シクロクロス用のタイヤをこれまでいくつか試してきた。しかし、今だに「これだ!」というタイヤには出会っていない。この記事を書いている今も、タイヤに悩んでいる。しかし、様々なタイヤを使っていくうちに、自分にあう、あわないタイヤがぼんやりとみえてきた。
そのうちのひとつが、今回紹介するIRC SERACシリーズだ。
初代SERACは2013年にチューブレスタイヤとして登場した。そして、2021年にチューブレスレディタイヤとして2世代目としてブラッシュアップされた。軽量化、フックレス対応、チューブレスレディ化と、現代のタイヤに求められる要素をふんだんに盛り込んだ。
筆者自身、これまでさまざまなブランドのシクロクロスタイヤを使ってきた。記憶をたよりにざっと列挙すると、以下のメーカーとモデルを使ってきた。
- Dugast (TU)
- FMB (TU)
- Challenge (TU & TLR & HTLR)
- TUFO (TU & TL)
- MICHELIN (TU & TLR)
- VITTORIA (TU & TLR)
- SPECIALIZED (TU & TLR)
- ドネリー (TLR)
- MAXXIS (TLR)
- Panaracer (TLR)
- PIRELLI (TLR)
- IRC (TLR)
もちろん、すべてのモデルを使ったわけではない。しかし、レースや練習でテストをおこなって、おおよその傾向をつかんだつもりだ。シクロクロスのタイヤもロード用の機材と同じく、使えるのものをすべて使って、自分にあうあわないを判断するほかない。
一見すると遠回りのように見えるが、相対的に機材の良しあしがわかってくる。
今回の記事は、シクロクロッサー万人におすすめできる2世代目のIRC SERACについて、3種類すべて購入し練習からレースまで投入した結果をまとめた。
IRC SERAC CX
SERAC CXは2013年にチューブレス(シーラントが不要)タイヤとして発売した。当時のシクロクロスタイヤといえば、チューブラータイヤと少数のクリンチャータイヤが主流であったが、タイヤ製造の技術向上によってロード用チューブレスタイヤもちらほら出始めた時期だった。
2012年ごろに、筆者自身もHutchinsonのチューブレスタイヤを導入し難儀した思い出がある。初代SERAC CXは、国内のシクロクロスシーンでたちまち人気が出た。おそらく、シクロクロス用のチューブレスタイヤで最も高いシェアを獲得していたように思う。
あれから、8年が経過しチューブレスレディ(TLR)タイヤとして生まれ変わった。TLからTLRに変更した理由について、2021年の発売当時、全日本選手権の会場でIRCのブースの方に伺ったところ、次のような回答をいただいた。
- TLでもシーラントを入れる選手が多かった
- 軽量化
- しなやかさの向上
他にもさまざまな理由があり、無印のモデルのノブパターンを変更することを検討していたことなど、様々な検討の末に、2世代目のSERACが誕生したようだ。初代はSANDがラインナップされており4種類だった。しかし、2世代目はEDGEに統合され3種類の展開になっている。
SANDを使ってC1トップで走れるチューブレスタイヤ運用の国内のライダーは、斎藤選手か前田公平選手ぐらいしか思い浮かばない。
海外勢であれば、IRCから機材スポンサーを受けてるアンソニー・クラーク選手(SquidSquad)がIRC SERACを使用している。2018年に来日したときのRaphaスーパークロス野辺山において、高めに空気圧を設定した場合の空気圧は前1.68 bar / 後1.75bar(60.8kg)だった。
IRC SERACはトップレベルでも(弘法筆を選ばず、ではあるものの)通用する(いや、トップ選手が使えばそりゃ速い)数少ないチューブレスレディタイヤだ。その点をふまえ、実際に2世代目のSERACを使用したレビューを次章から記していく。
転がり抵抗の低減
前作のSERACと比べると、ころがり抵抗が格段に軽減されている。IRCのブースにお邪魔したときに伺ったところ、前作比で数%もころがり抵抗が減ったという。土浦会場において、実際にノートPCに保管されているというデータを見せてもらおうとしたが、見つからず見せてもらえなかった。
チューブレスの場合は、空気を逃さないように余分な空気を保持する材料が追加される場合がある。チューブレスレディの場合は、シーラントが微細な隙間を塞いでくれるためシール材料が少なくて済む。2世代目のSERACは、ほとんどチューブレスと変わらないエアの保持力があるという。
実際に、シーラント無しで取り付けて空気の減りを実験したところ、1日経っても空気の抜けはほとんどなかった。ただ、面白いのは実際に走ると空気が多く抜けてしまった。したがってシーラントを30mlほど入れた。なお、別の章で紹介するがシーラントは粘度が低いスタンズの標準バージョンを使用している。
