TREK最速のレースバイクMADONE Gen8とグラベルバイクのCheckpointが融合し、新しいグラベルレースバイクCheckmate(チェックメイト)が誕生した。
Checkmateはチェス用語で相手のキングが逃げ場を失い、次の一手で必ず取られる状態を表している。チェスのゲームが終わる瞬間を示しており、最後の時を指して「チェックメイト」と宣言する。TREKはこの名をバイクに冠した。
BBの側にはチェスの駒であるナイトがあしらわれている。ナイトは、他の駒を飛び越えて移動できる唯一の駒だ。他の選手を飛び越えて抜き去り、ゴールへと進む意味も込められているのだろう。
昨今、グラベルレースの人気は高まっている。バイクの開発競争も激化しており、Canyon、Cervelo、GIANTなど各社から高速なグラベルレースバイクが続々と登場した。TREKとして、グラベルレース専用バイクの開発は急務だった。
TREKはグラベルレースのプロチームもあるため、現在のバイクよりもさらに速くレースで戦えるバイクが熱望されていた。新しいCheckmateは速さ、軽さ、快適性を突き詰め様々な工夫が盛り込まれた。そして、TREK史上最速愛軽量のグラベルレースバイクが誕生した。
TREK初のグラベルレース用バイクとして、新しい領域を切り開くことになったCheckmate、その全容を追う。
最速のグラベルレースバイク
これまで、TREKのグラベルバイクといえばCheckpointだけだった。黎明期のグラベルカテゴリは「未舗装路を冒険する」ことが主な目的だった。これだけであれば、Checkpoint1台だけでよかった。次第にグラベル分野は急速に成長し、大規模かつ長距離のグラベルレースが開催されるようになっていった。
グラベルが速さを競うレース競技になっていくと、ライダーがスピードと軽さを要求することは必然だった。ロードレースがそうであったように、機材の高速化と軽量化がさらに求められていった。
Checkmateには、MADONE Gen8の開発で生み出された「フルエアロフォイル」が盛り込まれた。タイヤ、ホイール、フレームなど全てを1つの塊としてあつかい、空力性能の向上を図る仕組みだ。一見すると空力性能が悪そうに見えるダウンチューブのボックス形状も空力的には理にかなっている。
TREKの度重なるCFD解析と風洞実験の結果、空力性能が良いとは思えないボックス形状は、直感とは反して空力的に優れていることが判明した。CheckmateのフレームはBontrager Aeolus 37V ホイールに最適化した形状に仕上げられている。
厳密にはレースで使用する38~40mmのタイヤに合わせて空力を最適化した。ダウンチューブ以外の各チューブ形状も単体では意味をなさない。それぞれが集まり、バイク全体を1つの塊とみなすフルシステムフォイルの一部として作用している。
新型Madone Gen8用に設計されたRSLコックピットがCheckmateに搭載されている。ハンドルバーの空力性能向上も図られた。
そして、空力性能に多大な影響を及ぼすライダーの乗車姿勢も考慮されている。Checkmateではジオメトリを調整し、ライダーのポジションを効率化することで空力を改善した。スタックはCheckpointのよりも20mm低くなっている。
ISO SPEED
Checkmateには、ショック吸収システムのISO SPEEDが搭載されている。同社のオフロード系バイクに決まって搭載されているこの仕組みは、起伏の多い地形に対応するため垂直方向の柔軟性を持たせることで快適性を向上させている。
ISO SPEEDの接続部分は、シートチューブ自体がシートステーやトップチューブから分離している。シートチューブが独立して浮いている状態なのだ。シートに座った状態で荒れた路面を走ると、振動や突き上げが緩和される。
上下に揺さぶられることが少なくなるため、インピーダンスロスが減少するメリットがある。
サドルを手で押した程度ではISO SPEEDは変化しない。ライダーの体重がサドルに乗った状態になると、地面からの衝撃に応じてISO SPEED(シートチューブ)が変形する。結果、余計な振動をライダーに伝えにくくする。
ISO SPEEDは10年以上にわたってTREKのバイクに搭載されてきた。細かなアップデートを重ねながら確実に進化している熟成した技術だ。ISO SPEEDがバイクに搭載された当初から乗ってきた経験からすると、衝撃に対して効果的に動作しリアのトラクションが向上する。
無駄を排除した軽量化
Checkmateは軽さも追及している。フレームセットは公称1,638gだ。完成車のSLR9が7.55kg、SLR7は8.10kgに仕上がっている。インプレッションで使用したCheckpointの実測重量はペダルレスで7.53kgだった。これまでテストしてきたグラベル系バイクの中で特に軽い。
グラベルバイクらしからぬ軽さの理由はいくつかある。まず、TREK最高級のOCLV800カーボンを使用している。カーボンは最新の素材である東レのMX40Xだ。
レースバイクにとって、重量は常につきまとう話題だ。モデルチェンジの度に涙ぐましい軽量化の末、1gを削減する改善が行われる。Checkmateの軽量化は大胆に行われており、グラベルバイクの特徴だったフレーム内のストレージを廃止した。
