バイクが考える時代へ。ロックショックス フライトアテンダント 電子制御サスペンション インプレッション

5.0
スポンサーリンク

状況を判断し電子制御する。 Photo: SRAM

地形やライダーの状況をもとに、サスペンションを電子制御する。

そんな未来の機材が、本当に存在している。ロックショックスのフライトアテンダントだ。フライトアテンダントは、ライダーの乗り方を学習するアルゴリズムが組み込まれており、地形や加速度からサスペンションをリアルタイムで変化させる。

このアルゴリズムは、ライダーが走ることで得られるあらゆるデータを収集し蓄積する。そして、最適なサスペンション設定を判断していく。乗れば乗るほど、フライトアテンダントは賢くなっていく。ライダーの乗り方を深く理解し、最適な制御に生かしていくていくのだ。

image: SRAM

image: SRAM

今回は、フライトアテンダントを実際に購入し、ふだん走っているトレイルからXCレースまで試した。未来がいま現実になった、電子サスペンションの真価を追う。

本記事は、フライトアテンダントの細かな話が前半に、後半はキモとなるアダプティブライドダイナミクスとインプレッションの話で構成されている。時間がない方は、アダプティブライドダイナミクスとインプレッションだけ読むと大枠がつかめると思う。

スポンサーリンク

ライドデータからサスペンション状態を最適化

image: SRAM

フライトアテンダントのブレイン(脳)は、フロントサスペンションに組み込まれている。フロントサスペンションが、パワーメーター、ディレイラー、ドロッパーポスト、リアサスペンション、スイッチと連携しながら情報を吸い上げていく。

フロントとリアサスペンションには、加速度センサーが組み込まれている。サスペンションが衝撃を受けているのか、傾いているのかあらゆる衝撃力を測定する。ピッチセンサーも組み込まれているため、上り坂か下り坂かも検知できるのだ。

下りの加速度を検知すると、サスペンションはオープン状態に遷移する。

ペダルを通じて、ライダーのパワーデータも測定する。これは、ワット数に応じてバイクの動きを最適化するために用いられる。例えば、スプリント時はサスペンションを硬く制御する。ゆっくりペダリングする場合は、サスペンションはオープンになる(確率が高まる)。

バイクがどれだけ傾いているか、下降しているのか、上昇しているのか、衝撃を受けているのかをフライトアテンダントは理解している。

image : SRAM

フライトアテンダントが賢いのは、過去7回のライドデータを収集した結果を用いることにある。ライダーのパワーデータ、トレイルコンディションなどが読み取られ、サスペンションのポジションを瞬時に調整し最適化する。バイクが最も走るであろう、意思決定プロセスを踏むのだ。

情報を読み取る処理スピードも速い。サンプリングレートは0.005秒(5ms)だ。

まばたきが約0.5秒(500ms)程度ということを考えると、その間に100回もの計算を行う。ライダーが反応するよりも更に早く、サスペンションが判断を下す。

スポンサーリンク

全てのコンポーネントが連動する

image: SRAM

ディレイラー、フロントサスペンション、リアサスペンション、ドロッパーポスト、リモートコントロール、パワーメータなどが全て連動し、1つのシステムとしてセットアップされる。

  • パワーメーターを起動
  • ★システムをペアリング
  • ★サスペンションの空気圧設定
  • ★システムをキャリブレーション
  • ★バイアス調節
  • 低速圧縮(LSC)ダンピングの設定(ZEB/Lyrik/PikeおよびSuper Deluxe, Vivid Air, Vivid Coilのみ)

初めて見た方は、これら複数の手順があると難解にも思えてしまうかもしれない。しかし、重要なのは★マークが付いた部分だけだ。フライトアテンダントは、フォークが各コンポーネントを束ねる司令塔の役目をする。

image: SRAM

そのため、パワーメーター、ディレイラー、ドロッパーポスト、リアサスペンション、スイッチをフォークとペアリングする必要がある。フライトアテンダントと全てのコンポーネントがペアリングされると、1つのAXSシステムが構築される仕組みだ。

