ヒートテックでエベレスト登頂―――。世界で一番高い山と言われた時ヒマラヤ山脈の最高峰エベレストの名前が思い浮かぶ。大人から子供まで誰しもが知る有名な山である。そのエベレスト登頂の際に「ヒートテック」が使われたというのだ。参照元記事:「エベレストを登頂した南谷真鈴がヒートテックを選んだ理由。」
この記事はユニクロオフィシャルが公開したとあって、たちまち話題をさらった。そして、この話題と合わせ当ブログの記事「ヒートテックを山岳ガイドが使わない理由」への流入も増えたのだった。そう、面白いことにタイトルの関係性が「盾と矛」なのである。
- エベレストを登頂した南谷真鈴がヒートテックを選んだ理由
- ヒートテックを山岳ガイドが使わない理由
というように。一見相容れない両方の記事についてソーシャルでも議論され、私へ質問があったことは事実だ。南谷氏がエベレストへ登頂した際、ヒートテックを使用してことも紛れもない事実である。
ただ、今回の話の真相は「ヒートテックのさらに一枚下」に隠されていた。当然、「ヒートテック一丁」で登頂などとてもできない。私は今回ヒートテック以外に使用したインナーウェアに興味を持ち、装備について調べた。すると「ヒートテックと合わせて着用したベースレイヤー」の存在があったのだ。
そのヒートテックの下に着用したベースレイヤーは老舗山岳ウェアメーカーの「ミレ ドライナミック」だったのである。このミレのドライナミックが肌と直接接触しエベレストの厳しい環境下から人体を守ったのだ。今回は、まったく今まで一般向けには知られなかった「ミレ ドライナミック」を見ていこう。
南谷氏本人のFacebookに答えがあった
今回当ブログへの流入が多く見込まれたソースを見ていくと、とあるフェイスブックにたどり着いた。そのフェイスブックはこちらの「南谷氏のFacebook」だったのである。これは私としても本当に嬉しい!。というか大変光栄である(第三者の質問URLではあるものの)。しかし、疑問はやはり別のところにあった。
皆が日本の山や発汗量の多い条件下でヒートテックを使うには「乾きにくい」と感じているところ、世界最高峰のエベレストで使えるのかという疑問である。そして速乾性は改善されたのかという話である。私は過去にヒートテック極暖の乾きにくさを簡易的に実験し、「綿よりも乾きにくい」というデーターを得ている。
ただ、この質問に追い打ちをかけてるように登山家たちが同じく質問を繰り返した。そこでヒートテックの速乾性の問題を解決するソリューションとして南谷氏が紹介していたのが「ミレ ドライナミック」だったのである。
ユニクロの紹介ページからは確認できないが(当然他社は紹介しないのが普通)南谷氏がヒートテックの下に着用していたのがミレ ドライナミックというベースレイヤーだ。アウトドアを嗜む方たちはミレの名前を聞いたところがあるだろう。そしてこのドライナミックは通称「くさりかたびら」として登山家たちに親しまれているものだ。
この老舗アウトドアメーカーミレのドライナミックを一番肌に近い部分に着用して、その上にヒートテックを着ていたというのが、今回ユニクロ公式ページエベレストを登頂した南谷真鈴がヒートテックを選んだ理由。」から読み取れなかったエベレスト登頂への「装備」だったのである。
当然ユニクロの公式ページに「ミレを下に着て」と書くわけにはいかない。それは大人の事情である。その上でもう一方のスポンサー(であると思われる)ミレのベースレイヤーをうまく紹介した南谷氏はアンバサダーとして非常に良い仕事をしていると感嘆する。
私も現役時代、国内のウェアメーカーとフランスの板メーカーからアンバサダー(当時はオピニオンと呼ばれた)として供給を受けていた。機材供給を受けているなら、良さを伝えるのはアンバサダーの義務だ。合わせて私も山好きとしてこのエベレスト登頂は本当にすごいと思う。簡単には成し遂げられない。そして、この今回のユニクロのスポンサー記事と同じように、1991年頃にも同様の広告が存在していた。
群馬県山岳連盟エベレスト登山隊
いまから25年前の1991年のこの画像を懐かしむ人がもしかしたら居るかもしれない。同じく、世界最高峰のエベレストをバックに「ステテコと肌着姿」の屈強な漢達が腕組みをしている。これは群馬県山岳連盟エベレスト登山隊メンバーだ。エベレストへの登頂には莫大な資金が必要となるが、インナーウェア(当時は肌着と呼ばれた)を提供したスポンサーへのお礼として撮影された。
