iGPSPORT HR80は胸ストラップの装着ストレスを嫌うサイクリストにとって、精度・軽さ・電池持ち・互換性のバランスが現時点でもっとも取れた光学式アームバンドの一つだ。
HR80は「プロ仕様心拍計アームバンド」と銘打ち、多チャンネル光学心拍センサーと新アルゴリズムによって、データの遅延と信号のドリフトを抑える機能が搭載されている。
わずか10mmの本体はカタログ重量19g(本体11g+アームバンド8g)で実測は22.7gだ。センサーはPPG(光電容積脈波法)、通信はBluetoothとANT+、防水はIP67、最大100時間駆動、USB-C充電で約1時間満充電する。
比較検証:Polar vs HR80

iGPSPORT HR80とPolar Verity Senseの心拍データ比較した。
HR80はPolarと平均値ではほぼ一致する。しかし、Vo2MAXインターバルなどで心拍が急に変わる場面では最大15bpm前後の一時的な乖離があり、その乖離はほぼすべてHR80がPolarより先に動く方向に出ている。
※ZWIFTPOWERでデーター比較を実施しており、パワーメーターは同一であるためパワーデータを基準にしてグラフをオフセットし時間軸を整えている。
| 画像 | 区間 | 局面 | 平均(Polar) | 平均(HR80) | 平均差 | 一時的な最大乖離 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 34:50~37:42 | 下降(約142→約90bpm) | 116.4bpm | 114bpm | -2.11% | 約6bpm(HR80が低い) |
| 2 | 38:38~40:05 | 上昇(約88→約124bpm) | 107.4bpm | 108.6bpm | +1.1% | 約4bpm(HR80が高い) |
| 3 | 47:10~48:45 | 上昇→ピーク→下降 | 123.9bpm | 124bpm | +0.08% | 約12bpm(上昇時はHR80が高く、下降時は低い) |
| 4 | 58:10~60:00 | 急上昇→高強度維持 | 131bpm | 135bpm | +2.96% | 約15bpm(HR80が高い) |
| 5 | 58:15~59:45 | 画像4と同じ急上昇の拡大 | 129.1bpm | 134.2bpm | +3.8% | 約15bpm(HR80が高い) |
| 6 | 12:00~35:30 | 120~142bpmの周期的変動 | 133bpm | 132.6bpm | -0.3% | 約2~3bpm |
| 7 | 12:00~35:30 | 画像6と同一区間 | 133bpm | 132.6bpm | -0.3% | 約2~3bpm |
1:心拍が下がる局面で何が起きているか?
心拍の下降局面では、HR80がPolarより先に下がり、数bpm低く推移する。35:40付近までは両者が140bpm前後でほぼ重なっているが、35:41ではPolarが140bpm、HR80が136bpmと差が開き始める。
その後の下降区間では、HR80が一貫して3~6bpmほど低い位置を先行して下がり、36:40前後からは差が縮まって、37:30付近の約90bpmで再び重なる。平均値はHR80が2.11%低く、この差は下降区間での先行がそのまま積み上がったものと読める。
2:心拍が上がる局面
緩やかな上昇局面では、HR80がPolarより少し先に上がり、2~4bpmほど高く推移する。38:38の約88bpmでは一致し、38:53でも両者95bpmで一致しているが、38:58以降はHR80がわずかに上側を先行する。
39:58付近の約124bpmで両者は再び合流する。平均差は+1.1%と小さく、緩やかな変化であれば実用上問題のない範囲である。
3:平均値が一致していれば問題ない?