ペアリング

ペアリングは以下の流れで行う。

  1. フォークのAXSボタンを長押して、LEDがゆっくりと点滅したらボタンを放す。
  2. リアショックのAXSボタンを長押しして、LEDが素早く点滅したらボタンを放す。
  3. 右のコントローラーのAXSボタンを長押しして、LEDが素早く点滅したらボタンを放す。
  4. 左のコントローラー(があれば)のAXSボタンを長押しして、LEDが素早く点滅したらボタンを放す。(右から行うこと)
  5. SRAM AXSリアディレイラーのAXSボタンを長押しして、LEDが素早く点滅したらボタンを放す。
  6. RockShox Reverb AXSシートポストのAXSボタンを長押しして、LEDが素早く点滅したらボタンを放す。
  7. フォークLEDの点滅が止まるまでAXSボタンを長押しする。または、30秒待ってセッションをタイムアウトさせる。
  8. SRAM AXSアプリでペアリングが完了したことを確認する。
  9. SRAM AXSアプリでフライトアテンダントの一部としてパワーメーターを選択する。

ペアリングは一度行えばよいが、条件に応じて再ペアリングが必要になる場合がある。

  • 再ペアリングの必要がある:何らかのコンポーネントの交換、追加、取り外しを行った場合。
  • 再ペアリングの必要がない:電池を取り外したり、交換した場合。

サスペンションの空気圧とリバウンド・ダンピング設定

フライトアテンダントのキャリブレーションの前に、サスペンションの空気圧とリバウンド、ダンピング、サグを先に設定する必要がある。キャリブレーションの際に、フォークの沈み込む量が影響するからだ。

フライトアテンダントの空気圧とリバウンド、ダンピングはロックショックスのトレイルヘッドにアクセスして調整すればよい。ただし、スペシャライズド製のバイクはショックに独自のチューニングをしているため、スペシャライズドが用意しているサスペンション計算機を用いる必要がある。

RockShox TrailHead
A suspension specialist in your pocket! Get personalized setting recommendations for the perfect ride.
Suspension Calculator

スペシャライズドのS-WORKS EPIC 8にはフライトアテンダントを搭載したRockShox SIDとSIDLuxeサスペンションが装備されている。ショックの120mmストロークと190x45mmサイズは標準的だが、内部はSpecializedのRide DynamicsチームによってEPIC専用にエアスプリングとダンパーがカスタム調整されている。

カスタムの内容は、エアスプリングを大容量にするために、内部にボトムレストークンが存在せず、プラスチックアイレットスペーサーも取り除くことで空気量を最大化している。よりフラットで一貫したスプリングカーブが実現した。

フォークトラベルの最後を緩和するために、EPIC World Cup SIDLuxe WC SID用に開発した大きなゴム製ジャンプバンパーも採用した。急激な底付きを防ぐためにシンプルかつ非常に効果的な構造にチューニングされている。

そのため、ROCKSHOX トレイルヘッドで算出した値と、スペシャライズドのサスペンション計算機で算出した値は異なる。スペシャライズドのバイクの場合は、同社のサスペンション計算機を使おう。

キャリブレーション

フライトアテンダントは、バイクに対して正しいシステムのセットアップを確実に行う必要がある。キャリブレーションは以下の3つの場合に行う必要がある。

  • フライトアテンダントを自転車に取り付けた際
  • コンポーネントを交換した際
  • ライドする前

注意点としては、サスペンションを『マニュアルモード』で『OPEN』にすることだ。自動モード、オーバーライドモード、セーフモードでOPENにしないこと。モードの変更はメニューボタンを長押しすることで変更できる。どのモードであるかは、『OPEN』の色で判別する。

  • 赤:マニュアルモード
  • 緑:自動モード、アダプティブライドモード

ライド前のキャリブレーションは面倒にも思えるが、パワーメーターを毎回キャリブレーションする時間や作法とそれほど変わらない。キャリブレーションは『垂直』と『傾斜』の2つに分かれている。

