ENVE SES 4.5 PRO インプレッション なぜカーボンスポークを使わなかったのか?しなやかさが生んだ速さ

5.0
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反応の鋭さと、速さは同じではない

カーボンスポークを採用したホイールには、ペダルを踏み込んだ瞬間にわかる鋭さがある。入力と加速の間にある時間が短く、ライダーの意思がそのまま後輪へ伝わるように感じられる。

私は長らく、その直接的な反応こそが高性能ホイールの証明だと考えていた。

しかし、ENVE SES 4.5 PROの反応は、これまで使用してきたカーボンスポークホイールよりも、わずかに穏やかだった。それにもかかわらず、実走では明確に速い。

登りでは軽く、平坦では速度を維持しやすく、下りでは横風に神経を使わない。走行時間が延びても疲労が増えにくく、ペダルへ力を加え続けられる。瞬間的な反応ではなく、ライド全体を通して速度を失わない。

それがSES 4.5 PROの”速さ”だ。

情報通信の世界には、応答の速さであるレイテンシと、一定時間に処理できるデータ総量のスループットという二つの指標がある。レイテンシが短いシステムは体感的に速いが、それが必ずしも処理量の多さを意味するわけではない。

ホイールも同じではないか。カーボンスポークが短いレイテンシを提示するのに対し、SES 4.5 PROは数時間のライドにおけるスループットで勝負している。少なくとも私には、そう感じられた。

このENVE SES 4.5PROは、カーボンスポークが劣っていることを証明したのではない。反応の鋭さだけでは測れない速さがあることを、私に理解させたのである。

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テストバイク

テストにはS-WORKS TARMAC SL9を使用した。タイヤはPirelli P ZERO SLRの28C、空気圧は前後4.0barに設定している。

主な比較対象は、ROVAL RAPIDE CLX III、DT Swiss ARC 1100、ENVE SES 4.5、ENVE SES 5.6の4セットである。各ホイールの公称仕様を整理すると、以下のようになる。

モデル リムハイト(前/後) リム内幅 スポーク ハブ 公称重量
ENVE SES 4.5 PRO 49 / 55mm 23.5mm(ミニフック) スチール 24 / 24本 ENVE INNERDRIVE PRO(40T) 1,295g
ROVAL RAPIDE CLX III 51 / 48mm 21mm(フック付き) カーボン 18 / 24本 DT Swiss 180 EXP内部構造(36T) 1,305g
ENVE SES 4.5 50 / 56mm 25mm(フックレス) スチール 24 / 24本 ENVE INNERDRIVE 1,432g
ENVE SES 5.6 54 / 63mm 前20mm / 後19mm スチール(Sapim CX-Ray) 仕様により異なる 約1,480?1,560g
DT Swiss ARC 1100 DICUT 50 50 / 50mm 20mm(第2世代) スチール 24 / 24本 DT Swiss 180 DICUT(36T) 1,472g

カーボンスポークを採用しているのはRAPIDE CLX IIIだけだ。そして、SES 4.5 PROとRAPIDE CLX IIIの重量差は、公称値でわずか10gしかない。前輪はRAPIDE CLX IIIが600g、SES 4.5 PROが587g。

後輪はRAPIDE CLX IIIが705g、SES 4.5 PROが708gで、駆動輪である後輪に限ればSES 4.5 PROのほうが3g重い。

つまり、両者の走りの違いは重量では説明できない。リムハイトの前後配分、スポークの素材と本数、リム内幅、ハブ、そしてそれらが組み合わさった構造全体の違いとして理解する必要がある。

評価は、登坂、平坦巡航、下り、横風、長時間走行を中心に行った。試験設備を用いた定量テストではなく、私という同一ライダーが継続的に乗り込んだうえでの相対評価だ。

そのため、空力性能や転がり抵抗を単独で数値化したものではないが、異なるホイールの性格が実走時の疲労やペダリングへどのように現れるかを重視した。

タイヤの個体差、摩耗状態、シーラント量、風向、気温などを完全に統一した比較実験ではない。さらに、同じ28Cタイヤでも、リム内幅が異なればタイヤの実測幅と断面形状は変わる。

