「UCI規定の限界」をハックせよ。Speedmax CFR TTが覆す空力のタイムマシーン

4.5
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自転車競技におけるタイムトライアルは、スポーツという枠組みを超えた、ある種の哲学的な問いを内包している。

プロトンの中で他者と駆け引きを行い、スリップストリームという物理的な恩恵を享受し合うロードレースとは異なり、タイムトライアルは「個」の戦いである。そこにあるのは、ライダーと、マシンと、そして「時間」という絶対的な尺度のみである。

時間は不可逆であり、等しく残酷に過ぎ去る。

この物理法則に抗い、定められた距離をいかに速く移動するかという命題は、純粋なエネルギー効率の追求と同義である。ライダーが生み出す有限のワットを、いかに損失なく運動エネルギーへと変換し、空気抵抗という最大の障壁を切り裂いて進むか。

Canyon Speedmax CFR TTは、この問いに対するCanyonの回答であり、エンジニアリングの粋そのものであると言える。

今回は、Canyon Speedmax CFR TT(以下、CFR TT)がいかにして開発され、どのような物理法則に基づいて設計され、そしてライダーの感覚にどう訴えかけるのか。その全貌を、開発背景、空力理論、素材工学、そして官能評価の側面から包括的に追った。

「CFR」の定義

このTTバイクが同社のバイクラインナップの中で珍しいのは、CFRモデルしか存在しないことにある。Canyonの製品において「CFR(Canyon Factory Racing)」という冠は、性能追求の証左である。

それは単なるハイエンドモデルであることを超え、プロフェッショナルのレース現場、すなわちワールドツアーや世界選手権で勝利することのみを目的に設計された機材であることを意味する。

市場には多くのトライアスロンバイクやTTバイクが存在するが、CFR TTは特殊な立ち位置にある。それは「UCIの規定に準拠しつつ、物理的な限界に挑む」という、ある種の矛盾を抱えたプロジェクトだからだ。

トライアスロン専用モデル(Speedmax CFR Disc)が自由な造形で空力を追求できるのに対し、CFR TTは「8cmボックスルール」や「チューブ断面比率」といった制約の中で最適解を導き出さなければならない。

この制約こそが、エンジニアの創造性を極限まで刺激し、美しくも機能的な造形を生み出す原動力となった。

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Swiss Sideとの共創 - 見えない風を視る

Swiss Sideとのパートナーシップ

Canyonの空力開発を語る上で、Swiss Sideとの協業は不可欠な要素である。

Swiss Sideは、モータースポーツの最高峰であるF1で50年以上の経験を持つザウバーF1チームの元エンジニアたちによって設立された集団である。彼らは「エアロダイナミクス」を単なる空気抵抗の削減ではなく、パフォーマンスを決定づける最重要因子として捉えている。

自転車の巡航速度(時速45km〜50km)において、ライダーが出力するパワーの約80〜90%は空気抵抗に打ち勝つために消費される。

つまり、空力性能の向上は、生理学的なトレーニングによる出力向上よりも、遥かに効率的にタイムを短縮する手段となり得る。Swiss SideがCanyonにもたらしたのは、F1由来の高度な数値流体力学CFDのノウハウであった。

CFDによる「デジタル・ツイン」

開発の初期段階において、物理的なプロトタイプが作られることはない。すべてはスーパーコンピュータの中にある仮想空間で行われる。Speedmaxの開発プロジェクトでは、456回にも及ぶCFDシミュレーションが実施された。

これは単にフレーム単体に風を当てる単純な計算ではない。ライダーが乗車し、脚が回転し、ホイールが回り、ハンドルが切られた状態を再現する「動的シミュレーション」である。

回転するホイールが生み出す乱流が、ダウンチューブやシートチューブにどのような影響を与えるか。ペダリングによって変化する脚の後流が、リアホイール周辺の気流をどう乱すか。

これらをデジタル空間上で可視化し、チューブ形状をミリ単位で修正していく。いわば、現実世界の物理法則を完全に模倣した「デジタル・ツイン」を用いた開発手法である。

97回の検証走行と実走データ

CFDはあくまで理論上の最適解を導き出すツールに過ぎない。現実世界には、路面の微細な凹凸、突発的な横風、ライダーの疲労によるフォームの乱れなど、計算しきれない変数が存在する。Canyonは、理論を現実に適合させるために、97回にも及ぶ検証走行を実施した。