この区間は、平均値がほぼ完全に一致していても、途中の挙動には大きな差があり得ることを示す典型例だ。平均差は+0.08%と7枚の中でもっとも小さい。
しかし上昇局面ではHR80が最大で約10bpm高く、48:07ではPolar135bpmに対しHR80が139bpmである。ピーク後はHR80が48:10前後から先に下がり始める一方、Polarは約138bpmで48:20付近まで横ばいを保つため、48:30前後ではHR80が約12bpm低くなる。
上昇時のプラスと下降時のマイナスが相殺された結果、平均値だけが一致していると読むべきだ。
4:急激な立ち上がりへの追従
急上昇の局面で、もっとも大きな乖離が出ている。58:18頃まで両者は約90bpmで一致しているが、HR80がすぐに上昇を始めるのに対し、Polarは58:23頃まで約90bpmで横ばいを続ける。
58:28前後ではHR80が約113bpm、Polarが約97bpmと、差は約15bpmに達する。58:53でもPolar135bpm、HR80が143bpmと8bpmの差が残る。59:00を過ぎて145bpm前後に達すると両者は1~2bpm以内で重なり、そのまま約152bpmまで一致して推移する。
高強度に入ってからの安定性は良好で、乖離は立ち上がりの約40秒間に集中している。
5:画像4と同じ場面を拡大
画像5は画像4とほぼ同じ急上昇区間を、少し狭い範囲で切り出したもので、読み取れる傾向は画像4と同じである。
切り出し範囲に立ち上がり部分の比重が大きくなったため、平均差は+3.8%と7枚の中で最大になっている。59:17では両者とも143bpmで一致しており、立ち上がりが終わった後は差がほぼ消えることがここでも確認できる。
6:周期的に上下する一定強度
これは30×15インターバルで心拍を160bpm近くまで上げた場合ので心拍データーだ。
約23分にわたって120~142bpmの間を周期的に上下する区間では、両者は非常によく一致している。平均値、時間軸、波形が同一であり、22:08で両者136bpm、19:30でPolar132bpm、HR80が131bpmである。
全体の平均差は-0.3%で、波の山と谷のタイミングもほぼ揃っている。細かく見ると、谷に向かって下がる場面ではHR80がわずかに先に下がり、1~3bpmほど低くなる箇所が繰り返し見られる。この傾向は画像1の下降局面と同じ方向である。
7つのデータに共通するのは、定常状態ではよく一致し、変化の局面ではHR80がPolarより数秒から十数秒先行するという一貫したパターンだ。
なぜHR80が先に動く?
HR80が先行するという結果について、原因はこのグラフだけでは特定できない。考えられる要因として、次の可能性が挙げられる。
- Polar側の平滑化:画像3のピーク後や画像4の立ち上がり前に、Polarが一定値で横ばいを続ける箇所があり、Polar側、または記録したサイコン側で平滑化や値の保持が行われている可能性がある。
- 記録時刻のずれ:HR80とPolarを別々の機器で記録し、後から重ね合わせた場合、記録開始時刻や機器の時計のずれが、そのまま一方の先行として現れる。(今回はパワーデーターを一致させている)
- HR80のアルゴリズムの特性:HR80が加速度センサーの情報などから変化を先読みする処理を行っている可能性も否定できないが、公開情報では確認できない。
データの評価
平均心拍やゾーン滞在時間を見る用途では、HR80はPolarとほぼ同等と評価できる。一方、スプリントの立ち上がりや短時間のインターバルで秒単位の心拍を見る用途では、最大15bpm前後の一時的な乖離があることを前提に扱うべきだ。
どちらが真の心拍に近いかは、Polarが基準として正しいとは限らないため、この比較だけでは判断できないというのが結論だ。
次章からは、HR80の機能や性能面をみていく。
HR80 進化のポイント
HR80は、iGPSPORTの腕装着型としては実質的にHR70の後継であり、最大の変化は電池持ちと充電方式だ。同社の心拍計は、胸ストラップ型のHR40(CR2032電池)やHR50(チェスト型ECG)、腕装着型のHR60、HR70と続いてきた。
