ビブパンツなんてものは、どれも一緒で、違いなどない。
ASSOSを使うまではそう思っていた。ASSOSを使うことがなければ、誤った考え方のまま代わり映えのしないビブパンツを使い続けていたのだろう。
2010年頃にASSOSを使い始めてから、夏冬問わずASSOSを愛用し続けている。いまでは冬の装備はASSOSしか使っていない。耐久性も優れていて、2019年から5シーズン以上同じウェアを使い続けている。ASSOSはモノ持ちが良く、着心地もとても良い。
ASSOSは「サイクルウェアの王様」と呼ばれるほど、優れた製品を生み出し続けている。プロが契約外でも着用できるように、「ブラックエディション」というロゴやデザインが一切ないシンプルなウェアをラインナップするほどだ。
ASSOSのウェアが凄まじいのは、アップデートのたびに新しい機能を盛り込んでくることにある。
iPhoneで有名なApple社は、新製品を発売するたびに作り上げてきた仕様や規格をいともかんたんに捨て去るが、ASSOSも同じく新型のウェアをリリースするたびに過去を捨て去り、挑戦的な機能を次々盛り込んでくる。
新たに登場したエキップ RS ストラディバリ ビブショーツ S11もそうだ。S9からおよそ5年もの歳月を経て、大幅なアップデートが行われた。これまでの特異なビブ形状を刷新し、新しい素材も開発した。新型S11ビブショーツは、ASSOS独自の技術が数多く盛り込まれている。
- 新素材Type.911
- ショックアブソーブダンピングシステムMono9
- ソフトコンプレッションモジュール
- ミネラルテック・サーフェース
- クランキオテック
- ゴールデンゲート2.0
- Xフレーム
- ワールクレーター
- RS S11パッド
- レッググリップ
- クレータークーラー
- ウェールクラテール
これらは、ビブパンツを生み出すためにASSOSが独自で開発した機能だ。これだけの機能がたった1枚のビブパンツに詰め込まれている。ところが、機能てんこ盛りのビブパンツを身につけたところで「あぁ、最高だ」としか思わない。
しかし、この感情を引き出し、生み出すために必要だったのは、独立したひとつひとつの機能をうまく組み合わせて連携させ、ASSOSが作り上げたからに他ならない。
今回の記事は、ASSOSの新作「エキップ RS ストラディバリ ビブショーツ S11」を試した。ASSOSがリリースする究極のウェアに迫る。
新素材 Type.911
Type.911はストラディバリのために開発された新しい素材だ。
絹のように滑らかでありながら、耐摩耗性に優れた質感が特徴だ。生地を引っ張ったときのコンプレッション(伸縮)性が前作のS9よりもさらに高まった。太もも周り、腹回り、尻周りと、全体的に均一かつ安定した着圧を提供している。
これらの特徴から、ビブパンツを履いた瞬間、「ピタッと」生地が張り付いて消える独特の感覚が生まれる。
その理由は、糸が多方向に絡み合うことで密度を高めながら、高い伸縮性を備えた生地に仕上がっているからだ。全方向に均等の圧で伸びることで、肌を追従し張り付くような働きをする。ASSOSが追求する着心地は、他社がいまだ真似できない世界だ。
見た目も重視しており、深みがかった黒色が印象的だ。機能面では速乾性に優れ、蒸れによる重量増加を防ぐ性質も高められた。
Type.911を用いることによって「縫い目」と「シワ」を減らすことにも成功している。ふともも周りと腹回り全体のフィット感をミリ単位で伸縮しながらフィットさせている。
Type911は伸縮性と圧縮性が向上した結果、カット全体が見直された。これまでASSOSのハイエンドモデルの象徴的な存在だった、「ロールバービブストラップデザイン」を廃止しながらも、同等以上の性能を獲得することに成功している。
あたらしいカット生地パターン
S11は生地のパターンとカット方法が新しくなった。
これまでは角張ったカットパターンが主流だったが、丸みをおびたカットパターンに変化している。丸みをおびることで、生地を引っ張る力が分散する。この力の分散は、生地をつなぐ縫合部分の(糸が生地を引っ張る)力も分散するため耐久性も向上した。
結果的に、生地が柔軟に動くようになり、パンツ全体を身体に密着させることに成功した。