ENVEのタイヤ適合表では、リム内幅が2mm広がるとタイヤの膨張幅はおおむね1mm広がるとされている。同じ4.0barでも、内幅21mmのRAPIDE CLX IIIと内幅23.5mmのSES 4.5 PROでは、タイヤの空気容量と接地形状がわずかに異なる。

速度維持、加速感、乗り心地は厳密な科学的な測定結果ではない。こうした変数を含む、反復的な私自身の実走経験に基づくインプレッションとして読んでいただきたい。

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山岳用に再定義

SES 4.5 PROは、従来のSES 4.5をそのまま軽量化した後継モデルではない。

ポガチャルとUAE Team Emiratesの要望を起点に開発されたモデルで、グランツールの山岳ステージで勝つためのホイールだ。ENVEとチームは契約金を設けず、製品を共同開発するという異例の形で契約を結んだ。

メーカーは、SES 4.5 PROを山岳や丘陵、比較的整った路面に適したモデル、従来のSES 4.5を平坦や荒れた路面でも有利なモデルとして区別している。ENVEとしても、PROは通常のSES 4.5を置き換えるものではない。

項目 SES 4.5 PRO SES 4.5
ホイールセット重量 1,295g 1,432g
リム重量 F 369g / R 383g PROより1本あたり約50g重い
リムハイト F 49mm / R55mm F 50mm / R56mm
リム内幅 23.5mm(ビード座面は24.5mm) 25mm
リム形状 0.5mmのミニフック フックレス
最適タイヤ幅 27~28mm 29~30mm
スポーク Alpina Ultralite Aero R5 前後24本 前後24本
スポークテンション 120kgf ―
ハブ INNERDRIVE PRO(フロント87g / リア194g、40Tラチェット、セラミックベアリング) INNERDRIVE
国内税込価格 649,990円 499,950円

ミニフック

SES 4.5 PROを理解するうえで見落とされやすいのが、リム形状の変更である。ENVEは長年フックレスリムを推進してきたが、PROでは高さ0.5mmのミニフックを採用した。

公称内幅の23.5mmは、このフック先端の間で測った数値である。タイヤのビードが実際に座るフック下部の幅は24.5mmあり、通常のSES 4.5の25mmとほぼ変わらない。数字の上では1.5mmの縮小だが、タイヤを支える座面の幅はわずか0.5mmしか変わっていない。

ENVEは、この設計によってリム側壁の下側から材料を削りながら、空力に重要なリム前縁の幅は維持できたと説明している。さらに、フックレスリムをめぐるUCIの将来的な規則変更へのリスクヘッジにもなると述べている。

また、リム幅を絞ったことで、28mmタイヤに関するETRTOの推奨値に適合させたとされる。最大空気圧は約6.9barで、フックレスである通常のSES 4.5の5.0barから引き上げられた。

つまり、PROという名前が示すのは単純な上位互換ではない。汎用性を一部手放しながら、勝負どころを高速登坂と28mmタイヤに寄せた、より明確な目的を持つホイールである。

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1,295gはどこから生まれた

SES 4.5 PROでは、高弾性率かつ単位面積重量の小さいカーボンを用いた新しいリムラミネートが採用されている。リムの内外壁、リムベッド、内側の面を薄く作りながら必要な構造性能を維持し、リム外周部の重量を削減した。

ENVEのエンジニアによれば、リムは1本あたり約50g、前後で約100g軽くなり、ハブでさらに約60g削減されている。

ホイールの軽量化では、同じ100gでも削る場所によって意味が異なる。回転中心に近いハブの軽量化は車体総重量を減らす。一方、リム外周部の軽量化は回転慣性にも影響し、速度変化やダンシング時の感覚に現れやすい。