HR70は本体約13.3g+バンド約7gで約20.3g、バッテリー約65時間、マグネット式充電で約1.5時間、防水IPX7、5色LEDの心拍ゾーン表示と振動アラートを備えていた。
これに対しHR80は、駆動時間を約65時間から最大100時間へ延ばし、充電を専用マグネットケーブルからUSB-Cへ改め、防水表記をIPX7からIP67(防塵等級の追加)に変えた。
HR80はHR70よりわずかに小型で軽く、もっとも実用的な改善はUSB-C化だ。一方で、HR70にあった心拍ゾーン5色LEDや振動アラートはHR80に搭載されていない。HR80のLEDは赤と緑の2色ステータス表示のシンプルな構成になった。
わたし自身の率直な感覚として、服の下に隠れる心拍計はステータスの表示を確認する必要が無く、無駄な機能自体は搭載されなくてもよいと考えている。
胸から、腕へ
精度最優先ならば、胸ストラップは今もベンチマークであり続けている。実用上の快適性と使い続けることを考えると、上腕装着の光学式は十分に合理的な選択肢と言えるだろう。
胸ストラップ(ECG方式:心臓の電気信号を電極で捉える方式)は応答性と精度で優位だが、前傾姿勢での圧迫感、乾燥時の電極の接触不良、汗による擦れなどの不満な点が多い。
わたしがアームバンドに乗り換えた理由は、前傾の多いロードバイク乗車中や休憩中の食事で胸ベルトが窮屈だったことが動機になっている。
私見だが、心拍計は着けるのが面倒になった瞬間に、トレーニングログから静かに消えていく機材だ。精度が少し高い道具を引き出しにしまっておくより、毎回迷わず着けられる道具のほうが、価値は高い。
心拍測定技術
HR80の技術的な核は、上腕という計測に有利な部位、4フォトダイオード+2LEDの多チャンネル光学系、そして加速度センサーと組み合わせたアルゴリズムの3点にある。
PPG(光電容積脈波法)
PPGとは、皮膚に光を当て、血管内の血液量が拍動ごとに変化することで生じる反射光の強弱をフォトダイオード(受光素子)で読み取り、心拍数を推定する方式のことだ。
心臓の電気信号を直接捉えるECGとは原理がまったく異なり、PPGは血流という結果を見ているため、原理的にわずかな時間遅れと、動きによるノイズへの弱さを抱えている。
一般論として、スポーツ用の光学式心拍計の多くは主に緑色LEDを使っている。緑色LEDの光は血液中のヘモグロビンに吸収される性質があり、皮膚表層の血流を捉えやすい。
これに対し、Scosche Rhythm24は緑と黄色のセンサー配列を採用し、あらゆる肌色で精度が高いとうたっている。
HR80の光学系
HR80は4PD+2LED(フォトダイオード4個、LED2個)の多チャンネル光学構成と自社開発の心拍アルゴリズムを採用している。
- 光学構成:4PD+2LED
- 補助センサー:加速度センサー搭載
- 測定範囲:30~240bpm
- 出力レート:1秒に1回の心拍値
競合と比べると、COROS Heart Rate MonitorはLED5個と光検出器4個、Polar Verity SenseはLED6個を公表している。HR80はLEDの数を絞り、受光側を多チャンネル化した設計と読める。
筆者の推測だが、受光素子を複数配置することで、肌への密着が部分的に崩れた場合でも良好な信号を拾えるチャンネルを選んだり合成したりでき、LEDの数を抑えて消費電力を下げたことが、後述する長時間駆動に効いている可能性がある。
モーションアーティファクト除去
モーションアーティファクトとは、腕の振りや路面振動で光学センサーと皮膚の位置関係がずれ、脈拍とは無関係の信号が混ざる現象だ。光学式心拍計の精度を決める最大の要因になっている。
一般的な対策としては、加速度センサーで動きの周期を同時計測し、PPG信号から動きと同じ周期の成分を差し引いたり、周波数領域で心拍成分を追跡したりする信号処理を行う必要がある。
ランニングでは足の着地と心拍数が近い値になりやすく、アルゴリズムがケイデンスを心拍と取り違える現象がよく知られている。HR80は、遅延と信号ドリフトを低減すると説明しているが、具体的なアルゴリズムは公開されていない。
上腕と前腕どっち?
