チェーンの摩擦抵抗はチェーンリングとスプロケの接触でも生じる、という誤解。

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チェーンの摩擦抵抗は、チェーンリングやスプロケと接触することで”も”生じている、とずっと思っていたのだが、どうやら誤解だったようだ。目に見える「金属と金属の接触」であるため、一見すると摩擦抵抗が発生し、摩擦を減らすためにチェーン表面にも潤滑剤が必要な部分であると思っていた。

SILCA研究所、CERAMIC SPEED社、Friction Factsの実験機関の実験、そして各チェーンオイルメーカーが、「チェーンオイルを塗布後、表面のオイルを拭きとること」という説明とも大きく関係している話だ。

チェーンには大きな摩擦があることをサイクリストはよく知っている。そして摩擦抵抗を最小限に抑えるためにチェーンルブに好んで大金を支払っている。しかし、チェーンの摩擦がどのように発生し、なぜ起こるのかはほとんど理解されていないし、できていない。

SILCA研究所は、独自の実験とシミュレーションでチェーンの摩擦の原因、その量、理由、摩擦を最小限に抑える方法、そしてチェーンの摩擦に関する一般的な誤解を解いた。

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摩擦が生じる場所

Photo: SILCA

チェーンの摩擦を理解するためには、チェーンがどのような構造になっているのかを理解する必要がある。チェーンを構成する部品は、2枚の内板、2枚の外板、ローラー、ピンの4種類だ。

2枚の内側のプレートがローラーを固定し、ピンは外側の場所にリベットで固定されている。つまり、ピンはローラーの中で回転しているが、ピンは外側のプレートに固定されている。そして、内側のプレート自体も、ローラーとピンを中心に回転している。

11速化、12速化の多段化、そしてドライブトレインの高速化に対応するため、チェーンの幅は時代を追うごとに狭く設計されるようになった。その結果、水平方向(たすぎかけをした際の横方向のたわみ)の柔軟性も要求されるようになってきている。

Photo: SILCA

チェーンの横方向の柔軟性は、インナープレートとローラー、インナープレートとアウタープレートの間の、わずかなスキマがたわみを生み出している。

この柔軟性があるからこそ、フロントアウターとスプロケットローギアで”たすぎかけ”ができ、そして変速が可能になっている。この点はトラック用固定ギアと多段ギアを隔てる大きな違いだ。

いっぽうで、柔軟性と変速性能に優れている反面、たすきがけの際の柔軟性は摩擦の主な原因にもなる。

Photo: CERAMIC SPEED

Photo: CERAMIC SPEED

CERAMIC SPEED社の実験によると、スプロケットを11で使用した場合の摩擦抵抗が最も大きくなる。たすきがけをすればするほど、チェーンの摩擦抵抗は大きくなっていく。

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摩擦が生じない場所

和泉チエンで使用されているチエンの抵抗を測る測定器、個人的にほしいです。(c)和泉チエン株式会社

本記事の本題だ。チェーンで、摩擦抵抗がほとんど発生していない箇所がある。念の為断っておくが、ゼロではない。チェーンの歯も摩耗して、表面は削れていくことは目視確認できる。摩擦抵抗は僅かに生じる可能性はあるが、とはいえ他のチェーン部位と比べると誤差、無視してい範囲だ。

摩擦抵抗を増やす対象を理解するためには、反対に摩擦抵抗をあまり生じさせない部分を理解することも重要だ。私達が考えているなかで最も一般的な誤解は、摩擦抵抗が「チェーンローラーとカセットやチェーンリングの相互作用から生じている」というものがある。

これは、目に見える「金属と金属の接触」であるため、摩擦を減らすために潤滑剤が必要な場所であるかのように”思われて”いる。

それは全くの誤解だ。

SILCA研究所、CERAMIC SPEED社、FrictionFactsの実験結果から明らかになっているように、実際にチェーンローラーはカセットやチェーンリングの歯と歯の間に”着地”するようにうまく設計されているため、”着地に生じる摩擦”はほぼゼロに等しい。したがって、チェーン表面に潤滑油の必要はない。

