
SISLENTがSilverstone Sports Engineering Hubで実施した風洞実験において、VONOAスポークに対して明確な空力的優位性を示したのがALPINAカーボンスポークだ。
その正体は、2026年に創業100周年を迎えるイタリアの老舗スポークメーカーAlpinaが2025年に投入したカーボン製スポーク「Carbolite」である。Carboliteの製品仕様、Alpinaの企業背景、競合VONOAとの設計思想の違い、採用実績、そして入手性に至るまでまとめた。
Alpina:創業100年の「黒子」
Alpinaは1926年にイタリアで創業した家族経営のスポーク・ニップル専業メーカーであり、本社と工場はミラノ近郊のロマーニャに置かれている。元々はモーターバイク用スポークで実績を築き、BMW、Husqvarna、KTM、BorraniといったブランドへのOEM供給を手がけてきた。


1970年代半ばに自転車スポークへと事業を展開し、以降はMavic、Bontrager、Campagnolo、Fulcrum、Zippなど、業界を代表するホイールブランドへスポークとニップルを供給してきた。
長らくOEM供給で「黒子」として業界を支えてきた存在である。
イタリアの自転車ブーム最盛期(1989〜1995年)には1日300万本のスポークを生産していたが、ブーム崩壊後に高品質・高付加価値路線へと転換した。
1996年にパンターニ向けの超軽量ホイールを手がけたことが、イノベーション企業への転換点となった。製造機械のほぼすべてを自社設計・自社製造しており、陽極酸化と塗装以外の工程を完全に内製するという。
スチールスポークのラインナップはOne → Basiclite → Extralite → Ultralite → Hyperliteの順に高性能化する命名体系を持ち、最上位のHyperlite AeroはSapim CX-SuperやDT Swiss Aeroliteに相当するポジションに位置づけられている。
そして、今回取り上げているカーボンスポークのCarboliteは、なぜかラインナップに存在していない。
Carboliteの製品仕様と構造
Carboliteは、カーボンファイバー製シャフトにチタン製のねじ切りエンドとT字ヘッドを組み合わせた構造を持つストレートプル専用のカーボンスポークだ。
最大の特徴はその細身のエアロブレード断面にあり、ブレード幅3.10mm、厚さ0.98mm、丸端部Ø1.82mmという寸法は、カーボンスポーク市場において最薄級の数値である。
SAPIMの超軽量エアロスポーク「CX-Ray」は、中央のブレード部分の厚みが 0.9mmでありCarboliteは0.08mmだけ厚い。だが、重量はCX-RAYの約4.8gに対してわずか1.8gしかない。
主要スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 素材 | カーボンファイバーシャフト+チタン製エンド/T字ヘッド |
| 断面形状 | エアロブレード(幅3.10mm × 厚さ0.98mm) |
| 丸端部径 | Ø1.82mm |
| ハブ側端部径 | 3.03mm |
| アロイ製ねじインサート径 | Ø3.92mm |
| 重量 | 約1.8g/本(チタンエンド込み公称値) |
| 20本フルセット重量 | 約75g |
| 長さ展開 | 240〜300mm |
| プルタイプ | ストレートプル専用 |
| ニップル | 専用大型六角アルミ内蔵ニップル |
| 工具 | 3.3mmニップルキー+5.5mm内六角 |
Carboliteを採用したStrade GTホイールを製造する英国Parcoursは、「Alpina Carbolite Aeroスポークは市場で最も薄いカーボンスポークであり、ほとんどの製品より大幅に弾性が高く、ホイールの振動減衰性を高める」と述べている。

カーボンスポーク特有の注意すべき点として、ハブにはT字ヘッドを受けるT字スロットとやや大きめに開けたスポーク穴が必要であり、リムはΦ3.92mmに合う穴径が必要となる。内蔵ニップルを使用するため「ホールレスリム」は使用できない。
製造方法:VONOAの特許との戦い
Carboliteの製造方法の情報は限定的だ。
Alpina公式サイトの公開スポークカタログにCarboliteは掲載されておらず、カーボンのレイアップ方式、カーボンシャフトをイタリア国内で内製しているのか外部調達なのか、チタンエンドの接合方式(接着か機械的接続か)はいずれも確認できない。
引張強度および最大張力の定格も非公開だ。業界一般ではVONOA/STRENが「接着レスの機械的接続」を採用する一方、多くのカーボンスポークは「カーボンシャフトをスチールまたはチタンのヘッドと先端に接着する」方式であるが、Carboliteがどちらの方式を採用しているかは不明である。
VONOA(STREN)との設計思想の違い

