SPECIALIZED Levo SLがマイナーチェンジした。軽量なeMTBとして登場して以来、eMTBとして他社より一歩抜きんでた性能を備えていながら、従来のトレイルバイクと変わらぬ軽量性を併せ持った人気のeMTBだ。
Levo SLが登場したのは2020年初頭のことだった。eMTBながら18kgを下回る重量で当時の話題をさらった。小型モーターとバッテリーを装備し、スタンプジャンパーのDNAをベースにモーターを搭載した。Levo SLはトレイルバイクと見間違うほど洗練されたルックスで、その後のeMTBのベンチマークになっている。
2023年5月にスペシャライズドは第2世代のLevo SLを発表した。実質的にはスタンプジャンパーEVOをベースに電動化したような仕様だ。第1世代よりもトルクとパワーがアップしたSL 1.2モーター、ハンドリング性能の向上、ヘッドアングルやリーチを調整可能なフレームに仕上がっていた。
2024年9月、Levo SL Gen2をベースにリアショックを新型GENIEを搭載しさらなる飛躍を遂げた。基本的な部分はLevo SL Gen2を踏襲しながらも、新型スタンプジャンパー15に搭載されたリアショックGENIEを使用することで、さらなる性能向上が図られている。
他社ブランドがいまだ軽量eMTBカテゴリへの参入自体に手をこまねいている中、スペシャライズドは続けざまに小型モーター、軽量化、新型サスペンションなどを盛り込んだ新型を投入しeMTB市場で独走状態にある。
軽量eMTBのトップを走るLEVO SLは何が変わったのか。
LEVO SLとは何者かね
Levo SLに乗ると、童話「不思議の国のアリス」でアリスとイモムシが交わした会話を思い出す。
「きみは何者かね」
「わたし、今はよくわかりません。朝起きたときは誰だったかはわかるけど、それから何回か変わってしまったみたいで」
eMTBバイクだと思ってトレイルを走り出すと、eMTBバイクに乗っていることを次第に忘れていく。最初はモーターの動きや、ペダリング中のアシストに気が向いてしまうが、次第に薄れていき、いつの間にかただのトレイルバイクになるのだ。
乗れば乗るほど、トレイルをどうやって走ろうかという気に変わっていく。それほど、走ることや下ることに対してバイクやモーターが主張してこない。Levo SLは軽量なフルサスペンションe-MTBながら、オールラウンドなトレイルバイクそのものだ。
目の間に倒木があり、乗り越えようとバイクから降りて持ち上げた瞬間、「あ、eMTBバイクだった」とその重さで現実のバイクに引き戻される。
eMTBバイクとして18kgは軽い部類だ。しかし、Levo SLの特徴は軽さだけではない。バイクとしていくつか特徴的な部分がある。フレームで使用しているカーボンはFACT 11mだ。ロードでもおなじみのカーボンだが、MTB用は衝撃や破損などに耐えるため積層が厚めに作られている。
Gen1はリアショックを覆うようにサイドアームが施されていたが、Gen2以降では省略している。ピーター・デンク氏が携わったスタンプジャンパーには、このサイドアームが搭載されていた。ピーター氏が作るからにはそれなりの理由があるとは思うが、スタンプジャンパー15や新型Levoでも排除された。
最も大きな特徴はフロント29インチ、リア27.5インチのマレット仕様が標準になっていることだ。この異なるサイズのミックスホイールは、29インチの走破性と27.5インチの旋回性能の良いとこどりをしている。eMTBは27.5インチのホイールでもパワフルに走れるメリットがある。
マレット仕様はeMTBだからこそ、特徴が生かされる組み合わせだ。29″であらゆる地形の走破性を、27.5″は旋回性を高める。27.5″は29″よりも走破性は劣るが、モーターがアシストすることによってデメリットを補ってくれる。eMTBだからこそ活かせるセッティングだ。
スペシャライズドのみならず、軽量eMTB市場で最大のライバルのSantaCruz Heckler SLもマレットを採用している。「eMTB x マレット」この流れは当分続くだろう。
チェーンステイフリップチップが追加されたことで、フレームは29インチリアホイールとの互換性を保っている。そのため前後29er仕様、マレット仕様の2通りのポジションを使い分けて走りの方向性を変えることができる。
前後29erに設定した場合は、有効チェーンステーが5mm長くなる。ジオメトリー自体ははマレット仕様でも同じ設定に維持される設計だ。
フロントサスペンションのトラベルは160mmだ。初代Levo SLよりもトラベルが10mm長くなっている。
リアサスペンションはスペシャライズドが開発しFOXが製造したGENIEだ。FOX FLOAT XリアショックをベースにGENIEエアスプリングテクノロジーを搭載している。トラベルは150mmだ。トラベルの70%はリニアに、残り30%で一気にプログレッシブになる特徴がある。
