フランスの老舗ブランドTIMEは「ファストグラベル」マシンを求めるライダーに向けて初のグラベルバイクADHXをリリースした。新素材バイオベースダイニーマを編み込んだカーボン繊維を用いて、BCS、RTMといったTIMEを代表する技術を融合させている。製造はMade In FranceではなくEUであり、昔ながらのファンは落胆するかもしれないが、価格は日本円で45万円前後とTIMEにしては安い価格設定だ。
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一目でわかるTIME ADHX
- 高性能グラベル/オールロード
- BCS、RTM、DYNEEMA®テクノロジー
- トップチューブマウントポイント
- 鍛造カーボンドロップアウト
- 38-40Cのタイヤクリアランス
- 5サイズ
- 1025g
長年の沈黙を破り、TIMEがついにフレームをリリースした。ロードバイク用フレームではなく、グラベルバイク用のADHXだ。TIMEは世界で最も強い繊維であるバイオベースダイニーマを初めて採用し、より優れたパフォーマンスを発揮するマシンを作り上げた。
また、BCS(ブレイデッドカーボン)製造を初めて採用したTIME独自の技術で、複数の種類の繊維をそれぞれの多方向ブレイド状に組み込むことにより、ほぼすべての面で従来のカーボンプリプレグ構造より優れた性能を実現しているという。
ADHXは、高精度の樹脂トランスファーモールディング(RTM)工程で製造され、品質と精度のコントロールが行き届いたフレームに仕上がっている。これまでMade In Franceが1つのステイタスだったが、残念ながら製造はフランスではなくEUとしか公開されていない。
TIMEとしては、初めてリリースするグラベルADHXは、最高性能の「ファストグラベル」マシンを求めるライダーに向けて開発された。重量、剛性、快適性、ハンドリングは、「TIMEらしさ」を実現しているという。
ADHXの特徴
ADHXにはTOP TUBE MOUNT POINTがある。ライディング中のアクセスができ、標準的なボトルマウントを使用するバッグやマウントシステムと互換性がある。
フロントシングル、ダブルチェーンリングドライブに対応するためフレームの穴が露出したり、ディレイラーマウント用の穴が露出しない配慮がなされている。TIMEシングル用カバーは、1Xセットアップを、他のバイクと同様に洗練されたものに仕上げている。
TIMEとしては初のケーブル完全内装構造である DEDAのS-DCR HEADSET FOR SEMI & FULLY-INTEGRATED CABLESを採用している。内装構造により、クリーンなコックピットは単に見た目が良いだけでなく、ケーブルが隠されていることにより空力性能も向上している。
そして、バーにはサイクルコンピューターマウントなどアクセサリーのためのスペースが確保できる。純正付属しているDEDAのS-DCRヘッドセットは、標準的なステムやハンドルバーと互換性があり、セミインテグレーテッドセットアップが可能になっている。
ADHXのタイヤクリアランスは、38-40Cまたは約40MMのタイヤにフィットするように設計されている。
リアエンドには鍛造カーボンを採用され、スチールや合金の20倍の疲労寿命を持っている。他のパーツがより重いアルミニウムを採用している中で、TIMEは鍛造カーボンを採用している。繊維含有率は60%で、プリプレグでは困難なクラックのない穴あけやねじ切り加工が可能になっている。
ジオメトリ
ジオメトリはオールロードジオメトリを採用している。5種類のサイズから選択できる。
バイオベースダイニーマファイバー
カーボン繊維を購入し自社で編み込みを行う稀なメーカーであるTIMEが目をつけたのがバイオベースダイニーマだ。この繊維は、より軽く非常に強靭であることが知られている。
バイオベースダイニーマファイバーは、スチールと同じ重さでも15倍の強度を持ち、最大43cN/dtexの引張強度がある。ダイニーマファイバーは水に浮くほど軽く、さらに非常に高い弾性率(変形に対する抵抗力)を持っている。
