2016年10月11日追記:主力商品の「THE BIB」に加え「THE RACE」もインプレッションした。
海外の大手ニュースサイト「road.cc」というメディアがある。日本とは比べものにならないほど海外には数多くのサイクリストが居るわけだが、その中でも特に多くのユーザーから支持を集めているサイトだ。私もWEBで探し物をしていると、road.ccに投稿されたユーザーレビューを目にすることがある。
多くのサイクリストが注目するroad.ccにおいて、「Best cycling bib shorts: The road.cc People’s Choice verdict is in!」という企画があった。簡単な話「ユーザー投票でビブパンツのNo1を決めようではないか」という話である。ただこの投票では、ウェアの王様Assosがラインナップされていない。しかし、それはある意味良いことだ。なぜなら、盲信的にアソスを崇拝する信者は確かに多い。
また「ユーザーの投票で」という点にも価値がある。昨今のインプレ記事と言えば少なからず提灯記事が席巻している。本当は良くないのに売りたいが故、上手くごまかして短所を長所に見せる。まるで、企業の面接のように「短所を長所に見せる」というテクニックを駆使し記事を書かれている。
少し考えてみてほしい。我々エンドユーザーが常に知りたいのは真実であって、メーカーサイドの売り文句やテンプレにできそうな月並みの表現ではない。誰にでも受け入れられる内容ではなく、その人がどう思ったのかを知りたい。そんな一般サイクリストが投票した結果は驚くべき結果だった。まったく「得体のしれないビブパンツ」がダントツの票数を獲得したのだ。
そのパンツとは「REDWHITE」だ。私も全く知らなかった。もちろん日本でのプロモーションもゼロだ。その謎のビブパンツREDWHITEについて国内初インプレッションを記していきたい。驚くべきことにわずか「2種類のビブパンツ」しか製造していないビブパンツ専業メーカーなのである。
2016年10月11日に3000文字程追加。計1.2万文字をやや超えているため、ブクマ等適宜していただきたい。
元ダイソンのエンジニアが作ったREDWHITE
サイクリングウェアを展開する企業は、繊維メーカーや元プロが手がけている、というパターンは多く見受けられる。ただこのREDWHITEはやや毛色が違う。なんと、サイクロン掃除機で有名な元ダイソンのロボティック・エンジニアが立ち上げたブランドなのだ。ここまで聞くとますます不思議で、興味深いメーカであることがわかるだろう。
REDWHITEのプロダクトは2種類と少ない。話は逸れるが、我々はつくづくメーカーの広告やプロモーションに上手くコントロールされてしまっている。何と言っても、このひっそりと作られる興味深いビブパンツを知らなかったのだから。このビブパンツは「おばちゃん達」がハサミとミシンを使って、ハンドメイドで丹精込めて作っている。何とも粋ではないか。
実際に手にとって見ると気づくことがある。本当にハサミで一つ一つ切っていったと思われる「ややイビツな切れっ端」が見て取れる。よーくパッドの周りを見ると明らかに手作業で布を切っているのがわかる。メカニカルではない、どこかイビツだが「人の手が入っている」事を感じさせてくれる。
一つ私は今引っかかる文字を仕込んだ。「おばちゃん達」である。もちろん「おばちゃん」というキーワードで熟女ファンを獲得しようとなど毛頭思っていない。そのキーワードは「達」だ。実はこのビブパンツはかなり手の込んだ製造方法で一枚のビブパンツが生み出されている。
結果的にはそれらの「余計とも言える手間暇」のせいで同社のプロダクト数が少ないのではないか?と私は考えている。その余計な手間は嫌いではない。私もREDWHITEにインスパイアされ、「余計な手間」をかけて記事を起こし、紹介したい。さて、根本的なことだが「プロダクト数が少ない」といえばある企業が思い浮かんでこないだろうか。
少数の要素はプロダクトを先鋭化させる
私はプロダクト数が少ないことは、ある側面から見れば良いことだと思っている。ユーザーにわかりやすく1つ1つの製品を理解してもらえるからだ。例えばアップルコンピューターなんて企業はどうだろう。「アップルの製品、知ってる?」と聞けば「iPhone、macbook、えーとipadかな」とすらすら思い浮かべる。
(※もしかしたらApple Newtonと言い出す強者もいるかもしれない!)