ブレーキはSRAMの新型MAVENが搭載されており、強烈なストッピングパワーを生み出している。ここまでのスペックを見渡すと、Levo SLはスタンプジャンパー15にモーターが追加されたような仕様だ。モーターの話が出てきたところで、心臓部のSL 1.2モーターを見ていこう。
SL 1.2モーター
Levo SLにはSL 1.2モーターが搭載されている。ドイツの自動車ブランドであるMahle(マーレ―)との提携で製造されている。
新しいSL 1.2モーターは、より静かでパワフルになっている。その理由は、一体型のハニカム構造と2ピースのマグネシウム製ハウジング構造だ。高剛性かつ静粛性が高まっており、前モデルよりもモーターの音が最大45%低減した。
さらに、パワーの効率もSL 1.0から改善されている。ピークトルクは35Nmから50Nmに43%向上しており、ピーク出力は240ワットから320ワットに33%向上している。パワーが向上したのにもかかわらず、モーターの重量は1.95kgしかない。
モーターの動作は320Whの内蔵バッテリーで行っている。追加の160Whエクステンダーバッテリーとも互換性がある。
バッテリーの航続距離は?
バッテリー | ECO (35/35)※ | TRAIL (75/80)※ | TURBO (100/80)※ |
内蔵(320 wh) | 2000 – 2300m 45 -55km 3:30 – 4:30h |
800 – 900m 20 – 30km 1:30 – 2:00 h |
750 – 850m 20 – 25km 1:15 – 1:30 h |
内蔵 + レンジエクステンダー(480 wh) | 3000 – 3450m 70 – 85 km 5:15 – 7:00 h |
1200 – 1350m 30 – 45km 2:15 – 3:00 h |
1100 – 1300m 30 – 38km 1:45 – 2:15 h |
※カッコ内は(サポートレベル/ピークパワー)を%表示している。
SL 1.2モーターは、クラス最高のモーター効率とシステムの統合で最長7.5時間の走行時間を達成している。独自の省エネ機能により、320Whの内蔵バッテリーは最長5時間の航続可能時間が可能になった(エコモード時)。
さらに長い距離を走りたい場合は、160Whのレンジエクステンダーバッテリー(S-Works完成車およびフレームセットは付属、他のモデルは別売り)をウォーターボトルケージに取付可能、航続可能距離を50%延ばすことができる。
トレイルでテストを行ったところ、トレイルモードで標高差約250mを走ると23%程のバッテリーを消費した。走行時間は2時間以上で、ほぼカタログ通りのバッテリーの持ちが期待できる。 これはスペシャライズドの謳い文句にかなり近い。
バッテリーの持ちにも向き不向きがある。安定した勾配を滑らかで一定のケイデンスで登っている場合はバッテリーの持ちが良い。バイクが加速と減速を繰り返すような場合はバッテリーの持ちが悪くなる。
平均的な10%の舗装路の勾配でも、時速15~20kmを快適にキープできる。下手なロードバイクよりも速いだろう。
マスターマインドTCUを搭載
トップチューブにはマスターマインドTCUが搭載されている。TCUはライダー、バイク、モーター、バッテリーのそれぞれを制御する。ゴリラガラス製の小さな液晶スクリーンには、バッテリー残量、走行速度、標高差、時間、走行モードが表示される。
そのほかに、カスタマイズできる情報は幅広い。Mission Controlアプリを用いると、パワーメーター、ケイデンス、モーターパワー、勾配、心拍数、モーターの実燃費まで示してくれる。アプリからはアップデートにも対応している。
標準のEco、Trail、Turboアシスト設定以外のチューニングも可能で、Micro Tune機能を活用してモーターのアシストパワーを10%刻みで高めることができる。活用できる幅は広いが、機能の数が多いため初めはデフォルトの表示設定のままで良いかもしれない。
直感的な操作
Levo SLはeMTBであるため、初めは電源を入れる必要がある。液晶画面の下に電源ボタンを長押ししてパワーをオンにする。スペシャライズドのロゴが出てきてモードの画面に遷移したら起動完了だ。
左側に配置された「+」と「-」のボタンでアシストのモードを切り替えることができる。アシストモードはEco、Trail、Turboの3種類だ。
- ECO:モーター出力35%
- TRAIL:モーター出力75%
- TURBO:モーター出力100%
- OFF:モーター出力0%
ecoモードは、バイクの重さを感じながら進んでいくような走り方をする。体力がある方はecoモードでも良いだろう。舗装路やトレイルの上り坂では、バイクの重さを感じながら走る感じるモードだ。
TRAILモードは最も使用する設定だ。ecoよりもバッテリーを多く消耗するがパワーとバッテリーのバランスが良い。75%の出力はアシストされていると十分に感じることができる。急な舗装路の登りも20km/h近いスピードで走れる。トレイルの登り区間もパワーに任せてどんどん登っていけるだろう。
