楽観主義者と悲観主義者の違いは、こっけいなものさ。
楽観主義者は”ドーナツ”を見て、悲観主義者はドーナツの”穴”を見る。オスカー・ワイルド
新型のMadoneに迫れば迫るほど、穴ばかりに気を取られていく。それは、第7世代のMadoneの全てを語っているわけでないし、全てではない。ISOFLOWにばかり気を取られていては、Madoneの本質には迫れるわけがない。
第7世代Madoneインプレッションの後編は、実際に乗ってみたMadoneの率直な感想を記していく。記事は前半「TREK Madone SLR インプレッション トレック史上最速のバイク 前編」、今回の後半、次回の番外編の3部にわけて構成している。
実測重量
気になるMadoneの実測重量は以下の通りだ。Tarmac SL7や新型Super Six Evoと比べると重い。しかし、フェアに比較するのならばジャンル的にはSYSTEMSIXだろうし、VENGEが対抗馬になる。Madoneはオールラウンドバイクというよりも純粋なエアロ系ロードバイクだ。
- フレーム重量:(RDハンガー/チェーンキャッチャー付) :1133g
- フォーク:472g
- シートマスト:182g
- ヘッドスペーサー、ヘッドカバー、プレッシャーアンカー、ケーブルガイド:196g
- Madoneハンドル:345g
完成車のメーカー公称値は以下の通り。R9200 Dura-Ace搭載のバイクの重量は7.48gとエアロ系ロードバイクの標準的な重量に仕上がっている。
第7世代 Madone SLR Model | kg |
---|---|
Madone SLR 6 R8100 | 7.75 |
Madone SLR 6 eTap | 8.03 |
Madone SLR 7 R9200 | 7.48 |
Madone SLR 7 eTap | 7.76 |
Madone SLR 9 eTap | 7.36 |
参考までに、以下は第6世代のMadone完成車の重量だ。リムブレーキMadoneの軽さがうかがえる。
第6世代 Madone SLR Model | kg |
---|---|
Gen6 Madone DISC(DURA-ACE) Aeorus6 | 7.405 |
Gen6 Madone DISC(SRAM Red eTap HRD) Aeorus6 | 7.423 |
Gen6 Madone RIM-B(DURA-ACE) Aeorus6 | 7.087 |
300gの軽量化のうちわけ
第7世代のMadoneは前作と比べて300gの軽量化しているという。内訳はフレームが約150g、一体型ハンドルバーが約150g、バイク全体で計300gの軽量化というのがメーカーの言い分だ。
ところが実測重量を確認して計測していくと、フレームは+4g増、ハンドルは150gの軽量化だった。前作の定義があいまいで、OCLV800版かOCLV700なのか、それとも塗装や影響なのかはっきりしないのだが、第7世代のMadoneはトータルで軽くなっている。
さらに詳細にフレームとフォークの重量について、第6世代(OCLV800)と第7世代を比較してみよう。第6世代→第7世代の順番で並べた。
- フォーク:424g → 472g (+48g)
- フレーム一式:1129g → 1133g (+4g)
- シートマスト(ヤグラ含):232g → 182g (-50g)
- 専用ハンドル:472g → 322g(-150g)
合計すると新型は148gの軽量化だ。第6世代のMadone DISC (OCLV800)の実測重量の内訳は以下の通り。調整式スライダーやISOSPEEDを含めたフレームの合計実測重量の合計は1129gだ。
- フレームのみ:1047g
- リアディレイラーハンガー(ボルト込み):11.7g
- DuoTrap カバー:3.0g
- ダンパー (キャリッジ、ハウジング、バンパー、取付用ボルト2本、プ リロードボルト):17.4g
- ピンチボルト + バンパー:4.7g
- 調整用スライダー:3.9
- IsoSpeed ハードウェア(ボルト、ナット、ワッシャー、ウェーブワッシャー、ブッシン グ2個、インナーブッシング): 26g
- IsoSpeed カバー [外側]:7.6g
- IsoSpeed カバー [内側]:8.0g
実際には、スライダーやダンパーなどを搭載した第6世代のMadoneのほうがわずか4gだけ軽い。しかし、シートマスト、ハンドルなど総合的に考えると合計148gの軽量化を達成している。
専用Madoneハンドルバー
第7世代のMadoneのために開発されたのがMadoneハンドルバーだ。以下の特徴がある。
- 空力面:シームレス構造とエアロダイナミクスの改善
- 重量面:前作のハンドルよりも150g減
- ポジション面:ブラケット幅が3cm減
- ポジション面:浅めのリーチ
- ポジション面:フレア(上下で幅が異なる)を採用
- ポジション面:バックスイープ形状
- ポジション面:センターからブラケットまでが緩やかに傾斜
- 形状面:伝統的なラウンドバー
エアロ系ロードバイクのハンドルは、空力を優先させるために一体型である場合が多い。一方でシャクリ量やステム長を変更できないデメリットがある。
Madoneハンドルバーは、前作のMadoneに搭載されていたハンドルバーよりも更に薄い。そして、空力学的に優れた形状に生まれ変わっている。空力と重量は、素材や形状を変えることで達成できるため、第7世代では前作をベースに細かなアップデートが行われた。
Madoneハンドルの設計は、ブラケットの幅が3cm短くなっている。ライダーのポジション改善を物理的にうながし、空力性能の改善も期待できる。昨今、トラック競技においても空力改善のためにハンドル幅がどんどん狭くなってきている。
