セルフディスカバリー in 王滝。文字通り自分探し、そして己の力のみで突き進むレースだ。今回は台風が近づいてきていることもあり、近年まれに見る豪雨に見舞われた。予想降水量は最大10mm近く、とても参加したいと思える天候ではなかった。そのためDNSする選手も多かった。
スマホの気象予報を横目に見ながら、レーススタート前に知るこのような天候条件も、「セルフディスカバリー in 王滝」に組み込まれたレースの一部なのだろう。「レースに出場する」という一つの参加資格を試されているようだ。とはいいつつも自己責任でレースに出るわけだから、安全が第一。
レースに出る出ないは各個人の采配に任される。脚力レベルや経験値も全選手異なるので参加可否については各個人が判断した結論がそれぞれ最適解だったのだろう。私も参加を悩んでいた。雨が一向に止まない中、御嶽山に礼をしてスタートするまでは「何が何でも出てやる」というコンコルド効果に近い心境だったのかもしれない。
しかしゴール間際100kmを目前にして、林に囲まれた長い下りを少しだけ上手く下っている自分に気づいた時、本当にスタートを切って良かったと心の底から思うのだ。その王滝100kmを振り返る。
SDA王滝の装備と持ち物
バイクはRINGOROADで最終メンテナンスをする。バイクはS-works epic wc 29er Sサイズにタイヤはmaxxis ikon。直前にフロントタイヤが気になり耐パンク効果が高まったikonに変更。全くパンクしなかった。次もmaxxis ikonで行くべ。サドルは急遽変えたs-works powerサドル。
ブレーキキャリパーの部分に見える赤いテープ。これは泥が降って積もらないように塞いでいる。シマノの放熱フィンの部分からジャリが入りダメージが増すらしい。少しでもメカトラをなくすために細心の注意を払う。なんでも初めてなので。
このS-WORKS EPIC WCはとても素晴らしい作りをしている。ダウンチューブにボトル2つとツール缶(SWATシステム)が収まるのだ。それでいてフルサス・・・。という設計しつくされた構造。通常のバイクであればボトルを取るのも面倒だが、このS-WORKS EPICはボトルも取りやすい。
あとは暴れ狂うチェーンステイにはRINGOROAD製チェーンガードを。
前日はかまださんにパスタを作っていただき夜にカーボローディング。二人前を食べて、風呂入って寝る。即行動のかまださんを見習わなくてはならないと思う。九時には就寝。朝は三時半起き。支度して現地へ。現地に行くとすでに大勢の選手がいる。雨でも辞めないのか。。
雨の中場所どりをしにいくが、場所どりの場所取りがあってなかなかカオス。とりあえず前列に並べた。来年そのあと一回車に戻る。補給に関してメモ。
王滝100km補給食
起床時はおにぎり2つ、バナナ一本。5:00にジェル、5:45にジェル。スタート前にカリウムがいっぱい入ったやつ飲んでスタートに並ぶ。オフロードの100kmって短いと思われがちだ。ロード乗りの距離換算だと、210km-250km相当と考えてもらえれば良いみたい。獲得標高は2500mな。ロードちゃうで、オフロードで。
ボトルは700mlを二本。雨なので足りなくなる心配はなかった。あとはパワーバーを9本トップチューブに貼り付ける。フラスコも欲しかったんだけど、私はどんくさいので落とさないように。素人は落としてしまったりするので貼り付けがいいかも。はじめはカフェインが入ったパワーバーを交互に。
にしてもチョコ味は硬いので飲みにくい。来年は使わないようにしよう。前半は45分おきにカフェイン系を飲む。後半は純粋にエネルギー系に変えた。それでエネルギー枯渇の心配はなかった。背中には何も背負わずこんな感じの装備で。気温的にもボトルは700ml2本でいけそう。
ドリンクは奮発してCCDにしとく。安いけど。そんな感じでスタート。
SDA王滝100km
今回は「SDA風雲たけし城in王滝」か「SDA EXTREME in 王滝」どちらかのネーミングが相応良い。
スタートはローリングスタート的な感じで入り口まで隊列を組んで進む。序盤から上り。しんどくはないがアップがてらコツコツ進む。前には二十人くらいいる。いい位置。
はじめの登りで遅れることはないが件は案の定へたくそ。どんどん抜かれる。でも自分のテクニック以上のことはできないのでマイペース。はじめの下りきったところで試練が。痛恨のリアタイヤパンク。この時、雨も強く、手もかじかみタイムロス。タイヤが固くてハマらない。
