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圧倒的なコスパで21g軽量化:航空機グレードのアルミ削り出しにより、必要な剛性を維持したままバネ下重量を劇的に削減。
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「落ちないワッシャー」の革新:独自のキャプティブ構造(浮動ワッシャー)が、整備中の紛失リスクとフレームへのダメージを恒久的に解決。
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設計思想:賛否ある5mm六角穴と1.5mmピッチの採用理由、適正トルク管理と迅速なホイール交換の最適解。
これ、GIANT乗りは必須ではないのか。
GIANTが市場に投入した「Lightweight Road Thru Axle」は、単なるカタログスペック上の軽量化パーツではない。
たかが一本のアルミの棒に込められたGIANTの技術、なぜこれが「必須のアップグレード」となり得るのか。
ずっと売り切れで3か月まってようやく入手したGIANTの軽量スルーアクスルを紹介する。
72gから51gに軽量化!
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GIANTの完成車に標準装備されているスルーアクスルは、前後セットで約72gである。対して、本製品「Lightweight Road Thru Axle」は51.4gを実現しており、21gの軽量化(約29%の削減)を達成している。
この数値は、ロードバイクの軽量化競争において、費用対効果の観点から見ても極めて特筆すべき値である。ここでは、この軽量化を実現した技術的背景と、その物理的な意味を掘り下げる。
アルミニウム合金の選定:7075-T6 vs 6061
標準的なOEMアクスルや安価な社外品(KCNC、ワンバイエス等)では、加工が容易でコストが低い「6061アルミニウム合金」が採用されることが多い。
しかし、本製品のようなハイエンド・アフターマーケットパーツにおいては、航空宇宙産業で多用される「7075アルミニウム合金(超々ジュラルミン)」が採用されるのが通例であり、本製品もその例に漏れていない。
以下の表は、両合金の機械的性質の比較である。
| 特性 | 6061-T6 アルミニウム | 7075-T6 アルミニウム | 優位性 |
| 引張強度 | 約 310 MPa | 約 572 MPa |
7075は6061の約1.8倍の強度を持つ |
| 降伏強度 | 約 276 MPa | 約 503 MPa | 変形に対する耐性が圧倒的に高い |
| 比重 | 2.70 g/cm³ | 2.81 g/cm³ |
7075の方がわずかに重い |
| 耐食性 | 非常に高い | 劣る(表面処理必須) | 6061に分があるが、アノダイズ処理で解決可能 |
技術的なパラドックスとして、素材単体の比重は7075の方が重い。しかし、引張強度が約2倍近いため、同一の強度を確保するために必要な肉厚(断面積)を劇的に薄くすることができる。
GIANTのエンジニアは、この材料特性を活かし、「外殻と内殻を削り出す肉抜き加工」すなわち、アクスルのバテッド加工を極限まで推し進めた。
具体的には、応力が集中する「ネジ山部分」と「ヘッド(工具穴)周辺」の肉厚は確保しつつ、せん断荷重しか掛からないシャフト中央部の径を広げ、パイプ厚を薄くすることで、剛性を犠牲にすることなく質量だけを削ぎ落としている。
これは、Robert Axle Projectの「Lightning Bolt-on」やCarbon-Tiの「X-Lock」と同様のアプローチであり、現代の金属加工技術の粋と言える。
バネ下重量と慣性モーメント
21gの軽量化が走行性能に与える影響について、物理的な視点から正確に評価する必要がある。よくある誤解として「アクスルの軽量化=回転質量の軽減」とされることがあるが、これは厳密には誤りだ。