TURBOモードは、出力100%を使用する。使う機会は少ないかもしれないが、急こう配のトレイル区間やどうしてもパワーで押し切りたい区間などで使用する。モーターのパワーを100%使用するためバッテリーの消費は激しい。
GENIEを搭載
新型Levo SLには、スタンプジャンパー15で初採用されたGENIE(ジーニー)リアショックが搭載されている。スペシャライズドが開発しFOXが製造したリアショックだ。Levo SLでは従来のFOX FLOAT XをベースにGENIEの技術を取り入れた。
GENIEのメリットはトラクションの向上、ボトムアウトの回避、滑らかなサスペンションの動きだ。リアショックは、空気が閉じ込められている2つのエアチャンバー使って、空気の出し入れを調整する。エアチャンバーに閉じ込められている空気を巧みに操るその様は、まさにGENIEだ。
GENIEは2段階ロケットのように機能する。内側のエアチャンバー(空気を閉じ込めるの部屋)と外側のエアチャンバーの2つの部屋がある。通常のリアショックといえば1つのエアチャンバーしか持たないが、GENIEはメインのエアチャンバーの周りに第2の外部エアチャンバーを追加している。
内側と外側のエアチャンバーはそれぞれ独立しているが、小さな穴(GENIEエアーポート)が空いており、この穴を通じて互いの部屋を空気が行き来ができるようになっている。GENIEはこの穴をトラベルの量(サスペンションの伸縮)に応じて塞いだり、開放したりする。
この仕組みの何が良いのか。
- トラベル量0〜70%:内側と外側のチャンバーを使用(空気の体積大)
- トラベル量71%〜100%:内側のチャンバーだけを使用(空気の体積小)
トラベルが0〜70%までは、内側のエアチャンバーと外側のエアチャンバーの2つを組み合わせて使用する。2つの空気の部屋を使用することで、大きなエアボリュームを稼ぐことができる。
エアボリュームが大きいことによるメリットは、ショックはよりしなやかになり、空気が圧縮されていく強さも直線的になる。まるで、コイルスプリングのような動きを実現するのだ。
賢いのはショックが71%のトラベルに達したときだ。GENIEバンドが、互いの部屋を空気が行き来できる小さな穴を閉じる。外側のエアチャンバーは切り離され、内側のエアチャンバーだけを残すのだ。
トラベルの残り30%では、内側のエアチャンバーだけになることでエアボリュームが減ることになる。ここからさらにトラベル量が深くなるにつれて、空気を圧縮しにくくなる。つまりプログレッシブ(累進的、数量の増加に従い比率が増す)状態になる。
トラベル量の70%を境にして、2つのエアチャンバーを使い分けることで、ストロークの初期段階ではショックが動きやすく、ストロークの終盤では粘り強くなりボトムアウトを回避するという仕組みをGENIEは実現した。
詳細な仕様やスプリング曲線は別の記事で詳しく紹介している。
12通りのセッティングが可能
LEVO SL | S1 | S2 | S3 | S4 |
---|---|---|---|---|
Stack (mm) | 609 | 617 | 626 | 635 |
Reach (mm) | 405 | 425 | 445 | 470 |
Head-Tube Length (mm) | 95 | 100 | 110 | 120 |
Head-Tube Angle (degrees) | 64.6 | 64.6 | 64.6 | 64.6 |
B-B Height (mm) | 343 | 348 | 348 | 348 |
B-B Drop (mm) | -34 | -29 | -29 | -29 |
Trail (mm) | 132 | 132 | 132 | 132 |
Fork Length (full) (mm) | 560 | 570 | 570 | 570 |
Fork Rake/Offset (mm) | 42 | 42 | 42 | 42 |
Front-Center (mm) | 726 | 752 | 776 | 806 |
Chain-Stay Length (mm) | 432 | 432 | 432 | 432 |
Wheelbase (mm) | 1158 | 1184 | 1208 | 1238 |
Top-Tube Length (horizontal) (mm) | 560 | 582 | 604 | 631 |
Bike Stand-Over Height (mm) | 727 | 763 | 766 | 767 |
Seat-Tube Length (mm) | 385 | 385 | 405 | 425 |
Seat-Tube Angle (degrees) | 75.8 | 75.8 | 75.8 | 75.8 |
Crank Length (mm) | 165 | 165 | 170 | 170 |