例えば、トラック競技で活躍している梶原悠未選手もハンドル幅280mmを使用している。ブラケットを握ったときに、ライダーの前方投影面積を減らす改善がハンドル幅にも現れている。
とはいえ、ロードレース競技はドロップハンドルを常に持っているわけではない。ブラケットやトップバーを適宜持ち替えながら様々なシチュエーションに対応しなければならない。Madoneハンドルバーは人間工学デザインの観点から、「浅めのリーチ」「フレア」「傾斜したトップバー」を採用している。
「浅めのリーチ」は既存のTREKユーザーにとって朗報ではないだろうか。Emondaと同時に発表されたAEOLUSハンドルは、リーチがとんでもなく長すぎて多くのサイクリストや海外メディアから「どうしてこうなった・・・」と酷評されていた。
前作の失敗があってか、Madoneハンドルバーは、標準的な80mmのリーチを採用したのは嬉しい改善だ。実際に使ってみてわかるのは、ハンドルバーがフレア形状になっており、ブラケット部分(Control Width)とドロップ部分の幅が異なる上下異型ハンドルになっている。
たとえば、420mmのハンドルの場合ブラケット部分は390mm、ドロップ部で420mmだ。上下異型のハンドルは、ENVEのSESシリーズでも同様の構造が採用されている。ブラケット部分を持つ際の空力改善、そしてブラケット部分を持つ際の力の入れやすさなどが考慮されフレア形状が採用されている。
バックスイープ形状は、トップバーを持ってリラックスしてライドする場合に役立つ。クライミング時に身体が起き上がったシチュエーションにおいて、ハンドルが身体に近づくためバーが握りやすくなる。
クライミング時は身体が起き上がるためバーから体が遠ざかる傾向にある。この際、ハンドルと体の距離を埋めるため、ハンドルに指先だけを引っ掛けてバーを持ってしまう場合はハンドルバー自体が遠い可能性がある。
バックスイープのハンドルを使うと、しっかりと手のひらでトップバーを握ることができるため、よりリラックスした乗車姿勢を取ることができる。
実際に使わないと気づきにくいのが、センターからブラケットまでが緩やかに傾斜している構造だ。TTバイクのハンドルにも同じような構造がある。ドロップの量は数値の通りなのだが、ブラケットよりも内側のトップバーは下がっているため、手が置きやすい形状になっている。
Madoneハンドルバーは、空力改善や重量減ばかりに目が行きがちだが、優れた人間工学デザインにより、ハンドルバーとして使いやすいデザインに仕上がっている。
しかし、一体型のハンドルの宿命でもあるポジション出しの自由度が低いというデメリットが残っている。また、Madoneハンドルバーは第7世代のMadone専用品だ。DHバーは非対応だが、31.8径のステムと互換性がある。DHバーを使用したい場合はノーマルハンドルに交換すれば使用可能になる。
TREKは一体型ハンドルのデメリットも考慮しており、標準のステムと互換性があるよう配慮した。ライダーはコックピットを好きなようにセットアップできる。しかしコクピットまわりを変更すると、ライダーが通常よりも狭いバー幅を選択しない限り、Madone が主張する空力的な利点の大部分が失われることも意味する。
Madoneハンドルのジオメトリーは以下の通りだ。
フレームサイズ | ハンドル幅(mm)ドロップ | ステム長(mm) |
---|---|---|
47 | 380 | 80 |
50 | 400 | 90 |
52 | 400 | 90 |
54 | 420 | 90 |
56 | 420 | 100 |
58 | 420 | 100 |
60 | 440 | 110 |
62 | 440 | 110 |
- リーチ: 80mm
- ドロップ: 124mm
- ドロップ部よりもブラケットの左右幅は3cm狭い
ブラケットの左右幅は3cm狭まっているフレア形状を採用しているため、サイズに悩むかもしれない。公式の発表によれば、400mmを使用しているならば、同じ400cmを使うことが最も体に適しており、加えて高い空力性能を得ることができるという。
H1.5 ジオメトリー
次は重要なジオメトリーについてだ。
TREKは、前世代のMadoneで採用していた「H1.5」 ジオメトリーに今回もこだわっている。H1.5はプロレベルバイクのレースに焦点をあてた「H1.0」ジオメトリーと、よりリラックスした「H2.0」の間として考案された。
H1.5フィットは、トレックのプロチームと共同で開発されたものだ。H1.0で優先されたエアロダイナミクスだけでなく、乗りやすさや持久力を助けるH2.0との最適なバランスを保つことが目的だ。
H1.5はより幅広いライダー層を想定している。プロのみならずアマチュアでも扱うことができ使い勝手が向上した。TREKはH1.5を用いることで、プロライダーだけでなく、より裾野を広げて第7世代のMadoneを使用できるようにした。
H1.5ジオメトリーの根底には、ただ高速に走るだけでなく、快適に走れるという考えがある。バイクを日常的かつ、一日中乗れるバイクとしての設計だ。プロであっても同様で、「快適」かつ「速い」バイクを求めることに帰結している。
週末にレースをしたり、グループライドをしたりする日常的なレーサーも、同じようにH1.5のジオメトリーが現在では最適とされている。
TREKによればプロのポジションの好みも変わってきているという。10年前のような極端で攻撃的なポジションではなく、より現代的で伝統的なフィットが見直されている。
インプレッション
ここからは実際に乗ったインプレッションだ。第7世代Madoneと第6世代との比較、そして他社の最新バイクとの空力性能の比較を確認していく。過去に第6世代のMadoneについてレビューした内容は以下の通りだ。
他社のバイクにおける空力性能データーは以下の通りだ。★マークは実際に乗ったことがあるバイクだ。ただし、乗車時間の関係上レビューしていないバイクが3台ある。