静的な質量として、スルーアクスルはフレームのドロップアウトに固定されており、ホイールのハブベアリングの内輪と共に「静止」している。回転するのはハブシェル、スポーク、リムである。
したがって、アクスルの軽量化は「回転慣性モーメント」の低減には直接寄与しない。加速性能への影響は、フレームやコンポーネントの軽量化と同義である。
重要になるのが「バネ下重量」の概念である。サスペンションを持たないロードバイクやシクロクロスバイクにおいても、タイヤの変形やフォークの微細なたわみをサスペンションシステムと見なせば、アクスルは路面の凹凸に追従して激しく上下動する「バネ下」に位置する。
バネ下重量が軽ければ軽いほど、路面の隆起に対する追従性が向上し、タイヤが路面から離れる時間を短縮できる。これはトラクションの向上と、ライダーへの突き上げ(振動)の軽減を意味する。
特に、私が使用しているTCXのようなシクロクロスバイクにおいて、泥や砂利の凹凸を通過する際、51gのアクスルは72gのアクスルよりも理論上、より俊敏に路面をトレースし、接地感を高める可能性がある(ほんの僅かではあるが!)。
チタンおよびカーボンとの比較

市場にはCarbon-Ti社のカーボン製アクスル(約30g台)や、私も制作を依頼し愛用しているチタン製アクスルも存在する。しかし、GIANTがあえてアルミ製を選択したのには合理的な理由がある。
チタン合金(Ti-6Al-4V)の比重は約4.43であり、アルミの約1.6倍重い。チタンでアルミより軽くするには、肉厚を極端に薄くする必要があり、剛性(ヤング率)とのバランスを取るのが難しい。

アルミ製51gという数値は、剛性を犠牲にせずに達成できる「実用的な軽量化」のスイートスポットである。
カーボンアクスルは最軽量だが、ネジ部やヘッド部の接合に異種素材接着が必要であり、オーバートルクによる破損リスクやコストが跳ね上がる。
GIANTの製品は、レース現場でのラフな扱いにも耐えうる信頼性と、4,400円という圧倒的なコストパフォーマンスを両立させている点で、エンジニアリングとしての完成度が高い。

ワッシャーが落ちない!:キャプティブ・ワッシャー
これが一番重要だ!
本製品の最大のハイライトであり、「非常に賢い設計!」と評したいのは、アクスルヘッドに装備されたキャプティブ・ワッシャーである。これは単なる脱落防止機能に留まらず、重要な役割を果たしている。
摩擦管理と軸力
重要な事実として、締め付ける際の入力トルクの約50%が「座面の摩擦(ヘッドとフレームの接触抵抗)」によって消費され、約40%がネジ山の摩擦で消費され、実際に軸力(固定力)として使われるのは残りの10%程度にすぎないということだ。
キャプティブ・ワッシャーの機能として、アクスル軸に対して自由に回転(フローティング)する構造になっている。締め付け開始時、ワッシャーはフレームのドロップアウト面に接触し、摩擦により静止する。
アクスルヘッドは、静止したワッシャーの上を滑りながら回転する。この利点は、アクスルヘッドが直接フレーム(塗装面やカーボン)を擦りながら回転する構造に比べ、摩擦係数が安定し、かつ低く抑えられる。
これにより、同じトルク値で締め付けた場合でも、より高い軸力(固定力)を効率的に得ることができる。また、フレーム側の摩耗や塗装剥がれ(これが原因で緩みが発生することもある)を物理的に防ぐことができる。
マーフィーの法則
レース現場、特にシクロクロスやグラベルの環境は過酷である。泥、雨、寒さ、そして疲労。こうした状況下では、「落ちる可能性がある部品は必ず落ちる(マーフィーの法則)」が適用される。パンク修理中はその法則が倍になるという(わたし調べ)。
従来のスルーアクスルでは、薄いワッシャーが別体式あるいは単なるOリング留めになっている場合もあり、ホイールを外してアクスルを引き抜いた瞬間、ワッシャーが泥の中に落下し、紛失するというトラブルに遭遇していた。
シクロクロス会場で落とし物を長年発見し続けている関西シクロクロスの熟練スタッフであっても、スルーアクスルのワッシャーを落とし物として見つけるのは困難を極めるだろう。
