なぜ、耳を塞がないイヤホンが求められているのか。耳を塞がないイヤホンは、周囲の情報を増やす目的がある。
警察庁が全国の警察本部に対して発した通達には、オープンイヤー型イヤホンについて以下のように言及されている。
「利用者の耳を完全には塞がず、その性能や音量などによってはこれを使用中にも周囲の音又は声を聞くことが可能であり、必ずしも自転車の安全な運転に支障を及ぼすとは限らないと考えられる」
従来のカナル型イヤホンを装着したままの自転車走行は、安全な運転に必要な音が聞こえない場合に違反となり、反則金5,000円の対象となりうる。通勤・通学で自転車を使いながら音楽を聴くという日常的な行為のあり方を、根本から問い直すものであった。
しかし、オープンイヤー型には長年の弱点があった。耳穴を塞がない構造ゆえに低音が逃げやすく、音圧を稼ぎにくい。風切り音も入りやすく、屋外での快適性はカナル型に遠く及ばないとされてきた。
そうした構造的ハンディキャップに正面から挑んだのが、SOUNDPEATS UU2イヤーカフだ。本機は、12mmデュアルマグネットドライバーとDynamicEQアルゴリズムの組み合わせにより、イヤーカフ型として圧倒的な低音再生を実現した。
耳を塞がないのに低音が鳴るという、構造上の矛盾に対する改善が施されている。実際に自転車に乗りながら、通勤電車などでUU2を試した。
耳を塞がない安全性
オープンイヤー型
UU2のオープンイヤー構造は、外耳道を物理的に塞がない空気伝導方式を採用している。耳の軟骨(耳介)にクリップのように挟み込むイヤーカフ型であり、カナル型やインイヤー型のように耳穴にイヤーピースを挿入しない。
この構造により、装着中も周囲の環境音がほぼ遮られることなく耳に届く。
駅のアナウンス、車のクラクション、自転車のベル、背後から近づく車両のエンジン音、家族の呼びかけといった生活音を自然に聞き取れるため、移動中や家事中のながら聴きに適している。
ただし、安全性はイヤホンの構造だけで決まるものではない。青切符制度の判断基準は「安全な運転に必要な音又は声が聞こえるか」であり、オープンイヤー型であっても大音量で使用すれば違反となりうる。
構造が開放的であることは安全性の前提条件にすぎず、使用者が適切な音量を保つことで初めて安全が担保される。この点はどのオープンイヤー型イヤホンにも共通する原則だ。
何を得て何を失ったか
オープンイヤー型は、遮音性と引き換えに開放感と安全性を得る。カナル型が耳穴を密閉することで外来ノイズを遮断し、音をダイレクトに鼓膜に届けるのに対し、オープンイヤー型は音が外へ逃げやすく、外からのノイズも混入する。
したがって、騒がしい交差点や幹線道路沿いでは音楽が環境音にかき消されがちだ。一方で、長時間装着しても耳穴への圧迫がなく、蒸れや痛みが生じにくいという快適性の利点がある。
イヤホンを外さずに会話できる自然さも、日常使いにおいては大きなアドバンテージである。
風切り音を抑える AeroVoice
AeroVoice
SOUNDPEATS独自開発の「AeroVoice」は、空気の流入方向を物理的に変えることで風切り音を低減する技術だ。
自社ラボでの測定において風切り音低減性能が一般的なイヤホンと比較して約25%向上したとしている。ただし、この25%という数値はあくまで同社の自社ラボにおける測定結果であり、測定条件や比較対象の詳細は公開されていない。
技術的な背景を推測すると、マイク開口部周辺の空力設計によって気流を整流し、マイクに直接当たる乱流を減らすアプローチであると考えられる。
UU2は片側2基ずつのデュアルマイクを搭載しており、AI通話ノイズキャンセリングと組み合わせることで、屋外での通話品質を高めている。
自転車走行中やランニング中に通話する機会がある利用者にとっては実用的な機能であるが、風速や走行速度によって効果が大きく変動するため、万能を期待するのは難しい。
AeroVoiceは通話用マイクへの風切り音対策であり、音楽再生時の環境風雑音を低減する機能ではない点にも留意が必要だ。
ニッケルチタン合金フレームとUブリッジ
ニッケルチタン合金
UU2のドライバー部とバッテリー部をつなぐUブリッジには、弾性TPU(熱可塑性ポリウレタン)とA級ニッケルチタン形状記憶合金(ニチノール、NiTi)のワイヤーが採用されている。