それらは見せ方によるが、アップルは元々他社よりも圧倒的にプロダクト数が少ないのだ。その結果として一つの製品を先鋭化させ、際立たせる。しかし製品が少ないということは、それだけ企業としてのリスクも多く抱えることになる。企業の利益を支えるプロダクトを一部の主力製品に頼ってしまうと、一つコケると一斉に皆コケてしまう。
別の角度から見れば、先鋭化したプロダクトは諸刃の剣なのだ。ただしそのハイリスクな世界であるが故に、リターンとして生み出される賜物がある。それは「信者」だ。宗教的な話は割愛するが、信者とは何かを信じ崇拝する者たちのこと。別の角度から見ればあれや、これや、方針が変わる宗教などはあり得ない事を示している。
例えばアップルは競合他者と比べてもプロダクト数が少ない。では自転車関連でプロダクトが少ないといえば思いつくメーカーがある。そう「TIME」だ。まさに「TIME信者」なるものが居ることは周知の事実だろう。TIMEも主力フレーム数が3種類程と非常に少ない。
理由の一つとして、非常に手間のかかる独自の製法で一つ一つの「自社生産」されている。どれを買ってもTIMEなのだ。これはとても重要なことで、あるアメリカメーカーの下位グレードは台湾メーカーなんてことの方が多い(今のカーボンフレームは、ほとんどそうだ)。
また、スバルの自動車においても「スバリスト」なる者が居るが、あれも同じような話だろう。プロダクトが少なければ少ないほど、一つ一つが尖って見えてくる。これら小さく物事を始める大きな効果の話はピーターティールの書籍「ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか」でも書かれている。
PayPalの創業者メンバーでもあったピーターティールはYouTubeをはじめ、電気自動車のテスラ・モーターズとそうそうたる企業を立ち上げている。興味のある方は読んでみてほしい。
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話は戻り肝心のREDWHITEについてだ。同社も同じくプロダクトが少ない。わずか二種類でさらに「ビブパンツ専業」という潔さだ。むしろ心配になるほどに製品が少ないのだが・・・・、その裏側を次の章から見て行こう。
REDWHITEの数カ国をまたぐ物語
REDWHITEのビブパンツを身につける時に、それらが生まれた物語(ストーリー)と知識も身につけて欲しい。これほどまでに手間がかかったビブパンツは今まで聞いたことがなかったし、決して知らされていなかった事だ。
それらを順を追って見て行けば我々サイクリストは驚愕することだろう。「なぜ、そこまで作り込む必要あるのか?」という問いが自然に生まれてくる。しかしREDWHITEをこれから深く知り、そして使えば次第に問に対する答えも自然と理解して行くだろう。
まずは冒頭の地図を見て欲しい。色塗りされた場所がREDWHITEを作り上げる上でそれぞれ重要な役割分担を担っている。描かれた国を見て行くと、イタリア、ハンガリー、クロアチア、ルーマニアとある。国をまたがりREDWHITEビブパンツは最高の品質の素材で作り上げられるのだ。
言うなれば、まるで「世界各地の最高の食材で最高の料理を作り上げる」かのようである。
まず初めにイタリアから見ていこう。この国ではファブリック(生地)とシャモア(パッド部)が作り出される。なんとも贅沢な話だ。実際REDWHITEの核となる部分はシャモアである。これは後ほど紹介しよう。次は全体を覆うファブリックだ。一番体に触れる面積が多くシルエットや全体像に影響する。
もちろん高品質かつ上質な生地を使うことはサイクルウェアの至上命題である。ではどこのファブリックを使っているのだろうか。それはイタリアの「MITI」である。この名前はRapha好きなら(もちろん)一度は聞いたことがある企業だ。イタリアの老舗中の老舗Manifattura Italiana Tessuti Indemagliabili(MITI)である。
ファブリックはRaphaと同様にMITIから供給されている。というよりも行き着く先がイタリアのMITIなのだろう。1935年から続くイタリアの老舗は数多くの生地を生み出してきた。その根底にあるのは研究開発の繰り返しから得られる、揺るがない品質、そして信頼を武器に現在に至る。