  • 自転車を平らな場所で真っすぐ90°に立てて、ハンドルバーを水平にする。
  • サスペンションを『マニュアルモード』で『OPEN』モードにする。※自動モード、オーバーライド、セーフでOPENにしない。フォークの(-)および(+)ボタンを使用することでOPENに移行できる。
  • シートを下げて自転車に座る。フロントおよびリア・サスペンションをサグのポジションにする。
  • (-)と(+)のボタンを同時に押して3秒間保持する。
  • 『PEDAL』のLEDが白にゆっくりと明滅したら、(-)と(+)ボタンを放す。自転車をそのまま真っすぐ立てて動かないように保持する。
  • 『PEDAL』のLEDが白色に素早く点滅したら、垂直のキャリブレーションが完了。
  • 『OPEN』のLEDが白色にゆっくりと明滅したら、次は傾斜のキャリブレーションを行う。
  • 『OPEN』のLEDが白色にゆっくりと明滅したら、自転車から腰を浮かせてまたがる。※サスペンションにかけている荷重を全て抜いた状態。
  • 自転車をゆっくりと非ドライブ側へと傾ける。
  • 自転車を傾けたまま、ハンドルバーは真っすぐにする。『OPEN』のLEDが白色に素早く点滅したら、キャリブレーションは正しく実行完了。
  • 『OPEN』のLEDが緑色に明滅する。システムのキャリブレーションが完了。

キャリブレーションは以下の場合、再度実行する必要がある。

  1. 垂直および傾斜のキャリブレーションの最中に、きちんと保持していた自転車が動いてしまった場合
  2. フロントおよび/またはリア・ショックのエア・スプリングの空気圧とサグを変更した場合
  3. 何らかのFlight Attendantコンポーネントを交換した場合
  4. ホイールのサイズを変更した場合

バイアス調整

バイアス調節は、トレイルの起伏やライダーのペダル操作がフライトアテンダントの自動サスペンション・システムにどれくらい影響を及ぼすのかを調整する。過剰に反応するのか、それとも怠慢に反応するのかを-2から+2まで合計5段階で調整できる。

ライドのスタイルに合わせて、5つのレベルのバイアスを調整するが、ほとんどのライダーに対する基本的な設定である「ゼロ・バイアス」がデフォルトの開始レベルだ。

値が高くなるほど、システムのバイアスは硬度と効率を増す。LOCKポジションが有効になる可能性が高まる。LOCKに近づく。

値が低くなるほど、システムのバイアスは硬度と効率が減る。LOCKポジションが有効になる可能性が低くなる。OPENに近づく。

調整方法は以下の通りだ。

  1. 『OPEN』のLEDが緑色に点灯するまで、メニュー・ボタンを押して保持する。
  2. 『PEDAL』のLEDが赤紫色に点灯するまで、メニュー・ボタンを押して保持する。
  3. バイアス・レベルをOPENポジション側に設定する場合は、(?)ボタンを押す。
  4. バイアス・レベルをLOCKポジション側に設定する場合は、(+)ボタンを押す。
  5. メニュー・ボタンを押して保持する。1つのLEDが緑になる。または10秒間待って、自動モードへと戻す。
スポンサーリンク

サスペンションポジション

フライトアテンダントは4つのサスペンションポジションがある。

  1. 自動:バイアス調節に基づいて自動的に調節
  2. マニュアル:AXSコントローラーで手動選択
  3. オーバーライド
  4. セーフ

これらいずれかのモードにおいて、電子的にサスペンションの設定を『OPEN』、『PEDAL』、『LOCK』に変更する。

自動モードを他のモードから有効にするには、1つのLEDが緑色に明滅するまでメニュー・ボタンを押して保持する。

自動モードは操作の基本モードだ。緑色のLEDは、システムが自動モードであることを示している。自動モードでは、フライトアテンダントがライダーの入力情報とトレイルのコンディションを読み取って、サスペンションのポジションを瞬時に調節する。