1.SIMPLON PRIDE II Disc:199 W
2.STORCK Aerfast.4 Pro Disc:201 W
★3.CANYON Aeoad CFR DISC:202 W
★4.CANNONDALE SystemSix DISC:203 W
★5.CERVELO S5 DISC:205 W
★6.CANYON Aeoad CF SL DISC:206 W
6.FACTOR One:206 W
★6.SCOTT FOIL RC ULTIMATE:206W
★7.SPECIALIZED S-WORKS VENGE DISC:208 W
★7.PINARELLO Dogma F DISC:208 W
★8.GIANT PROPEL ADVANCED SL:209W
9.BMC Timemachine 01:210W
★10.SPECIALIZED S-WORKS TARMAC SL7 DISC:210 W
★第6世代 TREK Madone:212W
第6世代のMadoneの空力性能はTOP10のランク外だ。第7世代のMadoneの空力性能はわかり次第、別記事でお伝えする予定だ。第7世代であったとしても空力性能だけでいえば、私がこれまでテストしてきたバイクと同じか、もしくは劣る性能という理解をしている。
しかしながら、1W程度の空力性能の違いを人間が感じられるわけではないし、よく知られている事実としてライダーの空気抵抗のほうがよっぽど大きい。それらの不都合な事実をふまえつつ、第7世代のMadoneについてみていこう。
剛性感は程よく低い
毎度のことなのだが、TREKのバイクは総じて過度な高剛性バイクに仕上げないという特徴がある。TREKのEmondaも第6世代のMadoneもコンフォート寄りにチューニングされていた。実際に乗ってみると、非常にしなやかなバイクだ。
この「しなやか」というのは、これまで私が乗ってきた、TARMAC SL7、GIANT PROPEL、AEROAD CFR(こいつが一番硬い)と比較するとBB周りの剛性が「相対的に低い」のだ。実際のBBまわりの剛性テストでも、MadoneのBB周りは剛性が相対的に低い数値データが出ている。
「BBまわり◯◯%アップ!」などというプロモーションをTREKが積極的にやらないのも頷ける。むしろ、いつものTREKのバイクの味付け、いわゆる剛性チューニングは過度ではなくむしろコンフォート寄りであり、乗りやすいエアロ系ロードバイクだ。
トレック独特のしなやかさは、第7世代でも踏襲されている。
第6世代と第7世代の違い
TREKが好きな人は、歴代のモデルを乗り継いでいる人が多い印象だ。私は数値上速いバイクに乗るのが好きなのだが、TREK愛好家の方で「第6世代から第7世代に乗り換えたい」というご意見を頂戴したため、第6世代と第7世代の違いについて記そうと思う。
第6世代Madoneはお世辞にも「かっこいいバイク」とは言い難かった。小サイズの第6世代 MadoneをSNSにあげようものなら「小サイズはスローピングがきつくてダサイ」だの、「うあぁ、やっぱりこうなるか・・・」というレスポンスが付くことに心を痛めた。
否定はしない。
しかし、同時期に発売されたS-WORKS VENGEは小さなサイズでもスタイルが良く、かっこよく見えたのに、第6世代の小サイズは「どうしてこうなった」というスタイルだった。
第7世代はどうだろうか。
いくらかマシにはなっていると思う。それでも「小サイズ&エアロ系ロード」という相性の悪さからは抜けきれていない、と直感的に感じてしまうスタイリングかもしれない。しかし、第6世代のような明らかに”異型”のスローピングではなくなった。
私が乗るような小サイズであっても、人権があると感じさせてくれるスローピングに収まっている。第6世代にあったシートポスト部分のスライダー、可変させるためのボルトなどが全て排除され、第7世代は構造的にもスマートになった。
インピーダンスロスを減らすためなら、第6世代のISOSPEEDは活躍すると思う。しかし、重量増、構造的な複雑さなど、潜在的な問題も抱えていた。第7世代に乗って安心したのは、快適性に関してはISOSPEEDはいらない、とすぐに感じたことだった。
第6世代の標準的なスライダー位置のコンプライアンス(物体の変形のしやすさ)と同じチューニングが第7世代に施されているという。たしかに同じ程度のコンプライアンスだと感じた。むしろ、第7世代は前作の標準スライダーよりもやや柔らかいと感じた。
空気抵抗に関しては、第6世代と7では違いがよくわからない。第7世代のほうが巡航がしやすく空力が良いかな?と感じる場面もたしかにあった。第6世代が発売された当時とくらべてみると、ホイールの空力性能もタイヤのCrrも向上しているため純粋には比較できないのだが。
それらを差し引き、俯瞰して考えてみると、フレーム単体の性能、ハンドルの改良、フォークがブレード化していることなど、総合的な性能に関していえば第7世代が当然のことながら優れている。むしろ、優れていないわけがない。
また、TREKのバイクには「TREKっぽい乗り味」がある。EmondaやBooneでも同様の印象を受けたのだが、TREKはBB86やT47を用いてボリュームのあるBBまわりを形成したフレームを製造しているものの、実際に試験機にかけるとBB周りの剛性が低い。
逆に言うとTREKのバイクは他社ブランドのハイエンドバイクと比べるとBBまわりは剛性が低く、ペダリングに対して変形しやすい特徴がある。意図的にこのような味付けにしているのかはわからないが、とにかくTREKのバイクは体に優しいのが印象的だ。
肝心の第6世代と第7世代の乗り心地の違いはというと、かなりある。
何度も当ブログで紹介しているとおり(念のため書いておくが)バイクの「乗り心地」というものは、フレームやホイールが決定していない。ライダーが感じる乗り心地や剛性に対してはタイヤと空気圧が支配的である。