フレーム内収納の排除は、むやみやたらな改良ではない。TREKがレース現場の声に答えた結果だ。チェックメイトの開発中に、フレーム内収納に関する実態調査を行っていた。ほぼ例外なく、グラベルレーサーたちは外部バックにツールを収納していた。
理由は、レース中のトラブルの際に素早くツールを取り出すためだ。外部バッグのほうが都合がいい。フレーム内収納の場合は、フタを開けて収納バッグを引き出し、必要なツールを探すためにバッグの中を探す手間がある。ツールの出し入れに時間がとられるデメリットがあった。
軽量化は収納以外にも様々な部分で行われており、新型Madone用に開発された300g弱の一体型エアロRSLハンドルを採用している。Checkmateは、ひとつひとつの軽量化の末、ロードバイク並みの重量を達成した。
一体型ハンドルバー
TREK Madone Gen8から引き継いだのが一体型ハンドルバーだ。ハンドルバーはやや丸みを帯びた鈍角な形状で、フルシステムフォイルの設計思想に基づいている。フードからドロップまで3cmのフレア形状になっている。
わずかにアウトスイープがあるハンドル形状で、バートップを持った時に姿勢の維持がしやすくなっている。全体対的にグラベル用途としては、非常にアグレッシブなハンドルバーだ。グラベルレースバイクとして、高速走行に適している。
タイヤクリアランス
Checkmate SLR 9およびSLR 7は、それぞれ40mmと38mmのタイヤが標準装備されている。フレームセットには最大45mmのタイヤを装着できるクリアランスがあるため、新型ZIPP 303 XPLRホイールを装着できる。
豊富なマウント
フレーム上には多数のマウントが配置されている。外部バックを取り付けて、収納を向上させる実用的な目的がある。グラベルバイクとしても比較的多くのマウントが用意されているが、内部ストレージを排除したことによる配慮だろう。
- フロントラックマウント
- リアラックマウント
- トップチューブマウント
- フロントトライアングルマウント
- ダウンチューブマウント
- フェンダー マウント
それぞれのマウントには、バッグやボトルケージなど様々な装備を取り付けることができる。200km以上にも及ぶレースの場合、大量の補給やドリンク、予備チューブ、さらには緊急用のメディカル用品等を携帯することがある。
マウント位置も空力的観点に考慮した位置に配置されており、使用の幅が広く設計されている。シートステーの内側には、フェンダーマウントが用意されている。悪路を走る場合など、フェンダーを取り付ければ泥などの跳ね返りを防ぐことができる。
フタ付きシートポストボルト
グラベル用ということもあり、Checkmateには細かい部分にも素晴らしい配慮がされている。シートポストの固定ボルトへの配慮が考えられており、メンテナンス性、防塵性など実用性を考えた仕組みになっている。
磁石でしっかりと閉じられた小さなドアを開けるとボルトにアクセスできる。オフロード系のバイクの場合、ドロなどが跳ねてシートポストボルト周りに異物が入り込んでしまう。小さなドアは防塵や防水の役目を果たしボルトを守ってくれる。
シートポストを締めるボルトは扱いにくい場合が多いが、Checkmateの固定ボルトとクランプはフレームの中に落ちないような作りになっている。
UDH対応
MTBではデファクトスタンダードになりつつあるのがUDHだ。詳細は別の記事でまとめている。グラベルバイクやシクロクロス、さらにはロードバイクでも普及の兆しがある規格で今後主流になっていくと予想されている。
UDHについては以下の記事で詳細に解説しているのでご一読いただきたい。
ジオメトリ
CheckmateはXSからXL(49cm から 61cm) まで6つのサイズが用意されている。
Checkpointと比較すると、Checkmateはリーチがわずかに短くなっている。Checkpointから乗り換える場合は、リーチを合わせるためにやや長いステムを使用する必要がある。スタックの高さはサイズごとに似ている。
ホイールベースも短くなっている。オフロードでの安定性よりも、グラベルレースの大部分を占める直線に最適化し、スピードをさらに引き出す目的がある。すべてのサイズでBBドロップは80mmになっている。
フォークレイクのオフセットは全てのサイズで同一だ。その結果トレイル量は小さいサイズでは緩やかな70mm、大きなサイズでは62mmになっている。この値はロードバイクに近い。
ジオメトリの設計は乗車時の快適性も意識しており、リラックスした姿勢で乗車できるようにチューニングされている。
モデルとスペック
- Checkmate SLR9 AXS
- SRAM RED XPLR eTap AXS E1
- Aeolus RSL 37V
- ¥1,870,000
- Checkmate SLR8 AXS
- SRAM RED XPLR eTap AXS D1
- Aeolus Pro 3V
- ¥1,540,000
- Checkmate SLR7 AXS
- SRAM Force XPLR AXS D2
- Aeolus Pro 3V
- ¥1,540,000
次回はインプレッション
次回は、最高峰のCheckmate SLR9 AXSでグラベルを走りインプレッションを行った模様をお伝えする。