ビブに使用される高級ライクラは、ハンガリーのMITIの工場で生まれる。このように分業しているのはそれぞれがそれぞれの役割に特化するためだ。一つの部材を極限まで高めることは、最終的に一つの作品を仕上げるために必要不可欠だ。「神は細部に宿る」という言葉の通り、細部こそ入念に仕上げ、妥協をしていない。
REDWHITEの目玉と言えば、プロダクトの核となるシャモアである。このパッドは私の大のお気に入りだ。詳しくは後ほどのインプレでお伝えしたい。このパットはイタリア人デザイナーの手によって生み出されている。そしてパッドはクロアチアで製造している。
パッド自体にも入念に製造が行われる。パッドとしての製品レベルに達しているか、その品質を保つ為に3度テストを繰り返えす。これらをパスした時に初めてREDWHITEのパッドとして世に送りだされるのだ。
これら膨大な手間暇をかけて細部の要素を作り出す。そしていよいよ一つの作品としてREDWHITEのパンツが出来上がる時が来る。最終仕上げはルーマニアで行われる。最後の仕上げはやはりハンドメイドで「おばちゃん達の職人芸」で作り上げる。
昨今のアパレルウェアといえば大量生産かつコストダウンが図られている。残念なのは作っている側(作業員)は何を作らされているか理解していない場合も多い。イタリア&ハンガリーのファブリック、クロアチアからシャモア、イタリアで蓄積されたビブパンツ、そしてパンツの専門知識を元に手間暇かけて一つの作品が生みされる。
ただ、これら一つの製品を生み出す物語にはもう少し続きがある。
REDWHITEの製造技術
Photo: REDWHITE
これだけの最高の素材と手間をかけて作られるビブパンツは、非常に興味がそそられるわけだがもう少し詳しく見ていきたい。REDWHITEは独自で開発したパッドを製造している。そのパッドには重要な4つの要素がある。ひとつ目はパッドの密度だ。
密度は実際にサドルとお尻の間に存在し、その様相をすべて決めてしまう重要な要素だ。密度が高ければ固く感じてしまうだろうし、密度が薄ければどこかヘタったパッドに感じてしまう。REDWHITEはこれら絶妙な密度を計算して作られているのだ。
二つ目は厚さだ。1mmがイイのか、2mmがいいのかはわからない。ただ厚さは密度と関係してくる。数多くのテストを繰り返し密度と、パッドの厚さの程よい関係を計算し作っている。次の3つめは製造方法だ。この要素はあまり多く紹介されていないが独特の製法で作られている。
Photo: REDWHITE
特種な金型と機械を用いてREDWHITEのパッドは作られていく。一度に2つづつ、丁寧にそして独自の計算しつくされた製法で至高のパッドが生まれていく。世間にあふれている通常のパッドの場合は、パッドを「積層」のように複数枚の布を重ね「接着剤」で接合している場合が多い。
しかしREDWHITEはひとつ先に行く。
一見立体的に見えるREDWHITEのパッドは「積層」を持っていない。要するにこれまでにない、モノコック構造という不思議なパッドなのだ。作り方は公開されていないが、大きなサーミック成形機(銅製の釜)で温度制御された熱を加えられ素材が融合し、一つのモノコック構造のパッドが生まれる。
Photo: REDWHITE
一見変哲のない立体的に見えるパッドは特種な製法で作られている。この平面に見えるパッドは実際にライクラに縫い付けられると様相を変える。REDWHITEは世間一般の「解剖学的なパッドではない」と明言している。昔ながらのシャモア(動物の毛を剥いで作ったあて布)のように最低限おしりに沿った形状をかたどっている。
結果的にこの形状がウケ、多くのライダーに支持されることになる。それが冒頭でお伝えした「Best cycling bib shorts: The road.cc People’s Choice verdict is in! 」である。とにかくパッドが良いのがウケて数多くのファンを獲得した。
話はまだ終わらない。畑違いのロボットエンジニアが研究を重ね作ったパッドはあの「The Times」紙に取り上げられることになる。英国の保守系高級紙で1785年創刊の世界最古の日刊新聞である。ただの自転車ウェアが掲載されることは少ない。それだけ独自の製法と今までにないやり方が認められたパンツなのだろう。
ではいよいよ実際に試した感想に移ろうと思う。初めはTHE BIBを紹介し、次にTHE RACEを紹介する。テスト期間は非常に長く1年半両方のビブタイツをテストしている。