ころがり抵抗の話に戻ろう。チューブレスレディ化で材料が減ったことにより、ヒステリシスロス(タイヤが変形することで生じる抵抗)が減った。X-GUARDはパンク耐性を上げるため、強い材料を使用している。引き換えにころがり抵抗がましている。
耐パンク性能ところがり性能はトレードオフの関係にあるが、転がりを優先させる場合はノーマルのSERACが良い。
実際に使ってみると、SERACはチューブラー(DugastやFMB)よりも転がりが良い。今まで使ってきたチューブラー、チューブレスタイヤの中で最も転がりが小さいと感じたタイヤだ。ただし、ノブのパターンで転がりは大きく異なる。
私は基本的にEDGE(Pipisquallo、SPRINT、シケインと同じタイプ)を使用しているため、他のモデルであればもう少し抵抗は増すだろう。
グリップ感
グリップ感に関しては、タイヤの性能も関係はしている。しかし、最も影響が大きいのはタイヤの種類(チューブラーやチューブレス)構造だ。滑り出すまでの挙動が読みやすいのは、最後まで粘るチューブラーだ。ついでHTLR、次に各社のTLRという順と続く。
各タイヤの滑り出すまでのイメージを言語化すると以下のようになる。
- チューブラー:モゾモゾ、ズ、ズズズズズーッ・・・
- HTLR:モゾ、ズズズーッ
- TLR:ズ→すってーん
SERACの2世代目は、HTLRに近く「ズズズーッ」という滑り出しかたをする。私のテクニック不足もあったが、初代は「ズ→すってーん」という体制を立て直す余裕すらないまま一気にスリップダウンシてしまうことが多々あった。
2世代目は、やや粘るようになったもののチューブラーの領域にはまだ達していない。ただ、前作よりはチューブラーに近づいたことは確かだ。しかし、タイヤの根本的な構造の違いによる、「越えられない壁」が「チューブレスタイヤ」である限り永遠に存在している。
2世代目のSERACをひいき目によく言ったとすると、現段階でチューブレスタイヤで引き出せる最大のグリップ感に到達している、というレベルだ。
低圧運用
低圧運用は2世代目ではあまり有効ではないと感じた。むしろ、初代よりも0.3前後ほど高めに空気を入れる必要がある。初代のX-GUARDの場合はフロント空気圧を1.13bar、リア空気圧を1.15barで運用ができたが、2世代目のノーマルタイプは1.68bar、1.75barで運用している。
低圧運用は、チューブラータイヤかつ、FMBやDugastのタイヤで行うのが望ましい。Challengeのチューブラータイヤの場合であってもDugastやFMBと同じような空気圧設定にならない。IRC SERAC の2世代目はやや高め、+0.4barぐらいから減圧していくほうが良いと感じた。
2世代目の低圧運用は、まったくおすすめできない。
耐久性
3レースも走ると、結構ぼろぼろになる。サイドのロゴはほとんど見えなくなってくるほどだ。パンク耐性はそこまで期待できるものではなく、どちらかといえばノーマルタイプは速く走ることを優先している。対してX-GUARDはパンク耐性が高い割に軽くなった。
初心者でテクニックがそこまでない場合を考えると、X-GUARDでも良いだろう。耐久性に関してはあまり期待できるものではなく、1シーズン(10レース前後)でタイヤ交換の時期が来そうな気もしている。
特に、シクロクロスではSERACにかぎらずタイヤ自体をサイドカットすることが多い。代車がない場合は、X-GUARDを選択することが合理的な判断かもしれない。
取り付け
取り付けは、6本中6本一発でビードが上がった。ただし、リムにタイヤをはめ込むときの難易度はSSS級で、リムの経に対してキツキツ設計されており「これ、設計間違えてるんちゃうか」と思うほどだ。それゆえ、取り付けたあとの空気の漏れは少ないと思って頑張って取り付ける必要がある。
ビード上げについては、石鹸水が必須だ。私は、中性洗剤を薄めた液体を霧吹きに入れてこれでもかというくらい吹きかけてから、ジョーブローブースターでビード上げをしている。
シーラント量
シーラント量は最低でも20ml入れておく必要がある。実験したところ、シーラントがなくても空気は抜けないが、保険のため入れておくほうが良いだろう。もし可能であれば30mlほど入れておいてもいい。
なお、少量の場合は粘度が高いMuc-OFF系よりも、粘度が低いスタンダードなNotubeのシーラントの方が良い。少量でもシーラントの広がりも速い。SERACには少量のシーラントで良いため、迷ったら老舗のNotubeにしておこう。
¥940
タイヤ選び
SERACには3種類のノブパターンのラインアップがある。オールラウンドな「CX」、センタースリックとサイドノブが組み合わさった「EDGE」、マッドコンディションでパドル効果のある「MUD」だ。どのモデルも、コンディションによって使い分ける必要がある。
- CX:オールラウンド
- EDGE:スピードコース
- MUD:ドロ