チェーンローラーはすぐに歯と歯の間に落ち、歯はチェーンをひっぱる。チェーンとカセット、チェーンリングが過度に摩耗していなければ、摩擦抵抗はほとんど発生しないのだ。チェーンリングは最後にチェーンローラーをプーリ方向に手放すだけだ。

これらは、ほとんどのチェーンルブの説明書に、「塗布後に余分なオイルを拭き取ること」と書かれている理由を裏付けるひとつでもある。拭き取っても摩擦抵抗に影響がない箇所であるため、なんらおかしな話ではない。

むしろ、チェーンの外側に潤滑剤などが付着しつづけていることは好ましいことではない。チェーンの外側にオイルがつくと、汚れやゴミが付着し、それが摩擦の原因となり、余計な摩擦や摩耗を引き起こす可能性がある。

イズミチエンの世界最速を支えたチェーン開発でも、ローラーの摩擦を最小限に抑える開発が行われている。

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摩擦の主な原因

チェーンにおける摩擦の主な原因のひとつは、インナープレートとローラーの相互作用だ。下の図では、チェーンの断面を見ている。インナープレートは、実際には端が曲がっていて、ローラーとの境界になっている。

Photo: SILCA

ローラーを中心に回転し、ノート紙の厚さの4分の1程度の隙間が生じる。 これが、チェーンの摩耗を測定する際に計測している対象だ。この2つの面が互いに摩耗すると、各リンクに隙間ができるため、チェーンが伸びる。

これらの摩擦は、チェーンのリンクが曲がるたびに生じる。チェーンリング、両プーリーホイール、カセットで毎回生じる摩擦だ。特にタイムトライアルのスペシャリストが、フロントにできるだけ大きなチェーンリングを使い、リアディレイラーには特大のプーリーホイールを使うのも、この「曲がる」量を最小限に抑えるためにある。

60Tが最も摩擦抵抗が小さい。Photo: CERAMIC SPEED

55Tのチェーンリングを用いた場合、50Tのチェーンリングよりもチェーンの曲がりが小さく(鈍角に)なる。また、11Tや12Tよりも15Tのスプロケットでチェーンを曲げたほうが、その分曲がりが小さくなる。

標準的なメーカー純正12Tのプーリーホイールの代わりに、セラミックスピード社のOSPWのような19Tのプーリーホイールを使用すると、さらに曲がりが小さくなる。

チェーンの表面をきれいにすることは、その小さな隙間がゆえに、完全な超音波洗浄を行わなければ不可能といえる。そのため、この隙間に潤滑剤を浸透させること”も”摩擦抵抗を減らすために非常に重要なメンテナンスといえる。

特に、ワックスベースの潤滑剤では、この点が滴下式潤滑剤との重要な違いになっている。

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インナープレートとアウタープレートの摩擦

Photo: SILCA

インナープレートは、固定ピンを中心に回転する面の部品だ。摩擦を減らすための大きな鍵は、この部分を高度に加工して、できるだけ滑らかな表面にすることにある。

ピンとインナープレートでできるだけ滑らかな面を作ることで、摩擦をできるだけ少なくすることができる。また、金属が他の金属の表面ではなく、潤滑油の上で動くように潤滑剤を加えることで、さらに摩擦抵抗と摩耗を減らすことができる。

チェーンにおけるもう一つの大きな摩擦要因は、内側のプレートと外側のプレートの相互作用だ。プレートとプレートの間には小さな隙間がある。チェーンライン、クロスチェーン、たすきがけなどという用語を聞いたことがあるかもしれないが、これが本当に重要なポイントになる。

トラックバイクの場合、チェーンラインは常に完璧に近いほど一直線だ。摩擦の原因になることはあまりない。 しかし、多段変速のバイクの場合は、チェーンラインが最適とは言えないギアを使用していることがよくある(いわゆるたすきがけ)。