REDWHITE THE BIBインプレッション
少し大げさかもしれないがREDWHITEはまるで「革張りのチェア」のようだ。と、ありきたりな表現からインプレッションを始めていきたい。もちろん雰囲気だけ文章でお伝えするとしたら、この表現がぴったりだと思う。もう少し身近な所で表現するなら、関西で言うとJRの電車の椅子ではなく、阪急電車の緑色の椅子だ(関西圏にしか伝わらない表現だ!)。
阪急電車のあの緑色の椅子は「アンゴラ山羊」という高級繊維として珍重されている高級素材を使っている。普段JRを使用する私も、あの阪急電車の椅子に座ると流石に違いが分かる。あの感覚がこのパッドには存在しているのだ。ただし、実際にビブタイツをはいた瞬間はわからない。
しかしサドルにまたがると世界が一変する。「これは自分のサドルの感覚ではないのでは?」という錯覚に陥る。そんな話の導入をまず終えた所で、今回のインプレッションを行った状況から説明していこう。
6000km乗り込む
私は普段の練習でロードを走るときも、里山にトレイルに入るときも、CXで練習に行くときもREDWHITEを使っている。嘘ではない。上の写真はMTBのXCで表彰台常連の某プロ選手達と走らせて頂いたときもREDWHITEを使った。
本インプレッションを書いている時点でおよそ6000kmを消費している。使用し始めたのは2015年の9月も終わりに近づいてきた頃から真冬のMTB、2016年の秋の王滝とかなりの長期間試した。初めは暑さが少しばかり残る時期だった。その頃はまだ早朝4:50に起きて朝練習が盛んに行われていた時期と重なる。
私はロード、MTB、シクロクロスとありとあらゆる条件で試した。まず感じたのは、REDWHITEが謳う最高の生地は、やや厚い。
ただ、保温性を保つために厚いのではなく、しっかりとした作りのために確保された厚みと言っていいだろう。肌触りはパールイズミというよりはRaphaのそれと同じ雰囲気を漂わせる。しかし、伸縮性はそこまではない。どこか堅牢性に富んだパンツという印象を持った。
サイズはSを選択。パールイズミはMを着ている。国産のワンサイズ下と考えて良いだろう。
一番驚いたのは「しっくりきた」ことだった。日本人の胴長短足(特に私は)でもしっかりと体にフィットしてくれる。よくある過渡期のメーカにありがちな「サイズわかってない」という感覚はむしろ皆無で、体によくフィットするパンツに仕上がっていた。
パッドはしっかりと厚く
初めにパンツ自体に感じた違和感があった。「パッドが分厚いな・・・」という事だ。もちろんパッドが同社のキモなわけだが、初めて使う人には違和感があるかもしれない。どちらかというと、レーシーなパンツというよりはロングライド向きなパッドという印象だ。
しかし、ロードやMTBで使って行くうちに、その見せる顔がみるみる変わって来る。
ある日REDWHITEのパンツを洗濯してしまい別のメーカーのパンツを履いた時のことだった。その時着用した瞬間に感じたことのない違和感があった。どのような違和感かと言えば「パッドがフィットしていない」という事だった。どこか臀部や、股下の部分に余計なスペースがある。
REDWHITEを着用していた時はどこか下半身全体を包み込むような感覚があった。パッドからビブまで1枚物のシームレスな感覚だ。特にパッドの位置は絶妙で、他のパッドよりも大きい。これは冒頭でお伝えした「包み込むようなパッド」が理解できた瞬間だった。
プロダクトの設計思想を人間の感性まで届かせるには相当大変な作業を要する。大々的な広告や情報操作のような「もしかしたら、そうかもしれないな」という納得の仕方ではなく、はいた瞬間に心地よさがある。ただ、それはREDWHITEで体験できる世界の入り口にしか過ぎない。
サドルを忘れさせてくれる
本パンツの本領発揮はライディングした時だ。いままで感じていたサドルの感覚は様変わりする。ほとんどサドルとの接点がなくなる感覚だ。それを「コンフォート」と見るかは人それぞれ判断が分かれるところだ。もしかしたらロングライドには最適かもしれないし、ツールド沖縄のような長距離レースでも活躍してくれそうな気がする。
初めはこのように「レース向きではないな」という印象だったが、よくよく考えてみると「レース向き」というパンツの定義を具体的に示すことは難しい。ただ、見る角度を変えればストレスなく、まるでパンツを履いていないかのようなフイット感を得られればレースでも使えるし何よりストレスがない。