サイコンの停止時間は24分。こういう時は焦るわ。その時、通りがかりのライダーさんに「ブログの人ですか?」と言われたが世の中には多くのブロガーがいるものの、自分もブログを書いているのでハイと答える。とりあえず直して再スタート。マジで泣きそうになる。
そのあとの登りで多分20人以上は抜く。上りしかタイムを縮められないから気合と根性で走る。下りは上手い人についていくとめちゃくちゃ楽しかったわ。調子こいていると山頂のどこかでパンク。山頂の寒さとパンクともはや自然さえ四面楚歌。
ワンパン、ツーパンで最後は残り40キロを残して修理機材が底をつく。これ相当焦る。次パンクしたら通りすがりのライダーにもらうしかなくなってしまった。。サイコンの停止時間22分30秒・・・。もはや無事に家に帰れたらエエわと開き直る。山頂でカマヤン兄貴が通りかかる。
ここからは吹っ切れたのかスムーズに走ることが出来た。パンクもなくノートラブル。結局パンクで46分30秒ロスしていたが、王滝を楽しもうと登りを頑張り、下りを楽しむ。そうすると自然と雨が降っていることも忘れていた。タイムを競う競技として見たら、とても残念な状況だ。
しかし、このような逆境のときにどうするのか、どう考えるのか。このような極限状態の中のレースこそ自分自身の本性が出てくる。その自分に気づき、どう走るのか・・・。この状態、、まさに「セルフディスカバリー!!」とかレース中に考えつつ、残りの下りを楽しむ。
不思議な体験
レース後半、少し不思議な体験をした。
ゴールまでの長い下り道を走っている時、「ゴールが近いな」とふと思った。何かいつもは機能しない感のようなモノが働いていた。森の木が増え、人の気配が感じる。100km近く走る中で、動物としての感性が研ぎ澄まされ、次第に自然が発信する情報を高い精度で理解し始めていた。
あれほど降っていた雨の面影はジープロードの”わだち”にしか残っていなかった。気づけば視界も晴れてきている。
ふと気づくと、下りを楽しんでいる自分をトレイルの中で発見した。グリップを握る手はもはや力をなくしているけど、肩の力が抜けてバイクを操っている自分が居る。昔、体の一部のようにスキーの板を操っている、とまではいかないが、マシンの挙動を信用して、坂道を下る自分が居た。
まさにセルフディスカバリーである。最後の下りは秋のほうが楽しいという。あと2kmという看板を見て、少しづつ動物としての感性は薄れて行く。自然の中で走り続けた数時間、目の前には自然が作り出した世界しか無かった。人工的なサングラスのレンズを通して見る情報は、普段とはかけ離れた世界だった。
人が植え「造られた森」を抜け、人が通りやすい道に整備された場所を勢い良く下る。ふと人工的な残り距離を示す看板を見た時、人間の感覚が蘇っていった。ゴールした時なぜか人が寄ってきた事が理解できなかった。きっと人間に出会った動物たちもこんな気分なんだろう。
完走を称えることと、センサーを回収するという作業のためだった。なぜ人が大勢いるのか、大きなMCが流れているのかそれすら瞬時に理解できない。それほど頭のなかに人工的な情報が入ってくることを拒む。「やはり極限状態だったのだな」とスタート地点に戻りながらふと振り返った。体が冷えるのと同時に、頭も冷やされていた。
ぼんやりとしていた頭は我に返り、王滝100kmのレースはほんの数秒の出来事だったかのように、終わりを迎えてしまった。
来年へ向けて
マツケンさんは1パンしながらも脅威の優勝。車さんは3位。かまやんアニキはダートマラソン年代別優勝。とみんなすごい。私も頑張らんとあかんわ。今年はオフロード三年生。
使用したドリンクは700ml一本と半分だった。雨のため体力は奪われるものの喉の渇きは少なかった。このレースは天候によって装備が大きく異る。今回は雨のためドリンクの使用は少量だったが、もう少し天候が変わればハイドレーションも必要になってくるだろう。
今回、装備を最後に記しておきたい。100kmにも及ぶ過酷なレースで使った装備は少し変わっていた。昔、雪山に登っていた時をイメージして装備を考えた。サイクルジャージは着なかった。装備として考えた時サイクルジャージはバックポケット以外は何の機能も持たないウェアだからだ。
レースは体温の低下をさせないような装備を考えた。ベースレイヤー2枚使った。肌に触れるインナーは撥水レイヤーのファイントラックパワーメッシュ。沢下りにも使うドライレイヤーとして汗を排出し、外からの水を弾くというインナー。気化熱が一番厄介で、肌に触れる水を限界まで排出する1層目の役目をする。肌から水分をできるだけ離す。