この「エベレストと肌着一丁」のインパクトから当時とてつもない宣伝効果が得られた。当時エベレストを登る際にかかった費用は、旅費や装備費などで数千万ほど要したという。もちろん装備や資金はスポンサーが頼りになる。ただ「エベレスト登頂に使用した装備」として使えるのであればプロモーション効果が見込まれることなど火を見るよりも明らかだ。
インナーウェアメーカーがただ指をくわえて見ているわけがない。
今回、南谷氏がエベレスト登頂の際に要した費用は明らかになっていないが当然数百万〜はくだらないだろう。学生ということもあり、容易なのは親の援助(実際は受けていないとのこと)、スポンサーからの支援が無ければ当然エベレストなど到底到達できない。もちろん一人で登るわけには行かず、パーティーを組んでサポートが必ず必要になってくる。
その夢の実現のためにユニクロのヒートテック一枚着ることにより実現できるとあればこれほど良い話はないだろう。まさに「プロ」である。正直エベレストに登るほど山を知っているのなら全部ミレの装備で行きたかったはずだとは思うが。いや、少し考えてみると次のような見方もできる。
逆説的に捉えるならば、今回のエベレスト登頂を支えたミレ ドライナミックインナーウェアは、山の装備においてあまり好まれていないヒートテックを「エベレストでも使えるようにしてしまう」脅威の性能なのではないか?。というわけで謎に包まれたミレドライナミックを見ていこう。
ミレ ドライナミック
まずこの動画がまじシビレルから見てくれ。
エベレスト登頂時、ヒートテックの下に着ていたミレ ドライナミックとはどのような製品なのだろうか。まずミレ ドライナミックが念頭に置いている重要な機能はたった一つだ。
体力を奪う汗冷えを防ぐ ミレ・ドライナミック
ミレは老舗山岳メーカーである。汗冷えで命を危険に晒すことなど言わずともわかっている。このミレ ドライナミックは独自の「網シャツ」構造で高い通気性と疎水性に優れ、熱伝導率の低いポリプロピレンを主体構成されている。それが「ミレ ドライナミック」の正体だ。
このミレ ドライナミックは体に隙間を作らず、ぴったりとフィットしている特性から、このドライナミックの上にさらに吸汗速乾ベースレイヤーを着ることを想定している。ファイントラックというメーカーがレイヤリングを提唱しているが、ミレ ドライナミックはレイヤー0に相当するドライレイヤーだ。
続いてかいた汗は即座に上のレイヤー(今回はヒートテック)に吸い上げられ拡散する(ヒートテック極暖の乾きが遅い話は別として)。これはレイヤー1として位置づけられ汗を吸ったベースレイヤーをメッシュの厚みが肌から離すことで、汗冷えや低体温症のリスクを軽減するのだ。
すごいぞ、ミレ ドライナミック。
この「合わせ技」でメッシュの通気性によって汗を吸ったベースレイヤーも乾く。そして人体に「快適なドライ感」を得ることができる。このミレ ドライナミックの製法は特殊で縫い目が殆ど無い一枚物である。これは一体成型のホールガーメント製法と呼ばれ、伸縮性が高く、さらに高いフィット感を実現している。ミレ ドライナミックはいままでにない全く新しいアンダーウェアなのだ。
まとめ:私達がいつかエベレスト行く時に
山岳で一番気をつけなくてはならない大事な事は、汗冷えで低体温症になることだ。これは今回のエベレストを登頂した南谷真鈴がヒートテックを選んだ理由。」のプロモーションで各SNS上で指摘されている。
最年少エベレスト登頂の南谷真鈴さんがご自身のFBで「ヒートテック着てエベレストに登頂した」と宣伝しておられますが、実際は南谷さんはベースレイヤーにミレーの高性能ウェアを着ておられています。ヒートテックだけで冬山に行けるんだと真に受ける人が出ないことを祈る。コレ命に関わるので。
— 油屋藤兵衛 (@bieken2013) 2016年10月31日
ただ、一番肌に近い部分にミレ ドライナミックという非常に高性能なインナーウェアを着用することによりヒートテックでもエベレスト登頂することが証明された。この今回のユニクロのプロモーションで一番喜んでいるのはもしかしたら山岳メーカーのミレかもしれない。
私達がいつかエベレストに行く機会があるかもしれないが(←!?)、その時に是非ミレ ドライナミックとこの記事を思い出してくれたら幸いだ。ただ、何度も言うが山の装備としてヒートテックをレイヤー0として着るのだけは避けたほうが良いと変わらずお伝えしておきたい。
なおミレのドライナミックは女性用から男性用と幅広くラインナップしている。値段も手頃でモンベルのジオラインほどだ。アマゾンで手軽に買えるので「ミレ ドライナミック製品一覧」から確認してほしい。
関連記事