S9ビブショーツで採用されていた「バタフライパターン」もS11で踏襲された。前側の生地をうしろ側に回り込ませて、後ろ側の生地と縫い合わせるこの手法は、新素材のType.911と組み合わせることで、パッドの持ち上げ方法も改良されている。
前作のように、パッドをロールバーで垂直に引き上げて身体に密着させる方法(上画像参照)ではなく、
S11は放射線状に生地を引っ張り上げる新しい方法に改良したため、ビブストラップで固定する力が少なくなった。結果的に、臀部全体を包み込む、吸い付くようなフィット感に進化している。
シワを無くすクランキオテック
サイクリストの動き、そしてウェアの変化をよく知っているのがASSOSだ。それは見落としがちで、わずかな箇所にもみてとれる。S11には太腿の付け根辺りに、クランキオ テックという1本の縫い目が入れられている。この小さな線は、ビブパンツが抱える潜在的な問題を解決するのに役立っている。
クランキオテックはシワを軽減する仕組みで、ペダリング中に脚が上死点などで折りたたまれた際、脚の付け根付近で発生するシワの発生を抑制する。実際に使ってみると確かにシワの発生が減り、素材と肌との間で発生するボコボコとした感触が抑えられていることに気づける。
実際の使い勝手はこのあとのインプレッションに譲る。とにもかくにも、ASSOSは細部に宿るのだ。
更に進化したビブストラップ
S11のビブストラップは、一目でわかるほど変化した。
ストラップは身体の位置に応じて適材適所、生地や構造を使い分けている。前側はメッシュに、色が付いている生地は伸縮性が低い素材を用いている。上部分の生地は伸縮性が高く圧迫感や食い込みを生じさせない生地を採用しており、肩にかかる負荷を減らす効果がある。
前面の下部分はメッシュの軽量素材を使用している。パンツ前側の固定方法は、2重にしてからの縫い付ける方法に改良された。
後側はXフレーム構造を踏襲しながらも、ASSOSが考案したパッド付近までストラップを伸ばす特徴的なロールバー構造を廃止している。
ロールバー構造の元々の目的は、パッドが身体から離れることを抑制するためだった。ペダリングを行うと生地が伸び縮みするため、パッドが浮いてしまったりズレたりする。どうしても動いてしまうパッドを引き上げて固定しておくためにロールバー構造が役に立っていた。
S11は新素材Type911、新しいカット、ストラップのクロス形状を改良したことによって、ロールバー構造を用いることなくパッドを身体全体に密着・追従させることに成功している。
お尻を追いかけてくる、S11パッド
ASSOSが作り出すパッドは、狂気に満ちている。
他社製品はパッドだけ社外品を用いる場合が多い。ASSOSはパッドを自社開発することを続けている。作り込まれた構造、美しい外観を見れば一目瞭然で、複雑な機能を盛り込んだ多層構造のパッドに仕上げられている。
パッドはASSOSの技術とこだわりが最も反映された部分と言っていいだろう。
- ショックアブソーブダンピングシステムMono9
- 冷却エアフロー
- クレータークーラー
- ゴールデンゲート2.0
- 3Dワッフル
- ミネラルテック・サーフェース
パッドを支える機能は上記の通りだ。
無理やり何かの機能を持たせているかのような仰々しい名前が並んでいる。しかし、これらは快適なパッドに仕上げるためにASSOSが生み出した機能だ。ひとつひとつの機能が集合した結果、「パッドがお尻を追いかけてくる」という不思議な着心地を実現している。
S11のパッドを簡潔に表現すると、肌とふれる部分にはソフトな肌触りを、外側には摩擦や洗濯への耐久性が考慮されている。「ASSOSは乗車姿勢で真価を発揮する」のとおり、現代的な前乗りポジションに対応するために、先端がするどいパッド設計になっている。
パッドに搭載されたそれぞれの機能を確認していこう。
「ショックアブソーブダンピングシステムMono9」はパッドの基礎部分を支える技術で、自動車のプラットフォームのような役割がある。9mm厚のベース部分を熱成形した圧縮フォーム素材を使用しており、体積と重量を最小限に抑えている。
「3Dワッフル」は、ASSOSが特許を取得した3つの層から構成されている穴開きフォームだ。おしり部分、デリケート部分、台座部分それぞれ通気性が高められており、余分な重量も排除している。