それらをできるだけ考慮し、不都合な事実をふまえたとしても、第7世代のほうが乗り心地が良く疲れにくく感じるし、登りでバイクを振り回したときの動きは第7世代のほうが”当然ながら”機敏だった。
第6世代は単純にバイクが重たかった。軽快さがなかった。第7世代は軽量化され、第6世代のネガティブな部分は排除、ハンドルも再設計されているため、「そりゃ扱いやすいよなぁ」と感じた。実際の重量はどっこいどっこいなのだが、走りは第7世代の方が軽い。
第6世代のMadoneを所有しているTREK愛好家の方は(金銭面が許せば)第7世代のMadoneに安心して移行していい。その際に、他社ハイエンドバイクと比較するとまた別の話になるのだが、第6世代からの買い替えは強くおすすめする。
空力性能
空力性能に見ていこう。第三者機関が実施した第7世代の空力データーはまだ確認できていない。
大体であるがざっと第7世代の空力性能を考えてみたい。第6世代が212Wだった事、第7世代Madoneは前作と比べて約19Wの空力改善(時速45km)を達成している。これは、バイクで7.9W、ライダーで約9.3Wという内訳だ。ライダーの空力改善の要因としては、ハンドル幅の設計変更にある。
単純に引き算をすると、212 – 7.9 = 204.1W だ。
しかし、風洞実験データーの結果を単純に引き算して比較することはできない(してはいけない)。風洞施設、試験プロトコル、得られた数値データーに対してどのような重み付けをおこない、加重平均計算をするのかで結果は大きく変わる。
それでも、2018年に登場したS-WORKS VENGEよりも優れていなければ、第7世代のMadoneのメンツも丸つぶれだ。今後出てくる結果にもよるが、206W前後の空力性能ではないだろうか。
1.SIMPLON PRIDE II Disc:199 W
2.STORCK Aerfast.4 Pro Disc:201 W
3.CANYON Aeoad CFR DISC:202 W
4.CANNONDALE SystemSix DISC:203 W
5.CERVELO S5 DISC:205 W
6.CANYON Aeoad CF SL DISC:206 W
このあたり?
6.FACTOR One:206 W
6.SCOTT FOIL RC ULTIMATE:206W
7.SPECIALIZED S-WORKS VENGE DISC:208 W
7.PINARELLO Dogma F DISC:208 W
8.GIANT PROPEL ADVANCED SL:209W
9.BMC Timemachine 01:210W
10.SPECIALIZED S-WORKS TARMAC SL7 DISC:210 W
第6世代 TREK Madone:212W
実際の空力性能に関していえば、現在乗っているCANYON Aeoad CFRと大差ないように感じた。フレームで5Wの空力改善でも、体感するのは非常に難しいというより気づかないレベルだ。
昨今のエアロ系ロードバイクがインプレッション泣かせなのは、空力性能が高止まりしていることだ。測定器にかけなければ「空力が良い」「空力が悪い」とはっきりと判別できない。それよりも、エアロワンピースなど、身体に身につけるウェアのほうが違いがよくわかる。
空力はもはや、風洞実験でのデーターを信用する他ない。もしくは、古くて空力が悪いバイクから最新モデルに乗り換えるしか違いを明確に感じる方法がない。めちゃくちゃ空力が悪いバイクと、現行最新型を比べればそれは相対的に「良い」と決まっているわけで、そこに何か特別な意味を求めてしまうのは筋違いだ。
「相対」の振れ幅が大きくなるか、小さくなるかだけの違いだけであって、絶対的なバイクの性能を評価しているわけではないからだ。
これら不都合な事実を理解しつつ、TREK Madoneのエアロダイナミクスは、デザインと技術の双方からアプローチしていると感じた。フレーム、フォーク、ハンドルバー、ステムのすべてが空力性能を最大限に引き出すように設計されている。
Madone専用の新しいバーステム一体型コンポーネントは、エアロダイナミクスに焦点を当てつつも驚くほど快適だった。その形状は伝統的なラウンドバーに非常に近い。機材自体の空力も良いが、ブラケットを持ったときの「すぼんだ」ライディングスタイルは空力改善をライダーに”意識”させてくれる。
重量に悩む
Madoneの重量に関しては、もう少しどうにかならなかったのかと思った。他社メーカーが6.8kgに近づけつつ、空力性能を高める開発傾向とは異なり、空力優先と奇抜な構造を採用し、実際の実測重量は前作よりも重くなっている。
完成重量がDURA-ACEやSRAM REDの場合でもペダルレスで7.4〜7.5gだ。240g前後のペダルを付けると、乗り出しの完成重量は7.6〜7.7kgになる。
ハイエンドモデルかつハイエンドコンポーネントを取り付けた状態で、7kg後半は現代の「軽量x空力」を求めるサイクリストにとってみればあまり魅力的にはうつらない。最低でも7kg前半の重量であればよかったのだが、第7世代のMadoneは軽いパーツを付けても6kg台は厳しいだろう。
プロならともかくとして、1台しかバイクを所有できないサイクリストにとってみれば「軽量x空力」のバランスが取れたバイクを求める。GIANT PROPELや、TARMAC SL7、Dogma Fなどは自社のエアロ系ロードバイクを犠牲にしてでも(Pinarelloは違うが)できるだけ軽く、空力を追求した。
そういう意味では、リリースから結構な時間が経過しているTarmac SL7はスペシャライズドの先見の明があったと思わされる。
もっと言えば、「DOGMA」は初めからブレずに一貫していたのだから、Pinarelloこそがロードバイクに必要とされている本質を見抜く見識があり、 将来のことを見通すかしこさを持っていたのだと思う。