これには、Chloe Dygertや、Alpecin-Deceuninckといった世界トップクラスのアスリートが関与している。彼らのフィードバックは、数値化できない「感覚」の領域を埋める重要なピースとなる。

「特定のヨー角(風の当たる角度)でハンドルが取られる感覚がある」「コーナリングの立ち上がりで一瞬の遅れを感じる」といった定性的なデータは、エンジニアによって再び解析され、設計にフィードバックされる。

この反復プロセスこそが、機材としての完成度を高めていった。

  実施回数 目的
CFDシミュレーション 456回 デジタル空間での徹底的な形状最適化。F1由来のアルゴリズムを使用。
検証走行 97回 実走環境下でのデータ収集とライダーフィーリングの確認。
風洞実験 数え切れない日数 最終的な抗力係数(CdA)の計測と、CFDデータの相関確認。
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空力性能(CdA)

境界層制御と抗力のメカニズム

物体が空気中を移動する際、表面には「境界層」と呼ばれる薄い空気の膜が形成される。この境界層が物体表面から剥離すると、後方に大きな渦(乱流)が発生し、これが物体を後ろに引き戻す「圧力抗力」となる。自転車における空気抵抗の大半はこの圧力抗力である。

Speedmax CFR TTのフレーム設計において、Swiss Sideは境界層の剥離ポイントをコントロールすることに注力した。

特に低速域(自転車にとっては高速域だが、航空力学的には低レイノルズ数領域)では、空気の流れを可能な限り層流のまま維持し、剥離を遅らせることが重要となる。一方で、意図的に乱流遷移させて剥離を防ぐ手法も部位によっては用いられる。

ディスクブレーキ化の空力的逆説

本モデルにおける最大の技術的トピックの一つが、ディスクブレーキの採用である。一般的に、ローターやキャリパーといった突起物が増えるディスクブレーキは、空力的に不利であるとされてきた。

しかし、CFR TTは先代のリムブレーキモデル(Speedmax CF SLX TT)と比較して、ディスクブレーキを搭載しながらも2.7ワットの空気抵抗削減(45km/h走行時)を実現している7。

この「逆説」を可能にしたのは、ブレーキシステムを含めたトータルパッケージとしての設計である。

  1. フォーククラウンの拡張: フロントフォークはタイヤとのクリアランスを広げ、回転するタイヤが引きずる空気とフォークの干渉を減らした。

  2. キャリパーの遮蔽: フォークブレードのデザインを工夫し、キャリパー自体を気流から隠す形状を採用した。

  3. ケーブルの完全内装: リムブレーキ時代には露出せざるを得なかったブレーキワイヤー類を、油圧ホース化と電動変速化により完全にフレーム内部に収めた。

これにより、局所的な抵抗増(ローター等)を、システム全体での抵抗減(クリーンな表面、乱流抑制)が上回る結果となったのである。

UCIルールの制約とトライアスロンモデルとの比較

Speedmax CFR Di2

ここで冷徹な事実にも触れなければならない。

Canyonのデータによれば、UCI規定に縛られないトライアスロン専用モデル(Speedmax CFR Disc)は、先代TTモデルに比べて約9〜10ワット速い。一方、新型CFR TTは先代より2.7ワット速い。

つまり、純粋な空力性能だけを見れば、UCI準拠のTTモデルは、トライアスロン専用モデルに対して約6〜7ワット程度の「空力的ペナルティ」を負っていることになる。

これは、UCI規定がダウンチューブのフェアリング化(ハイドレーション内蔵など)や、極端な異形断面を禁止しているためである。しかし、この数値差はエンジニアの敗北ではない。

むしろ、極めて厳しい制約の中で、先代モデルを上回る性能を叩き出したことは、エンジニアリングの勝利と言える。TTバイクは「ルールの中で最速」を目指すものであり、その目的においてはCFR TTは頂点に達している。

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軽量性と剛性 - Toray M40X

素材工学の頂点

「軽さは正義か?」

タイムトライアルにおいて、平坦基調であれば重量の優先順位は低いとされる。しかし、Canyonはその常識に挑んだ。CFR TTのフレームには、日本の東レが開発した「Toray M40X」という最先端のカーボンファイバーが採用されている。