ただし、その影響の大きさは冷静に見積もる必要がある。リム外周の質量は、加速中に限って並進質量のおおむね2倍として作用する。

リムで削った約100gは、加速時に約200g分の効果を持つ計算だが、ライダーと車体を合わせた70kg前後のシステムに対しては0.3%程度にすぎない。一定速度で巡航している間、回転慣性は速度に影響しない。

もっとも、ペダリング中の変形、スポーク張力、タイヤの損失、空力性能を含む実走時の挙動は、回転慣性だけでは説明できない。「外周部が軽いから加速が速い」という単純な因果関係に還元せず、完成したホイールシステムとして評価すべきだろう。

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軽さよりもリズム

SES 4.5 PROの登坂性能は、ダンシングで車体を左右に振った瞬間だけに表れるものではない。勾配が変化してもペダリングのリズムを崩しにくく、必要以上に脚を削らずに速度を保ちやすい。

カーボンスポークホイールと比べると、踏み込んだ瞬間の反応はわずかに遅い。しかし、その遅れは鈍さとは違う。入力を一度受け止め、タイヤの接地を乱さずに路面へ伝えているような感覚がある。

急勾配で一回のアタックを行う場合、鋭いカーボンスポークホイールのほうが速さを認識しやすいこともある。しかし、登坂時間が長くなり、シッティングとダンシングを繰り返す場面では、SES 4.5 PROの穏やかな反力がペダリングを継続しやすくする。

高速で駆け上がるようなヒルクライムに向いており、軽量化を進めながら従来型SES 4.5に近い空力性能を維持している。それゆえ、ニセコクラシックなど登りが多いロードレース後半で脚を残すためにPROを使うという選択は理にかなっている。

登りそのものの速さだけでなく、登りの後に何を残せるのか。この重要な点は、SES 4.5 PROの性能とも重なる。

軽いホイールは、必ずしもライダーを楽にするとは限らない。重要なのは、軽さによって反応を高めながら、入力を要求しすぎないことである。SES 4.5 PROは、その境界を慎重に探ったホイールに思える。

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RAPIDE CLX IIIよりも

平坦巡航では、ROVAL RAPIDE CLX IIIよりも速度を維持しやすく、ペダルへ力を加え続けやすいと感じた。ここでは、「速度維持」と「力を加え続けやすい」という二つの感覚を分けて考える必要がある。

  • 速度維持には、リムとタイヤの空力的一体性、前後リム形状、ベアリングやフリーハブの抵抗、横風下での安定性などが関係する。
  • 力を加え続けやすいかどうかには、スポークとリムの弾性、フレームとの剛性バランス、ペダリング時に身体へ戻る反力、路面振動による筋疲労などが関係する。

RAPIDE CLX IIIは、入力に対して明瞭に反応する。力を加えた瞬間に加速の輪郭が現れ、速度が変化したことをライダーへ積極的に伝える。

SES 4.5 PROの反応は、それよりもわずかに穏やかである。しかし、速度が乗ってからは、その穏やかさによって脚とホイールの間に連続性が生まれる。前者が一回の入力を鋭く処理するホイールだとすれば、後者は無数の入力を滑らかにつなぐホイールだろう。

興味深いのは、両者が空力について正反対の方向性を打ち出していることだ。

ROVALは空気抵抗の大部分が前輪で生じるとして、前51mm、後48mmと前輪を深くした。ENVEは前輪で横風安定性を、後輪で抗力低減を優先し、前49mm、後55mmと後輪を深くしている。同じ問いに対して、二つの答えが存在する。

どちらが正しいかは、風洞の外にある条件によって変わる。

風洞データ

ENVEが公開した風洞データを私が以前分析した結果では、ENVE MELEEとENVE SESタイヤを用いた条件で、32km/h時の加重平均抗力は、27mmタイヤ装着の通常SES 4.5が約35.50W、27mmタイヤ装着のSES 4.5 PROが約35.75Wだった。

48km/hでも両者の差は約0.5Wにとどまり、PROは比較対象のなかで上位に位置している。

 