厚さは0.5mmの超薄型で、SOUNDPEATS公式によれば耳への圧力を前モデルUU比で61%軽減したとしている。ニチノール合金は、ニッケルとチタンをほぼ等量で合金化した金属間化合物であり、超弾性と形状記憶効果という二つの特異な性質を持つ。
超弾性とは、通常の金属であれば永久変形してしまうような大きなひずみ(最大8%程度)を加えても、荷重を除去すると元の形状に完全復帰する性質を持っている。
一般的な金属の弾性変形量が0.2〜0.5%程度であることを考えると、ニチノールは通常金属の10〜30倍の弾性変形が可能であり、様々な耳の形状やサイズに柔軟に追従できる。
激しい運動で変形してもすぐに元の形状に戻るため、サイクリングやランニングの振動であってもズレにくい。
耐食性も優れており、表面に形成される酸化チタン(TiO2)の不動態被膜が下地金属を保護する。この被膜はニッケルの溶出を抑制するため、直接肌に触れるイヤホンフレームの素材として生体適合性が高い。
歯科矯正用ワイヤー、血管ステント、眼鏡フレームなど、人体に長時間接触する医療・生活用品に広く使われてきた実績がある素材でもある。
装着感
前モデルUUやClip1と比較すると、UU2のUブリッジはフィット感が改善されている。片耳の公称重量は約5g(実測で約5.5g)であり、装着していることを忘れる軽さではないものの、長時間の使用でも痛みが出にくい。
私物のShokzは30gあるため、1/3の重量はほぼ何も感じないほどだ。
ただしブリッジ部分はやや硬めの質感で、前モデルのようなもっちりとした柔らかさとは異なる。耳の厚みや形状によってはフィット感に個人差が大きく、購入前に試着できる環境があれば一度試したほうが良いだろう。
本体の質感についてはプラスチック感で安っぽく感じるが、7,280円という価格帯を考慮すればやむを得ない部分であろう。
低音強化アルゴリズムと大口径ドライバー
12mmデュアルマグネットドライバー
UU2の音響の核は、12mm径のデュアルマグネット・ダイナミックドライバーにある。振動板にはチタンPVDコーティング(物理蒸着法によるチタン被膜)が施されており、振動板の剛性を高めつつ軽量性を維持している。
デュアルマグネット構造は、振動板を駆動するボイスコイルに対して2つの磁石で磁束を供給する方式であり、シングルマグネット構造と比較して駆動力が高く、特に大振幅が必要な低音域での歪みを抑制しやすい。
12mmという口径はオープンイヤー型としては大きい部類に入り、物理的に空気をより多く動かせるため低音の量感に寄与する。
DynamicEQ
DynamicEQは、SOUNDPEATSアプリ上で有効化するソフトウェアイコライザー機能であり、UU2の音質を語る上で避けて通れない存在だ。DynamicEQのオン・オフで別のイヤホンになるほど音の印象が変わる。
前モデルUUではDynamicEQをオフにすると低音がほぼ消えるような状態であったが、UU2ではオフの状態でもある程度の低音が確保されるよう改良された。そしてオンにすると、イヤーカフ型とは思えないほどの重低音が押し出されてくる。
SOUNDPEATSによれば、最大音量は前モデルUU比で約3.17dB向上し、初代Clip1比では約6.8dB向上している(いずれもSOUNDPEATS自社ラボ測定値)。デシベルは対数スケールであり、3dBの差は音のエネルギーが約2倍になることを意味する。
6.8dBともなれば体感上の音量差はかなり大きい。
一方で、低音特化の代償として高音域の解像度がやや犠牲になっている。音数の多いオーケストラや筆者がよく聞いているDreamTheater等のプログレッシブロックなどでは各楽器の分離がぼやけ、こもった印象になる。
ジョン・ペトルーシの超絶技巧のギターも、粒感が消える感じがした。
DynamicEQオフの状態では中音域もやや引っ込み気味であり、アプリをインストールしてDynamicEQをオンにすることが本機の実力を引き出す前提条件であると理解しておくべきだ。
なお、SOUNDPEATSアプリでは8バンドEQとアダプティブEQも利用でき、好みに応じた微調整が可能である。
音漏れはどの程度気になる?
