ENVEは「MELEE」を第2世代へ刷新した。
56cm UL Blackでフレーム791g、システム全体で17W(50km/h)の空力改善、そしてタイヤクリアランスを35mmから33mmへあえて縮小。数字だけを追えば「軽く、速くなった」という順当な進化に見える。
しかし、本質はそこではない。
V1が抱えていた「万能であること」への未練を、ENVEは自ら断ち切った。公式発表の値や、第三者風洞データ、ジオメトリー、競合比較を行い、MELEE V2が誰にとってのバイクなのかを追う。
MELEE V2の進化ポイント
MELEE V2はフレーム791g(56cm UL Black)、総重量1,442g。SRAM RED構成で6.8kg、実測でも6.73kg(56cm、ペダルなし・ケージ2個)だ。
空力はENVE公称でV1比17W改善。一番のトピックとして、Cyclingnewsの独自風洞ではライダー搭乗時に歴代3位、最速のCervelo S5との差はわずか1.66W。つまり「軽量機の重量で、エアロ機の空力」を実現した。
代償として35mmクリアランス、フェンダー台座、高めのスタックといったV1の「懐の深さ」は捨てられている。V2は明確に純レース機である。
フレームセット価格はUS$5,000(コックピット無し)、日本は\792,000(税込)。158円計算になっている。プロチーム供給は未定であり、V2はWorldTour復帰の布石の可能性がある。
V1が背負っていたもの、V2が捨てたもの
2022年に登場したMELEE V1は、35mmタイヤが入り、フェンダー台座を備え、スタックも高めという「レース機の顔をしたオールロード」だった。
当時のENVEにはFrayが存在せず、MELEEはレースからロングライドまでを一台で担わされていた。Team TotalEnergiesへの供給時、選手の多くが「ジオメトリーが緩すぎて希望のポジションが出ない」と漏らしていたという。
Frayの投入によってこの矛盾は解ける。
MOGはグラベル、Frayはオールロード/エンデュランス、MELEEはレース。役割が分かれたことで、MELEEは初めて「速さ」だけに献身できるようになった。
ENVEは今回、現代ロードレースで最も重要な2要素を「重量と空力」と明言し、V2をその両方で改善したと表明している。捨てることでしか得られない性能があるという、機材開発における古典的な真理をV2は体現した。
主要スペック
| 項目 | MELEE V2 |
|---|---|
| フレーム重量 | 750~850g、56cm UL Blackで791g |
| シャシー総重量 | 1,442g(フレーム+フォーク+ヘッドセット+シートポスト+スルーアクスル+ハンガー) |
| 完成車重量 | 56cm UL Black+SRAM RED構成で6.8kg |
| 素材 | ENVE M.O.D.カーボン(フレーム/フォーク) |
| サイズ | 47/50/52/54/56/58/60の7サイズ |
| フォークオフセット | 55/51/47/47/43/43/39mm(サイズ順、5種類) |
| BB規格 | BSAスレッド68mm(V1のT47から変更、T47比30%軽量) |
| ディレイラーハンガー | UDH |
| フロントディレイラー | 着脱式ブレーズオン(1x運用時はクリーンに外せる) |
| ヘッドセット | ENVE IN-Route、49.5mm小径ベアリング(40.5×49.5×6.5mm、45/45)、ステンレスベアリング、LLUシール、永久防水グリス |
| ケーブルルーティング | IN-Route完全内装。機械式にも対応するが実質電動前提 |
| タイヤクリアランス | 最大33mm(最適31mm) |
| アクスル | 前12×100mm、後12×142mm |
| ブレーキ | フラットマウント。前160mmのみ、後140/160mm |
| シートポスト | 専用エアロ形状、ゼロオフセット標準(20mmオフセットは別売)、V1比28g減、ウェッジボルト規定トルク6Nm |
| UCI耐荷重 | 136kg(300lb) |
| 保証 | ENVE Limited Lifetime Warranty+クラッシュリプレイスメント |
構造と規格の変更
BSAスレッドBBへの回帰、UDHの採用、小径ステンレスベアリングと防水シールの組み合わせは、いずれも整備性の観点で歓迎すべき変更だ。
T47からBSAへの変更は「軽量化」を理由に語られているが、実感としてはBBの選択肢が広がり、圧入トラブルとも無縁になる点のほうが大きい。T47を採用していたバイクがBSAに鞍替えするのは珍しい設計変更だ。
IN-Routeの小径ベアリング化により、ワンピースバーのケーブル取り回しも従来より扱いやすい。
ヘッドベアリングの規格は上下ともTARMAC SL8やSL9と同じIS49.5である。40.5×49.5×6.5mm、45/45であるため余談だがセラミックスピード社のSLTベアリングはTARMAC用が使える。
ジオメトリー
| サイズ | 47 | 50 | 52 | 54 | 56 | 58 | 60 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| リーチ | 367.6 | 374.6 | 380.7 | 386.7 | 393.3 | 400.1 | 407.5 |
| スタック | 501.7 | 517.4 | 532.9 | 547.4 | 564.7 | 584.9 | 610.4 |
