パナレーサー AGILEST FAST「ROAD、最速解」を名乗る国産フラッグシップ

4.5
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今更使ったけど、良いタイヤだった

長らく、使う順番が回ってこなかったこのタイヤ。忘れかけていた頃、箱から顔を出している所を引っ張り出して渋々取り付けた。使って後悔した。もう少し早く使っておけば良かった、と思うほど性能が高いタイヤだった。

AGILEST FASTはパナレーサーが「クリンチャータイヤとして世界最小の転がり抵抗」を掲げて開発した、同社のフラッグシップタイヤだ。兵庫・丹波工場でクラフトマスターの手により一本ずつ製造されている。

開発の直接的な引き金は、2022年発売のAGILESTが好評を得るなかで「より軽い転がり感が欲しい」という国内トップチーム選手や速さを求める一般ライダーの声だったという。

FASTは、転がり抵抗の低さに全振りしたレーシングタイヤだ。従来はオールラウンドの「AGILEST」、軽量の「AGILEST LIGHT」、耐久重視の「AGILEST DURO」の3タイプ構成で、そこへ「AGILESTを超えるAGILEST」としてFASTが加わった。

用途は無印AGILESTと同じロードレースや高速ロングライドに照準を当てつつも、レーシング性能をさらに引き上げた点が違いにある。AGILEST登場からわずか約1年半という異例の短サイクルで投入された点も特徴だ。

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Panaracer Ratio

FASTにはパナレーサーがロードタイヤを構成する上での黄金比として定義した”Panaracer Ratio”という設計思想がベースにある。

トレッドコンパウンド・ケーシング・耐パンクベルトの配合と比率のバランスを指し、AGILEST開発時に探し出したこの比率を、FASTでは転がり抵抗低減の方向へ再定義した。

重要なのは、FASTが全く新しい素材を投入したのではなく、既存素材の配合比率とゴム特性を作り込んで最適化した点だ。例えば、カーボン繊維のグレードは同じでも、含浸させるレジンの質や量を変えて性能を進化させることと似ている。

ゴムを自社で一から練り上げられる数少ないメーカーである強みが、この地道な作り込みを可能にしている。

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転がり抵抗データが示す実力

AGILEST FASTクリンチャーは転がり抵抗の試験において、チューブレスの最高峰であるコンチネンタルGP5000 S TRに肉薄する転がり抵抗を叩き出した唯一のクリンチャータイヤだ。

これはメーカー公称値だけでなく、シルバーストーンなど独立した第三者機関のテストで裏付けられている。

ラテックスチューブ併用のクリンチャーでありながらトップクラスのチューブレスレース用タイヤに並んだという事実は、従来「転がり抵抗ではチューブレスが優位」という常識を覆すものだった。

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Fマテリアルと電子線照射

Fマテリアルは、FAST専用に開発されたトレッド・ケーシング・耐パンクベルトの3素材群と、それを仕上げる電子線照射の総称だ。単にゴムを柔らかくしたり薄くしたりではなく、全体最適化によって転がりとグリップを両立させた点が肝である。

内訳は次の通り。

要素 名称 詳細
コンパウンド ZSG AGILE-F COMPOUND(クリンチャー) 具材の配合比率を刷新し、低転がりと高グリップを両立
ケーシング AGILE-F CASING 超軽量細密ナイロンコードを基礎に、コーティングゴムを変更。しなやかさ・耐久・軽量を保ちつつ転がり抵抗を低減
耐パンクベルト AGILE-F BELT 幅・肉厚は従来同等のままゴムを一新し、耐パンク性を保ちつつ転がりを阻害しない
表面処理 電子線照射(Electron Beam) 加硫前のケーシングに電子を照射しゴムの流動性を制御。加硫時にケーシングの凹凸が平滑化され、繊維が整列し真円度が向上、ケーシングとトレッドゴムの密着度が高まる

電子線照射は分子間に予備架橋を行い、加熱を伴う加硫工程でも形状・寸法を保持させる働きがある。この寸法安定性がケーシング表面の平滑化と均一性向上に直結し、転がり抵抗低減へ効いているという。

なお、後発のTLR版ではトレッドに「ZSG AGILE-FX COMPOUND」、内部に「AGILE-F LAYER」という別のFマテリアルを追加採用しており、クリンチャー版のZSG AGILE-F COMPOUNDとは区別されている。