上腕は手首よりも計測条件が有利だ。サイクリング中の上腕はほとんど動かず、手首のようにハンドルを握る動作や路面からの振動の影響を受けにくい。
SchweizerとGilgen-Ammannの研究では、健康な成人16名(女性7名、男性9名、平均27.4歳)が安静から高強度インターバルまで9種類の活動を行い、Polar Verity Sense(上腕・前腕)とPolar Vantage V2(手首)を、胸ストラップのPolar H10と比較した。
手首のVantage V2は同条件で平均絶対誤差6.41bpm、上腕装着のVerity Senseは系統誤差±0.05bpm、平均絶対誤差1.43bpm、平均絶対誤差率1.35%と極めて高い精度を示し、誤差5%以内に収まった割合は上腕で95%、前腕で89%だった。
MoghaddamやCollinsらが発表した研究では、健康な成人28名(男女各14名、平均23.8歳)が同一のWhoop 4.0を手首・前腕・上腕に装着して比較し、上腕が前腕と手首を上回り、上腕Whoopの一致相関係数が0.992、手首装着機は0.85以下だった。
一方、短時間で動きの激しい場合は全デバイスの一致度が低く(一致相関係数0.50未満)、上腕でも限界があった。これらの理由からも、HR80は公式に上腕と前腕の両方での装着を想定している。
19g
19gという重量は、心拍計を着けていることを意識させないための閾値をほぼ満たす水準だ。内訳は本体11g、バンド8gで実測ではバンド込み18gだった。
比較対象として、COROS Heart Rate Monitorはバンド込み19g(本体9.7g)、Wahoo TICKR FITは約18.9g、Polar Verity Senseは19gで主要な光学アームバンドはおおむね20g前後に収れんしている。
したがってHR80の軽さは、競合に対する決定的な差というより同等水準と見るのが公平だろう。差が出るのは、バンドの素材と固定方法だ。
バンドは高密度ジャカード編みのストラップをうたい、ポリエステル、ナイロン、スパンデックスの混紡で構成されている。ベルトをループに通して折り返し、幅広の面ファスナーで固定する方式で、180~320mmの公称範囲に対し、伸ばせば約400mmまで対応できる。
100時間駆動とUSB-C急速充電
最大100時間はメーカー公称値であり、実働は約50時間から公称値に近い数字まで、大きな幅がある。バッテリー容量は82mAh、約8時間の走行後に残量が約75%だったことから、満充電であれば約50時間強と推計している。
実際のテストで1時間あたりおよそ1~2%の消費しているため、これを当てはめると実働は50~100時間の範囲になる。
容量あたりの効率で比べると、HR80の設計思想が見えてくる。公称値ベースの平均消費電流を試算すると、HR80は82mAhで100時間なので約0.8mA、COROSは53mAhで38時間なので約1.4mA、Verity Senseは45mAhで30時間なので約1.5mAとなる。
仮に約50時間が実態でも約1.6mAで競合と同等であり、公称値どおりなら競合の約半分の電流で動いていることになる。いずれにせよ、週3~4回、1回1.5時間程度の使い方なら、実測ベースでも1~2カ月に1回の充電で足りる計算だ。
USB-C化の意味は、充電時間の短縮以上に大きい。「心拍系 x USB-C」はこれまでの心拍計にない大きなメリットだ。HR70やCOROS、Verity Sense、TICKR FITはいずれも専用の充電ケーブルやクリップが必要で、遠征先でそれを忘れると心拍計そのものが使えなくなる。
何度も言う様でしつこいかもしれないが、これが重要で、USB-C対応の心拍計はHR80における最大のメリットだと思っている。
サイコン、ライト、スマートフォンと同じUSB-Cケーブルで充電できることは、旅先やレース遠征での地味だが確実なメリットである。なお、USB-C端子は側面のゴム製キャップの下にある。
BluetoothデュアルとANT+
HR80は、ANT+で台数制限なくブロードキャストしつつ、Bluetoothで最大2台に同時接続できるため、サイコン、腕時計、Zwiftを同時に使う運用にそのまま対応できる。
ANT+は1対多のブロードキャスト型プロトコルで、受信機の台数に原則として制限がない。一方、Bluetooth Low Energyは接続型で、センサー側が同時に扱える接続数に上限がある。
HR80は同時接続数を最大2台とし、標準Bluetoothプロトコルでサードパーティ製センサーに対応するアプリと互換性がある。
典型的な使い方を挙げると、屋外ではGarmin EdgeやiGPSPORTのサイコンにANT+で接続し、同時にスマートウォッチにBluetoothで接続できる。室内ではZwiftを動かすPCやタブレットとスマートフォンのアプリに、Bluetoothで2台同時に送ることができる。
対照的に、COROS Heart Rate MonitorはBluetoothで最大3台まで同時接続できるがANT+には非対応であり、ANT+中心のサイコンを使う私のようなサイクリストにとってこの差は大きい。
ANT+でiGPSPORTのサイコンとのペアリングを、いずれも問題なく行えた。
自動電源オンオフ
HR80は装着を検知して約2秒で起動し、外して約10秒でスリープに入るため、電源操作を意識する必要がほぼない。外してから10秒後に休止状態に入り、数秒以内に問題なく作動した。
装着検知の具体的な仕組みは公開されていないが、光学センサーが皮膚からの反射光パターンや脈の有無を周期的に確認したり、静電容量を検知したりして判定するのが一般的な仕組みになっている。
IP67は水泳に使える?