「クレータークーラー」は、パッドの前面に空気の取り込むための穴を設け、股間全体に冷たい風を流す。蒸れやすい股部分全体に穴を戦略的に配置することで、ペダリングを行うたびに空気を吸い上げ、新鮮な空気と入れ替える循環機能の仕組みになっている。
「ワールクレーター」は、うずまきのようなクレーターをパッド全体に無数に配置することによって、冷却風の渦を作り出すという。
「ゴールデンゲート2.0」は、ASSOSが長らく採用している独自のパットフローティング構造だ。パッドと生地を完全に縫い付けず、浮かせることで肌を摩擦から守る。仕組みは、パッドの前側と後側だけを縫い付け、両サイドとセンター部分は意図的に自由に動くように浮かせている。
パッドがまるでホバリングしているような構造で、新しい生地のカットも相まってペダリング中の摩擦を軽減する。
「ミネラルテック・サーフェース」は、やわらかく、非常になめらかなカバーシートだ。生地と肌の摩擦や刺激を軽減する役目があり、速乾性と恒久的な消臭効果で快適性を促進している。
ASSOSのパンツで最も多くの機能が詰め込まれているのがパッドだ。どれもASSOSの特許技術で、他社の製品が採用することはおろか、真似することもできない。今お使いのパッドと見比べていただければその差は一目瞭然だろう。
ズレない、突っ張らないレッググリップ
S11にもスソ部分がずれないようにレッググリップが備わっている。一見するとどこにでもあるレッググリップだが、他社とは構造が異なる。ふとももの前側と後側はシリコングリップがない。対して、ふとももの横側にだけシリコングリップを設置している。
他社製品の多くが、スソ周りをぐるっと1周するようにグリップが施されている。しかし、ペダリングを行う際に、筋肉が動きやすい太もも部分はグリップ力が強すぎると引っ張られペダリングを阻害する。
ASSOSは、ペダリングを妨げないように、あえて太ももの前側と後側にグリップを配置しなかった。グリップを前面だけ排除することでペダリング中の摩擦がなくなり、スムーズな脚の動きが可能になった。サイドだけで十分なグリップを生み出すことができるのでズレ上がる心配もない。
インプレッション
ASSOSが思いつく限りの機能という機能を詰め込んだのが、エキップRSストラディバリビブショーツS11だ。
様々な機能の詳細はここまででお伝えした通りなのだが、着用していざ走ってみると何の変哲もないビブパンツだった。身につけた瞬間から、なにか違った世界が見えるとか、突然身体の動きが良くなるとか、そういう気の利いた話を期待していた方は拍子抜けするかもしれない。
しかし、S11を身に着けてロードバイクに乗車した瞬間から、ASSOSの物語がはじまる。
ASSOSのウェアは乗車した姿勢で真価を発揮する。乗車姿勢にあわせてウェアが隙間なくフィットする。この、「ASSOSのあたり前」を忘れていた。身体とサドル間の圧力、肌と生地の摩擦、おしりとパッドの協調。
これら、乗車することで生まれるウェアとの対話にASSOSのウェアは最適化されている。ようやく、改めてASSOSを理解したあと、乗りながら、注意深く、パンツの動きを確認していった。
「着るときが一番きつい」のがASSOSだ。昔からそうだ。しかし、身につけたその先には乗車姿勢での快適性、何も身につけていないのではないかと(いろいろな意味で)不安になる着心地の良さがある。S11も相変わらずASSOSのパンツそのものだ。
スソのグリップがかなり強力だった。はくときは一度スソを裏返してから脚を通すと着やすくなる。一部分のグリップながら、実際にペダリングを行ってもまったくと言っていいほどスソ上がりが生じない。必要最低限、適材適所のグリップ配置で確かに問題はなさそうだ。
身につける際のちょっとしたコツは、ASSOSのロゴが脚の真ん中に来るようにすると収まりが良くなる。新カットを採用したことで太ももまわりの生地は後ろ側で縫合されている。確かに、生地の圧が均一で一部が張っていたり、たるんでいたりすることは皆無だ。
つつまれるような着心地の良さがある。
無駄を極限まで減らしたということもあって、ビブパンツのスソ部分まで一切の段差がない。末端もレーザーカットが行われており、切りっぱなしになっている。段差があると一部分だけ圧力が加わってしまい、長時間身につけていると縫い目の跡が付いてしまう場合がある。