私は初めはコンフォートすぎてすぐに使わなくなるかもと懸念していた。ところがロードやMTBで使ううちにこのパッドの良さに気づくことになる。ただ世間一般的に見てニュートラルな捉え方をすると、このパッドはロングライドやブルベを楽しむ人には打ってつけだ。
もしくは、お気に入りのサドルを使いたいがどうしてもお尻に痛みが出てしまう場合も有効と言えるだろう。ただし「パッドの厚みでサドル高さが変わるのが嫌だ」という神経質なサイクリストには合わない。実際はそこまで厚みはなく適度であると言えるがサドルの感覚がコレと定まっている人にはお勧めできない。
もうひとつ気になるのは「デザイン性に乏しい」事だ。もしかしたらラファやアソスを着ていたら「オシャレですね、良いもの使ってますね」というあなたの見栄を満たす言葉を投げかけてくれるかもしれない。しかし、REDWHITEを見てあなたが感じている「あ、元ダイソンの開発(略」と話しかけてくれる人はまずいないだろう。
ただ、それほど人とかぶることも無いわけだが履いているあなたには他の人が知り得ない体験をもたらしてくれる。私はこのパンツの良さは文章では伝わらないと明確に申し上げたい。それは、私の文才の足りなさもあるが、使わずして決してわからないことなのだ。
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“THE RACE”もう一つの物語
もう一つのREDWHITEの物語は漠然とした想いから始まる。
もしも世間の目を気にせずビブパンツをはくとしたら、どんなビブパンツを履くんだろう。サイクリストは「おしゃれ」にいつも気を使っている。人からどう見られるかだとか、自分の優越感のためにブランド物を身につけたりする。世間はそれが一つのステイタスだと認めているし、何より着ている本人が楽しい。
ただ、少しだけ想像して欲しい。
あなたは異国の地に一人で自転車の旅をすることになった。ただし持っていけるビブパンツはパッキングの都合上最小限の一枚、ジャージも一枚だ。雨の日も風の日もサドルとあなたの間にはビブパンツが存在している。その重要なつながりをわかつのはビブパンツだ。
頭を悩ませる基準は「快適性はソコソコだけどおしゃれなビブパンツ」なんだろうか。それとも「地味だけどどこまでも遠くに運んでくれそうな快適なビブパンツ」なんだろうか。私は6時間近い過酷なレースに出ようと決めた時、こんな想像をしていた。
使用レース:「過去最悪の天候 SDA王滝 100km から無事帰還。」
長丁場のレースでは当然ビブパンツを履き替えるなんてことは出来ない。当たり前のようでいてとても重要な事だ。一度はいたら「機材交換」なんてできない。だとしたら、選択するために明確な定義を用意しなくても「自分に合うかどうか」そこに着目すればいい。
そんなスタート地点から物事を見た時に、どんなビブパンツを選べばよいか思い悩んだ。ただ、いくらパソコンの前に座ってネットサーフィンをしてみたって答えは降ってくるはずもない。いつも我々は深く思い悩むが、「答え」はいつも実走の中にある。
ロードとオフロードの中で見つけた「答え」はビブパンツにとって少々過酷だったのかもしれない。オフロードでは、転んでも破けにくい頑丈さが求められる。そしてロードではかたいアスファルトの突き上げに”いなす”機能も欲しい。そして、長時間のライドでも疲れにくければ満点だ。
それでいてハードな日々の練習で繰り返し洗っても、何てことのない性能を発揮してほしい。そんなシチュエーションで何枚かビブパンツを使えば、それぞれに明らかな性能差が出てくるのも当然だ。この何回洗い、何回もロードやトレイルでハードに使うという行為は自然にビブパンツを淘汰する。
まるで、ステージレースで日に日に選手が減っていくかのように。繰り返し、繰り返しふるいにかけることで、条件に適合しないものはするりと編みを抜け、脱落していく。残った物が勝者となりそして生き残る。
でも決して強いものが生き残ったわけじゃない。ロードレースはいつもそうだ。かの有名なダーウィンは「強いものが生き残るわけではなく、環境に適応したものが生き残る」と言った(とされるが、後付なのは有名)。結局は「サイクリストという人間」に適合したパンツが生き残る。