カーボン繊維には、引張強度(強さ)と弾性率(硬さ)のトレードオフが存在する。通常、硬いカーボンは脆く、強いカーボンは柔らかい。しかしM40Xは、ナノレベルの繊維構造制御技術により、高強度と高弾性をかつてない次元で両立させた素材である。

これにより、フレームの肉厚を極限まで薄くしても、ペダリングパワーを受け止める剛性と、破断しない強度を確保することが可能になった。

1030gの衝撃と動的性能

その結果、Speedmax CFR TTのフレーム重量は、Mサイズでわずか1030gという数値を達成した。

これはエアロロードバイクの最高峰であるCanyon Aeroad CFR(980g)に肉薄する数値であり、複雑な造形を持つTTフレームとしては驚異的である。フォーク重量も約370g〜500g7に抑えられ、完成車重量は8kg台半ばを実現している。

この軽量性は、単に登坂タイムを短縮するだけではない。バイクの重心から遠い部分(フレームの上部や末端)が軽くなることで、バイクを振る動作やコーナリングの切り返しにおいて、慣性モーメントが低減される。

つまり、ハンドリングが軽快になり、ライダーはバイクを意のままに操ることができるようになる。長時間のTTにおいて、重いバイクをねじ伏せるストレスから解放されることは、精神的な余裕を生み、結果として出力維持に貢献する。

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ハンドリングとジオメトリー

直進安定性の物理学

時速50kmを超える速度域でDHバーを握るTTライダーにとって、最も恐ろしいのはバイクの挙動不審である。エアロポジションでは重心が前方に移動し、操舵のてこ比も小さくなるため、バイクは不安定になりやすい。

CFR TTのジオメトリーは、この高速安定性を最優先に設計されている。

  • ヘッドアングル: 全サイズで73.0度。これは一般的なロードバイクに近い数値であり、過度なクイックさを排除している。

  • フォークオフセット(レイク): 35mm。

  • トレイル量: 66mm。

トレイル量は、前輪の接地点とステアリング軸の延長線の交点との距離であり、この数値が大きいほど「キャスター効果」により直進安定性が増す。66mmという数値は、ロードバイクとしてはやや大きめ(安定志向)の設定であり、DHポジションでのふらつきを抑制する意図が見て取れる。

ホイールベースとコーナリング

ホイールベースはMサイズで1014mmと長めに設定されている。長いホイールベースは、直進安定性を高めると同時に、路面からの衝撃を緩和する効果もある。

一方で、コーナリングにおいては旋回半径が大きくなる傾向があるが、軽量なフレームと高剛性なスルーアクスルの恩恵により、狙ったラインを正確にトレースする感覚を実現している。

横風感度とセイリング効果

TTバイクにとって横風は最大の敵の一つである。ディープリムホイールと扁平なフレームは、横風を受けるとヨットの帆のように作用する。Swiss Sideの研究によれば、適切な形状設計を行えば、横風を推進力に変える「セイリング効果」を得ることができる13。

Speedmax CFR TTのシートステイやフォークブレードは、翼断面形状を採用しつつ、特定のヨー角において負のドラッグ(推進力)を発生させるようチューニングされている。

これにより、強風下でもハンドルを取られる力(ステアリングモーメント)が最小限に抑えられ、ライダーはエアロポジションを解除することなく走り続けることができる。これこそが「空力性能=ハンドリング性能」という現代TTバイクの真髄である。

ジオメトリー項目 (Size M) 数値 意図
スタック (Stack) 496mm 極めて低いフロントエンドを実現し、攻撃的なエアロポジションを可能にする。
リーチ (Reach) 435mm 長めのリーチにより、窮屈さを排した伸びやかなフォームを許容する。
ヘッドアングル 73.0° ロードバイクに近い設定で、ニュートラルなハンドリング特性を確保。
トレイル量 66mm 高速巡航時の直進安定性を重視した設定。
チェーンステー長 420mm 全サイズ共通。反応性と安定性のバランスを考慮。
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統合システムと調整機能

コックピット:Canyon HB0058 Basebar Drop CF & V19 Stem

自転車とライダーの接点(コンタクトポイント)の中で、TTバイクにおいて最も重要なのがコックピットである。CFR TTのために開発された HB0058 Basebar Drop CF は、UCI規定に準拠しつつ、極限まで前面投影面積を減らすために幅390mmという狭い設計がなされている。