大問題なのは、ワッシャー無しで締め付けると、アクスルがフレームに食い込み、最悪の場合ドロップアウトを破壊する。「スルーアクスルのヘッド部で遊ぶように半固定されている」本製品の設計は、このリスクをゼロにする。
アクスルをどれだけ手荒に扱ってもワッシャーは定位置に留まる。これは、メカニックやライダーの心理的ストレスを軽減し、作業効率を最大化する「Fail-Safe(フェイルセーフ)」設計の模範例である。
他社がこの設計を模倣すべきという私の意見は、単なる願望ではなく、安全管理上の提言である。
5mm六角レンチ?トルク管理のジレンマ
賛否両論分かれるのは締め付け工具として5mm六角レンチを採用した点だ。6mmに慣れた現代のライダーからすると、賛否両論が存在するだろう。業界のデファクトスタンダードである6mmに対し、GIANTがあえて5mmを選択した背景はなにか。
5mm化の意図
なぜ6mmではなく5mmなのか。
実際に使用すると、理由は主に以下の2点に集約される。
1つ目は軽量化だ。六角穴の対辺を小さくすることで、アクスルヘッドの外径を小型化、あるいはヘッド部分の肉厚を確保しつつ全体の質量を削減できる。
2つ目はオーバートルクの抑制だ。これが、最も隠れた、しかし重要な理由である可能性がある。一般的に5mmの六角レンチは6mmよりも柄が短い。スルーアクスルの推奨トルク(通常10Nm〜12Nm)に対し、6mmレンチでは容易に過剰なトルク(20Nm以上)を掛けられてしまうリスクがある。
5mmレンチの使用を強制することで、テコの原理により物理的に過剰トルクを掛けにくくし、軽量なアクスル本体やカーボンフレームを保護する安全弁としての機能を果たしていると考えられる。
ユーザー視点での懸念:ナメる
一方で、「主流となっている6mmで設計してほしかった」という個人的な不満には正当な根拠がある。
12Nmというトルクは、5mmの六角穴にとっては高負荷な領域である。特に、携帯マルチツールなどの精度の低い工具や、ボールポイント側を使用して斜めにトルクを掛けた場合、5mmの穴は6mmに比べて接触面積が小さいため、応力集中により穴が変形(ナメる)するリスクが高い。
泥詰まりが発生しやすいシクロクロス(TCX)においては、工具のかかりが浅くなることもあり、このリスクは増大する。
運用上のおすすめ
この仕様を受け入れる上での対策として、以下の運用を推奨したい。
高品質な工具の使用すること。公差の厳しいPB Swiss ToolsやWera、Park Toolなどの高品質な六角レンチを使用し、工具と穴の隙間(ガタ)を最小限にする。
トルク管理を徹底すること。「手ルクレンチ(勘による締め付け)」に頼らず、定期的にトルクレンチを使用して適正トルク(約10-12Nm)を確認する。特に5mmビットを使用する際は、垂直に押し付けながら回すカムアウト防止動作を意識する。

互換性の迷宮
スルーアクスルの規格は「自転車業界のバベルの塔」とも呼ばれ、メーカーごとに長さ、ピッチ、座面形状が異なり、互換性の欠如が常態化している。GIANTの仕様を詳細に記録し、その互換性を分析する。
| 項目 | フロント | リア |
| 全長 | 116.8 mm | 160.8 mm |
| 軸径 | 12 mm | 12 mm |
| ネジ長 | 14 mm | 14 mm |
| ネジピッチ | M12 x 1.5 | M12 x 1.5 |
| ヘッド形状 | フラット(キャプティブワッシャー付) | フラット(キャプティブワッシャー付) |
| 価格 | 4,400円 (税込) | 4,400円 (税込) |
ネジピッチ M12 x 1.5
スルーアクスルのネジピッチには主に3つの規格がある。
- 1.0mm (Specialized等): 細目。緩みにくいが、脱着に多くの回転数が必要。
- 1.5mm (Shimano E-Thru, GIANT等): 中目。バランス型。
- 1.75mm (RockShox Maxle等): 並目。少ない回転で脱着できるが、緩みやすい傾向がある。