オープンイヤー型の宿命として音漏れは避けられないが、UU2にはプライバシーモードが搭載されている。これは音漏れを抑制する方向にチューニングされたモードであり、図書館やオフィスなど静かな環境での使用を想定している。
ただし、電車内など走行音が大きい環境では音量を上げがちになり、結果として音漏れが目立つ場面もある。密閉型のような静寂環境での没入感を求める用途には向かない。
物理ボタンと左右自動判別システム
タッチ式ではなく物理ボタン
UU2はタッチセンサーではなく物理ボタンを操作インターフェースとして採用している。ボタンは耳の裏側に配置されており、2本の指でイヤホンをつまむようにして操作する。
この設計の最大の利点は、意図しない誤操作が極めて起きにくいことである。タッチ式の場合、髪をかき上げる動作や、顔に近い場所を触った拍子に意図せず再生が止まったり通話が切れたりすることがある。
物理ボタンは確実に押し込む力を加えなければ反応しないため、運動中や手がかじかんだ冬場でも安心して操作できる。サイクリング中にグローブをしたまま操作する場面を想像すれば、この選択は合理的だ。
左右の自動判別
UU2の左右チャンネルは固定されておらず、充電ケースへの格納位置と取り出し順序によって自動的に決定される。ケースの蓋を閉じてから約10秒後に取り出すと、左右が再設定される仕組みだ。
片耳だけの使用も可能であり、その場合はモノラル再生となる。
ただし注意すべき点がある。UU2には、同社の上位モデルClip1に搭載されている装着検知センサーやケース外での左右自動認識機能(AutoSense)が非搭載である。
したがって、一度ケースから取り出した後に左右を入れ替えたい場合は、再度ケースに戻して蓋を閉じ、約10秒待ってから取り出し直す必要がある。ポケットに入れて持ち運ぶ際に左右を意識しなければならないのは、利便性の面でやや不便である。
また、装着検知がないため、耳から外しても音楽が自動停止しない。このあたりは価格帯を考慮したコストダウンの結果であろう。
バッテリーと急速充電
42時間の再生時間
UU2のバッテリー性能は、イヤホン単体で約10時間、充電ケース併用で最大約42時間の連続再生とされている。この数値はSBCコーデック・音量60%・DynamicEQオフという条件での公称値であり、LDACオフ・音量30%の条件で約9時間40分動作する。
ただし、LDACを有効にした場合はバッテリー消費が約2倍に増加し、再生時間はおよそ5時間程度に短縮される。LDACは最大990kbpsという高ビットレートで音声データを転送するコーデックであり、処理負荷が高い。
ハイレゾ音質と引き換えにバッテリーライフを犠牲にするトレードオフがあることは、使い方を決める際に理解しておくべきポイントである。通勤往復程度であればLDACでも問題ないが、4〜5時間のロングライドでLDACを使い続ける場合はやや心許ない。
SBCやAACであれば10時間持つため、用途に応じてコーデックを切り替えるのが現実的な運用方法である。
急速充電は実用的か?