ただし、このデータには3つの限界がある。第一に、ヨー角ごとの重み付け係数が公開されていない。第二に、競合製品は29mmタイヤで測定されており、PROの27mm構成と同一条件ではない。

第三に、比較対象に含まれているのは前世代のRAPIDE CLX IIで、今回比較したRAPIDE CLX IIIではない。したがって、このデータからSES 4.5 PROがRAPIDE CLX IIIより空力的に優れていると結論づけることはできない。

異なる評価

中立性のために、私とは異なる方向のインプレッションも紹介しておく。ダイアテックのアンバサダーの試乗では、28CのContinental Grand Prix TT TRを装着してPROと通常のSES 4.5を比較している。

【筧 五郎さん インプレ】ENVE SES 4.5 PRO|ポガチャルが求めた「勝つための解答」 | ENVE エンヴィ 日本公式サイト | ダイアテック
シクロクロス年齢別日本王者であり、ヒルクライマーとしても名高い筧 五郎さん。18歳、高校3年生から50代を迎えた今日まで、40台以上のバイクを乗り継ぎ、数々の機材を使い倒してきたが、ENVEのフラッグシップモデル『SES...

2014年全日本ロード王者の佐野淳哉氏は、加速性能はPROが上だが、高速巡航の伸びと速度維持は通常のSES 4.5が優れると評価した。筧五郎氏も、45~50km/hの巡航域では通常モデルのほうが伸びがあり、PROは脚を止めると減速しやすいと述べている。

この評価は、私の印象と矛盾するものではないと考えている。私の比較対象はRAPIDE CLX IIIであり、彼らの比較対象は内幅25mmの通常SES 4.5だ。高速域の巡航では、通常のSES 4.5がPROより有利な場面が存在し得る。

それを認めたうえで、TARMAC SL9、28Cタイヤ、前後4.0barという私の条件では、RAPIDE CLX IIIより速度を維持しながら力を加え続けることが容易だった。この差は空力だけではなく、ホイール全体の弾性と疲労の少なさを含んだ結果だと考えている。

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下りで恐怖が、減る

下りで速いホイールとは、単に最高速度が高いホイールではない。ライダーが余計な修正を行わず、ブレーキやハンドル操作へ意識を奪われないホイールでもある。

SES 4.5 PROでは、フロント49mmというリムハイトを意識させるような横風の押され方を感じなかった。軽量ホイールにありがちな落ち着きのなさも少なく、直進状態からコーナーへ入る一連の動作が自然だった。

ENVEは、フロントで安定性とハンドリング、リアで空気抵抗低減を優先し、前後で異なるリムハイトと断面形状を採用している。

風洞データでも、27mmタイヤ装着のSES 4.5 PROは48km/h、ヨー角15°で抗力が約116Wまで低下しており、横風下でも効率を失いにくい傾向が示されている。軽量ホイールにありがちな不安感が一切ないのだ。

ただし、ライダーの体重、タイヤ幅、空気圧、フレームのジオメトリによって評価は変わると思う。誰にとっても横風に強いと結論づけるべきではないだろう。また、SES 4.5よりもリム幅が狭くなった分、グリップ感が減った。空気圧をもう少し下げたほうが良いと思う。

哲学者のハイデガーは『存在と時間』のなかで、道具はうまく機能している間は意識から退き、壊れたときに初めて目立つ存在になると論じた。下りにおけるホイールも同じである。

少なくとも今回のテスト条件において、下りでSES 4.5 PROへ払う注意は少なかった。機材を意識しなくて済むことは、下りの安全性と速度の双方に関わる重要な性能である。

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なぜスチールスポークなのか

SES 4.5 PROには、Alpina Ultralite Aero R5のステンレス製エアロスポークが前後24本、120kgfのテンションで組まれている。ニップルはリム内蔵式のAlpina Nylockアルミニップルだ。

RAPIDE CLX III、シマノDURA-ACE R9300、Hunt Sub50 Limitless Aeroなど、プレミアムホイールが軽量化のためにカーボンスポークへ移行するなかで、ENVEは従来型のスチールスポークを使い続けた。

