指一本で、自転車を制動する。
人間の力だけでは到底無理なこの芸当を、ディスクブレーキシステムはいとも簡単に成し遂げる。運動体、特にホイールの運動力を急激に抑え止め、速力を落としブレーキをかける。指で引いた力の何倍もの力を生み出し、物体を制止させるのだ。
ディスクブレーキシステムはいかにして動作し物体を制止させているのか。この疑問に答える書籍がある。『ディスクブレーキ解剖学』だ。
現役の機械系技術者が書き下ろした本書は、油圧ブレーキシステムの作動原理から構造、ブレーキレバーを握って車輪が制動するときブレーキシステム内部で「何」が起こっているのかを順を追って解説している。
解剖で”内造”を
「解剖学」と銘打っているとおり、実物のパーツを切断し普段見ることができない内部構造を交えながら解説が進んでいく。ディスクブレーキシステムの内部で何が起こっているのかを理解していくことで、これまで漠然だったディスクブレーキの動作イメージがより具体的になっていく。
本書は、大きく4つの章から構成されている。
- ディスクブレーキの基本
- 油圧ディスクブレーキの構造
- メンテナンスのポイント
- 油圧ディスクブレーキレビュー
「ディスクブレーキの基本」では、機械技術者とスクール水着も着こなすサイクリスト2つの観点から特徴が述べられていく。ディスクブレーキの特徴を解説しながらも、リムブレーキの限界という不都合な真実も知ることができる内容だ。
この章を読めば、リムブレーキのほうがブレーキシステムとして優れているとは、到底言えなくなるだろう。
動作原理と構造
「油圧ディスクブレーキの構造」では、パスカルの法則など物理的な法則を紹介しつつ、作動原理や構造について解説が行われている。機械技術者である川村氏の本領が発揮される章だ。数式も登場するため難解ではあるものの、原理原則を理解するために知っておくべき内容で構成されている。
「メンテナンスのポイント」では、ブレーキシステムの構造をふまえた整備内容についてまとめられている。ただ単に綺麗に掃除するだけでなく、「ディスクブレーキシステムの性能を発揮させる」という本質的な整備内容だ。
川村氏自身が現役の自転車選手であるため、様々なレースコンディションでディスクブレーキシステムを使っている。そこで得られた整備のノウハウは、他の書籍では知ることができないだろう。
決して難しい事ばかりではなく、ディスクロードに乗り始めたサイクリストにも有益な情報が随所にまとめられている。
ローターの摩耗確認の疑問
わたし自身、長年の疑問だったのが「ディスクローターの摩耗具合をノギスで厚みを測る」という確認方法は、誤ったやり方ではないのかとずっと悩み考えていた。この「ノギスで厚みを測る」という摩耗確認方法の真相も本書で「解剖」されている。
川村氏は摩耗したディスクローターの断面図を用いることで、
「ディスクローターの摩耗はノギスでは測れない」
ことを可視化し、明らかにした。なぜ、ノギスで摩耗量を測れないのか。では、どうやって摩耗量を測ればよいのか。その疑問に対して、本書は具体的なツールを用いた明快な答えを出している。
「油圧ディスクブレーキ レビュー」はシマノ社製の油圧ディスクブレーキシステムのレビューがまとめられている。ディスクブレーキシステム黎明期の話や、現代の進化したシステムに関して解説が行われている。
まとめ
本書が解説しているブレーキシステムの動作原理を知らなくとも、自転車のブレーキをかけることができる。しかし、知らなければこれからもずっと、色彩のないブラックボックスのままになるだろう。
そのとき『ディスクブレーキ解剖学』が手元にあれば、あなたの指一本から始まるブレーキの物語は、より鮮やかに彩られていく。
書籍はAmazonでkindleでも読めるのだが、ぜひ本人にコンタクトをとって物理本を購入することを強くおすすめします。
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新刊の紹介記事を書きました。ロードバイクの油圧ディスクブレーキをぶった切ります(物理)
ミトコングッズもあるよ pic.twitter.com/Ia0YsNFAfx— すくみずさん (@skmzmw) August 3, 2024