アウターチェーンリングとスプロケットのローギアを組み合わせた場合、チェーンは大きく横方向に曲がってしまう。そのためにプレート間のギャップが小さくなり、プレートは互いに擦れ合うことになる。

そのため、チェーンの他の部分よりも金属と金属が接触する表面積が大きくなる。これらの摩擦を防ぐためには、良い潤滑剤を使用することが非常に効果的になってくる。

ここでは、クロスチェーンで摩擦が発生するインナープレートとアウタープレートの部分を黄色く塗りつぶしたものを見ていく。

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チェーン表面のあらさ

Photo: SILCA

ピンとインナープレートの間の摩擦を減らすためには、いかに表面を滑らかにするかが重要だ。しかし、完全な平滑、完全な丸みなどというものは存在しない。スチールチェーンを製造する工程では、まず熱間圧延し、次に冷間圧延して規定の厚さに仕上げる。

金属は肉眼でみると非常に滑らかに見える。しかし、すべての金属表面には不完全な部分があり、それらは表面粗さの”Rz”で測定することができる。

ここでは、圧延の各工程を終えた金属が、時間とともに滑らかになっていく様子を視覚的に表現している。

チェーンでは、約0.6ミクロンのRZ(表面粗さ)を確認することができる。これは、金属上のピークの上部と下部の間に、多かれ少なかれ0.6ミクロンの差があることを意味している。

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WS二硫化タングステン

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ワックスベースの潤滑油が素晴らしいのは、摩擦を減らすためにこれらの粗さのギャップを埋める仕事をしていることだ。潤滑油に二硫化タングステンを追加すると、ギャップを埋める効果を高めることができる。

WS2(二硫化タングステン)の大きさは約0.6ミクロンだ。このため、WS2は金属の粗さの不完全な部分を、「不完全な部分と同じ大きさ」で埋めることができる(よりなめらかになる)。

これによって、可能な限り完璧な表面仕上げが実現することができる。擦れ合うチェーンの表面は2つの不完全な金属表面ではなく、「超低摩擦のWS2」になる。

WS2のような摩擦調整剤を使用するとき、金属の表面を変えているのだ。

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まとめ:超音波洗浄とワックス系潤滑剤を

チェーンを最適な状態にし、適切な潤滑剤を使用することは、最新のエアロロードバイクで争っている1ワットや2ワットの差以上を稼げる効果がある。

そのためには、洗浄をブラシなどで行わず超音波洗浄を用いて内部の汚れをしっかりと落とす必要がある。

また、潤滑剤を使用する際は、チェーン内部まで深く入り込んでとどまり続けるワックスタイプや、金属表面のあらさを埋める二酸化タングステン配合の製品を使用するといい。

最近では、SILCAのSYNERGETIC WET LUBEや、エフェットマリポーサのフラワーパワーワックスがおすすめだ。なお、フラワーパワーワックスは二酸化タングステンは入っていないが、SYNERGETIC WET LUBEを凌ぐ性能を備えている。

世界最速の1,650円!フラワーパワーワックスがCERAMIC SPEED UFO DRIPを超えた!
Effetto Mariposaのフラワーパワーワックスは、ドリップ式潤滑剤において現状最も優れている。実験はゼロ・フリクション・サイクリング社で行われた。これまで最も摩擦抵抗が小さかったCERAMIC SPEED UFO DRIP V2よりも、さらに性能が高く低コストだ。フラワーパワーワックスは、ひまわりの種から抽出したワックス成分を使用している。水やドロにも強く、チェーンなどの金属部品への親和...

これまで、チェーンの洗浄をしてこなかった方や、オイルにこだわってこなかった方は一度、超音波洗浄やワックス系の潤滑剤を使用して、少しでも駆動系の抵抗を減らし、快適なライドを楽しんでほしい。

 

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