重量から想像できない軽い走りをするホイール。
HUNTの44 AERODYNAMICISTを使って真っ先に思ったことだ。
メーカー公表重量の1,466gは、最近のミドルハイトのホイールにしてはやや重めだ。しかし、これまで使ってきたミドルハイトのホイールと比べても、重量やリムハイトからは想像できないほど軽い走りをするホイールに仕上がっている。
今までリムハイト50~60mmのホイールを好んで使ってきたが、登りやアップダウンが多いコースで走る機会が増えてきたため、走れば走るほどリムハイトが低いホイールに変えて走りたいと思っていた。
ミドルハイトの45mm前後で、できるだけスポーク本数が少ないホイールを探していたところ、フロント20本、リア24本のHUNT 44 AERODYNAMICIST(エアロダイナミシスト:空気力学者)を試す機会を得た。
特に、登りの軽さと左右に振った時のバランスが良い。バイクを左右に動かしたり、コーナーを始めるときも挙動が読みやすい。今回はHUNT 44 AERODYNAMICISTを試した。登りや下り、巡行などを多角的にレビューしていく。
リムプロファイル
44 AERODYNAMICISTのリムは、上位モデルの48リミットレスエアロで採用されている「AERODYNAMICISTリムプロファイル」を踏襲している。ミドルハイトかつ軽量なオールラウンド向けに設計されており、HUNTの空力エンジニアが独自に設計した。
リムの設計はCFD解析と風洞実験によって導き出されたシェイプだ。空気抵抗を低減し横風を受け流すワイドなリムプロファイルになっている。リム内側を太めにすることで、空気がリムに沿うように通過するため乱流が発生しにくくなっている。
リムの空力性能は25-28cのタイヤに最適化されている。リムの素材は3KユニディレクショナルT700/800カーボンファイバーだ。スポークホール部分を中心に、積層を厚めにする補強が施されている。
- リムハイト:44mm
- リム外幅:29mm
- リム内幅:20mm
HUNT独自のRIM BED H_LOCKは、チューブレスタイヤに対応したリムベッドプロファイルだ。リムのショルダー部分に「小さな丘」がある。別名リムバンプとも呼ばれるこの丘によってビードがしっかり固定される。タイヤを低圧運用で使用する場合に特に重要な仕組みだ。
HUNTによると、タイヤとリムの互換性を最大限に高めるためリムフック付きにこだわっているという。23mmから50mmまでのタイヤに対応するが、空力は25-28mmのタイヤに最適化されている。
このリムは、女子ツール・ド・フランスの起伏の多いステージでHUNTからサポートを受けている選手達が使用した。
重量
メーカー公表重量は1,466gだ。実測は少し軽く1,452gに仕上がっている。リムハイト44mmレンジとしては標準的な重量に仕上がっている。実測重量は以下の通りだ。
- フロント:641g
- リア:811g
SPRINT SLハブ
HUNT SPRINT SLハブは、高強度と軽さをあわせ持つハブだ。ラチェットは7.5度で素早く噛み合い、入力した力を効率よくホイールに伝達する。軽量かつ強度のあるハブシェルで作られていながらも、フリーハブは手で抜けるためラチェットのメンテナンスを簡単に行うことができる。
前後のハブボディはCNC鍛造6061-T6熱処理アルミ合金を使用している。アスクルも7075-T6アルミ合金だ。ボディはポリッシュ仕上げのアルマイトブラック、レーザーグラフィックでHUNTのロゴが刻印されている。
リアハブはカセットスプロケットによるフリーハブの食い込みやカジリに耐えるよう、スチール製のスプラインインサートでフリーハブボディが補強されている。
ベアリングは日本のEZOベアリングを採用している。リアハブには抵抗が小さなLU/LB低摩擦シールドを使用している。このシールドはゴミが入りやすいベアリング外側を接触式にし、内側は非接触にすることで抵抗をできるだけ減らしている。
ラチェットは、48Tの熱処理ステンレススチール製ラチェットリングと3つのマルチポイント爪を採用している。ロード用ホイールで7.5°で噛み合うのは比較的早い。踏み込みと噛み合いまでの時間が短いためダイレクトな感触が味わえる。
惰性走行からペダリングを再開するときのタイムラグが少ないことがメリットだ。しかし、脚を止めた時のラチェット音はとても大きい。
最上級スポークPSR XTRA
スポークはピラーの最上級モデルPSR XTRAだ。スウェーデン社製ハイグレードT302(18/10)ステンレスワイヤーから冷間引き抜き加工が行われている。スポークヘッド直前に再度バテッド加工を施し、高い負荷がかかるスポーク部位の耐久性が向上している。
このバテッドブレードエアロスポークは、軽量でありながら弾力性に富んでいる、耐疲労性も高められており、高いスポークテンションを長期間維持することが可能になっている。ダウンヒルにも使える耐久性を持ちながら、ロード用の空力性能も追及されている。
スポーク本数はフロント20本、リアが24本の2クロスだ。エアロバテッドは2.0-2.2/0.95-2.0、PSRセクションは2.2だ。ストレートプル方式を採用しているため、ねじり強度が高く、ダイレクトなパワー伝達を実現している。