第7世代のMadoneは、比較的重い重量をどのように受け取るかによって、良し悪しが分かれるバイクだ。重量と空力のバランスを考えると、別の選択肢があるだろうし、空力や乗りやすさに影響するコンプライアンスのバランスを考えるとMadoneは良い選択肢になる。
それらをふまえ、次の章から様々な切り口でMadoneをみていく。
振動吸収性は、星5つ。
新型Madoneは空力性能うんぬん様々な事が取り沙汰される。
それらは一旦忘れて頂きたい。第7世代のMadoneは、数あるバイクの中でも最適解になる特徴をもっている。「振動吸収性」と「スムーズな走行感」だ。これら2つを求められるシチュエーションにおいて、正直なところMadone以外(エアロ系ディスクロードにおいて)良いバイクが思いうかばない。
第6世代に引けを取らない大きなエアロダウンチューブにも関わらず、驚くほど軽い走り心地を実現している。ISOFLOWの”あと付け特徴”である振動吸収性能は、意外と的を射た特徴で、Madoneの振動吸収性能を本当に向上させているのかもしれないと感じてしまった。
TREKは前作の第6世代で振動吸収をとことん研究した。バイクが上下に揺さぶられることによって、エネルギー損失し余計なパワーを消費させてしまうインピーダンスロスを最小限に抑えようとした。第7世代であっても、その面影が十分残っている。
Madoneの一番のウリはサイクリストの好物の空気抵抗かもしれない。しかし、実際に乗るとわかるのはエアロロードバイクらしからぬ優れた快適性だ。非常に乗りやすく、身体へのダメージが少なく、長時間乗っても身体へのダメージが小さいと感じた。
ハンドリング
TREKのバイクはどれもハンドリングが中庸だ。
TREKのBOONE、Emonda、Check Point、Domaneどれも共通していたことだ。ハンドリングの良さはTREKのお家芸みたいなもので、グラベルバイクだろうが、ロードバイクだろうがハンドリングに関してはハイエンド、ミドルグレード問わず一級品を作ってくる。
難点としては標準アッセンブルしているサイズだ。サイズによっては56cmのフレームに比較的短い100mmステムが装着されている。多くのライダーにとってアップライトなポジションになる可能性がある。体格次第では、ステアリング操作に違和感があるライダーもいるかもしれない。
小サイズは90mmが付属している。このサイズでも実際のハンドリングに特別な違和感はなかった。しかし、TREKの言う「ポジションによるエアロ効果」が得られない可能性があることも意味している。
ステアリングの感覚が理想となるものと合致するかどうかは、乗ってみてからの見極めが必要になる。できれば、Madoneハンドルバーを注文する前に、長いステムが必要かどうかをジオメトリーを見比べて検討する必要があるかもしれない。
総じて、純正品のアッセンブルに限ったステアリングについて言えば、Madoneは素晴らしい反応性と安定性を提供してくれた。ライダーは自信を持って方向転換を行うことができ、どの速度でも制御が容易だと感じるはずだ。
Madoneとレース
Madoneはレースバイクだ。
人と競争するために生まれた。だからこそ、ご近所をぶらっとお買い物しに行くバイクでもないし、ゆっくりとポタリングするバイクでもない。もちろんMadoneでもこれらをやれないことはないが、あえてMadoneを選ぶ必要はないだろう。
そこで今回は、Madoneを国内のレースに使用することを考えた。様々な種目に当てはめてMadoneの力が十分に発揮できそうな種目を見定めた。
ロードレース
国内のロードレースにおいてMadoneが活躍できるシチュエーションは多い。アマチュアが走るJBCFやホビーロードレースであれば、ほとんどのコースに対応できると思う。例えば、広島森林公園や群馬CSCなど登り区間が短く、下りもある程度のスピードが出る周回コースは得意な印象を受けた。
一方で、バイクの完成重量が軽いとは言い難いため、日本CSC(修善寺)など登りが多いコースの場合はTarmac SL7や新型のSuperSix EVOといった、完成車の重量が軽く、かつ空力性能も高いバイクを選択したほうが合理的だと感じた。
登りが長いコース(例:ニセコクラシック)は空力以外にもバイク重量が軽いほうが有利に働く可能性もある。そのような場合は、新型Madoneか先程紹介した6.8kgに仕上げられるバイクと悩んで、6.8kgに仕上げられるバイクを私は選ぶ。
理論上は200g~300g程度の重量増であれば、空力を改善したほうが速く走れる。しかし、瞬間的にやってくる登りでの軽快さ、長時間の登りなどを考慮すると一概に空力優先とも言い切れない。実際にレースを走って感じた実情だ。
ツール・ド・おきなわなどのロングレースの場合は、Madoneの特徴が生かされる可能性がある。快適な乗り心地のMadoneは「疲れにくい」ため、長時間ある程度道が悪い条件下でも、エアロロードバイクらしからぬ快適性がアドバンテージになる。
何度も書いているように、第7世代のMadoneはエアロ系ロードバイクにしては振動が感じにくく、かつしなやかで身体へのダメージも最小限に抑えられるバイクだ。
レーススタイルや展開にもよるが、散発的にアタックが繰り返され、それに耐えるようなシチュエーションの場合は、Tarmac SL7や新型GIANT PROPELなどバイクのほうが反応が良いと感じた。
Madoneが鈍いわけではないが、そこはエアロ系ロードバイクのどっしりとしたバイクの動きの鈍さが残っており、乗り手の好みを選びそうだ。これらのMadoneの印象は、昨今の「エアロロードながら6.8kg」に迫るバイク達との相対的な比較による優劣だととらえている。