| シートチューブ長 | 421.4 | 442.1 | 464.5 | 479.7 | 502.9 | 522.4 | 554.2 |
| トップチューブ長 | 502.1 | 518.1 | 533.5 | 546.2 | 560.6 | 576.7 | 597.1 |
| ヘッドチューブ角 | 70.8 | 71.5 | 72.3 | 72.5 | 73.2 | 73.2 | 73.8 |
| シートチューブ角 | 75.0 | 74.5 | 74.0 | 73.8 | 73.5 | 73.2 | 72.8 |
| ヘッドチューブ長 | 97.5 | 110.1 | 122.2 | 138.8 | 153.3 | 176.5 | 197.5 |
| チェーンステー長 | 410 | 410 | 410 | 410 | 410 | 412 | 412 |
| BBドロップ | 75 | 75 | 75 | 73 | 73 | 71 | 71 |
| フォークオフセット | 55 | 51 | 47 | 47 | 43 | 43 | 39 |
| ホイールベース | 977.6 | 979.6 | 979.3 | 989.2 | 990.6 | 1006.5 | 1010.7 |
| フロントセンター | 579.3 | 581.4 | 581.1 | 590.3 | 591.7 | 604.8 | 609.0 |
| トレイル(31mmタイヤ) | 60.6 | 60.6 | 59.6 | 58.5 | 58.5 | 58.5 | 58.6 |
ジオメトリーの特徴
56~60サイズではフレーム側で5mm、ハンドル側で6mm、計11mmスタックが下げられた。V1で選手が不満を抱いた「前が高い」問題への直接的な改善である。
素晴らしいのは、5種類のフォークオフセットによりトレイルは58.5~60.6mmの範囲に収められ、全サイズでハンドリング特性が均一化されている。チェーンステー410mmは現代のレース機として標準的な短さで、SL9やSuperSix EVOと同じ土俵にある。
ENVEはフィットの起点としてBest Fit Calculator(実測値からサイズ、ステム長、オフセット、スペーサーを算出)の利用を推奨している。

ワンピースバーとゼロオフセットポストが前提のシステム設計であるため、購入前のフィット確定はこのバイクにおいて任意ではなく必須の工程と考えるべきだろう。
空力:ENVE公称値と第三者検証
シルバーストーン風洞
開発はSimon Smart(Drag2Zero)監修のもと、ライダー搭乗・ボトル/ケージ込みの「Real-World Fast」プロトコルで行われた。V1比の総改善量17Wの内訳は以下のとおり。
| 要素 | 改善量 |
|---|---|
| フレーム/フォーク/シートポスト(表面積7.5%削減) | 11.4W |
| 新SESエアロバー+バーテープ | 3.0W |
| SESエアロボトルケージ(丸型ボトル使用) | 2.6W |
| 合計 | 17.0W |
ENVE内部テストによる平均ドラッグ(ライダー搭乗、ボトル付き)は、MELEE V2が507.71W、Trek Madone(Trekエアロボトル)510.79W、Specialized Tarmac SL8(標準ボトル)511.30W、Madone(標準ボトル)517.90W、旧MELEE 524.71W。
ここで注意すべきは、比較対象がTarmac SL8であってSL9ではない点だ。Specializedの自社データではSL9はSL8比で約4W速いとされており、SL9との直接比較は現時点で成立していない。
Cyclingnews独自風洞テスト
ここが最も注目すべき実験結果だ。Cyclingnewsは自社標準プロトコル(40km/h、ヨー角±15/10/5/0°の7条件、ベースライン=旧Trek Emonda ALR、対照ホイール=ENVE SES 4.5)でV2を検証した。結果は以下のとおり。
- バイク単体:ベースライン比36.56W改善。歴代最速のFactor Oneに肉薄し、専用エアロ機の空力性能領域に入った。
- ライダー搭乗:ベースライン比25.91W改善で歴代3位。歴代最速のCervelo S5との差は1.66W。測定誤差が3.7Wであることを踏まえれば実質互角であり、S5より約1kgも軽い点を考慮すれば総合ではENVEの勝利。
- フレーム/フォーク/コックピット単体でも旧MELEEより約7W速い。
- 実測重量6.73kg(56cm、SRAM RED、UL Black、ペダルなし、空ケージ2個)。
結論として、ENVEはやろうとしたことを全て達成している。
新コックピットと周辺部品
MELEE V2には新設計のSES Aero Road Bar V2が組み合わされる。
リーチ76mm、ドロップ128mm、ドロップ部はエアフォイル断面。ステム長は90~140mmの6種、幅は37/40、39/42、41/44cm(30mmフレア)、重量335~355g(実測は37×120mmで340g)。V1に付属していたSES AR一体型からの置き換えとなる。
SESエアロボトルケージはダウンチューブ用とシートチューブ用で形状が異なり、丸型ボトルに対応する。価格は1個$85で、旧MELEEや他社フレームにも装着できる。
新Aero Race Tape(1.2mm厚、3/4巻きで露出面積を削減)も同時に投入された。
V1からV2への差分
| 項目 | MELEE V1(2022) | MELEE V2(2026) |
|---|---|---|