フロントおよびリア・サスペンションは、ライディング中に、OPEN、PEDAL、LOCKのポジション間を自動的に行き来する。

フライトアテンダントに適合しているパワーメーターが含まれている場合は、アダプティブライドダイナミクスが利用できる。コントロール・モジュールのLEDが、乗車中に、有効になっているサスペンションのポジションと、アクティブなエフォート・ゾーンの両方が表示される。

アダプティブライド・ダイナミクスが有効の場合は、コントロール・モジュールのLEDが追加で2つ(左下および右下に)点灯する。消えていると単なる自動モードだ。これは、ペダリングと地形の変化に応じたアクティブなエフォート・ゾーンを示している。

サスペンション・ポジションの調節は 選択されたバイアス調節のレベルに応じてライディング中に行われる。

スポンサーリンク

アダプティブライドダイナミクス

パワーや地形変化に応じて、サスペンションの効きを変化させる。

アダプティブライドダイナミクスのキモは、条件に応じて最適なサスペンション状態を自動的に選択することにある。のんびり走っているときは柔らかく、強くこぐときは硬くなる。全てはライダーの努力に基づいて決定されるのだ。

アダプティブライドダイナミクスが優れているのは、ライダーの乗り方を学習していくことにある。最新のライディングデータを収集し、シーズンを通して正確に計算し続けるアルゴリズムが組み込まれている。

パワーメーター、リアショック、ドロッパー、リアディレイラーなどAXS対応コンポーネントの操作データと、バイク全体の加速度情報からリアルタイムで最適なサスペンション設定を構築していく。

継続的にサスペンションをチューニングし続けるこのアルゴリズムは、乗れば乗るほどライダーの乗り方をより深く理解していくのだ。

アルゴリズムに与えられるデータとして、ユーザーがどのパワーゾーン (L1~2、L3~4、L5~6、L7) 内で走行しているかの情報がある。

例えば、L1~2でゆっくり踏んでいる場合は、快適なサスペンションに移行する。L3~4のゾーンは快適さと効率のバランスをとる。ペースを上げてL5以上に入ると、効率を優先する。

フライトアテンダントが優れているところは、L7のパワーデータを受信したからといって、自動的にサスペンションを「ロックしない」ことだ。地形(登っているか、下っているか)とライダーの傾き情報を読み取り、最も効率的な方法を『判断』していく。

トラクションを得るためにパワーを下げている間は、サスペンションをペダルモードやオープンモードの位置に移行するのだ。トラクションを得るために『パワーを下げる』や『パワーを抜く』というのはMTBやCXライダーはわかると思うが、あまりにパワーをかけすぎるとリアが滑るのだ。

滑らないように、パワーを抜いたときの動きも判定しサスペンションをオープンにする。

このグラフは、アダプティブライドダイナミクス有りと無し比較だ。「アダプティブ ライド ダイナミクスなし」を見ると、システムがライダーとトレイルのデータに基づいてオープンモードとペダルモードを切り替えていることがわかる。

これも非常にうまく機能している。ただし「アダプティブライドダイナミクスあり」はシステムが更に賢く、ライダーに対してはるかに敏感だ。

スタートダッシュのスプリントゾーン (スプリント 1) を見ると、システムがオープン (フォーク) とペダル (リアショック) の位置から開始し、次にロック位置に移行し、バンプに遭遇してペダル位置に入り、その後ロック位置に戻ることがわかる。

これは、効率的なサスペンション状態とロック状態をできるだけ早く優先するためだ。ライダーがスプリント2に入ると、システムはロック位置を優先し、フォークをトラクションのために少々ペダル位置にとどまらせるが、リアショックを直ちにロック状態にする。

要点は、ライダーの出力を学習し、地形の入力と組み合わせて、シチュエーションごとにどのサスペンション位置が最適なのかを判断することにある。ライダーは、ただ単にスピードとライディングに集中するだけでいい。