ステム(V19 Stem)はトップチューブと完全に面一(フラット)になるよう統合されており、空気の流れを乱す段差を排除している。この一体感は、視覚的な美しさだけでなく、ライダーの視界に入る情報を整理し、集中力を高める効果も持つ。

エクステンション:Canyon PRO

エクステンションバーには、Canyon PROをベースとして、EP1967-01 LONG Extension Body、EP1968-01 Connection plate、Canyon Pro Armpad Hook Setが採用されている。これは技術的な革新である。

従来のTTバイクでは、電動変速のジャンクションボックスをステム内やフレーム内に隠す必要があり、配線や設置場所に頭を悩ませてきた。

しかし、Canyon PROシステムはこのジャンクション機能をエクステンションバー本体に内蔵している。これにより、コックピット周りから一切のボックスや余分なケーブルが消滅し、完全なるクリーンなエアロフォルムが実現した。

また、シフターのボタン配置も人間工学に基づいており、疲労した状態でも確実な変速操作を約束する。

調整機能(アジャスタビリティ)

「フィットしないエアロバイクは、ただの遅いバイクである」。

どんなに空力性能が高くても、ライダーがそのポジションを維持できなければ意味がない。Canyonはこの真理を理解しており、Speedmax CFR TTにはUCIルールの範囲内で最大限の調整機能を持たせている。

  • スペーサーシステム: アームレストの高さは、専用スペーサーを組み合わせることでミリ単位の調整が可能。

  • アームレスト: 前後左右への調整幅を持ち、肩幅やリーチに合わせた最適な肘の位置を見つけることができる。

  • チルト調整: オプションのパーツや、プロ選手(Patrick Langeなど)が使用するようなカスタムパーツを用いれば、DHバーの角度(チルト)調整も可能であり、トレンドのバーが上に反り上がった「ハイハンズ」ポジションにも対応する。

プロ選手のバイクに見られるような、3Dプリントで作られたカスタムグリップや、チタン製のライザースタックといった「一品物」へのアップグレードパスも、このベースシステムの拡張性の高さが担保している。

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UCI準拠という「制約」と「解放」

ルールの壁と8cmボックス

UCIの技術規定は、自転車が「自転車らしい形」を保つためのルールである。

特に厳しいのが、かつての「3:1ルール(断面の長さは幅の3倍まで)」と、現在の「8cmボックスルール(パイプの交差部は8cm四方のボックスに収まる形状でなければならない)」、そして「最小チューブ厚(25mmまたは10mm)」などの規定である。

トライアスロンモデルがダウンチューブにハイドレーションを内蔵し、BB周りに巨大なストレージを設けることで空力を向上させているのに対し、CFR TTはこれらの「付加物」を一切排除しなければならない。

これは一見すると性能低下に見えるが、エンジニアにとっては「純粋なフレーム形状のみで勝負する」という原点回帰を意味した。

タイムトライアル特化の構成

UCIレース(ロードレースのTTステージなど)では、長距離トライアスロンのような大量の補給食や水分、パンク修理キットを携帯する必要がない。レース時間は長くても1時間程度だからだ。

Canyonはこの特性を活かし、CFR TTからストレージ機能を全廃した。これにより、フレーム内部の構造が単純化され、軽量化と剛性アップに貢献している。

ハイドレーションシステム(給水)も内蔵されていないが、これは短時間のTTではボトル1本で十分であり、シートポスト背後やダウンチューブのエアロボトルで対応可能という判断である。

また、フロントディレイラー台座を取り外し可能な設計(あるいは1x専用設計のオプション)にすることで、フロントシングル運用時の空力アドバンテージも視野に入れている。

平坦なコースであれば、フロント変速機を排除することで、乱れやすいBB周りの気流を整流化し、数ワットの節約が可能になる。

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インプレッション

ここまで技術的な側面を詳細に分析してきたが、最終的に重要なのは「ライダーがどう感じるか」である。先に断っておきたいのは、100%完璧なポジションを出すことができなかった。

TTバイクはポジションを長い時間かけてだす必要があり、微妙な調整には時間がかかる。今回3時間ほどかけて様々なポジションを試した後、ロングを走りSPEEDMAX TTの動きを試した。