インプレッション
軽くて、速くて、乗りやすい。
ピラーのPSR XTRAステンレススポークは硬い乗り心地になる、という先入観があったが全くそんなことはなかった。しなやかだ。今回、HUNT 44をテストする前にカーボンスポークを使用しているCRW5060を使っていたのだが、カーボンスポーク特有の硬さがあった。
だからこそ、HUNT 44は相対的にしなやかだと感じたのかもしれない。基本的にはPSR XTRAは硬質だと思う。ただ、実際に走っていると快適性や走りの優しさはカーボンスポークにはない軽快さがある。軽快さや快適さを求めるなら、間違いなくカーボンスポークじゃないほうがいい。
最近カーボンスポークばかり使っていたので、スポークの話になってしまったがHUNT 44とCRW5060を使って六甲山を登ったところ、面白いデーターが取れたので紹介したい。まず、CRW5060とHUNT44のスペックのおさらいだ
- CRW5060:50mm/60mm, 1,290g(実測)
- HUNT44:44mm, 1452g(実測)
六甲山逆瀬川ルートをヒルクライムした結果は以下の通りだ。なお、CRW5060に着いていたタイヤ、チューブ、ディスクローターをHUNT44にそのまま移植している。機材差はホイールだけになっている。
- 40:22(279W):CRW5060
- 40:23(278W):HUNT44
STRAVA上に上がっているデータのとおり、一切の加工をしていない。自分のペース配分に自画自賛したいところだが、「機材差がない」という結果だった。重量差でいえばHUNT44のほうが162gも重く、RAPIDE CLX相当の優れた空力性能をもつCRW5060と比べて機材差がない結果は予想外だった。
確かに、最も影響を及ぼすであろう風の強さや、風向きといった環境条件などの影響は捨てきれない。しかし、タイムやパワーといった数字に表れないホイールの違いもある。それは登り心地だ。快適性、振り心地、脚当たりの良さはHUNT 44のほうが断然優れていた。
踏みこんでから、走りに変換されて、また踏み込む、という繰り返し作業のタイミングがとりやすい。ホイールとライダーの二人三脚のやりとりが、何も言わずとも阿吽の呼吸で物事が進んでいく。昔からお互いに知り合い、古くからの友人のようなやりとりができる。
高速で坂を下ってくるときはどうだろうか。軽快性が逆に犠牲になっていないだろうか。そこを懸念していた。飽きるほど登っていたため、飽きるほど下ったのだが結果は安心して峠の下りもクリアできた。安定感があった。
しなやかさは別のメリットにもつながっている。峠の比較的路面状況がわるい条件下でも、突き上げるような不快感もなくスムーズに走れた。カーボンスポークの場合は、ごつごつとした嫌な振動があったため、余計にそう感じたのかもしれない。
場所を河川敷に移し、風が強い条件も試した。44mmは横風や突風にもほとんど影響されず、風を軽々とすり抜けていった。50mmや65mmを常用していたため44mmのオールラウンドホイールがここまで使いやすいのかと驚いた。やはり常用するなら45mm前後が良いのだろう。
巡行性能に関しては若干減衰速度が速いと思う。50mmや60mmのホイールと比べての話だが、HUNT44の重量の大部分はスポークやハブに集中しておりリムは比較的軽いのかもしれない。減衰が速く感じられた一方で、登りの軽快さが引き出されている。
10年以上、空力性能と重量のバランスで50ミリ前後ホイールが好みだった。しかし、登りやアップダウンでテンポよく走ろうとすると、45mm前後のホイールが良いことに改めて気づいた。HUNT 44の性能の高さもあるが、とても相性が良いホイールだった。
まとめ:全てが80点のホイール
HUNT 44は悪いところが見当たらない困ったホイールだ。HUNTが得意とする空力開発がふんだんに生かされたリム、重量からは想像できない軽さのバランスがある。走らせた時の脚当たりも良い。CX-RAY一辺倒だったが、ピラーのスポークもなかなかよい感触だった。
一つ残念なのは価格だ。
2022年発売当時は12万円で買えたのだが、為替の影響を受けてわずか2年で21万円程になっている。当時買った人は大事に使ってほしい。これから購入する人は中古市場を探すか、HUNTのセールを待つか、もしくはさらに進化したHUNT SUB50を検討したほうがいいだろう。
2022年頃の発売当時にレビューできれば、「コストバリューに優れたホイール!」なんて言えたのだが、20万を超えてくるとそうもいかない。12万円で販売できていた当時にこの性能を知っていたのなら、ミドルハイトでHUNT 44以上に優れたホイールを探すのは難しかっただろう。
リム設計も内幅20mmで最新のリムプロファイルとは言えない部分もある。現代のタイヤ設計に沿うならばフックドで23mmはほしいところだ。それ以外はベアリングが日本製のEZOを採用するなど、細部の設計が堅実にまとめられている。
総じてオールラウンドホイールとして考えると全てが80点に仕上がっている。登りも、平坦も、下りもなんでもこなせる。尖った性能はないが、だれにでも使いやすいホイールだ。