理的である。
したがって、グリップ力が向上するという方向性自体は科学的に支持され得る。ただし、その向上率が16.2%という大きな値に達するかどうかは、別途実証が必要な定量的問題である。
転がり抵抗削減主張の課題
転がり抵抗削減主張の主張には、重大な疑問符が付く。前述の通り、転がり抵抗の主因はタイヤ内部のヒステリシス損失である。表面コーティングが、どのようにしてこの内部的なエネルギー損失を低減させるのか、その物理的メカニズムが全く説明されていない。
タイヤ表面のすべり摩擦がわずかに減少したとしても、それが全体の転がり抵抗に与える影響は限定的であると考えられる。
4.7%という削減率を達成するためには、未だ知られていない画期的な作用機序が存在するか、あるいは、製造者のテスト条件が特定の状況下で表面摩擦の寄与が非常に大きくなるような特殊なケースであった可能性を考慮する必要がある。
現状の公開情報だけでは、この主張を科学的に裏付けることは極めて困難である。
4.7%の転がり抵抗削減が意味するもの
転がり抵抗削減率のワット換算とシミュレーション
サイクリストにとって、パフォーマンスの向上はワット(W)という単位で定量化されるのが一般的である。「LOAD」が主張する4.7%という転がり抵抗削減率は相対値であり、その真の価値を理解するためには、これを絶対的なワット削減数に変換する必要がある。
その効果は、ベースとなるタイヤの元々の転がり抵抗値に大きく依存する。
ここでは、一般的なロードバイクの走行条件(例:40 km/h)を想定し、性能の異なる3つのタイヤカテゴリーをベースラインとしたシミュレーションを行う。
ケースA:エリートレベルのレースタイヤ
ベースとなるタイヤは、Continental Grand Prix 5000 S TRやVittoria Corsa Pro Speed TLR、Michelin POWER CUPなど、市場で最も転がり抵抗が低いクラスの製品を想定する。これらのタイヤの転がり抵抗は、1輪あたり約10W(ペアで20W)程度である。
この場合、4.7%の削減効果は、20 W x 0.047 = 0.94 W となる。ペアで約0.94Wの削減に相当する。
筆者の実験において、LOAD施工前の平均は194.816W、LOAD施工後は193.84Wで抵抗が0.976W減少した。おおむねハイエンドタイヤの改善結果と合致している。
ケースB:パフォーマンス志向のオールラウンドタイヤ
トレーニングからレースまで幅広く使用される、標準的な性能を持つタイヤを想定する。転がり抵抗は1輪あたり約15W(ペアで30W)とする。
この場合、4.7%の削減効果は、30 W x 0.047 = 1.41 W となる。ペアで約1.41Wの削減に相当する。
ケースC:高耐久・トレーニングタイヤ
耐パンク性や耐摩耗性を重視した、転がり抵抗が大きいトレーニング用タイヤを想定する。転がり抵抗は1輪あたり約20W(ペアで40W)とする。
この場合、4.7%の削減効果は、40 W x 0.047 = 1.88 W となる。ペアで約1.88Wの削減に相当する。
このシミュレーションから、削減されるワット数は1Wから2W弱の範囲に収まることがわかる。この数値は、例えば標準的なブチルチューブから高性能なTPUチューブやラテックスチューブへ交換した場合に得られる削減量(ペアで4Wから8W程度)と比較すると小さい。
しかし、競技レベルでは1ワットの差が勝敗を分けることもあり、決して無視できるレベルではない。特に、元々のタイヤの転がり抵抗が大きいほど、得られる絶対的なワット削減効果は大きくなる傾向にある。
| ベースタイヤのカテゴリー | 1輪あたりの基準転がり抵抗 (W @ 40km/h) | ペアでの基準転がり抵抗 (W @ 40km/h) | 「LOAD」施工による推定ワット削減量 (ペア) |
| エリートレースタイヤ | 10.0 W | 20.0 W | 0.94 W |
| パフォーマンス・オールラウンダー | 15.0 W | 30.0 W | 1.41 W |
| 高耐久・トレーニングタイヤ | 20.0 W | 40.0 W | 1.88 W |
グリップ力向上の実用的意義とウェットコンディションへの影響
16.2%というグリップ力の向上は、数値以上に実用的な意味を持つ可能性がある。自転車の運動性能において、グリップは速度の限界を決定づける重要な要素である。
安全マージンの拡大
コーナリングや急制動時において、タイヤが滑り出す限界点が高まることは、ライダーの安全マージンを直接的に拡大する。これにより、よりアグレッシブなライン取りや、より遅いブレーキングポイントの選択が可能になり、ラップタイムの短縮に繋がる。
心理的アドバンテージ