その残ったのはビブパンツは「REDWHITE」だった。当ブログでは同一メーカーの別プロダクトを再掲する機会は少ない。ただ、このREDWHITEビブパンツには2種類のパンツが存在していてどうしても試したかった。
REDWHITE THE RACEインプレッション
先に結論を申し上げておきたい。自分で好んで使うとしたら「THE RACE」程、身体に合ってくれるパッドを私は知らない。asossやRaphaも所有しているが、淘汰され、やはり定番として使うのはREDWHITEである。THE BIBでも同様に紹介したが共通しているのは特殊なパッドである。確かに高性能であることは間違いないが、それよりも何より自分自身にとって最高に合うパッドだった。
誤解がないように記載しておくと、もちろんAssosやRaphaが悪いわけではない(というか悪いわけがない)。最高にクールだし、独自のスタイルをいつも貫いている。ただ、REDWHITEはとてもニッチなビブパンツだ。いままで一度たりとも人とかぶったことがない。サイクリストが多く生息する関西ですらだ。
人とかぶるという観点でいくと「人を意識したおしゃれ」であることは間違いない。ただ、自分の中に良い性能のパンツを身に着けているという安心感を得たいなら、私はREDWHITEビブパンツをおすすめする。という、ただそれだけのことだ。
このパッドの特徴であるディンプル加工はいわゆるヒートシンクの役目を果たしている。人間と接する表の層には厚さ4mm低密度フォームを用いている。そして2番目と3番目の層にはそれぞれ泡密度の異なる10mm厚と2.5mm厚の高密度泡層ポリウレタン・セルロイドストリップが使われている。
パッド内部にはジェルが充填されることにより、3つの異なる泡密度をもつフォームは積層されている。また、抗菌性ファブリックで包みこんでパッドの形を作り出す。特殊な熱成形機によって200°Cまで加熱され、完全に「一つのパッド」となるよう融着しているのだ。
これが「THE RACE」の正体だ。
REDWHITEの使い分け
ただ、THE BIBとTHE RACEをどのように使い分ければよいのだろうか。実際に双方のパッドを使い続けたどり着いた結論をご紹介したい。
体へのダメージを最小限に抑えたいなら迷わずTHE BIBだ。1日たっぷり遊ぶなら「THE BIB」、レースで限られた時間、長くても5時間程を走るのなら、「THE RACE」というように明確な使い分けを私は実践している。
その実際の使い心地はとても伝えにくい。あなたと私では、おしりの肉のつき方も違うし、サドルで座る位置も違う。私はSELLE SMP FORMAというパッドが1mmも入っていないレーシーなサドルを使っている。カーボンコンポジットの型の上に、丈夫な皮を貼り付けただけのハードなサドルだ。
だから、私が感じている使い心地をお伝えすることは非常に難しい。もう少し私に文才が有ればよいのだが、それには限界がある。ただ、一般的な車のシートで表現するとこうだ。
もしも車の座席で表現するとしたら、THE BIBは運転手付きのあなたを運ぶための車―――、少し大袈裟に言うならば、センチュリーの後部座席だ(残念ながら乗ったことはない!)。快適に人を遠くへ運ぶ為に作られた車の後部座席、そんなイメージを持っている。
対してTHE RACEはどうだろう。こちらはレーススペックなレカロ(こちらは何度か乗ったことがある!)。自分自身で最速を目指す中にも、一瞬の判断をミスらないそんな安定感を併せ持つ。そして長いレース時間の間、疲れずにその操作を続けられる。
ここで、双方に共通している重要な部分に気づいたのだ。それはどちらも座っていることを「意識していない」という点。何を?と言われれば「自分自身がビブパンツを履いている」という実感を意識することはない。
実は「意識してしまう」という事象は何かしらの「違和感」を感じていることが多い。例えば腰がいたい、おしりが痛い、左右差が有る、、、とあげたらきりがない。その中でもTHE BIBとTHE RACEは私の中に確かに現実世界に「実在している」のだが、私の中では「存在していない」。
自分に合わない枕を「意識」してしまうように、「意識」は無ければ無いほどよい。ライド中にいつの間にか消えてしまうビブパンツと言える。そして帰宅して、風呂場の脱衣場でビブパンツをぬぐ時に気づく事がる。
「あぁ、今ビブパンツを履いていたんだな」と。(※ただし本当にはかずにライドするのは危険だ!)