| フレーム重量(56cm) | 約850g | 791g(UL Black)/750~850g |
| 最大タイヤ幅 | 35mm | 33mm(最適31mm) |
| BB規格 | T47 | BSA |
| ハンガー | 専用 | UDH |
| ヘッドセットベアリング | IS52/1.5インチ | 49.5mm小径 |
| フェンダー台座 | あり | なし |
| スタック | 高め | 11mm低下 |
| 空力 | 基準 | 17W改善(公称) |
| コックピット | SES AR一体型付属 | 新SES Aero Road Bar |
| フレームセット価格 | \748,000 | \792,000(税込) |
塗装と重量の関係
カラーはUL Black(RAWカーボンにクリアと最小限のグラフィック)とWhite Lightningの2種。791gはUL Black、56cmという最良条件の数値であり、White Lightningでは約40g増える。
塗装によるペナルティは31gとされる。いずれにせよ「791g」を額面通りに受け取る前に、自分のサイズとカラーで再計算する必要があるだろう。
競合比較
| モデル | フレーム重量 | 最大タイヤ | 完成車・備考 |
|---|---|---|---|
| ENVE MELEE V2 | 791g | 33mm | 実測6.73kg |
| Specialized Tarmac SL9 S-Works | 687g | 32mm | 実測6.66kg |
| Cannondale SuperSix EVO Gen5 | 728g | 32mm | 最軽量6.35kg |
| Trek Madone Gen8 SLR | 796g+フォーク350g | 33mm | |
| Cervelo S5(2025) | 703g | 34mm | 実測8.03kg |
| Factor Ostro VAM(2026) | 820g(54) | 32mm | 7.0kg |
| Canyon Aeroad CFR | 960g | 32mm | 7.0kg |
| Pinarello Dogma F | – | 32mm | 実測6.7kg |
比較から見える立ち位置
フレーム単体の軽さではTarmac SL9、SuperSix EVO LAB71、Cervelo S5に及ばない。
純エアロではS5やAeroadが上回る。しかし「軽量」と「エアロ」と「システムとしての完成度」を同時に満たす機体として見たとき、MELEE V2は稀有なバランスに立っている。
S5の実測8.03kgに対しMELEE V2は6.73kgであり、この1.3kgの差は登坂を含むレースでは空力差1.66Wを容易に上回る。
最大のライバルであるTarmac SL9との直接的な空力比較データは存在しない。ENVEがSL8としか比較していないこと、SL9がSL8比で約4W速いとされることから、両者の優劣は現時点で判断できないというのが正直なところだ。
ホイール・タイヤの組み合わせ
| ホイール | 特性 | 推奨用途 |
|---|---|---|
| SES 4.5 PRO | 49/55mmリム、システム重量1,295g、28mm最適、ミニフック、セラミックベアリング | オールラウンド~登坂。 |
| SES 4.5/SES 3.4 | 内幅25mm、フックレス、28~32mm最適 | 万能~登坂寄り。 |
| SES 6.7 PRO | ディープリム | 平坦・高速・TT寄り |
筆者自身、新型のSES 4.5 PRO、ノーマルSES 4.5、SES 6.7と使ってきたが最も汎用的かつ1本だけ選ぶとしたらSES 4.5 PROだ。
フレームの最適値は31mmだが、SES PROリムは28mm前後で最適化されている。レース用途では28~30mmが現実的な選択となる。





まとめ:V2は買いか?
EDGE時代からENVEが好きであるためMELEE V2を注文した。S-WORKS TARMAC SL9やSuperSix EVO Gen.5と比較しインプレッションを行う予定だ。
MELEE V2はレース優先でENVEエコシステムを前提とするライダーには「買い」だ。UL BlackとSRAM REDでUCI下限を狙え、軽量とエアロを両立し、BSAとUDHによる整備性も高い。
35mm以上のタイヤや悪路耐性を求めるならV1の中古、あるいはFray/MOGが適切だと思う。V2にはV1の懐の深さはない。
平坦での純エアロ最速を求めるならCervelo S5やCanyon Aeroadが依然上。登坂を含む総合ではMELEE V2、Tarmac SL9、SuperSix EVOが有利だ。
MELEE V2は、ENVEが「何をしないか」を決めたバイクである。
35mmのタイヤを諦めた。フェンダー台座を削った。前を下げた。ひとつ捨てるたびに、このバイクは万能さを失い、そのぶんだけ研ぎ澄まされていった。そして残ったのが、791gの骨格に、エアロ機と肩を並べる空力をまとった一台である。
軽さと速さの両立、言葉にすれば一行で済む。
だがそれを形にするには、何かを手放す覚悟がいる。V1が背負っていた「誰にでも応えられるバイク」という約束を、ENVEは自らの手で断ち切った。V2は、その決断の重さをそのまま791gに刻み込んだフレームだ。
数字は出揃った。風洞は答えを出した。あとはただ一つ、問いが残る。この速さを、誰の脚が、どのレースで証明するのか。ENVEが用意したのは、勝つための道具である。



