ダイニーマは、数年前からスペシャライズドのシューズに採用されるなどサイクリング業界のニュースを賑わせているが、これまでこの先端素材ダイニーマを製品に採用できたメーカーはほとんどない。これは、プリプレグカーボン構造の制限によるところが大きい。
自転車メーカーは、大手カーボンサプライヤーが提供する一般的な繊維に制限されており、プリプレグフレームの硬化に用いられる高温は、ダイニーマ繊維の推奨最高温度を上回っている。また、プリプレグフレームで使用される高温は、ダイニーマファイバーの推奨最高温度を超えている。
しかし、TIMEは自社で編んだカーボン構造体(BCS)を使っているため、DSMが初めてバイオベース・ダイニーマファイバーを発売したときから、その繊維をテストしていた。さらに、RTM射出成形プロセスの低い樹脂温度は、ダイニーマで推奨される温度の範囲内に収まっている。
TIME ADHXにカーボン&バイオベースダイニーマハイブリッドBCS層を追加することで、剛性や重量を損なうことなく、構造体の強度を高めることができるメリットがある。
バイオベースダイニーマは、ヘッドチューブ、ダウンチューブ、トップチューブの交差点にあるBCSソックスに使用されている。これらのBCS編組には、重量比で30-35%のバイオベース・ダイニーマが使用されている。
バイオベース・ダイニーマが内側だけに使われている理由は、繊維に張力がかかったときにこの繊維の特徴が最大限に発揮されるためだ。衝突や前面衝突の際に、構造物の内側に張力がかかることに起因している。
今後のTIMEのフレーム開発プロジェクトでも使用される可能性があるという。
TIMEで行っている複雑なフレーム製造の工程は、自転車業界ではとてもユニークなものだ。TIMEの製造方法は、非常にコストがかかり、特別な設備、熟練の職人によるもので支えられている。TIMEは幸運にも、最初からこの道を歩んできた。そして、何十年にもわたる技術と独自のエンジニアリング経験を蓄積してきている。
次は、そのTIME独自のカーボンフレーム製造技術についてみていく。
Braided Carbon Structure(ブレードカーボン構造)
BCS(Braided Carbon Structure ブレードカーボン構造)とは、繊維を複雑な双方向の「ソックス」に加工することだ。これらのチューブは、異なる材料で簡単に調整することができる。現在、TIMEでは16種類のフィラメントから最適なものを選択することができる。
このプロセスによって、サイクリングの世界では前例のない切れ目のない連続した繊維を、構造体の全長にわたって行き渡らせることが可能になった。簡単に言うと 何層もの途切れることのない完全な繊維がフレームに行き渡っている。
ステアラーチューブ内を走る織物繊維とフォーククラウンと一体化し、さらには フォークの脚部分は、重なり合う部分が最小限の構成になっている。これと対照的なのが多くのアジア・北米メーカーが採用している標準的なプリプレグレイアップで、すべてのエッジがカーボンシートが弱点になる可能性がある。
BCSでは、複雑な「素材チューニング」が可能になり、乾燥した繊維から始めて、樹脂を加えていく方法がとられている。成型工程で 一度の織りで高弾性率(HM)カーボン、高強度(HM)カーボンを簡単に製作することができる。
TIMEのカーボン繊維には、カーボンやケブラー(Kevlar)を補強材として組み込んでいる。Vectranのような新素材が利用可能になった場合TIMEは迅速にテストし、取り入れていれているという。
レイアップとディレクショナルモーフィング
TIMEは柔軟性のあるドライ素材を使用することで、レイアップ工程でより高い制御が可能になった。プリプレグシートには粘着性のある樹脂が含まれているため、一度貼ると調整が難しく、曲面への貼付は困難で、応力の高い部分に何百もの小さなピースが必要になる。
曲面のヘルメットに粘着シールを貼るのと、ある程度伸縮する布を貼るのとを想像すると、BCSの考え方は理にかなっている。BCSソックスの方向性モーフィングは、複合材構造の剛性と方向性コンプライアンスを調整する、シンプルな手法として長年取り入れられている。