IP67は防塵と一時的な水没への耐性を示す等級であり、水泳での使用を保証するものではないうえ、メーカーも水泳を推奨していない。
IPコードはIEC 60529(国内ではJIS C 60529)で定められ、1桁目の6は粉じんが内部に侵入しない耐じん形、2桁目の7は水深1mに30分間沈めても有害な浸水がない一時的潜水に対する保護を意味する。
これは水中で静止した短時間の試験条件であり、泳ぐ動作による水圧の変動、長時間の浸水、塩素や海水による劣化までは想定していない。
メーカーもHR80を水泳には推奨していないが、水上・水中スポーツ以外のすべての陸上種目に適する。さらに、そもそもBluetoothやANT+の電波は水中ではほとんど届かないため、内蔵メモリーのない送信専用センサーでは、水泳中の心拍を記録すること自体が難しい。
トライアスリートが水泳でも心拍を記録したいなら、WR50(50m防水)と内蔵メモリーを備え、ゴーグル用クリップが付属するPolar Verity Senseが現実的な選択肢になるだろう。
対応アクティビティ
公式に想定されている用途は、サイクリング、ランニング、インドアサイクリング、ジムでのトレーニングで、ロード、MTB、シクロクロスといった自転車競技全般で使える。
MTBやシクロクロスでは、手首より路面振動の影響を受けにくい上腕装着の利点が大きい。ただし、ウェイトトレーニングのように上腕の筋肉が大きく収縮する種目では、センサーが浮いて精度が落ちやすいと考えられる。
前述のWhoop比較研究でも、高強度で短時間の動作で精度がもっとも落ちていた。
競合製品比較
HR80は、ANT+対応・デュアルBluetooth・長時間駆動・USB-Cという実用条件を、1万円前後の価格帯でそろえた点で、光学アームバンドの中でもっともバランスの取れた一台に仕上がっている。主要競合の公開仕様を下表にまとめた。
| 製品 | 方式・装着 | 重量 | バッテリー | 接続 | 防水 | 国内価格(税込) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| iGPSPORT HR80 | 光学式(4PD+2LED)・上腕/前腕 | 19g(本体11g) | 最大100時間(公称)、実測推計約50時間の報告あり、USB-C | ANT+/Bluetooth(最大2台同時) | IP67(水泳非推奨) | 10,890円) |
| iGPSPORT HR70(前モデル) | 光学式・腕 | 約20.3g | 約65時間、マグネット式 | ANT+/Bluetooth | IPX7 | 8,030円 |
| Polar Verity Sense | 光学式(LED6個)・上腕/前腕/こめかみ | 販売店表記で17?19g | 最大30時間(45mAh) | ANT+/Bluetooth、内蔵メモリー16MB | WR50(水泳対応) | 17,600円 |
| COROS Heart Rate Monitor | 光学式(LED5個+光検出器4個)・上腕推奨 | 19g(本体9.7g) | 38時間(53mAh)、待機80日、マグネット式 | Bluetoothのみ(最大3台同時)、ANT+非対応 | 3ATM | 1万890円 |
| Wahoo TICKR FIT | 光学式・前腕/上腕 | 約18.9g | 約30時間、専用充電器 | ANT+/Bluetooth | IPX7 | 1万2,650円 |
| COOSPO HW9 | 光学式・腕 | 約20g(本体10.6g) | 35時間(90mAh) | ANT+/Bluetooth5.0 | IP67 | 10,000円 |
| Polar H10(基準器) | ECG・胸ストラップ | 約60g(コネクター21g+ストラップ) | 約400時間(CR2025交換式) | ANT+/Bluetooth(2台同時) | WR30 | 1万6,000円 |