スポンサーリンク

インプレッション

Photo: AriHiro

2025年のXCOワールドカップ開幕戦で1位、2位、3位の選手がROCKSHOX フライトアテンダントを用いた。1/100を競う世界最高レベルのフィールドで電子制御のサスペンションは確かなアドバンテージがあることが実績として証明されている。

私自身も、スペシャライズド S-WORKS EPIC 8とフライトアテンダントの組み合わせで3レースを走り、トレイルもかなりの本数を走り込んだ。アダプティブライドダイナミクスを生かすだけのデータでいえば20~30のデータを蓄積したことになる。

その上で、理解したことがある。

Photo: AriHiro

フライトアテンダントは、速く走るためのライディングに全神経を集中できる優れた機材だ。サスペンションロック、オープンの煩わしい作業から解放される。最適なサスペンション状態に遷移し続けるので、これまで以上にサスペンションを有効に使える。

逆に、下りを楽しむことだけを主として考えるのならば、大きな違いを見込めないように思う。下りでわずかなコギを入れるときであれば、サスペンションがロックされると僅かなタイム短縮にはなると思う。

つまるところ、フライトアテンダントが最も生かされるのはXCだ。強力な武器になると思う。スタート直後のスプリントやダッシュ時には、サスペンションがロックされ最大効率になる。しかし、その後が真骨頂だ。

これまでのサスペンションは、下りに入るときにロックを解除する動作が必要だった。フライトアテンダントは、下りに入ると加速度センサーが反応して自動的にオープン状態に切り替わる。

加速度センサーが情報を読み取る処理スピードは速い。サンプリングレートは0.005秒(5ms)だ。まばたきが約0.5秒(500ms)程度ということを考えると、その間に100回もの計算と判断を行う。ライダーが反応するよりも更に早く、サスペンションが適切な判断を下す。

たとえ、ライダーが最大心拍に達してもうろうとしているときでも、フライトアテンダントが変わらぬ状況判断を下すのだ。

コース状況に合わせて、オープンとロックをフライトアテンダントが人間よりも速く判断するため、人間が判断し操作する作業はもはや不要になる。登りでサスペンションをロックして最大効率で走った後、下りでロック解除をし忘れることは多々ある。レース後半になって、集中力が減って疲れてくるとなおさらだ。

フライトアテンダントを使えば、フロントサスとリアサスを別々に制御して最適な走行になるように自動制御される。これまでライダーに委ねられていた判断が減ることを意味する。リアサス、フロントサスにリモートスイッチを取り付けていた場合は、2つの判断が減るのだ。

Photo: AriHiro

登っているときはフロントサスペンションをロックしつつ、リアサスペンション側はトラクションがかかるギリギリのペダリングモードに遷移するなど、サスペンションがパワーと地形を判断しながら前後のサスペンションが、独立しながらリアルタイムで設定を変えてくれる。

『勝手に変わる』と聞くと、サスペンションの状態がせわしなく変化するようにも思えてしまうが、フライトアテンダントが最適だと思うサスペンションポジションに人間の判断よりも速く変更してくれるのだ。

ライダーが走る地形や条件に対して、サスペンションが生きるであろう最大限の性能が引き出される。ライダーはサスペンションが仕事をしていると気づかないほど、フライトアテンダントは速く、正確に条件に応じたサスペンション状態を判定し続ける。

Photo: AriHiro

オープンとロックに行き来する際に「ジッ」と機械音が鳴るだけで、走っているときにサスペンションの状態が遷移する違和感はない。もはや人間がサスペンションの状態を考えて判断を下す時代は終わったのだ。

参考までに、今回のサスペンションのチューニングは以下の通りだ。

  • フロントサスペンション:58psi
  • リアサスペンション:133psi
  • フロントリバウンド:12
  • リアリバウンド:8

次はシチュエーション別に、フライトアテンダントの使い勝手を確認していく。

登り

Photo: AriHiro

登りはパワーがかかるため、サスペンションの状態はクローズが多く判定される。しかし、完全にクローズされるわけではなく、滑りやすい地形などはミディアムに近い解放が行われる傾向にある。