筆者はこれまで、6.9kgのCANYON AEROADや、GIANT PROPEL、DOGMA F、S-WORKS TARMAC SL7、VENGE、Emonda、など、空力性能がよく、それでいて6.8kgに近いバイクを乗り継いできたためMadoneの重量がとても気になってしまった。
ヒルクライム
7世代目のMadoneはヒルクライムに用いるバイクではない。小物を付けたフレーム重量が1kgを超えていることからも明らかだ。実測重量を知った方は同じように感じてしまったかもしれない。富士ヒルクライムならもしかしたら行けるかもしれないが、あえてMadoneを使う合理的な理由はみつからない。
例えば、「ロードメインでやっているが、たまにヒルクライムやります」という方でバイクを1台所有する制約条件があればMadoneでも良いとおもう。ヒルクライム専業の方が決戦用でMadoneを用いることはおすすめできない。登りをどうしてもTREKというのならば、Emondaがいい。
ヒルクライムなら他社ブランドにも目を向けた方がいい。相対的に、軽さならSpecializedのAethos、エアロと軽さのバランスならCannondaleの新型SuperSix EVOなどを選んだ方が合理的だ。
クリテリウム
Madoneをクリテリウムに使う場合、判断が難しいと感じた。たしかに速い部類のバイクであるには間違いないのだが、立ち上がりのダッシュをかける場合の反応がTarmac SL7やGIANTの新型PROPELよりも劣っていると感じた。
かかりが悪いわけではないのだが、AEROADやVENGEがそうであるように、エアロ系ロードバイク特有のワンテンポ遅れるような進みの鈍さを感じた。7世代目Madoneに限らずこの特徴は、エアロ系ロードバイクの宿命なのかもしれない。
相対的に、Tarmac SL7やPROPELはかけたあとのレスポンスが早い。Tarmacや新型PROPEL系のバイクはクリテリウムの立ち上がりで、ポンポンとテンポよく速度を繋いでいき、また一定の巡航に入る、といったシチュエーションで使いたいバイクだ。
最後のスプリントでもかかりの良さは、やはりTarmac SL7といったバイクのほうが秀でていると思う。
エンデューロ
日本国内でも人気のあるエンデューロ、鈴鹿、富士スピードウェイ、岡山国際、もてぎなどで行われるレースはMadoneが得意とするスタイルだと思う。散発的にアタックなどもあるにせよ、一定時間、常にハイスピードで周回数をこなすスタイルは、空気抵抗の低さと快適性がバイクに要求される。
「長時間、快適に、速く」にうまくハマるバイクだ。
快適性が高いため、長時間の走行で蓄積していく身体へのダメージをいくらか緩和してくれるメリットもある。エンデューロのように、トップスピードから速度が落ちにくい競技にはMadoneは向いていると思う。
Madoneとライバル車
第7世代のMadoneのライバル車を考えたとき、2つの観点があると思う。1つ目は単純に「エアロ系ロードバイク」という枠組みで考えた場合だ。AEROAD、S5、SYSTEMSIXといった空力に振ったバイクがライバル車種としてあてはまる。
もう一つは、プロレースたとえばツール・ド・フランスという大舞台で勝負するバイクの枠組みで考えた場合だ。Tarmac SL7、Dogma F、PROPEL、SUPER SIX EVOといった総合的なバイクがライバル車になる。
TREKがMadoneをどちらの枠組みで勝負したいのかは、TREKだけが知っているのだが実際にはツール・ド・フランスなどプロのレースで他社に引けを取らない、勝利できるバイクとして開発したのだろう。
そうなってくると速く走るために空力が優先される。それにともなうトレードオフは重量増だ。昨今のプロのバイクは特に空力が重視されており、実際の重量は6.8kgではなく7.5kg前後のバイクが多い。数百グラムのディスアドバンテージと引き換えに、数ワットを獲得する機材選択が好まれている。
実際のところ、プロ用の機材で6.8kgギリギリというバイクは本当に数少ない。
空力観点で言えば、現行のTarmac SL7、Dogma F、PROPEL、AEROAD CFRとMadoneを比べてみても、平坦においてはどのバイクも大きな空力性能の違いは感じられない。限られたレギュレーションの中で設計され、空力性能は高止まりしている印象がある。
登りはというと、Tarmac SL7やPROPELといったバイクは軽快だ。それでも実際に走らせてみるとMadoneやAEROADが遅いと感じることはない。SWISS SIDEが検証した実験においても、1165gのLightweightと1600gのエアロホイールを比較するとエアロホイールのほうが速く走れる結果が出ている。
現代のレーシングバイクは「1つで全てを」という開発テーマが人気だ。それに対抗するために、「重いが、空力は良く、実際はMadoneのほうが速い」といったような結果が、今回の第7世代のプロモーションに添えられていたら、ライバル車よりも魅力的に映ったかもしれない。
Madoneは正直なところ、軽くはないバイクだ。とはいえ、空力性能が期待できるバイクだ。その長所を活かして、短所を補う気づきをサイクリストに提案できなかったのは残念な話である。
M40Xの乗り心地
「M40Xの乗り心地」があるのかと問われれば、「無い」と言い切れる。
現行Emonda、第7世代Madone、OCLV800を使用しマイナーアップデートした第6.5世代Madone、そしてCANYON AEROAD CFRとどれもまったく毛色が違う。どれも別物で似ても似つかない。
バイクの設計、形状、積層の量が違うのだから当然だ。TOUR誌が計測した実際の剛性数値にも顕著な差が出ている。「素材が一緒だから似ている」という考えは捨てた方がいい。使用している素材は同じであるが、MadoneはMadoneだし、AEROADはAEROADだ。
ただし、AEROAD CF(T800)とAEROAD CFR(M40X)は姿かたち、何なら金型も一緒なのだが、バイクの乗り心地には雲泥の差がある。これは全く別物だ。