基本的には、CXとMUDの2種類を用意しておけばよい。ただ、筆者自身が最も使用しているのはEDGEだ。というのも、勝手にリスペクトしているGIANTの斎藤朋寛選手が使っていたので、2022シーズンに使ってみたところ、本当に調子いい。
もみじMM40優勝、関西CXは6位、9位、8位、琵琶湖グランプリMM 2位と今年は自分でも信じられないくらいリザルトが良い(過去の自分比)。なお、EDGEについては、詳しく触れるが実は全くおすすめしない。
CX
SERAC CXのノーマルタイプは初代から変わらずL時のノブが並んでいる。サイドノブはわりと少なく、センターにL字型のノブが多数配置されている。直進性能は3種類のうち中間的な存在で、スリックタイヤのEDGEよりも劣るが、十分な走りの軽さがある。
他社モデルでいうところの、オールラウンドなミックスパターンであり、最も汎用的に使用できるパターンだ。何かタイヤをおすすめするとすれば、SERAC CXを迷いなく選ぶ。リア側に使用する場合は、指定の進行方向とは逆につけることをおすすめしている。
しかし、実際に使ってみると、リア側が予想以上に走りが重くなるため、順方向で前後取り付けた方がいい。
SERAC CXのノブパターンは外側に行くほど減ってくる。実際にはEDGEのほうがサイドノブが多く、かつ密集している。走りの軽さを選ぶなら、フロントにSERAC CXでリアにEDGEセッティングもテクニックが上がれば良い選択になると思う。
このタイヤを使ったレースは以下を参照してください。
EDGE
扱うのが非常に難しく、挑戦的なタイヤがEDGEだ。
練習で挙動を身体に叩き込まないとレースで使えない。GIANTの斎藤選手が愛用しているが・・・、MTBの元プロ斎藤選手のテクニックは説明する必要もない(スイスの世界選手権にもU23日本代表、ワールドカップシドニー大会で日本人1位で完走。シドニー五輪選考会4大会のうち1大会で優勝、アジア選手権で2位。)以上。
という、使えば恐ろしく速いけど、使いこなせなければ遅いタイヤがEDGEだ。私はどうしても使いこなしたくて、1.5か月ほどタイヤの挙動を身体に叩き込んだ。そのかいあってか、なんとか扱えるようになっている(と自分では思っている)。
2022年のシーズンは全戦EDGEで走っている。
直線が速く、キャンバー区間でもサイドノブが食いつく。問題は直登する登りで、勢いをつけないとリアが滑ってしまいスリップダウンしてしまう。使い所が難しく、直線や舗装路といった区間ではその性能が光るかもしれないが、コーナーリング中にうまくタイヤに圧をかけられないと怖いと感じてしまうかもしれない。
まったくおすすめできないが、EDGEを使えるようになると速さと、高い巡航スピードを手に入れられる。
このタイヤを使ったレースは以下を参照してください。
MUD
MUDはドロが深く、スリッピーな状況で使えるタイヤだ。独特の形状は、パドルのようにドロを掻き出してくれる。マッド路面や積雪路面で確実にトラクションがかかり、同時にサイドグリップも得られる設計が施されている。タイヤに荷重をかけてグリップを重視する場合に使用する。
使用するシチュエーションは少ないが、いざというときに1本だけ前輪だけでも用意しておくと安心だ。特にサイドノブやセンターノブはSERACシリーズにおいて最も背が高い。
まとめ:ハズレのないシクロクロスの定番TLRタイヤ
チューブレスタイヤはどんなに性能が良くなったとしても、チューブラータイヤの構造を越えることはできない。ただ、2世代目のIRC SERACはチューブレスレディタイヤの限界まで性能が高められた優れたタイヤだと感じた。
実際に、使ってみると転がり抵抗はチューブラーよりも優れており、直進での進み方はこれまで使ってきたタイヤの中で最も優れていると言っていい。
あとは、ノブパターンが悩みどころだ。1つの方法としては2セットホイールを用意して条件に合わせて使い分けるという使い方が好ましい。おすすめのパターンは以下のとおりだ。
- フロント1:CX
- フロント2:MUD
- リア1:CX
- リア2:EDGE
この組み合わせは数多くのシチュエーションに対応してくれるはずだ。たとえば以下の使い方が考えられる
- 標準的なコース:CX & CX
- 平坦メインのコース:CX & EDGE
- ややスリッピーなコース:MUD & CX
おそらく、この3つの組み合わせである程度のコースを攻略できるはずだ。ヌタヌタのマッドコンディションにはやや向いていないが、そのようなシチュエーションはシーズンを通して1回~2回ほどしかないと(思いたい)のでMUDをフロントに組み合わせて走ればよい。
また、価格もチューブラータイヤと比べると半額以下だ。毎年買い替えても良いと思えるほどだ。日本製であるため国内での入手性も高い。使用しているライダーも多いことから、レース現場でもノウハウを聞ける機会も多い。
これまでシクロクロスのタイヤに悩んでいる方、何を選んでいいのかわからない方にはIRC SERAC CXをおすすめしたい。それほど、汎用的であり、無難であり、万人受けするタイヤだ。