完全にロックされることはまれで、リアのトラクションが最大限に得られる状態が維持される。ぬかるみなどでパワーが抜けたときの挙動は、もう少しリアサスが動いてほしいと思うこともある。

登っているときは、ハードテールを使っているときのようなタイヤトラクションを引き出す扱い方をすれば、リアサスの条件判定をより引き出せるだろう。登りではフロントはほぼロック状態に近いため、障害物を越える際はフロントアップが必要になってくる。

下り

Photo: AriHiro

下りはパワー入力がほとんどなく、加速度センサーが傾きを検知しているためオープン状態の判定が多い。フライトアテンダントが優秀なのは、下っているときよりも『下りに入る瞬間』だ。バイクの傾き、振動、加速の要素が加わると一気にオープンになる。

登りでロックに近い状態が続いていたとしても、下りに入る手前でオープン状態に瞬時に切り替わる。この状態遷移が特に有効で、フライトアテンダントを使っていて本当によかったと思える瞬間でもある。

ジャンプや下りでバイクが傾く動作を理解しているため、下り初める前に『ジッ』と音が鳴りモードが変更していることがわかる。フライトアテンダントは下っている最中は、ほとんどオープン状態を維持するため、アップダウンが少ない下り基調のトレイルでは性能をあまり発揮できないかもしれない。

平たん

Photo: AriHiro

平たんやトレイルの移行区間は、フライトアテンダントの性能が最も生かされる部分だ。平たんの状況とある程度のパワーを検知すると、ペダルモードかロック状態を遷移し続ける。ロック状態にはほぼならず、ペダルモードで適度なサスペンション動作が多い。

ガレた路面でも、木の根っこが続くようなセクションでも、バイクが跳ねないような効率的なサスペンションポジションに変更されるため、バイクを可能な限り速く走らせることができる。砂利道で滑りやすい条件でも、リアサスが適度なトラクションを生み出しながらバイクを効率的に進ませてくれる。

レースのスタートでスプリントに近いパワーがかかれば、瞬時にロック状態になる。フライトアテンダントを搭載していれば、他の選手よりも確実にアドバンテージになるとわかる瞬間でもある。

スポンサーリンク

まとめ:もう何も考えなくていい

フライトアテンダントは、XCO/XCCワールドカップのサーキットを席けんしている。理由は単純だ。人間よりも速く正確に、地形やパワーを読み取って、最適なサスペンション状態に変化させるからだ。ライダーはサスペンションのモードを一切気にすることなく、ライドに集中できる。

レース後半に疲れてきても、不意なスプリント勝負になっても、フライトアテンダントが人間よりも速く、まばたきをするその一瞬で500回もの判定を行い続ける。

路面状況やパワーの情報から、最適なサスペンション状態を判定し続けるフライトアテンダントは、サスペンションがより生かせる状態を常に変化させながら、最速への道しるべを描き続ける。

XCOワールドカップでフライトアテンダントの活躍を見ると、1/100の世界で大きな武器になっていることは間違いない。

その恩恵はプロのみならず、アマチュアライダーにも速さを確実に提供してくれる。複雑で難解な状況判断をサスペンションが考えてくれるのだ。もはや、人間の判断が不要な時代が訪れたのだ。

完璧に思えるフライトアテンダントにも難点がある。価格と、使用できるバイクが限られていることだ。フライトアテンダントは使用できるバイクに指定がある。後付けで使用できるバイクはそれほど多くない。また、前後セットの価格が40~50万円と安いとは言えない。

フライトアテンダントは、トレイルを楽しむ万人向けの機材ではなく、XCO/XCCレースに特化した最速を求めるためのトレイル兵器だ。用途が限られる先鋭化した機材であるが、これまでにない速さが確約されるだろう。

Ads Blocker Image Powered by Code Help Pro

広告ブロックが検出されました。

IT技術者ロードバイクをご覧いただきありがとうございます。
皆さまに広告を表示していただくことでブログを運営しています。

広告ブロックで当サイトを無効にして頂き、
以下のボタンから更新をお願い致します。