特にウェットコンディションや荒れた路面など、グリップに不安を感じる状況下で、タイヤへの信頼感が高まることは大きな心理的アドバンテージとなる。ライダーは恐怖心から解放され、リラックスしてバイクをコントロールできるため、パフォーマンスの低下を防ぎ、疲労を軽減する効果も期待できる。
特定の競技における優位性
コーナーが連続するクリテリウム、テクニカルなダウンヒルを含むロードレース、あるいは天候が変わりやすいグランフォンドなど、グリップ性能がリザルトに直結するシナリオにおいて、この効果は決定的な差を生む可能性がある。
ただし、この16.2%という数値が、どのような路面μ(摩擦係数)、ドライ/ウェットのどちらの条件下で、どの程度のスリップアングルで測定されたのかが不明であるため、その実用的な価値を正確に評価することは難しい。ウェットコンディションでの向上率が特に大きいのであれば、その価値はさらに高まるだろう。
副次的効果:耐摩耗性と静粛性
転がり抵抗やグリップといった主要な性能指標の陰に隠れがちだが、副次的効果もユーザー体験に影響を与える。
耐摩耗性の向上
酸化チタンナノ粒子のコーティング層が、タイヤゴムの摩耗を抑制する保護層として機能する可能性は、トライボロジーの観点から考えられる。これが事実であれば、1ペア2万円近くすることもある高価なレース用タイヤの寿命を延ばし、長期的なランニングコストを削減するという経済的メリットにつながる。
静粛性(ロードノイズ低減)
ロードノイズは、特に長距離を走行するロングライドやブルベにおいて、ライダーの精神的疲労の蓄積に寄与する。コーティングによる振動吸収効果でノイズが低減されれば、より快適なライディング体験が得られ、集中力の維持にも繋がるだろう。
これらの効果は定量化が難しく、ライダーの主観的な感覚に大きく依存する部分ではあるが、製品の付加価値を高める要素として評価できる。
市場における位置付けと代替ソリューションとの比較分析
既存のタイヤコーティング製品との機能的差別化
自転車用品市場には、これまでもタイヤ用のコーティング剤やワックスが存在してきた。しかし、それらの製品の主目的は、多くの場合、美観の維持と保護であった。具体的には、新品のような深い黒艶を出すことや、紫外線やオゾンによるゴムの劣化を防ぐといった静的な機能が中心であった。
これに対し、「チタンの鎧-LOAD-」は、転がり抵抗の低減やグリップ力の向上といった、タイヤの動的性能(パフォーマンス)に直接介入することを目的としている点で、既存製品とは明確に一線を画す。
これは、製品カテゴリーとして「メンテナンス・保護用品」から「パフォーマンス・チューニングパーツ」へのシフトを意味する。ユーザーは、単にタイヤを綺麗に保つためではなく、より速く、より安全に走るための投資としてこの製品を選択することになる。
この独自のポジショニングが、「LOAD」の最大の市場的特徴である。
高性能タイヤ・チューブへの投資対効果との比較
「LOAD」の価値を客観的に評価するためには、転がり抵抗を削減するための他の代表的な機材投資と比較する必要がある。ここでは、ワット削減効果とそのコストを比較する。
高性能タイヤへの交換
これは最も効果の高いアップグレードの一つである。例えば、一般的なトレーニングタイヤ(ペアで40Wのロス)から、トップクラスのレースタイヤ(ペアで20Wのロス)に交換した場合、約20Wもの大幅な削減が期待できる。この投資にかかるコストは、タイヤペアで15,000円から20,000円程度である。
高性能インナーチューブへの交換
標準的なブチルチューブから、軽量でしなやかなTPU(熱可塑性ポリウレタン)チューブやラテックスチューブに交換することで、ペアで4Wから8W程度の転がり抵抗削減が見込める。コストはペアで5,000円から8,000円程度と、タイヤ交換よりは安価である。
「LOAD」の費用対効果
1回の施工コストは約198円で、1000km持続する。仮にパフォーマンス志向のオールラウンドタイヤ(ペア30W)に施工し、1.41Wの削減効果が得られたと仮定する。この場合、1000km走行あたりの1ワット削減にかかるコストは、約140円 (198 / 1.41W) となる。
これは、他のアップグレードと比較して、ワットあたりのコストが非常に低いことを示唆している。しかし、その効果の絶対値が比較的小さく、かつベースとなるタイヤ性能に依存するという点を考慮する必要がある。
パフォーマンス向上ソリューションの費用対効果比較
| アップグレード方法 | 初期投資額 (概算) | 推定ワット削減量 (ペア) | 1000kmあたりの1W削減コスト (概算) | 備考 |
| 「LOAD」施工 (対オールラウンダー) | 198円 | 1.41 W | 約140円 | 1000km毎に再施工が必要 |