RAPIDE CLX IIIは、Arris Compositesと共同開発したカーボンスポークをフロント18本、リア24本使用し、チタン製エンドピースとチタンニップルで固定している。メーカーは、カーボンスポークの採用によって重量を削減し、剛性とパワー伝達の直接性を高めたと説明している。

一般にカーボンスポークは高い引張剛性を持ち、入力に対する変形が小さい。結果として、ペダルを踏み込んだ際のダイレクト感や加速感が明瞭になりやすい。

ただし、実際のホイール剛性はスポーク素材だけで決まるものではない。スポーク本数、断面、張力、組み方、ハブフランジ寸法、リム剛性が同時に関係する。今回の比較が、そのことを示している。

ARC 1100とSES 5.6もスチールスポークを使用しているが、ARC 1100には明確な剛性感があった。スチールスポークであることは、しなやかさの十分条件ではない。

それでも、今回比較したホイールの範囲では、SES 4.5 PROはカーボンスポークのRAPIDE CLX IIIより軽快で、しなやかだった。路面からの細かな入力を完全に消すのではなく、その角を丸めて身体へ伝える。

その結果、手や上腕、脚へ蓄積する疲労が少なく、走行時間が長くなっても出力を維持しやすい。

ここで、もう一つの変数を無視することはできない。

RAPIDE CLX IIIを使うと顕著なのが、内幅21mmのリムによる路面からの微振動だ。私が感じた乗り心地の差には、スポーク素材だけでなく、内幅の違いによるタイヤ形状と空気容量の差が含まれている可能性が高い。

佐野淳哉氏が、PROは通常のSES 4.5よりやや柔らかく感じるものの、頼りなくたわむのではなく、適度にしなる感覚だと述べている。これは私の経験と方向性が一致するが、いずれも主観評価であり、スポーク素材だけの効果を分離した実験ではないと考えたほうが良いだろう。

スチールスポークには実用面の利点もある。通常のSES 4.5と併用しているユーザーであれば、特殊な工具や手順なしにどこでも整備でき、交換用スポークも高価にならない点は評価できる。

したがって、ENVE SES 4.5PROの結論としては「スチールスポークだから速い」という単純なものではない。

新しいリムラミネート、ミニフック、スポーク、張力、ハブ、タイヤを一つのシステムとしてまとめた結果、必要な反応性を残しながら、ライダーを疲労させにくい特性が生まれたと考えるべきだろう。

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快適性は、速度の一部

私は、快適性が長時間の出力維持に寄与すると感じている。ただし、この仮説を科学的に裏付ける証拠は、現時点では限定的だ。

ドイツ体育大学ケルンの研究では、路面振動を与えると酸素摂取量が約2.4%増加した。その主な要因は脚の推進筋ではなく、腕や肩、体幹といった、車体を安定させるための上半身の筋活動だったと報告されている。

Vibrations in cycling: The effect of a road bike damping system on neuromuscular performance

一方、振動を減衰させる機構を備えたロードバイクでも、短時間のパフォーマンスやクランク出力は向上せず、効果は上半身の快適性にとどまった。さらに、振動を加えても代謝負荷に有意差が出なかったとする研究も存在する。

これらの研究の多くは、数分から数十分の短時間の測定でしかない。数時間にわたるライドで、上半身の小さな負担の蓄積がライド後半の出力にどう影響するかは、まだ十分に検証されていない。

私の実感は、一つの観測にすぎない。しかし、上半身を安定させるために使われるエネルギーが少なければ、その分を走りへ向けられるという推論には、生理学的な筋道があると期待している。

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反応が遅いのに、なぜ速い?