ウェア業界は進化が遅いのか、デザインばかりに気を取られてすぎなのか、それとも開発を怠っているのかは定かではないが、意外と太もも周りの段差を改良しないメーカーはいまだに多い。
人気の直売有名メーカーの最新モデルであっても、ありきたりなカットで段差が無数にあるウェアを最新ウェアとして販売している。
クランキオテックは、名前はかっこいいが内側に1本の縫い目を入れたシンプルな構造だ。この「1本縫い目をいれる」という作り込みは、意外なほど快適性を引き出してくれる。上の写真をご覧のとおり、脚を折りたたんでも付け根部分にシワがほとんど発生していない。
横一線の縫い目部分は生地の途中で終わっているのだが、縫い目の延長線上にあえて1本だけシワを発生させている。そのシワの先で合流するのは、パッド前面部分の縫い付け部分だ。実際のパッド裏面で確認すると、クランキオテックの縫い目はオレンジ色部分のラインと合流する。
1つの仕組みは、独立して存在しているのではなく、パッドや生地などが複合的に組み合わさって協調する仕組みになっている。
クランキオテックは何気ない仕組みに感じるかもしれないが、ライドが何時間にも及ぶ場合は話が変わってくる。R11を身に着けて5時間ほどライドしたあとに、練習用のビブに変えて走った。すると、先ほどまで気づかなかった腹回り、脚の付け根まわりのシワが気になりだす。
シワが無いならば、それが基準になる。しかし、シワがいざ発生して気になりだすと、もうシワのことしか考えられなくなってくる。ペダリングごとに、シワがズリズリ動くので、まるでダブついた腹の贅肉のようにも感じてしまう。クランキオテックは小さな工夫だが、大きなメリットがある。
こんな小さな工夫を施してくるのがASSOSなのだ。
スソ周りのシリコングリップを詳しく見ていく。
最近のビブパンツはどれもスソがズレないようにグリップを施すのがあたりに前になった。ただし、グリップが強ければ強いほど良いというわけではない。肌にグリップが引っかかってペダリングを阻害したり、ひっぱりに違和感が生じてしまう場合がある。
これらの問題を解決するのがS11に搭載されている「インジェクトレッググリッパーズ」だ。ふとももの前側と後側はシリコングリップがないので確かにふとももが突っ張らず動きが良い。ペダリング中は絶妙なさじ加減で肌と生地が適度に滑ってくれる。
考えてみれば当然のことのように思えるグリップの配置方法なのだが、他社製品のどれもがスソの内側全体にグリップを配置している。実際に使ってみると、一部分だけのグリップでも十分だった。スソが上がることもなかった。
太もも前面は快適そのものだ。
いままでグリップがあることでペダリングを阻害されていたこともあらためて認識することになった。夏になると日焼けした部分とシリコン部分が擦れることで肌が負けてしまうことがある。前面部分のシリコングリップを排除したことでシリコン負けの心配も減るだろう。
「はらまわりが、あっぱくされない」
もうこの表現だけで十分だ。
ASSOSは乗車姿勢になったときに本気を出すウェアというのは先程お伝えした通りなのだが、腹回りの生地は「肌に触れているだけ」だ。簡単なことに思えるかもしれないが、腹部分の生地を持ち上げるビブとのつなぎ目、ビブが身体に沿う道筋、生地の裁断など全てが合わさることで、この快適性を生み出している。
ASSOSはタイトな作りが多いが逆に太めの方でも、お腹がしっかりサポートされるため「着痩せ」して見えるのもASSOSのメリットだ。
ビブの設計は、今のところASSOSを上回る性能と機能を持つブランドの存在を私は知らない。考え抜かれたビブは適材適所、用途や条件に応じて腹、肩、背中、腰とすべて異なる素材を使い分けているのだ。
実際に使用すると気づくのは、前面側ビブはメッシュになっており汗をかいても速乾性があり、ベタつきも感じない。また、ビブが身体を沿うルートも考えられている。肩から胸に抜けてからは身体の前面を避けて、側面を通るように配置される。
そのため、肺周りの圧迫感が無いため呼吸がしやすくなるメリットがある。わたしは、呼吸がを妨げるような胸周りの圧迫が嫌いで、バンド式心拍計やビブが前面に来るタイプを避けている。ゆいつ、ASSOSのビブは胸の圧迫が非常に少ない。
ASSOSの最近のビブは側面を通り、脇腹に接続される際には斜め方向から生地に接続される。はらまわりの生地を引っ張り上げないよう、むしろ、あえてたるませる事によって腹回りの窮屈さも低減する狙いがある。