SISLENTの風洞テストでCarboliteの比較対象となったVONOAは、中国の炭素繊維複合材メーカーSTRENのコアブランドである。VONOAは「接着レスの機械的接続技術(glueless mechanical connection)」を発明し、高張力カーボンスポークを研究室から市場へ導いた立役者として知られる。
世界中で多数の特許を保有しており、NEWMEN、Scope、FFWD、Reserve、Huntなど、ワールドツアーレベルを含む多くのブランドがVONOAスポークを採用している。
Carbolite vs VONOA
| 項目 | ALPINA Carbolite | VONOA(STREN) |
|---|---|---|
| メーカー国 | イタリア(Alpina) | 中国(STREN) |
| 創業/設立 | 1926年 | – |
| 断面形状 | エアロブレード(3.10×0.98mm) | ブレードや丸スポークなど複数 |
| 重量(1本) | 約1.8g | 約1.7〜2.5g(モデル/仕様により異なる) |
| エンド素材 | チタン | スチールまたはチタン |
| 接合方式 | 非公開 | 接着レス機械的接続(特許技術) |
| 設計思想 | 細身ブレードによる空力優位+しなやかさ(振動減衰) | 高剛性・高張力・直接的なパワー伝達 |
| 主な採用ブランド | SISLENT、Parcours、Arrow Wheels | NEWMEN、Scope、FFWD、Reserve、Hunt他多数 |
両者の設計思想は明確に異なる。
VONOAは「直接的なパワー伝達・高剛性・スムーズな乗り味」を訴求し、フラットカーボンスポークでスポーク数を削減する方向性を持つ。NEWMENは前15本/後18本という構成で最大40%の軽量化を主張している。
一方のCarboliteは市場最薄級の細身ブレードで空力に優れ、スチール並みのしなやかさいわゆるコンプライアンスを追求している。
空力性能:Silverstone風洞テストデータ
SISLENTがSilverstone Sports Engineering Hubで実施した風洞テストは、同一リム・同一ハブの条件でスポークのみを変更した直接比較を含んでおり、CarboliteとVONOAの空力差を定量的に示す貴重な第三者データだ。

ALPINA(Carbolite) vs VONOA 空力性能比較
| テスト条件 | ALPINA vs VONOA 空力抵抗削減率 | パワー換算(45km/h時) |
|---|---|---|
| 単体ホイール / 45km/h | -2.83% | 2.42W削減 |
| 単体ホイール / 60km/h | -3.53% | — |
| コンプリートバイク / 45km/h | -1.03% | 1.62W削減 |
| コンプリートバイク / 60km/h | -0.97% | — |
ALPINAスポーク装着のSISLENT Rapid 50 LC 2025は、ポガチャルがツール・ド・フランス4勝目で使用したENVE SES 4.5 PROを、単体ホイール45km/hで0.68%、60km/hで0.58%、コンプリートバイク45km/hで0.32%上回っている。
特筆すべきは、風速が上がるほどCarboliteの空力優位性が拡大する傾向である。
単体ホイールで2.83%(45km/h)→ 3.53%(60km/h)と差が広がっており、高速巡航やダウンヒルでこのスポーク選択がより大きな意味を持つことを示唆している。これは細身ブレード断面(3.10mm×0.98mm)がレイノルズ数の変化に対して有利に作用していると考えられる。
剛性面でのトレードオフ
一方、同テストの横剛性試験(200N横荷重)では、VONOAスポークがALPINAスポークに対して16.3%高い剛性を記録している。最高の横剛性を示したのは2025年モデルVONOA仕様であり、2026年モデルVONOA仕様を上回った。
垂直剛性においては2026年モデルVONOA仕様が最高値(1846 N/mm)を記録した一方、ALPINA仕様は2025年VONOA仕様より硬く、ENVEとほぼ同等(ALPINA版が1.2%高い)であった。
この結果は「空力のCarbolite、剛性のVONOA」というキャラクターの違いを定量的に裏付けるものである。
カーボンスポークの空力
カーボンスポークは一般にスチールのブレードスポークより太くなる傾向があり、素材がカーボンであるという理由だけで空力的に有利とは限らない。
現行の非接着カーボンスポークはスチールほど空力最適化されておらず、Scribe Cyclingの風洞テストでは「5mmのカーボンスポークはAlpinaのスチールスポーク(Ultralite Aero)より空力的に遅かった。
太いカーボンスポークが極細で空力最適化されたスチールスポークに空力で負けるケースが各社の風洞実験で確認されている。Carboliteがブレード幅3.10mmという細身の断面を採用しているのは、この「カーボンは太くなりがちで空力に不利」という構造的弱点への明確な対策と解釈できる。
VONOAの丸断面型(例:Ø3.5×2.2mm)やフラット型と比較して前面投影面積が小さく、これがSilverstone風洞テストにおける空力優位性の主因であると考えられる。