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注)なお、上記紹介書籍と本ビブパンツは全く関係ないが、「※ただし本当にはかずにライドするのは危険だ!」と書いたときにコレを思い出しただけだ。
履いていたことすら忘れてしまうほどに体と一体化する。脱いだ時は少し違和感があるかもしれない。そう、例えるならば重たいスキーブーツを一日はいて脱いだ時。いまだブーツを「はいている」かの様な感覚の「逆」を行く不思議なビブパンツなのだ。
そして、太ももにしっかりと張り付いていたスソ部分は、日焼けの跡が寸分狂わず付いていることに気づく。ようやくこの時にとてもズレにくいスソの構造だとわかる。このスソ部分は先般の「THE BIB」で説明したとおりだ。
もしもどちらか選べと言われれば、レースと練習で使う頻度を考えてみて欲しい。人それぞれレース回数は違うし、使用目的もまちまちだ。レースに絞り、長時間のレースなら間違いなく「THE RACE」。ブルベや普段使い、トライアスロン、はたまたシクロクロス、オフロードには「THE BIB」だ。
私は2種類を使い分けた結果、その結果に至ったのだ。
- THE BIB:ロングライド、普段使い、オフロード、オンロード、途中でおしりが痛くなる等、エンデューロ
- THE RACE:長時間のロードレース、競技色の強いエンデューロ、ヒルクライム、各種レース、王滝100km
理想は「THE BIB」と「THE RACE」の2種類を上記のように使い分けられれば一番良いだろう。
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まとめ: REDWHITEは確かに良い。
はじめはREDWHITEの期待はそこまで無かった。実際に無名のメーカであったしデザインもとびきりオシャレとは言えない。ただ、REDWHITEの設計思想や作られるまでの工程を知るうちにその考え方は覆されていく。恐らく今この記事を読まれている方も同じ感覚を持っていることだろう。
しかし、その感覚は私が持っていた事と同じように、実際に使い感じる以外に払拭できる手立てはない。ただ今回のインプレッションを元に一人、また一人とクチコミで広がっていく可能性があるビブパンツと言えるだろう。今はまだ着用している人は少ないし、2016年現在も各種雑誌にも取り上げられていない。
(※ようするに売るための広告を打っていない)
確かに人に自慢したり所有する満足度はもしかしたら低いかもしれな。しかし、このREDWHITEを履き体験できる経験はその当人(あなただけ)にしか出来ない事なのだ。ビブパンツを他人の目から見て良いと思われたいのか、それとも使用しライディング中の体験に価値を置くのかサイクリストそれぞれの価値観が分かれるところだ。
ただ、私はひとりでも多くの人にこのパンツの良さを知ってもらえたらと思う。海外で160$(およそ2万円)程だが国内でもひっそりと正規代理店があり税込み21600円で売られている。サイズが合わなければ返品可能だし、内外差を考えても国内で買うほうが賢い。
もしこのビブパンツを履いている人を見かけたら「あ、ダイソンの(略」と声をかけてみてその使用感を聞いてみて欲しい。そして出来ることなら着用して実際に試して欲しいと思う。過去に無機質なロボットを相手にしていた元エンジニアは今、人間の感性を揺さぶるビブパンツを生み出している。
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