ロードバイクに肉薄する軽快性

まず特筆すべきは、その圧倒的な軽さである。

多くのエアロロードやTTバイクが抱える「重厚感」というネガティブな要素が、このバイクには皆無だ。フレーム重量1030g(Mサイズ)という数値は伊達ではなく、ゼロ発進や登坂時の軽快さは、まるで軽量ロードバイクに乗っているかのような錯覚を覚える。

これは、Toray M40Xを用いた薄肉フレームの恩恵であり、TTバイク特有の「もっさりとした」漕ぎ出しの重さは完全に払拭されている。

意のままに操れるステアリング

TTバイクの弱点とされてきたハンドリング性能においても、Speedmax CFR TTは一線を画している。

ステアリングフィールは極めてニュートラルで、ロードバイクのような自然な操舵感を持っている。コーナーへの進入で無理やりバイクを倒し込む必要はなく、目線を向けるだけでスムーズにラインをトレースできる。

これは、前述したヘッドアングルやトレイル量の最適化、そしてフロント周りの剛性バランスが完璧に調律されている証拠である。テクニカルなコースでも、ライダーは恐怖を感じることなく攻め込むことができるだろう。

ポジション出しという「儀式」

一方で、このバイクのポテンシャルを100%引き出すには、忍耐が必要だ。調整機能は豊富であるが、その最適解を見つける作業は一朝一夕では終わらない。

ミリ単位のスペーサー調整、アームレストの位置、エクステンションの角度。これらを自身の柔軟性や目標とするレース距離に合わせて煮詰めていく作業は、まさに「儀式」とも呼べる時間を要する。

しかし、その時間をかけた分だけ、バイクはライダーの身体の一部となり、空力性能というリターンを確実に返してくれる。

160mmクランクの効用

クランクは160mmだ。

近年、タイムトライアルやトライアスロンでトレンドとなっている「ショートクランク(160mm等)」の採用は、このバイクの特性と非常に相性が良い。

短いクランクを使用することで、上死点(ペダルが一番上に来る位置)での股関節の屈曲角度が緩やかになる。これにより、深い前傾姿勢をとっても大腿部とお腹が干渉せず、呼吸が楽になり、股関節周りの血流阻害も防げる。

結果として、より攻撃的でエアロダイナミクスに優れたポジションを、快適に長時間維持することが可能になる。Speedmax CFR TTの設計思想は、こうしたバイオメカニクスの最新トレンドとも完全に合致している。

純粋な速度

そして結論として言えるのは、「とにかく速い」という単純な事実だ。

一度巡航速度に乗れば、そこからの減速感は皆無に等しい。0.168m²というCdA値がもたらす世界は、ペダリングを止めてもバイクが前へ前へと進もうとする感覚としてライダーに伝わってくる。

風切り音だけが耳に残り、景色が後方へと飛び去っていく。この「純粋な速度の快楽」こそが、Speedmax CFR TTを所有する最大の喜びであり、エンジニアたちが目指した到達点なのだろう。

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まとめ - 科学と感性の地平線

Canyon Speedmax CFR TTとは何か

このバイクの結論は、Canyon Speedmax CFR TTが「妥協なき二律背反の統合」であるという点だ。

空力性能を追求しつつ、UCIルールという制約を守る。ディスクブレーキ化による制御性を手に入れつつ、重量増と空気抵抗増を技術でねじ伏せる。剛性の高い素材を使いつつ、乗り心地と軽量性を確保する。

これらの相反する要素を、Swiss Sideの空力知見とToray M40Xという素材技術、そして97回に及ぶ執念の検証走行によって、一つの有機的なシステムへと昇華させた。

このバイクは、あなたの出力を一滴も無駄にしない。機材の言い訳はもはや不可能であり、勝利はあなたの脚と精神力のみに委ねられる。制約こそが創造の母であることを、このバイクは教えてくれる。

CFDと実走データのループが生み出した造形美は、機能美の極致であり、見る者を飽きさせない。

Speedmax CFR TTを所有することは、最先端の科学技術を所有することと同義である。週末のライドで風を切る音、コーナーをクリアする瞬間の剛性感、そしてガレージに佇むその姿。すべてがあなたのサイクリングライフを、より深く、より速い次元へと引き上げてくれるだろう。

「Speedmax(スピードの最大化)」という名は、伊達ではない。それは、時間という絶対的な壁に対する、人類の飽くなき挑戦の証なのである。

Speedmax CFR TT
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