Alpina Carboliteの採用実績
Parcours Strade GT(英国)
Strade GTは、2025年末に発表されたParcours初のカーボンスポーク採用フラッグシップモデルである。Carbolite Aeroを前輪21本/後輪24本で使用し、リム高49/54mm、内幅23.5mm、フックド設計、チタンフリーハブで重量1,130gを実現している。
価格は£2,499/$3,299/€3,199(スチールベアリング版)から。スポークが切れてもフランジ内に保持される「キャプティブスポーク」設計の専用ハブを独自に開発した。
ノッティンガム・トレント大学と共同の実走試験(PSD解析)に基づくVibraCORE(再生カーボン)技術を搭載し、4〜12Hz帯でRMS振動エネルギーを23%、20〜50Hz帯で19%低減すると主張している。

Arrow Wheels CR1
ペア重量1,130gを達成したモデル。

SISLENT(スペイン)
Silverstone風洞テストの構成でCarboliteを採用している。同社はオリンピックチャンピオンGreg Van Avermaetのグラベルチーム(GVA Gold)をスポンサードしている。
いずれも小規模ブランドでの採用が中心であり、VONOAがNEWMEN、Reserve、Huntなどワールドツアーレベルを含む大規模な採用実績を持つのとは対照的である。Carboliteの市場浸透はこれからという段階にある。

価格と入手性
| 項目 | 価格/情報 |
|---|---|
| スポーク単体(Wheel-Parts) | 約€6/本 |
| 専用ニップル | 約€0.40/個 |
| 入手経路 | Alpina NL、Wheel-Parts |
| 必須条件 | T字ヘッド対応ハブ |
一般小売での入手は限定的であり、専用T字ヘッド対応ハブが必須という制約がある。
既存のスチールスポーク用ハブには使用できないため、スポーク単体での購入はホイールを一から組む前提となる。Parcours Strade GTやArrow CR1のような完成ホイールセットとして入手するのが最も現実的なルートである。

用途別
超軽量かつ快適性を重視するロードやグラベル用途で、専用ハブを含むシステムごと組める場合にはCarboliteが有力な選択肢となる。特に細身ブレードによる空力としなやかさや振動減衰を重視するライダーに適している。
一方、横剛性やスプリント時の直接的な反応を最優先する場合には、第三者データ上16.3%剛性が高いVONOA系(NEWMEN、Scope、Huntなど)の方が設計思想的に合致する。
自分でホイールを組む場合には、T字ヘッド対応ハブと適合リム(穴径Ø3.92mm、非テープレス)の確保、ねじれ厳禁で段階的なテンションアップの実施、約1.25mm/120kgfの伸びを見込んだスポーク長計算が必須となる。
まとめ:Alpinaカーボンスポークも黒子のままか
ALPINAカーボンスポークの情報は非常に少ない。
公式情報が一切無く、小売業者のWheel-PartsやホイールビルダーのSpokeCalc、採用ブランドの発表、およびSISLENTの風洞レポートが中心になっている。
何度も言うように、Alpina公式からのCarboliteに関する一次情報は極めて乏しい。カーボン製法、内製か外部調達かの別、チタン接合方式、引張強度/最大張力の定格はいずれも非公開のままだ。
だから逆に使ってみたい、というのもある。私のROVAL RAPIDE CLX IIIの交換スポークとして考えている。
なお、「カーボンスポークで最薄」「最も弾性が高い」といった表現はAlpina側の主張であり、第三者による実験で裏付けられたものではない点にも注意が必要だ。
SISLENTの独立した風洞試験や疲労試験のデータ上は魅力的なスポークだ。空力と耐久性の主張は使ってみたいと思わせてくれる。アフターマーケットでのスポーク単体および専用ハブの供給が広がればVONOAを凌ぐスポークとして採用が拡大されるかもしれない。
人柱になろうかな・・・。