GIANTが採用する1.5mmピッチは、ロードレースにおける実用的な最適解である。1.0mmピッチに比べて1回転あたりに進む距離が長いため、ホイール交換のスピードが速い。一方で1.75mmほど粗くないため、振動による緩み耐性も確保されている。
また、ネジ山が大きいため、泥や砂が噛み込んだ際にもネジ山を潰しにくいというメリットがあり、これはオフロード(TCX、Revolt)での運用において大きな安心材料となる。
全長の独自性:116.8mm / 160.8mm
注目すべきは、116.8mmや160.8mmという「コンマ8ミリ」の指定である。汎用のアフターマーケット品(たとえばDT Swissの汎用RWSなど)は、フロント用として120mmや125mm、リア用として165mm前後のラインナップが多い。
GIANTのフレームおよびフォークのエンド厚は独自設計であり、汎用品をそのまま使用すると、長さが足りずに危険であったり、逆に突き出しすぎて他者と接触した際に怪我をさせるリスクがある。
この「Lightweight Road Thru Axle」は、GIANT専用に設計された純正アップグレードパーツであるため、スペーサー調整などの煩わしい作業なしに、ツライチの完璧なフィット感を得ることができる。これはわずかながらも空力性能の向上のみならず、落車時の破損リスク低減にも寄与する。
GIANTユーザーならマジで必須のアップグレード!!!
結論として、GIANTの「Lightweight Road Thru Axle」は、単なる自己満足のドレスアップパーツではなく、機能的必然性を備えたコンポーネントであると断言できる。
まず、投資対効果が高い。前後セットで8,800円という価格に対し、21gの軽量化が得られる。自転車パーツ市場において、1gを軽量化するためのコストは、ハイエンド域では数千円に達することも珍しくない。
本製品は約420円/gという驚異的なコストパフォーマンスを誇る。これに加え、キャプティブ・ワッシャーによる「作業性の向上」と「フレーム保護」、7075アルミによる「剛性の最適化」が付加価値として提供されることを考えれば、導入しない理由は見当たらない。
私自身、愛機であるGIANT TCXに本製品を投入し、実戦で使用している。
激しい泥詰まりの中、寒さで指の感覚がない状況でのピット作業において、「ワッシャーが落ちない」という安心感は絶大である。だれかにピットを頼んでいるときも、誤ってワッシャーを落とされる心配もしなくていい。
従来の分離型ワッシャーで感じていた「落としたら終わる」という心理的ストレスから解放されたことは、レースへの集中力を維持する上で大きな武器となっている。
また、走行感についても、激しいコーナーリングや急制動時にフォークエンドの剛性が損なわれた感覚は一切ない(そんなのわからない)。
むしろ、キャプティブ・ワッシャーによる確実な軸力管理のおかげか、ディスクローターの微細な擦れ音が減少し、バイク全体の一体感が増したようにも感じられる(個人のプラシーボ感想です)。
5mm六角レンチの使用についても、高品質なT型レンチをピットに常備することで、ネガティブな要素は完全に払拭できたと思う。確実なトルク管理と、座面損傷リスクの低減は、メンテナンスの質を向上させる。バイクを守るためにも、標準アクスルからの換装を推奨すべきである。
この 「見えない部分」へのこだわりこそが、マシンの完成度を高める。
標準の重いアクスルから換装することで、バイク全体の重心バランスと「バネ下」の軽快感をわずかながらも向上させることができる。その削り出しの造形美は、所有欲を満たすに十分なクオリティーを持っている。
GIANTのバイクを使っている方で、軽量化をしたい、より品質の良いスルーアクスルを使いたい方は、迷わず「Lightweight Road Thru Axle」を選ぶべきだ。それは、確実な足回りの軽量化と共に、エンジニアリングの粋を感じ取れる体験となるだろう。




