| Garmin HRM-Pro Plus | ECG・胸ストラップ | 公開情報では確認できない | 約1年(CR2032交換式) | ANT+/Bluetooth(3台同時)、ランニングダイナミクス | 水泳対応 | 約2万円 |
表から読み取れることは三つある。
第一に、ANT+とBluetoothの両方に対応し、かつ専用充電器が”不要”なのは、この中ではHR80だけだ。
第二に、公称の電池持ちは光学アームバンドの中で突出しており、実測推計の約50時間でもVerity SenseやCOROSを上回る。
第三に、水泳対応と内蔵メモリーではVerity SenseやRhythm24に分があり、HR80はトライアスロン用途では一歩譲る。
インプレッション
測定データを含め、HR80は総じて好意的な印象だった。装着感と自動電源、USB-Cが高く評価できる。一方で、公称バッテリーとの乖離が主な課題だ。
長所として、胸ストラップ並みの精度、インターバルでの安定性、優れた装着感、あらゆる上腕に合う調整幅、ANT+とBluetoothの両対応、Bluetooth2台同時接続、USB-C充電、自動電源オン・オフがある。
短所はバッテリーが公称値を下回る可能性があることと、価格がそれほどお買い得とは言えないことの2点だ。
そのうえで、胸ストラップが煩わしい人には最適な選択だと結論づける一方、すでに良いスマートウォッチやアームバンド式の心拍計を持ち、主に一定ペースで走る人には必ずしも必要ない。
確かな記録、ほとんど感じない装着感、自動電源、USB-C、月1回程度で済む充電は高く評価できる。短所は水上・水中スポーツに使えないことと、非常に太い上腕ではバンドがきつくなり得ることである。
薄く、主張しない
HR80は存在を主張しない道具だ。
本体はグレーの小さな樹脂ケースで、透明なホルダーがバンドにしっかり固定されている。厚み10.3mmの本体は、袖口からのぞいても腕時計ほどの存在感しかない。
高密度ジャカード編みのバンドは、ジャージの袖口と同じ種類の柔らかい布に近く、指でつまめば伸縮性のある手応えが返ってくる。ゴム製キャップの下にUSB-C端子を隠した側面は、指先でキャップをめくるときに小さな弾力を感じさせる。
装着感と使い心地
しばらくすると着けていることを忘れる。生地が柔らかく伸縮性があり通気性も良く、汗を大量にかいた1時間半の走行後でも胸ストラップより快適だった。慣れると練習中にセンサーをまったく意識しなくなる。
夏の峠道で、汗でぬれたジャージの下に胸ベルトの縁が食い込む感覚から解放され、上腕に絆創膏を貼った程度の軽い感触だけが残るようになる。休憩のコンビニでベルトを緩める必要もない。
一方で、上腕二頭筋が発達したライダーや、冬場に厚手のインナーを重ねる場合は、袖の中でバンドの締め付けが気になる場面があり得る。
胸ストラップを初めて買った人の多くが、最初の1カ月は着け忘れる日のほうが多かったと振り返るように、道具の価値は、性能表より、玄関で迷わず手に取れるかどうかで決まる部分があると思う。
無音と光
HR80には、着けるとスイッチを押すまでもなく静かに目覚め、外すと10秒ほどで眠りにつく、ほとんど無音の道具という印象がある。
表示は赤と緑の2色LEDのみで、HR70のような5色の心拍ゾーン表示は無いため、光による演出を求める人には物足りないかもしれない。
振動アラートも無い。ライド中に意識するのはサイコンの数字だけ、という割り切りは、機材に寡黙さを求めるサイクリストの感覚によく合っている。
心拍を測る意味
心拍計の進化が問いかけているのは、どれだけ「正確に測れるか」という問題から、どれだけ「自然に測り続けられるか」という問題に重心が移動してきているように思う。HR80はその転換点を象徴する一つの製品ではないだろうか。
精度と快適性
精度と快適性、どちらを優先すべきか。答えは用途によって分かれるが、多くのサイクリストにとっては快適性が結果的に精度を上回る価値を生む。