SES 4.5 PROは、カーボンスポークホイールより反応がわずかに遅い。それでも、実走では速い。この一見した矛盾は、ホイールの速さを一回の加速だけで判断すると理解しにくい。

実際のロードライドでは、ライダーは数時間にわたり、何千回、何万回とペダルへ入力を繰り返す。同時に、路面からの振動を受け、横風に対応し、コーナーで進路を修正し、勾配変化に合わせて姿勢を変える。

一回の入力に対する反応が鋭くても、路面から強い反力が返り、上半身や脚が早く疲労すれば、ライド後半の平均出力は下がる可能性がある。

反対に、入力の立ち上がりがわずかに穏やかでも、身体への負担が少なく、接地が安定し、ペダリングを継続できれば、ライド全体の平均速度は高くなり得る。

数学の言葉を借りれば、反応の鋭さは速度の微分であり、ライドの結果は速度の積分だ。微分係数が大きい瞬間の連続が、そのまま大きな積分値を保証するわけではない。私たちがゴールで受け取るのは、常に積分のほうだ。

快適性は速さの反対側にあるものではない。力を加え続けられる状態を守るという意味で、快適性そのものが速度性能の一部になり得る。

カーボンスポークは、速さを近くに見せる。スチールスポークは、その速さを遠くまで運ぶ。

SES 4.5 PROに乗って気づいたのは、まさにその違いだ。

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立ち位置

ROVAL RAPIDE CLX IIIとの比較では、反応の鋭さはRAPIDE、力を加え続けやすい巡航感と長時間走行における疲労の少なさはSES 4.5 PROが印象に残る。

通常のENVE SES 4.5は、内幅25mmと30mm前後のタイヤを生かした安定感、荒れた路面への適応性、高速域の落ち着きに価値がある。それに対してPROは、28mmタイヤに焦点を絞ることで、登りと速度変化への対応力を高めている。

PROは軽さ、加速、登坂重視のヒルクライムやクリテリウム向け、通常のSES 4.5は巡航、空力、安定性重視のロングライド向けとして整理できる。

優劣ではなく方向性の違いなのだ。

ENVE SES 5.6やDT Swiss ARC 1100のような、よりエアロ性能を明確に意識したホイールは、条件が整った高速域で独自の強みを持つ。一方、SES 4.5 PROは最高速度性能の一点に特化するのではなく、登り、平坦、下りの間を行き来した際に性格が破綻しない。

モデル 実走印象
ROVAL RAPIDE CLX III 入力に対する反応が鋭く、加速の輪郭が明瞭
ENVE SES 4.5 30mm前後のタイヤ、荒れた路面、高速巡航を含む汎用性が高い
ENVE SES 5.6 高速域における空力性能と速度の伸びを重視
DT Swiss ARC 1100 エアロ性能と明確な剛性感を持つ高速志向のホイール
ENVE SES 4.5 PRO 軽量性、巡航性能、安定性、長時間の疲労軽減を高水準で統合

この性格は、プロレースでの使われ方にも表れている。

SES 4.5 PROは2025年のツール・ド・フランス第4ステージで初勝利を挙げた。そして2026年9月27日、カナダ・モントリオールで開催されたUCIロード世界選手権男子エリートロードレースでは、米国代表のBrandon McNultyがSES 4.5 PROを使用し、残り33kmからの独走で優勝した。

コースは273.4km、獲得標高3,803mで、平均勾配7.4%の登りを含む13.4kmの周回を12周する設定だ。米国選手の同種目制覇は33年ぶりとされる。

登りと高速区間を何度も往復する270km超のレースで、一本のホイールが最後まで選手を運んだ。もちろん、世界王者の機材選択が一般ライダーにとっての最適解を意味するわけではない。

それでも、このホイールの設計思想が、レースという最も厳しい現実のなかで検証された一例であることは確かだ。

SES 4.5 PROは、すべての項目で絶対的な1位になるホイールではない。より鋭いホイール、より深いホイール、より安価なホイールは存在する。しかし、用途が変わるたびにホイールを交換する必要を感じさせない。それが、このホイールの最も大きな長所である。

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最大の弱点は価格

国内税込価格649,990円という数字は、性能評価から切り離せない。通常のSES 4.5の499,950円と比べても約15万円高い。米国価格は3,750ドルで、3,500ドルのRAPIDE CLX IIIより高価である。