背中部分のビブの経路も考えられている。肩甲骨をあえて避けるようなたすき掛けのビブ配置になっている。肩甲骨の上をビブが通る設計の場合、肩甲骨がビブを持ち上げて浮いてしまいペタペタしてしまう。ビブがクロスする部分が上方向に配置されているのも肩甲骨を避ける狙いがあるのだろう。
ビブはただのヒモであるかもしれないが、身につけたときの無駄の無さ、肌にピッタリと張り付いて無駄な浮きや引張がまったくない。新型のビブストラップはオーダースーツのような着心地の良さを感じた。
ASSOSを使い続ける理由のひとつがパッドの作り込みだ。他社が真似できない構造、素材、作り込みになっている。ASSOSのパッドは恥ずかしいと感じてしまう程に、VIO(いわゆるデリケートゾーン)を包み込んでくれる。
さらに厄介?なのはパッドが「おしりを追いかけてくる」のだ。新型のS11は追従性に磨きがかかり、逃げ切ることがほとんど不可能になっている。冗談のように聞こえるかもしれないがこれは事実だ。
色んな意味でASSOSユーザーは病みつきになっているのかもしれない。
長時間快適に、不快感なくライドを楽しむ場合はASSOSが作ったパッドがいい。肌にふれる部分はなおさらで、まるで座り心地の良いソファに座っているかのようだ。居心地が良くて、長時間座っていても苦にならない。それと似ている。
前部分と、後ろ部分だけ接続された「ゴールデンゲート」は2.0に進化している。あえて中間部分を浮かすことによって、パッドが前後独立して複雑な動きに追従するよう可動性をもたせている。例えば、V部分はそのままに、O部分が自由に動くといったように、前と後ろがそれぞれ独立した動きにも追従してくれる。
ゲートの「橋」部分は「ビラビラ」部分がある。通常のパッドにはあまり見られないこの構造は、パッド部分だけ浮かせるのではなく、パッドを縫い付けた1枚の生地全体を身体に密着させることで接地面積を増やしている。
面積が増えることによって、面全体でパッドが身体を追従しやすくなった。
パッドの感覚は、まるで焼き立てのワッフルのようだ。パッドは9ミリの厚さで底突きするかしないかの絶妙な圧力調整が行われている。表面の肌触りもソフトで非常に滑らか、摩擦や刺激を軽減していることがよくわかる。
サイズ感について最後に触れておく。私の場合は、パールイズミのMサイズを使っているがASSOSはSサイズだ。サイズ感はワンサイズ小さくても問題ないと思う。ASSOSを使ったことのない方は、もしかしたら試着の段階でキツイと感じる可能性がある。
しかし、乗車姿勢やバイクに乗ったときのフィット感は別物だ。ASSOSは普段生活するような直立した状態を一切想定しておらず、自転車の乗車姿勢を考慮して全てを設計している。今回のS11もその例に漏れず、ASSOSのウェアそのものだった。
まとめ:考えうる限り最高のビブパンツ
ASSOSの叡智が詰め込まれたのが、ストラディバリ ビブショーツ S11だ。考えうる限りの贅を尽くした一着ながら、ワールドツアーのプロ選手に供給する実践的なモデルになっている。
最高の素材、培ってきた技術、柔軟性と堅牢性が共存する究極のビブショーツだ。無駄を極限まで切り落とし、必要なものだけを追求したその様は、アントニオ・ストラディバリが生み出したバイオリンの最高傑作「ストラディバリウス」にちなんでのものだろう。
ストラディバリウスは、現代の技術や科学をもってなお、その音色を再現することが困難とされている。ASSOSは誰もが到達したことがない領域に挑戦し、他社が真似しようにも、決して真似できない領域にまで仕上げたという自負があるのだろう。
お値段も43,780円と高額だが、S11を手に取り、品質と高い作り込みを知ればむしろ妥当だ。この仕上がりと品質、注ぎ込まれた技術を反映した価格に難癖をつけるのはお門違いだ。名ばかりハイブランドのように、デザインだけ、ロゴだけ、ちょっとしたギミックだけの製品とは一線を画している。
ASSOSはどれも高価だ。しかし、それだけの価値があることはストラディバリが証明している。カネがかかってもいい、最高のモノを。そして一切妥協がない製品を。本物を求める人だけのために、ASSOSはストラディバリ ビブショーツ S11を生み出したのだ。