Polar H10が心拍計のベンチマークとされるように、ECG方式の胸ストラップは今も心拍計測の頂点にある。しかし、トレーニングの指標として必要な精度は、多くの場合、数bpmの誤差を許容できる。
上腕装着の光学式で平均誤差1~2bpmという水準が示された今、残る差は、スプリント直後の数秒の追従性やHRV解析の可否といった、限られた用途に絞り込まれつつある。
体温計に例えれば分かりやすい。医療現場では直腸温が基準とされるが、日々の体調管理に使うのは脇の下や耳の体温計である。基準と日常を使い分けるという発想は、心拍計にもそのまま当てはまる。
データをどう扱うか
心拍数は身体の声そのものではなく、その一部を数値に翻訳したものにすぎない。PPGが測っているのは心臓の電気活動ではなく、皮膚の下を流れる血液の量の揺らぎであり、その意味でHR80が示す数字は、心臓から少し離れた場所に届いた余韻だ。
光学式心拍はアルゴリズムが推定した値だから、どのメーカーが正確かは人によって違う、という冷めた見方もできる。それは技術的にみても、一面の真実を含んでいるように思う。
だからこそ、数値と体感の照合が重要になる。同じ心拍数でも、睡眠不足の朝と休養十分の朝では脚の感覚が違う。HR80のような着けていることを忘れる道具は、測るという行為の存在感を薄め、ライダーの意識を再び身体の感覚へ戻す余地をつくる。
わたしは、そこにこの種の機材の本当の価値があると考えている。
まとめ:数字の先に、走りがある
心拍計をUSB-Cで充電できる。それだけでも、使い続ける理由になると思っていた。だが、HR80の魅力は手軽さだけではなかった。実走で確かめた心拍計としての精度と、胸を締め付けない装着感。その両方がそろうことで、日々の計測はずっと身近なものになる。
ロード、MTB、シクロクロス、そしてインドアトレーニング。胸ストラップの圧迫や擦れに煩わされてきたサイクリストにとって、HR80は検討する価値のある選択肢だ。ただし、誰にとっても最良の心拍計というわけではない。
選ぶ基準は、機能の多さよりも、自分が何を測り、どのように使いたいかにある。
- HR80が向く人:胸ストラップの圧迫や擦れを避けたい人、ANT+対応サイクルコンピューターとBluetooth接続のアプリを併用する人、遠征先の充電ケーブルや日々の充電の手間を減らしたい人。
- 別の製品も検討したい人:水泳中も心拍を記録したい人。ANT+を使わない場合も、その対応だけを決め手にせず、装着感や必要な機能から選びたい。
- 胸ストラップを選びたい人:HRVやRR間隔の解析を重視する人、短いスプリントで秒単位の追従性を求める人、研究や基準計測に用いたい人。
USB-C充電、ANT+とBluetoothへの対応、ボタン操作を必要としない使い勝手。どれも、それだけで走りを変える機能ではない。
しかし、準備や管理の小さな手間が減ることには、毎日使う道具ならではの価値がある。一方で、IP67を水泳対応と読み替えないこと、公称100時間の駆動時間を、どのような条件でも得られる保証値と考えないことは押さえておきたい。
内蔵メモリーや水泳対応など、今後に期待したい機能は残る。それでも、機能を足すことだけが心拍計の進歩ではないだろう。身に着ける負担を減らし、充電の煩わしさを減らし、必要な数字をいつもの画面へ届ける。HR80の良さは、そうした目立たない部分にある。
心拍計は、身体の声を数字に置き換える道具だ。その道具を意識する時間が減れば、呼吸や脚の感触、目の前の道へ、もう少し注意を向けられる。HR80を使い続けたい理由は、測れることだけではなく、測っていることを忘れて走れる、その自然さにある。
数字を確かめるために走るのではなく、走りを知るために数字を見る。次のライドも、その先の長い一日も。HR80には、走る時間の傍らで、静かに働いている。