M40Xは強度が高いため、手で押すとへこむほど積層を薄くし軽さを追求している場合が多い。対してCF SLXはある程度のカーボンを使用し、手で押してもへこまない堅牢さがある。
実際にフレーム以外のコンポーネントを全て共通にして走らせると、CFRのM40Xはまったりとした鈍いバイクに感じる。対してT800のCFは硬く鋭い感じがする。かといって、剛性の数値差に関してはCFもCFRもそれほど大きな違いが無いのが面白いところだ。
M40Xはこれまでのカーボンと比べて弾性率が高い。「弾性」という言葉を聞くと弾(はず)み跳ねる性質を連想してしまいがちだが、弾性率とは力を加えた時の素材の変形のしにくさのことだ。
MadoneがAEROAD CFRのようなもっさり感があるものの、M40Xを使用していることが原因ではないだろう。Emondaのローンチの際にTREKのエンジニアの方がおっしゃっていたが、M40Xを使用する利点は、表面積の大きなエアロ系ロードバイクの重量を減らせること、剛性ではなく、強度を高められる事だと思う。
作りの良さ、悪さ
Madoneのみならず、愛用していたEmondaもそうだったが、TREKのバイクには共通して作りの「良さ」と「悪さ」がある。まずは「良さ」からだ。
- フレームの造形が美しい
- 塗装が美しい
- 良い意味で工業製品
新型Emondaや新型Madoneで共通していた良さとして、フレームの細部に造形の美しさがある。特にEmondaは優雅で気品がある艶めかしさが感じられた。
カーボン繊維の単なる集合体であるにもかかわらず、トップチューブのわずかなつぶしや、フレーム全体のデザイン性がマスプロメーカらしからぬ手の込んだ作り込みが魅力だ。
TREKの強みであるプロジェクトワンの塗装も心底美しい。プロジェクトワンの塗装を一度見れば、アップチャージしてでもプロジェクトワンの塗装が施されたバイクを手にしたいと思うだけの価値がある。
一方で量産型のカラーであってもその品質は高い。実際に今回乗ったMadoneは量産型の塗装であるのにもかかわらず、他社のバイクと比較しても美しいと感じた塗装だ。プロジェクトワンではない量産型のバイクにも、同社の高い塗装技術が生かされている。
細部の小物パーツは作り込まれており、工業製品のような完成度の高さがある。分割式スペーサーを採用しており、ハンドル高さの変更を容易にしている。細かな部品ひとつひとつに対して十分な設計と使いやすさ、そして販売店を通じたアフターパーツの入手性の高さも魅力だ。
その他にも、TREKのバイクに共通している嬉しいポイントとしては、純正のチェーンキャッチャーが標準装備されている。Emonda、Booneも共通していた仕様だ。
一方で悪い点についてもふれておかなくてはならない。
- スルーアクスルが重い
- スルーアクスルまわりのフレーム造形が野暮ったい
- ヘッドチューブが長い
- ヘッドベアリングの防水対策がない
TREKのディスクロードバイクで改善してほしいのがスルーアクスルの設計だ。スルーアクスル自体の重量がお世辞にも軽いとは言えない。むしろ重い部類だ。わたしは、どうしてもTREKの純正スルーアクスルが好きになれず、ワンオフでTREK専用のチタンスルーアクスルを作成した。
また、スルーアクスルのヘッドが格納されるフレーム部分の作り込みが甘く感じられた。昨今のディスクロードバイクは、スルーアクスルを考慮したフレーム設計になっている。CANYON AEROADはスルーアクスル先端部分が見えないようにカバーが施されている。
CannondaleのSuperSix EVOは、スルーアクスルの頭すら見えなくなっている、フォーク自体がすっきりとしており、設計の高さがうかがえる。
スルーアクスルまわりのフレーム造形は余裕がありすぎて野暮ったいのは現行のEmondaもそうで、第7世代のMadoneも同じだった。Emondaの頃よりは多少改善されたが、他社メーカーの最新モデルと比較するともう一歩、といった印象をうける。
スルーアクスルの寸法や、締め付けトルクが決まっているのだから、それらを計算して新型EVOのような美しい仕上げにできなかったものか。第7世代のMadoneにもスルーアクスルまわりの不満が残っていた。
次にTREKのバイクは、標準的な日本人が乗るサイズにおいてヘッドチューブが長い傾向にある。
- 50:111mm
- 52:121mm
- 54:131mm
一方でTarmac SL7は
- 49:102mm
- 52:113mm
- 54:131mm
レーシングバイクであるにもかかわらず、ステム取り付け位置が高くなってしまう場合がある。実際にEmondaのヘッドチューブも長く20°のステムを使用していたが、それでもポジションが出せなかった。
純粋なレーシングバイクであるのならば、小サイズであってもあと10mmはヘッドチューブを短くしても良いと感じた。
また、新型BOONEや新型Emondaもそうだったのだが、ヘッドベアリングの防水対策が甘い。ヘッドベアリングからブレーキホースを通す宿命なのか、ハンドルを切ると、ベアリングが丸見えになる。雨天時に水の侵入を容易に許してしまうだろう。
グレードと価格
昨今のロードバイクは、ディスクブレーキ化、カーボン材料の高騰化、開発コストの増加などの影響を受けて価格が上昇している。TREKの最高級ロードレースバイクであるMadoneが”安くない”という事実は当然でもある。
ここで全てのモデルの価格を確認してみよう。
- Madone SLR 6 Gen 7 (105 Di2): ¥1,243,990
- Madone SLR 6 AXS Gen 7:¥1,314,390
- Madone SLR 7 Gen 7(ULTEGRA Di2): ¥1,336,390 – ¥1,397,990
- Madone SLR 7 AXS Gen 7:¥1,529,990
