超音波洗浄機をチェーン洗浄で使っていたが、メガネや時計用で最も普及している40kHzタイプを用いていた。この周波数でも十分なのだが、業務用の強力な28kHzタイプを用いると更に汚れが落ちる。
超音波洗浄機は、液体中に圧力変動を生じさせることで、局所的に液体の蒸気圧が下がることによって気泡の発生と崩壊が起きる物理現象(キャビテーション)を起こす。この気泡の発生と崩壊に伴い、非常に高い圧力や温度が発生して物質に強い衝撃を与える。
周波数が低いほど発生するキャビテーションの核が大きくなり、衝撃のエネルギーも比例して大きくなる。大きなキャビテーションの方が、油脂汚れの除去等に向いている。
発振周波数は、キャビテーション核の大きさを決める要因である。キャビテーションの発生量は超音波の出力と周波数で決定する。この『周波数』と『出力』のパラメーターを適正に選択することが超音波洗浄において非常に重要になっている。
結論としては、超音波洗浄機は周波数が低いほど洗浄力が向上する。
- 28kHz:最も強力な周波数。金属、樹脂の脱脂洗浄など。特にステンレスなどの硬い金属の洗浄に有効。
- 40kHz:28kHzよりソフトな洗浄。用途は金属部品、樹脂部品、ガラスの脱脂洗浄など。
- 75kHz~120kHz:40kHzより更にソフトな洗浄の周波数。用途は精密部品、ガラスのホコリ除去など。
ただし、メガネや時計の洗浄といった一般的な用途で用いられる超音波洗浄機は、どれも40kHzのタイプが多い。愛用していたシチズンの超音波洗浄機も42kHzしか使えなかった。また、連続動作時間が3分間と短く、汚れが入り組んだチェーンを洗浄するためには、もう少し長い時間動作させる必要があった。
28kHzで動作するタイプの超音波洗浄機は業務用であるため本当に数が少ない。売っていたとしても大型で3~4万円はするものばかりだった。
やっと見つけた28kHz
28kHzのタイプで探しまわったところ、レコード乾燥台や超音波洗浄機などの製品を販売するWWELL(ウェル)の製品にたどり着いた。この御時世だからあえて書いておくが、案件でも何でもない。単純に探しまわって希望のスペックを満たしていたため購入した。
ざっとスペックを確認してみよう。
- 発信周波数:28kHz/40kHz
- 超音波パワー:60W
- 加熱出力:100W
- 洗浄時間:0~99分
- 加熱温度:0~99℃
これまで愛用していたシチズンの超音波洗浄機がパワーが26W、発信周波数が42kHz単体であったためおよそ3倍近いパワーがある。WWELLの超音波洗浄機が優れているのは、28kHzの強力な周波数を備えているだけではない。
- 28kHzと42kHzを交互に発生させる。
- 洗浄時間が最大99分
- 洗浄剤を99℃まで加熱できる
28kHzと42kHzの2周波を交互に発生させることで、洗浄のムラを改善し異なる汚れを落とせる。28kHzが対象とする汚れは主に油系、目に見える大きな汚れだ。チェーンの洗浄は28kHzがメインになるだろう。
40kHzは、10μm以上のホコリを対象としている。微細な目に見えないレベルの汚れを落とすのに活躍する。この28kHzと40kHzを交互に繰り返すことによって、チェーン内部の汚れまで限りなく落とすことが可能になる。
また、家庭用超音波洗浄の動作時間は3分ほどであるが、WWELLは業務用であるため最大99分間洗浄することが可能だ。3分ごとにタイマーを再設定していた方は最大99分のタイマーがあるだけでも重宝すると思う。
更に洗浄力を上げたい方は、溶剤を加熱する機能も備わっている。高精度の加熱装置を採用しており、サーモスタットシステムに合わせて、液体の温度を正確に計測する。本体前面には、『設定温度』『現在の温度』の2つが表示される。
設定した温度になると自動的にストップする仕組みだ。業務用ならではの機能と言えるだろう。
推奨温度は金属製品が50-60℃、その他は40-50℃となっている。
ボディはステンレス鋼で作られており、クリーニング槽はSUS304ステンレス鋼材料を使用している。溶接なしの一度押し出し成形で1mmの厚さだ。腐食に強く、さびに強い。
電源コードはPSE認証を取得しており、それぞれ三極・二極のプラグタイプを備えている。コンセントのタイプに応じて、別途アダプタを購入する必要なく、適切な電源コードを使用することが可能だ。
チェーン洗浄した結果
ドバっと、汚れがあふれ出る。
超音波洗浄を使ったことがある方ならわかると思うが、動作させた瞬間チェーンの隙間から黒い汚れが出てくる。ただ、40kHzのときのような「ゆらゆらとした黒い汚れ」の出方ではないのだ。
28kHzは、映画ハリーポッターでヴォルデモードが黒い粒子に乗って登場するときのように「どばー、ブシャー!」と勢いよく黒い汚れが飛び出てくるのだ。使用した溶剤はAZのフィルタクリーナーで透明なのは一瞬の出来事だった。早速溶剤は真っ黒になってしまった。
28kHzと40kHzを交互に発生させてみたところ、溶剤を加熱せずとも汚れがどんどんおちていく。0.02~0.016mmの超微細な泡が、チェーン内部の汚れに衝撃を与えかき出してくれる。ブラシでは決して取れないような汚れもかき出してくれるようだ。
42kHzのときとは異なり、28kHzはドバっと黒い汚れが出てくる。28kHzの強力な洗浄を体験すると、家庭用の超音波洗浄機に採用されている40kHzにはもう戻れない。
最後は、HIKOKIのエアダスターで水分を飛ばして終わりだ。

まとめ:パーツ洗浄には28kHzを
28kHzは超音波洗浄で最も強力な周波数だ。用途は金属部品、樹脂部品の脱脂洗浄など特にステンレスなどの硬い金属部品の洗浄に適している。チェーンやスプロケなど、自転車機材の洗浄に適していた。
周波数が低いほど発生するキャビテーションの核が大きくなり、衝撃のエネルギーもh比例して大きくなる。大きなキャビテーションの方が、油脂汚れの除去等に向いているため、チェーンの細部に入り込んだ汚れや、チェーンオイルやワックス系の残留物も根こそぎかき出してくれる。
これまで40~42kHzタイプの家庭用超音波洗浄機を使っていた。洗浄力は十分だと思っていたが、28kHzタイプかつ、業務用の最大99分まで連続動作ができる機能は重宝するだろう。
超音波洗浄機をこれから購入しようと考えている方、40kHzのタイプを使っている方は28kHzの超強力な洗浄を是非体感してほしい。私が使用している2リッタータイプの価格は9,000円台だ。チェーンを奇麗にしておくと、何ワットも抵抗が減る。
28kHzの超音波洗浄機は、マージナルゲインを追求するサイクリストに必須の機械だ。今回使用したのは2Lのタイプだ。チェーン洗浄であればこのサイズで十分である。