10分の充電で最大2時間の再生が可能な急速充電に対応している。朝の支度中に充電を忘れていたことに気づいても、出発前の10分でひとまず通勤往復分の再生時間を確保できる計算である。
フル充電にかかる時間はイヤホン本体が約1時間30分、充電ケースが約2時間で、USB Type-C端子から給電する。ワイヤレス充電(Qi)には非対応であり、これは上位機種や競合他社の一部モデルとの差別化ポイントでもある。
主要スペックの一覧
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 型式 | イヤーカフ型(オープンイヤー型、空気伝導) |
| ドライバー | 12mm径 デュアルマグネット・ダイナミックドライバー(チタンPVDコーティング振動板) |
| Bluetooth | 6.0 |
| 対応コーデック | SBC / AAC / LDAC(最大96kHz/24bit、ハイレゾワイヤレス認証取得) |
| 対応プロファイル | HSP / HFP / A2DP / AVRCP |
| 再生周波数帯域 | 20Hz〜20kHz |
| 重量 | 片耳 約5g(公称) / 約5.5g(レビュアー実測) |
| 充電ケースサイズ | 約64.8 × 51.8 × 29.0mm(レビュアー実測) |
| バッテリー持続時間 | 単体 約10時間 / ケース併用 最大約42時間(SBC・音量60%・DynamicEQオフ時) |
| 急速充電 | 10分充電で最大2時間再生 |
| 充電時間 | イヤホン 約1時間30分 / ケース 約2時間 |
| 充電端子 | USB Type-C(ワイヤレス充電非対応) |
| マイク | 片側2基 デュアルマイク+AI通話ノイズキャンセリング |
| 風切音低減 | SOUNDPEATS AeroVoice(特許出願中) |
| 防水 | IPX5(本体のみ) |
| マルチポイント | 2台対応(LDAC・ゲームモード・ムービーモードとは併用不可) |
| 主な機能 | DynamicEQ、プライバシーモード、立体音響(ムービーモード)、ゲームモード、8バンドEQ、アダプティブEQ、イヤホンを探す |
| 表面処理 | UV nano-excimerスキンフィールコーティング(防汚・耐指紋) |
| カラー | ブラック / ブルー / ベージュ |
| 価格 | 税込7,280円 |
改善の余地
購入前に知っておくべきデメリット
UU2は完璧な製品ではない。購入前に把握しておくべき弱点を整理した。
まず、ワイヤレス充電(Qi)に非対応だ。上位機種のShokz OpenFit 2+やHuawei FreeClip 2がQiに対応していることを考えると、毎日の充電習慣においてケーブルを挿す手間が必要になる。
次に、最低音量がやや大きい。静かな環境で極力小さな音量で聴きたい場合に、もう一段下げたくても下がらない。就寝前のBGM用途などでは不便を感じる可能性がある。
音質面では、高音域の解像度がやや低く、音数の多い楽曲ではごちゃつく印象がある。DynamicEQオフの状態では中音域がこもりがちであり、アプリの設定がほぼ必須である点も手間といえば手間だ。
耳を塞がないという選択
オープンイヤーは音質の妥協か
カナル型イヤホンが外界を遮断して音楽の世界に没入させるものだとすれば、オープンイヤー型は音楽と現実世界を重ね合わせるものといえる。
これは音質の妥協ではなく、音楽との関わり方の転換といえる。風の音と一緒にお気に入りの曲を聴く体験は、密閉型の完璧な音場再生とは異なるが、それは劣っているのではなく、別のものである。
音楽が生活のBGMとして溶け込むとき、100Hzの低音がどれだけ正確に再生されているかよりも、その音楽があることで移動や作業がどれだけ豊かになるかのほうが重要ではないだろうか。
UU2は、その問いに対して「低音もちゃんと鳴らせる」という音を7,280円で提示した。完璧ではない。高音の解像度は高級機に及ばず、ワイヤレス充電もなく、アプリの設定をしなければ真価を発揮しない。
しかし、耳を塞がずに低音を楽しめるという体験そのものが、かつては数万円の製品でなければ得られなかったものである。その敷居を大きく下げたことにUU2の本質的な価値がある。
まとめ:UU2を買うべき人
UU2を使う境界線
UU2を選ぶべきなのは、1万円以下で耳を塞がずに迫力のある低音を楽しみたい人だ。
自転車通勤や通学で音楽を聴きたい人、ランニングやジムでのワークアウト中に使いたい人、在宅ワークで長時間ながら聴きをしたい人にとって、UU2のコストパフォーマンスは圧倒的だ。
物理ボタンの安心感、IPX5の防水性能、最大42時間のバッテリーライフは、日常的なスポーツ・アクティブユースに十分対応する。
一方、装着検知やワイヤレス充電の利便性を重視する人はClip1やHuawei FreeClip 2を、音質の繊細さや高音域の解像度を求める人はFreeClip 2やBose Ultra Openを、絶対的な装着安定性が必要なハードなスポーツ用途にはShokz OpenFit 2+を検討すべきだ。
UU2は7,280円でここまで鳴るのかという驚きが詰まっている。