- Madone SLR 9 Gen 7(DURA-ACE Di2):¥1,770,890
- Madone SLR 9 AXS Gen 7:¥1,880,890
2023 年の Madone SLR 6 (Shimano 105 Di2 搭載) の、いわゆるエントリーグレードのコンポーネントとホイールを搭載したビルドは124万円だ。最高級のDura-AceビルドとRed eTapビルドの価格は、それぞれ177万円と188万円になる。
TREKは新しい Madone をこれら6つのビルドで提供しており、そのうち3つは SRAM (Red、Force、Rival eTap) を搭載、3つは Shimano (Dura-Ace、Ultegra、および 105 Di2) を搭載している。
すべてのMadoneビルドには、新しい統合コックピットが同梱されている。Dura-AceとRed を装備したMadoneにはBontrager Aeolus RSL 51 ホイールが付属するが、他のすべてのビルドにはわずかに重い Aeolus Pro 51 が付属する。
105搭載で120万超えというハイプライスになっているが、105であってもコンポーネントの電動化や、原材料や人件費といった開発に伴う全ての原価が高騰しているのが冒頭で説明した機材高騰化の理由だ。購入する側からすると、手の届きにくいハイエンドモデルになってしまった感は否めない。
カラー
カラーは「Deep Carbon Smoke」「Viper Red」「Azure」「Metallic Red Smoke to Red Carbon Smoke」「Quest Smooth Silver」の5種類だ。
コラム:TREK Madoneと新型CROWN クロスオーバー
すこし違った角度から、TREK Madoneを評価したい。
先日、友人が所有する「新型CROWNクロスオーバー」に乗車した。新型TREK Madoneは新型CROWNに通じるものがある。大柄なボディにもかかわらず機敏な動きをし、滑らかなステアリングと、地形に合わせた走行モード選択によって、ドライバーに不快な感じを与えない心地よさがあった。
新型TREK Madoneに乗った時も、同じような感覚を抱いた。
新型CROWNクロスオーバーは、クロスオーバー名の通りどんな道路状況でも優れた走行性能を発揮する。同様に、TREK MadoneもISOFLOWによるコンプライアンスの高さ、その軽快さと反応性がある。そして扱いやすいハンドリングで、路面条件が多少悪くとも、安定して走行することができる。
CROWNクロスオーバーで感じたのは、サスペンションシステムの良さだった。私の愛車が安い車だからなおさらそう感じたのかもしれないが、道路上の凹凸を効果的に吸収し、静かで穏やかな乗り心地を提供してくれた。
一方、MadoneのISOFLOW設計も同様の役割を果たしている。エアロ系フレームにありがちな乗りごこちの悪さや硬さを和らげ、より快適な乗り心地を提供してくれる。これは、特に悪路や段差を走行時に通過する際に顕著に感じ取れた。
CROWNクロスオーバーが困難な道路状況でも滑らかな乗り心地を提供するのと同様に、Madoneも快適なライドをライダーに提供し続ける。
両者に共通する最も重要な要素は「ライドの感覚」だ。CROWNクロスオーバーの運転席から見える道路の風景、エンジンの音、ハンドルの感触、それらすべてが一体になって、「走る喜び」を生み出していた。
同様にMadoneも、スピード感、レスポンスの良さ、ハンドリングしやすさなど、走る喜びを引き出しすためのきっかけを多く提供してくれる。それはまるで、CROWNクロスオーバーがスムーズでパワフルな加速を提供するのと同じように、Madoneも速度と進みの良さを感じさせてくれた。
TREK Madoneの乗り心地は、CROWN クロスオーバーと同じように、そのパフォーマンスと快適さのバランスチューニングが絶妙であり、乗り物を走らせる喜びを最大限に高めてくれる。
まとめ:TREK史上・・・
TREKが「究極のレースバイク」と名付け、同社の威信をかけたMadoneはレースバイクに求められる要素が最大限に高められていた。最も特徴的な、ISOFLOWは空力効果だけではなく、エアロロードバイクらしからぬ優れた乗り心地に寄与していた。
TREK Madoneは、優れたエアロダイナミクス以外にも、振動吸収性、スムーズな走行感、軽快な走り、そして素晴らしいステアリングの特徴があり、究極のレースバイクという言葉に嘘や偽りはない。
独自のデザインとテクノロジーを駆使し、新たな可能性を追求するTREKの姿勢を象徴していると言っていい。
「Madone」と名付けられたバイクは、TREKの最新技術がふんだんに投入され、他社が真似できないバイクとして存在しなければならない。第7世代は、脈々と受け継がれてきたMadoneの血統を純粋に受け継いでおり、最先端を走っていた。
しかし、機能や性能が突き詰められ、バイクとしての仕上がりは一級品である一方で、過去のMadoneに必ず存在していた時代を象徴する「サイクリスト」と「バイク」を結びつける物語は、第7世代で途絶えたように感じた。
「ランスxMadone」のような物語が、現代のMadoneにはない。
もちろん、そんなことなどMadoneの性能を微塵にも表現していないし、バイクの評価とはまったく関係のない話だ。
それでも、「アラフィリップが乗るTarmac」や「マチューが乗るAEROAD」といったように、時代を象徴するライダーが操ることによって、バイクの価値や期待は高まっていく。
歴代のMadoneへのあこがれがあったがゆえに、Madoneというバイクに対してどこか幻想をいだいていたのかもしれない。こんな感情は、他のバイクでは感じたことがない。だからこそ、「TREK Madone」は今でも特別な存在なのだ。