Handlebar Width (mm) | 780 | 780 | 780 | 780 |
Stem Length (mm) | 35 | 35 | 35 | 35 |
Saddle Width (mm) | 155 | 155 | 143 | 143 |
Seatpost Travel (mm) | 100 | 125 | 150 | 170 |
Levo SLはSサイジングを採用している。股下の長さでフレームサイズを導き出すのではなく、走りたいトレイルや好みの走り方に適したサイズで選択する。スタンドオーバーハイトに大きな違いはなく、リーチとフロントセンターに違いを持たせたジオメトリだ。
小さめのサイズはバイクを自在に振り回しやすく、大きめのものはポジションにゆとりのある安定性に優れた走りが楽しめるようになっている。
S1~S4の4サイズ展開になっており、小柄な女性から大柄な男性まで幅広くサイジングすることが可能だ。最も小さいS1サイズは、他のサイズと比べてトラベル量が150/144mmと少ない。背の低いライダーのために、スタンドオーバーハイト低く維持するためだ。
ヘッドアングルは標準で64.6°と緩めだ。モジュラーヘッドセットカップでヘッドアングルを調整可能で寝かせると63°、立たせると65.5°といずれもトレイルバイクらしい下りやすい設計になっている。シートアングルは75.8°とわずかに立っている。
チェーンステーのフリップチップを回転させると、27.5インチまたは29インチのリアホイールをそれぞれ装着することができる。リアショックをマウントする部分にもフリップチップが搭載されており、HighとLowのジオメトリー設定が可能だ。マレット構成では、リアセンター長は432mmと非常にコンパクトになっている。
これら、チェーンステー、リアショックマウント、ヘッドセットの3つの調整ポイントをカスタマイズすることにより、12通りの異なるセッティングが可能になっている。
世界一安い日本のLevo SL
スペシャライズドのMTB製品は、グローバルで見ても一番安い価格設定が行われている。1ドル132円計算で日本円価格が設定されており、現状世界で一番買えるのは日本だ。そして、LEVO SLはGENIEが搭載されながらも価格設定が据え置かれた。
- LEVO SL COMP ALLOY:792,000円
- LEVO SL COMP CARBON:990,000円
- LEVO SL EXPERT CARBON:1,320,000円(10,000ドル)
- S-WORKS LEVO SL:1,980,000円(14,000ドル)
LEVO SL COMP ALLOYのアッセンブルは以下の通りだ。
- Levo SL Alloy Frame
- Fox 36 Rhythm
- Fox GENIE Performance
- SRAM X01 Eagle
- SRAM MAVEN BRONZE
LEVO SL COMP CARBONのアッセンブルは以下の通りだ。
- Levo SL carbon Frame
- Fox 36 Rhythm
- Fox GENIE Performance
- SRAM S1000 Eagle Transmission
- SRAM MAVEN BRONZE
LEVO SL EXPERT CARBONのアッセンブルは以下の通りだ。
- Levo SL carbon Frame
- Fox 36 Performance Elite
- Fox GENIE Performance Elite
- SRAM GX Eagle Transmission
- SRAM MAVEN Silver
S-WORKS LEVO SLのアッセンブルは以下の通りだ。
- Levo SL carbon Frame
- Fox 36 Factory
- Fox GENIE Factory
- SRAM XX Eagle Transmission
- SRAM MAVEN Ultimate
Levo SLのスペックは世代を重ねるごとに骨太なアッセンブルになっている。軽量e-MTBにカテゴライズされながらも、比較的な頑丈かつ軽さに振らない作りが特徴的だ。
フロントサスペンションがFOX 36、リアサスペンションがGENIE、ブレーキはSRAM MAVENシリーズを装備している。SRAM CODEからSRAM MAVENのブレーキに変更されよりストッピングパワーが向上した。
Levo SLは軽量eMTBながら軽量性を追い求めるのではなく、攻撃的に走っても耐えうるバイクを目指している。
S-WORKS以外のグレードには、強度の高いアルミクランク、アルミリム、アルミハンドルバーを採用している。その他にも、フォークステアラー内にはSWATツールが付属している。
次回はインプレッション
次回は、GENIEショックやMAVENを搭載したLEVO SL EXPERT CARBONでトレイルを走り、テストを行った模様をお伝えする予定だ。