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Cyclingnews Labs

Cyclingnews Labsによる24種類の高性能ロードタイヤ比較テストで、AGILEST FASTクリンチャーはチューブド最速の座に就き、ベンチマークのGP5000 S TRと実質同等の数値を記録した。

テストは英国Silverstone Sports Engineering Hubのペダリング効率リグで実施され、ドラム側センサーで出力を計測している。

ドラム表面はパリの路面をスキャンした模擬アスファルトが用いられた。32.4km/hと39.6km/hの2条件、28C・5barに統一し、AGILEST FASTはチューブレス非対応のためVittoria製ラテックスチューブで装着された。

結果は以下の通り。

タイヤ(28C) 32.4km/h 損失 39.6km/h 損失 GP5000 S TR比(32.4km/h)
Vittoria Corsa Pro Speed(TT) 8.6W 14.6W -1.3W
Continental GP5000 TT TR 9.8W 15.9W -0.2W
Continental GP5000 S TR(基準) 10.0W 16.0W ±0
Panaracer AGILEST FAST(クリンチャー) 10.0W 16.8W +0.1W
Schwalbe Pro One TT 10.1W 16.9W +0.2W
Specialized S-Works Turbo Cotton 11.2W 17.8W +1.2W
Panaracer AGILEST TLR(無印) 18.0W 25.3W +8.1W

32.4km/hではAGILEST FASTがGP5000 S TR(同条件で10.0W、誤差±0.1W)とわずか0.1W差で並び、有名なコットンタイヤSpecialized Turbo Cottonを上回った。

GP5000 S TRに並ぶ唯一のオールラウンド・レースタイヤであり、実質同等のワット損失を提供する。無印AGILEST TLRとこのチューブド専用のFASTには非常に大きな性能差があり、32.4km/hで正確に16ワットの差がある。

FASTの専用設計がいかに効いているかが際立つ結果となった。

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インプレッション

実走での評価は速さは本物、乗り心地とグリップは良好、ただし耐久性とトレッド表面の傷つきやすさに課題が残った。

平坦巡航では軽さが体感できる。静止状態のバイクを手で移動させたときに「転がりが軽い」とわかるほどだ。峠のタイムでベスト更新した、という耳障りの良い報告ができればよいのだが、タイム短縮の効果は今回の実走では確認できなかった。

わりと荒れた旧道を通ってもパンクゼロだった。レーシングタイヤにしては耐久性は高いほうだとは思う。

コーナーで抵抗なくスムーズに切れ込み、下りを攻めても不安感がない。総じて「重量スペックは重いが、使えば分かる良いタイヤ」だ。

見えてくる課題

最大の弱点は耐久性とトレッド表面の傷つきやすさだ。レーシングタイヤにしては耐久性が高いほうだとは思うが、荒れた路面で走るとトレッド表面に薄い小傷が付きやすい。

実害(パンク直結)はないものの、心理的に気持ちの良いものではない。寿命はおおむね3,000km前後で、最近のタイヤとしてはやや短命ながらレース機材としては標準的だと思う。

ウェットグリップ

ウェットグリップは良いがピレリ P ZEROほどの性能は無いと思う。装着性は概ね容易だ。Bicycle Rolling ResistanceはウェットグリップをFAST TLRで平均70点と評価しつつ、エッジ(傾けた際)のグリップがやや低いとして減点している。

リムへの装着はクリンチャー版でビードの固さの苦労はほとんどない。手ではめ込めるがややきつめだ。ただし製造時の離型剤(粉)がかなり多く、リムと手を汚す。走り出す前の拭き取っておいたほうがいい。

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走らせて何を感じるか

AGILEST FASTの走行感は「静かに速い」

踏んだ瞬間に路面へ吸い付くように前へ出るのに、スピードメーターを見るまでその速さに気づきにくい、という独特の質感がある。

派手なスピード感でライダーを興奮させるタイプではなく、気づけばいつもより巡航速度が乗っているという、実速が体感を上回る類の速さだ。

踏み出しは、スペック上の重量増から想像するほど鈍くはなく、地面をしっかり掴んで前へ滑り出す感触である。重量級タイヤ特有の粘りつくような重さは薄く、平坦巡航に入ると路面との摩擦がすっと消えていくような軽さが立ち上がる。

たとえるなら、よく手入れされた木の床を靴下でスッと滑るような、抵抗の輪郭が丸く削られた感覚だ。一方で登り坂では相応の重さを感じ取れる場面もあり、ヒルクライム一辺倒の軽量タイヤとは性格が異なる。