レイアップ時にチューブの長さに沿ってBCSソックを伸縮させると、両端の特性が変化する。プリプレグレイアップでは、これらの同じ目標を達成するために、カーボンシートをさまざまな角度で重ね合わせ、これらのピースの端は、構造の残りの部分よりも弱い遷移を作り出している。
RTM
レジントランスファーモールディング(RTM)は、コンポジット構造の欠陥を最小限に抑えることができる最良のカーボンフレーム製造方法だ。剛性の高い外型と内型の間に高圧で樹脂を注入することで、エアポケットを押し出し、層間の空隙をなくすことができる。
樹脂は精密な金型が許す範囲でしか流れず、意図した形状にしかならないため、RTMの品質は極めて公差が広く、均一で一貫性があり、美しい完成品に近いものが得られる。RTMプロセスは航空宇宙やハイエンドの自動車用途では一般的だが、自転車用途ではRTMプロセスを採用するメーカーは皆無だ。
理由の一つとして、カーボンを外型に押し付ける内部のエアバッグにより、材料のしわやエアポケット、樹脂の滞留が発生する可能性があるからだ。
LOST WAX RTM加工で必要となる外型と内型は、プリプレグでは再現できない複雑な形状や補強を可能にしている。外型はスチール製で、標準的なカーボン構造で使用されるものと非常によく似ているが、TIMEは非圧縮性のワックスで内型を作成している。
この洗練されたワックス製の内型は、それ自体が複雑な芸術作品だ。剛性の高い内型フォームは、カーボンレイアップのための構造を備えており、樹脂注入プロセスで繊維を所定の位置に保つことができる。
カラー展開
価格
気になる価格は、以下の通り。
- Disc Brake + Fork €3.499(日本円換算 47万)
- RTP Disc Brake + Fork €3.299(日本円換算 45万)
スペック
- フレーム重量: 1025g (SM,塗装前)
- フレーム素材: BCS Carbon Fiber – Dyneema® Enhanced
- サイズ: XS, SM, MD, LG, XL
- フォークステアラーチューブ: Tapered 1–1/8” to 1–1/2”
- ヘッドセットベアリング: Top and Bottom: 1–1/2”
- ホイールサイズ: 700c, ETRTO 38–622
- 最大タイヤ幅: 38-40c
- BB:BB386
- DISC HUB 12x100mm F, 12x142mm R
- THRU AXLES: 12x120x1.5mm Pitch F, 12x159x1.5mm Pitch R
- シートポスト経: ø27.2mm
- シートポストクランプ: Proprietary ADHX Alloy
- シフト: Compatible with Electronic and Standard Shifting Systems
- フロントディレイラー: 1X and 2X Compatible with Integrated Single Cover and Drivetrain Conversion Kit
- リアディレイラー: Standard Mount
- フロントブレーキ: Front and Rear Flat Mount Disc
- ローターサイズ: 140/160mm with Adapter
まとめ:TIME初のグラベルバイク
長年の沈黙を破り、TIMEがついにフレームをリリースしたことは喜ばしい。しかし、ロードバイク用フレームではなく、グラベルバイク用のADHXというのだから驚きだ。TIMEは世界で最も強い繊維であるバイオベースダイニーマを初めて採用し、より優れたパフォーマンスを発揮するマシンを作り上げた。
その技術はいずれロードバイクにも流用されて、新たなTIMEフレームがリリースされることをこっそりと願っているが、昨今のロードバイク市場の激変ぶりにTIMEがどこまで食い込めるかは未知数だ。
そして、グラベルバイクという畑違いのカテゴリへの挑戦は新しい体制のTIMEに活路を見出すのか今後に注目だ。