私は通常のSES 4.5と両方を使用しているが、PROの完成度を高く評価しつつも、大半のライダーにとって通常モデルとの20万円近い価格差は正当化しにくい。

また、SES 4.5 PROはチューブレス専用設計であり、一般的なクリンチャータイヤとチューブを組み合わせた運用は前提とされていない。使用するタイヤの互換性は、事前にメーカーの適合情報で確認する必要がある。

高価格を「一本ですべてをこなせるから経済的」と正当化するのも適切ではない。複数のホイールを所有しないことと、65万円近い支出が合理的であることは別の問題だ。

一方で、用途ごとに機材を選び直す必要がなく、登り、平坦、下り、レース、ロングライドを一つのセットで高水準にこなせることには、確かな価値がある。

価格に見合うかどうかは、単純なワット差では決められない。機材交換の手間、信頼感、疲労の少なさ、所有期間、走る頻度まで含めて、乗り手自身が判断する必要がある。

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SES 4.5 PROが向いているライダー

  • 一本で登り、平坦、下りを走り切りたいライダー
  • 高速巡航性能と軽量性を両立したいライダー
  • 27~28C前後のタイヤを中心に使用するライダー
  • 長時間走行でも出力を維持したいライダー
  • 横風で神経質になりにくいミドルハイトホイールを求めるライダー
  • カーボンスポークの鋭さに魅力を感じながらも、長時間走行での反力や振動に疲労を感じるライダー
  • 出先でも整備しやすいスチールスポークの安心感を重視するライダー
  • 用途ごとにホイールを交換せず、一つのセットで高水準に完結させたいライダー
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SES 4.5 PROが向いていない可能性があるライダー

  • 踏み込んだ瞬間の鋭い反応を最優先するライダー
  • 45km/hを超える平坦高速域だけに性能を特化させたいライダー
  • 30C以上のタイヤで荒れた路面を走ることが多いライダー
  • 価格に対する性能差を厳密に重視するライダー
  • ホイールを用途別に使い分けること自体を楽しみたいライダー
  • 一般的なクリンチャータイヤとチューブを継続して使用したいライダー

通常のSES 4.5も、PROによって置き換えられたわけではない。荒れた路面や大容量タイヤを含む汎用性、高速巡航の伸びでは、依然として独自の役割を持っている。

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まとめ:結果として速いホイール

ENVE SES 4.5 PROは、カーボンスポークホイールよりも反応がわずかに遅い。しかし、反応の鋭さと実際の速さは同じではない。

RAPIDE CLX IIIとの重量差はわずか10gしかない。それでも二つのホイールの走りは明確に異なっていた。この事実は、ホイールの性格が重量という一つの数字では語れないことを示している。

登りでは重量を意識させず、平坦では速度を維持しやすく、下りでは横風に余計な神経を使わない。スチールスポークと内幅のあるリムを含むホイール全体のしなやかさは、路面からの入力を穏やかに処理し、ライダーが力を加え続けられる時間を延ばす。

最初の数秒で速さを誇示するホイールではない。登り、平坦、下りを経て、数時間走った後に、結果として速かったと分かるホイールである。

最大の弱点は価格だ。これほど高価な製品を、万人に必要なホイールとして推奨することはできない。カーボンスポークの鋭さを好むライダーにとっては、その反応の穏やかさが物足りなく感じられる可能性もある。

高速巡航を最優先するなら、より安価な通常のSES 4.5のほうが合理的な選択になる場面もあるだろう。

それでも、SES 4.5 PROの最大の長所は明確である。

一本で、すべてが完結する。

カーボンスポークを辞めたという表現は、カーボンという素材を否定するためのものではない。速さを評価する基準が、一瞬の反応から、ライド全体の持続性へ変わったという意味である。レイテンシではなく、スループットで速さを測るようになったと言い換えてもいい。

鋭さは一瞬の速さを作る。しなやかさは、その速さを遠くまで運んでくれる。

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