乗り心地とコーナー

乗り心地はクリンチャーとしては平均より上だ。タイヤの方さ具合はGP5000とMichelin Power CUPの間と言ったところか。

無印AGILESTより明確にやさしめだ。トレッド厚を実測すると2.8mmと厚い。この肉厚と柔らかめのコンパウンドが、路面の細かな突き上げを角の取れた振動に変えているようだ。

コーナーでは路面を舐めるように安定し、倒し込んでも不安の立ち上がらない安心感がある。サイドグリップはPirelli P ZERO SL-Rよりも攻めきれない感じがする。サイドをめいいっぱい使えず躊躇するときがあった。

ただしこれは太めの安定志向の質感だ。リム内幅・空気圧・路面の質で感じ方が振れると思うので、筆者の環境下では、という添え書きをしておく。

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軽さを捨て、速さを取る

AGILEST FASTに乗って投げかけられた問いは「タイヤにとっての速さとは軽さなのか、それとも転がりの良さなのか」だ。

このタイヤは同サイズの無印AGILESTより30~40g重く、競合の同サイズより約10g重い。数字だけ見れば時代に逆行する重量級だ。

しかしパナレーサーは、軽量化のためにゴムを薄くする道を選ばず、あえてトレッドを厚くし専用素材を積層して転がり抵抗を削る道を選んだ。ここに、カタログの軽さより実走の速さを優先するという思想がある。

重いのに速いという逆説は何を意味するのだろうか。

それは、ロードタイヤの価値基準が「静的な軽さ」から「動的な効率」へ移りつつあることを意味しているように思う。停止状態で手に持ったときの軽さは購入時の心理的障壁を左右するが、走り出せば支配的になるのは加減速の頻度が低い巡航での転がり抵抗だ。

AGILEST FASTの実測データは、30~40gの重量増が転がり抵抗の大幅低減で十二分に相殺され、お釣りが来る。速く走れるタイヤは、同じ速度なら低い出力で済み、同じ出力なら余力を残せる。

レーサーでなくとも恩恵を受けられるという発想は、ロングライドやブルベの世界にも通じる普遍性を持っている。

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国産メーカーが世界の頂点を狙う

正直な話、パナレーサーがシルバーストーンの測定で世界トップレベルの性能を出せるとは全く思わなかった。今でも信じがたい。名だたる製品と肉薄する性能を、日本の兵庫のメーカーが達成したことに驚いた。

パナレーサーのタイヤはほとんど使ってこなかったが、FASTの転がり抵抗データの結果をみて使ってみたいと思ったのがきっかけだった。しかし、かなりの時間が経ってしまったのは誤算だった。もう少し早く使うべきだった。

AGILEST FASTは、コンパウンドから自社で練り上げられる垂直統合型メーカーだからこそ到達できた製品だという点に意味があると思う。

ゴム特性を内製でコントロールできる自転車タイヤメーカーは世界的にも数少なく、パナレーサーはこの強みを使い、原糸からプリプレグを作るように素材の微調整を短サイクルで繰り返した。

海外の外部検査機関の客観評価で、転がりで名高いコンチネンタルやヴィットリアなどの有名ブランドを凌駕する数値を得たという事実は、国産専業メーカーが価格・性能の両面で世界の頂点タイヤに正面から挑めることを示した象徴的な出来事といえるだろう。

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まとめ:FAST、いいぞ

純粋に良いタイヤだ。価格と性能を考えるとGP5000系よりもAGILEST FASTを選んだほうがよいと感じた。発売から時間が経ってしまったが、現在でも良いタイヤだ。このタイヤよりも優れるタイヤは数本しかない。

AGILEST FASTクリンチャーは「決戦用の速さを、手の届く価格で、チューブド運用のまま欲しい」ライダーにとって、現時点で最も合理的な選択肢の一つでもある。

GP5000 S TRに実質並ぶ転がり抵抗を、通販実勢9,000円台という価格で、しかもラテックスチューブ併用のシンプルなクリンチャー運用で手に入れられる価値は大きい。

一方で、寿命約3,000kmという短さとトレッドの傷つきやすさを許容できるかが分かれ目となる。

気になる方は、ラテックスチューブと組み合わせてタイム計測で効果を体感することを勧める。ベンチマークとして手持ちのタイヤと同一コース・同一空気圧で比較すれば、体感を超える巡航タイムの伸びを数字で確認できるはずだ。

世界最高峰にたどり着いた国産フラッグシップの実力を、まずは自分の脚で確かめてみてほしい。

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