| ブチル → TPU/ラテックスチューブ | 6,500円 | 6.0 W | 約1,083円 | チューブの寿命まで効果持続 |
| トレーニング → レースタイヤ | 17,500円 | 20.0 W | 約875円 | タイヤの寿命まで効果持続 (約3000-5000km) |
「LOAD」が提供する独自の価値命題
比較分析を通じて、「LOAD」が提供する独自の価値が明らかになる。それは、「既存資産(タイヤ)の性能を後付けで向上させる」という、他に類を見ないコンセプトである。
多くのアップグレードがコンポーネントの「交換」を前提とするのに対し、「LOAD」は「付加」によって性能向上を図る。これにより、ユーザーは以下のような独自のメリットを享受できる。
弱点の補強
例えば、「転がり抵抗は非常に低いが、ウェットグリップに不安がある」という特性を持つタイムトライアル用タイヤに施工することで、その弱点を補い、より汎用性の高いタイヤへとチューニングすることが可能になる。
段階的な投資
高価なレースタイヤへの投資を躊躇しているユーザーが、まずは手持ちのミドルグレードのタイヤに施工し、その性能を底上げするという使い方ができる。
汎用性:
ロードバイクだけでなく、MTBや自動車など、所有する他の乗り物のタイヤにも適用できるため、製品1つで幅広い用途をカバーできる。
このように、「LOAD」は単なるワット削減ツールではなく、ライダーが自身の機材や走行スタイルに合わせてタイヤの特性を微調整するための、新しいカテゴリーのチューニングパーツとしての価値命題を提示している。
まとめ:見えない世界を、理解できるか
「LOAD」を使っていくと、養老孟子先生の「バカの壁」を思い出す。物事の理解を深めて行けば行くほど、必ずどこかで理解の限界に突き当たる。そのバカの壁は人によって異なる。知識、知能、学んだことが根底にあり、それは人それぞれ千差万別だ。
私は、このLOADがどうしても理解できない。
タイヤ表面のトライボロジー特性を改質するだけで、タイヤ全体のエネルギー損失を4.7%も削減できるという主張は、従来のタイヤ力学の常識から考えると理解しがたいのだ。
それゆえ、「LOAD」は、タイヤの性能を後付けのコーティングによって向上させるという、革新的かつ意欲的なコンセプトを提示する製品でもある。
特に、酸化チタンナノ粒子の物理的・化学的特性を利用したグリップ性能の向上に関しては、その作用機序に一定の科学的合理性が認められ、特にウェットコンディションやテクニカルなコースでの安全性とパフォーマンス向上に寄与する明確なポテンシャルを秘めている。
最大の課題
その一方で、製品の主要な訴求点である平均4.7%の転がり抵抗削減という主張には、依然として重大な検証上の課題が残る。その作用機序は、転がり抵抗の主因である内部ヒステリシス損失との関連性が不明瞭であり、既存のタイヤ力学の知見と完全には整合しない。
さらに、この数値を裏付ける第三者機関によるテストレポート(試験方法、基準タイヤ、生データなど)が公開されていない現状では、専門的な見地からこの主張を鵜呑みにすることはできず、懐疑的な姿勢で臨むのが妥当である。
この転がり抵抗削減効果の真偽と再現性が、本製品の最終的な評価を決定的に左右する最重要因子となる。
将来の展望:タイヤ性能技術におけるナノマテリアルの役割
「チタンの鎧-LOAD-」の登場は、自転車業界におけるナノマテリアルの応用に新たな一石を投じるものである。従来、ナノマテリアルの応用はコンパウンドへの練り込みが主流であったが、表面コーティングというアプローチがタイヤの動的性能に影響を与える可能性を示唆した点は評価に値する。
今後の展望として、独立した第三者機関(例えば、Bicycle Rolling Resistanceやシルバーストーンのような専門機関)による厳密かつ透明性の高い性能評価が待たれる。そこで製造者の主張、特に転がり抵抗削減効果が客観的に実証されれば、「LOAD」はタイヤチューニングの新たなカテゴリーを確立し、市場に確固たる地位を築く可能性がある。
最終的に、本製品が提起した課題は二重の意味を持つ。一つは、製造者に対して、専門家層を納得させるためのより高いレベルの技術的透明性(詳細なデータ公開)を促すこと。
もう一つは、我々消費者に対して、特に画期的な性能を謳う製品については、その主張を科学的根拠に基づき批判的に吟味するリテラシーの重要性を再認識させるものである。ナノテクノロジーがもたらす未来の可能性に期待しつつも、その評価は常に厳格な科学的検証に基づいて行われるべきである。
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