2層目はモンベルのジオラインライトウェイト。そうLightweight。という話はともかく、間違いなく濡れるし、汗を書くので速乾性に定評のあるモンベルのジオラインを2層目にチョイス。確かにパンク復帰後の下りも少しの時間寒かったものの、汗冷えを短時間で抑え人間を守ってくれた。
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最後は高い浸透性と撥水性の「自転車用」モンベルスーパーストレッチサイクルレインジャケット。これ1万そこそこで買えるし雨天走るひとは一枚持っておいたほうが良い。いざという時、例えば雨の試走、レース会場での移動、雨の日の通勤とオススメ。
何よりゴアテックスのウェアと違って何倍も伸びるので、100kmのライドもストレスない。ペダリング中も「シャカシャカ音」も皆無。集中してライディング出来る。私はこの「音がならない」という点も重視している。常時パンツも履きっぱなしだった。タイムロスになるので。
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パンツはこちら。100kmオフロード走ってもスソのマジックは固定されたまま。優秀だった。というわけで自転車メーカーのウェアは今回使わず、きちんとしたアウトドアメーカーの装備で固める。唯一使ったのはVelotoze。これ一か八か使ったらめちゃくちゃ良かった。
トップ選手たちもレインシューズカバーを使っていたのでこれはアタリだった。王滝のように足をつかないレースの場合、Velotozeめちゃくちゃ活躍する。一切破れずに完走した。シューズの相性もあるだけど、個々まで密閉度高いレインシューズカバーは無い。
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あと、水がかかると一瞬冷たくなり濡れたと思うが、実はそんなことはなくドライのまま。雨天の王滝でVelotozeは活躍してくれることに気づく。何人か使っていたのでやはり事前に用意周到な選手は持ってきていたようだ。
以上、このいでたちでS-WORKS EPICに乗っていたひとは私です。
結局、記録上のタイムは6時間24分38秒だった。レース後車の中で「パンクがなければ、なければ」とタレラバの考え方をしていた。確かにパンクの停止時間46分程を差し引けば、実質走行時間は5時間37分程「だった」はずだ。しかしオフロードはパンクもレースの一部で結果的にそのタイムが「私のタイム」である。
「パンクするタイヤが悪いんじゃない。岩を見つけて避けるテクニックを付けないといけないんです」
と大阪に帰ってピシャリとRINGOROADのメカニックさんが言ったのが清々しい。テクニックが有れば岩を上手く避けて走れただろうし、パンクリスクを限界まで減らせたはずだ。パンクを2回したのは自分のテクニックが足りてなかったからだ。その反省を活かして、次回はさらにテクニックを磨いて走りたい。
次回は年代別表彰台目指す。来年の一つ目の目標は決まった。王滝は本当に辛いけど、本当に楽しいレースだった。帰りの車の中でも「楽しかった」としか思わなかったレースは初めてだ。王滝は「ヒルクライム+オフロード」的な要素がある。イナーメの森本さんが出場していたが登坂能力と、下りがある程度走れれば楽しめるコース。
レースが終わったあとも早くトレイルに入りたいと思う程、楽しめたセルフディスカバリー王滝であった。極限状態中で野生の勘を取り戻し、自分探しのアドベンチャーに出かけてみてはどうだろうか。ただ、今回はセルフディスカバリー”エクストリーム”王滝と名前が少し変わっていたような気がするが・・・。
来年またこのSDA王滝に戻ってくることにしよう。
王滝装備まとめ
- S-WORKS EPIC WC 29er S size
- ツール:S-WORKS SWATシステム
- Fタイヤ:MAXXIS IKON
- Rタイヤ:SCHWALBE ロケットロン
- コンポ:XTR M9000
- ペダル:TIME
- グリップ:ESIgrips
- ボトル:キャメルバック720ml x 2
- シューズカバー:VELOTOZE
- サイコン:パイオニアsgx-ca500(雨天でも余裕)
- パワーメーター:パイオニアXTR
ビブタイツ:REDWHITE THE RACE
メンテナンス:RINGOROAD